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Module 3-3 - Section 5: 人事心理学の基礎

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-3: 産業・組織心理学
前提セクション Section 4(組織行動)
想定学習時間 4時間

導入

Section 4では、組織コミットメント、職務満足、組織市民行動、チームワーク、組織文化と変革といった組織レベルの行動を検討した。本セクションでは、組織の中で「人」をどのように選び、評価し、育成するかという、人事心理学(personnel psychology)の基本的枠組みを扱う。

人事心理学は産業・組織心理学の中核領域の一つであり、組織が必要とする人材を科学的根拠に基づいて特定・選抜・評価・開発する方法論を研究する。個人差心理学(→ Module 2-3)で検討したパーソナリティ特性や知能の測定法は、人事選抜の妥当性を支える理論的基盤であり、前セクションで扱った組織コミットメントや職務満足は、人事施策の効果を評価する重要なアウトカム変数である。

本セクションでは、職務分析、人材選抜の方法(面接・適性検査・アセスメントセンター)、人事評価とフィードバック、そして研修とキャリア発達という4つの主要トピックを順に検討する。


職務分析

Key Concept: 職務分析(job analysis) 特定の職務を遂行するために必要な課題、責任、知識、技能、能力、およびその他の特性(KSAOs)を体系的に収集・整理する手続き。人材選抜基準の設定、人事評価項目の策定、研修ニーズの特定など、人事心理学のあらゆる機能の基盤となる。

職務分析は人事心理学における最も基礎的な活動である。適切な職務分析なしには、選抜基準の設定も評価項目の策定も研修内容の設計も、その妥当性を担保できない。

職務分析の方法

職務分析の方法は大きく2つのアプローチに分類される。

課題志向型(task-oriented)アプローチ は、職務を構成する具体的な課題・行動を同定する。何をするか(what is done)に焦点を当てる。代表的な手法にEdwin McCormickらが開発した職位分析質問紙(Position Analysis Questionnaire: PAQ, 1972)がある。PAQは187項目の構造化された質問紙で、情報入力、精神的プロセス、仕事の出力、対人活動、職務状況、その他の側面の6カテゴリから職務を記述する。

作業者志向型(worker-oriented)アプローチ は、職務遂行に必要な人間側の属性——知識(Knowledge)、技能(Skill)、能力(Ability)、その他の特性(Other characteristics)——を同定する。これらを総称してKSAOsと呼ぶ。

Key Concept: KSAOs(Knowledge, Skills, Abilities, and Other characteristics) 職務遂行に必要な人間側の属性の総称。Knowledge(職務に関する知識)、Skill(訓練や経験を通じて獲得した技能)、Ability(比較的安定した認知的・身体的能力)、Other characteristics(動機、パーソナリティ特性、資格など)から成る。

職務分析から選抜・評価・研修への展開

職務分析の結果は、人事心理学の3つの主要機能に直結する。

graph TD
    JA["職務分析"] --> SC["人材選抜<br/>(選抜基準の設定)"]
    JA --> PA["人事評価<br/>(評価項目・基準の策定)"]
    JA --> TR["研修設計<br/>(研修ニーズの特定)"]
    SC --> FIT["人と職務の適合<br/>(Person-Job Fit)"]
    PA --> FB["フィードバック<br/>と育成"]
    TR --> CD["キャリア発達"]

職務分析によって特定されたKSAOsは人材選抜における予測因(predictor)の選定を導き、課題・責任の記述は人事評価の基準(criterion)を構成し、現有能力と要求水準のギャップは研修ニーズの根拠となる。


人材選抜の方法

選抜の基本的枠組み

人材選抜(personnel selection)の目的は、職務遂行を最もよく予測する情報に基づいて採用判断を行うことである。選抜の妥当性は、予測因(predictor)と基準(criterion)の関係の強さによって評価される。

Key Concept: 予測的妥当性(predictive validity) 選抜手続きの得点が、その後の職務遂行(基準)をどの程度正確に予測するかの指標。妥当性係数(validity coefficient)は予測因得点と基準得点の相関係数として算出される。

