Module 1-3 - Section 3: 東アジアの宗教とその他の宗教伝統¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-3: 世界宗教概論 |
| 前提セクション | Section 1, Section 2 |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
本セクションでは、Section 1(アブラハムの宗教)およびSection 2(南アジア・東南アジアの宗教)で扱わなかった主要な宗教伝統を概観する。具体的には、中国文明圏を基盤とする道教・儒教、古代ペルシアに起源をもつゾロアスター教、さらにアニミズム・シャーマニズムといった基底的宗教性、バハーイー教・マニ教などの諸宗教を取り上げる。最後に、世界宗教全体の信者数と地理的分布を概観し、Module 1-3全体のまとめとして、Phase 2(各論展開)への橋渡しを行う。
道教(Daoism / Taoism)¶
Key Concept: 道(Dao / Tao) 万物の根源であり、宇宙を貫く究極的な原理。言語や概念によって完全に捉えることはできないとされ、「道の道とすべきは、常の道に非ず」(『道徳経』第1章)という逆説的表現で示される。
老子と『道徳経』¶
道教の哲学的基盤は、春秋時代(紀元前6〜5世紀頃)の思想家とされる老子(Laozi)に帰せられる。ただし、老子の実在性については古くから議論があり、現在の学界では『道徳経(Daodejing)』は老子個人の著作ではなく、道家学派によって段階的に編纂された文献であるとする見解が有力である。
『道徳経』は上篇(道経)と下篇(徳経)の計81章からなる。その中心思想は以下に集約される。
- 道(Dao): 天地万物に先立って存在する根源的原理。名づけえないもの、形なきもの
- 徳(De): 道が個々の事物に内在する力・はたらき
- 無為自然(wuwei ziran): 人為的な作為や過度の干渉を避け、自然の流れに即して生きること
Key Concept: 無為自然(wuwei ziran) 「無為」とは何もしないことではなく、道の自然な流れに逆らう人為的・強制的な行為を排することを意味する。統治論としては、民を過度に干渉せず自発的秩序に委ねる政治思想として展開された。
荘子の思想¶
荘子(Zhuangzi、紀元前4世紀頃)は老子の思想を継承・発展させた。『荘子』(内篇・外篇・雑篇)において、万物の相対性、生死の等価性、言語の限界といった主題を、寓話や比喩を駆使して論じた。有名な「胡蝶の夢」の逸話は、自己と他者・夢と現実の境界を問い直す相対主義的認識論を象徴する。
六朝時代(3〜6世紀)に至り、老子と荘子の思想は「老荘思想」として統合され、道教の哲学的基盤を形成した。
宗教的道教の展開¶
哲学としての道家思想と、制度的宗教としての道教は区別される。教団としての道教は、後漢末期(2世紀後半)に成立した太平道(Taiping Dao)と五斗米道(Wudoumi Dao、のちの天師道)に始まる。
宗教的道教の特徴は以下の通りである。
- 不老不死の追求: 肉体の不滅・長生を究極的な目標とする。これは仏教の涅槃(解脱)とは対照的で、身体の肯定に立脚する
- 煉丹術(alchemy): 外丹(金属・鉱物を用いた丹薬の調合)と内丹(瞑想・呼吸法による体内のエネルギー変容)に大別される
- 道観と道士: 道教寺院(道観)を拠点として、道士(Daoshi)が儀礼・祭祀を執り行う
- 神仙思想: 不死の仙人(Xian)に至ることを理想とし、各種の修行体系が発達した
- 経典と儀礼: 『道蔵(Daozang)』として約1,500部の経典が集成され、符籙(護符)・斎醮(祭祀儀礼)などの実践体系が整備された
哲学的道家と宗教的道教は、「道」を根本原理とする点では共通するが、前者が知的認識と生き方の変容を志向するのに対し、後者は儀礼・修行を通じた具体的な宗教的救済を追求する点で異なる。
