Module 1-4 - Section 3: 態度と態度変容¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-4: 社会心理学 |
| 前提セクション | Section 1(社会的認知) |
| 想定学習時間 | 4時間 |
導入¶
Section 1(社会的認知)では、人が他者や社会的事象をどのように知覚・解釈するか、その際に働くスキーマや帰属過程について学んだ。本セクションでは、そうした認知プロセスの結果として形成される「態度」に焦点を当てる。態度は社会的認知の産物であると同時に、後続の認知・行動を方向づける枠組みとして機能する。
態度(attitude)は社会心理学において最も古くから研究されてきた概念の一つであり、Gordon Allport(1935)はこれを「社会心理学において最も不可欠で独自の概念」と位置づけた。態度がどのように構造化され、なぜ変容し、行動とどのように結びつくのかという問いは、社会心理学の理論的発展を牽引してきた中核的テーマである。
本セクションでは、態度の構造、認知的不協和理論に基づく態度変容のメカニズム、説得の二過程モデル、そして態度と行動の関係に関する理論的展開を取り上げる。
態度の構造¶
態度の定義¶
Key Concept: 態度(attitude) ある対象(人、物、出来事、観念など)に対する持続的な評価的傾向。好意的か非好意的かという方向性と、その強さの両面をもつ。
態度は単なる意見や信念とは区別される。意見(opinion)が特定の命題に対する認知的判断であるのに対し、態度はより包括的な評価的構えであり、認知・感情・行動の各側面を含む複合的な心理的構成体である。
3成分モデル(ABC model)¶
態度の内部構造を記述する代表的なモデルが、3成分モデル(tricomponent model / ABC model)である。
Key Concept: 3成分モデル(ABC model) 態度が感情(Affect)、行動(Behavior)、認知(Cognition)の3成分から構成されるとするモデル。各成分は必ずしも一貫しているとは限らない。
- 感情成分(Affect): 対象に対する情動的・感情的反応。「好き」「嫌い」「不安」「喜び」などの主観的感覚。
- 行動成分(Behavior): 対象に対する行動傾向や過去の行動。接近・回避、支持・反対などの行動的側面。
- 認知成分(Cognition): 対象に関する信念・知識・思考。「Xは有害である」「Yは効率的である」などの命題的知識。
3成分は多くの場合整合的であるが、常にそうであるとは限らない。例えば、喫煙者が「喫煙は有害である」という認知をもちながら(認知)、喫煙行為を続け(行動)、喫煙に対して肯定的感情をもつ(感情)場合、3成分間に不整合が生じている。こうした不整合は後述する認知的不協和の源泉となる。
graph TD
A["態度(Attitude)"] --> B["感情成分(Affect)"]
A --> C["行動成分(Behavior)"]
A --> D["認知成分(Cognition)"]
B --> E["好き/嫌いの感情的反応"]
C --> F["接近/回避の行動傾向"]
D --> G["対象に関する信念・知識"]
明示的態度と暗黙的態度¶
態度研究の重要な展開の一つが、明示的態度(explicit attitude)と暗黙的態度(implicit attitude)の区別である。
Key Concept: 暗黙的態度(implicit attitude) 内省によって直接アクセスできない、自動的に活性化される評価的傾向。意識的に報告される態度(明示的態度)とは乖離する場合がある。
明示的態度は質問紙などの自己報告によって測定される。しかし、社会的望ましさバイアス(social desirability bias)の影響により、特に偏見や差別に関連する態度では正確な測定が困難な場合がある。
Anthony Greenwald らが開発した暗黙連合テスト(Implicit Association Test: IAT)(1998)は、暗黙的態度を測定する代表的手法である。IATは、概念と評価語のペアに対する反応時間の差異から、自動的な連合の強さを推定する。例えば、「白人の顔+肯定語」と「黒人の顔+否定語」のペアへの反応が、逆のペアよりも速い場合、人種に関する暗黙的偏見の存在が示唆される。
IATの妥当性と予測力については議論が続いているが、明示的態度と暗黙的態度が乖離しうるという知見は、態度の多層的な性質を理解する上で重要な示唆を与えている。
認知的不協和理論¶
Festingerの理論¶
