宗教学 学習プラン¶
1. プラン設計の方針¶
1.1 調査した大学カリキュラム¶
日本 - 東京大学 文学部 宗教学専修:宗教学の基礎理論、世界宗教史、宗教社会学、宗教心理学、認知科学的宗教学、宗教哲学、宗教史研究(一次資料)、国内宗教問題。導入科目では姉崎正治から島薗進・井上順孝に至る日本の宗教学史を概観し、「科学か実践か」という根本問題を扱う。21世紀の宗教概念見直しの議論を前提とする点が特徴。 - 京都大学 文学部 宗教学専修(思想文化学系):宗教哲学を中心に据える。西田幾多郎→波多野精一→西谷啓治→武内義範→上田閑照→長谷正當の系譜。京都学派の哲学との密接な連関。現象学、フランス現代哲学との接合。実証的宗教学(宗教社会学・宗教人類学等)は主題的には扱わず、哲学的思索が中心。
英米 - Harvard University, Committee on the Study of Religion(Comparative Study of Religion):学際的プログラム。14の研究領域(African American Religions, Buddhist Studies, Christianity, Hindu Studies, Islamic Studies, Jewish Studies, New Testament and Early Christianity 等)と10の方法論的アプローチ(Archaeology, Critical Theory, Ethics, Gender and Sexuality Studies, History, Literary Studies, Religious Thought, Social Sciences 等)を組み合わせる。テキスト・実践・社会の読解力、宗教理論の文献知識、明晰な論述力の3つを重視。Harvard Divinity Schoolとの連携による豊富な科目群。 - MIT, Religious Studies Concentration(SHASS):理工系大学における教養としての宗教学。主要世界宗教の伝統、公共生活における宗教の位置、宗教的信念の知的基盤、宗教経験の比較パターンを扱う。3科目で構成されるコンパクトなプログラム。Harvard/Wellesleyとのクロス登録により補完。
1.2 統合方針¶
日本の宗教学は東大型の「広義の宗教学」(理論・歴史・社会科学的アプローチの統合)と京大型の「宗教哲学」に大別される。Harvardは両者を包含する学際的構造を持つ。本プランでは、東大・Harvard型の「広義の宗教学」を基本骨格とし、京大型の宗教哲学もカバーする。また、ユーザーの関心に応じてカルト・新宗教研究を独立した領域として充実させる。
全体として以下の8領域を柱とする。
2. 学習プラン全体構造¶
全体を Phase 1(基礎)→ Phase 2(各論展開:諸宗教)→ Phase 3(理論・方法論・現代的課題) の3段階に分ける。想定学習期間はフルタイム換算で約2年(学部2-4年次相当)。
領域一覧¶
| # | 領域 | 英語名 | 対応する研究分野 |
|---|---|---|---|
| A | 宗教学総論 | Introduction to Religious Studies | 宗教の定義、学説史、基礎概念 |
| B | 宗教哲学・宗教思想 | Philosophy of Religion | 神の存在論、悪の問題、宗教言語、京都学派 |
| C | 世界宗教各論 | World Religions | 仏教・キリスト教・イスラーム・ユダヤ教・ヒンドゥー教等 |
| D | 日本宗教史 | Japanese Religious History | 神道・日本仏教・修験道・民俗宗教・新宗教 |
| E | 宗教社会学 | Sociology of Religion | 世俗化、宗教と社会構造、宗教運動 |
| F | 宗教心理学・認知科学 | Psychology/Cognitive Science of Religion | 回心、宗教経験、進化論的宗教研究 |
