コンテンツにスキップ

Module 3-3 - Section 2: リーダーシップ

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-3: 産業・組織心理学
前提セクション なし
想定学習時間 4時間

導入

リーダーシップ(leadership)は産業・組織心理学における中核的テーマの一つであり、組織の成果や構成員の行動・態度を規定する重要な変数として長年にわたり研究されてきた。リーダーシップ研究の歴史は、大きく4つの系譜に分けられる。第1に、リーダーに固有の特性を同定しようとする特性アプローチ(trait approach)、第2に、リーダーの行動パターンに注目する行動アプローチ(behavioral approach)、第3に、リーダーシップの有効性が状況要因に依存するとする状況適合理論(contingency theory)、そして第4に、フォロワーの価値観や自己概念を変容させる変革型リーダーシップ(transformational leadership)の理論である。

これらのアプローチは相互排他的ではなく、時代とともに蓄積・統合されてきた。本セクションでは、各アプローチの理論的基盤、主要な実証的知見、および限界を順に検討し、リーダーシップ研究の全体像を把握する。なお、集団過程における社会的影響(同調、服従、集団分極化等)については Module 1-4, Section 4「社会的影響」および Section 5「対人関係と集団過程」で扱っているため、適宜参照されたい。


特性アプローチ

初期の特性研究

リーダーシップ研究の最も古い系譜は、リーダーになる人物に共通する個人特性を見出そうとする特性アプローチである。これは「偉人理論」(great man theory)とも呼ばれ、Thomas Carlyle(1841)の「世界の歴史は偉人の伝記にほかならない」という主張にまで遡ることができる。

Key Concept: 特性アプローチ(trait approach) リーダーシップの有効性が、リーダー個人の安定的な特性(知能、性格特性、身体的特徴など)によって規定されるとする立場。リーダーとそうでない者を弁別する普遍的特性を同定することを目指す。

初期の研究では、知能、支配性、自信、社交性、身体的特徴(身長など)がリーダーの特性として検討された。しかし、Ralph Stogdill(1948)は124の特性研究をレビューし、ある状況でリーダーシップと関連する特性が別の状況では関連しないことを指摘した。この結論は特性アプローチへの信頼を大きく損なわせ、研究の焦点は行動アプローチや状況論へと移行した。

特性研究の再評価

特性アプローチは一時衰退したが、メタ分析手法の発達とビッグファイブ・パーソナリティモデル(Big Five personality model)の普及に伴い、再評価が進んでいる。

Timothy Judgeら(2002)は、ビッグファイブとリーダーシップの関係を78研究のメタ分析で検討した。その結果、外向性(extraversion)がリーダーシップの出現(leader emergence)および有効性(leader effectiveness)の最も一貫した予測因であることが示された(重回帰係数 β = .31)。次いで、誠実性(conscientiousness)と経験への開放性(openness to experience)が有意な予測因であった。協調性(agreeableness)の効果は小さく、神経症傾向(neuroticism)は負の関連を示した。

ビッグファイブ特性 リーダーシップとの関連
外向性 最も強い正の関連。リーダーの出現と有効性の両方を予測
誠実性 正の関連。課題遂行と責任感を通じて有効性に寄与
経験への開放性 正の関連。創造性と変革志向に関連
協調性 効果は小さい。過度の協調性はリーダーシップの出現を妨げうる
神経症傾向 負の関連。情緒不安定性がリーダーの有効性を低下させる

さらにJudge, Colbert, & Ilies(2004)のメタ分析は、知能(intelligence)がリーダーシップの有効性と正の相関を持つが、その効果量は中程度(r = .27)にとどまることを示した。知能が高すぎるとフォロワーとの認知的ギャップが生じ、コミュニケーションの困難につながる可能性も示唆されている。

特性アプローチの意義と限界

特性アプローチの現代的な意義は、リーダーシップの「必要条件」を同定する点にある。特定の特性はリーダーシップの出現や有効性を確率的に高めるが、どのような状況でも有効な普遍的リーダー特性は存在しないという Stogdill の指摘は依然として妥当である。特性は「誰がリーダーになりやすいか」を部分的に説明するが、「どのようにリーダーシップを発揮すべきか」については行動アプローチや状況適合理論の知見が必要となる。

timeline
    title リーダーシップ研究の系譜
    1940s : 特性アプローチの隆盛
          : Stogdill(1948)のレビュー
    1950s-1960s : 行動アプローチへの転換
               : Ohio州立大学研究・Michigan研究
               : PM理論(三隅, 1966)
    1960s-1970s : 状況適合理論の展開
               : Fiedler(1967)
               : Hersey & Blanchard(1969)
    1980s-現在 : 変革型リーダーシップ
             : Burns(1978) Bass(1985)
             : 特性研究の再評価

