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Module 1-4 - Section 4: 社会的影響

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-4: 社会心理学
前提セクション なし
想定学習時間 4時間

導入

人間の行動は、個人の内的特性だけでなく、他者の存在や社会的状況によって大きく左右される。社会的影響(social influence)の研究は、社会心理学の中核を成す領域であり、なぜ人は集団の意見に従うのか、なぜ権威に服従するのか、なぜ集団は極端な意思決定に至るのか、そしてなぜ緊急事態で人は助けを求める人を無視するのかといった問いに実証的に取り組んできた。本セクションでは、同調、服従、集団分極化と集団思考、少数派の影響、傍観者効果と援助行動という5つの主要テーマを扱い、社会的影響のメカニズムを体系的に理解する。


同調

Key Concept: 同調(conformity) 他者の行動や意見に合わせて自分の行動・判断を変容させること。明示的な要請や命令がなくても生じる社会的影響の一形態である。

Aschの線分判断実験

Solomon Asch(1951)は、同調の実験的研究の先駆者である。実験では、1本の標準線分と3本の比較線分を提示し、どの比較線分が標準線分と同じ長さかを判断させた。課題自体は極めて容易であり、単独で判断すれば正答率は99%以上であった。

しかし、実験参加者は7〜9名のサクラ(confederates)とともに着席し、サクラが全員一致で誤った回答をする条件が設定された。この状況下で、実験参加者の約75%が少なくとも1回はサクラに同調して誤答し、全試行を通じた同調率は約37%に達した。Aschの実験は、客観的に明白な正解がある場合でさえ、集団の圧力が個人の判断を歪めうることを示した。

同調の規定要因

Aschの一連の追試から、同調の規定要因が明らかにされている。

集団サイズ: 同調率は集団サイズの増加とともに上昇するが、3〜4名で効果はほぼ上限に達し、それ以上の人数では顕著な増加は見られない。

全会一致: 同調に最も強く影響するのは集団の全会一致性である。サクラの中に1名でも正答者がいると、同調率は劇的に低下する(約5〜10%へ)。この「同盟者効果」は、異議を唱える存在が社会的圧力を緩和することを示している。

課題の曖昧さ: 課題が曖昧であるほど同調率は上昇する。正解が不明確な状況では、他者の判断がより有力な情報源となるためである。

情報的影響と規範的影響

Key Concept: 情報的影響(informational influence) 他者の判断を現実に関する正確な情報源とみなし、それに基づいて自分の判断を修正すること。特に状況が曖昧な場合に強く作用する。

Key Concept: 規範的影響(normative influence) 集団から受容されたい、拒絶されたくないという動機に基づき、集団の期待に沿った行動をとること。公的場面で特に強く作用する。

Morton Deutsch & Harold Gerard(1955)は、同調が生じる2つの心理的メカニズムを区別した。情報的影響は「正しくありたい」という動機に基づき、私的な信念の変容(内面化)を伴うことが多い。規範的影響は「好かれたい・排除されたくない」という動機に基づき、公的な行動の変容(追従)にとどまることが多い。

Sherifの自動運動効果実験

Muzafer Sherif(1936)は、情報的影響の典型例を実験的に示した。暗室内で静止した光点を見つめると、光点が動いて見える錯覚(自動運動効果, autokinetic effect)が生じる。この知覚的に曖昧な状況で、参加者に光点の移動距離を推定させた。

個人で判断する場合、各参加者は独自の推定値に収束した。しかし集団で判断を共有すると、参加者の推定値は次第に収斂し、集団規範(group norm)が形成された。この規範は、参加者がその後単独で判断する場合にも持続した。Sherifの実験は、曖昧な状況では他者の判断が自己の知覚的判断の基準となり、内面化を伴う真の態度変容が生じることを示している。

graph TD
    A["社会的影響の類型"] --> B["情報的影響"]
    A --> C["規範的影響"]
    B --> D["動機: 正しくありたい"]
    B --> E["状況: 曖昧な場面"]
    B --> F["結果: 私的受容(内面化)"]
    C --> G["動機: 受容されたい"]
    C --> H["状況: 集団の監視下"]
    C --> I["結果: 公的追従"]

服従

Key Concept: 服従(obedience) 権威者の明示的な命令や指示に従って行動すること。同調が暗黙の集団圧力に対する反応であるのに対し、服従は権威の直接的指示に対する反応である。