| G | カルト・新宗教研究 | New Religious Movements & Cult Studies | マインドコントロール、破壊的カルト、反カルト運動 |
| H | 宗教と現代社会 | Religion and Contemporary Issues | 政教分離、宗教と暴力、宗教的多元主義、生命倫理 |
3. Phase 1:基礎(目安:3〜4ヶ月)¶
目標¶
宗教学という学問の全体像・方法論を把握し、諸宗教についての基本的な知識枠組みを獲得する。
Unit 1-1:宗教学総論(宗教学とは何か)¶
学習内容 - 宗教の定義問題:実体的定義(substantive definition)vs 機能的定義(functional definition)。ティリッヒの「究極的関心」、デュルケームの「聖なるもの」、ギアツの文化システムとしての宗教 - 宗教学の成立と展開:マックス・ミュラーの比較宗教学、オットーの「聖なるもの」(das Heilige)とヌミノーゼ、エリアーデの聖俗二元論、宗教現象学(ファン・デル・レーウ) - 日本の宗教学史:姉崎正治(日本宗教学の祖)→岸本英夫(戦後体制と闘病の宗教学)→柳川啓一→島薗進・井上順孝(科学か実践か) - 宗教学の諸分野:宗教哲学、宗教社会学、宗教心理学、宗教人類学、宗教史学、比較宗教学、認知科学的宗教学 - 宗教の基本要素:神話(mythos)、儀礼(ritual)、教典(scripture)、象徴(symbol)、教祖(founder)、信者共同体(community)、回心(conversion) - 方法論的問題:価値中立性(Wertfreiheit)、エティック/エミック、内在的理解と外在的分析、還元主義批判
キーコンセプト - 聖と俗(sacred/profane):デュルケーム、エリアーデ - ヌミノーゼ(numinous):ルドルフ・オットー - ヒエロファニー(hierophany):エリアーデの聖なるものの顕現 - 宗教と呪術(magic)の区別:フレイザー、マリノフスキー - 世界宗教(Weltreligion)と民族宗教の区別
Unit 1-2:宗教哲学の基礎¶
学習内容 - 神の存在証明の諸論証:存在論的論証(アンセルムス、デカルト)、宇宙論的論証(トマス・アクィナスの五つの道)、目的論的論証(設計論証)、道徳論証(カント) - 神の存在に対する批判:ヒュームの批判、カントの純粋理性批判における存在論的論証批判、「神は死んだ」(ニーチェ)、フロイトの幻想としての宗教 - 悪の問題(theodicy):ライプニッツの弁神論、J・L・マッキーの論理的悪の問題、A・プランティンガの自由意志の抗弁、魂づくりの神義論(ジョン・ヒック) - 宗教言語の問題:論理実証主義の検証原理と宗教言語の無意味性テーゼ、ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論、宗教的言語の類比的・象徴的機能 - 宗教的多元主義:ジョン・ヒックの多元主義仮説、排他主義(exclusivism)、包括主義(inclusivism)、多元主義(pluralism) - 京都学派の宗教哲学:西田幾多郎の「絶対無」と場所の論理、西谷啓治の「空と即」、宗教と虚無主義の問題、禅と哲学の接合
キーコンセプト - 自然神学(natural theology)vs 啓示神学(revealed theology) - 無神論、不可知論、理神論(deism)、汎神論(pantheism) - fideism(信仰主義):パスカルの賭け、キェルケゴールの信仰の飛躍 - 絶対無の場所(西田)、空の立場(西谷)
Unit 1-3:世界宗教概論¶
