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Module 3-3 - Section 4: 組織行動

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-3: 産業・組織心理学
前提セクション なし
想定学習時間 5時間

導入

産業・組織心理学の前セクションまでで、個人レベルのワークモチベーション(Section 1)、リーダーシップ(Section 2)、職場のストレスと健康(Section 3)を扱ってきた。本セクションでは、分析の水準を個人から集団・組織レベルへと引き上げ、組織の中で人がどのように行動し、組織がどのように機能するかを検討する。

組織行動論(organizational behavior: OB)は、組織における人間行動を体系的に研究する学際的領域であり、心理学、社会学、経営学の知見を統合する。社会心理学(→ Module 1-4)で検討した態度形成、集団過程、社会的影響のメカニズムは、組織場面においても中核的な役割を果たす。本セクションでは、組織コミットメントと職務満足、組織市民行動、チームワークと集団意思決定、そして組織文化と変革という4つの主要トピックを扱う。


組織コミットメントと職務満足

組織コミットメント

Key Concept: 組織コミットメント(organizational commitment) 従業員が組織に対して抱く心理的な結びつきの総体。組織への帰属意識、組織のために努力しようとする意欲、組織に留まりたいという欲求を含む多次元的概念である。

組織コミットメント研究において最も影響力のある理論的枠組みは、John Meyer & Natalie Allen(1991)の3要素モデル(three-component model)である。このモデルは、コミットメントを単一の概念ではなく、質的に異なる3つの要素から成る構成体として捉える。

要素 定義 心理的基盤 典型的な内的表現
情緒的コミットメント(affective commitment) 組織への感情的愛着、一体感、関与 「したい」(want to) 「この組織が好きだ」
継続的コミットメント(continuance commitment) 離職に伴うコストの認知に基づく残留 「必要がある」(need to) 「辞めると失うものが多い」
規範的コミットメント(normative commitment) 組織に留まるべきだという義務感 「すべきだ」(ought to) 「恩義があるので辞められない」

3要素は相互に独立ではないが、それぞれ異なる先行要因をもち、異なるアウトカムと結びつく。メタ分析(Meyer et al., 2002)によれば、情緒的コミットメントは職務遂行、組織市民行動、ウェルビーイングと最も強い正の関連を示す。継続的コミットメントは職務遂行との関連が弱く、場合によっては負の関連を示すこともある。規範的コミットメントは情緒的コミットメントと中程度の正の相関を持ち、アウトカムとの関連パターンは情緒的コミットメントに類似する。

graph TD
    subgraph "Meyer & Allenの3要素モデル"
        AC["情緒的コミットメント<br/>「したい」"] --> OUT["組織コミットメント"]
        CC["継続的コミットメント<br/>「必要がある」"] --> OUT
        NC["規範的コミットメント<br/>「すべきだ」"] --> OUT
    end
    OUT --> R1["離職意図の低下"]
    OUT --> R2["職務遂行"]
    OUT --> R3["組織市民行動"]

情緒的コミットメントの先行要因としては、職務特性(自律性、フィードバック、課題の多様性)、組織的公正(後述)、リーダーとの関係の質(LMX理論; → Section 2参照)、組織支援の知覚(perceived organizational support: POS)などが同定されている。Robert Eisenberger ら(1986)が提唱したPOSは、組織が従業員の貢献を評価し、ウェルビーイングに配慮していると従業員が知覚する程度を指し、情緒的コミットメントの強力な予測因である。

職務満足

Key Concept: 職務満足(job satisfaction) 自分の仕事に対する全般的な評価的態度。仕事の様々な側面(仕事内容、報酬、同僚関係、昇進機会など)に対する認知的・感情的評価の総体である。

職務満足は産業・組織心理学において最も広く研究されてきた構成概念の一つである。態度の3成分モデル(→ Module 1-4, Section 3「態度と態度変容」参照)に照らせば、職務満足は仕事という対象に対する態度であり、認知的評価(仕事の条件や特性に関する判断)と感情的反応(仕事に対する快・不快の情動)の両側面を含む。

Edwin Locke(1976)の範囲-情動理論(range of affect theory)によれば、職務満足は、仕事の各側面に対して実際に得ている水準と望んでいる水準との乖離、およびその側面の重要性によって決定される。重要な側面における乖離が大きいほど、不満足が増大する。

組織的公正

Key Concept: 組織的公正(organizational justice) 組織における意思決定や資源配分の公正さに関する従業員の知覚。分配的公正、手続き的公正、対人的公正、情報的公正の4次元から構成される。

