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Module 2-5 - Section 5: 心理的アセスメント

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-5: 臨床心理学・異常心理学
前提セクション Section 1(異常の概念と分類)
想定学習時間 4〜5時間

導入

Section 1では精神障害の分類体系と診断の概念的基盤を、Section 2では主要な精神障害の臨床像を、Section 3では障害の成因に関する理論モデルを、Section 4では心理療法の理論と実践を検討した。本セクションでは、臨床実践における情報収集と意思決定の基盤となる心理的アセスメント(psychological assessment)を扱う。

心理的アセスメントとは、臨床面接、心理検査、行動観察などの複数の方法を用いてクライエントの心理的状態・機能・問題を体系的に評価するプロセスである。アセスメントは単に「テストを実施する」ことではない。検査結果を面接所見、行動観察、生育歴、環境要因と統合し、クライエントの問題を包括的に理解したうえで、適切な介入方針を導き出す臨床的推論の過程である。

本セクションでは、(1) 臨床面接の方法と構造化の程度による分類、(2) 心理検査の基礎原理としての信頼性・妥当性・臨床的有用性、(3) 知能検査と発達検査、(4) 神経心理学的検査、(5) 行動観察と機能分析の5つのトピックを順に検討する。なお、心理検査の信頼性と妥当性の一般的原理についてはModule 2-3, Section 3「パーソナリティの測定」で詳述されているため、ここでは臨床場面に特有の側面を中心に扱う(→ Module 2-3, Section 3「パーソナリティの測定」参照)。


臨床面接

臨床面接(clinical interview)は、心理的アセスメントの最も基本的かつ普遍的な方法である。面接は、クライエントの主訴(chief complaint)の把握、生活歴(life history)の聴取、現在の症状と機能の評価を目的とし、治療関係の構築(ラポール形成)もまた面接の重要な機能である。

Key Concept: 臨床面接(clinical interview) クライエントと臨床家が対面し、言語的・非言語的なコミュニケーションを通じて臨床的情報を収集する方法。構造化の程度によって非構造化・半構造化・構造化面接に分類される。

面接の目的と機能

臨床面接は以下の複数の機能を担う。

  1. 主訴の把握: クライエントが来談した理由、現在最も困っている問題を明確化する
  2. 現症の評価: 現在の症状の性質・重症度・経過を評価する。精神医学的には精神現在症(mental status examination)として構造化される
  3. 生活歴の聴取: 生育環境、家族関係、教育歴、職業歴、対人関係のパターン、過去の治療歴などの情報を収集する
  4. ラポール形成: クライエントとの信頼関係を構築し、率直な自己開示と治療への動機づけを促進する

面接技法の基礎として、開かれた質問(open-ended questions: 「最近の調子はいかがですか」)と閉じた質問(closed-ended questions: 「睡眠は何時間とれていますか」)の使い分け、積極的傾聴(active listening)、共感的応答(empathic responding)、要約(summarizing)と明確化(clarification)がある。これらはカール・ロジャーズ(Carl Rogers)の来談者中心療法に由来する技法であるが、学派を問わず臨床面接の基盤として広く用いられている。

構造化の程度による分類

面接は質問の標準化の程度によって3つに大別される。

graph LR
    subgraph "面接の構造化スペクトラム"
        A["非構造化面接"] --> B["半構造化面接"] --> C["構造化面接"]
    end
    A --- A1["柔軟性: 高<br/>標準化: 低<br/>信頼性: 低〜中"]
    B --- B1["柔軟性: 中<br/>標準化: 中<br/>信頼性: 中〜高"]
    C --- C1["柔軟性: 低<br/>標準化: 高<br/>信頼性: 高"]

非構造化面接(unstructured interview) では、質問の内容・順序・形式が面接者の臨床判断に委ねられる。クライエントの語りに柔軟に追随でき、個別性の高い情報を得やすい反面、評価者間信頼性(inter-rater reliability)が低くなりやすい。臨床経験の豊富な面接者ほど有効に機能するが、確証バイアス(confirmation bias)や初頭効果(primacy effect)といった認知バイアスの影響を受けやすいという問題がある。

半構造化面接(semi-structured interview) は、質問の枠組みとカバーすべき領域があらかじめ定められているが、面接者がフォローアップの質問を加えたり、質問の順序を調整したりする余地が残されている。代表的なものにSCID-5(Structured Clinical Interview for DSM-5)とMINI(Mini-International Neuropsychiatric Interview)がある。