学習内容 - 宗教の分類:一神教/多神教/非神論的宗教、創唱宗教/自然宗教、民族宗教/世界宗教 - 各宗教の概要(ここでは概観。各論はPhase 2で展開): - ユダヤ教:モーセ五書(トーラー)、唯一神ヤハウェ、選民思想、律法(ハラハー)、シナゴーグ - キリスト教:イエス・キリスト、三位一体、聖書(旧約・新約)、教会の歴史的展開(東西分裂、宗教改革) - イスラーム:ムハンマド、クルアーン、五行(シャハーダ、サラート、ザカート、サウム、ハッジ)、シャリーア、スンナ派とシーア派 - 仏教:ゴータマ・ブッダ、四諦・八正道、縁起・空、上座部と大乗、密教 - ヒンドゥー教:ヴェーダ、ウパニシャッド、ブラフマン・アートマン、カルマと輪廻、ヴァルナ制度、バクティ - その他:道教、儒教(宗教としての側面)、シク教、ジャイナ教、ゾロアスター教 - 宗教地理学的分布と現代の信者数
4. Phase 2:各論展開(目安:6〜8ヶ月)¶
目標¶
各宗教伝統の教義・歴史・実践を深く理解し、宗教社会学・宗教心理学の分析枠組みを習得する。カルト・新宗教についての学術的知識を体系化する。
Unit 2-1:ユダヤ教¶
学習内容 - 聖書学の基礎:ヘブライ語聖書(タナハ)の構成(律法・預言者・諸書)、文書仮説(J・E・D・P資料) - 古代イスラエル宗教史:族長時代→出エジプト→王国時代→バビロン捕囚→第二神殿時代 - ラビ・ユダヤ教の形成:ミシュナとタルムード、ハラハー(法)とアッガーダー(物語) - 中世ユダヤ教:マイモニデスの哲学、カバラー神秘主義(ゾーハルの書) - 近現代:ハスカラー(ユダヤ啓蒙運動)、改革派・保守派・正統派の分化、シオニズム、ホロコーストの神学的意味 - 儀式と実践:安息日(シャバット)、過越祭、ヨム・キプル、カシュルート(食事規定)
キーコンセプト - 契約(ベリート)、選民、メシア待望 - ディアスポラとアイデンティティ - ホロコースト後の神義論
Unit 2-2:キリスト教¶
学習内容 - 新約聖書学:共観福音書問題(Q資料仮説)、パウロ書簡の神学、ヨハネ文書 - 初期キリスト教:使徒教父、グノーシス主義との対抗、正典の形成過程、公会議(ニカイア、カルケドン) - 教義の展開:三位一体論の形成、キリスト論(二性一人格)、原罪論と恩寵論(アウグスティヌス) - 東西の分裂:フィリオクェ問題、1054年の東西教会分裂、東方正教会の神学(テオーシス) - 宗教改革:ルターの信仰義認論、カルヴァンの予定説、ツヴィングリ、対抗宗教改革(トリエント公会議) - 近現代:自由主義神学(シュライアマハー)、弁証法神学(カール・バルト)、実存主義神学(ティリッヒ、ブルトマン)、解放の神学、フェミニスト神学 - 主要教派:カトリック、プロテスタント諸派(ルーテル派、改革派、英国国教会、メソジスト、バプテスト、ペンテコステ派)、東方正教会
キーコンセプト - ケリュグマ(宣教)、ケノーシス(自己無化) - 義認(justification)と聖化(sanctification) - 秘跡/サクラメント - 終末論(eschatology):実現された終末論 vs 未来的終末論
Unit 2-3:イスラーム¶
学習内容 - ムハンマドの生涯とクルアーンの成立:啓示の経緯、メッカ期とメディナ期のスーラの特徴 - クルアーン学:構成、解釈学(タフスィール)、法源としてのクルアーン - ハディース学:伝承の連鎖(イスナード)、真正性の評価(サヒーフ、ハサン、ダイーフ) - イスラーム法学(フィクフ):四大法学派(ハナフィー、マーリキー、シャーフィイー、ハンバリー)、法源の四原則(クルアーン、スンナ、イジュマー、キヤース) - 神学と哲学:カラーム(イスラーム神学)、ムウタズィラ派の理性主義、アシュアリー派、ファルサファ(イスラーム哲学:イブン・スィーナー、イブン・ルシュド) - スーフィズム(イスラーム神秘主義):ハッラージュ、ガザーリー、イブン・アラビーの存在一性論、タリーカ(修道教団) - スンナ派とシーア派:分裂の経緯(アリーの後継問題)、十二イマーム派、イスマーイール派、ザイド派 - 近現代:イスラーム改革運動(ムハンマド・アブドゥフ)、ワッハーブ運動、イスラーム主義(ハサン・アル=バンナー、サイイド・クトゥブ)、イスラーム復興
キーコンセプト - タウヒード(神の唯一性)、シルク(多神崇拝=最大の罪) - ジハードの諸概念(大ジハード/小ジハード) - ウンマ(イスラーム共同体) - イジュティハード(独立的法解釈)とタクリード(模倣的法的追従)