行動アプローチ

Ohio州立大学研究

特性アプローチの限界を受けて、1950年代以降、リーダーシップ研究の焦点は「リーダーがどのような人物か」から「リーダーが何をするか」へと移行した。行動アプローチの先駆的研究はOhio州立大学で実施された。

Key Concept: 行動アプローチ(behavioral approach) リーダーの行動パターンに焦点を当て、有効なリーダーシップ行動を同定しようとする立場。リーダーの行動を記述・分類し、組織成果との関係を検討する。

Ohio州立大学の研究グループ(Ralph Stogdill, Carroll Shartle, John Hemphillら、1950年代)は、LBDQ(Leader Behavior Description Questionnaire)を開発し、多様な組織場面でリーダー行動の因子分析を実施した。その結果、リーダー行動は2つの独立した次元に集約された。

Key Concept: 構造づくり(initiating structure) 課題達成に向けて役割を明確化し、手続きを確立し、業績基準を設定するリーダー行動。計画立案、スケジューリング、作業方法の指示などが含まれる。

Key Concept: 配慮(consideration) フォロワーとの信頼関係を構築し、フォロワーの感情や福利に関心を示すリーダー行動。傾聴、支持、承認、参加的意思決定などが含まれる。

重要な点は、構造づくりと配慮が独立した次元であり、一方が高くても他方が低いとは限らないことである。両方が高いリーダーが最も有効であるという知見が多いが、状況によって各次元の相対的重要性は異なる。

Michigan大学研究

同時期にMichigan大学のRensis Likert(1961)らも独自のリーダーシップ研究を展開した。Michigan研究では、高業績集団と低業績集団のリーダーの行動を比較し、2つのリーダーシップ・スタイルを見出した。

  • 従業員志向型(employee-oriented): フォロワーの人間関係や個人的ニーズに関心を向けるスタイル。Ohio研究の「配慮」に概念的に対応する
  • 生産志向型(production-oriented): 課題の技術的側面や業績基準に関心を向けるスタイル。Ohio研究の「構造づくり」に概念的に対応する

Michigan研究では、従業員志向型のリーダーのもとで従業員の満足度と生産性がともに高い傾向が見出された。ただし、Ohio研究と異なり、Michigan研究は当初これら2つのスタイルを連続体の両極として概念化しており(一方が高ければ他方が低い)、後に独立次元として修正された。

PM理論

日本の社会心理学者である三隅二不二(Misumi Jyuji, 1966)は、日本の産業組織を対象とした大規模な実証研究に基づき、PM理論(PM Theory of Leadership)を提唱した。

Key Concept: PM理論(PM Theory of Leadership) 三隅二不二が提唱したリーダーシップの行動理論。リーダーシップ行動を、集団の目標達成機能(P: Performance function)と集団維持機能(M: Maintenance function)の2次元で捉え、両機能の高低の組み合わせによりリーダーシップ類型を分類する。

P機能は課題遂行を促進する行動であり、目標設定、計画立案、作業指示、業績評価などが含まれる。M機能は集団の人間関係を維持・強化する行動であり、対人関係の調整、緊張の緩和、メンバーへの配慮などが含まれる。概念的にはOhio研究の構造づくり・配慮に対応するが、三隅はこれらを日本の組織文脈で独自に実証的に導出した。

PM理論の重要な特徴は、P機能とM機能の大文字・小文字表記によって4類型を区別する点である。

類型 P機能 M機能 特徴
PM型 目標達成と集団維持の両方を高水準で遂行。最も有効
Pm型 目標達成は促進するが人間関係への配慮が不足
pM型 人間関係は良好だが目標達成が不十分
pm型 両機能とも不十分。最も非有効

三隅と関連する研究者らの大規模調査は、PM型リーダーのもとで従業員の職務満足度、モラール、生産性が最も高いことを一貫して示した。この知見は製造業、サービス業、教育組織など多様な組織で確認されている。