選抜手続きの評価にあたっては、妥当性に加えて以下の基準が考慮される。

評価基準 定義
妥当性(validity) 職務遂行の予測精度 妥当性係数 r = .50
信頼性(reliability) 測定の一貫性 再検査信頼性 r = .85
公平性(fairness) 集団間での差別的機能の有無 性別や人種による系統的バイアスがないこと
実用性(practicality) コスト、所要時間、実施の容易さ 大規模採用への適用可能性
受容性(acceptability) 応募者からの受容度 手続きが公正と知覚されるか

一般認知能力検査

Frank Schmidt & John Hunter(1998)のメタ分析は、人材選抜手法の妥当性を包括的に比較した画期的な研究である。その結果、一般認知能力検査(general mental ability test: GMA test)が、職種を問わず職務遂行の最も強力な単一予測因であることが示された(妥当性係数 r = .51)。この知見は、一般知能(g因子; → Module 2-3, Section 4参照)が多様な職務における学習能力と問題解決能力の基盤となることと整合する。

ただし、GMA検査の利用には文化的公平性の問題が伴う。人種・民族集団間の平均得点差(subgroup differences)が存在するため、選抜比率が低い場合に不利な影響(adverse impact)が生じる可能性がある。この問題に対しては、GMA検査と他の手法を組み合わせることで全体の妥当性を高めつつ、不利な影響を低減する方略が研究されている。

構造化面接

Key Concept: 構造化面接(structured interview) 全ての応募者に対して同一の質問を所定の順序で実施し、あらかじめ定められた評価基準(アンカー)に基づいて回答を評定する面接形式。非構造化面接と比較して信頼性・妥当性が顕著に高い。

面接(interview)は最も広く用いられる選抜手法であるが、その形式によって妥当性は大きく異なる。

graph LR
    subgraph "面接の構造化の連続体"
        UI["非構造化面接<br/>r ≈ .20"] -->|構造化の程度| SI["構造化面接<br/>r ≈ .51"]
    end
    SI --> BDI["行動記述面接<br/>(BDI)"]
    SI --> SII["状況面接<br/>(SI)"]

非構造化面接(unstructured interview) では、質問内容が面接者の裁量に委ねられ、評価基準も明確でない。そのため、面接者間の一致率が低く(信頼性の問題)、確証バイアス、初頭効果、ハロー効果などの認知バイアスの影響を受けやすい。Schmidt & Hunter(1998)のメタ分析によれば、非構造化面接の妥当性係数は r = .20 程度にとどまる。

構造化面接 には主に2つの形式がある。

  • 行動記述面接(behavioral description interview: BDI): 過去の行動を問う(例:「チーム内で意見が対立した際、どのように対処しましたか」)。過去の行動が将来の行動の最良の予測因であるという行動的一貫性の原理に基づく
  • 状況面接(situational interview: SI): 仮想的な場面での行動意図を問う(例:「上司から倫理的に問題のある指示を受けた場合、どうしますか」)。Gary Lathamらが目標設定理論に基づき、行動意図が行動の予測因となることを前提に開発した

両形式ともメタ分析で高い妥当性が確認されているが、構造化の程度(質問の標準化、評価アンカーの精緻さ、面接者訓練の有無)が妥当性の決定因である。

パーソナリティ検査

パーソナリティ検査(→ Module 2-3, Section 3「パーソナリティの測定」参照)の人事選抜における利用は、ビッグファイブモデルの普及とともに拡大した。Murray Barrick & Michael Mount(1991)の先駆的メタ分析は、ビッグファイブ特性と職務遂行の関連を体系的に検討し、以下の知見を示した。

ビッグファイブ特性 職務遂行との関連 適用範囲
誠実性(conscientiousness) r = .22-.23 全職種で一貫して正の予測力
情緒安定性(emotional stability) r = .13 全職種で弱い正の予測力
外向性(extraversion) r = .13-.15 対人職(営業、管理職)で特に有効
協調性(agreeableness) r = .07-.13 チーム業務で正の予測力
開放性(openness) r = .05-.07 研修成績の予測に有効