Milgramの服従実験

Stanley Milgram(1963, 1974)は、権威への服従に関する一連の実験を実施した。実験参加者は「教師」役を割り当てられ、別室の「学習者」(実際にはサクラ)が誤答するたびに電気ショックを与えるよう指示された。ショックの電圧は15Vから始まり、誤答のたびに15V刻みで増加し、最大450V(「XXX 危険」と表示)まで設定されていた。学習者は実際にはショックを受けていないが、電圧上昇に伴い苦痛の叫び声をあげ、330V以降は完全に沈黙した。

実験者(白衣の研究者)は、参加者が中断しようとすると「続けてください」「実験のために必要です」といった定型的な促し(prod)を与えた。結果は衝撃的であった。参加者の65%が最大電圧450Vまでショックを与え続けたのである。事前にMilgramが精神科医に予測を求めたところ、最大電圧まで到達するのは0.1%と予測されており、結果は専門家の予想を大幅に上回った。

実験条件のバリエーションと服従率の変動

Milgramは18のバリエーション実験を実施し、服従率を変動させる要因を系統的に検討した。

条件 服従率(450Vまで)
基本条件(別室・音声フィードバック) 65%
学習者と同室 40%
教師が学習者の手を電極に押しつける 30%
実験者が電話で指示 20.5%
実験が民間オフィスで実施 47.5%
他の教師(サクラ)が反抗 10%

これらの結果から、権威者との近接性が高いほど、また被害者との心理的距離が近いほど服従率が変動することが示された。特に「他の教師が反抗する」条件での服従率の劇的な低下は、同調研究におけるAschの同盟者効果と一致する。

服従のメカニズム

Milgramは服従のメカニズムとして、エージェント状態(agentic state)の概念を提唱した。

Key Concept: エージェント状態(agentic state) 個人が自分自身を権威者の代理人(agent)とみなし、自分の行為の責任は権威者にあると認知する心理状態。自律状態(autonomous state)の対概念である。

エージェント状態に移行すると、個人は自己の道徳判断を一時的に停止し、権威者の指示に従うことが正当な行為であると認知する。この移行を促進する要因として、権威の正当性(legitimate authority)、段階的なコミットメントの増大(15V刻みの漸進的エスカレーション)、責任の外在化(「責任は実験者にある」)が挙げられる。

倫理的問題と現代的再検討

Milgramの実験は、参加者に深刻な心理的苦痛を与えたことから、研究倫理上の激しい批判を受けた。Diana Baumrind(1964)は、参加者の自尊感情への長期的悪影響を懸念し、インフォームドコンセントや欺瞞の使用について問題を提起した。この批判は現代の研究倫理審査制度(IRB/倫理委員会)の整備に寄与した。

Jerry Burger(2009)は、倫理的配慮を加えた部分的追試を実施した。ショックを150V(学習者が最初に明確に抗議する時点)で打ち切る修正版を用いたところ、服従率はMilgramの元実験と有意な差がなく、服従傾向が時代を超えて頑健であることが示唆された。ただし、この結果の解釈には、実験手続きの変更に伴う限界も考慮する必要がある。

graph TD
    A["権威者の指示"] --> B["エージェント状態への移行"]
    B --> C["自律的道徳判断の停止"]
    B --> D["責任の外在化"]
    C --> E["服従行動"]
    D --> E
    F["服従を低減する要因"] --> G["被害者との近接性"]
    F --> H["権威者との距離"]
    F --> I["他者の反抗モデル"]
    G --> J["服従率の低下"]
    H --> J
    I --> J

集団分極化と集団思考

リスキーシフトから集団分極化へ

James Stoner(1961)は、集団での議論後の意思決定が個人の事前判断よりもリスク志向に偏ることを発見し、リスキーシフト(risky shift)と名づけた。しかし、その後の研究で、集団討議は常にリスク方向に偏るのではなく、メンバーの初期態度がリスク方向であればよりリスキーに、保守的であればより保守的に極端化することが判明した。

Key Concept: 集団分極化(group polarization) 集団討議の結果、メンバーの意見が討議前の平均的立場よりも極端な方向に偏る現象。個人の初期傾向が集団過程により増幅される。

集団分極化の説明

集団分極化を説明する主要な理論として、2つの仮説がある。

説得的議論説(persuasive arguments theory): 集団討議では、個人が事前に考えていなかった新しい議論が提出される。メンバーの初期傾向と一致する方向の議論が数的に多くなるため、各メンバーはその方向に強化された議論にさらされ、態度が極端化する。この説明は情報的影響の枠組みに対応する。

