コンテンツにスキップ

Module 1-2 - Section 1: 感覚の基礎

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-2: 知覚心理学
前提セクション なし
想定学習時間 3時間

導入

知覚心理学は「外界の物理的事象がいかにして心理的経験となるか」を探究する領域である。本セクションでは、その出発点として感覚の基礎を扱う。具体的には、物理的刺激と感覚経験の定量的関係を記述する精神物理学(psychophysics)、観察者の感度と判断基準を分離する信号検出理論(Signal Detection Theory)、そして全感覚系に共通する生理学的・機能的原理を概観する。これらの基礎概念は、Section 2 以降で扱う視覚・聴覚など個別感覚モダリティの理解に不可欠な前提知識である。


精神物理学

精神物理学の成立

Key Concept: 精神物理学(psychophysics) 物理的刺激の特性(強度・周波数など)と、それに対応する心理的経験(感覚量)との定量的関係を研究する学問分野。Gustav Theodor Fechner(1860)により体系化された。

精神物理学は、心理学が哲学から独立して実証科学となる過程において中核的な役割を果たした。物理的世界と心的世界の対応関係を数学的に記述するという発想は、Fechner の主著『精神物理学原論(Elemente der Psychophysik)』(1860)に結実し、以後の実験心理学の方法論的基盤を形成した。

閾値の概念

Key Concept: 絶対閾(absolute threshold) ある刺激が検出される最小の刺激強度。操作的には、被験者が50%の試行で「ある」と報告する刺激値として定義される。

Key Concept: 弁別閾(difference threshold / just noticeable difference: JND) 二つの刺激の差異が弁別される最小の差分。丁度可知差異とも呼ばれる。

絶対閾は感覚系の検出能力の下限を表し、弁別閾は二つの刺激間の差異検出能力を表す。古典的閾値理論では、閾値は固定的な境界として想定されていた。しかし後述する信号検出理論により、この想定は修正を迫られることになる。

Weber の法則

Ernst Heinrich Weber(1834)は、弁別閾が基準となる刺激強度に比例することを発見した。

Key Concept: Weber の法則(Weber's law) 弁別閾 ΔI は基準刺激強度 I に比例する。すなわち ΔI / I = k(定数)。この比率 k を Weber 比(Weber fraction)と呼ぶ。

Weber 比 k は感覚モダリティごとに異なる。例えば重量弁別では k ≈ 0.02(2%の差で弁別可能)、音の強度弁別では k ≈ 0.05、光の強度弁別では k ≈ 0.08 程度である。k が小さいほど、その感覚モダリティの弁別能力が高いことを意味する。Weber の法則は刺激強度の中程度の範囲でよく成立するが、閾値付近や極端に強い刺激域では逸脱が生じる。

Fechner の法則

Gustav Theodor Fechner(1860)は Weber の法則を出発点として、感覚量と刺激強度の全般的関係を導出した。

Key Concept: Fechner の法則(Fechner's law) 感覚量 S は刺激強度 I の対数に比例する。S = k log(I / I₀)。ここで I₀ は絶対閾、k は定数である。

Fechner の論理は次のとおりである。Weber の法則により ΔI / I = c が成立し、1 JND を感覚量の等しい単位と仮定すれば、JND を積分することで S = k log I という対数関数が導かれる。この法則は、刺激強度が増大するにつれて感覚量の増加率が漸減すること(圧縮的特性)を予測する。例えば、照度が10倍になっても明るさの感覚は10倍にはならない。

Stevens のべき法則

Stanley Smith Stevens(1957)は、Fechner の間接的測定法に代えて、被験者に感覚量を直接数値で報告させるマグニチュード推定法(magnitude estimation)を開発した。

Key Concept: Stevens のべき法則(Stevens' power law) 感覚量 S は刺激強度 I のべき乗に比例する。S = k I^n。指数 n は感覚モダリティにより異なる。

指数 n の値は感覚モダリティの特性を反映する。n < 1 のとき感覚量は圧縮的(例: 明るさ n ≈ 0.33、音の大きさ n ≈ 0.67)、n > 1 のとき拡張的(例: 電気刺激による痛み n ≈ 3.5)、n = 1 のとき刺激強度と感覚量が線形関係となる(例: 線分の長さ推定 n ≈ 1.0)。