儒教(Confucianism)— 宗教としての側面¶
Key Concept: 仁(ren) 儒教における最高徳目。他者への思いやり・人間愛を意味し、孔子が最も重視した概念。「己の欲せざる所、人に施す勿かれ」(『論語』顔淵篇)に端的に示される。
孔子と『論語』¶
孔子(Confucius、紀元前551〜479年)は、魯国に生まれ、周代の礼楽文化の復興を志した。『論語(Lunyu)』は弟子たちが孔子の言行を記録・編纂したものであり、儒教の根本経典である。
孔子の思想の中核をなす概念は以下の通りである。
- 仁(ren): 人間関係における最高の道徳的理想。親への愛(孝)を基盤に、他者一般への仁愛へと拡大する
- 礼(li): 社会的規範・儀礼。単なる形式ではなく、内面の仁を外的に表現する行為の型
- 孝(xiao): 親に対する敬愛と奉仕。儒教倫理の根幹であり、祖先崇拝と直結する
- 君子(junzi): 仁と礼を体現した道徳的理想人格
Key Concept: 礼(li) 冠婚葬祭などの儀礼から日常の作法に至るまで、社会生活を秩序づける規範の総体。孔子はこれを周の文化遺産として重視し、礼の実践を通じて内面的な徳が涵養されると考えた。
天命思想と祖先崇拝¶
儒教が単なる倫理体系にとどまらず宗教的側面をもつ根拠として、以下の二点が挙げられる。
天命(tianming)思想: 孔子は「天(Tian)」を人格的な意志を有する超越的存在として捉えた。「五十にして天命を知る」(『論語』為政篇)という言葉に見られるように、天は道徳的秩序の究極的根拠であり、為政者の正統性の源泉(天命)でもある。孟子(Mencius、紀元前372〜289年頃)はこれを発展させ、民意の反映としての天命論を展開した。
祖先崇拝: 儒教の「孝」の概念は生者のみならず死者に対しても向けられる。祖先の霊を祀る宗廟祭祀は儒教の儀礼的中核であり、加地伸行が指摘するように、儒教を「死生観に係わる思想」として宗教と定義する根拠となる。
儒教は「宗教」か「倫理体系」か¶
この問いに対する見解は、宗教の定義に依存する。
| 立場 | 根拠 |
|---|---|
| 倫理体系説 | 創始者が超自然的存在を明確に説かない。教義体系・出家制度を欠く。孔子自身「怪力乱神を語らず」(『論語』述而篇) |
| 宗教説 | 天命思想が超越的権威を前提とする。祖先崇拝という明確な宗教的実践を含む。歴史的に孔子廟での祭祀が国家的に営まれた |
現在の宗教学では、儒教を「宗教的次元を有する包括的な文化伝統」として捉える見解が主流である。唯一神への信仰や明確な救済論をもたないため、アブラハムの宗教のような意味での「宗教」には該当しないが、天・祖霊への敬虔さと儀礼的実践を含む点で、純粋な世俗倫理とも異なる。
ゾロアスター教(Zoroastrianism)¶
Key Concept: 善悪二元論(Zoroastrian dualism) 善の最高神アフラ・マズダーと悪の霊アンラ・マンユが宇宙的な闘争を繰り広げるという世界観。人間はこの闘争において善を選択する自由意志を有するとされ、最終的に善が勝利するという楽観的終末論を伴う。
ザラスシュトラと『アヴェスター』¶
ゾロアスター教は、古代イランの預言者ザラスシュトラ(Zarathustra、ギリシア語名ゾロアスター、生没年は紀元前1500〜前500年の間で諸説あり)の教えに基づく。世界最古の一神教的宗教の一つとされ、アケメネス朝・アルサケス朝・サーサーン朝の三大ペルシア帝国で国教として奉じられた。
聖典『アヴェスター(Avesta)』はザラスシュトラ自身の言葉とされる「ガーサー(Gathas)」を核とし、祭祀規定、讃歌、法規を含む。ガーサーは古アヴェスター語で記され、インド=イラン語族の最古層の言語資料としても重要である。
善悪二元論の構造¶
ゾロアスター教の教義的核心は、宇宙的な善悪の対立にある。
- アフラ・マズダー(Ahura Mazda): 「知恵ある主」を意味する最高神。真理(アシャ, Asha)の体現者であり、宇宙の創造者