PM理論とOhio/Michigan研究の概念的対応を以下に示す。

graph LR
    subgraph "Ohio州立大学研究"
        A["構造づくり"]
        B["配慮"]
    end
    subgraph "Michigan大学研究"
        C["生産志向型"]
        D["従業員志向型"]
    end
    subgraph "PM理論"
        E["P機能"]
        F["M機能"]
    end
    A -.- C
    A -.- E
    B -.- D
    B -.- F

行動アプローチの意義と限界

行動アプローチは、リーダーシップを「学習可能な行動」として捉える視点を確立した。これはリーダーシップ開発(leadership development)の理論的基盤を提供する点で実践的意義が大きい。すなわち、リーダーは生まれつきの特性によってのみ決まるのではなく、適切な行動パターンの習得によって育成可能であるという含意である。

しかし、行動アプローチは「どのような状況でどの行動が有効か」という問いに十分に答えられなかった。構造づくりと配慮の両方が高ければ常に有効であるという単純な結論は、実証研究の蓄積によって必ずしも支持されなかった。この限界が、次に述べる状況適合理論の発展を促すことになる。


状況適合理論

Fiedlerの条件即応モデル

状況適合理論(contingency theory)は、リーダーシップの有効性が状況要因に依存することを体系的に理論化したアプローチである。Fred Edward Fiedler(1967)の条件即応モデル(contingency model)はその代表的な理論である。

Key Concept: Fiedlerの条件即応モデル(Fiedler's contingency model) リーダーシップの有効性が、リーダーのスタイル(課題動機型/関係動機型)と状況の統制可能性(状況好意性)の適合によって決まるとするモデル。

Fiedlerはリーダーシップ・スタイルをLPC(Least Preferred Coworker)得点によって測定する。LPC尺度は「これまで最も一緒に仕事をしにくかった同僚」を評定させるもので、高LPC得点のリーダーは最も苦手な同僚に対しても比較的好意的に評定する関係動機型(relationship-motivated)であり、低LPC得点のリーダーは課題動機型(task-motivated)とされる。

状況の好意性(situational favorableness)は以下の3変数によって規定される。

  1. リーダー・メンバー関係(leader-member relations): リーダーがフォロワーから信頼・好意を得ている程度(最も重要な変数)
  2. 課題構造(task structure): 課題が明確に構造化されている程度
  3. 地位権力(position power): リーダーの公式的権限の強さ

Fiedlerのモデルの核心的予測は以下の通りである。

  • 状況好意性が非常に高い場合(良好な関係、構造化された課題、強い権限)、および非常に低い場合(悪い関係、非構造化課題、弱い権限)には、課題動機型(低LPC)リーダーが有効である
  • 状況好意性が中程度の場合には、関係動機型(高LPC)リーダーが有効である
graph TD
    subgraph "Fiedlerの条件即応モデル"
        A["状況好意性"] --> B{"好意性の水準"}
        B -->|"高い"| C["課題動機型が有効"]
        B -->|"中程度"| D["関係動機型が有効"]
        B -->|"低い"| E["課題動機型が有効"]
    end
    subgraph "状況好意性の決定因"
        F["リーダー・メンバー関係"] --> A
        G["課題構造"] --> A
        H["地位権力"] --> A
    end

Fiedlerのモデルに対しては複数の批判がある。第1に、LPC得点の概念的意味が不明確である。第2に、LPC得点は安定的な個人特性と仮定されるため、リーダーは状況に合わせてスタイルを変えるのではなく、リーダーに合った状況を選ぶべきだという実践的含意が非現実的とも批判される。第3に、実証的な支持は一貫せず、メタ分析の結果も解釈が分かれている。

Hersey & Blanchardの状況的リーダーシップ理論

Paul HerseyとKenneth Blanchard(1969, 1977)の状況的リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory: SLT)は、フォロワーの成熟度(maturity)に応じてリーダーシップ・スタイルを変えるべきだとする理論である。実務界での普及度は極めて高い。

Key Concept: 状況的リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory) フォロワーの課題に対するレディネス(能力と意欲の組み合わせ)に応じて、リーダーが指示的行動と支援的行動のバランスを変えるべきだとする理論。