三法則の比較

graph TD
    W["Weber の法則<br/>ΔI / I = k<br/>弁別閾の記述"] --> F["Fechner の法則<br/>S = k log(I/I₀)<br/>Weber法則 + JND等間隔仮定"]
    W --> S["Stevens のべき法則<br/>S = kIⁿ<br/>直接的感覚量測定"]
    F -.->|"Fechnerは n=1 を<br/>暗黙に仮定"| S
    style W fill:#e8f4fd,stroke:#2196F3
    style F fill:#e8f4fd,stroke:#2196F3
    style S fill:#e8f4fd,stroke:#2196F3
法則 数式 測定法 前提・仮定 適用範囲
Weber ΔI / I = k 弁別閾測定 なし(経験則) 中程度の刺激強度
Fechner S = k log(I/I₀) 間接的(JNDの積み上げ) JND は等しい感覚単位 広い範囲で近似的
Stevens S = kIⁿ 直接的(マグニチュード推定) 被験者は比率尺度で報告可能 モダリティにより精度が異なる

Fechner の法則は Stevens のべき法則において n = 1(すなわち JND の主観的大きさが刺激レベルによらず一定)の特殊ケースと解釈できる。現在では Stevens のべき法則がより一般的な記述として広く受容されているが、Fechner の対数法則も多くの実用的場面(デシベル尺度など)で有用性を保っている。


信号検出理論

古典的閾値理論の限界

古典的閾値理論は、閾値を超える刺激は常に検出され、超えない刺激は検出されないという全か無かのモデルを前提としていた。しかし実験的には、同一の刺激強度に対する反応が試行ごとに変動すること、また被験者の動機づけや期待が検出率に影響することが繰り返し観察されていた。これらの現象は閾値理論の枠組みでは説明困難であった。

信号検出理論の基本構造

Key Concept: 信号検出理論(Signal Detection Theory: SDT) 観察者の感度(刺激を識別する能力)と反応基準(判断の偏り)を分離して測定する理論的枠組み。固定的閾値の存在を仮定せず、内的雑音の確率分布に基づいて検出過程をモデル化する。

信号検出理論では、観察者の内部状態を確率変数として扱う。刺激が存在しない場合でも感覚系には内的雑音(neural noise)が常に存在し、これが雑音分布(noise distribution, N)を形成する。信号が提示された場合には、信号に由来する活動が雑音に重畳され、信号+雑音分布(signal + noise distribution, SN)を形成する。両分布は通常、正規分布として仮定される。

graph LR
    subgraph "信号検出理論の4つの結果"
        direction TB
        A["刺激あり<br/>(Signal)"] --> C["「あり」と回答<br/>→ ヒット(Hit)"]
        A --> D["「なし」と回答<br/>→ ミス(Miss)"]
        B["刺激なし<br/>(Noise)"] --> E["「あり」と回答<br/>→ 虚報(False Alarm)"]
        B --> F["「なし」と回答<br/>→ 正棄却(Correct Rejection)"]
    end
    style C fill:#c8e6c9,stroke:#4CAF50
    style D fill:#ffcdd2,stroke:#F44336
    style E fill:#ffcdd2,stroke:#F44336
    style F fill:#c8e6c9,stroke:#4CAF50

観察者はある内的基準(criterion)を設定し、内的活動がこの基準を超えた場合に「信号あり」と判断する。この枠組みでは、4種類の結果が生じる。

「あり」と回答 「なし」と回答
信号あり ヒット(Hit) ミス(Miss)
信号なし 虚報(False Alarm) 正棄却(Correct Rejection)

感度 d' と反応基準 β

Key Concept: 感度 d'(d-prime) 信号+雑音分布と雑音分布の平均値間の距離を、分布の標準偏差で正規化した値。観察者が信号と雑音をどの程度弁別できるかの指標であり、反応基準に依存しない純粋な感度の尺度である。

d' = z(Hit rate) - z(False Alarm rate)

ここで z はヒット率および虚報率を正規分布の z 値に変換する逆正規変換である。d' = 0 は信号と雑音がまったく弁別できないことを意味し、d' が大きいほど弁別能力が高い。

