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Module 2-5 - Section 1: ヴェーダとウパニシャッドの思想

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-5: ヒンドゥー教
前提セクション なし
想定学習時間 5時間

導入

ヒンドゥー教の思想的基盤はヴェーダ(Veda)にある。ヴェーダとはサンスクリット語で「知識」を意味し、紀元前1500年頃から数世紀にわたって編纂された古代インドの宗教文献群の総称である。ヴェーダの宗教(ヴェーダの祭式主義)は、やがてウパニシャッド哲学という内面的・思弁的な方向へと深化し、ブラフマン(宇宙原理)とアートマン(自我原理)の同一性を説く「梵我一如」の思想へと結実した。この思想展開は、後のヒンドゥー教の根幹をなすダルマ(法)、カルマ(業)、輪廻、解脱といった中核概念を生み出す母体となった。

本セクションでは、ヴェーダの神々と祭式の世界、ウパニシャッドにおける哲学的転回、そしてヴェーダ的宗教からヒンドゥー教への移行を跡づける。


ヴェーダの宗教

リグ・ヴェーダの讃歌と神々

Key Concept: リグ・ヴェーダ(Ṛgveda) ヴェーダ文献の中で最古のもので、全10巻・1028篇の讃歌(スークタ / sūkta)から成る。紀元前1200〜前1000年頃に現在の形に編纂されたとされ、神々への賛美と祭式で用いる韻文を集成したものである。

リグ・ヴェーダには多数の神格が登場するが、とりわけ重要な神々は以下のとおりである。

インドラ(Indra) はリグ・ヴェーダで最も多くの讃歌を捧げられた神であり、雷霆と戦闘の神である。悪竜ヴリトラ(Vṛtra)を打ち倒して水を解放した神話は、宇宙的秩序の回復を象徴する。後の仏教では帝釈天として受容された。

アグニ(Agni) は火の神であり、祭式において祭火を司る。アグニは神々と人間を媒介する存在であり、地上で燃える火は天上の神々に供物を運ぶとされた。リグ・ヴェーダの冒頭讃歌はアグニに捧げられている。

ヴァルナ(Varuṇa) は天空・水の神であり、とりわけ宇宙の道徳的秩序であるリタ(ṛta)の守護者として知られる。ヴァルナはリタに違反した者を罰する司法的な神格であり、後のダルマ概念の先駆をなす。

ソーマ(Soma) は祭式で用いられる神聖な飲料であり、同時にその飲料を神格化した存在でもある。ソーマの搾汁と献供は、ヴェーダ祭式の中心的な儀礼の一つであった。

これらの神々に対する讃歌は、自然現象の神格化と祭式における神々の召喚を基調としている。ヴェーダの宗教は一神教ではなく、特定の場面で祭られる神をその時の「最高神」として讃える交替神教(henotheism)の性格を持つ。

リタ:宇宙秩序の原理

Key Concept: リタ(ṛta / 宇宙秩序) ヴェーダにおいて、宇宙の運行を支配する根源的な秩序・法則を指す。季節の循環、天体の運行、道徳的正義のすべてがリタに包括される。神々自身もリタに従う存在とされた。

リタの概念は、ヴェーダの祭式が単なる人間の営みではなく、宇宙秩序の維持に直結するという世界観を支えている。祭式(ヤジュニャ)の正確な執行がリタを維持し、混沌の侵入を防ぐとされた。この概念は後にダルマへと発展する。

祭式主義とバラモンの権威

Key Concept: ヤジュニャ(yajña / 祭式) ヴェーダの宗教における核心的実践であり、火を用いた供物の奉献儀礼を指す。正しい手順・讃歌・供物によって神々に力を与え、宇宙の秩序を維持するとされた。

ヴェーダの宗教において祭式は宇宙論的な意義を持ち、祭式の正確な執行こそが世界の秩序を維持するという観念が支配的であった。この祭式主義の精緻化を記録したのがブラーフマナ文献である。