- アンラ・マンユ(Angra Mainyu): 「破壊的な霊」。虚偽(ドゥルジ, Druj)の化身であり、善なる創造を破壊しようとする
人間は、アシャ(真理・宇宙的秩序)とドゥルジ(虚偽・混沌)のいずれかを選択する自由意志を有する。この倫理的選択の強調は、ゾロアスター教が単なる二元論にとどまらず、道徳的一神教としての性格を有することを示している。
終末論とアブラハムの宗教への影響¶
ゾロアスター教の終末論は以下の要素を含む。
- 個人の死後審判: 死後、魂は「チンワトの橋(Chinvat Bridge)」を渡り、生前の善悪に応じて天国(善き思いの家)か地獄(虚偽の家)に至る
- 世界の終末と最後の審判(Frashokereti): 歴史の終わりに救世主(サオシュヤント, Saoshyant)が出現し、悪が最終的に滅ぼされ、死者が復活し、世界が完全に浄化される
これらの概念は、ユダヤ教・キリスト教・イスラームの終末論との顕著な類似性を示す。学界ではバビロン捕囚期(紀元前6世紀)にユダヤ人がペルシア文化圏と接触し、天使・悪魔の体系化、死後の審判、終末における復活と最後の審判といった概念を吸収した可能性が指摘されている。ただし、直接的な影響関係の有無と程度については学術的に論争が続いている。
現在、ゾロアスター教徒はインド(パールシー, Parsi)とイランを中心に10〜20万人程度とされ、信者数は少ないが、思想史的影響は極めて大きい。
その他の宗教伝統¶
神道(Shinto)¶
神道は日本列島固有の宗教伝統であり、八百万の神々(kami)への信仰、神社における祭祀、自然崇拝、祖霊信仰を特徴とする。明確な創始者・体系的教義をもたず、歴史的に仏教・儒教・道教と相互に影響し合いながら発展した。神道の詳細はPhase 2の日本宗教史モジュールで扱うため、ここでは概要の指摘にとどめる。(→ Module 2-7「日本宗教史」参照)
アニミズムとシャーマニズム — 基底的宗教性¶
Key Concept: アニミズム(animism) 人間以外の存在(動物、植物、岩石、河川、山岳、気象現象など)にも魂・霊的な力(agency)が宿るとする信念体系。イギリスの人類学者エドワード・バーネット・タイラー(Edward Burnett Tylor)が1871年の著作『原始文化(Primitive Culture)』で体系的に論じ、宗教の最も原初的な形態として提示した。
アニミズムは特定の教団組織や成文化された教義をもたないが、世界各地の先住民族の宗教実践に広く見られる基底的な宗教性である。物質世界と精神世界の間に截然とした区別を設けず、人間が自然環境の諸存在と霊的に交流しうるという世界観に特徴がある。
Key Concept: シャーマニズム(shamanism) 変性意識状態(トランス)を用いて霊的世界と交信する宗教的専門家(シャーマン)を中心とする宗教的実践の総体。シベリアのツングース系言語に由来する語であり、北アジア、南北アメリカ、東南アジア、アフリカなど広範な地域に分布する。
シャーマニズムはしばしば「実践されたアニミズム(applied animism)」と呼ばれる。シャーマンの主な機能は以下の通りである。
- 霊的世界との仲介者としての治癒・占い
- トランス状態での霊界への旅(魂の飛翔)
- 動物霊・守護霊との交信
- 共同体の儀礼の執行
ただし、「アニミズム」「シャーマニズム」という概念自体が19世紀の進化主義的宗教学に由来するものであり、異なる文化圏の多様な実践を過度に均質化するリスクが指摘されている。現代の宗教学・人類学では、これらの用語を分析的概念として使用しつつも、各文化固有の文脈を尊重する姿勢が求められる。
バハーイー教(Baha'i Faith)¶
バハーイー教は、19世紀のイランでバハーウッラー(Baha'u'llah、1817〜1892年)が創始した宗教である。中心的教義は以下の三つの一致(unity)に集約される。
- 神の一致: 全宗教が崇拝する神は同一である
