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Module 1-4 - Section 5: 対人関係と集団過程

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-4: 社会心理学
前提セクション Section 2(自己と社会的アイデンティティ), Section 4(社会的影響)
想定学習時間 4.5時間

導入

社会心理学の前セクションまでで、人が他者をどのように認知し(Section 1: 社会的認知)、自己をいかに構成し(Section 2: 自己と社会的アイデンティティ)、態度をどのように形成・変容させ(Section 3: 態度と態度変容)、集団からどのような影響を受けるか(Section 4: 社会的影響)を検討してきた。本セクションでは、これらの知見を統合しつつ、人と人との関係がどのように形成・維持・解消されるか、そして集団間の関係がどのような力学のもとに展開するかを扱う。

Section 2で扱った社会的アイデンティティ理論(Henri Tajfel & John Turner)は、人が内集団と外集団を区別し内集団をひいきする傾向を明らかにした。Section 4で検討した同調・服従・集団分極化・集団思考は、集団が個人の判断や行動を歪める過程を示した。本セクションでは、これらの基盤の上に、対人魅力の規定因、親密な関係の理論、偏見と差別のメカニズム、集団間葛藤の低減方略、そして社会的ジレンマにおける協力行動を論じる。


対人魅力の要因

人はなぜ特定の他者に惹かれるのか。対人魅力(interpersonal attraction)の研究は、関係形成の初期段階を規定する要因を実証的に明らかにしてきた。

Key Concept: 対人魅力(interpersonal attraction) 他者に対して抱く肯定的な態度や接近傾向の総称。好意・友情・恋愛感情を含む広範な概念である。

近接性と単純接触効果

物理的な近接性(proximity)は対人魅力の最も基本的な規定因の一つである。Leon Festingerらの住宅研究(1950)は、物理的に近い住人同士のほうが友人関係を形成しやすいことを示した。この効果の一部は、Robert Zajonc(1968)が提唱した単純接触効果(mere exposure effect)によって説明される。

Key Concept: 単純接触効果(mere exposure effect) ある刺激に繰り返し接触するだけで、その刺激に対する好意度が上昇する現象。Zajoncは無意味な図形・漢字・写真を用いた一連の実験でこの効果を実証した。

単純接触効果は意識的な認知を必要としない。閾下呈示(subliminal exposure)でも好意度の上昇が確認されており、知覚的流暢性(perceptual fluency)の向上が好意判断に誤帰属されるメカニズムが想定されている。

類似性

態度、価値観、性格特性などの類似性(similarity)は対人魅力を強力に予測する。Donn Byrne(1971)の「態度類似性パラダイム」では、参加者に架空の他者の態度プロフィールを提示し、自己の態度との類似度が高いほど好意が増すことが繰り返し示された。類似性が魅力を高める理由として、(1) 自己の信念が妥当であるという社会的妥当化、(2) 相互作用の円滑さ、(3) 類似する他者からの好意を期待できること、が挙げられる。

「相補性仮説」(互いに欠けている特性を補い合う者同士が惹かれ合う)は直感的に魅力的だが、実証的な支持は限定的である。

身体的魅力

身体的魅力(physical attractiveness)は、特に関係の初期段階において強い影響力を持つ。Elaine WalsterらのComputer Dance Study(1966)は、外見的魅力がデート相手への好意の最も強力な予測因であったことを示した。

身体的魅力の効果はハロー効果(halo effect)によって増幅される。Karen Dionら(1972)は「美しいものは良い(what is beautiful is good)」というステレオタイプを実証し、身体的に魅力的な人物は社交性、知性、能力においても高く評価されることを示した。ただし、このステレオタイプの内容は文化によって異なり、個人主義的文化では社交性や自己主張性、集団主義的文化では誠実さや思いやりが魅力的な人物に帰属されやすい。

相互性

好意の返報性(reciprocity of liking)は強力な魅力の規定因である。他者が自分に好意を持っていると知ると、その他者への好意が増大する。これは社会的交換理論(social exchange theory)の枠組みでも説明される。すなわち、相手からの好意は社会的報酬であり、報酬を与えてくれる相手に接近する傾向が生じる。