誠実性は職種を問わず職務遂行の一貫した予測因であり、GMA検査への増分妥当性(GMA検査だけでは説明できない追加的な予測力)を示す。ただし、パーソナリティ検査単独の妥当性係数はGMA検査より低く、他の選抜手法と組み合わせて用いることが推奨される。

パーソナリティ検査の課題として、応答の歪曲(faking / impression management)がある。社会的に望ましい方向への回答(社会的望ましさバイアス)が、特にハイステークスな選抜場面で生じやすい。対策として、強制選択法(forced-choice format)や虚偽検出尺度の導入が試みられている。

アセスメントセンター

Key Concept: アセスメントセンター(assessment center) 複数の評価者が、複数の評価手法(シミュレーション演習、面接、検査等)を用いて、管理職等に必要な複数の能力次元を評価する方法。単一手法では捉えきれない行動を多角的に評価する「手法」であり、物理的な場所を指すものではない。

アセスメントセンター(AC)は、第二次世界大戦中の軍事情報機関の人材選抜に起源を持ち、その後AT&Tにおける管理職の長期追跡研究(Douglas Bray, 1966)を通じて産業場面に導入された。

主なシミュレーション演習は以下の通りである。

演習 評価される能力 手続き
インバスケット(in-basket) 優先順位付け、委任、意思決定 架空の管理職として未処理案件を処理
グループ討議(leaderless group discussion) リーダーシップ、対人影響力、協調性 テーマについてリーダー不在で討議
ロールプレイ 対人対応力、交渉力 上司・部下・顧客との模擬場面
プレゼンテーション 分析力、表現力 課題分析の結果を発表
graph TD
    subgraph "アセスメントセンターの構造"
        direction TB
        JA2["職務分析<br/>(能力次元の特定)"] --> EX["複数の演習<br/>(シミュレーション)"]
        JA2 --> DIM["評価能力次元<br/>(リーダーシップ、問題解決等)"]
        EX --> MR["複数の評価者<br/>(訓練済み)"]
        DIM --> MR
        MR --> INT["統合会議<br/>(評定の合議)"]
        INT --> FIN["最終評価"]
    end

Schmidt & Hunter(1998)のメタ分析ではACの妥当性係数は r = .37 であり、GMA検査や構造化面接に次ぐ水準である。ACの強みは、実際の職務場面に近い状況での行動を直接観察できる点にあり、応募者にとっての表面的妥当性(face validity)も高い。

一方、ACには構成概念妥当性に関する議論がある。ACの評定は、想定された能力次元(例: リーダーシップ、問題解決力)よりも、演習の種類によって分散が規定されるという「演習効果(exercise effect)」が繰り返し報告されており、ACが真に能力次元を測定しているのか、演習への一般的な対処能力を測定しているのかという疑問が提起されている。

選抜手法の組み合わせ

Schmidt & Hunter(1998)は、GMA検査に他の手法を追加した場合の増分妥当性を検討した。実務上、単一の手法ではなく複数の手法を組み合わせることが推奨される。

graph LR
    GMA["GMA検査<br/>r = .51"] --> PLUS["組み合わせ"]
    SI2["構造化面接<br/>+.24"] --> PLUS
    WS["ワークサンプル<br/>+.12"] --> PLUS
    CON["誠実性検査<br/>+.09"] --> PLUS
    PLUS --> TOTAL["複合的妥当性<br/>r = .63-.65"]

この知見は、認知能力、職務関連行動、パーソナリティという異なる次元の情報を統合することで、予測精度が向上することを意味する。


人事評価とフィードバック

人事評価の目的と種類

Key Concept: 人事評価(performance appraisal) 従業員の職務遂行を体系的に測定・評価する過程。昇進・昇給等の管理的意思決定、能力開発のためのフィードバック提供、組織の人事制度の妥当性検証という3つの主要目的を持つ。

