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Module 3-5 - Section 1: 犯罪の心理学的理解

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-5: 司法・犯罪心理学
前提セクション なし
想定学習時間 8時間

導入

犯罪行動はなぜ生じるのか。この問いに対して心理学は、個人内の要因(パーソナリティ特性、認知パターン)、発達的要因(幼少期のリスクファクターと保護要因)、学習過程(モデリングと強化)、そして社会的・環境的文脈の相互作用として犯罪行動を理解しようとしてきた。犯罪行動を単一の原因に還元する理論は経験的に支持されておらず、現代の犯罪心理学は多要因モデル(multi-factor model)の立場をとる。

本セクションでは、まず犯罪行動に関与する個人差要因としてパーソナリティ特性——特にサイコパシー——を検討する(→ Module 2-3, Section 2「特性論」、Section 5「個人差研究の現代的トピック」参照)。次に、犯罪行動の発達的軌跡を縦断研究の知見から概観し、リスクファクターと保護要因の枠組みを検討する。続いて、Banduraの社会学習理論を犯罪行動の獲得・維持メカニズムとして位置づける(→ Module 1-3, Section 3「学習の認知的理論」参照)。最後に、少年非行の類型と更生の心理学的アプローチを扱う。


犯罪の個人差要因

パーソナリティ特性と犯罪

ビッグファイブの枠組みにおいて、犯罪行動と最も一貫して関連する特性は低い協調性(Agreeableness)低い誠実性(Conscientiousness) である。Miller & Lynam(2001)のメタ分析は、反社会的行動がこの2因子の低さの組み合わせによって最も強く予測されることを示した(→ Module 2-3, Section 2「ビッグファイブと人生の帰結」参照)。

Key Concept: 反社会的行動(antisocial behavior) 他者の権利を侵害し、社会的規範に違反する広範な行動パターンの総称。攻撃行動、窃盗、詐欺、規則違反などを含む。反社会的行動は法的な「犯罪」よりも広い概念であり、逮捕・有罪判決に至らない行為も包含する。

低い協調性は、共感性の欠如、他者への不信、対人的敵意と関連し、攻撃行動や対人搾取の素地を形成する。低い誠実性は、衝動性、計画性の欠如、自己統制の困難と関連し、長期的帰結を考慮しない短絡的な行動選択を促進する。神経症傾向(Neuroticism)については知見が一貫せず、反社会的行動との関連は他の2因子ほど頑健ではない。

HEXACOモデルの視点からは、誠実-謙虚さ(Honesty-Humility: H)因子の低さが犯罪行動と強い負の関連を示す。H因子の低さは、不誠実さ、対人操作傾向、貪欲さ、道徳的無関心を反映し、犯罪行動への心理学的経路を直接的に示唆する(→ Module 2-3, Section 2「HEXACOとダークトライアド」参照)。

graph TD
    subgraph "パーソナリティ特性と犯罪行動の関連"
        LOW_A["低い協調性<br>共感性欠如・敵意"]
        LOW_C["低い誠実性<br>衝動性・自己統制困難"]
        LOW_H["低いH因子<br>不誠実・対人操作"]
        AB["反社会的行動"]
    end
    LOW_A --> AB
    LOW_C --> AB
    LOW_H --> AB
    LOW_A ---|"相互作用"| LOW_C

サイコパシー

犯罪心理学における個人差研究の中核概念がサイコパシー(psychopathy)である。Module 2-3, Section 5で検討したダークトライアドの一構成概念としてのサイコパシーは正常集団における個人差次元であるが、犯罪心理学においては、サイコパシーはより重篤かつ臨床的に意義のある構成概念として扱われる。

Key Concept: サイコパシー(psychopathy)——犯罪心理学的定義 対人的操作性(表面的魅力、誇大的自己像、病的虚言)、感情的欠陥(良心の呵責の欠如、共感性の欠如、浅薄な感情)、反社会的生活様式(衝動性、無責任、刺激追求)を特徴とするパーソナリティ障害。Robert D. Hareが開発したPCL-R(Psychopathy Checklist-Revised)によって評定される。

Cleckleyの臨床記述

Hervey M. Cleckley(ハーヴェイ・クレックリー, 1903-1984)は、1941年の著書『The Mask of Sanity』において、サイコパシーの臨床的特徴を体系的に記述した最初の研究者として位置づけられる。Cleckleyが同定した16の特徴には、表面的な魅力と高い知能、病的虚言、良心の呵責の欠如、浅薄な感情、対人関係における無反応性、学習能力の欠如(過去の経験から学ばないこと)などが含まれる。

Cleckleyの臨床像において重要なのは、サイコパスが外見的には「正常」に見えうるという点である——表面的な社会適応能力を備え、知能も正常範囲かそれ以上であるにもかかわらず、内面的には感情的に浅薄で、他者の苦痛への共感を欠き、自己の行動の帰結から学習しないのである。この「正気の仮面」(mask of sanity)という概念がCleckleyの著書の題名であり、サイコパシー概念の核心を表現している。