フォロワーのレディネス(readiness、後に開発レベル development levelと改称)は以下の4段階に区分される。

レディネス 能力 意欲・自信 対応するリーダーシップ・スタイル
R1(低) 低い 低い S1: 教示型(telling/directing)— 高指示・低支援
R2 低い 高い S2: 説得型(selling/coaching)— 高指示・高支援
R3 高い 低い/不安定 S3: 参加型(participating/supporting)— 低指示・高支援
R4(高) 高い 高い S4: 委任型(delegating)— 低指示・低支援

この理論の直感的な魅力は明確である。新しい課題に取り組むフォロワーには具体的な指示が必要であり、十分な能力と意欲を備えたフォロワーには権限委譲が適切であるという主張は、実務家にとって理解しやすい。しかし、学術的にはSLTの実証的支持は限定的である。Claude Graen(1976)やGary Yukl(2013)らはSLTの概念的曖昧さ(レディネスの操作的定義の不明確さ)と実証的基盤の弱さを批判している。

Houseのパス・ゴール理論

Robert House(1971)のパス・ゴール理論(path-goal theory)は、Victor Vroomの期待理論(expectancy theory)をリーダーシップに応用したものである。リーダーの役割は、フォロワーが目標(goal)に到達する経路(path)を明確にし、その経路を歩むことの魅力を高めることにあるとする。

Houseは4つのリーダー行動を区別した。

  1. 指示的リーダーシップ(directive): 期待される行動を明示し、スケジュールや手続きを設定
  2. 支援的リーダーシップ(supportive): フォロワーの福利やニーズに配慮
  3. 参加的リーダーシップ(participative): 意思決定にフォロワーを参加させる
  4. 達成志向型リーダーシップ(achievement-oriented): 高い目標を設定し、フォロワーの能力への信頼を示す

パス・ゴール理論の予測は、フォロワーの特性(能力、統制の所在など)と環境的要因(課題構造、権限体系、作業集団の特性)の交互作用に基づく。例えば、課題が曖昧なときには指示的リーダーシップがフォロワーの経路を明確化するため有効だが、課題が既に明確な場合には指示的行動は冗長となりフォロワーの不満を招く。


変革型リーダーシップとトランザクショナル・リーダーシップ

概念の起源

James MacGregor Burns(1978)は『Leadership』において、リーダーシップを2つの基本的な類型に区分した。トランザクショナル・リーダーシップ(transactional leadership)と変革型リーダーシップ(transformational leadership)である。この区分は、後にBernard Bass(1985)によって精緻化され、組織心理学における最も影響力のあるリーダーシップ理論の一つとなった。

Key Concept: トランザクショナル・リーダーシップ(transactional leadership) リーダーとフォロワーの間の交換関係に基づくリーダーシップ。リーダーは業績に応じた報酬を提供し、逸脱を修正する。既存のシステム内での効率的な運営を志向する。

Key Concept: 変革型リーダーシップ(transformational leadership) フォロワーの価値観、信念、ニーズを変容させ、個人的利益を超えた集団や組織の目標のために行動するよう動機づけるリーダーシップ。組織変革や革新を志向する。

Burnsの原型的な構想ではこれら2類型は連続体の両極として位置づけられたが、Bassは両者が独立した次元であり、有効なリーダーは両方の要素を併せ持つと主張した。

Bassのフルレンジ・リーダーシップモデル

Bass(1985)およびBass & Avolio(1994)は、フルレンジ・リーダーシップモデル(Full Range Leadership Model)を体系化した。このモデルは以下の3カテゴリ、9つの下位要素から構成される。

変革型リーダーシップの4要素(4I's):

  1. 理想化された影響力(Idealized Influence: II): リーダーがフォロワーの尊敬と信頼を獲得し、ロールモデルとして機能する。倫理的行動の体現、自己犠牲、ビジョンの提示が含まれる
  2. 鼓舞的動機づけ(Inspirational Motivation: IM): 魅力的なビジョンを示し、高い期待を伝え、共有目標への情熱を喚起する。シンボル、メタファー、感情的訴えが用いられる
  3. 知的刺激(Intellectual Stimulation: IS): フォロワーの創造性と革新性を刺激し、既存の前提を疑問視することを奨励する。フォロワーの誤りを公然と批判しない
  4. 個別的配慮(Individualized Consideration: IC): フォロワー一人ひとりのニーズ、能力、志向に注意を払い、メンタリングやコーチングを通じて個人の成長を支援する