Unit 2-4:仏教¶
学習内容 - 原始仏教:ゴータマ・シッダールタの出家と覚り、初転法輪、四諦(苦集滅道)、八正道、縁起(十二因縁)、三法印(諸行無常・諸法無我・涅槃寂静) - 部派仏教:上座部と大衆部の根本分裂、説一切有部のアビダルマ哲学、経量部 - 大乗仏教の展開:般若経と空の思想(ナーガールジュナの中観派)、唯識思想(ヴァスバンドゥ、アサンガ)、如来蔵思想、法華経と浄土経典 - 密教:インド後期密教、金剛乗、マンダラとマントラ - 中国仏教:仏教の漢訳と中国化、天台宗(智顗)、華厳宗(法蔵)、禅宗(達磨→慧能)、浄土教(善導) - 日本仏教:奈良仏教(南都六宗)→平安仏教(最澄・空海)→鎌倉仏教(法然・親鸞・日蓮・道元・栄西)→近世の檀家制度→近代の仏教改革 - 上座部仏教圏:スリランカ、ミャンマー、タイの仏教、ヴィパッサナー瞑想 - チベット仏教:四大宗派(ニンマ、カギュ、サキャ、ゲルク)、ダライ・ラマ制度、死者の書
キーコンセプト - 空(シューニャター)と中道 - 菩薩道と六波羅蜜 - 本覚思想と始覚思想 - 禅における悟り(見性)
Unit 2-5:ヒンドゥー教¶
学習内容 - ヴェーダの宗教:リグ・ヴェーダの讃歌、祭式主義(ヤジュニャ)、バラモンの権威 - ウパニシャッドの哲学:ブラフマン(宇宙原理)とアートマン(自我)の同一性(梵我一如)、輪廻(サンサーラ)とカルマ - ヒンドゥー教の六派哲学:サーンキヤ、ヨーガ、ニヤーヤ、ヴァイシェーシカ、ミーマーンサー、ヴェーダーンタ - ヴェーダーンタ学派の展開:シャンカラの不二一元論(アドヴァイタ)、ラーマーヌジャの制限不二一元論、マドヴァの二元論 - 叙事詩と神話:マハーバーラタ(バガヴァッド・ギーター)、ラーマーヤナ - バクティ運動:シヴァ派とヴィシュヌ派の展開、中世の詩聖(カビール、ミーラーバーイー、トゥルスィーダース) - 実践と儀礼:プージャー、巡礼、ヴァルナ・ジャーティ制度と宗教、通過儀礼(サンスカーラ) - 近現代:ラーム・モーハン・ロイとブラフモ・サマージ、ヴィヴェーカーナンダとネオ・ヴェーダーンタ、ガンディーの宗教思想
キーコンセプト - ダルマ(法・義務)、アルタ(実利)、カーマ(欲望)、モークシャ(解脱) - アヴァターラ(神の化身) - マーヤー(幻力)
Unit 2-6:日本宗教史¶
学習内容 - 古代の宗教:縄文・弥生時代の祭祀、古事記・日本書紀の神話体系、天皇祭祀 - 神道の展開:古代神祇信仰→神仏習合(本地垂迹説)→中世神道(伊勢神道、吉田神道)→復古神道(本居宣長、平田篤胤)→国家神道→戦後の神社神道 - 日本仏教史の通史:(Unit 2-4と一部重複するが日本の社会文化的文脈を強調) - 修験道:山岳信仰と仏教・道教の融合、役小角、修験の実践 - 民俗宗教:祖先崇拝、年中行事、講・結社、シャーマニズム的要素、民間信仰の重層性 - 近代の宗教政策:神仏分離・廃仏毀釈、国家神道体制、宗教団体法 - 新宗教の展開:幕末維新期の新宗教(天理教、金光教、大本)→戦後新宗教(創価学会、立正佼成会、PL教団)→新新宗教(オウム真理教、幸福の科学)(詳細はUnit 2-7で展開) - 現代日本の宗教状況:「無宗教」の意味、葬式仏教問題、スピリチュアリティブーム
キーコンセプト - 神仏習合と本地垂迹 - 鎮護国家と王法仏法相依 - 顕密体制(黒田俊雄) - 「無宗教」という日本的宗教性
Unit 2-7:カルト・新宗教研究(重点領域)¶
学習内容
(1) 新宗教研究の学術的枠組み - 「新宗教」の定義と範囲:幕末維新期以降の創唱宗教を指す学術用語。New Religious Movements(NRMs)の国際的概念との異同 - 新宗教研究の歴史:小口偉一の新宗教研究、島薗進の「新霊性運動」概念、井上順孝の新宗教通史 - 新宗教の類型論:教祖のカリスマ性、癒しと現世利益、在家主義、平信徒の積極的参与、終末論的世界観
