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Module 1-4 - Section 1: 社会的認知

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-4: 社会心理学
前提セクション なし
想定学習時間 4時間

導入

社会的認知(social cognition)は、人が他者や社会的状況をどのように知覚・解釈・記憶するかを扱う社会心理学の中核領域である。日常生活において、我々は他者の行動を観察し、その背後にある意図や性格を推測し、相手に対する印象を形成している。こうした認知プロセスは自動的かつ迅速に行われるが、同時に体系的なバイアスを含んでいる。

本セクションでは、印象形成、帰属理論、帰属バイアス、スキーマとステレオタイプ、自己成就予言という5つのトピックを取り上げる。これらは社会心理学の他のテーマ(態度変容、偏見、対人関係など)を理解する基盤となる概念群である。


印象形成と暗黙の性格理論

Aschの印象形成実験

他者に対する印象がどのように形成されるかを実験的に研究した先駆者が、Solomon Asch(1946)である。Aschは被験者に架空の人物を記述する形容詞リストを提示し、その人物の印象を報告させた。

Key Concept: 中心特性(central trait) 印象形成において全体的印象を大きく左右する特性。Aschの実験では「温かい(warm)」と「冷たい(cold)」がこれに該当し、他の特性の解釈にも影響を及ぼした。

Aschは「知的な、器用な、勤勉な、温かい、決断力のある、実際的な、慎重な」というリストと、「温かい」を「冷たい」に置き換えたリストを比較した。結果、「温かい」条件の被験者は対象人物をより寛大で社交的と判断したのに対し、「冷たい」条件ではそうした評価が大幅に低下した。一方、「丁寧な」と「鈍い」の置き換えでは印象の差は小さく、これらは周辺特性(peripheral trait)と呼ばれる。

この実験は、印象形成が個々の特性の単純な加算ではなく、中心特性を軸とした全体的なゲシュタルトとして構成されることを示した。

暗黙の性格理論

Key Concept: 暗黙の性格理論(implicit personality theory) 人がもつ「ある特性をもつ人は別の特定の特性ももつだろう」という素朴な信念体系。明示的に教わるものではなく、社会的経験を通じて暗黙的に形成される。

例えば、「温かい人は寛大でもあるだろう」「知的な人は冷静でもあるだろう」といった特性間の共起に関する期待がこれにあたる。暗黙の性格理論は印象形成を効率化するが、実際の共変関係を正確に反映しているとは限らず、ステレオタイプの基盤ともなりうる。

初頭効果と新近効果

印象形成における情報の提示順序も重要な要因である。

Key Concept: 初頭効果(primacy effect) 最初に提示された情報が後続の情報よりも印象形成に大きな影響を及ぼす現象。最初の情報が解釈の枠組みを形成するために生じる。

Asch(1946)は同一の形容詞リストを順序を逆にして提示したところ、肯定的特性が先に来た場合に全体的印象がより好意的になることを見出した。これは、最初の情報がその後の情報を解釈するための枠組み(スキーマ)を提供するためと考えられる。

一方、新近効果(recency effect)は最後に提示された情報が強い影響を及ぼす現象で、注意が最後の情報に向けられる条件や、時間間隔を置いた場合に生じやすい。日常的な印象形成では初頭効果が優勢であることが多い。

ハロー効果

Key Concept: ハロー効果(halo effect) ある次元での好意的(または非好意的)な評価が、無関連の他の次元の評価にまで波及する現象。Edward Thorndike(1920)が命名した。

Edward Thorndike(1920)は軍の上官による部下の評価を分析し、外見的な印象が知性や指導力といった無関連の特性の評定にまで影響することを発見した。ハロー効果は、教育評価、採用面接、日常の対人評価など広範な場面で確認されている。

graph TD
    A["他者に関する情報の入力"] --> B["中心特性の同定"]
    B --> C["暗黙の性格理論の適用"]
    C --> D["全体的印象の形成"]
    A --> E["提示順序の影響"]
    E -->|"初頭効果"| D
    D --> F["ハロー効果による波及"]
    F --> G["各次元での評価"]

帰属理論

帰属(attribution)とは、観察された行動や出来事の原因を推論するプロセスである。なぜその人はそのように振る舞ったのかを説明しようとする日常的な因果推論が帰属の核心である。