Key Concept: SCID-5(DSM-5のための構造化臨床面接) DSM-5の診断基準に準拠した半構造化面接。各診断基準について系統的に質問し、臨床家が判断を加える形式。診断の信頼性を高めつつ臨床的柔軟性も維持するため、研究と臨床の双方で広く使用される。

SCID-5は、各精神障害の診断基準を順に確認するフローチャート式の構造を持ち、面接者が各基準の充足をyes/no/subthresholdで判定する。実施に60〜90分程度を要し、訓練を受けた面接者が必要である。MINIはより簡潔(15〜30分)で、スクリーニング的な使用に適する。

構造化面接(structured interview) では、質問の文言・順序・コーディング規則がすべて規定されており、面接者の裁量はほとんどない。DIS(Diagnostic Interview Schedule)やCIDI(Composite International Diagnostic Interview)がこのカテゴリに属する。疫学調査など大規模研究での使用に適するが、臨床場面での柔軟性には欠ける。


心理検査の基礎原理

心理検査(psychological test)は、行動のサンプルを標準化された条件下で収集し、数量的に評価するための道具である。臨床場面で心理検査を適切に使用するためには、信頼性・妥当性に加えて、臨床的有用性(clinical utility)の観点が不可欠である。

信頼性の臨床的側面

信頼性(reliability)の基本的概念——内的整合性、再検査信頼性——はModule 2-3, Section 3で詳述した通りである(→ Module 2-3, Section 3「パーソナリティの測定」参照)。臨床場面では、これらに加えて以下の側面が特に重要となる。

評価者間信頼性(inter-rater reliability) は、複数の評価者が同一のクライエントを独立に評価したとき、その結果がどの程度一致するかを示す。精神障害の診断においてCohenのκ(kappa)係数が用いられることが多く、κ ≧ .60が許容水準、κ ≧ .80が良好な一致とされる。DSM-5のフィールドトライアルでは、一部の診断カテゴリ(統合失調症: κ = .46、大うつ病性障害: κ = .28)で期待よりも低いκ値が報告され、診断信頼性の課題が改めて指摘された。

測定の標準誤差(SEM: standard error of measurement) は、個人の得点がどの程度の誤差を含みうるかを示す指標であり、臨床場面では点推定値(「IQ = 98」)よりも信頼区間(「IQ = 98 ± 5, 95%CI: 88-108」)で解釈することが推奨される。

妥当性の臨床的側面

妥当性の一般的枠組み(構成概念妥当性、基準関連妥当性、内容妥当性)もModule 2-3, Section 3を参照されたい。臨床場面で特に重要となるのは、基準関連妥当性のうちの予測的妥当性(predictive validity)と、増分妥当性(incremental validity) である。

予測的妥当性は、検査得点が将来の転帰(治療反応、再発率、社会適応など)をどの程度予測できるかを示す。増分妥当性は、ある検査を追加することで、既存の情報源(面接、他の検査)だけでは得られない予測上の改善がどの程度もたらされるかを評価する概念であり、検査バッテリーの構成において実用的に重要である。

臨床的有用性:感度・特異度・カットオフ値

Key Concept: 感度と特異度(sensitivity and specificity) 感度は、ある障害を持つ人を検査が正しく陽性と判定する割合(真陽性率)。特異度は、障害を持たない人を正しく陰性と判定する割合(真陰性率)。スクリーニング検査では高い感度が、確定診断的な使用では高い特異度が優先される。

臨床検査の有用性を評価するうえで、感度(sensitivity)と特異度(specificity)は中核的な指標である。

指標 定義 計算式
感度 疾患ありを正しく陽性とする割合 TP / (TP + FN)
特異度 疾患なしを正しく陰性とする割合 TN / (TN + FP)
陽性的中率 陽性判定者中の真の疾患ありの割合 TP / (TP + FP)
陰性的中率 陰性判定者中の真の疾患なしの割合 TN / (TN + FN)

(TP=真陽性, FP=偽陽性, TN=真陰性, FN=偽陰性)