HareのPCL-R

Robert D. Hare(ロバート・ヘア, 1934-)は、Cleckleyの臨床記述を操作的に定義し、信頼性と妥当性を備えた評定ツールとしてPCL-R(Psychopathy Checklist-Revised, 1991/2003) を開発した。PCL-Rは犯罪心理学・法心理学の領域で最も広く使用されるサイコパシー測定法である。

PCL-Rは20項目からなり、各項目を0(該当しない)、1(部分的に該当)、2(確実に該当)の3段階で評定する。合計得点は0-40点であり、北米の研究では30点以上がサイコパシーのカットオフとして用いられることが多い。評定は半構造化面接(semi-structured interview)と公式記録(犯罪記録、施設記録等)の照合に基づいて行われる。

PCL-Rの因子構造については、2因子モデルと4因子モデルが提案されている。

モデル 構成
2因子モデル 因子1: 対人的・感情的特徴(表面的魅力、誇大性、病的虚言、共感の欠如、良心の呵責の欠如、浅薄な感情)
因子2: 反社会的生活様式(衝動性、無責任、行動統制の困難、少年非行、犯罪の多様性)
4因子モデル ファセット1: 対人的(表面的魅力、誇大性、虚言、操作性)
ファセット2: 感情的(良心の欠如、浅薄な感情、共感欠如、責任の不受容)
ファセット3: 生活様式(刺激追求、寄生的生活、目標欠如、衝動性、無責任)
ファセット4: 反社会的(行動統制困難、少年非行歴、仮釈放の取消、犯罪の多様性)
graph TD
    subgraph "PCL-R 4因子モデル"
        F1["ファセット1: 対人的<br>表面的魅力・誇大性<br>虚言・操作性"]
        F2["ファセット2: 感情的<br>良心の欠如・浅薄な感情<br>共感欠如・責任の不受容"]
        F3["ファセット3: 生活様式<br>刺激追求・衝動性<br>無責任・寄生的生活"]
        F4["ファセット4: 反社会的<br>行動統制困難・少年非行歴<br>犯罪の多様性"]
    end
    F1 ---|"因子1: 対人的・感情的"| F2
    F3 ---|"因子2: 反社会的生活様式"| F4

サイコパシーと犯罪行動の関連

サイコパシーは犯罪行動、特に暴力的再犯(violent recidivism)の最も強力な予測因子の一つである。メタ分析(Hemphill et al., 1998)は、サイコパシー得点の高い犯罪者が一般の犯罪者と比較して約3-4倍の暴力的再犯率を示すことを報告した。

ただし、以下の点に留意が必要である。

  • サイコパシーは犯罪行動の十分条件ではない。PCL-Rの高得点者すべてが暴力犯罪を行うわけではなく、一部は(法に触れない形での)対人的搾取にとどまる
  • いわゆる「成功したサイコパス」(successful psychopath)——サイコパシー特性が高いが犯罪行為に至らず、企業経営や金融業などで「成功」している個人——の存在が報告されている。因子1(対人的・感情的特徴)が高く因子2(反社会的生活様式)が相対的に低い個人がこのプロファイルに該当しやすい
  • サイコパシーは連続体(次元的)であり、「サイコパスかどうか」という二値的分類は概念的に正確ではない。PCL-Rのカットオフ得点は臨床的・法的便宜に基づくものであり、サイコパシー特性は程度の差として存在する

サイコパシーの神経科学的知見

サイコパシーの神経生物学的基盤については、James Blair(ジェームズ・ブレア)らの研究が主要な知見を提供している。

  • 扁桃体の機能低下: サイコパシー特性の高い個人は、恐怖表情や悲嘆表情の認知において扁桃体の反応性が低下している。Blairの暴力抑制メカニズム(Violence Inhibition Mechanism: VIM) モデルによれば、他者の苦痛の手がかり(泣き声、恐怖表情)は通常、扁桃体を介して攻撃行動を抑制するが、この機能が障害されることで暴力行動が脱抑制される
  • 前頭前皮質-扁桃体結合の異常: 前頭前皮質(特に腹内側前頭前皮質; vmPFC)と扁桃体の機能的結合の弱さが報告されており、道徳的判断と情動的処理の統合における困難を示唆する
  • 報酬感受性の亢進: サイコパシー特性の高い個人は報酬刺激に対して過敏であり、罰の手がかりが存在してもなお報酬追求行動を持続するという知見がある(Newman et al.の反応調節仮説; response modulation hypothesis)

反社会性パーソナリティ障害との関係

サイコパシーとDSM-5に掲載される反社会性パーソナリティ障害(Antisocial Personality Disorder: ASPD)は関連するが同一ではない。ASPDは主に行動的基準(15歳以降の反社会的行為の反復パターン、および素行症の既往)に基づいて診断されるのに対し、サイコパシーはパーソナリティの対人的・感情的特徴(冷淡さ、操作性、共感欠如)をより中核的に位置づける。