Key Concept: 認知的不協和(cognitive dissonance) 二つ以上の認知要素(信念、態度、行動の自覚など)が互いに矛盾する関係にあるとき生じる、心理的な不快状態。この不快感が態度変容や行動変容の動機づけとなる。
Leon Festinger(1957)が提唱した認知的不協和理論は、態度変容の最も影響力のある理論の一つである。理論の核心は次の命題にある。人は自己の認知要素間に一貫性を求める動機をもち、不一貫(不協和)が生じるとそれを低減しようとする。
不協和の低減方略¶
不協和を低減するために、個人は主に以下の方略を用いる。
- 態度変容: 矛盾する態度の一方を変える(例: 「喫煙はそれほど有害ではない」と態度を変容させる)。
- 行動変容: 矛盾を生じさせている行動を変える(例: 禁煙する)。
- 認知の追加・正当化: 不協和を緩和する新たな認知を加える(例: 「喫煙はストレス解消に必要だ」という正当化を加える)。
- 認知の重要性の低減: 矛盾する認知要素の重要性を低く見積もる(例: 「健康より人生の楽しさの方が大事だ」)。
一般に、変更が困難な要素(既に行った行動など)は維持され、変更が容易な要素(態度や信念)が変容する傾向がある。
graph TD
A["不協和の発生"] --> B["心理的不快感"]
B --> C{"低減方略の選択"}
C --> D["態度変容"]
C --> E["行動変容"]
C --> F["認知の追加・正当化"]
C --> G["重要性の低減"]
D --> H["協和状態の回復"]
E --> H
F --> H
G --> H
強制的承諾パラダイム¶
認知的不協和理論の最も有名な実証が、Festinger & Carlsmith(1959)の強制的承諾実験(forced compliance paradigm)である。
被験者はまず極めて退屈な作業(糸巻きの回転など)を1時間行った。その後、次の被験者に「作業は面白かった」と伝えるよう依頼され、報酬として1ドルまたは20ドルが支払われた。その後、作業の面白さを評価させたところ、直観に反する結果が得られた。
- 20ドル条件: 作業を依然として退屈と評価した。
- 1ドル条件: 作業をより面白かったと評価した。
Key Concept: 不十分正当化効果(insufficient justification effect) 反態度的行動に対する外的な正当化が不十分なとき、行動を内的に正当化するために態度が変容する現象。外的報酬が小さいほど、内的な態度変容が大きくなる。
20ドル条件では「金のためにやった」という十分な外的正当化が存在するため、不協和は生じにくい。しかし1ドル条件では、わずかな報酬では嘘をついた行動を正当化できず、「実際に面白かったのだ」と態度を変容させることで不協和を低減したと解釈される。
自由選択パラダイム¶
Brehm(1956)は、二つの選択肢から一方を選んだ後に態度がどのように変化するかを検討した。被験者は同程度に魅力的な二つの製品のうち一方を選択した後、選んだ製品の評価を高め、選ばなかった製品の評価を低下させる傾向を示した。これは、選択後に生じる不協和(「選んだ製品の欠点」「選ばなかった製品の長所」の認知)を低減するための態度変容である。この現象は決定後不協和(post-decisional dissonance)として知られる。
自己知覚理論との論争¶
Daryl Bem(1967, 1972)は、認知的不協和理論に対する代替説明として自己知覚理論(self-perception theory)を提唱した。Bemによれば、人は自分の内的状態が曖昧なとき、外部の観察者と同様に自己の行動とその状況手がかりから態度を推論する。1ドル実験の結果は、不協和の低減ではなく、「わずかな報酬で面白いと言ったのだから、実際に面白かったのだろう」という自己の行動からの推論で説明できるとした。
両理論の差異は、不快感(不協和の覚醒)が態度変容を媒介するか否かにある。その後の研究(Zanna & Cooper, 1974など)は、反態度的行動後に生理的覚醒が生じることを示し、少なくとも態度と行動の不一致が大きい場合には不協和の覚醒が関与することを支持した。現在では、態度と行動の不一致が大きい場合には不協和理論が、不一致が小さくまたは態度が曖昧な場合には自己知覚理論がそれぞれ適用可能であるという統合的見解が広く受け入れられている。
精緻化見込みモデル¶
二過程モデルとしてのELM¶
Key Concept: 精緻化見込みモデル(Elaboration Likelihood Model: ELM) Richard Petty & John Cacioppo(1986)が提唱した説得の二過程モデル。メッセージの処理において、中心ルート(論拠の質に基づく精緻な処理)と周辺ルート(手がかりに基づく簡便な処理)の二つの経路を仮定する。