(2) 「カルト」概念の学術的検討 - cult の語源と変遷:ラテン語 cultus(崇拝)→英語での用法変遷→蔑称としてのカルト - 学術用語としての問題:宗教学者の間でも「カルト」は厳密な学術用語としては放棄されつつある(浅見定雄の指摘)。代わりにNRMs(新宗教運動)が中立的用語として使用 - 「破壊的カルト」(destructive cult):国際カルト研究協会(ICSA)の定義「メンバーや勧誘を利用し、身体的・心理的に損害を与える高度に操作的な団体」 - カルト類型:宗教型、商業型(経済カルト)、政治型、心理・教育型(自己啓発セミナー型) - カルトの定義問題:キリスト教調査研究所の6特徴(指導者の聖典解釈への絶対的コミットメント等)は「創唱宗教の普遍的特徴と合致する」との批判(木村・渡邉 2001)
(3) マインドコントロール理論 - ロバート・リフトンの「思想改造」(Thought Reform):8つの基準(環境のコントロール、神秘的操作、純潔への要求、告白の崇拝、聖なる科学、用語の装填、教義の人間への優位、存在の権利の制限) - スティーヴン・ハッサンのBITEモデル:行動統制(Behavior)、情報統制(Information)、思考統制(Thought)、感情統制(Emotion) - レオン・フェスティンガーの認知的不協和理論と予言の失敗(When Prophecy Fails) - マインドコントロール概念への批判:ディック・アンソニーの批判、「洗脳」概念の科学的妥当性をめぐる論争、アメリカ心理学会(APA)による慎重な立場
(4) 主要なカルト事件と事例研究 - 人民寺院事件(1978年、ジョーンズタウン):ジム・ジョーンズの指導、集団自殺/殺害、カルト概念が社会的に広まる契機 - 統一教会(世界平和統一家庭連合):文鮮明の教義体系、合同結婚式、霊感商法問題、政治との関わり、2022年安倍元首相暗殺事件以降の社会問題化 - オウム真理教:麻原彰晃の思想体系(仏教・ヒンドゥー教・キリスト教終末論の混合)、ポア概念、地下鉄サリン事件(1995年)、破壊的カルトの極端な事例、教団の変遷(Aleph、ひかりの輪) - ブランチ・ダヴィディアン(1993年、ウェイコ事件):デイヴィッド・コレシュ - 天国の門(Heaven's Gate, 1997年):集団自殺 - エホバの証人:輸血拒否問題、脱会後のシャニング(忌避)、二世信者問題 - サイエントロジー:L・ロン・ハバードの思想、オーディティング、教会の組織構造と批判
(5) カルト問題の社会的・法的側面 - 反カルト運動(Anti-Cult Movement)の歴史:ディプログラミングの倫理的問題、出口カウンセリング(exit counseling)への移行 - 信教の自由との緊張関係:カルト規制と宗教の自由の両立問題、フランスの反セクト法(2001年) - 日本における制度的対応:全国霊感商法対策弁護士連絡会、大学におけるカルト対策(全国カルト対策大学ネットワーク)、櫻井義秀の「宗教リテラシー教育」論 - 二世信者(宗教二世)問題:世代間の信仰の継承・強制、脱退の困難、心理的後遺症
(6) カルトの心理学・社会学的メカニズム - 勧誘の段階的プロセス:フット・イン・ザ・ドア技法、ラヴ・ボミング、正体隠し布教 - 集団心理のダイナミクス:集団極性化、同調圧力、権威への服従(ミルグラム実験の含意) - 離脱と回復:脱会のプロセス、PTSD様症状、社会復帰の課題 - 脆弱性要因:社会的孤立、人生の転換期、意味への渇望、自尊心の低下
Unit 2-8:宗教社会学¶