人事評価は、職務分析で特定された基準に基づいて従業員のパフォーマンスを測定する手続きである。評価の対象は以下の3つに大別される。

  • 特性ベース(trait-based): 従業員の特性を評価する(例: リーダーシップ、協調性)。評価が容易だが、具体的な行動改善につながりにくい
  • 行動ベース(behavior-based): 具体的な職務行動を評価する(例: 「顧客の苦情に対し、24時間以内に対応する」)。フィードバックが具体的で改善に直結しやすい
  • 結果ベース(results-based): 成果・業績を評価する(例: 売上目標の達成率)。客観的だが、環境要因の統制が困難

評価方法

代表的な評価方法を以下に整理する。

行動アンカー評定尺度(Behaviorally Anchored Rating Scales: BARS) は、Patricia Smith & Lorne Kendall(1963)が開発した手法であり、各評定段階に具体的な行動記述(アンカー)を対応させた評定尺度である。職務分析に基づいて開発されるため、評価の基準が明確で、フィードバックの具体性が高い。

行動観察尺度(Behavioral Observation Scales: BOS) は、Gary Latham & Kenneth Wexley(1977)が開発した手法で、BARSとは異なり、各行動の出現頻度を評定する。

目標管理制度(Management by Objectives: MBO) は、Peter Drucker(1954)が提唱した結果ベースの評価手法であり、上司と部下が協議して具体的・測定可能な目標を設定し、その達成度を評価する。目標設定理論(→ Section 1「ワークモチベーション」参照)との理論的整合性が高い。

360度フィードバック(360-degree feedback) は、上司、同僚、部下、顧客など複数の情報源からフィードバックを収集する手法である。多特性多方法行列(→ Module 2-3, Section 3参照)の考え方と類似し、単一の評価者のバイアスを緩和できる。ただし、管理的意思決定(昇進・昇給)よりも、能力開発目的での利用が推奨される。

評価バイアス

人事評価には系統的なバイアスが生じやすい。主要なバイアスは以下の通りである。

バイアス 定義
ハロー効果(halo effect) ある側面の評価が他の側面の評価に波及する 対人印象が良い従業員の技術力も高く評価する
寛大化傾向(leniency bias) 全体的に高い評価をつける 実際のパフォーマンスに関わらず「良好」以上を付与
厳格化傾向(severity bias) 全体的に低い評価をつける 優秀な従業員にも「普通」以下を付与
中心化傾向(central tendency) 評定が中間に集中する 極端な評価を避けて「普通」に集中
近接効果(recency effect) 評価期間の終わり近くの行動を過重視 直近のミスが全体評価を下げる

評価バイアスへの対策として、評価者訓練(rater training)が実施される。訓練の種類には、バイアスの存在と種類を認識させるバイアス認識訓練(rater error training)、評定基準の統一を図る枠組み参照訓練(frame-of-reference training)、行動観察の精度を高める観察力訓練(behavioral observation training)がある。研究知見は、枠組み参照訓練が評価精度の向上に最も有効であることを示している。

パフォーマンス・フィードバック

評価結果のフィードバックは、人事評価の最も重要な機能の一つである。Abraham Kluger & Angelo DeNisi(1996)のメタ分析(フィードバック介入理論; Feedback Intervention Theory: FIT)は、フィードバックが常にパフォーマンスを向上させるわけではなく、約3分の1のケースではむしろ低下させるという知見を示した。

フィードバックがパフォーマンスに正の効果をもたらす条件として、以下が同定されている。

  • フィードバックが自己(self)ではなく課題(task)に焦点を当てていること
  • 具体的な行動に関するものであること
  • 明確な目標と結びついていること
  • 受け手がフィードバックを公正と知覚していること(→ Section 4「組織的公正」参照)

研修とキャリア発達

研修の体系的アプローチ

Key Concept: 研修(training) 職務遂行に必要な知識・技能・態度を体系的に習得させるための計画的な学習活動。ニーズ分析、研修設計・実施、評価という一連のプロセスから成る。