社会的比較説(social comparison theory): 人は集団内で望ましい立場をとりたいという動機をもつ。他のメンバーの立場を知ると、自分がその方向において十分に極端でないことに気づき、集団内で評価される位置を得るために態度を調整する。この説明は規範的影響の枠組みに対応する。

現在では、両メカニズムが相補的に作用すると考えられている。

Janisの集団思考

Key Concept: 集団思考(groupthink) 集団の凝集性が高く、外部情報が遮断され、指示的リーダーが存在する場合に、合意維持の圧力が批判的思考を抑制し、非合理的な意思決定が行われる現象。Irving Janis(1972)が提唱した。

Irving Janis(1972, 1982)は、ピッグス湾侵攻(1961年)やチャレンジャー号爆発事故(1986年)などの政策的失敗を分析し、高度に凝集性のある集団が合意維持を優先するあまり、現実的な選択肢の検討を怠る過程を集団思考として概念化した。

集団思考の症状と予防策

Janisは集団思考の8つの症状を挙げている。

カテゴリ 症状
集団の過大評価 無敵性の錯覚、道徳性への確信
閉鎖性 集合的合理化、外集団へのステレオタイプ
斉一性への圧力 自己検閲、全会一致の錯覚、異論者への直接的圧力、自任のマインドガード

予防策として、Janisはリーダーが公平な議長として振る舞い特定の立場を表明しないこと、「悪魔の代弁者」(devil's advocate)を指名すること、外部の専門家を招いて批判的評価を求めること、最終決定前に「再考の会議」を設けることなどを提案した。

なお、集団思考の概念は広く引用されているが、実証的支持は混在しており、凝集性と意思決定の質の関係は条件次第で異なるとの批判もある。

graph TD
    A["先行条件"] --> B["集団思考"]
    A1["高い凝集性"] --> A
    A2["外部情報の遮断"] --> A
    A3["指示的リーダーシップ"] --> A
    B --> C["症状"]
    C --> C1["無敵性の錯覚"]
    C --> C2["自己検閲"]
    C --> C3["全会一致の錯覚"]
    B --> D["結果: 不適切な意思決定"]
    E["予防策"] --> F["悪魔の代弁者の指名"]
    E --> G["外部専門家の招聘"]
    E --> H["リーダーの中立的態度"]

少数派の影響

Moscoviciの青-緑スライド実験

上述の同調研究は多数派が少数派に及ぼす影響を扱っているが、Serge Moscovici(1969, 1976)は、少数派が多数派の態度や判断を変容させうることを実験的に示した。

Moscoviciは6名の集団(うち2名がサクラ)に青色のスライドを提示し、色を判断させた。サクラが一貫して「緑」と回答した条件では、参加者の約8.42%が「緑」と回答した(一貫条件)。サクラの回答が一貫しない条件では、影響はほとんど生じなかった(約1.25%)。数値としては小さいが、統計的に有意な効果であり、少数派でも一定の条件下で多数派の判断を変容させうることが示された。

少数派影響の条件

少数派が影響力を発揮するための主要条件として以下が挙げられる。

一貫性(consistency): 少数派の主張が時間を通じて一貫していることが最も重要な条件である。一貫性は、少数派が確信をもち、その立場に根拠があるという印象を多数派に与える。

柔軟性(flexibility): Gabriel Mugny(1982)は、少数派が一貫しつつも完全に硬直的ではなく、議論のスタイルにおいて一定の柔軟性を示す場合に影響力が最大化されることを示した。硬直的な少数派は教条的と知覚され、拒絶される傾向がある。

変換理論

Key Concept: 変換理論(conversion theory) 多数派の影響は主に公的追従(比較過程)を生じさせるのに対し、少数派の影響は私的な態度変容(妥当化過程)をもたらすとする理論。Moscoviciが提唱した。

変換理論によれば、多数派に直面した個人は「自分は正しいのか」ではなく「自分は集団に受け入れられるか」に注意を向けるため、公的には従うが私的には変容しない(比較過程)。一方、少数派に直面した個人は「なぜあの少数派はあのように考えるのか」というメッセージの内容に注意を向け、深い認知的処理を行うため、公的にはすぐに追従しないが、遅延的・間接的に私的態度の変容が生じる(妥当化過程)。