カットオフ値(cutoff score)の設定は感度と特異度のトレードオフを伴う。カットオフを低く(緩く)設定すれば感度は上がるが特異度は下がり(偽陽性が増加)、高く(厳しく)設定すればその逆となる。このトレードオフはROC曲線(receiver operating characteristic curve)で可視化される。スクリーニングにおいては見逃し(偽陰性)を最小化するために高い感度が、確定診断においては誤診(偽陽性)を最小化するために高い特異度が優先される。

また、陽性的中率(positive predictive value)は検査の感度・特異度だけでなく、対象集団における障害の有病率(base rate)に依存する。有病率が低い集団でスクリーニングを行う場合、たとえ感度・特異度が高くても陽性的中率は低くなるため、偽陽性の問題に留意が必要である(ベイズの定理の臨床的適用)。


知能検査と発達検査

知能検査(intelligence test)は、心理検査の中で最も長い歴史と最も確立された心理測定学的基盤を持つ検査群であり、臨床場面でも広く用いられる。

ウェクスラー式知能検査

Key Concept: ウェクスラー式知能検査(Wechsler Intelligence Scales) デイヴィッド・ウェクスラー(David Wechsler)が開発した知能検査シリーズ。成人用WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)と児童用WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)を中心とし、全検査IQ(FSIQ)と複数の指標得点を算出する。偏差IQ(平均100、標準偏差15)を採用する。

ウェクスラー式知能検査は現在、成人用のWAIS-IV(16歳〜90歳11か月)と児童用のWISC-V(6歳〜16歳11か月)が広く使用されている。これらは全検査IQ(FSIQ: Full Scale IQ)に加え、認知機能の異なる側面を測定する指標得点(index scores)を算出する。

graph TD
    FSIQ["全検査IQ(FSIQ)"]
    FSIQ --> VCI["言語理解指標<br/>VCI"]
    FSIQ --> PRI["知覚推理指標<br/>PRI"]
    FSIQ --> WMI["ワーキングメモリー指標<br/>WMI"]
    FSIQ --> PSI["処理速度指標<br/>PSI"]
    VCI --> v1["類似<br/>単語<br/>知識 等"]
    PRI --> p1["積木模様<br/>行列推理<br/>パズル 等"]
    WMI --> w1["数唱<br/>算数 等"]
    PSI --> s1["符号<br/>記号探し 等"]

WAIS-IVの4指標構造は以下の通りである。

指標 略称 測定する認知機能 主な下位検査
言語理解 VCI 結晶性知能、語彙、言語的概念形成 類似、単語、知識
知覚推理 PRI 流動性推理、視空間処理、非言語的問題解決 積木模様、行列推理、パズル
ワーキングメモリー WMI 聴覚的短期記憶、注意の制御 数唱、算数
処理速度 PSI 視覚的走査、運動速度、精神的処理速度 符号、記号探し

WISC-Vでは、WAIS-IVの4指標に加え、視空間指標(VSI: Visual Spatial Index)と流動性推理指標(FRI: Fluid Reasoning Index)が分離され、5因子構造が採用されている(ただし日本版WISC-Vは2022年刊行)。

知能検査の臨床的活用

知能検査は以下の臨床場面で活用される。

知的障害(intellectual disability)の判定: DSM-5-TRでは、知的障害の診断に(1) 知的機能の欠陥(IQおよそ70以下)、(2) 適応機能の欠陥、(3) 発達期における発症の3基準が求められる。IQ得点は判断材料の一つであり、適応行動の評価(Vineland-II適応行動尺度など)と併せて総合的に判定する。DSM-5-TRでは知的障害の重症度を適応機能の水準に基づいて分類しており、IQ値のみでの機械的な重症度判定は行わない。

学習障害(learning disability)/ 限局性学習症の査定: 指標得点間のディスクレパンシー(discrepancy)——例えばVCIとPRIの間の有意な差——は、特異的な認知的強みと弱みのプロファイルを示しうる。ただし、ディスクレパンシーモデルに基づく学習障害の同定は近年批判を受けており、介入への反応(RTI: Response to Intervention)モデルとの併用が推奨される。

神経心理学的スクリーニング: 指標得点のプロファイル分析は、認知機能の不均一性を検出する手がかりとなる。例えば、VCIが高くPSIが顕著に低いパターンは、処理速度の選択的低下を示唆し、注意欠如・多動症(ADHD)や脳損傷後の評価において参考情報となりうる。