Heiderの素朴心理学

Key Concept: 帰属(attribution) 他者や自己の行動の原因を推論する認知プロセス。Fritz Heider(1958)が体系化し、内的帰属(行為者の性格・能力・意図)と外的帰属(状況・環境要因)の区別を提唱した。

Fritz Heider(1958)は、人が日常生活で用いる因果推論を「素朴心理学(naive psychology)」と呼んだ。Heiderによれば、人は行動の原因を大きく2種類に分類する。

  • 内的帰属(internal attribution): 行為者の性格、能力、意図、努力などに原因を帰属する
  • 外的帰属(external attribution): 状況、課題の難易度、他者の影響など環境要因に原因を帰属する

Heiderはまた、人には行動の原因を安定した内的要因に帰属する傾向があることを指摘した。これが後の基本的帰属錯誤の研究につながる。

Kelleyの共変動モデル

Harold Kelley(1967)は、人が帰属を行う際に複数回の観察情報を利用する場合のモデルとして、共変動モデル(covariation model)を提唱した。このモデルでは、3つの情報次元を用いて帰属が決定される。

Key Concept: 共変動モデル(covariation model) 帰属判断において、合意性・弁別性・一貫性の3次元の情報パターンから原因を推論するモデル。Harold Kelley(1967)が提唱した。

情報次元 定義 例(「太郎がこの映画を褒めた」)
合意性(consensus) 他の人も同じ行動をとるか 他の人もこの映画を褒めるか
弁別性(distinctiveness) 行為者は他の対象にも同じ行動をとるか 太郎は他の映画も褒めるか
一貫性(consistency) 行為者は異なる場面・時点でも同じ行動をとるか 太郎は別の機会にもこの映画を褒めるか
graph TD
    subgraph "内的帰属パターン"
        A1["低合意性"] --- R1["太郎の性格・好みに帰属"]
        A2["低弁別性"] --- R1
        A3["高一貫性"] --- R1
    end
    subgraph "外的帰属パターン"
        B1["高合意性"] --- R2["映画の質に帰属"]
        B2["高弁別性"] --- R2
        B3["高一貫性"] --- R2
    end
  • 内的帰属: 低合意性(他の人は褒めない)、低弁別性(太郎は何でも褒める)、高一貫性(太郎はいつもこの映画を褒める) → 太郎の性格に原因がある
  • 外的帰属: 高合意性(みんな褒める)、高弁別性(太郎は他の映画は褒めない)、高一貫性(太郎はいつもこの映画を褒める) → 映画自体が良い

Kelleyのモデルは論理的に整合的であるが、実際には人は3次元すべてを系統的に考慮することは少なく、合意性情報を軽視しやすいという限界が指摘されている。

Weinerの帰属理論

Bernard Weiner(1972, 1985)は、特に達成場面における帰属を体系化し、帰属の3次元を提唱した。

次元 説明
原因の位置(locus) 内的か外的か 能力(内的) vs 課題の難易度(外的)
安定性(stability) 安定的か不安定か 能力(安定) vs 努力(不安定)
統制可能性(controllability) 本人が統制可能か 努力(統制可能) vs 運(統制不能)

Key Concept: Weinerの帰属3次元モデル 原因の位置(内的/外的)、安定性(安定/不安定)、統制可能性(統制可能/不能)の3次元で帰属を分類するモデル。各次元が感情反応や将来の期待に異なる影響を及ぼす。

Weinerの理論の重要な貢献は、帰属と感情・動機づけの関連を明示した点にある。

  • 原因の位置 → 自尊感情に影響(成功を内的に帰属すると自尊感情が高まる)
  • 安定性 → 将来の期待に影響(失敗を安定的原因に帰属すると将来も失敗すると予測する)
  • 統制可能性 → 感情反応に影響(他者の失敗を統制可能な原因に帰属すると怒りを感じ、統制不能に帰属すると同情を感じる)

例えば、試験の失敗を「努力不足」(内的・不安定・統制可能)に帰属する学生は、次回はもっと勉強しようという動機づけが生じやすい。一方、「能力不足」(内的・安定・統制不能)に帰属する学生は、学習性無力感に陥りやすい。


基本的帰属錯誤(対応バイアス)