組織的公正は、職務満足と組織コミットメントの両方に強く影響する要因である。Jason Colquitt(2001)の4次元モデルに基づき、以下の次元が区別される。

公正の次元 焦点 理論的基盤
分配的公正(distributive justice) 結果の公正さ Adams(1965)の衡平理論 貢献に見合った報酬を受けているか
手続き的公正(procedural justice) 意思決定過程の公正さ Thibaut & Walker(1975); Leventhal(1980) 昇進の決定過程は透明で一貫しているか
対人的公正(interpersonal justice) 対人的処遇の質 Bies & Moag(1986) 上司は敬意をもって接しているか
情報的公正(informational justice) 説明の十分さ Bies & Moag(1986) 決定の理由が十分に説明されたか

メタ分析の知見(Cohen-Charash & Spector, 2001; Colquitt et al., 2001)によれば、手続き的公正は組織コミットメントおよび組織に対する信頼と最も強く関連し、分配的公正は職務満足(特に報酬満足)と最も強く関連する。

graph LR
    subgraph "組織的公正の4次元"
        DJ["分配的公正"] --> JS["職務満足"]
        PJ["手続き的公正"] --> OC["組織コミットメント"]
        IJ["対人的公正"] --> TR["上司への信頼"]
        InJ["情報的公正"] --> TR
    end
    JS --> TI["離職意図の低下"]
    OC --> TI
    TR --> TI

組織市民行動

Key Concept: 組織市民行動(organizational citizenship behavior: OCB) 公式の職務記述書には規定されていないが、組織の有効な機能を促進する自発的な行動。報酬体系によって直接的に報われるものではないが、組織全体の効率を向上させる。

Dennis Organ(1988)が体系化した組織市民行動の概念は、職務遂行(task performance)と区別される文脈的業績(contextual performance)の中核をなす。Organは当初、OCBを5つの次元に分類した。

次元 定義
愛他主義(altruism) 特定の他者を直接的に助ける行動 困っている同僚の仕事を手伝う
誠実さ(conscientiousness) 最低限の役割要求を超える行動 時間厳守、不必要な欠勤の回避
スポーツマンシップ(sportsmanship) 不可避の不便さに対する不平を控える 些細な問題で苦情を言わない
礼儀(courtesy) 他者に影響する行動の前に配慮する 決定前に関係者に相談する
市民的美徳(civic virtue) 組織の政治的生活への責任ある参加 会議への積極的参加、方針への建設的意見

その後の研究では、OCBの向け先に基づく分類も広く用いられるようになった。Larry Williams & Stella Anderson(1991)は、特定の個人に向けられるOCB-I(individual)と、組織全体に向けられるOCB-O(organization)を区別した。OCB-Iは対人関係の質(LMX)や共感性と、OCB-Oは組織的公正の知覚や情緒的コミットメントと、それぞれより強く関連する。

OCBの先行要因

メタ分析(LePine, Erez, & Johnson, 2002; Organ & Ryan, 1995)は、以下の要因がOCBの安定した予測因であることを示している。

  • 職務満足と情緒的コミットメント: 仕事や組織に対する肯定的態度は、公式に要求されない貢献への動機づけを高める
  • 組織的公正: 特に手続き的公正の知覚が高いほど、OCBが増加する。公正に扱われているという認識が互恵性(reciprocity)の規範を活性化し、組織への「返礼」としてOCBが生じると解釈される
  • リーダーシップ: 変革型リーダーシップ(→ Section 2)およびLMXの質が高い場合、フォロワーのOCBが促進される
  • パーソナリティ: 誠実性(conscientiousness)と協調性(agreeableness)がOCBと正の関連を示す

OCBの暗部

OCBは組織にとって有益であるが、潜在的な問題点も指摘されている。Mark Bolino ら(2013)は、OCBが事実上の強制となりうる点を警告した。上司や同僚からの暗黙の期待圧力のもとで行われる「市民行動」は、自発性という本来の定義と矛盾し、市民行動疲労(citizenship fatigue)を引き起こしうる。また、OCBが業績評価に組み込まれる場合、公式の職務記述を超えた行動が事実上の義務となり、ワーク・ライフ・バランスを侵食するリスクがある。