発達検査

乳幼児を対象とする発達検査は、知能検査とは異なり、運動・言語・社会性・認知の各発達領域を包括的に評価する。

新版K式発達検査: 日本で広く使用される発達検査であり、姿勢-運動、認知-適応、言語-社会の3領域について発達指数(DQ: developmental quotient)を算出する。生後0か月から成人まで適用可能であり、日本の乳幼児健診や療育場面で標準的に用いられる。

Bayley-III(ベイリー乳幼児発達検査 第3版): 国際的に広く使用される乳幼児発達検査(1〜42か月)であり、認知、言語(受容・表出)、運動(粗大・微細)の各領域について標準化得点を算出する。


神経心理学的検査

神経心理学的検査(neuropsychological test)は、脳損傷や神経疾患による認知機能障害を検出・特定するための検査群である(→ Module 2-1, Section 3「神経科学的研究法」参照)。臨床神経心理学においては、個別の検査を組み合わせた検査バッテリー(test battery)の形で用いられることが多い。

Key Concept: 神経心理学的検査バッテリー(neuropsychological test battery) 注意、記憶、実行機能、言語、視空間機能など複数の認知領域をカバーする検査の組み合わせ。固定バッテリー(すべての患者に同一の検査セットを実施)と柔軟バッテリー(仮説に基づいて検査を選択)のアプローチがある。

代表的な神経心理学的検査

graph TD
    subgraph "主要な認知領域と代表的検査"
        EF["実行機能"] --> WCST["ウィスコンシンカード<br/>分類検査(WCST)"]
        EF --> TMT_B["Trail Making Test<br/>Part B"]
        ATT["注意・処理速度"] --> TMT_A["Trail Making Test<br/>Part A"]
        ATT --> Stroop["Stroop検査"]
        LAN["言語機能"] --> VF["言語流暢性検査"]
        MEM["記憶"] --> WMS["ウェクスラー<br/>記憶検査(WMS)"]
    end

ウィスコンシンカード分類検査(WCST: Wisconsin Card Sorting Test) は、前頭葉機能、とりわけ実行機能(executive function)の評価に用いられる代表的な検査である。被検者は、色・形・数の3つの分類基準のうちいずれかに従ってカードを分類するが、正解の基準は予告なく変更される。被検者は試行錯誤を通じて新しい基準を発見し、以前の基準への固着(perseveration)を克服しなければならない。保続エラー(perseverative errors)の増加は前頭葉機能障害、特に背外側前頭前皮質の障害を示唆する。

Trail Making Test(TMT) は注意機能と実行機能の簡便な評価法である。Part Aでは数字を順番(1→2→3→…)にできるだけ早く線で結ぶ(視覚的走査と処理速度の評価)。Part Bでは数字とひらがな(英語版ではアルファベット)を交互に結ぶ(1→あ→2→い→…)。Part Bは認知的柔軟性(cognitive flexibility)と注意の切り替え(set shifting)を要求するため、Part AとPart Bの所要時間の差分は実行機能の指標として用いられる。

Stroop検査(Stroop test) は、干渉制御(interference control)——優勢反応を抑制する能力——を測定する。色名が異なる色のインクで印刷された刺激(例:「あか」が青色のインクで印刷)に対し、インクの色を命名する課題では、自動的な読字反応を抑制する必要がある。この課題での反応時間の増大とエラー率はStroop干渉(Stroop interference)と呼ばれ、前頭前皮質に関連する抑制機能を反映する。

言語流暢性検査(verbal fluency test) には、指定された頭文字で始まる単語をできるだけ多く産出する音韻性流暢性(phonemic fluency)課題と、指定されたカテゴリ(動物名など)に属する単語を産出する意味性流暢性(semantic fluency)課題がある。音韻性流暢性は前頭葉機能、意味性流暢性は側頭葉の意味記憶に関連するとされ、両課題の成績の乖離パターンは障害の局在に関する情報を提供しうる。