ただし、好意の返報が魅力を高めるには、その好意が選択的・弁別的であることが重要である。誰にでも好意を示す人物からの好意は、特定の自分だけに向けられた好意ほど魅力を高めない。

graph TD
    subgraph "対人魅力の規定因"
        A["近接性"] --> E["対人魅力"]
        B["類似性"] --> E
        C["身体的魅力"] --> E
        D["相互性"] --> E
    end
    A -- "単純接触効果" --> F["知覚的流暢性の向上"]
    F --> E
    C -- "ハロー効果" --> G["肯定的特性の帰属"]
    G --> E

親密な関係の理論

対人魅力が関係の開始を説明するのに対し、以下の理論は関係がいかに深化し維持されるかを説明する。

成人愛着理論

Cindy Hazan & Phillip Shaver(1987)は、John Bowlbyの愛着理論を成人の恋愛関係に拡張した。幼児期に形成された内的作業モデル(internal working model)が成人の恋愛スタイルにも影響するという理論である。

Key Concept: 成人愛着スタイル(adult attachment style) 幼児期の養育者との愛着経験に基づき形成された対人関係の認知・感情・行動のパターン。安定型、回避型、不安型(のちに恐れ型を加えた4分類モデルも提唱)に分類される。

愛着スタイル 自己モデル 他者モデル 恋愛関係の特徴
安定型(secure) 肯定的 肯定的 信頼、親密さへの快適さ、相互依存
回避型(avoidant) 肯定的 否定的 親密さへの不快感、自立の強調、感情表出の抑制
不安型(anxious/preoccupied) 否定的 肯定的 見捨てられ不安、過度の接近欲求、嫉妬

研究の蓄積により、愛着スタイルは恋愛だけでなく友人関係、職場の人間関係、治療関係にも影響することが示されている。ただし、愛着スタイルは固定的なものではなく、重要な対人経験を通じて変化しうる。

愛の三角理論

Robert Sternberg(1986)は、愛を3つの構成要素から成る三角形として概念化した。

Key Concept: 愛の三角理論(triangular theory of love) 愛を親密性(intimacy)、情熱(passion)、コミットメント(commitment)の3要素から構成されるとする理論。3要素の組み合わせにより8種類の愛が分類される。

愛の類型 親密性 情熱 コミットメント
非愛(nonlove) - - - 見知らぬ人
好意(liking) + - - 友情
心酔(infatuation) - + - 一目惚れ
空虚な愛(empty love) - - + 形骸化した関係
ロマンティックな愛 + + - 情熱的恋愛
友愛(companionate love) + - + 長期的な深い友情
愚かな愛(fatuous love) - + + 衝動的な結婚
完全な愛(consummate love) + + + 理想的な恋愛関係

Sternbergは、関係の経過とともに情熱は減衰しやすいが、親密性とコミットメントは増大しうることを指摘した。完全な愛を維持するには意識的な努力が必要である。

投資モデル

Caryl Rusbult(1980, 1983)の投資モデル(investment model)は、関係のコミットメントを3つの変数から予測する。

Key Concept: 投資モデル(investment model) 関係へのコミットメントが、(1) 満足度、(2) 代替の質、(3) 投資量の3変数によって規定されるとするモデル。コミットメントが高いほど関係維持行動が促進される。

  • 満足度(satisfaction): 関係から得られる報酬がコストを上回る程度。比較水準(comparison level: CL)、すなわち過去の経験や社会的基準から導かれる期待水準と比較して評価される。
  • 代替の質(quality of alternatives): 現在の関係の外で得られる最良の選択肢の魅力度。代替の質が低いほどコミットメントは高まる。
  • 投資量(investment size): 関係に投入した時間、感情、共有財産、相互の友人関係など。投資量が大きいほど関係を離れるコストが高まるため、コミットメントが増す。

投資モデルは、満足度が低くても(不満足な関係であっても)代替がなく投資が大きい場合にコミットメントが維持される現象を説明できる点で、単純な社会的交換理論を超えている。虐待的関係からの離脱困難を理解する枠組みとしても応用されている。

graph LR
    subgraph "投資モデル"
        A["満足度 (+)"] --> D["コミットメント"]
        B["代替の質 (-)"] --> D
        C["投資量 (+)"] --> D
    end
    D --> E["関係維持行動"]
    D --> F["犠牲・順応行動"]

偏見と差別

概念の区別

偏見、ステレオタイプ、差別は相互に関連するが、概念的に区別される。

Key Concept: 偏見(prejudice) 特定の社会集団とその成員に対する、通常は否定的な態度。感情的要素を中心とする。

Key Concept: ステレオタイプ(stereotype) 特定の社会集団の成員に対して適用される一般化された信念の集合。偏見の認知的要素に対応する。(→ Module 1-4, Section 1「社会的認知」参照)