- 宗教の一致: 諸宗教は一つの真理の段階的啓示である(漸進的啓示論)
- 人類の一致: 人種・民族・性別を超えた人類の統一
現在の信者数は約500〜800万人とされ、イランでは迫害を受けているが、世界200以上の国・地域に信者が分布する。
マニ教(Manichaeism)¶
マニ教は、ササン朝ペルシアのマニ(Mani、216〜276年または277年)が創始した宗教である。ゾロアスター教・キリスト教・仏教の要素を意図的に統合し、光と闇の二元論的宇宙論を展開した。マニは自らをイエス・ゾロアスター・仏陀に連なる最後の預言者と位置づけた。
マニ教は3〜7世紀にかけてローマ帝国から中央アジア・中国にまで伝播し、一時は世界宗教と呼びうる規模に達したが、各地で異端として迫害され、中世後期までに消滅した。アウグスティヌスが回心前にマニ教徒であったことは、キリスト教思想史上よく知られた事実である。
宗教の地理的分布と現代の信者数¶
主要宗教の推定信者数(2020年)¶
以下のデータはPew Research Centerの2025年公刊報告書(2020年データ)に基づく。
| 宗教 | 推定信者数 | 世界人口比 |
|---|---|---|
| キリスト教 | 約23億人 | 28.8% |
| イスラーム | 約20億人 | 25.6% |
| 無宗教(nones) | 約19億人 | 24.3% |
| ヒンドゥー教 | 約12億人 | 14.9% |
| 仏教 | 約3.2億人 | 4.1% |
| 民俗宗教 | 約4.4億人 | 5.6% |
| その他 | 約0.6億人 | 0.8% |
注: 「民俗宗教」にはアフリカの伝統宗教、中国の民間信仰、アメリカ先住民の宗教などが含まれる。儒教・道教の信者は中国の民間信仰の一部として計上されることが多く、独立した統計が困難である。
地理的分布パターン¶
graph TD
subgraph AP["Asia-Pacific / アジア太平洋"]
H["ヒンドゥー教 99%"]
B["仏教 99%"]
F["民俗宗教 90%"]
N["無宗教 76%"]
end
subgraph SSA["Sub-Saharan Africa / サハラ以南アフリカ"]
C1["キリスト教 最大比率31%"]
I1["イスラーム 急成長"]
end
subgraph MENA["Middle East-North Africa / 中東-北アフリカ"]
I2["イスラーム 支配的"]
end
subgraph EU["Europe / ヨーロッパ"]
C2["キリスト教 22%"]
S["世俗化進行"]
end
subgraph AM["Americas / 南北アメリカ"]
C3["キリスト教 24%"]
end
主要な分布パターンは以下の通りである。
- キリスト教: 歴史的にヨーロッパ中心であったが、20世紀以降のグローバル・サウスの成長により、サハラ以南アフリカ(31%)がキリスト教徒人口の最大比率を占める
- イスラーム: 中東・北アフリカ、南アジア、東南アジアに広く分布し、2010〜2020年に最も急成長した宗教グループである
- ヒンドゥー教・仏教: アジア太平洋地域に高度に集中。ヒンドゥー教徒の95%がインドに居住する
- 無宗教: 中国が最大の集中地であり、無宗教人口19億人の67%が中国に居住する。オランダ・ウルグアイ・ニュージーランドでは無宗教が人口の過半数を占めるに至った
- 仏教: 2010〜2020年の10年間で唯一信者数が減少(1,900万人減)した主要宗教グループである
21世紀の成長予測¶
Pew Research Centerの2050年予測(2015年公刊)によれば、イスラームが最も急速に成長し、2050年までにキリスト教とほぼ同規模に達すると見込まれる。この成長は主に高い出生率による人口動態的要因に起因する。一方、仏教は高齢化と低出生率の影響で信者数の減少傾向が継続すると予測される。ヨーロッパ・北米・東アジアでは世俗化が進行し、無宗教層の比率が上昇を続けている。