ELMは、説得によってどのように態度が形成・変容するかを説明する包括的なモデルである。このモデルの中核的な主張は、態度変容に至る認知的処理には質的に異なる二つのルートが存在し、いずれのルートが採用されるかは「精緻化見込み(elaboration likelihood)」の水準によって決まるというものである。
中心ルートと周辺ルート¶
中心ルート(central route) では、受け手がメッセージの論拠を注意深く吟味し、その質に基づいて態度を形成する。論拠の強さ、証拠の妥当性、論理の整合性が態度変容の決定因となる。中心ルートを経た態度変容は、持続的であり、行動との一貫性が高く、反論に対する抵抗力が強い。
周辺ルート(peripheral route) では、受け手はメッセージ内容を精緻に処理せず、周辺的手がかり(source cues)に基づいて態度を形成する。送り手の魅力や専門性、論拠の数(質ではなく)、聴衆の反応などが態度変容に影響する。周辺ルートを経た態度変容は、一時的で、行動との一貫性が低く、反論によって容易に覆される。
精緻化の規定因¶
精緻化の水準を決定する主な要因は二つある。
- 動機づけ(motivation): 問題の個人的関連性が高いほど精緻化の動機が高まる。自分自身に直接関わるメッセージは中心ルートで処理されやすい。
- 能力(ability): メッセージを理解・評価するための認知的資源と知識が利用可能であるほど精緻化が可能になる。注意の妨害、時間的圧力、知識の欠如は精緻化を阻害する。
動機づけと能力の両方が高い場合に中心ルートが、いずれかが低い場合に周辺ルートが採用される。
graph TD
A["説得メッセージ"] --> B{"精緻化の動機づけ"}
B -->|高い| C{"精緻化の能力"}
B -->|低い| F["周辺ルート"]
C -->|高い| D["中心ルート"]
C -->|低い| F
D --> E["持続的な態度変容"]
F --> G["一時的な態度変容"]
ヒューリスティック-体系的モデルとの比較¶
Shelly Chaiken(1980, 1987)は、ELMと並行して、ヒューリスティック-体系的モデル(Heuristic-Systematic Model: HSM)を提唱した。HSMも二過程モデルであり、体系的処理(systematic processing)とヒューリスティック処理(heuristic processing)を区別する点でELMと類似する。
ただし、両モデルには重要な相違点がある。ELMでは中心ルートと周辺ルートを連続体の両端に位置づけ、一方が優勢になると他方は後退するという排他的関係を想定する。一方、HSMではヒューリスティック処理と体系的処理が同時に生じうる(共起仮説; co-occurrence hypothesis)と主張する。また、HSMはヒューリスティック処理において用いられる具体的な認知的規則(「専門家の意見は正しい」「多数意見は正しい」等)をより明示的にモデル化している。
両モデルは相互補完的であり、説得過程における二重過程の存在という基本的知見を共有している。
態度と行動の関係¶
LaPiereのパラドクス¶
態度が行動を予測するという直観的仮定は、早くから経験的に疑問視されてきた。Richard LaPiere(1934)は、中国人カップルとともに米国内のホテルやレストラン250以上を訪問し、実際に拒否されたのは1件のみであった。しかし、後日それらの施設に「中国人客を受け入れるか」と手紙で問い合わせたところ、回答した施設の約90%が「受け入れない」と回答した。
この結果は、表明された態度と実際の行動が著しく乖離しうることを示し、「態度は行動を予測しない」という主張の根拠として長く引用されてきた。ただし、この研究には方法論的限界(質問紙の回答者と実際の対応者が同一人物とは限らない等)がある点は留意すべきである。
合理的行為理論と計画的行動理論¶
態度と行動の関係を精緻化した理論的枠組みとして、Martin Fishbein & Icek Ajzen(1975)の合理的行為理論(Theory of Reasoned Action: TRA)、およびその拡張であるAjzen(1991)の計画的行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)がある。
Key Concept: 計画的行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB) 行動の直接的な規定因は行動意図であり、行動意図は (1) 行動に対する態度、(2) 主観的規範、(3) 知覚された行動統制感の3要因によって決定されるとする理論。
- 行動に対する態度(attitude toward the behavior): 特定の行動を行うことに対する肯定的・否定的評価。対象への一般的態度ではなく、具体的な行動への態度であることが重要である。