定義と古典的実験

Key Concept: 基本的帰属錯誤(fundamental attribution error) 他者の行動の原因を推論する際に、状況要因の影響を過小評価し、行為者の内的特性(性格・態度など)の影響を過大評価する傾向。Lee Ross(1977)が命名した。対応バイアス(correspondence bias)とも呼ばれる。

Lee Ross(1977)が命名したこの傾向を実証した代表的研究が、Edward Jones & Victor Harris(1967)のエッセイ実験である。実験では、参加者にキューバのカストロ政権を支持または批判するエッセイを読ませた。重要な操作として、一方の条件ではエッセイの立場が筆者の自由選択であると伝え、他方では実験者によって立場が指定されたと伝えた。

結果、自由選択条件では当然ながら、エッセイの内容が筆者の態度を反映していると判断された。しかし驚くべきことに、立場が指定された条件であっても、参加者はエッセイの内容が筆者の本当の態度を反映していると判断する傾向を示した。つまり、行動が外的に強制されたという明白な状況情報が存在するにもかかわらず、行為者の内的態度に帰属したのである。

行為者-観察者バイアス

Key Concept: 行為者-観察者バイアス(actor-observer bias) 自分の行動は状況要因に帰属しやすい一方、他者の行動は内的特性に帰属しやすいという非対称性。Jones & Nisbett(1972)が提唱した。

Edward Jones & Richard Nisbett(1972)は、同じ行動でも自分が行為者である場合と他者を観察する場合とで帰属パターンが異なることを指摘した。この非対称性は、注意の焦点の違い(観察者は行為者に注意が向くが、行為者は環境に注意が向く)と情報の非対称性(行為者は自分の行動の変動性を知っている)で説明される。

ただし、このバイアスの頑健性については後の研究で議論がある。Malle(2006)のメタ分析は、行為者-観察者バイアスは当初主張されたほど一般的ではなく、特定条件下でのみ生じる可能性を示唆している。

自己奉仕バイアス

Key Concept: 自己奉仕バイアス(self-serving bias) 成功を内的要因(能力・努力)に帰属し、失敗を外的要因(運・課題の難易度)に帰属する傾向。自尊感情の維持・向上という動機づけ的要因が関与する。

このバイアスは、認知的要因(成功は期待通りであり自分に帰属しやすい)と動機づけ的要因(自尊感情を守りたい)の両方から説明される。スポーツ選手が勝利を「チームの実力」に、敗北を「審判の判定」に帰属するのは典型例である。

文化差

基本的帰属錯誤の「基本的」という修飾語は、その普遍性を暗示するが、この前提は文化心理学の知見から問い直されている。

Joan Miller(1984)は、インドのヒンドゥー文化圏の参加者とアメリカの参加者を比較し、アメリカ人は行動を内的特性に帰属する傾向が強いのに対し、インド人は状況要因への帰属が多いことを示した。さらにこの差は年齢とともに拡大し、文化的社会化の影響を示唆した。

増田・Nisbett(2001)の研究では、日本人参加者はアメリカ人参加者と比較して、背景(状況的文脈)への注意が大きく、行動の帰属においても状況要因を考慮しやすいことが示された。

こうした知見から、基本的帰属錯誤は西洋の個人主義文化に特徴的な傾向であり、東アジアなどの集団主義文化では弱まるとする見解が広く受け入れられている。ただし、東アジアでも内的帰属が完全に生じないわけではなく、文化差は「程度の違い」として理解すべきである。

graph LR
    subgraph "帰属バイアス群"
        FAE["基本的帰属錯誤"]
        AOB["行為者-観察者バイアス"]
        SSB["自己奉仕バイアス"]
    end
    FAE -->|"他者の行動で顕著"| INT["内的帰属への偏り"]
    AOB -->|"他者観察時"| INT
    AOB -->|"自己の行動時"| EXT["外的帰属への偏り"]
    SSB -->|"成功時"| INT
    SSB -->|"失敗時"| EXT
    CUL["文化要因"] -->|"個人主義文化で増強"| FAE
    CUL -->|"集団主義文化で減弱"| FAE