チームワークと集団意思決定

チームとグループの区別

Key Concept: ワークチーム(work team) 共通の目標を達成するために相互依存的に協働する、比較的小規模で安定した集団。メンバー間の役割分化、共有された責任、協調的な相互作用を特徴とする。

組織行動論では、単なる集団(group)とチーム(team)を区別することが多い。Jon Katzenbach & Douglas Smith(1993)によれば、グループが個人の貢献の総和で成果を生み出すのに対し、チームはメンバー間の相乗効果(synergy)によって個人の貢献の総和を超える成果を生み出す可能性を持つ。ただし、この区別は連続的なものであり、明確な境界線を引くことは困難である。

チーム有効性モデル

チームの有効性を規定する要因を体系的に整理する代表的な枠組みが、Input-Process-Output(IPO)モデルおよびその発展形であるInput-Mediator-Output-Input(IMOI)モデル(Ilgen et al., 2005)である。

graph LR
    subgraph "Input"
        I1["チーム構成<br/>(メンバーの能力、性格、多様性)"]
        I2["タスク特性<br/>(複雑性、相互依存性)"]
        I3["組織的文脈<br/>(報酬、情報システム)"]
    end
    subgraph "Mediator"
        M1["チームプロセス<br/>(コミュニケーション、<br/>コンフリクト管理)"]
        M2["創発状態<br/>(凝集性、効力感、<br/>心理的安全性)"]
    end
    subgraph "Output"
        O1["業績"]
        O2["メンバー満足"]
        O3["チーム存続"]
    end
    I1 --> M1
    I2 --> M1
    I3 --> M1
    I1 --> M2
    M1 --> O1
    M2 --> O1
    M1 --> O2
    O1 -.->|フィードバック| I1

チームの創発状態

チームレベルの心理的特性のうち、特に注目される創発状態(emergent states)として以下がある。

集団凝集性(group cohesion) は、メンバーを集団に留まらせる力の総体である(→ Module 1-4, Section 5参照)。メタ分析(Beal et al., 2003)は、凝集性とチーム業績の間に正の関連を示すが、その効果量はタスクの種類や凝集性の側面(対人的魅力、タスクコミットメント、集団プライド)によって変動する。

Key Concept: 心理的安全性(psychological safety) チーム内で対人リスク(質問する、意見を述べる、過ちを認める等)をとっても安全であるというメンバーの共有された信念。Amy Edmondson(1999)が提唱した概念である。

Edmondsonの研究は、心理的安全性が高いチームではメンバーがエラーを報告し、支援を求め、革新的なアイデアを提案しやすくなることを示した。Google社の「プロジェクト・アリストテレス」(2015年公表)でも、チーム有効性の最も重要な予測因として心理的安全性が同定された。心理的安全性は、チーム学習行動を媒介してチーム業績に影響する。

チーム効力感(team efficacy) は、チームが特定のタスクを遂行できるという共有された信念であり、Albert Banduraの自己効力感概念のチームレベルへの拡張である。チーム効力感はチームの目標設定、努力量、粘り強さに影響し、チーム業績と正の関連を示す。

集団意思決定

集団意思決定(group decision making)は、社会心理学(→ Module 1-4, Section 4)で検討した集団過程の知見が直接的に適用される領域である。

集団思考(groupthink) について、Irving Janis(1972, 1982)は、高度に凝集的な集団が外部からの批判的情報を遮断し、全会一致の幻想のもとで欠陥のある意思決定に至る現象を理論化した。集団思考の症状には、不死身の幻想、集合的合理化、外集団のステレオタイプ化、自己検閲、全会一致の幻想、自己任命した用心棒(mindguards)などが含まれる。

集団思考を防止する方略として、Janisは以下を提案した: - リーダーが最初に自らの意見を表明しない - 各メンバーが批判的評価者(critical evaluator)の役割を担う - 「悪魔の代弁者」(devil's advocate)を任命する - 外部の専門家の意見を求める - 最終決定前に「二度目のチャンス(second-chance meeting)」を開催する

集団分極化(group polarization) は、集団討議の後、個人の当初の立場がより極端な方向へ移行する現象である(→ Module 1-4, Section 4参照)。組織場面では、取締役会やプロジェクトチームの意思決定がリスキーシフトまたはコーシャスシフトを起こす可能性がある。

