Module 1-3 - Section 1: アブラハムの宗教¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-3: 世界宗教概論 |
| 前提セクション | なし |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
ユダヤ教・キリスト教・イスラームは、いずれも族長アブラハム(Abraham)を共通の起源とし、唯一神への信仰、聖典に基づく啓示宗教という特質を共有する。これら三宗教は「アブラハムの宗教(Abrahamic religions)」と総称され、現在の世界人口の過半数が信徒に含まれる。本セクションでは、三宗教それぞれの概要を把握したうえで、共通点と相違点を比較し、Phase 2の各論モジュールに向けた基盤を構築する。
アブラハムの宗教という概念¶
Key Concept: アブラハムの宗教(Abrahamic religions) 族長アブラハムを共通の信仰的起源とし、唯一神信仰・聖典・預言者の系譜を共有するユダヤ教・キリスト教・イスラームの三宗教の総称。
「アブラハムの宗教」という用語は20世紀に普及したもので、従来の「ユダヤ=キリスト教的(Judeo-Christian)」という枠組みにイスラームを包含し、三者の関係性をより正確に表現するために導入された。三宗教は以下の特質を共有する。
- 一神教(monotheism): 唯一の人格的な神を信仰する
- 啓示宗教: 神が預言者を通じて人間に意志を伝えるという構造をもつ
- 預言者の系譜: アブラハム→モーセ→イエス→ムハンマドという預言者の連鎖を(程度の差はあれ)認める
- 聖典の宗教: 神の啓示を成文化した聖典を信仰と実践の根拠とする
- 線形的時間観: 時間を始まりと終わりのある直線的なものとして捉え、終末論(eschatology)を有する
ユダヤ教が最も古く(前2千年紀の族長時代に遡る伝統)、キリスト教は1世紀にユダヤ教の内部から成立し、イスラームは7世紀にアラビア半島で成立した。各宗教は先行する宗教の要素を継承しつつも、独自の神学的立場を構築している。
ユダヤ教の概要¶
Key Concept: トーラー(Torah) ヘブライ語で「教え」を意味し、モーセ五書(創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記)を指す。ユダヤ教の信仰と実践の根幹をなす最も重要な聖典である。
基本教義¶
ユダヤ教はユダヤ民族の民族宗教であり、唯一神ヤハウェ(YHWH)への信仰を核とする。その中心的教義は以下の通りである。
- 唯一神信仰: ヤハウェのみが神であり、他の神々は存在しない(申命記6:4「シェマー・イスラエル」)
- 選民思想(chosen people): 神がイスラエルの民を特別に選び、契約(covenant)を結んだとする思想。これは優越性の主張ではなく、律法を遵守する義務と責任を伴うものとして理解される
- 律法の遵守: トーラーに記された613の戒律(ミツヴォート)と、口伝律法(Oral Torah)に基づくハラハー(Halakhah、ユダヤ法)が日常生活全般を規定する
ラビ・ユダヤ教(Rabbinic Judaism)の特徴は「二重のトーラー」という概念にある。すなわち、シナイ山でモーセに啓示されたものには、成文トーラー(Written Torah)と口伝トーラー(Oral Torah)の二つがあるとし、後者はミシュナ(Mishnah)およびタルムード(Talmud)として編纂された。タルムードは複数のラビの議論・解釈を集約したものであり、ユダヤ教の法的・倫理的判断の基盤を形成する。
宗教的実践と制度¶
- シナゴーグ(Synagogue): ユダヤ教の礼拝所。トーラーの朗読と祈りが行われる。エルサレム神殿の崩壊(70年)以降、宗教生活の中心となった
- ラビ(Rabbi): 「わが師」を意味する宗教的指導者。聖職者というよりも律法の学者・教師であり、法的判断(ハラハー上の裁定)を下す権威をもつ
- 安息日(シャバット): 金曜日の日没から土曜日の日没まで、労働を休止し神に捧げる日
歴史の大枠¶