スキーマとステレオタイプ

スキーマの種類と機能

Key Concept: スキーマ(schema) 特定の対象・概念・状況に関する組織化された知識構造。新しい情報の符号化、解釈、記憶の枠組みとして機能する。

スキーマは認知心理学に由来する概念であり、社会的認知の文脈では以下の種類が区別される。

スキーマの種類 定義
人物スキーマ(person schema) 特定の人物についての知識構造 「友人のAは几帳面で時間に正確」
役割スキーマ(role schema) 特定の社会的役割の担い手に期待される行動 「教授は知識が豊富で権威的」
事象スキーマ/スクリプト(event schema / script) 特定の状況で生じる一連の行動の典型的パターン 「レストランでの食事の流れ」
自己スキーマ(self-schema) 自分自身に関する組織化された知識構造 「私は外向的で社交的」

スキーマの主要な機能は情報処理の効率化である。膨大な社会的情報を処理するにあたり、スキーマに合致する情報は迅速に処理され、スキーマに基づいた推論や補完が可能となる。例えば、「レストラン・スクリプト」があるからこそ、初めての店でも着席から注文、食事、会計までの流れを円滑に遂行できる。

しかし、スキーマには重要な問題点もある。スキーマに一致する情報が優先的に注意・記憶される一方、不一致な情報は無視・歪曲されやすい。これは確証バイアス(confirmation bias)と結びつく。一度形成されたスキーマは、それを反証する情報があっても容易には修正されない。

ステレオタイプ

Key Concept: ステレオタイプ(stereotype) 特定の社会集団のメンバーが共通して持つと信じられている特性に関する一般化された信念。認知的にはカテゴリーに結びついたスキーマの一種である。

ステレオタイプは、社会的カテゴリー(性別、人種、年齢、職業など)に対する役割スキーマの一形態として位置づけられる。Walter Lippmann(1922)が「頭の中の映像(pictures in our heads)」と表現したこの概念は、以下のメカニズムで形成・維持される。

形成のメカニズム: - カテゴリー化(categorization): 複雑な社会的世界を単純化するために、人を集団に分類する - 外集団同質性効果(outgroup homogeneity effect): 自分が属さない集団のメンバーを「みな同じ」と知覚する傾向 - 錯誤相関(illusory correlation): 実際には相関がないのに、目立つカテゴリーと目立つ行動の共起を過大に知覚する

維持のメカニズム: - 確証バイアス: ステレオタイプに一致する情報を選択的に注目・記憶する - サブタイピング(subtyping): ステレオタイプに合致しない事例に出会うと、「例外」として別カテゴリーに分類し、全体のステレオタイプは変更しない - 自己成就予言: ステレオタイプに基づく期待が相手の行動を誘導し、結果としてステレオタイプを「確認」してしまう(次トピックで詳述)

ステレオタイプは偏見(prejudice: 特定集団への否定的態度)や差別(discrimination: 特定集団への不当な行動)の認知的基盤となる(→ Module 1-4, Section 5「対人関係と集団過程」参照)。


自己成就予言

Key Concept: 自己成就予言(self-fulfilling prophecy) ある状況に対する最初の(しばしば誤った)期待や信念が、その期待に一致する行動を引き起こし、結果として当初の期待が「正しかった」かのように実現される現象。Robert K. Merton(1948)が概念化した。

ピグマリオン効果

自己成就予言の最も有名な実証研究が、Robert Rosenthal & Lenore Jacobson(1968)による「ピグマリオン効果」実験である。

Rosenthalらは、小学校の教師に対して、知能テストの結果に基づき「今後知的に伸びる可能性が高い」児童のリストを提示した。実際にはこのリストはランダムに作成されたものであり、知能テストの結果とは無関係であった。

8か月後に再度知能テストを実施したところ、リストに含まれていた児童は対照群と比較して有意にIQが上昇していた。とりわけ低学年の児童で効果が大きかった。

メカニズム

Rosenthalは、期待が結果に影響を及ぼすメカニズムとして以下の4要因を挙げた。

  1. 気候(climate): 期待の高い生徒に対して、より温かく支持的な社会的・感情的雰囲気を作る
  2. 入力(input): より多くの学習内容を提供し、より難しい課題を与える
  3. 出力(output): 発言の機会を多く与え、応答を待つ時間を長くする
  4. フィードバック(feedback): より詳細で肯定的なフィードバックを提供する
graph TD
    A["期待の形成"] --> B["差異的行動"]
    B --> C1["温かい態度"]
    B --> C2["多い学習機会"]
    B --> C3["多い発言機会"]
    B --> C4["詳細なフィードバック"]
    C1 --> D["対象者の行動変化"]
    C2 --> D
    C3 --> D
    C4 --> D
    D --> E["期待の確認"]
    E -->|"ループ"| A