Key Concept: 反応基準(criterion)β 観察者が「信号あり」と判断するために必要な内的活動の水準。β は信号+雑音分布と雑音分布の確率密度比(likelihood ratio)として定義される。β = 1 で偏りなし、β > 1 で保守的(「なし」と回答しやすい)、β < 1 で自由(「あり」と回答しやすい)。

反応基準 β は、信号の事前確率や誤反応のコストなど、観察者の判断方略によって変動する。例えば、重篤な疾患のスクリーニング検査では、見逃しのコストが高いため観察者(検査者)は自由な基準(低い β)を採用しやすい。

ROC 曲線

Key Concept: ROC 曲線(Receiver Operating Characteristic curve) 反応基準を系統的に変化させた際のヒット率と虚報率の関係をプロットした曲線。曲線が左上に膨らむほど感度が高い。

ROC 曲線上の各点は同一の d' のもとで反応基準 β を変えた結果に対応する。d' が大きいほど曲線は左上方に位置し、完全な弁別(d' → ∞)では左上隅の点(ヒット率 = 1, 虚報率 = 0)に到達する。d' = 0 の場合は対角線(チャンスレベル)となる。ROC 曲線下の面積(AUC: Area Under the Curve)もまた感度の尺度として用いられる。

SDT の応用

信号検出理論は、知覚研究にとどまらず幅広い応用を持つ。臨床医学における診断検査の評価(感度と特異度の分析)、レーダー監視における信号検出、記憶研究における再認記憶の分析(旧項目と新項目の弁別)、さらには機械学習における分類器の性能評価などに広く用いられている。いずれの応用においても、「弁別能力」と「判断基準の偏り」を分離できることが SDT の本質的な利点である。


感覚系の一般原理

感覚受容器と適刺激

Key Concept: 適刺激(adequate stimulus) 各感覚受容器が最も効率的に応答するよう進化的に特殊化されたエネルギーの種類。例えば、光受容器にとっての電磁波(可視光)、蝸牛の有毛細胞にとっての機械振動など。

感覚系は環境中の特定の物理的エネルギーを選択的に受容するよう特殊化されている。視覚系は電磁波(約380-780 nm)、聴覚系は空気振動(約20-20,000 Hz)、体性感覚系は機械的圧力・温度・化学物質を、それぞれ適刺激として受容する。

変換(transduction)

Key Concept: 変換(transduction) 感覚受容器が物理的エネルギーを電気化学的な神経信号(受容器電位・活動電位)に変換する過程。すべての感覚系に共通する根本的な処理段階である。

変換は感覚処理の最初の段階であり、物理的世界と神経的表象を橋渡しする。例えば、網膜の桿体・錐体は光子の吸収により光色素の構造変化を起こし、これが膜電位の変化(過分極)を引き起こす。蝸牛の有毛細胞では、基底膜の振動に伴う不動毛の傾斜がイオンチャネルを機械的に開閉し、脱分極が生じる。

感覚適応

Key Concept: 感覚適応(sensory adaptation) 持続的な刺激に対して感覚系の応答性が時間とともに低下する現象。変化する刺激への感度を相対的に高め、感覚系の動的範囲を効率的に利用する機能を持つ。

感覚適応は神経系の資源を効率的に配分する機構として理解される。一定不変の刺激(衣服の圧力、室内の背景臭など)への応答を減衰させることで、変化する刺激に対する検出感度を維持する。暗順応・明順応は視覚系における適応の典型例であり、暗闘での桿体感度の回復には約30-40分を要する。

受容野

Key Concept: 受容野(receptive field) ある感覚ニューロンが応答する刺激空間上の領域。特に視覚系においては、網膜上の特定の空間的領域に対応する。

受容野の概念は、David Hubel と Torsten Wiesel(1959, 1962)による視覚皮質の研究で精緻化された。網膜神経節細胞や外側膝状体ニューロンは同心円状の中心-周辺拮抗型受容野を持ち、一次視覚野の単純型細胞は特定の方位に選択性を持つ細長い受容野を持つ。感覚処理の階層が上がるにつれて受容野は広がり、より複雑な刺激特徴に選択的に応答するようになる。