トランザクショナル・リーダーシップの2要素:

  1. 条件的報酬(Contingent Reward: CR): 業績目標と報酬の交換関係を明確化し、目標達成に対して約束通りの報酬を提供する
  2. 例外管理(Management by Exception): 基準からの逸脱が生じた場合に介入する。能動的(active)は問題を事前に監視し逸脱を防止する、受動的(passive)は問題が顕在化してから対処する

非リーダーシップ:

  1. 放任型(Laissez-Faire): リーダーシップ行動の欠如。意思決定の回避、責任の放棄、フォロワーへの不介入

このモデルはMLQ(Multifactor Leadership Questionnaire)によって測定される。MLQは世界中で最も広く使用されているリーダーシップ測定尺度の一つであり、多数の言語に翻訳されている。

graph TD
    subgraph "フルレンジ・リーダーシップモデル"
        subgraph "変革型リーダーシップ(4I's)"
            A["理想化された影響力 (II)"]
            B["鼓舞的動機づけ (IM)"]
            C["知的刺激 (IS)"]
            D["個別的配慮 (IC)"]
        end
        subgraph "トランザクショナル・リーダーシップ"
            E["条件的報酬 (CR)"]
            F["例外管理・能動的 (MBE-A)"]
            G["例外管理・受動的 (MBE-P)"]
        end
        subgraph "非リーダーシップ"
            H["放任型 (LF)"]
        end
    end
    A --> I["フォロワーの態度・行動・成果"]
    B --> I
    C --> I
    D --> I
    E --> I
    F --> I
    G -.->|"消極的効果"| I
    H -.->|"負の効果"| I

変革型リーダーシップの実証的知見

変革型リーダーシップの有効性は、多数のメタ分析によって支持されている。Judge & Piccolo(2004)は87研究のメタ分析を実施し、リーダーシップの下位要素と成果基準の関係を検討した。

リーダーシップ要素 フォロワー満足度との相関 リーダー有効性との相関
変革型リーダーシップ(全体) .71 .44
条件的報酬 .64 .39
例外管理・能動的 .05 .15
例外管理・受動的 -.18 -.16
放任型 -.28 -.37

注目すべき知見として、条件的報酬(トランザクショナル)もフォロワー満足度やリーダー有効性と相当程度の正の相関を示すことが挙げられる。Bassの主張通り、有効なリーダーシップはトランザクショナルの基盤の上に変革型の要素を付加したものと理解できる。これを「増分効果」(augmentation effect)と呼び、変革型リーダーシップがトランザクショナル・リーダーシップの効果を超えて追加的な成果を生むことが実証されている。

変革型リーダーシップの限界と批判

変革型リーダーシップ理論に対してはいくつかの批判が存在する。

第1に、概念の曖昧性の問題がある。変革型リーダーシップの4要素間の弁別妥当性は必ずしも高くなく、因子分析で4因子構造が再現されない研究もある。高次因子としての変革型リーダーシップが実質的に単一因子である可能性も指摘されている。

第2に、英雄的リーダーシップへの偏重という批判がある。変革型リーダーシップ理論はカリスマ的なリーダー個人に焦点を当てすぎており、フォロワーシップ、リーダー・メンバー間の関係性、組織構造的要因を軽視しているとの指摘がある。

第3に、「暗黒面」の問題がある。変革型リーダーシップの構成要素(特にカリスマ性)は、倫理的目的にも非倫理的目的にも使用されうる。Bassは「真正な変革型リーダーシップ」(authentic transformational leadership)と「疑似変革型リーダーシップ」(pseudo-transformational leadership)を区別し、後者は自己利益のためにフォロワーを操作するリーダーを指すとした。


リーダーシップ研究の統合的理解

各アプローチの関係

本セクションで検討した4つのアプローチは、リーダーシップの異なる側面を照射するものであり、相互に補完的である。

  • 特性アプローチ: 誰がリーダーになりやすいか(リーダーの出現を予測)
  • 行動アプローチ: リーダーは何をするか(有効な行動パターンの同定)
  • 状況適合理論: いつ特定の行動が有効か(状況とスタイルのマッチング)
  • 変革型理論: リーダーはフォロワーをどう変えるか(価値観・自己概念の変容)