固定バッテリーと柔軟バッテリー

固定バッテリーアプローチ(例: ハルステッド-レイタン神経心理学的バッテリー)では、すべての患者に同一の検査セットを実施する。包括的なデータが得られ、標準的な比較が可能であるが、実施時間が長い(6〜8時間)という問題がある。柔軟バッテリーアプローチ(ボストン・プロセスアプローチ)では、臨床的仮説に基づいて検査を選択・構成する。効率的であるが、検査者の臨床判断に依存する程度が大きい。現在の臨床実践では、中核的な検査セット(注意・記憶・実行機能・言語・視空間の各領域を最低限カバー)を基盤とし、紹介理由や臨床的仮説に応じて追加検査を選択する折衷的アプローチが一般的である。


行動観察と機能分析

心理的アセスメントは面接や検査場面に限定されない。実際の生活場面における行動の直接観察と、行動の生起・維持メカニズムを分析する機能分析(functional analysis)は、特に行動療法的アプローチにおいて中核的な評価方法である。

Key Concept: 機能分析(functional analysis) 問題行動がどのような環境的文脈で生起し、どのような結果によって維持されているかを分析する手法。先行事象(Antecedent)-行動(Behavior)-結果(Consequence)のABC分析を基本とする。

ABC分析

ABC分析(ABC analysis)は、行動の機能的関係を特定するための基本的枠組みである。

sequenceDiagram
    participant A as 先行事象(A)
    participant B as 行動(B)
    participant C as 結果(C)
    A->>B: 引き金となる環境的事象
    B->>C: 行動の生起
    C->>B: 結果が行動を強化/弱化
    Note over A,C: この三項随伴性(three-term contingency)の<br/>分析が機能分析の基本単位

例えば、教室場面における問題行動を分析する場合、先行事象(教師が課題を指示する)→行動(児童が大声を出す)→結果(課題から免除される)という三項随伴性を特定することで、行動の機能(この場合は「逃避」)を推定できる。

行動の4機能

問題行動は、それが環境との相互作用においてどのような機能を果たしているかによって維持される。行動の機能は一般に以下の4類型に整理される。

機能 説明
注目獲得(attention) 他者からの注目を得る 授業中に離席し教師の注意を引く
逃避・回避(escape/avoidance) 嫌悪的状況から離れる・避ける 課題が難しいとき自傷行為をして課題が中断される
自己刺激(automatic/sensory) 感覚的な刺激を得る 一人でいるときに身体を揺する
要求充足(tangible) 物品や活動へのアクセスを得る かんしゃくを起こして欲しい玩具を得る

Key Concept: 行動の4機能(four functions of behavior) 問題行動を維持する強化随伴性の分類。注目獲得、逃避・回避、自己刺激(感覚強化)、要求充足の4類型。同じトポグラフィ(外形)の行動であっても、機能が異なれば介入方針は全く異なる。

行動の機能の特定は、効果的な介入計画の立案に不可欠である。例えば、注目獲得機能を持つ問題行動に対しては計画的無視(planned ignoring)と適切な行動への注目が有効であるが、逃避機能を持つ行動に計画的無視を適用すると問題行動が悪化する可能性がある。このように、行動の形態(topography)ではなく機能に基づいた介入方針の決定が、行動論的アセスメントの根幹をなす。

行動観察の方法

行動観察には複数の方法論がある。

構造化された行動観察: 事前に操作的に定義された行動カテゴリ(例: 離席、他者への攻撃行動、課題従事)について、体系的な記録方法を用いて観察する。頻度記録(frequency recording)、持続時間記録(duration recording)、時間標本法(time sampling)、モーメンタリータイムサンプリング(momentary time sampling)などの記録法がある。

アナログ機能分析: ブライアン・イワタ(Brian Iwata)らが開発した実験的手法であり、注目条件・逃避条件・単独条件・統制条件を操作的に設定し、各条件下での問題行動の生起率を比較することで行動の機能を実験的に同定する。自然観察よりも統制された推論が可能であるが、実施に時間と専門的訓練を要する。

セルフモニタリング(self-monitoring): クライエント自身が自らの行動、思考、感情、身体感覚を系統的に記録する方法。認知行動療法においてはセルフモニタリングシートや行動記録表が標準的なアセスメントツールとして用いられる。自己報告であるため反応性(reactivity)——観察すること自体が行動を変容させる効果——が生じうるが、むしろこの反応性を治療的に活用する場合もある。