- 主観的規範(subjective norm): 重要な他者がその行動を期待・承認していると知覚される程度。社会的圧力の認知。
- 知覚された行動統制感(perceived behavioral control): その行動を実行することの容易さ・困難さに関する個人の知覚。Banduraの自己効力感(self-efficacy)と概念的に近い。
TRAからTPBへの拡張の要点は、知覚された行動統制感の追加にある。人が行動意図をもっていても、行動の実行が困難であると知覚している場合、実際の行動遂行は抑制される。TPBは喫煙、運動、食生活改善、環境配慮行動など多様な行動領域で実証的支持を得ており、健康心理学や消費者行動研究において広く応用されている。
graph LR
A["行動に対する態度"] --> D["行動意図"]
B["主観的規範"] --> D
C["知覚された行動統制感"] --> D
C --> E["行動"]
D --> E
態度の強度と行動予測¶
態度と行動の一致度は、態度の性質によって大きく異なることが明らかにされている。以下の条件が満たされるほど、態度は行動をよりよく予測する。
- 態度の強度(attitude strength): 強い態度は弱い態度よりも行動と一致しやすい。態度の強度は、確信の程度、重要性、感情的強度などの要素で構成される。
- 態度の接近可能性(attitude accessibility): Russell Fazio(1986, 1995)が強調した概念で、態度が記憶から容易に活性化される(想起される)ほど、行動への影響力が大きい。直接経験に基づく態度は間接的に形成された態度よりも接近可能性が高い。
- 態度と行動の対応性(correspondence): AjzenとFishbein(1977)が指摘したように、態度の測定と行動の測定が、行為(action)、対象(target)、文脈(context)、時間(time)の4要素において対応しているほど、両者の相関は高くなる。一般的な態度で特定の行動を予測しようとすると、相関は低くなる。
まとめ¶
- 態度は感情・行動・認知の3成分から構成される評価的傾向であり、明示的態度と暗黙的態度という異なる水準をもつ。
- 認知的不協和理論は、認知要素間の矛盾から生じる不快感が態度変容を動機づけるメカニズムを説明する。不十分正当化効果はその代表的な実証である。
- 精緻化見込みモデルは、説得における態度変容が中心ルートと周辺ルートという質的に異なる二つの経路を通じて生じることを示した。
- 態度と行動の関係は単純ではなく、計画的行動理論は行動意図を媒介変数として両者の関係を精緻化した。態度の強度、接近可能性、対応性が行動予測の精度を左右する。
- 本セクションの知見は、Section 4(社会的影響)で扱う同調・服従のメカニズムや、Section 5(対人関係と集団過程)における偏見・差別の理解にも直結する。社会的認知(Section 1)で形成されたスキーマや帰属が態度の認知成分を構成し、態度が社会的影響過程や集団間関係における行動を方向づけるという連鎖を意識しながら学習を進めるとよい。
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 態度 | attitude | ある対象に対する持続的な評価的傾向 |
| 3成分モデル | ABC model / tricomponent model | 態度が感情・行動・認知の3要素から構成されるとするモデル |
| 暗黙的態度 | implicit attitude | 内省によって直接アクセスできない自動的な評価的傾向 |
| 暗黙連合テスト | Implicit Association Test (IAT) | 反応時間を用いて暗黙的態度を測定する手法 |
| 認知的不協和 | cognitive dissonance | 認知要素間の矛盾から生じる心理的不快状態 |
| 不十分正当化効果 | insufficient justification effect | 外的正当化が不十分なとき態度変容が大きくなる現象 |
| 強制的承諾パラダイム | forced compliance paradigm | 反態度的行動を行わせ不協和を誘発する実験手法 |
| 自己知覚理論 | self-perception theory | 自己の行動と状況から態度を推論するとするBemの理論 |
| 精緻化見込みモデル | Elaboration Likelihood Model (ELM) | 説得における中心ルートと周辺ルートを仮定する二過程モデル |
| 中心ルート | central route | 論拠の質に基づく精緻な情報処理経路 |