研修の設計と実施は、Irwin Goldstein(1993)の体系的アプローチに従い、以下の3段階で進められる。

1. ニーズ分析(needs analysis)

ニーズ分析は3つの水準で実施される。

分析水準 焦点 主な問い
組織分析(organizational analysis) 組織の戦略・目標・資源 組織のどの部分で研修が必要か
課題分析(task analysis) 職務に必要なKSAOs どのKSAOsを研修で扱うべきか
人物分析(person analysis) 個人の現有能力 誰がどの研修を必要としているか

2. 研修の設計と実施

研修設計では、学習理論の知見が応用される。Baldwin & Ford(1988)の研修転移モデル(transfer of training model)は、研修で学んだ内容が実際の職務場面でどの程度適用・維持されるかという研修転移(transfer of training)に影響する要因を整理した。

graph LR
    subgraph "研修転移モデル"
        TI["研修インプット"] --> LO["学習と定着"]
        LO --> TO["研修転移<br/>(一般化と維持)"]
        TI --> |"学習者特性<br/>(能力、動機、自己効力感)"| LO
        TI --> |"研修設計<br/>(学習原理、内容の関連性)"| LO
        TI --> |"職場環境<br/>(上司の支援、活用機会)"| TO
    end

研修転移を促進する要因として、研修内容と職務との類似性(identical elements theory; Edward Thorndike)、学習の分散化(spaced practice)、多様な文脈での練習(variability of practice)、学習者の自己効力感(→ Section 1参照)、職場での上司の支援と活用機会が同定されている。

3. 研修評価

Donald Kirkpatrick(1959, 1994)の4段階評価モデルは、研修効果の評価において最も広く用いられる枠組みである。

段階 評価対象 測定方法の例
Level 1: 反応(reaction) 受講者の満足度 研修後アンケート
Level 2: 学習(learning) 知識・技能の習得 テスト、スキルテスト
Level 3: 行動(behavior) 職務行動の変化 上司評価、行動観察
Level 4: 結果(results) 組織的成果 生産性、離職率、利益

各段階はこの順に評価の困難度が増し、実務上Level 3以上の評価が実施されることは少ない。しかし、研修投資の正当化にはLevel 3-4の評価が不可欠であり、Jack Phillips(1997)はLevel 5として投資収益率(ROI)を追加したモデルを提案している。

キャリア発達

Key Concept: キャリア発達(career development) 個人の職業生活を通じた成長・変化の過程。組織が提供するキャリア管理の機会と、個人が主体的に行うキャリア計画の両側面を含む。

キャリア発達の理論的枠組みには複数のアプローチがある。

Donald Super(1957, 1990)のライフスパン・ライフスペース理論 は、キャリア発達を生涯にわたる過程として捉え、成長期(〜14歳)、探索期(15〜24歳)、確立期(25〜44歳)、維持期(45〜64歳)、解放期(65歳〜)の5段階を設定した。各段階は固定的なものではなく、キャリアの転換や再探索による循環(recycling)が生じうる。

Douglas Hall(1996, 2004)のプロティアン・キャリア(protean career) の概念は、組織が管理する伝統的キャリアに対して、個人が主体的に方向づけ、価値観に基づいて選択するキャリアの在り方を提唱した。この概念は、終身雇用の崩壊や雇用の流動化といった労働市場の変化を反映している。

プランド・ハプンスタンス理論(planned happenstance theory) は、John Krumboltz(1999)が提唱した理論であり、キャリア発達における偶発的な出来事の役割を積極的に評価する。好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心の5つの態度を培うことで、予期しない機会を自らのキャリアに活かすことができるとする。

現代の組織においては、キャリア発達を支援する仕組みとして、メンタリング(mentoring)、コーチング(coaching)、ジョブローテーション、タフ・アサインメント(developmental job assignments)、自己啓発支援制度などが組み合わされる。これらの施策は、従業員のキャリア自律を支援すると同時に、組織コミットメント(→ Section 4参照)の向上にも寄与しうる。