傍観者効果と援助行動

Kitty Genovese事件

1964年、ニューヨーク市クイーンズ区で Catherine "Kitty" Genovese が自宅アパート近くで殺害された。当時のNew York Times紙は「38人の目撃者が見ていたが誰も警察に通報しなかった」と報道し、都市住民の無関心の象徴として広く引用された。しかし、その後の調査(Manning, Levine, & Collins, 2007)により、38人という数字は誇張であり、実際には数名が警察に通報していたこと、目撃者の多くは断片的にしか状況を把握していなかったことが明らかにされている。報道の不正確さにもかかわらず、この事件は傍観者効果の研究を動機づけた点で歴史的意義がある。

Latane & Darleyの傍観者効果研究

Key Concept: 傍観者効果(bystander effect) 緊急事態の目撃者が多いほど、各個人が援助行動をとる確率が低下する現象。Bibb Latane & John Darley(1968, 1970)が実験的に実証した。

Latane & Darleyは一連の実験で傍観者効果を実証した。代表的な「煙の充満する部屋」実験では、参加者が質問紙に記入中に部屋に煙が入ってくる状況を設定した。1人でいた参加者の75%が6分以内に報告したのに対し、3人の無関心なサクラがいる条件ではわずか10%しか報告しなかった。

「てんかん発作」実験では、インターカムを通じて他の参加者(実際には録音)がてんかん発作を起こした状況を設定した。自分だけが知っていると思った参加者の85%が援助したのに対し、他にも聞いている人がいると思った場合は31%に低下した。

援助行動の5段階モデル

Latane & Darleyは、傍観者が援助行動に至るまでの意思決定過程を5段階モデルとして定式化した。各段階で「否」の判断がなされると援助行動は生じない。

graph TD
    S1["1. 事態に気づく"] -->|気づく| S2["2. 緊急事態と解釈する"]
    S1 -->|気づかない| X1["援助なし"]
    S2 -->|緊急事態| S3["3. 自分に責任があると感じる"]
    S2 -->|非緊急| X2["援助なし"]
    S3 -->|責任あり| S4["4. 適切な援助手段を知っている"]
    S3 -->|責任なし| X3["援助なし"]
    S4 -->|手段あり| S5["5. 援助を実行する"]
    S4 -->|手段なし| X4["援助なし"]
    S5 --> Y["援助行動"]

責任の分散と多元的無知

傍観者効果を生じさせる2つの主要な心理的メカニズムが特定されている。

Key Concept: 責任の分散(diffusion of responsibility) 他の傍観者がいる場合、個人が感じる援助の責任が分散され、「自分でなくても誰かが助けるだろう」という認知が生じること。5段階モデルの第3段階に対応する。

Key Concept: 多元的無知(pluralistic ignorance) 各個人が内心では緊急事態だと考えているにもかかわらず、他者が冷静に見えるためにその解釈を修正し、結果として誰も行動しない状態。5段階モデルの第2段階に対応する。

多元的無知は情報的影響の一形態である。緊急事態かどうか曖昧な状況で、周囲の人が平静であること(実際には全員が状況を探っているだけ)を「緊急ではない」という情報として解釈し、自分の不安を打ち消してしまう。責任の分散は、傍観者の数が増えるほど「自分が行動しなくても誰かが」という認知が強まる現象であり、両者は相補的に作用して援助行動を抑制する。


まとめ

  • 同調は明示的な命令がなくても集団圧力により生じ、情報的影響と規範的影響という2つのメカニズムで説明される。Aschの実験は客観的に明白な課題でも同調が生じることを、Sherifの実験は曖昧な状況での規範形成と内面化を示した。
  • 服従は権威者の指示に従う行動であり、Milgramの実験はその強力さと状況依存性を明らかにした。エージェント状態への移行と責任の外在化が服従を支えるメカニズムである。
  • 集団分極化は集団討議により個人の初期傾向が極端化する現象であり、説得的議論説と社会的比較説により説明される。集団思考は凝集性の高い集団における批判的思考の抑制を指す。
  • 少数派の影響は一貫性と柔軟性を条件として生じ、多数派とは異なる認知的処理(妥当化過程)を通じて私的な態度変容をもたらす。
  • 傍観者効果は責任の分散と多元的無知により生じ、Latane & Darleyの5段階モデルによって援助行動の意思決定過程が説明される。