意思決定の改善手法

集団意思決定の質を向上させるための構造化された手法がいくつか開発されている。

  • ブレインストーミング: Alex Osborn(1953)が提唱した発想法。判断の保留、奔放な発想、量の追求、結合・改善の4原則に基づく。ただし、研究知見はブレインストーミングの有効性に懐疑的であり、生産性の阻害(production blocking)、社会的手抜き(social loafing)、評価懸念がその原因として指摘されている。電子ブレインストーミングやブレインライティングはこれらの問題を緩和しうる
  • 名目集団法(nominal group technique): メンバーが独立にアイデアを生成し、順番に発表した後に集団討議を行い、最後に独立に投票・順位づけをする手法。社会的影響を抑制しつつ多様なアイデアを引き出す
  • デルファイ法: 専門家パネルに対して匿名で反復的にアンケートを行い、フィードバックを通じて意見の収束を図る手法。対面のバイアスを排除できる

組織文化と変革

組織文化

Key Concept: 組織文化(organizational culture) 組織のメンバーによって共有された基本的仮定、価値観、信念、規範の体系。「ここではこうするものだ」という暗黙の行動規範として機能し、組織のアイデンティティと行動パターンを規定する。

Edgar Schein(1985, 2010)の組織文化モデルは、文化を3つの水準に分類する。

graph TD
    subgraph "Scheinの組織文化の3水準"
        L1["人工物(Artifacts)<br/>目に見える構造、プロセス、行動<br/>例: オフィスの配置、服装規定、儀礼"]
        L2["標榜された価値観(Espoused Values)<br/>戦略、目標、哲学<br/>例: 社是、経営方針"]
        L3["基本的仮定(Basic Assumptions)<br/>無意識の当然視された信念<br/>例: 人間の本質、環境との関係"]
    end
    L1 -->|"観察可能だが<br/>解釈が必要"| L2
    L2 -->|"意識化されているが<br/>完全ではない"| L3

人工物は最も表層的で観察可能だが、その意味を正しく解釈するには深層の価値観や仮定を理解する必要がある。標榜された価値観は、組織が公式に掲げる理念や戦略であるが、実際の行動と乖離する場合がある(espoused theory と theory-in-use の乖離; Chris Argyris, 1976)。基本的仮定は最も深層にあり、通常は意識されないが、組織成員の知覚、思考、感情を根本的に方向づける。

組織文化の類型

Kim Cameron & Robert Quinn(1999, 2011)の競合価値観フレームワーク(Competing Values Framework: CVF)は、組織文化を2つの軸(柔軟性 vs. 統制、内部志向 vs. 外部志向)に基づき4つの類型に分類する。

文化類型 特徴 重視する価値 リーダーシップの特徴
家族文化(clan culture) 協調的、参加的 忠誠心、伝統、凝集性 メンター、ファシリテーター
アドホクラシー文化(adhocracy culture) 創造的、起業家的 革新、成長、リスクテイク イノベーター、ビジョナリー
マーケット文化(market culture) 競争的、成果志向 市場シェア、目標達成 ハードドライバー、競争者
官僚文化(hierarchy culture) 統制的、構造化された 効率、一貫性、安定 調整者、組織者

CVFは組織文化の診断ツール(Organizational Culture Assessment Instrument: OCAI)としても活用される。現在の文化プロファイルと望ましい文化プロファイルのギャップを可視化し、文化変革の方向性を特定するために用いられる。

組織変革

組織変革(organizational change)は、環境変化への適応、業績改善、競争優位の獲得などを目的として組織の構造、プロセス、文化を意図的に変更する試みである。

Key Concept: 組織変革(organizational change) 組織の戦略、構造、プロセス、技術、文化を計画的あるいは適応的に変更すること。変革の成功には技術的側面だけでなく、人間の心理的反応への対処が不可欠である。

Kurt Lewin(1947)の3段階モデルは、組織変革の最も古典的かつ影響力のある理論的枠組みである。

  1. 解凍(unfreezing): 現状を維持する力(駆動力と抑止力の均衡; force field analysis)を崩し、変革の必要性を認識させる段階。危機感の醸成、現状への不満の顕在化が含まれる
  2. 変革(changing / moving): 新しい態度、価値観、行動パターンへの移行が行われる段階。新しい情報、ロールモデル、学習機会の提供が含まれる
  3. 再凍結(refreezing): 新しい状態を安定させ、逆戻りを防止する段階。新しい行動の強化、制度化、組織構造への組み込みが含まれる