ブラーフマナ(Brāhmaṇa / 祭儀書)は紀元前800年頃を中心に成立した散文文献であり、各祭式の手順・意味・神学的解釈を詳細に記述する。祭式の正しい執行には専門的知識が不可欠であったため、祭式を司るバラモン(brāhmaṇa / 祭官)階層の社会的権威が確立された。

祭官制度は四つの主要な祭官職から構成される。ホートリ(hotṛ)はリグ・ヴェーダの讃歌を唱え神々を招く。アドヴァリュ(adhvaryu)はヤジュル・ヴェーダに基づき祭式の実務を担う。ウドガートリ(udgātṛ)はサーマ・ヴェーダの旋律を歌唱する。ブラフマン祭官(brahman)は祭式全体を監督し、過誤があれば是正する。この分業は四つのヴェーダの成立と密接に対応している。

ヴェーダの四部構成

ヴェーダは「リグ・ヴェーダ」「サーマ・ヴェーダ」「ヤジュル・ヴェーダ」「アタルヴァ・ヴェーダ」の四種から成るが、それぞれが以下の四層構造をもつ。

graph TD
    V["ヴェーダ四種<br/>リグ / サーマ / ヤジュル / アタルヴァ"]
    V --> S["サンヒター(Saṃhitā / 本集)<br/>讃歌・祭詞・呪詞の集成"]
    V --> B["ブラーフマナ(Brāhmaṇa / 祭儀書)<br/>祭式の手順と神学的解釈"]
    V --> A["アーラニヤカ(Āraṇyaka / 森林書)<br/>祭式の象徴的・内面的解釈"]
    V --> U["ウパニシャッド(Upaniṣad / 奥義書)<br/>哲学的思弁・究極的真理の探究"]

    S -.- |"最古層<br/>前1200-前1000年頃"| note1[ ]
    B -.- |"前800年頃中心"| note2[ ]
    A -.- |"ブラーフマナと<br/>ウパニシャッドの中間"| note3[ ]
    U -.- |"前800-前500年頃<br/>ヴェーダーンタ"| note4[ ]

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    style note2 fill:none,stroke:none
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  1. サンヒター(Saṃhitā / 本集): 讃歌(ṛc)、歌詞(sāman)、祭詞(yajus)、呪詞(atharvan)から成る各ヴェーダの中核テキスト。
  2. ブラーフマナ(Brāhmaṇa / 祭儀書): 祭式の詳細な手順と神話的・神学的解釈を散文で記述する。
  3. アーラニヤカ(Āraṇyaka / 森林書): 「森の中で伝えられる秘教」を意味し、祭式の象徴的・内面的解釈を含む。祭式行為から内的瞑想への過渡的文献。
  4. ウパニシャッド(Upaniṣad / 奥義書): ヴェーダの最終部分を意味する「ヴェーダーンタ(Vedānta)」とも呼ばれ、哲学的思弁の結晶である。

この四層構造は、外面的な祭式行為から内面的な哲学的思索への漸進的深化を示している。


ウパニシャッドの哲学

ウパニシャッドの成立と意義

ウパニシャッド(Upaniṣad)は「近くに座る」を語源とし、師の足元に座って秘密の教えを受けるという状況を反映する。紀元前800年頃から前500年頃にかけて成立した初期ウパニシャッドは、ヴェーダの祭式主義に対する批判的再解釈として、宇宙と自己の究極的本質を問う哲学的探究を展開した。