次のSection 5「対人関係と集団過程」では、本セクションで扱った集団過程の知見を基盤として、対人魅力、親密な関係、偏見と差別、集団間関係、社会的ジレンマといったテーマに展開する。特に、集団分極化や集団思考の理解は、偏見の形成や集団間葛藤の理解に直結する。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
同調 conformity 明示的な命令なしに他者の行動や意見に合わせて自分の行動・判断を変容させること
情報的影響 informational influence 他者の判断を正確な情報源とみなし、自分の判断を修正する過程
規範的影響 normative influence 集団から受容されたいという動機に基づき、集団の期待に沿った行動をとること
服従 obedience 権威者の明示的な命令や指示に従って行動すること
エージェント状態 agentic state 自分を権威者の代理人とみなし、行為の責任は権威者にあると認知する心理状態
集団分極化 group polarization 集団討議の結果、メンバーの意見が討議前の平均よりも極端な方向に偏る現象
集団思考 groupthink 凝集性の高い集団で合意維持圧力が批判的思考を抑制し、不適切な意思決定がなされる現象
変換理論 conversion theory 多数派は公的追従を、少数派は私的態度変容をもたらすとする理論
傍観者効果 bystander effect 目撃者が多いほど各個人が援助行動をとる確率が低下する現象
責任の分散 diffusion of responsibility 他の傍観者がいることで個人の援助責任の感覚が希薄化すること
多元的無知 pluralistic ignorance 各個人が内心の判断と異なる行動をとり、結果として集団全体が誤った状況認識を共有する状態

確認問題

Q1: Aschの線分判断実験において、同調率を劇的に低下させた条件は何か。その心理的メカニズムを説明せよ。

A1: サクラの中に1名でも正答者(同盟者)がいる条件で、同調率は約37%から約5〜10%に劇的に低下した。これは「同盟者効果」と呼ばれ、異議を唱える他者の存在が規範的圧力を緩和し、参加者が自分の正しい判断を維持する社会的支持を提供するためである。全会一致が崩れることで、集団の判断に従わなくてもよいという認知が生まれる。

Q2: Milgramの服従実験で提唱された「エージェント状態」の概念を説明し、服従率が条件によって変動する理由を2つ以上の要因から論じよ。

A2: エージェント状態とは、個人が自分自身を権威者の代理人とみなし、自分の行為の責任は権威者にあると認知する心理状態である。服従率の変動要因として、(1) 被害者との近接性(同室条件では服従率低下:被害者の苦痛が直接知覚されエージェント状態が維持しにくくなる)、(2) 権威者の近接性(電話指示条件では服従率低下:権威の即時的圧力が弱まる)、(3) 他者の反抗モデル(他の教師が反抗する条件では10%に低下:社会的支持が得られ自律状態への復帰が促される)が挙げられる。

Q3: 集団分極化を説明する「説得的議論説」と「社会的比較説」の違いを述べよ。それぞれが同調研究のどの概念に対応するかも示せ。

A3: 説得的議論説は、集団討議で初期傾向と一致する方向の新しい議論に多く接することで態度が極端化するとし、情報的影響に対応する。社会的比較説は、他者の立場を知って集団内で望ましい位置を占めるために態度を調整するとし、規範的影響に対応する。前者は議論内容(情報)の偏りに、後者は社会的動機(他者からの評価)に焦点を当てる点で異なる。

Q4: Latane & Darleyの5段階モデルにおいて、「多元的無知」と「責任の分散」はそれぞれ何段階目に作用し、どのようにして援助行動を阻害するか。

A4: 多元的無知は第2段階(緊急事態と解釈する)に作用する。周囲の人が平静に見えることを「緊急ではない」という情報として解釈し、実際には緊急事態であるにもかかわらず援助の必要性を否定してしまう。責任の分散は第3段階(自分に責任があると感じる)に作用する。他の傍観者が存在することで「自分でなくても誰かが助けるだろう」という認知が生じ、個人の援助責任感が希薄化する。両メカニズムは相補的に作用し、傍観者が多いほど援助行動の確率が低下する。

Q5: Moscoviciの変換理論によれば、多数派の影響と少数派の影響は質的に異なるとされる。それぞれの影響がもたらす認知的処理と態度変容の違いを説明せよ。

A5: 変換理論によれば、多数派の影響は比較過程を引き起こす。個人は「集団に受け入れられるか」に注意を向け、公的には追従するが私的な信念は変容しにくい(表面的追従)。一方、少数派の影響は妥当化過程を引き起こす。個人は「なぜその少数派はそう考えるのか」というメッセージ内容に深い認知的処理を向けるため、公的にはすぐに追従しないが、時間の経過とともに間接的・遅延的に私的態度の変容(変換)が生じる。