学習内容 - 古典的理論:デュルケームの宗教社会学(聖と俗、集合的沸騰、トーテミズム)、ウェーバーの宗教社会学(プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神、世界宗教の経済倫理、預言者類型、カリスマの日常化)、ジンメルの宗教社会学 - 世俗化論(secularization thesis):ブライアンR・ウィルソンの世俗化論、ピーター・バーガーの「聖なる天蓋」と後期の世俗化論修正、ホセ・カサノヴァの「公的宗教」論 - 宗教市場理論(religious economy):ロドニー・スタークとウィリアム・S・ベインブリッジの合理的選択理論、宗教の「供給側」分析 - 宗教運動の社会学:チャーチ-セクト類型論(トレルチ、ニーバー)→カルト-セクト-デノミネーション-エクレシアの四類型(J・ミルトン・インガー) - グローバル化と宗教:ペンテコステ運動のグローバルな拡大、イスラーム復興運動、宗教的ナショナリズム - 宗教とジェンダー:宗教的権威とジェンダー、女性聖職者問題、フェミニスト宗教学
キーコンセプト - カリスマの日常化(Veralltäglichung des Charisma) - 聖なる天蓋(sacred canopy)とノモス - 宗教的合理化と呪術からの解放(Entzauberung)
Unit 2-9:宗教心理学・認知科学的宗教学¶
学習内容 - 古典的宗教心理学:ウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相』(一度生まれと二度生まれ、回心、聖性、神秘主義)、フロイトの宗教論(『トーテムとタブー』『幻想の未来』『モーセと一神教』)、ユングの宗教心理学(元型、ヌミノーゼ体験、個性化過程と宗教) - 回心の心理学:段階的回心とアプルプト回心、ラムボーの回心モデル、ロフランドとスタークの回心プロセスモデル - 認知科学的宗教研究(CSR):パスカル・ボイヤーの「宗教は自然だ」(反直感的概念の最小限違反)、ジャスティン・バレットの生得的有神論(HADD: Hyperactive Agency Detection Device)、スコット・アトランの聖なる価値観論 - 進化心理学と宗教:宗教の適応主義的説明(集団選択、高価な信号理論)vs 副産物仮説 - 神経科学と宗教:瞑想研究、「神の兜」実験(パーシンガー)、ニューロセオロジー
キーコンセプト - 心のモジュール性と宗教的信念の認知的基盤 - 最小限直感的違反(MCI: Minimally Counter-Intuitive concepts) - 高価な信号理論(costly signaling theory)
5. Phase 3:発展・統合(目安:4〜6ヶ月)¶
目標¶
宗教学の方法論的議論を深化させ、現代社会における宗教の諸問題を多角的に分析する力を涵養する。
Unit 3-1:宗教学の方法論論争¶
学習内容 - 宗教学の学問的アイデンティティ:神学と宗教学の関係、価値中立性は可能か - 比較宗教学の再検討:J・Z・スミスの比較方法論批判、「宗教」概念の脱構築(タラル・アサドの『宗教の系譜学』)、ポストコロニアル批判(オリエンタリズムと宗教研究) - 21世紀の宗教概念の見直し:「宗教」はキリスト教を範型として構成された近代西洋的カテゴリーだという批判、lived religion(生きられた宗教)アプローチ - フィールドワークと宗教研究:宗教の民族誌、参与観察の倫理的問題、「潜入調査」の歴史と反省 - テクスト研究と宗教:文献学的方法、聖典解釈の諸方法(歴史的批評、文学的批評、読者反応批評)
キーコンセプト - 宗教の系譜学(genealogy of religion) - 生きられた宗教(lived religion) - 本質主義 vs 構築主義
Unit 3-2:宗教と政治・法¶
学習内容 - 政教分離の思想史:ロックの寛容論、合衆国憲法修正第1条、フランスのライシテ、日本国憲法第20条と第89条 - 政教分離の諸類型:厳格分離型(フランス、トルコ)、友好的分離型(アメリカ)、国教制度(イギリス、北欧)、日本の政教関係の特殊性 - 宗教と政治的暴力:宗教戦争の歴史、宗教テロリズムの分析(マーク・ユルゲンスマイヤー『グローバル時代の宗教と暴力』)、聖戦(crusade/jihad)概念 - 宗教とナショナリズム:ヒンドゥー・ナショナリズム(ヒンドゥトヴァ)、クリスチャン・ナショナリズム、仏教ナショナリズム(スリランカ、ミャンマー) - 宗教的マイノリティの権利:信教の自由の国際人権法上の保障、良心的兵役拒否、宗教的服装規制問題(ヒジャーブ論争)