主要な初期ウパニシャッドは以下のとおりである。

ウパニシャッド名 所属ヴェーダ 主要な教説
ブリハッド・アーラニヤカ(Bṛhadāraṇyaka) ヤジュル・ヴェーダ(白) アートマンの本質、ヤージュニャヴァルキヤの教説
チャーンドーグヤ(Chāndogya) サーマ・ヴェーダ 梵我一如(Tat tvam asi)、存在の根源としてのサット
カタ(Kaṭha) ヤジュル・ヴェーダ(黒) 死後の運命、アートマンの不滅性
ムンダカ(Muṇḍaka) アタルヴァ・ヴェーダ 上知(parā vidyā)と下知(aparā vidyā)の区別
ターイッティリーヤ(Taittirīya) ヤジュル・ヴェーダ(黒) 存在の五つの鞘(パンチャコーシャ)
アイタレーヤ(Aitareya) リグ・ヴェーダ 創造論、意識としてのブラフマン

ブラフマンとアートマン

Key Concept: ブラフマン(Brahman / 宇宙原理) 宇宙の根源的実在・究極的原理を指す中性名詞。一切の現象世界の背後にある不変・無限・無形の実在であり、あらゆるものの発生・維持・消滅の根拠とされる。祭式を司る祭官「ブラフマン(男性名詞)」とは語源を共有するが概念は異なる。

Key Concept: アートマン(Ātman / 自我) 個体の中核にある不変の自己・生命原理を指す。肉体・感覚・思考の背後にあって、それらを支える根源的主体である。ウパニシャッドにおいて、アートマンの正しい認識が解脱への鍵とされた。

ウパニシャッド哲学の中心問題は、宇宙の根源(ブラフマン)と個体の本質(アートマン)の関係である。ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドにおいて聖者ヤージュニャヴァルキヤ(Yājñavalkya)は、アートマンを「見る者を見ることはできない、知る者を知ることはできない」(neti neti / 「これでもない、あれでもない」)として、一切の限定的規定を否定する方法でその本質を示した。

アートマンは身体や心理的機能に還元されない。ターイッティリーヤ・ウパニシャッドはこの点を五蔵説(パンチャコーシャ / pañcakośa)として体系化した。すなわち、食物から成る鞘(アンナマヤ・コーシャ)、気息から成る鞘(プラーナマヤ)、意から成る鞘(マノーマヤ)、認識から成る鞘(ヴィジュニャーナマヤ)、歓喜から成る鞘(アーナンダマヤ)の五層であり、アートマンはこれらすべての鞘の奥に位置する。

梵我一如

Key Concept: 梵我一如(Tat tvam asi / 汝はそれなり) ブラフマン(宇宙原理)とアートマン(個体の自我)が究極的に同一であるという教説。チャーンドーグヤ・ウパニシャッド第6章において、ウッダーラカ・アールニ(Uddālaka Āruṇi)が息子シュヴェータケートゥ(Śvetaketu)に説いた「Tat tvam asi(汝はそれなり)」がその代表的表現である。

この教説は四大格言(マハーヴァーキヤ / mahāvākya)の一つとされ、残りの三つは以下のとおりである。

格言 サンスクリット 出典 意味
汝はそれなり Tat tvam asi チャーンドーグヤ・ウパニシャッド 個体の本質は宇宙原理と同一
我はブラフマンなり Aham brahmāsmi ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド 自己の内なるブラフマンの直覚
この自我はブラフマンなり Ayam ātmā brahma マーンドゥーキヤ・ウパニシャッド アートマンとブラフマンの同一性
意識はブラフマンなり Prajñānam brahma アイタレーヤ・ウパニシャッド ブラフマンの本質は純粋意識

梵我一如の教説において、個体が自己の本質をブラフマンと同一であると「知る(vidyā)」ことが、無知(avidyā)に基づく苦の根源を断つ道とされる。この「知」は単なる知的理解ではなく、直接的な体験的認識(anubhava)を意味する。

輪廻とカルマの教説

Key Concept: カルマ(karma / 業)と輪廻(saṃsāra) カルマは「行為」を原義とし、すべての意志的行為がその結果を生み出すという因果法則を指す。輪廻(サンサーラ)は、カルマの結果として生命が死と再生を繰り返す循環のことである。これらの教説はウパニシャッドにおいて初めて明確に説かれた。