まとめ¶
本セクションの要点¶
- 道教は「道」を根本原理とし、哲学的道家(老荘思想)と制度的宗教としての道教の二層構造をもつ。宗教的道教は不老不死の追求、煉丹術、儀礼体系を特徴とする
- 儒教は宗教か倫理体系かという問いは宗教の定義に依存するが、天命思想と祖先崇拝という宗教的次元を含む包括的文化伝統として理解される
- ゾロアスター教は善悪二元論と終末論を教義の核とし、現在の信者数は少ないが、アブラハムの宗教への思想的影響の面で宗教史上の重要性が極めて高い
- アニミズム・シャーマニズムは制度化された宗教に先行する基底的宗教性であり、世界各地の先住民族の宗教実践に広く見られる
- 2020年時点で世界人口の約75%が何らかの宗教的帰属を有するが、宗教の地理的分布には顕著な偏在があり、21世紀にはイスラームの成長と世俗化の進行が並行して進む
Phase 1 全体の振り返り¶
Phase 1(Module 1-1〜1-3)では、宗教学の基礎的枠組みを以下のように学んだ。
- Module 1-1: 宗教学の学問的方法論(宗教の定義、宗教学の諸アプローチ、宗教現象学・宗教社会学・宗教心理学の基本概念)
- Module 1-2: 宗教の起源と機能に関する理論(原初的一神教論、トーテミズム論、呪術から宗教へ、機能主義的分析)
- Module 1-3: 世界宗教の概観(アブラハムの宗教、南アジア・東南アジアの宗教、東アジアの宗教とその他の宗教伝統)
これにより、個別宗教の各論に進むための基盤が整った。
Phase 2(各論展開)への接続¶
Phase 2では、Phase 1で概観した各宗教について、教義・歴史・社会的機能を掘り下げて学ぶ。Phase 1での概観を前提に、以下の問いを意識しながら各論に取り組むことが有益である。
- 各宗教はどのような歴史的条件のもとで成立・展開したのか
- 教義・実践の内部にどのような多様性(宗派・学派)が存在するのか
- 近現代において各宗教はどのような変容を経験しているのか
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 道 | Dao / Tao | 万物の根源であり宇宙を貫く究極的原理。言語で完全に把捉できないとされる |
| 無為自然 | wuwei ziran | 人為的作為を排し、道の自然な流れに即して生きること |
| 道徳経 | Daodejing | 老子に帰せられる道家の根本経典。81章からなる |
| 煉丹術 | alchemy (Daoist) | 不老不死を目指す道教の修行法。外丹(薬物調合)と内丹(体内修行)に分かれる |
| 仁 | ren | 儒教の最高徳目。他者への思いやり・人間愛 |
| 礼 | li | 社会生活を秩序づける規範・儀礼の総体 |
| 孝 | xiao | 親への敬愛と奉仕。儒教倫理の根幹 |
| 天命 | tianming | 天が人間(とくに為政者)に与える使命。統治の正統性の根拠 |
| アフラ・マズダー | Ahura Mazda | ゾロアスター教の最高神。「知恵ある主」の意 |
| アンラ・マンユ | Angra Mainyu | ゾロアスター教における悪の霊。善なる創造の破壊者 |
| アヴェスター | Avesta | ゾロアスター教の聖典。ガーサーを核とする |
| アニミズム | animism | 人間以外の存在にも霊的な力が宿るとする信念体系 |
| シャーマニズム | shamanism | トランス状態で霊的世界と交信するシャーマンを中心とする宗教的実践 |
| バハーイー教 | Baha'i Faith | 19世紀イランでバハーウッラーが創始。神・宗教・人類の一致を中心教義とする |
| マニ教 | Manichaeism | 3世紀のマニが創始。光と闇の二元論的宇宙論を説き、諸宗教を統合しようとした |
確認問題¶