ユダヤ教の歴史は、旧約聖書の物語と歴史的事実が複雑に交錯する。概略は以下の通りである。
- 族長時代: アブラハム、イサク、ヤコブの時代。神との契約の開始
- 出エジプト(Exodus): モーセに率いられたエジプト脱出。シナイ山でのトーラー授与
- 王国時代: サウル、ダビデ、ソロモンの統一王国。エルサレム神殿の建設(前10世紀頃)
- バビロン捕囚(前586年): 第一神殿の破壊とバビロニアへの強制移住。一神教の確立が決定的となった時期とされる
- 第二神殿時代(前515年〜後70年): ペルシア帝国の許可による帰還と神殿再建。ヘレニズム期のマカバイ戦争、ローマ支配下でのイエスの活動もこの時期に属する
- ディアスポラ(Diaspora): 第一次ユダヤ戦争(66-73年)で第二神殿が崩壊し、第二次ユダヤ戦争(132-135年)の鎮圧後にエルサレムへの立ち入りが禁止され、ユダヤ人の世界的離散が本格化した。以後、各地で独自の共同体を形成し、律法と伝統を維持することで民族的アイデンティティを保持し続けた
キリスト教の概要¶
Key Concept: 三位一体(Trinity) 父なる神・子なるイエス・キリスト・聖霊の三者が、三つの位格(persona)をもちながら本質において一体であるとするキリスト教の根本教義。ニカイア公会議(325年)で正統教義として確立された。
基本教義¶
キリスト教は、1世紀のパレスチナにおいてナザレのイエス(Jesus of Nazareth)の教えと活動を起源として、ユダヤ教の内部から成立した。イエスをメシア(キリスト / Christos)、すなわち神によって遣わされた救世主と信じる点がユダヤ教との決定的な分岐である。中心的教義は以下の通りである。
- イエス・キリストの受肉・十字架・復活: 神の子が人となり(受肉)、人類の罪を贖うために十字架上で死に(贖罪)、三日目に復活したとする。これがキリスト教の救済論(soteriology)の核心をなす
- 三位一体: 父・子・聖霊の三位格が一つの神性を共有するという教義。4世紀の公会議を通じて教義的に確立された
- 聖書: 旧約聖書(ユダヤ教の聖典を継承)と新約聖書(福音書・書簡・黙示録など)から構成される。新約聖書はイエスの言行と初期教会の展開を記録する
教会の歴史的展開¶
- 初期キリスト教(1〜4世紀): ローマ帝国内での迫害と拡大。使徒パウロ(Paul of Tarsus)による異邦人への伝道が決定的な転換となった。313年のミラノ勅令で公認され、380年にローマ帝国の国教となる
- 東西分裂(1054年): ローマ教会(西方)とコンスタンティノープル教会(東方)が、聖像崇敬問題やフィリオクェ問題(聖霊の発出に関する神学的論争)などを巡って対立し、相互破門に至った。第4回十字軍(1204年)によるコンスタンティノープル占領が分裂を決定的にした
- 宗教改革(16世紀): マルティン・ルター(Martin Luther)の「九十五箇条の論題」(1517年)に端を発し、ジャン・カルヴァン(Jean Calvin)やフルドリッヒ・ツヴィングリ(Huldrych Zwingli)らによって展開された。「聖書のみ(sola scriptura)」「信仰のみ(sola fide)」を掲げ、カトリック教会の権威構造・免罪符(贖宥状)制度を批判した
主要教派¶
| 教派 | 特徴 | 信徒数(概算) |
|---|---|---|
| カトリック | ローマ教皇を頂点とする中央集権的組織。聖伝と聖書の双方を重視。七つの秘跡 | 約13億人 |
| 東方正教会 | 各地域の独立教会(ロシア正教会、ギリシア正教会等)の連合体。教皇に相当する統一的指導者を持たない。イコン(聖像画)を重視 | 約2.2億人 |
| プロテスタント | 宗教改革以降に分離した諸教派の総称。聖書の権威を最重視。ルター派、改革派(カルヴァン派)、英国国教会、バプテスト、メソジストなど多様 | 約9億人 |
三教派はいずれも三位一体を共有するが、聖伝の扱い、教会の権威構造、典礼の形式などにおいて相違がある。
イスラームの概要¶
Key Concept: クルアーン(Qur'an) イスラームの根本聖典。預言者ムハンマドに対して大天使ジブリール(Gabriel)を通じて啓示された神(アッラー)の言葉であるとされる。アラビア語で記され、翻訳は「解釈」とみなされる。