John Kotter(1996)は、Lewinのモデルを実践的に発展させ、変革の8段階プロセスを提唱した。

  1. 危機意識を高める
  2. 変革推進のための連合チームを形成する
  3. ビジョンと戦略を策定する
  4. ビジョンを周知する
  5. メンバーの自発的行動を促す
  6. 短期的成果を実現する
  7. 成果を活かしてさらなる変革を推進する
  8. 新しい方法を文化に定着させる

変革への抵抗

組織変革の主要な障壁の一つが、変革への抵抗(resistance to change)である。抵抗の源泉は多層的であり、個人レベルと組織レベルの両方に存在する。

個人レベルの抵抗要因: - 不確実性への不安: 変革後の状況が予測できないことへの恐れ - 既得権益の喪失: 地位、権力、資源、専門性の価値が低下することへの懸念 - 習慣の力: 既存の行動パターンの変更に要する認知的・行動的コスト - 選択的情報処理: 変革の必要性を示す情報を選択的に無視する傾向

組織レベルの抵抗要因: - 構造的慣性: 組織の構造そのものが安定を志向する(規則、手続き、権限体系) - 集団規範: 既存の集団規範が変革と矛盾する場合の社会的圧力 - 権力の脅威: 既存の権力配分を変更する変革への組織的抵抗 - 資源配分の変更: 部門間の資源再配分に対する政治的抵抗

変革への抵抗を管理するアプローチとして、Kotter & Schlesinger(1979)は、教育とコミュニケーション、参加と巻き込み、促進と支援、交渉と合意、操作と取り込み、明示的・暗黙的強制の6つの方略を提示した。これらは状況に応じて使い分けられるべきであり、可能な限り参加と巻き込みを重視するアプローチが推奨される。


まとめ

  • 組織コミットメントは情緒的・継続的・規範的の3要素から成り、情緒的コミットメントが職務遂行やOCBと最も強く関連する。組織的公正(分配的・手続き的・対人的・情報的)は職務満足とコミットメントの重要な規定因である
  • 組織市民行動は公式に要求されない自発的貢献であり、職務満足、組織的公正、リーダーシップによって促進されるが、暗黙の強制となるリスクも存在する
  • チームの有効性はIPO/IMOIモデルで体系化され、心理的安全性、チーム効力感、凝集性などの創発状態がチーム業績を媒介する。集団意思決定では集団思考や集団分極化のバイアスに対する構造的な対策が必要である
  • 組織文化はScheinの3水準モデル(人工物・標榜された価値観・基本的仮定)で記述され、組織変革にはLewinの3段階モデルやKotterの8段階プロセスが適用される。変革への抵抗は多層的であり、参加と巻き込みを軸とした管理が推奨される
  • 本セクションの知見は、Section 5(人事心理学の基礎)において、人材選抜、人事評価、研修設計の組織的文脈を理解する基盤となる

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
組織コミットメント organizational commitment 従業員が組織に対して抱く心理的な結びつきの総体
情緒的コミットメント affective commitment 組織への感情的愛着と一体感に基づくコミットメント
継続的コミットメント continuance commitment 離職コストの認知に基づく残留のコミットメント
規範的コミットメント normative commitment 義務感に基づくコミットメント
職務満足 job satisfaction 自分の仕事に対する全般的な評価的態度
組織的公正 organizational justice 組織における意思決定・資源配分の公正さに関する知覚
分配的公正 distributive justice 結果(報酬、資源等)の公正さに関する知覚
手続き的公正 procedural justice 意思決定過程の公正さに関する知覚
組織市民行動 organizational citizenship behavior (OCB) 公式の職務記述を超える自発的な組織貢献行動
組織支援の知覚 perceived organizational support (POS) 組織が従業員の貢献を評価し福利に配慮しているとの知覚
ワークチーム work team 共通目標に向けて相互依存的に協働する小集団
心理的安全性 psychological safety チーム内で対人リスクをとっても安全であるとの共有信念
チーム効力感 team efficacy チームが課題を遂行できるとの共有信念
集団思考 groupthink 凝集的集団が批判的思考を抑制し欠陥ある意思決定に至る現象
組織文化 organizational culture 組織メンバーに共有された基本的仮定・価値観・規範の体系
組織変革 organizational change 組織の構造・プロセス・文化の計画的・適応的な変更
変革への抵抗 resistance to change 組織変革に対する個人・組織レベルの反対や妨害
競合価値観フレームワーク Competing Values Framework (CVF) 2軸4類型で組織文化を分類するCameron & Quinnのモデル