輪廻の思想はヴェーダのサンヒターには見られず、ウパニシャッドにおいて断片的に登場し始めた。ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドの「五火二道説」はその初期的表現である。この教説によれば、死後の存在は二つの道に分かれる。「神の道(devayāna)」をたどる者は太陽を経てブラフマンの世界に至り、再び戻らない。一方「祖霊の道(pitṛyāna)」をたどる者は月を経て再び雨となり地上に戻り、新たな生を受ける。

カルマの法則は、善い行為が善い再生を、悪い行為が悪い再生をもたらすという道徳的因果律として定式化された。ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドではヤージュニャヴァルキヤが「人は善い行為によって善き者となり、悪い行為によって悪しき者となる」と述べている。

モークシャ(解脱)

Key Concept: モークシャ(mokṣa / 解脱) 輪廻の循環から最終的に解放されることを指す。ウパニシャッドにおいては、ブラフマンとアートマンの同一性を体験的に知ること(梵我一如の実現)が解脱の条件とされた。

ウパニシャッドにおける解脱は、カルマの蓄積を停止し、輪廻の連鎖を断ち切ることで実現される。ムンダカ・ウパニシャッドは、世俗的知識(下知 / aparā vidyā)と究極的知識(上知 / parā vidyā)を区別し、後者のみが解脱をもたらすと説く。ここで「上知」とはブラフマンの直接知であり、四つのヴェーダや祭式の知識は「下知」に分類される。

カタ・ウパニシャッドでは、死神ヤマ(Yama)が少年ナチケータス(Naciketas)に対してアートマンの不滅性を説く。アートマンは「殺されることもなく、殺すこともない。生まれることもなく、死ぬこともない」存在であり、この不滅の自己を知ることが死の恐怖と輪廻の超克をもたらすとされた。


ヴェーダからヒンドゥー教へ

祭式の内面化:シュラウタからスマールタへ

ヴェーダ時代の大規模な公的祭式(シュラウタ祭式 / śrauta)は、多数の祭官と膨大な費用を必要とした。ソーマ祭、アグニチャヤナ(火壇の構築)、アシュヴァメーダ(馬祀祭)などがその代表例である。ウパニシャッドの内面化の流れを受け、次第に家庭内で行われる簡素なスマールタ儀礼(smārta / 「伝承に基づく」)が日常的宗教実践の中心となっていった。

この移行は、祭式の執行から個人の内面的修行へという宗教意識の変容を反映している。瞑想(dhyāna)、苦行(tapas)、学問(svādhyāya)が祭式に代わる宗教的実践として重視されるようになった。

ダルマの概念の発展

ヴェーダにおけるリタ(ṛta / 宇宙秩序)の概念は、後のヒンドゥー教においてダルマ(dharma)という概念へと継承・発展した。リタが主として宇宙的・自然的秩序を指すのに対し、ダルマはより広く、社会的義務・道徳的規範・宗教的法を包括する概念となった。

ダルマスートラ・ダルマシャーストラ(法典文献)はダルマを体系的に規定し、ヴァルナ(社会的階層)ごとの義務(ヴァルナダルマ / varṇadharma)と人生の段階ごとの義務(アーシュラマダルマ / āśramadharma)を詳細に定めた。

四住期(アーシュラマ)

ヒンドゥー教は理想的な人生の過程を四つの段階(アーシュラマ / āśrama)に区分した。

住期 サンスクリット 内容
学生期 ブラフマチャルヤ(brahmacarya) 師のもとでヴェーダを学び、禁欲と規律の生活を送る
家住期 グリハスタ(gṛhastha) 結婚し家庭を営み、社会的義務を果たす
林住期 ヴァーナプラスタ(vānaprastha) 世俗的生活から退き、森林で瞑想と修行に従事する
遊行期 サンニヤーサ(saṃnyāsa) 一切の所有を放棄し、遊行者として解脱を追求する