| 周辺ルート | peripheral route | 周辺的手がかりに基づく簡便な情報処理経路 |
| ヒューリスティック-体系的モデル | Heuristic-Systematic Model (HSM) | Chaikenによる説得の二過程モデル |
| 計画的行動理論 | Theory of Planned Behavior (TPB) | 態度・主観的規範・行動統制感が行動意図を規定するとする理論 |
| 合理的行為理論 | Theory of Reasoned Action (TRA) | TPBの前身となる態度-行動関係の理論 |
| 主観的規範 | subjective norm | 重要な他者がその行動を期待していると知覚される程度 |
| 知覚された行動統制感 | perceived behavioral control | 行動実行の容易さ・困難さに関する主観的知覚 |
| 態度の接近可能性 | attitude accessibility | 態度が記憶から容易に活性化される程度 |
確認問題¶
Q1: 認知的不協和理論において、Festinger & Carlsmith(1959)の1ドル条件の被験者が作業をより面白いと評価した理由を、不協和の発生と低減の過程に即して説明せよ。
A1: 1ドル条件の被験者は、退屈な作業について「面白かった」と嘘をつくという反態度的行動を行ったが、その報酬はわずか1ドルであり、行動を正当化するには不十分であった。「退屈な作業だった」という認知と「面白いと言った」という行動の認知が不協和を生じさせ、外的正当化が不十分であるために、態度を「実際にある程度面白かった」と変容させることで不協和を低減した。20ドル条件では報酬が十分な外的正当化となるため不協和が生じにくく、態度変容は生じなかった。
Q2: 精緻化見込みモデル(ELM)における中心ルートと周辺ルートの違いを、態度変容の持続性と行動との一貫性の観点から比較せよ。
A2: 中心ルートでは、受け手がメッセージの論拠を注意深く吟味し、論拠の質に基づいて態度を形成する。この経路による態度変容は持続的であり、行動との一貫性が高く、反論への抵抗力が強い。一方、周辺ルートでは送り手の魅力や専門性などの周辺的手がかりに基づいて態度が形成されるため、態度変容は一時的で、行動との一貫性が低く、反論によって容易に覆される。いずれのルートが採用されるかは、精緻化の動機づけ(問題の個人的関連性など)と能力(認知的資源の利用可能性など)によって決まる。
Q3: 計画的行動理論(TPB)が合理的行為理論(TRA)から拡張された点を述べ、その追加要因が行動予測に果たす役割を説明せよ。
A3: TRAでは行動意図の規定因として「行動に対する態度」と「主観的規範」の2要因を想定していたが、TPBではこれに「知覚された行動統制感」を追加した。知覚された行動統制感とは、行動の実行がどの程度容易か困難かに関する個人の主観的な知覚であり、Banduraの自己効力感と概念的に近い。この要因は行動意図に影響するだけでなく、意図から行動への変換にも直接影響する。態度が肯定的で社会的圧力があっても、実行が困難であると知覚される場合には行動に至らない場合があり、この要因の追加により行動予測の精度が向上した。
Q4: Bemの自己知覚理論は認知的不協和理論に対するどのような代替説明を提供したか。両理論の適用範囲についての現在の統合的見解を述べよ。
A4: Bemの自己知覚理論は、不協和という内的な不快感を想定せず、人は自己の行動とその状況手がかりから態度を推論するとした。1ドル実験の結果は、被験者が「少額の報酬で面白いと言ったのだから、実際に面白かったのだろう」と自己の行動から態度を推論したことで説明される。その後の研究(Zanna & Cooperらによる生理的覚醒の検討)を踏まえた現在の統合的見解では、態度と行動の不一致が大きく明確な不快感が生じる状況では不協和理論が適用可能であり、態度が曖昧で不一致が小さい場合には自己知覚理論がより適切な説明を提供するとされている。
Q5: LaPiereのパラドクスが示した態度と行動の乖離について、計画的行動理論の枠組みから再解釈せよ。
A5: LaPiereの研究では、質問紙で表明された中国人への否定的態度と、実際の対面場面での受け入れ行動が乖離した。計画的行動理論の枠組みで解釈すると、質問紙回答は一般的な対象への態度であり、特定の行動場面における態度とは対応性が低い。また、対面場面では主観的規範(接客のマナー、同行者の存在)や知覚された行動統制感(目の前の客を実際に拒否することの困難さ)が態度とは異なる方向に行動意図を規定し得る。このように、行動は態度のみならず主観的規範・行動統制感を含む複数の要因によって決定されるため、態度の測定のみからでは行動を十分に予測できないことを計画的行動理論は説明する。