基本教義¶
イスラームは7世紀初頭、アラビア半島のメッカにおいて預言者ムハンマド(Muhammad, 570頃-632年)が受けた啓示に始まる。「イスラーム(Islam)」はアラビア語で「(神への)帰依・服従」を意味する。ムハンマドは、アブラハム、モーセ、イエスに連なる預言者の系譜における「最後にして最大の預言者(seal of the prophets)」と位置づけられる。
- 六信(six articles of faith): アッラー(唯一神)・天使・聖典・預言者・来世・天命(定命)への信仰
- 聖典: クルアーン(114章 / スーラから構成)が最高の聖典。加えて、ムハンマドの言行録であるハディース(Hadith)が聖典に準ずる権威をもつ
五行(五柱)¶
Key Concept: 五行 / 五柱(Five Pillars of Islam) ムスリムに課せられた5つの基本的義務。信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼からなり、イスラームの実践の根幹を形成する。
| 五行 | アラビア語 | 内容 |
|---|---|---|
| 信仰告白 | シャハーダ(Shahada) | 「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはその使徒である」と宣言すること |
| 礼拝 | サラート(Salat) | 1日5回、メッカの方角(キブラ)に向かって行う礼拝 |
| 喜捨 | ザカート(Zakat) | 財産の一定割合(通常2.5%)を貧者に施すこと。義務的な施し |
| 断食 | サウム(Sawm) | ラマダーン月の日の出から日没まで飲食・性行為を断つこと |
| 巡礼 | ハッジ(Hajj) | 経済的・身体的に可能な者が生涯に一度はメッカを巡礼すること |
なお、この五行はスンナ派の分類であり、シーア派では「十行」として礼拝・喜捨・断食・巡礼に加え、五分の一税(フムス)、ジハード、善行の命令、悪行の禁止などが含まれる。
シャリーアとイスラーム法学¶
シャリーア(Sharia)はイスラーム法の総体であり、宗教的義務から民事・刑事に至るムスリムの生活全般を規律する。スンナ派では四つの法源が認められている。
- クルアーン: 最高の法源
- スンナ(Sunnah): ムハンマドの慣行(ハディースに記録される)
- イジュマー(Ijma): ウラマー(イスラーム法学者)の合意
- キヤース(Qiyas): 類推による法的推論
これら法源の解釈方法の違いから、スンナ派には四大法学派(ハナフィー学派・マーリク学派・シャーフィイー学派・ハンバル学派)が成立している。
スンナ派とシーア派¶
ムハンマドの死後(632年)、後継者(カリフ)を誰にすべきかという問題が、イスラーム最大の宗派分裂を生んだ。
- スンナ派(Sunni): ムハンマドの「スンナ(慣行)」を正しく伝えられる者を後継者とすべきと主張し、合議による選出を支持した。イスラーム教徒全体の約85-90%を占める
- シーア派(Shia): ムハンマドの従弟かつ女婿であるアリー(Ali)とその血統による指導(イマーム制)を正統とする。イマームは神に導かれた無謬の指導者であるとするイマーム論が最大の教義的特色である。全体の約10-15%を占め、イランが最大の信徒国である
両派は教義・儀礼の大部分を共有しており、クルアーン・五行・六信といった基本構造は共通している。
三宗教の比較¶
共通点¶
三宗教は以下の根本的特質を共有する。
- 厳格な一神教: 唯一の人格神を信仰する(ただし三位一体をめぐるキリスト教の立場はユダヤ教・イスラームからは一神教の純粋性に疑義を呈される場合がある)
- 聖典の宗教: 神の啓示を記した聖典を信仰と実践の根拠とする
- 預言者の系譜: アブラハムを起点とする預言者の連鎖を認める
- 終末論: 最後の審判、死者の復活、義人の報いと悪人の罰を説く
- 倫理的一神教: 神は道徳的な要求を人間に課し、信仰は倫理的実践と不可分である
- 礼拝・断食・喜捨・巡礼: 形式は異なるが、類似の宗教的実践を共有する
相違点¶