この制度は、社会的責任の遂行と精神的解放の追求を人生の時間軸のなかで両立させようとする試みである。家住期こそが他の三つの住期を経済的に支える基盤であり、世俗と出世間の緊張関係を反映している。

四つの人生目標(プルシャールタ)

ヒンドゥー教は人間の追求すべき目標を四つに整理した。これをプルシャールタ(puruṣārtha / 人の目的)と呼ぶ。

目標 サンスクリット 内容
ダルマ dharma 宗教的・道徳的義務の遂行
アルタ artha 経済的繁栄・政治的成功の追求
カーマ kāma 感覚的快楽・愛欲の享受
モークシャ mokṣa 輪廻からの最終的な解脱

四つの目標は階層的に配列されるが、ダルマが他の三者を規制する上位原理として機能する。すなわち、アルタやカーマの追求はダルマの枠内でのみ正当化される。モークシャは最終的・究極的な目標であるが、日常生活においてはダルマ・アルタ・カーマの三つが人間生活の正当な領域として認められた。この四目標の体系は、現世否定的な出家主義と現世肯定的な在家生活の間の均衡を図るヒンドゥー教の特徴的な枠組みである。


まとめ

  • ヴェーダは四種(リグ・サーマ・ヤジュル・アタルヴァ)から成り、それぞれがサンヒター・ブラーフマナ・アーラニヤカ・ウパニシャッドの四層構造をもつ
  • リグ・ヴェーダの神々(インドラ・アグニ・ヴァルナ等)への讃歌と祭式主義が、ヴェーダの宗教の基軸をなす
  • ウパニシャッドはヴェーダの祭式主義を哲学的に内面化し、ブラフマン(宇宙原理)とアートマン(自我)の同一性(梵我一如)を中心教説として展開した
  • 輪廻(サンサーラ)とカルマの教説はウパニシャッドにおいて初めて体系化され、モークシャ(解脱)がその超克として位置づけられた
  • ヴェーダの宗教は祭式の内面化・ダルマ概念の発展・四住期と四目標の体系化を通じて、ヒンドゥー教の宗教的・社会的枠組みへと発展した
  • 次のセクションでは、これらの思想的基盤のうえに展開する叙事詩文学(マハーバーラタ・ラーマーヤナ)とバガヴァッド・ギーターの教説を扱う

用語集(Glossary)

用語 英語/サンスクリット表記 定義
リグ・ヴェーダ Ṛgveda ヴェーダ文献の最古層で、1028篇の讃歌から成る集成
リタ ṛta ヴェーダにおける宇宙の根源的秩序・法則
ヤジュニャ yajña 火を用いた供物奉献の祭式
サンヒター Saṃhitā ヴェーダの本集(讃歌・祭詞・呪詞の集成)
ブラーフマナ Brāhmaṇa 祭式の手順と神学的解釈を記した祭儀書
アーラニヤカ Āraṇyaka 祭式の象徴的・内面的解釈を含む森林書
ウパニシャッド Upaniṣad 哲学的思弁を展開するヴェーダの奥義書
ブラフマン Brahman 宇宙の根源的実在・究極的原理
アートマン Ātman 個体の中核にある不変の自己・生命原理
梵我一如 Tat tvam asi ブラフマンとアートマンが究極的に同一であるという教説
カルマ karma 意志的行為とその因果的結果の法則
輪廻 saṃsāra カルマに基づく死と再生の循環
モークシャ mokṣa 輪廻からの最終的解放
ダルマ dharma 宗教的・道徳的義務、宇宙秩序の法
アーシュラマ āśrama 人生の四段階(学生期・家住期・林住期・遊行期)
プルシャールタ puruṣārtha 人間の四つの人生目標(ダルマ・アルタ・カーマ・モークシャ)