感覚符号化とミュラーの特殊神経エネルギー説

Key Concept: 特殊神経エネルギー説(doctrine of specific nerve energies) Johannes Peter Muller(1838)が提唱した学説。感覚の質は刺激の物理的性質ではなく、興奮する神経の種類によって決定されるとする。

graph TD
    S1["光刺激"] --> R1["視神経"]
    S2["機械的圧迫<br/>(眼を押す)"] --> R1
    R1 --> P1["視覚体験<br/>(光の感覚)"]
    S3["音波"] --> R2["聴神経"]
    S4["電気刺激<br/>(聴神経への)"] --> R2
    R2 --> P2["聴覚体験<br/>(音の感覚)"]
    style P1 fill:#fff9c4,stroke:#FFC107
    style P2 fill:#fff9c4,stroke:#FFC107

この学説は、眼球を機械的に圧迫すると光の感覚(眼内閃光)が生じるという日常的観察にも合致する。適刺激でなくとも、特定の神経経路が活性化されれば対応する感覚モダリティの経験が生じる。現代の神経科学では、この原理はラベル付き回線仮説(labeled-line coding)として精緻化され、各感覚モダリティ内での質的差異の符号化にまで拡張されている。例えば味覚では、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味に対応する異なる受容体タイプと神経経路が同定されている。

感覚符号化のもう一つの重要な様式は、集団符号化(population coding)あるいはパターン符号化である。これは、個々のニューロンの活動ではなく、多数のニューロンの活動パターンの違いによって感覚の質が表現されるとする見方であり、嗅覚系における匂い符号化などで支持されている。


まとめ

  • 精神物理学は、Weber の法則(弁別閾の比例関係)、Fechner の法則(対数関数)、Stevens のべき法則(べき関数)を通じて、物理的刺激と感覚量の定量的関係を記述する
  • 信号検出理論は、観察者の感度(d')と反応基準(β)を独立に測定する枠組みを提供し、古典的閾値理論の限界を克服した
  • 全感覚系に共通する原理として、適刺激への特殊化、変換、感覚適応、受容野構造、特殊神経エネルギー説に基づく感覚符号化がある
  • これらの基礎概念は、Section 2(視覚)および Section 3(聴覚)で個別の感覚モダリティの処理機構を学ぶ際の共通基盤となる。特に、精神物理学の法則は視覚・聴覚の閾値特性の理解に、信号検出理論は知覚実験のデータ解析に、感覚系の一般原理は各モダリティの受容器・神経回路の理解にそれぞれ直接接続する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
精神物理学 psychophysics 物理的刺激と心理的感覚経験の定量的関係を研究する分野
絶対閾 absolute threshold 刺激が検出される最小の刺激強度(50%検出を操作的定義とする)
弁別閾 difference threshold / JND 二刺激の差異が弁別可能な最小差分
Weber の法則 Weber's law 弁別閾が基準刺激強度に比例する関係(ΔI/I = k)
Weber 比 Weber fraction Weber の法則における定数 k。感覚モダリティごとに異なる
Fechner の法則 Fechner's law 感覚量が刺激強度の対数関数である関係(S = k log I)
Stevens のべき法則 Stevens' power law 感覚量が刺激強度のべき関数である関係(S = kIⁿ)
マグニチュード推定法 magnitude estimation 感覚量を数値で直接報告させる測定法
信号検出理論 Signal Detection Theory (SDT) 感度と反応基準を分離して測定する理論的枠組み
感度 d' d-prime 信号分布と雑音分布の分離度を示す尺度
反応基準 criterion (β) 観察者が「信号あり」と判断する内的基準
ROC 曲線 Receiver Operating Characteristic curve 基準変動に伴うヒット率と虚報率の関係を示す曲線
適刺激 adequate stimulus 感覚受容器が最も効率的に応答するエネルギーの種類
変換 transduction 物理エネルギーを神経信号に変換する過程
感覚適応 sensory adaptation 持続刺激に対する応答性の時間的低下
受容野 receptive field 感覚ニューロンが応答する刺激空間上の領域
特殊神経エネルギー説 doctrine of specific nerve energies 感覚の質は興奮する神経の種類により決定されるとする学説