timeline
title アブラハムの宗教の歴史的展開
section ユダヤ教
前2000年頃 : 族長時代(アブラハム)
前13世紀頃 : 出エジプト・律法授与
前10世紀頃 : 統一王国・第一神殿
前586年 : バビロン捕囚
前515年 : 第二神殿再建
70年 : 第二神殿崩壊
135年 : ディアスポラ本格化
section キリスト教
30年頃 : イエスの活動・十字架・復活
50年頃 : パウロの異邦人伝道
313年 : ミラノ勅令(公認)
325年 : ニカイア公会議
1054年 : 東西教会分裂
1517年 : 宗教改革
section イスラーム
610年 : ムハンマドへの最初の啓示
622年 : ヒジュラ(メディナへの移住)
632年 : ムハンマド死去
661年 : ウマイヤ朝成立
680年 : カルバラーの戦い(スンナ・シーア分裂の決定的事件)
750年 : アッバース朝成立
| 比較項目 | ユダヤ教 | キリスト教 | イスラーム |
|---|---|---|---|
| 神の呼称 | ヤハウェ(YHWH) | 父なる神(God the Father) | アッラー(Allah) |
| 神学的立場 | 厳格な一神教 | 三位一体 | 厳格な一神教(タウヒード) |
| 中心聖典 | トーラー(モーセ五書) | 聖書(旧約+新約) | クルアーン |
| 聖典の位置づけ | 神とモーセの契約の記録 | 神の啓示の証言・記録 | 神の言葉そのもの(逐語的啓示) |
| 救済の手段 | 律法の遵守と神への信仰 | イエスへの信仰と神の恩寵 | 六信と五行の実践 |
| メシア観 | 将来到来するダビデの子孫 | イエスがメシアであり再臨する | イーサー(イエス)の再臨とマフディーの到来 |
| 宗教指導者 | ラビ | 聖職者(司祭・牧師) | ウラマー・イマーム |
| 信徒の範囲 | 民族宗教(改宗は可能だが積極的布教なし) | 普遍宗教(万人への宣教) | 普遍宗教(万人への宣教) |
特に注目すべき相違点を補足する。
聖典の位置づけに関して、ユダヤ教とキリスト教では聖典は神の啓示を人間が記録したものとして理解されるのに対し、イスラームではクルアーンはアッラーの言葉そのものであり、ムハンマドはその「受信者」に過ぎないとされる。このため、クルアーンのアラビア語原文は翻訳不可能とみなされ、他言語版は「解釈」と位置づけられる。
救済論に関して、ユダヤ教では律法の遵守と共同体における正しい生活が重視される。キリスト教ではイエスの贖罪を通じた神の恩寵(grace)が救済の根拠であり、特にプロテスタントでは「信仰のみ(sola fide)」が強調される。イスラームでは信仰と行為の双方が審判の基準となり、最後の審判において善行と悪行が秤にかけられるとされる。
まとめ¶
- アブラハムの宗教は、唯一神信仰・聖典・預言者の系譜・終末論を共有する三大一神教であり、歴史的にはユダヤ教→キリスト教→イスラームの順に成立した
- ユダヤ教は民族宗教としてトーラーと律法(ハラハー)を中心に据え、ディアスポラを通じてアイデンティティを保持してきた
- キリスト教はイエスの贖罪と三位一体を核心教義とし、カトリック・東方正教会・プロテスタントの三大教派に分化した
- イスラームはクルアーンを神の言葉そのものとして重視し、五行を実践の柱とする。スンナ派とシーア派の分裂は後継者問題に起因する
- 三宗教は共通の基盤をもちながら、神学的立場(特に三位一体)、聖典の位置づけ、救済論において根本的な相違がある
- 次セクション以降では、インド・南アジア起源の宗教(ヒンドゥー教・仏教等)を概観し、アブラハムの宗教とは異なる宗教的伝統を理解する
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| アブラハムの宗教 | Abrahamic religions | アブラハムを共通起源とするユダヤ教・キリスト教・イスラームの総称 |
| トーラー | Torah | モーセ五書。ユダヤ教の最重要聖典。「教え」の意 |
| ハラハー | Halakhah | ユダヤ法の総体。トーラーと口伝律法に基づく法的規範体系 |