確認問題

Q1: ヴェーダの四層構造(サンヒター・ブラーフマナ・アーラニヤカ・ウパニシャッド)は、宗教意識のどのような変容を反映しているか。各層の特質に触れながら説明せよ。 A1: 四層構造は、外面的な祭式行為から内面的な哲学的思索への漸進的深化を反映している。サンヒターは神々への讃歌・祭詞を集成した最も外面的・儀礼的な層である。ブラーフマナは祭式の手順と神学的意味を散文で解釈し、祭式主義を理論化した。アーラニヤカは祭式の象徴的・内面的解釈へと移行する過渡的文献である。ウパニシャッドは祭式行為から離れ、宇宙と自己の究極的本質(ブラフマンとアートマン)を直接的に探究する哲学的思弁の層である。

Q2: 梵我一如の教説において「知る」ことが解脱の条件とされるが、この「知」は通常の知的理解とどのように異なるか。チャーンドーグヤ・ウパニシャッドの「Tat tvam asi」の教説に即して論ぜよ。 A2: 梵我一如における「知」は、命題的・概念的な知的理解(「ブラフマンとアートマンは同一であると知る」)ではなく、直接的な体験的認識(anubhava)を意味する。チャーンドーグヤ・ウパニシャッドにおいてウッダーラカ・アールニが息子に「Tat tvam asi(汝はそれなり)」と繰り返し説くのは、自己の奥底にある本質がそのまま宇宙の根源と同一であることを、分析や推論ではなく直覚によって体得させるためである。この体験的知こそが無知(avidyā)を根本的に除去し、カルマの蓄積を断って輪廻からの解脱を実現する。

Q3: リタからダルマへの概念的発展はどのような変容を含んでいるか。ヴェーダの宗教からヒンドゥー教への移行という文脈で説明せよ。 A3: リタは主として宇宙的・自然的秩序を指し、季節の循環や天体の運行といった自然法則と道徳的正義を包括する概念であった。神々自身もリタに従う存在とされた。ダルマへの移行において、この概念はより社会的・規範的な方向へ拡大され、ヴァルナ(社会的階層)ごとの義務、人生段階ごとの義務、個人の道徳的責務を体系的に規定するようになった。すなわち、宇宙論的原理から社会倫理的規範への転換が生じ、ダルマスートラ・ダルマシャーストラによる成文化を通じて、ヒンドゥー教の社会制度の基盤が整えられた。

Q4: ヒンドゥー教のプルシャールタ(四つの人生目標)は、現世肯定と現世否定の間でどのような均衡を図っているか説明せよ。 A4: プルシャールタはダルマ(宗教的・道徳的義務)、アルタ(経済的繁栄)、カーマ(感覚的快楽)、モークシャ(解脱)の四つから成る。アルタとカーマは現世における世俗的欲求の正当な追求を認め、モークシャは輪廻からの究極的な解放を目指す出世間的目標である。この二つの方向性は、ダルマという上位原理によって統合される。アルタやカーマはダルマの枠内でのみ正当化され、またモークシャもダルマの遂行を通じて最終的に達成される。四住期との連動により、人生の前半では社会的責任(家住期でのアルタ・カーマの追求)を果たし、後半では精神的解放(林住期・遊行期でのモークシャの追求)に向かうという時間的配分が提示されている。

Q5: ウパニシャッドにおける「五火二道説」の内容を説明し、それがカルマと輪廻の教説においてどのような意義をもつか論ぜよ。 A5: 五火二道説はブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドに見られる教説であり、死後の存在を二つの道に分ける。「神の道(devayāna)」は太陽を経てブラフマンの世界に至り、再び戻らない道であり、真の知識を得た者が赴く。「祖霊の道(pitṛyāna)」は月を経て再び雨となって地上に戻り、新たな生を受ける道であり、祭式の功徳に依拠する者が辿る。この教説の意義は、単なる祭式の功徳では輪廻の循環を断ち切ることができず、ブラフマンの知識のみが最終的解脱をもたらすという点を明示したことにある。これにより、祭式主義から知識による解脱へという思想転換が裏づけられた。