教育・職場・対人関係への影響

自己成就予言は教育場面に限定されない。

  • 職場: 管理者が特定の部下に高い期待を持つと、より挑戦的な業務を割り当て、支援を行い、結果として当該部下のパフォーマンスが実際に向上する
  • 対人関係: 相手が自分を嫌っていると信じると、自分の行動が防衛的・敵対的になり、相手の否定的反応を誘発することで、当初の信念が「確認」される
  • ステレオタイプの維持: 特定集団に対するステレオタイプに基づく期待が、その集団のメンバーに対する行動に影響し、期待に一致するパフォーマンスを引き出す

Mark Snyder, Elizabeth Tanke, & Ellen Berscheid(1977)の電話会話実験も示唆的である。男性参加者に女性の写真(実際には無関係)を見せ、魅力的な写真を見た男性は相手の女性に対してより温かく社交的に振る舞い、それに応じて女性も実際により温かく社交的な応答を返した。期待が相互作用を通じて現実を構成する過程が明確に示された研究である。

ただし、自己成就予言は不可避ではない。期待の対象者が期待に気づいた場合や、期待に反する動機づけが強い場合には、予言の不確認(disconfirmation)も生じうる。


まとめ

  • 印象形成は、中心特性・暗黙の性格理論・提示順序効果・ハロー効果など、多様な要因によって体系的に影響される
  • 帰属理論は、Heiderの内的/外的帰属の区別、Kelleyの共変動モデル、Weinerの3次元モデルとして発展し、因果推論のプロセスを明らかにしてきた
  • 基本的帰属錯誤、行為者-観察者バイアス、自己奉仕バイアスなどの帰属バイアスは、日常的な社会的判断に浸透しているが、文化によりその程度が異なる
  • スキーマとステレオタイプは情報処理を効率化するが、確証バイアスやサブタイピングにより変化しにくく、偏見の認知的基盤となる
  • 自己成就予言は期待が行動を通じて現実を構成するメカニズムであり、教育・組織・対人場面で広範に作用する

本セクションで取り上げた社会的認知の枠組みは、次のSection 2「自己と社会的アイデンティティ」で扱う自己概念・自己認知にも適用される。自己もまた社会的認知の対象であり、自己スキーマや自己に対する帰属は本セクションの概念の延長線上にある。また、Section 3「態度と態度変容」で扱う認知的不協和理論や説得のプロセスは、本セクションで学んだスキーマ理論や帰属理論と密接に関連する。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
社会的認知 social cognition 他者や社会的状況の知覚・解釈・記憶に関する認知プロセスの総称
中心特性 central trait 印象形成において全体的印象を大きく左右する特性
周辺特性 peripheral trait 印象形成への影響が限定的な特性
暗黙の性格理論 implicit personality theory 特性間の共起に関する素朴な信念体系
初頭効果 primacy effect 最初に提示された情報が印象形成に大きく影響する現象
新近効果 recency effect 最後に提示された情報が印象形成に大きく影響する現象
ハロー効果 halo effect ある次元での評価が無関連な他次元の評価に波及する現象
帰属 attribution 行動の原因を推論する認知プロセス
内的帰属 internal attribution 行動の原因を行為者の性格・能力・意図に帰する帰属
外的帰属 external attribution 行動の原因を状況・環境要因に帰する帰属
共変動モデル covariation model 合意性・弁別性・一貫性の3次元で帰属を決定するモデル
基本的帰属錯誤 fundamental attribution error 他者の行動において内的要因を過大評価し状況要因を過小評価する傾向
対応バイアス correspondence bias 基本的帰属錯誤の別称
行為者-観察者バイアス actor-observer bias 自己と他者で帰属パターンが非対称になる傾向
自己奉仕バイアス self-serving bias 成功を内的に、失敗を外的に帰属する傾向
スキーマ schema 特定対象に関する組織化された知識構造
スクリプト script 特定状況での典型的行動系列に関するスキーマ
ステレオタイプ stereotype 特定社会集団に対する一般化された信念
外集団同質性効果 outgroup homogeneity effect 外集団メンバーを同質的に知覚する傾向
錯誤相関 illusory correlation 実際にはない相関を知覚する傾向
確証バイアス confirmation bias 既存の信念に一致する情報を選択的に注目・記憶する傾向
サブタイピング subtyping ステレオタイプ不一致事例を例外として処理する方略
自己成就予言 self-fulfilling prophecy 期待が行動を通じて実現する現象
ピグマリオン効果 Pygmalion effect 教師の期待が生徒の成績を向上させる自己成就予言の一形態