現代のリーダーシップ研究は、これらの要素を統合的に扱う方向に進んでいる。例えば、特定のパーソナリティ特性(外向性、経験への開放性)が変革型リーダーシップ行動を予測し、その効果が状況変数(組織の変革ニーズ、フォロワーの特性)によって調整されるという包括的なモデルが検討されている。

LMX理論

上述の4アプローチに加え、George Graen & Mary Uhl-Bien(1995)のリーダー・メンバー交換理論(Leader-Member Exchange Theory: LMX)は、リーダーシップを「リーダーとフォロワーの二者関係の質」として捉える独自の視点を提供する。

Key Concept: LMX理論(Leader-Member Exchange Theory) リーダーがフォロワー全員に同一のスタイルで接するのではなく、個々のフォロワーと異なる質の交換関係を形成するとする理論。高質のLMX関係(内集団: in-group)では信頼、尊重、相互義務感が高く、低質のLMX関係(外集団: out-group)は公式的な職務関係にとどまる。

LMXの質は、フォロワーの職務満足度、組織コミットメント、職務成果、組織市民行動と正の相関を持つことがメタ分析で確認されている(Gerstner & Day, 1997; Ilies, Nahrgang, & Morgeson, 2007)。


まとめ

  • 特性アプローチは、外向性をはじめとするパーソナリティ特性がリーダーシップの出現と有効性を確率的に予測することをメタ分析で確認したが、普遍的なリーダー特性の同定には至っていない
  • 行動アプローチ(Ohio研究、Michigan研究、PM理論)は、課題志向と人間関係志向の2次元でリーダー行動を捉え、両方が高いリーダー(PM型)が最も有効であることを示した
  • 状況適合理論(Fiedlerモデル、SLT、パス・ゴール理論)は、リーダーシップの有効性が状況要因に依存することを理論化したが、実証的支持は理論によって強弱がある
  • 変革型リーダーシップは、トランザクショナル・リーダーシップの基盤の上に追加的な成果をもたらすことがメタ分析で支持されており、現代のリーダーシップ研究の中心的枠組みである
  • LMX理論はリーダー・フォロワー間の二者関係の質に焦点を当て、従来のアプローチを補完する視点を提供する

これらの理論は、次のSection 3「職場のストレスと健康」やSection 4「組織行動」で扱う組織コミットメント、職務満足度、組織市民行動の規定因としてのリーダーシップの役割を理解する基盤となる。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
特性アプローチ trait approach リーダー個人の安定的特性によってリーダーシップの有効性が規定されるとする立場
行動アプローチ behavioral approach リーダーの行動パターンに焦点を当て有効なリーダーシップ行動を同定する立場
構造づくり initiating structure 課題達成に向けた役割明確化・手続き確立・業績基準設定のリーダー行動
配慮 consideration フォロワーとの信頼関係構築・福利への関心を示すリーダー行動
PM理論 PM Theory of Leadership 三隅二不二が提唱した、P機能とM機能の2次元でリーダーシップを捉える理論
P機能 Performance function 集団の目標達成を促進するリーダー行動
M機能 Maintenance function 集団の人間関係を維持・強化するリーダー行動
条件即応モデル Fiedler's contingency model リーダーのスタイルと状況好意性の適合によって有効性が決まるとするモデル
LPC Least Preferred Coworker 最も一緒に仕事をしにくい同僚への評定。リーダーのスタイルを測定する指標
状況的リーダーシップ理論 Situational Leadership Theory フォロワーのレディネスに応じてリーダーシップ・スタイルを変えるべきとする理論
パス・ゴール理論 path-goal theory リーダーの役割をフォロワーの目標達成経路の明確化として捉える理論
変革型リーダーシップ transformational leadership フォロワーの価値観・信念を変容させ、個人的利益を超えた行動を動機づけるリーダーシップ
トランザクショナル・リーダーシップ transactional leadership リーダーとフォロワーの交換関係に基づくリーダーシップ
条件的報酬 contingent reward 業績目標と報酬の交換関係を明確化するリーダー行動
フルレンジ・リーダーシップモデル Full Range Leadership Model 変革型・トランザクショナル・放任型を包含するBass & Avolioのリーダーシップモデル
LMX理論 Leader-Member Exchange Theory リーダーとフォロワーの二者関係の質に焦点を当てるリーダーシップ理論