まとめ

  • 職務分析は人事心理学のあらゆる機能の基盤であり、KSAOsの同定を通じて選抜基準、評価項目、研修ニーズの設定を導く
  • 人材選抜においては、GMA検査が最も強力な単一予測因であり、構造化面接、パーソナリティ検査(特に誠実性)、アセスメントセンター等と組み合わせることで予測精度が向上する。非構造化面接の妥当性は低く、構造化の程度が妥当性の決定因である
  • 人事評価は特性・行動・結果の各ベースの手法があり、ハロー効果や寛大化傾向などのバイアスへの対策として評価者訓練(特に枠組み参照訓練)が有効である。フィードバックは課題焦点・具体的・目標連動であるとき最も効果的である
  • 研修は体系的アプローチ(ニーズ分析→設計・実施→評価)に従い、研修転移を確保するための設計原理と職場環境の整備が重要である。Kirkpatrickの4段階モデルが評価の標準的枠組みとなる
  • キャリア発達はSuper、Hall、Krumboltzらの理論に基づき、組織的支援と個人の主体性の両面から促進される
  • 本セクションの内容は、パーソナリティと知能の個人差(→ Module 2-3)の応用的展開であり、前セクションの組織行動の知見と統合されて、産業・組織心理学の実践的基盤を構成する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
職務分析 job analysis 職務遂行に必要な課題・責任・KSAOsを体系的に収集する手続き
KSAOs Knowledge, Skills, Abilities, and Other characteristics 職務遂行に必要な人間側の属性の総称
予測的妥当性 predictive validity 選抜手続きの得点が将来の職務遂行を予測する程度
一般認知能力検査 general mental ability test (GMA test) g因子を中心とする一般的な認知能力を測定する検査
構造化面接 structured interview 標準化された質問と評価基準に基づく面接形式
行動記述面接 behavioral description interview (BDI) 過去の行動を問う構造化面接の一形式
状況面接 situational interview (SI) 仮想場面での行動意図を問う構造化面接の一形式
アセスメントセンター assessment center 複数の評価者・手法で管理職等の能力を多角的に評価する方法
人事評価 performance appraisal 従業員の職務遂行を体系的に測定・評価する過程
行動アンカー評定尺度 Behaviorally Anchored Rating Scales (BARS) 各評定段階に具体的行動記述を対応させた評定尺度
360度フィードバック 360-degree feedback 上司・同僚・部下・顧客など複数の情報源からフィードバックを収集する手法
ハロー効果 halo effect ある側面の評価が他の側面の評価に波及する傾向
研修転移 transfer of training 研修で学んだ内容が実際の職務場面に適用・維持される程度
研修 training 職務に必要な知識・技能・態度を計画的に習得させる学習活動
キャリア発達 career development 個人の職業生活を通じた成長・変化の過程
プロティアン・キャリア protean career 個人が主体的に方向づけ価値観に基づいて選択するキャリアの在り方

確認問題

Q1: 職務分析が人事心理学の「基盤」と位置づけられる理由を、人材選抜、人事評価、研修設計の3つの機能との関連から説明せよ。

A1: 職務分析は特定の職務に必要なKSAOs(知識・技能・能力・その他の特性)と課題・責任を体系的に同定する手続きであり、人事心理学の3つの主要機能すべてに不可欠な情報を提供する。第一に、人材選抜においては、職務分析で特定されたKSAOsが選抜基準(予測因の選定と基準の設定)を導く。第二に、人事評価においては、職務分析で記述された課題・責任が評価項目・基準の根拠となり、評価の内容妥当性を担保する。第三に、研修設計においては、職務が要求するKSAOsと従業員の現有能力とのギャップが研修ニーズとして同定され、研修内容の設計を導く。職務分析なしには、これらの人事施策の妥当性と法的正当性を確保することが困難である。