Key Concept: 差別(discrimination) 特定の社会集団の成員に対する不当な行動。偏見の行動的要素に対応する。

態度の3成分モデル(→ Module 1-4, Section 3「態度と態度変容」参照)に対応させると、ステレオタイプは認知的成分、偏見は感情的成分、差別は行動的成分として位置づけられる。ただし、これら3要素は必ずしも一貫しない。偏見を持っていても差別行動に至らない場合、またステレオタイプなしに感情的な偏見が生じる場合もある。

暗黙の偏見

Anthony Greenwald & Mahzarin Banaji(1995)が提唱した暗黙の認知(implicit cognition)の枠組みは、偏見研究に大きな転換をもたらした。

Key Concept: 暗黙の偏見(implicit bias) 意識的にアクセスできない、あるいは内省では正確に報告できない自動的な連合に基づく偏見。暗黙連合テスト(IAT: Implicit Association Test)によって測定される。

IAT(Greenwald, McGhee, & Schwartz, 1998)は、概念間の連合の強さを反応時間の差異から推定する手法である。たとえば、「白人+良い」の組み合わせと「黒人+良い」の組み合わせの反応時間差から、人種に関する暗黙の偏見を測定する。

IATの妥当性と予測力については活発な議論がある。メタ分析は、IATが実際の差別行動を統計的に予測することを示すが、その効果量は小〜中程度であり、個人レベルでの予測精度には限界がある。また、IATが測定しているものが「個人の偏見」なのか「文化的連合の知識」なのかについても論争がある。

現代的偏見

John McConahay(1986)の現代的人種差別(modern racism)およびDavid Sears(1988)の象徴的人種差別(symbolic racism)の概念は、法的・規範的に露骨な差別表現が抑制された現代社会において、偏見がより微妙で間接的な形態をとるようになったことを理論化した。

現代的偏見の特徴は以下の通りである: - 差別はもはや存在しないという信念 - マイノリティの要求は不当であるという認識 - マイノリティへの特別措置(アファーマティブ・アクション等)への反対 - 平等主義的な自己像と矛盾しない形での否定的感情の表出

Samuel Gaertner & John Dovidio(2000)の嫌悪的人種差別(aversive racism)の概念も関連する。嫌悪的人種差別者は意識的には平等主義を支持するが、状況が曖昧な場合には否定的な行動をとりやすい。

偏見の低減方略

偏見低減の方略は多岐にわたるが、代表的なものを以下に挙げる:

  • カテゴリ化の変容: 内集団・外集団の境界を再定義する(後述の共通内集団アイデンティティモデル)
  • 個別化(individuation): ステレオタイプ的カテゴリではなく、個人固有の特性に注目させる
  • ステレオタイプ抑制とその限界: ステレオタイプを意識的に抑制しようとすると、皮肉にもリバウンド効果(Daniel Wegner, 1994)が生じ、抑制後にステレオタイプ的思考が増大することがある
  • 集団間接触: 次の「集団間関係」で詳述する

集団間関係

泥棒洞窟実験

Muzafer Sherif(1954, 1961)らの泥棒洞窟実験(Robbers Cave experiment)は、集団間葛藤の発生と解消の過程を実地に検証した古典的研究である。

オクラホマ州の少年キャンプに参加した11〜12歳の少年を無作為に2群(イーグルスとラトラーズ)に分け、3段階の実験を実施した。

  1. 集団形成期: 各群内で独自の規範・階層構造が形成された
  2. 集団間競争期: 賞品をめぐる競争的課題を導入したところ、両群間に強い敵意、名前呼び、襲撃行為が発生した
  3. 葛藤低減期: 単なる非競争的接触では葛藤は解消されなかったが、両群が協力しなければ達成できない上位目標(superordinate goals)を導入したところ、集団間の敵意が顕著に低減した

この実験は、集団間葛藤が現実的利害の対立(realistic conflict theory)から生じうること、そして上位目標による協力が葛藤低減に有効であることを示した。ただし、Tajfelの最小集団パラダイム(→ Module 1-4, Section 2参照)は、現実的利害の対立がなくても単なるカテゴリ化だけで内集団ひいきが生じることを示しており、現実的葛藤理論だけでは集団間の偏見を十分に説明できない。