まとめ

  • 臨床面接は心理的アセスメントの基盤であり、構造化の程度(非構造化・半構造化・構造化)によって臨床的柔軟性と診断信頼性のバランスが異なる。SCID-5やMINIに代表される半構造化面接は、両者を折衷する実用的な選択肢である
  • 心理検査の臨床的使用では、信頼性・妥当性に加えて、感度・特異度・カットオフ値といった臨床的有用性の指標が重要となる。有病率が陽性的中率に影響するベイズ的推論の理解は、検査結果の適切な解釈に不可欠である
  • ウェクスラー式知能検査(WAIS-IV, WISC-V)は全検査IQと複数の指標得点を提供し、認知機能のプロファイル分析を可能にする。知的障害の判定にはIQ値と適応行動の評価の両方が必要である
  • 神経心理学的検査(WCST, TMT, Stroop検査, 言語流暢性検査など)は、実行機能・注意・言語などの認知領域の障害を特定する。固定バッテリーと柔軟バッテリーの折衷的運用が現在の標準である
  • 行動観察と機能分析は、ABC分析を基盤として問題行動の機能(注目獲得、逃避・回避、自己刺激、要求充足)を特定し、機能に基づいた介入計画の立案を可能にする

Module 2-5 全体の総括

本モジュールでは、臨床心理学・異常心理学の主要な領域を5つのセクションにわたって概観した。Section 1では「異常」とは何かという根本的問いを検討し、診断分類体系(DSM-5-TR, ICD-11)の構造と限界、カテゴリカルアプローチとディメンショナルアプローチの対立を整理した。Section 2ではこの分類枠組みに沿って主要な精神障害の臨床像・疫学・経過を学び、Section 3ではそれらの障害がなぜ生じるのかを生物学的・心理学的・社会的モデルから多角的に検討した。Section 4では障害への介入としての心理療法の理論・技法・エビデンスを扱い、エビデンスに基づく実践(EBP)の枠組みを導入した。そして本セクションでは、臨床実践における情報収集と意思決定の基盤となるアセスメントの方法論を検討した。

これら5つのセクションは相互に密接に関連している。適切なアセスメント(Section 5)に基づいて診断(Section 1, 2)を行い、理論モデル(Section 3)に基づく事例概念化を経て、エビデンスに基づく心理療法(Section 4)へとつなげるという一連のプロセスが臨床心理学の実践構造を形成している。

なお、日本においては2017年に公認心理師法が施行され、心理的アセスメントは公認心理師の主要業務として明示されている(公認心理師法第2条)。科学者-実践者モデル(scientist-practitioner model)に基づき、心理測定学的根拠を踏まえたアセスメントの実施と、その結果に基づく科学的根拠のある支援の提供が求められている。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
臨床面接 clinical interview クライエントと臨床家が対面し、言語的・非言語的コミュニケーションを通じて臨床的情報を収集する方法
SCID-5 Structured Clinical Interview for DSM-5 DSM-5の診断基準に準拠した半構造化面接
MINI Mini-International Neuropsychiatric Interview 短時間で実施可能な半構造化診断面接
信頼性 reliability 測定の一貫性・安定性を示す指標
妥当性 validity 測定が意図した対象を実際に測定している程度
感度 sensitivity 疾患ありを正しく陽性と判定する割合(真陽性率)
特異度 specificity 疾患なしを正しく陰性と判定する割合(真陰性率)
カットオフ値 cutoff score 陽性/陰性を分ける閾値
ROC曲線 receiver operating characteristic curve 感度と偽陽性率の関係を示す曲線
増分妥当性 incremental validity 検査の追加により予測がどの程度改善するかを示す概念
全検査IQ Full Scale IQ (FSIQ) ウェクスラー式知能検査における全般的知的機能の指標
発達指数 developmental quotient (DQ) 発達検査における発達水準の指標
WCST Wisconsin Card Sorting Test 実行機能(概念形成、柔軟性、保続)を評価する検査
TMT Trail Making Test 注意機能と認知的柔軟性を評価する検査
Stroop検査 Stroop test 干渉制御(優勢反応の抑制)を測定する検査
機能分析 functional analysis 行動の先行事象・結果との関係を分析し行動の機能を特定する手法
ABC分析 ABC analysis 先行事象(A)-行動(B)-結果(C)の三項随伴性を分析する枠組み
セルフモニタリング self-monitoring クライエント自身が自らの行動・思考・感情を系統的に記録する方法
公認心理師 certified public psychologist 日本における心理職の国家資格(2017年法施行)