確認問題

Q1: 特性アプローチに対する主な批判と、近年のメタ分析によるその再評価の内容を説明せよ。

A1: Stogdill(1948)は124研究のレビューにより、リーダーシップと関連する特性が状況によって異なることを指摘し、普遍的なリーダー特性は存在しないと結論づけた。これにより特性アプローチの研究は一時衰退した。しかし、近年のメタ分析(Judge et al., 2002)はビッグファイブとリーダーシップの関係を検討し、外向性がリーダーシップの出現と有効性の最も一貫した予測因であること(β = .31)、次いで誠実性と経験への開放性が有意な予測因であることを示した。特性はリーダーシップを確率的に予測するが、「どのような状況でも有効な普遍的特性」ではなく「リーダーシップの出現を高める確率的な要因」として位置づけ直されている。

Q2: PM理論の4類型を説明し、Ohio州立大学研究の2次元との対応関係を述べよ。

A2: PM理論は三隅二不二が提唱した理論で、リーダーシップ行動をP機能(目標達成機能: 計画立案、作業指示、業績評価など)とM機能(集団維持機能: 対人関係の調整、メンバーへの配慮など)の2次元で捉える。両機能の高低により、PM型(両方高、最も有効)、Pm型(P高M低)、pM型(P低M高)、pm型(両方低、最も非有効)の4類型に分類される。Ohio研究の「構造づくり」はP機能に、「配慮」はM機能に概念的に対応する。いずれの研究も2次元を独立と仮定し、両方が高いリーダーが最も有効であるという知見で一致するが、PM理論は日本の組織文脈で独自に導出された点に特徴がある。

Q3: Fiedlerの条件即応モデルにおいて、状況好意性が「中程度」の場合に関係動機型リーダーが有効とされるのはなぜか。また、このモデルに対する主な批判を2つ挙げよ。

A3: 状況好意性が高い場合は課題遂行が容易であり、課題動機型リーダーの明確な方向づけが有効に機能する。状況好意性が低い場合も、困難な状況を統制するためには課題への集中が必要となる。一方、中程度の好意性では状況がある程度管理可能だが人間関係上の課題が残っており、フォロワーとの関係構築を重視する関係動機型リーダーの行動が集団の機能を高める。批判としては、(1) LPC得点の概念的意味が不明確で何を測定しているか議論がある点、(2) リーダーのスタイルが固定的な個人特性とされるため、状況に応じたスタイル変更が想定されておらず実践的適用が制限される点、が挙げられる。

Q4: 変革型リーダーシップの4つの構成要素(4I's)を説明し、トランザクショナル・リーダーシップとの「増分効果」について述べよ。

A4: 4I'sは、(1) 理想化された影響力(II): ロールモデルとしてフォロワーの尊敬・信頼を獲得、(2) 鼓舞的動機づけ(IM): ビジョンの提示と高い期待の伝達による情熱の喚起、(3) 知的刺激(IS): 既存の前提への疑問視と創造性の奨励、(4) 個別的配慮(IC): 個々のフォロワーのニーズに応じたメンタリング・コーチング、である。増分効果とは、変革型リーダーシップがトランザクショナル・リーダーシップ(特に条件的報酬)の効果の上に追加的な成果をもたらすことを指す。条件的報酬自体もフォロワー満足度やリーダー有効性と正の相関を示すが、変革型リーダーシップはその効果を超えて、フォロワーの内発的動機づけ、組織コミットメント、組織市民行動などを高める。

Q5: LMX理論は従来のリーダーシップ研究とどのような点で異なる視点を提供しているか。その実証的知見も踏まえて説明せよ。

A5: 従来の特性・行動・状況適合・変革型の各アプローチは、リーダーがフォロワー集団全体に対して同一のスタイルで接することを暗黙に仮定していた。LMX理論はこの仮定を覆し、リーダーが個々のフォロワーと異なる質の二者関係を形成することに着目する。高質LMX(内集団)では信頼、尊重、相互義務感が高く、低質LMX(外集団)では公式的な職務関係にとどまる。メタ分析(Gerstner & Day, 1997; Ilies et al., 2007)は、LMXの質がフォロワーの職務満足度、組織コミットメント、職務成果、組織市民行動と正の相関を持つことを確認しており、リーダーシップを集団レベルではなく二者関係レベルで捉える視点の有用性を示している。