接触仮説

Gordon Allport(1954)は『偏見の本質(The Nature of Prejudice)』において、集団間接触が偏見を低減しうる条件を提示した。

Key Concept: 接触仮説(contact hypothesis) 一定の条件下での集団間接触が偏見を低減するという仮説。Allportは4つの最適条件を特定した。

Allportの最適接触条件: 1. 対等な地位(equal status): 接触場面において両集団が対等な立場にあること 2. 共通目標(common goals): 両集団が共有する目標に向けて活動すること 3. 集団間協力(intergroup cooperation): 目標達成のために協力が必要であること 4. 制度的支持(institutional support): 権威・法律・規範が接触を支持すること

Thomas Pettigrew & Linda Tropp(2006)による515研究のメタ分析は、集団間接触が偏見低減に有意な効果を持つことを確認した(平均効果量 r = -.21)。さらに重要な知見として、Allportの最適条件が満たされる場合に効果は増大するが、条件が満たされない場合でも接触は偏見を低減する傾向があることが示された。

共通内集団アイデンティティモデル

Samuel Gaertner & John Dovidio(2000)の共通内集団アイデンティティモデル(Common Ingroup Identity Model)は、集団間の境界を再定義することによって偏見を低減する方略を理論化した。

Key Concept: 共通内集団アイデンティティモデル(Common Ingroup Identity Model) 異なる集団の成員を包括するより上位のカテゴリ(共通の内集団)を顕現させることで、外集団成員を内集団成員として再カテゴリ化し、偏見を低減するモデル。

たとえば、異なる企業の社員が合併後に「同じ会社の社員」というアイデンティティを形成することで、旧所属企業に基づく偏見が低減されうる。Sherifの泥棒洞窟実験における上位目標の効果も、このモデルで再解釈できる。

ただし、サブグループのアイデンティティが個人にとって重要である場合、上位カテゴリへの再カテゴリ化はアイデンティティの脅威として経験されうる。そのため、相互分化モデル(mutual differentiation model: Miles Hewstone & Rupert Brown, 1986)のように、サブグループのアイデンティティを維持しつつ集団間の肯定的な接触を促進する方略も提案されている。

拡張接触仮説

Stephen Wright ら(1997)の拡張接触仮説(extended contact hypothesis)は、自分自身が外集団成員と直接接触しなくても、内集団の他の成員が外集団成員と友人関係にあることを知るだけで偏見が低減しうるとする。

この効果のメカニズムとして、(1) 集団間不安の低減、(2) 集団間規範の変化(内集団は外集団と友好的であるという規範の認知)、(3) 外集団に対する共感の増大、が挙げられている。拡張接触効果はメタ分析でも支持されており、直接的接触が困難な状況での偏見低減方略として実用的な意義を持つ。

graph TD
    subgraph "偏見低減の方略"
        A["接触仮説"] --> B["最適条件: 対等な地位・共通目標・協力・制度的支持"]
        C["共通内集団アイデンティティモデル"] --> D["再カテゴリ化"]
        E["拡張接触仮説"] --> F["間接的接触の効果"]
        G["相互分化モデル"] --> H["サブグループ維持+肯定的接触"]
    end
    B --> I["偏見低減"]
    D --> I
    F --> I
    H --> I

社会的ジレンマと協力行動

囚人のジレンマ

社会的ジレンマ(social dilemma)とは、個人にとって合理的な選択が集団全体にとっては不利益をもたらす状況を指す。その代表的なモデルが囚人のジレンマ(prisoner's dilemma)である。

Key Concept: 囚人のジレンマ(prisoner's dilemma) 2者が協力と裏切りのいずれかを同時に選択する状況で、互いに裏切りを選ぶことが個人的には合理的だが、双方が裏切ると双方が協力した場合より悪い結果になるという構造を持つゲーム。

典型的な利得構造は以下の通りである:

相手: 協力 相手: 裏切り
自分: 協力 双方に中程度の利得 自分に最低の利得、相手に最高の利得
自分: 裏切り 自分に最高の利得、相手に最低の利得 双方に低い利得

1回限りのゲームでは裏切りが支配戦略(dominant strategy)となるが、反復される場合には協力が合理的となりうる。Robert Axelrod(1984)のコンピュータトーナメントでは、最も成功した戦略はAnatol Rapoportが提出した「しっぺ返し戦略」(tit-for-tat)であった。これは初手で協力し、以後は相手の直前の選択を模倣するという単純な戦略である。