確認問題

Q1: Weber の法則、Fechner の法則、Stevens のべき法則の関係を説明せよ。特に、Fechner の法則が Weber の法則からどのように導出されるか、また Stevens の法則において Fechner の法則がどのような特殊ケースに相当するかを述べよ。 A1: Weber の法則(ΔI/I = k)は弁別閾と刺激強度の比例関係を記述する経験則である。Fechner はこれを出発点に、1 JND を感覚量の等しい単位と仮定し、JND を積分することで S = k log(I/I₀) という対数法則を導出した。Stevens のべき法則 S = kIⁿ は直接的な感覚量測定に基づくより一般的な記述であり、Fechner の法則はべき指数 n が暗黙に1を仮定した場合の特殊ケースと解釈できる。実際には n はモダリティにより異なるため、Stevens の法則がより包括的な記述を提供する。

Q2: 信号検出理論において、感度 d' と反応基準 β はそれぞれ何を表し、なぜ両者を分離して測定することが重要なのか。具体的な応用例を一つ挙げて説明せよ。 A2: d' は信号+雑音分布と雑音分布の分離度を示し、観察者の純粋な弁別能力を反映する。β は「信号あり」と判断するための内的基準であり、判断方略や動機づけにより変動する。両者の分離が重要なのは、検出率の変化が感度の変化によるのか判断基準の変化によるのかを区別できるためである。例えば、放射線科医によるがんスクリーニングでは、見逃しを減らすため自由な基準(低い β)が採用されるが、これは虚報率の上昇を伴う。d' と β を分離することで、診断精度の真の向上(d' の増大)と判断基準の調整(β の変化)を区別でき、検査法や訓練プログラムの改善に役立つ。

Q3: 感覚適応の機能的意義を説明し、感覚適応が生じない場合に感覚系にどのような問題が起こりうるか考察せよ。 A3: 感覚適応は持続的な刺激への応答を減衰させることで、感覚系の限られた動的範囲を変化する刺激の検出に効率的に配分する機能を持つ。適応が生じなければ、恒常的な背景刺激(衣服の圧力、室内の背景音や臭いなど)への応答が持続し、新規の・変化する刺激(潜在的に生存に重要な事象)の検出が困難になる。また、ニューロンの発火頻度の上限により、持続的な高い活動は新たな刺激増大に対する応答余地を狭めてしまう。つまり、適応は情報処理の効率性と変化検出の最適化に不可欠な機構である。

Q4: 特殊神経エネルギー説(Muller)とラベル付き回線仮説の関係を述べよ。また、これに対する代替的な符号化様式としてどのようなものがあるか。 A4: 特殊神経エネルギー説は、感覚の質が刺激の物理的性質ではなく興奮する神経の種類によって決定されるとする学説である。ラベル付き回線仮説はこれを精緻化し、感覚モダリティ内の質的差異(例えば味覚における甘味と苦味)も特定の受容体タイプと専用の神経経路によって符号化されるとする。代替的な様式として集団符号化(パターン符号化)がある。これは個々のニューロンの活動ではなく、多数のニューロンの活動パターン全体の違いによって感覚の質を表現する様式であり、嗅覚系のように極めて多様な刺激を符号化する系で支持されている。実際の感覚系では、ラベル付き回線と集団符号化の両方が併用されていると考えられる。

Q5: ある被験者の信号検出実験でヒット率が0.84、虚報率が0.16であった。d' のおおよその値を求め、この被験者の感度について解釈せよ(z(0.84) ≈ 1.0, z(0.16) ≈ -1.0 を用いよ)。 A5: d' = z(Hit rate) - z(False Alarm rate) = z(0.84) - z(0.16) ≈ 1.0 - (-1.0) = 2.0。d' = 2.0 は信号分布と雑音分布が標準偏差2つ分だけ離れていることを意味し、比較的良好な弁別能力を示す。ヒット率と虚報率が対称的であることから、反応基準はほぼ中立(β ≈ 1)であり、保守的でも自由でもない偏りのない判断方略を採用していたと解釈できる。