Unit 3-3:宗教と倫理・生命¶
学習内容 - 宗教倫理の基礎:自然法、神命説(divine command theory)、徳の倫理と宗教 - 生命倫理と宗教:脳死・臓器移植、中絶、安楽死・尊厳死に対する各宗教の立場 - 宗教と環境倫理:リン・ホワイトの「生態学的危機の歴史的根源」テーゼ、各宗教のエコロジー思想 - 宗教間対話と倫理:ハンス・キュングの「世界倫理」(Weltethos)構想、宗教間の共通倫理基盤の可能性と限界
Unit 3-4:現代世界の宗教動態¶
学習内容 - グローバル・サウスにおける宗教の拡大:アフリカ・ラテンアメリカのペンテコステ運動、韓国キリスト教の急成長 - 世俗化の再考:ヨーロッパの例外か、アメリカの例外か。チャールズ・テイラー『世俗の時代(A Secular Age)』 - スピリチュアリティと「宗教離れ」:Spiritual But Not Religious(SBNR)現象、ニューエイジ運動、マインドフルネスの脱宗教的受容 - デジタル時代の宗教:オンライン宗教コミュニティ、SNSを通じた布教と過激化、AI時代の宗教 - 宗教と科学:インテリジェント・デザイン論争、進化論と創造論、宗教と科学の「対話」モデル(イアン・バーバーの4類型:対立・独立・対話・統合) - 宗教と資本主義:繁栄の福音(Prosperity Gospel)、宗教的消費文化
Unit 3-5:宗教と日本の現代的課題¶
学習内容 - 宗教法人制度と課税問題 - 政治と宗教団体の関係:創価学会と公明党、旧統一教会と政治家の関係 - カルト対策の制度設計:大学のカルト対策、フランスの反セクト法からの示唆、櫻井義秀の「宗教リテラシー教育」の射程 - 宗教二世問題:2022年以降の社会問題化、法的対応の模索 - 「宗教的なもの」の拡散:パワースポットブーム、スピリチュアル市場、占い・運勢、アニメ・サブカルチャーにおける宗教的モチーフ - 災害と宗教:東日本大震災における宗教者の活動、臨床宗教師の登場
6. 参考情報¶
主要学術雑誌¶
- 『宗教研究』(日本宗教学会)
- 『宗教と社会』(「宗教と社会」学会)
- Journal for the Scientific Study of Religion
- Journal of the American Academy of Religion
- Religion(Elsevier)
- Numen: International Review for the History of Religions
主要な研究者(日本)¶
- 島薗進(東大名誉教授):新宗教研究、スピリチュアリティ論、国家神道研究
- 井上順孝(國學院大學名誉教授):新宗教、宗教教育、情報時代の宗教
- 櫻井義秀(北海道大学):カルト問題、東南アジア宗教、宗教社会学
- 大谷栄一(佛教大学):近代日本仏教、社会参加仏教
- 藤原聖子(東京大学):宗教学方法論、教科書の中の宗教
主要な研究者(海外)¶
- Mircea Eliade:宗教現象学の泰斗
- Rodney Stark:宗教社会学の合理的選択理論
- Pascal Boyer:認知科学的宗教研究の創始者の一人
- Talal Asad:宗教概念の系譜学的批判
- Charles Taylor:世俗化論の再構築
学習の進め方に関する補足¶
本プランでは書籍を購入しない前提のため、各Unitの学習は本出力の内容をベースとし、必要に応じて個別トピックについて深掘りの質問を行う形で進行する。各Unitについて、以下の形式で学習を進めることを推奨する。
- 概要把握:本プランの各Unitの記述を通読し、全体像を把握
- 深掘り学習:関心のあるトピックや理解が不十分な箇所について、個別に質問して詳細な解説を得る
- 概念整理:キーコンセプトについて自分の言葉で説明できるか確認
- 横断的理解:複数の領域を横断する問い(例:「カルトと正統宗教の境界はどこにあるか」「世俗化は進んでいるのか」)について考察