確認問題

Q1: Meyer & Allenの3要素モデルにおける3種類のコミットメントをそれぞれ説明し、職務遂行との関連がなぜ異なるかを考察せよ。

A1: 情緒的コミットメントは組織への感情的愛着に基づき「留まりたい」という動機から生じる。継続的コミットメントは離職コストの認知に基づき「留まる必要がある」という動機から生じる。規範的コミットメントは義務感に基づき「留まるべきだ」という動機から生じる。職務遂行との関連が異なるのは、動機の質が異なるためである。情緒的コミットメントは内発的動機に近く、組織のために積極的に貢献しようとする行動を促進する。一方、継続的コミットメントは外的拘束に基づいており、最低限の職務要求を満たすだけで追加的な努力を動機づけないか、場合によっては「囚われの感覚」から消極的態度を生じさせうる。

Q2: 組織市民行動(OCB)が組織にとって有益とされる一方で、どのような問題点が指摘されているか。組織的公正との関連も含めて論じよ。

A2: OCBは公式の職務記述を超える自発的貢献であり、組織全体の効率向上に寄与する。しかし、Bolinoらが指摘するように、OCBが上司や同僚からの暗黙の期待圧力のもとで事実上の強制となる場合がある。この場合、自発性という定義と矛盾し、市民行動疲労を引き起こしうる。また、OCBが業績評価に組み込まれると、公式外の行動が義務化され、ワーク・ライフ・バランスを侵食するリスクがある。組織的公正との関連では、手続き的公正の知覚がOCBの重要な先行要因であり、公正に扱われているという認識が互恵性規範を活性化して組織への「返礼」としてOCBを促進する。逆に、組織的不公正を知覚した場合、OCBは減少し、反生産的行動が増加しうる。

Q3: 心理的安全性の概念を説明し、それがチーム業績にどのようなメカニズムで影響するかを述べよ。

A3: 心理的安全性はEdmondson(1999)が提唱した概念で、チーム内で質問する、意見を述べる、過ちを認めるといった対人リスクをとっても安全であるとメンバーが共有して信じている状態を指す。心理的安全性はチーム学習行動を媒介してチーム業績に影響する。具体的には、心理的安全性が高いチームではメンバーがエラーを率直に報告し、不明点を質問し、革新的なアイデアを提案しやすくなる。これにより、問題の早期発見と修正、知識の共有と統合、創造的な問題解決が促進される。逆に心理的安全性が低いチームでは、メンバーは無知・無能と見なされることを恐れて発言を控え、エラーが潜在化し、学習と改善の機会が失われる。

Q4: Scheinの組織文化の3水準モデルを説明し、組織文化の変革がなぜ困難であるかをこのモデルに基づいて考察せよ。

A4: Scheinのモデルでは、組織文化を表層から深層へ向かって人工物(観察可能な構造・行動)、標榜された価値観(公式に掲げる理念・戦略)、基本的仮定(無意識の当然視された信念)の3水準に分類する。文化変革が困難である理由は、最深層の基本的仮定が通常は意識されず、当然のものとして内面化されているためである。人工物の変更(例: オフィスレイアウトの刷新)は比較的容易だが、標榜された価値観と実際の行動が乖離することは多い。真の文化変革には基本的仮定の変容が必要であるが、これは成員のアイデンティティや世界観に関わるため強い抵抗を招く。Lewinの3段階モデルに照らせば、基本的仮定という深層構造の「解凍」には、既存の信念体系を揺るがすほどの危機感や説得力ある代替的ビジョンが必要となる。

Q5: 集団思考の発生条件と主な症状を説明し、組織においてどのような構造的対策が有効かを論じよ。

A5: 集団思考はJanis(1972)が理論化した現象であり、高度に凝集的な集団が外部情報を遮断し、全会一致の幻想のもとで欠陥ある意思決定に至る。発生条件には、高い集団凝集性、指示的なリーダーシップ、外部情報からの隔離、方法論的手続きの欠如が含まれる。主な症状として、不死身の幻想(過度の楽観主義)、集合的合理化(警告の無視)、外集団のステレオタイプ化、自己検閲(反対意見の抑制)、全会一致の幻想がある。構造的対策としては、リーダーが最初に自らの意見を表明しないこと、悪魔の代弁者の任命、外部専門家の招聘、最終決定前のセカンドチャンス・ミーティングの開催が有効である。また、心理的安全性の確保により、メンバーが反対意見を表明しやすい環境を構築することが根本的な対策となる。