共有地の悲劇

Garrett Hardin(1968)が提唱した共有地の悲劇(tragedy of the commons)は、N人の社会的ジレンマを描写する。共有資源(common-pool resource)を複数の個人が利用する場合、各個人が自己利益を最大化しようとすると資源が枯渇するという問題である。

現実の例として、漁業資源の乱獲、大気汚染、地球温暖化問題などが該当する。Elinor Ostrom(2009年ノーベル経済学賞)は、国家規制でも完全な私有化でもない、コミュニティベースの自主管理が共有資源の持続的利用を可能にする条件を理論化した。

協力を促進する要因

社会的ジレンマ研究は、協力を促進する要因を多数同定してきた。

  1. コミュニケーション: 参加者間のコミュニケーションが許される場合、協力率は顕著に上昇する。コミットメントの表明、信頼の構築、集団規範の形成がそのメカニズムである
  2. 集団サイズ: 小集団のほうが協力が生じやすい。大集団では個人の貢献の可視性が低下し、フリーライダー問題が深刻化する
  3. しっぺ返し戦略: 初手で協力し、以後は相手の行動を模倣する戦略は、長期的な協力関係の構築に有効である
  4. 集団アイデンティティ: 共通の集団アイデンティティが顕現すると、他者を内集団成員として扱い、協力行動が増加する(→ Section 2の社会的アイデンティティ理論と関連)
  5. 制度的仕組み: 報酬・罰則システム、監視メカニズム、資源利用のルールが協力を促進する
  6. 互恵性規範: 「相手が協力してくれたら自分も協力する」という互恵性の規範が内面化されている場合、協力が持続しやすい
graph LR
    subgraph "社会的ジレンマにおける協力促進要因"
        A["コミュニケーション"] --> G["協力行動の増加"]
        B["小集団サイズ"] --> G
        C["しっぺ返し戦略"] --> G
        D["集団アイデンティティ"] --> G
        E["制度的仕組み"] --> G
        F["互恵性規範"] --> G
    end

まとめ

  • 対人魅力は近接性(単純接触効果)、類似性、身体的魅力(ハロー効果)、相互性(好意の返報性)によって規定される
  • 親密な関係は、成人愛着理論(安定型・回避型・不安型)、Sternbergの愛の三角理論(親密性・情熱・コミットメント)、Rusbultの投資モデル(満足度・代替の質・投資量)によって理論化される
  • 偏見はステレオタイプ(認知)、偏見(感情)、差別(行動)に区別され、暗黙の偏見や現代的偏見の概念が露骨でない形態の偏見を捉える
  • 集団間葛藤の低減には、接触仮説(Allportの最適条件)、共通内集団アイデンティティモデル、拡張接触仮説が有効な方略を提供する
  • 社会的ジレンマにおける協力は、コミュニケーション、小集団サイズ、しっぺ返し戦略、集団アイデンティティの顕現などによって促進される

本セクションをもって、Module 1-4: 社会心理学のすべてのセクションが完結する。社会的認知(Section 1)で他者理解の基盤を学び、自己と社会的アイデンティティ(Section 2)で自己が社会的文脈の中でいかに構成されるかを見た。態度と態度変容(Section 3)では認知と行動の整合性・不整合性を検討し、社会的影響(Section 4)では集団圧力が個人の判断を歪めるメカニズムを分析した。そして本セクションでは、これらの知見を統合しつつ、対人関係の形成・維持から集団間の葛藤・協力に至るまで、社会的存在としての人間の行動を多角的に検討した。社会心理学の知見は、偏見低減、紛争解決、持続可能な資源管理といった実世界の課題への応用可能性を有している。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
対人魅力 interpersonal attraction 他者に対して抱く肯定的態度や接近傾向の総称
単純接触効果 mere exposure effect 刺激への反復接触によって好意度が上昇する現象
ハロー効果 halo effect ある特性(例: 外見的魅力)の評価が他の特性の評価に波及する現象
成人愛着スタイル adult attachment style 幼児期の愛着経験に基づく成人の対人関係パターン
愛の三角理論 triangular theory of love 愛を親密性・情熱・コミットメントの3要素で構成するSternbergの理論
投資モデル investment model 関係のコミットメントを満足度・代替の質・投資量から予測するRusbultのモデル
偏見 prejudice 特定の社会集団とその成員に対する通常は否定的な態度
ステレオタイプ stereotype 特定の社会集団の成員に適用される一般化された信念の集合
差別 discrimination 特定の社会集団の成員に対する不当な行動
暗黙の偏見 implicit bias 意識的にアクセスしにくい自動的連合に基づく偏見
暗黙連合テスト IAT (Implicit Association Test) 反応時間の差異から概念間の暗黙の連合を測定する手法
現代的人種差別 modern racism 微妙で間接的な形態をとる現代的な人種差別
接触仮説 contact hypothesis 一定条件下の集団間接触が偏見を低減するとする仮説
共通内集団アイデンティティモデル Common Ingroup Identity Model 上位カテゴリの顕現により偏見を低減するモデル
拡張接触仮説 extended contact hypothesis 内集団成員の外集団との友人関係の知覚が偏見を低減するとする仮説
囚人のジレンマ prisoner's dilemma 個人的合理性と集団的合理性が乖離する2者間ゲーム
共有地の悲劇 tragedy of the commons 共有資源の個人的利用最大化が全体的枯渇をもたらす状況
しっぺ返し戦略 tit-for-tat 初手で協力し以後は相手の直前の選択を模倣する戦略