Q2: 構造化面接と非構造化面接の妥当性の差はなぜ生じるのか。構造化面接の2つの主要形式を含めて論じよ。

A2: 非構造化面接は質問内容が面接者の裁量に委ねられ評価基準が不明確であるため、確証バイアス(最初の印象を支持する情報を選択的に収集する)、初頭効果(早期の情報に過度に影響される)、ハロー効果などの認知バイアスに脆弱である。その結果、面接者間の一致率が低く、妥当性係数はr = .20程度にとどまる。一方、構造化面接は全応募者に同一の質問を所定の順序で実施し、あらかじめ定められた行動アンカーに基づいて評定するため、上記のバイアスが統制され、妥当性係数はr = .51に達する。主要な2形式として、過去の実際の行動を問う行動記述面接(BDI)と、仮想場面での行動意図を問う状況面接(SI)がある。前者は行動的一貫性の原理に、後者は目標設定理論に理論的基盤を持つ。

Q3: フィードバック介入理論(FIT)の知見を踏まえ、人事評価のフィードバックがパフォーマンスを低下させうる条件と、効果的なフィードバックの条件をそれぞれ説明せよ。

A3: Kluger & DeNisi(1996)のメタ分析に基づくフィードバック介入理論は、フィードバックが約3分の1のケースでパフォーマンスを低下させることを示した。低下を招く条件としては、フィードバックが課題ではなく自己(self)に焦点を当てている場合が挙げられる。自己に焦点を当てたフィードバック(例:「あなたはリーダーシップが弱い」)は自尊心への脅威となり、防衛的反応や学習動機の低下を引き起こす。一方、効果的なフィードバックの条件は、(1)課題に焦点を当てていること(行動や成果について具体的に言及)、(2)具体的な行動に関するものであること(抽象的な特性評価ではない)、(3)明確な目標と結びついていること(改善の方向性が明確)、(4)受け手がフィードバックの手続きを公正と知覚していること(手続き的公正との関連)である。

Q4: Schmidt & Hunter(1998)のメタ分析に基づき、人材選抜における「最適な手法の組み合わせ」の論理を、具体的な妥当性係数を用いて説明せよ。

A4: Schmidt & Hunter(1998)のメタ分析は、GMA検査が職種を問わず職務遂行の最も強力な単一予測因(r = .51)であることを示した上で、GMA検査に他の手法を追加した場合の増分妥当性を検討した。構造化面接はGMA検査に+.24の増分妥当性を示し、両者の組み合わせで複合妥当性がr = .63に達する。誠実性検査は+.09、ワークサンプルは+.12の増分妥当性を追加する。この論理は、認知能力(GMA)、職務関連行動(面接・ワークサンプル)、パーソナリティ(誠実性検査)が、それぞれ職務遂行の異なる側面を予測するため、組み合わせによって互いの限界を補完し、全体の予測精度が向上することを意味する。単一手法への過度の依存は予測の偏りを生じさせるため、実務上は複数手法の組み合わせが推奨される。

Q5: Kirkpatrickの4段階評価モデルを説明し、研修転移が実現されるための条件をBaldwin & Ford(1988)のモデルに基づいて論じよ。

A5: Kirkpatrickの4段階評価モデルは、Level 1(反応:受講者の満足度)、Level 2(学習:知識・技能の習得度)、Level 3(行動:職務行動の変化)、Level 4(結果:組織的成果)で研修効果を評価する枠組みである。Level 3は研修転移そのものの測定に相当する。Baldwin & Ford(1988)の研修転移モデルによれば、転移は3カテゴリの要因に規定される。(1)学習者特性(能力、動機づけ、自己効力感)は学習の深さに影響し、(2)研修設計(職務との類似性、分散練習、多様な文脈での練習)は学習内容の一般化可能性を高め、(3)職場環境(上司の支援、学習内容を実践する機会の提供)は学習内容の維持と職務への般化を促進する。特に職場環境は、研修設計の質が高くても上司の支援や活用機会が欠如すれば転移が生じないという点で決定的に重要である。