| タルムード | Talmud | ラビたちの律法議論・解釈を集成した文献。ミシュナとゲマラから構成される |
| ディアスポラ | Diaspora | ユダヤ人の世界的離散。特に135年以降の本格的な散逸を指す |
| 三位一体 | Trinity | 父・子・聖霊が三つの位格をもちつつ一つの神性を共有するとするキリスト教教義 |
| 贖罪 | Atonement | イエスの十字架上の死によって人類の罪が償われたとする教義 |
| クルアーン | Qur'an | イスラームの根本聖典。アッラーの言葉がムハンマドに啓示されたもの |
| 五行 / 五柱 | Five Pillars of Islam | ムスリムの5つの基本的義務(信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼) |
| シャリーア | Sharia | イスラーム法の総体。宗教的義務から民事・刑事まで生活全般を規律する |
| シャハーダ | Shahada | イスラームの信仰告白。「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはその使徒である」 |
| スンナ派 | Sunni | ムハンマドの慣行(スンナ)を重視し合議による後継者選出を支持する多数派 |
| シーア派 | Shia | アリーの血統による指導権を主張する少数派。イマーム論が教義的特色 |
確認問題¶
Q1: 「アブラハムの宗教」という概念において、三宗教が共有する構造的特質を4つ挙げ、それぞれ簡潔に説明せよ。 A1: (1) 一神教 — 唯一の人格的な神を信仰する。(2) 啓示宗教 — 神が預言者を通じて人間に意志を伝える構造をもつ。(3) 聖典の宗教 — 神の啓示を成文化した聖典を信仰と実践の根拠とする。(4) 線形的時間観と終末論 — 時間を直線的に捉え、最後の審判と終末を教義に含む。その他、預言者の系譜の共有も挙げられる。
Q2: ユダヤ教における「二重のトーラー」とは何か。成文トーラーと口伝トーラーの関係を説明せよ。 A2: 「二重のトーラー」とは、シナイ山でモーセに啓示されたものには、文字として記されたトーラー(成文トーラー / モーセ五書)と、口頭で伝承されたトーラー(口伝トーラー)の二つがあるとする概念である。口伝トーラーはミシュナとして編纂され、さらにその注釈であるゲマラと合わせてタルムードが成立した。タルムードは成文トーラーの解釈・適用を体系化し、ユダヤ法(ハラハー)の基盤を形成している。
Q3: キリスト教の三大教派(カトリック・東方正教会・プロテスタント)の分裂の歴史的経緯を概説せよ。 A3: 初期キリスト教は4世紀にローマ帝国の国教となった後、ローマ教会(西方)とコンスタンティノープル教会(東方)の間で聖像崇敬やフィリオクェ問題をめぐる対立が深まり、1054年に相互破門に至った(東西教会の分裂)。西方教会(カトリック)はさらに16世紀の宗教改革によってプロテスタント諸派が分離した。ルターの「聖書のみ」「信仰のみ」の主張がカトリック教会の権威構造に対する批判として展開され、多様なプロテスタント諸派が成立した。
Q4: イスラームにおけるクルアーンの位置づけは、ユダヤ教のトーラーやキリスト教の聖書とどのように異なるか。 A4: ユダヤ教・キリスト教では、聖典は神の啓示を人間が記録・証言したものとして理解される。一方、イスラームではクルアーンはアッラーの言葉そのもの(逐語的啓示)であり、ムハンマドはその受信者・伝達者にすぎないとされる。このため、アラビア語原文のみが真正なクルアーンであり、他言語への翻訳は厳密には「クルアーンの解釈」と位置づけられる。
Q5: スンナ派とシーア派の分裂の原因と、両派の最大の教義的相違点を説明せよ。 A5: 分裂の原因は、ムハンマドの死後(632年)における後継者(カリフ)選出の方法にある。スンナ派はムハンマドの慣行(スンナ)を正しく伝えうる者を合議で選出すべきとし、シーア派はムハンマドの従弟かつ女婿であるアリーとその血統による指導を正統とした。最大の教義的相違点はイマーム論であり、シーア派はイマーム(アリーの子孫)を神に導かれた無謬の指導者と位置づけるのに対し、スンナ派にはこの概念が存在しない。