確認問題

Q1: 半構造化面接(SCID-5など)が、非構造化面接や完全な構造化面接と比較してどのような利点を持つか、診断の信頼性と臨床的柔軟性の観点から説明せよ。 A1: 非構造化面接はクライエントの語りに柔軟に追随できるが、質問内容が面接者に依存するため評価者間信頼性が低くなりやすい。完全な構造化面接は質問が標準化されているため高い信頼性を持つが、臨床場面での柔軟性に欠ける。半構造化面接(SCID-5など)は、カバーすべき診断基準の質問枠組みを規定しつつフォローアップ質問の余地を残すことで、診断の信頼性を高めながら臨床的柔軟性も維持する折衷的アプローチである。

Q2: 有病率が低い集団でスクリーニング検査を実施した場合、感度と特異度がともに90%であっても陽性的中率が低くなる理由をベイズの定理の観点から説明せよ。 A2: 有病率が低い集団では、検査の対象となる「真に疾患を持つ人」の絶対数が少ない。感度90%はその少数の真陽性を捕捉するが、特異度90%は圧倒的多数の健常者の10%を偽陽性とする。有病率が例えば1%の場合、1000人中10人が真の陽性(うち9人が検出)、990人の健常者のうち99人が偽陽性となる。よって陽性判定者108人中、真の陽性はわずか9人(陽性的中率≈8.3%)となる。このように、有病率が低いほど偽陽性の絶対数が真陽性を大幅に上回り、陽性的中率が低下する。

Q3: WAIS-IVの4つの指標得点(VCI, PRI, WMI, PSI)がそれぞれどのような認知機能を測定しているかを説明し、プロファイル分析が臨床的に有用となる場面の例を一つ挙げよ。 A3: VCI(言語理解指標)は結晶性知能・語彙・言語的概念形成を、PRI(知覚推理指標)は流動性推理・視空間処理を、WMI(ワーキングメモリー指標)は聴覚的短期記憶・注意制御を、PSI(処理速度指標)は視覚的走査・精神的処理速度を測定する。プロファイル分析が有用な例として、ADHDの評価が挙げられる。VCIやPRIは平均以上であるにもかかわらずWMIやPSIが顕著に低いパターンは、注意機能・処理速度の選択的な困難を示唆し、ADHDの認知的特徴と一致する可能性がある。

Q4: 行動の4機能(注目獲得、逃避・回避、自己刺激、要求充足)の概念を説明し、行動の機能を正確に特定することが効果的な介入計画の立案にとってなぜ重要であるかを、具体例を用いて論じよ。 A4: 行動の4機能は、問題行動がどのような強化随伴性によって維持されているかの分類である。同一の外形(トポグラフィ)の行動であっても機能が異なれば有効な介入は全く異なる。例えば、授業中の離席行動について、注目獲得機能であれば離席時の注目を撤去し着席時に注目を与える介入が有効であるが、逃避機能(難しい課題から逃れるため)であれば課題の難易度調整や段階的な課題提示が必要となる。逃避機能を持つ行動に注目の撤去(計画的無視)を行うと、課題からの逃避が達成されるため行動がむしろ強化される可能性がある。したがって、形態ではなく機能に基づいた介入方針の決定が不可欠である。

Q5: 日本の臨床実践において、新版K式発達検査とウェクスラー式知能検査はそれぞれどのような対象・場面で主に使用されるか。両者の測定対象と適用年齢の違いを踏まえて説明せよ。 A5: 新版K式発達検査は生後0か月から成人まで適用可能であるが、主に乳幼児期の発達評価に用いられる。姿勢-運動、認知-適応、言語-社会の3領域を包括的に評価し、発達指数(DQ)を算出する。乳幼児健診、療育機関での発達評価、早期介入の判断に広く使用される。一方、ウェクスラー式知能検査(WISC-V: 6〜16歳、WAIS-IV: 16歳以上)は、全検査IQと複数の指標得点による認知機能のプロファイル分析が可能であり、学齢期以降の知的障害の判定、学習障害の査定、神経心理学的スクリーニングに活用される。両者は測定対象(発達水準の包括的評価 vs 認知機能のプロファイル分析)と適用年齢帯が異なり、対象児・者の発達段階と評価目的に応じて使い分けられる。