Q1: 哲学的道家(老荘思想)と制度的宗教としての道教はどのように区別されるか。両者の関係を、成立時期・目的・実践の観点から説明せよ。 A1: 哲学的道家は春秋戦国時代(紀元前6〜3世紀)に老子・荘子らによって展開された思想体系であり、「道」を根本原理として無為自然・万物の相対性などを知的に考究した。目的は認識と生き方の変容にある。これに対し制度的宗教としての道教は後漢末期(2世紀後半)に太平道・五斗米道として成立し、不老不死の追求、煉丹術、符籙・斎醮などの儀礼的実践、道観を拠点とする教団組織を特徴とする。「道」を根本原理とする点で共通するが、前者が知的認識を志向するのに対し、後者は具体的な宗教的救済(不死・神仙への到達)を追求する点で異なる。
Q2: 儒教を「宗教」と見なす立場の主な論拠を二つ挙げ、それぞれについて説明せよ。 A2: 第一に、天命思想が挙げられる。儒教における「天」は道徳的秩序の究極的根拠であり、超越的な意志を有する存在として理解される。為政者の正統性は天命に由来し、個人の使命もまた天によって定められるとされる。これは超越的権威への信仰という宗教的性質を示す。第二に、祖先崇拝が挙げられる。儒教の「孝」は死者に対しても向けられ、宗廟祭祀を通じて祖先の霊を敬い祀る実践は、明確に宗教的な行為である。加地伸行は、この死生観に係わる側面をもって儒教を宗教と定義している。
Q3: ゾロアスター教の終末論がアブラハムの宗教(とくにユダヤ教)に影響を与えたとする仮説の根拠と、それに対する留保をそれぞれ述べよ。 A3: 根拠としては、バビロン捕囚期(紀元前6世紀)にユダヤ人がペルシア帝国の支配下に入り、ゾロアスター教文化圏と直接接触したという歴史的事実がある。捕囚以前のユダヤ教には明確な死後の審判・天使と悪魔の体系・終末における肉体の復活・最後の審判といった概念がほとんど見られないが、捕囚後にこれらがユダヤ教に現れることから、ゾロアスター教からの影響が推定される。留保としては、両宗教の概念は類似しつつも同一ではなく、並行的発展(独立した発生)の可能性も排除できないこと、また直接的な文献的証拠が限られていることから、影響の方向性と程度については学術的に論争が継続している点が挙げられる。
Q4: 「アニミズム」「シャーマニズム」という概念を分析的に使用する際の方法論的問題点を説明せよ。 A4: これらの概念は19世紀の進化主義的宗教学(タイラーやフレイザー)に由来し、非西洋の宗教実践を「原始的」段階として位置づける進化論的図式のもとで生み出された。そのため、第一に、異なる文化圏の多様な宗教実践を一つのラベルのもとに過度に均質化するリスクがある。第二に、先住民族の宗教を「歴史を持たない」「非合理的」なものとして他者化(othering)する傾向を内包する。第三に、ロマン主義的な理想化(「自然と調和した原始人」というステレオタイプ)に陥りやすい。現代の宗教学・人類学では、これらを便宜的な分析概念として使用しつつも、各文化固有の宗教的実践を独自の文脈のなかで理解することが求められる。
Q5: 2020年のPew Research Centerのデータに基づき、世界宗教の地理的分布における特徴的な偏在パターンを三つ挙げ、それぞれの意義を説明せよ。 A5: 第一に、ヒンドゥー教と仏教のアジア太平洋地域への集中(それぞれ99%)が挙げられる。これらはキリスト教・イスラームと異なりグローバルな布教活動を大規模に行わなかったため、発祥地域に集中が維持されたことを示す。第二に、キリスト教の重心移動がある。かつてはヨーロッパ中心であったが、2020年にはサハラ以南アフリカが最大比率(31%)を占め、グローバル・サウスへの重心移動が明確である。これは植民地時代の布教と20世紀のアフリカにおける急速な信者増加を反映する。第三に、無宗教人口の中国への集中(67%)がある。19億人の無宗教人口の約3分の2が中国に居住しており、これは20世紀の共産主義政権による宗教政策の影響が大きい。これらの偏在は、宗教の分布が教義の普遍性のみならず、歴史的・政治的・人口動態的要因によって強く規定されていることを示している。