確認問題

Q1: 対人魅力を規定する4つの主要因を挙げ、それぞれが魅力を高めるメカニズムを説明せよ。

A1: (1) 近接性: 物理的近さが接触頻度を高め、単純接触効果(反復接触による好意度上昇)が作用する。(2) 類似性: 態度・価値観の類似が自己の信念の社会的妥当化を提供し、相互作用を円滑にする。(3) 身体的魅力: ハロー効果により外見的魅力が知性や社交性といった他の肯定的特性の帰属を促す。(4) 相互性: 他者からの好意が社会的報酬として機能し、好意の返報性を通じて相手への魅力が増大する。

Q2: Rusbultの投資モデルにおいて、関係に不満足であるにもかかわらずコミットメントが維持される状況はどのように説明されるか。その実社会での含意も述べよ。

A2: 投資モデルでは、コミットメントは満足度だけでなく代替の質と投資量にも依存する。代替の質が低く(他に魅力的な選択肢がない)、投資量が大きい(時間・感情・共有財産を多く投入している)場合、満足度が低くてもコミットメントは維持される。この枠組みは、虐待的関係から離脱が困難な状況の理解に応用される。被害者は代替の不在と蓄積された投資のために関係を維持してしまうことがある。

Q3: 暗黙の偏見(implicit bias)と顕在的な偏見はどのように異なり、IATの測定にはどのような限界があるか。

A3: 顕在的偏見は意識的に報告可能な否定的態度であるのに対し、暗黙の偏見は意識的にアクセスしにくい自動的連合に基づく偏見である。IATは反応時間差から暗黙の連合を推定するが、(1) 実際の差別行動に対する予測力が小〜中程度にとどまる、(2) 個人レベルでの予測精度に限界がある、(3) 測定対象が個人の偏見なのか文化的連合の知識なのか論争がある、といった限界を有する。

Q4: Allportの接触仮説における最適条件を4つ挙げ、Pettigrew & Troppのメタ分析がこの仮説に関してどのような知見を示したか説明せよ。

A4: Allportの4条件は、(1) 対等な地位、(2) 共通目標、(3) 集団間協力、(4) 制度的支持である。Pettigrew & Tropp(2006)の515研究のメタ分析は、集団間接触が偏見低減に有意な効果を持つことを確認した(平均効果量 r = -.21)。さらに重要な知見として、最適条件が満たされる場合に効果は増大するが、条件が完全に満たされない場合でも接触はそれ自体で偏見を低減する傾向があることが示された。

Q5: 社会的ジレンマにおいて協力行動を促進する要因を3つ以上挙げ、なぜそれらが有効であるか説明せよ。

A5: (1) コミュニケーション: 参加者間の対話がコミットメントの表明、信頼構築、集団規範の形成を可能にし、協力を促進する。(2) 小集団サイズ: 小集団では個人の貢献が可視化されやすく、フリーライダー問題が抑制される。(3) しっぺ返し戦略: 初手で協力し以後は相手を模倣することで、協力には協力で、裏切りには裏切りで応答するという明確なシグナルを送り、長期的な相互協力関係を構築する。(4) 集団アイデンティティの顕現: 共通の集団アイデンティティが活性化されると、他者を内集団成員として扱い、利他的行動や協力が増加する。