確認問題

Q1: Aschの印象形成実験において「温かい-冷たい」が中心特性として機能したのはなぜか。暗黙の性格理論との関連で説明せよ。

A1: 「温かい-冷たい」は対人関係における重要な評価次元であり、暗黙の性格理論において多くの他の特性(寛大さ、社交性、ユーモアなど)との強い連合を持つ。そのため、この特性が変わると暗黙の性格理論を介して他の多数の特性の推論が連鎖的に変化し、全体的印象を大きく左右する。一方「丁寧な-鈍い」は他特性との連合が弱い周辺特性であり、全体的印象への波及が限定的であった。

Q2: Kelleyの共変動モデルにおいて「ある学生がこの授業でだけ居眠りする(高弁別性)」「他の学生もこの授業で居眠りする(高合意性)」「この学生はいつもこの授業で居眠りする(高一貫性)」という情報パターンが得られた場合、帰属はどのようになるか。理由とともに述べよ。

A2: 外的帰属(この授業に原因がある)がなされる。高合意性は行動が行為者固有ではないことを、高弁別性は行動が特定の対象に限定されていることを、高一貫性は行動が偶発的でないことを示す。3次元すべてが外的帰属パターン(高合意性・高弁別性・高一貫性)に合致するため、行為者の性格ではなく授業の特性(退屈さ、時間帯など)に帰属される。

Q3: 基本的帰属錯誤が西洋文化で顕著に見られる一方、東アジア文化では弱まるとされる理由を、文化心理学の知見に基づいて論じよ。

A3: 西洋の個人主義文化では個人の自律性や内的属性(性格・意志)が行動の主要因として重視されるのに対し、東アジアの集団主義文化では関係性や状況的文脈の役割が強調される。増田・Nisbettの研究が示すように、東アジアの人々は視覚的場面でも背景(文脈)により注意を向ける傾向がある。こうした認知スタイルの違い(分析的思考 vs 包括的思考)が、帰属における状況要因の考慮の程度に影響する。ただし、これは程度の違いであり、東アジア文化でも内的帰属が生じないわけではない。

Q4: 自己成就予言のメカニズムを、Rosenthalのピグマリオン効果実験を例にとって、期待の形成から結果の実現まで段階的に説明せよ。

A4: (1) 教師が「この児童は知的に伸びる」という期待を形成する。(2) 期待に基づき、教師の行動が変化する。具体的には、温かい態度(気候)、難しい課題の提供(入力)、発言機会の増加(出力)、詳細なフィードバック(フィードバック)が増える。(3) これらの差異的行動が児童の学習環境を実質的に豊かにし、児童の動機づけや自信を高める。(4) 結果として児童のパフォーマンスが実際に向上する。(5) 向上した成績が教師の当初の期待を「確認」し、さらなる期待の強化につながるループが形成される。

Q5: スキーマが確証バイアスを通じてステレオタイプを維持するメカニズムと、サブタイピングの役割について説明せよ。

A5: スキーマは情報処理のフィルターとして機能し、スキーマに一致する情報は選択的に注目・符号化・記憶される(確証バイアス)。例えば「高齢者は忘れっぽい」というステレオタイプを持つ人は、高齢者が物を忘れる場面を選択的に記憶し、記憶力が良い場面は見過ごしやすい。さらに、ステレオタイプに明確に反する事例(記憶力抜群の高齢者)に遭遇した場合、その人物を「例外的な高齢者」としてサブカテゴリーに分類し(サブタイピング)、高齢者全体に関するステレオタイプは修正しない。このように確証バイアスとサブタイピングが相補的に作用することで、反証情報が存在してもステレオタイプは維持される。