実証的知見として、犯罪者集団においてASPD基準を満たす者は50-80%に達するが、PCL-Rによるサイコパシー基準を満たす者は15-25%にとどまる。すなわち、ASPDはサイコパシーよりも広い概念であり、サイコパシーの対人的・感情的核(因子1)を十分に捕捉していないという批判がある。


犯罪の発達的要因

リスクファクターと保護要因の枠組み

Key Concept: リスクファクター(risk factor)と保護要因(protective factor) リスクファクターとは、犯罪行動の発生確率を統計的に高める要因であり、個人的要因(低い知能、衝動性、注意欠如)、家族要因(虐待、不適切な養育、親の犯罪歴)、学校・仲間要因(学業不振、非行仲間との交友)、地域要因(貧困、暴力への曝露)を含む。保護要因とはリスクファクターの影響を緩衝する要因であり、良好な親子関係、学校への愛着、向社会的仲間、高い知能や自己統制力を含む。

犯罪の発達的研究は、犯罪行動を静的な「状態」ではなく、生涯にわたる発達的軌跡(trajectory)として捉える。この視点は、縦断研究(longitudinal study)の蓄積によって可能になった。

ケンブリッジ非行発達研究

犯罪の発達的要因に関する最も重要な縦断研究の一つが、Donald J. West(ドナルド・ウェスト)とDavid P. Farrington(デイヴィッド・ファリントン)によるケンブリッジ非行発達研究(Cambridge Study in Delinquent Development)である。この研究は、1961年にロンドン南部の411名の男子を8-9歳の時点で登録し、50歳まで追跡した前向き縦断研究である。

Farringtonらの知見から同定された主要なリスクファクターは以下の通りである。

カテゴリ リスクファクター
個人的要因 低い知能(特に言語性IQ)、高い衝動性、注意欠如・多動、低い共感性
家族要因 親の犯罪歴、不適切な養育(harsh/inconsistent discipline)、親の監督不足、家族内葛藤、大家族
社会経済的要因 低い世帯収入、劣悪な住環境
仲間・学校要因 非行仲間との交友、学業不振、学校からの排除

Key Concept: 累積リスクモデル(cumulative risk model) 犯罪行動のリスクは単一の要因ではなく、複数のリスクファクターの累積によって増大するという理論的枠組み。リスクファクターの数が増加するにつれて犯罪関与の確率は非線形的に上昇する。重要なのは、いかなる単一のリスクファクターも犯罪行動の十分条件にはならないという点である。

graph TD
    subgraph "犯罪行動のリスクファクターと保護要因"
        IND["個人的要因<br>衝動性・低IQ・低共感性"]
        FAM["家族要因<br>虐待・養育不全・親の犯罪歴"]
        PEER["仲間・学校要因<br>非行仲間・学業不振"]
        SOC["社会経済的要因<br>貧困・暴力曝露"]
        RISK["リスクの累積"]
        CRIME["犯罪行動"]
        PROT["保護要因<br>良好な親子関係・高い自己統制<br>向社会的仲間・学校への愛着"]
    end
    IND --> RISK
    FAM --> RISK
    PEER --> RISK
    SOC --> RISK
    RISK --> CRIME
    PROT -->|"緩衝"| RISK

Moffittの発達的分類理論

Key Concept: 生涯持続型と青年期限定型(life-course-persistent vs. adolescence-limited) Terrie E. Moffitt(1993)が提唱した反社会的行動の発達的分類理論。反社会的行動を示す個人を、幼児期から生涯にわたって持続する生涯持続型(life-course-persistent: LCP)と、青年期にのみ一時的に反社会的行動を示す青年期限定型(adolescence-limited: AL)の2つの質的に異なる群に分類する。

Terrie E. Moffitt(テリー・モフィット)のダニーディン縦断研究(Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study, ニュージーランド)に基づく分類理論は、犯罪心理学において最も影響力のある発達理論の一つである。

生涯持続型(LCP)

  • 特徴: 幼児期(3-5歳頃)から攻撃性、かんしゃく、反抗行動が出現し、児童期の素行問題、青年期の非行、成人期の犯罪と連続する
  • 病因: 神経発達的なリスク(出生前・周産期のリスク、神経認知機能の微弱な障害、困難な気質)と養育環境のリスク(不適切な養育、虐待、親の精神病理)の相互作用。Moffittはこれを神経心理学的リスクと犯罪誘発環境の相互作用と定式化した
  • メカニズム: 困難な気質を持つ子どもが不適切な養育環境に置かれると、問題行動→養育者の拒否→問題行動の悪化という相互作用的累積過程(cumulative interactional process)が生じる。行動問題が学校場面・仲間関係に波及し、向社会的スキルの獲得機会が制限される(「狭窄化」)
  • 予後: 犯罪行動が青年期以降も持続し、暴力犯罪への関与が多い。全犯罪者のうち少数派(約5-10%)であるが、犯罪全体の不均衡に大きな割合を占める

青年期限定型(AL)

  • 特徴: 児童期には目立った行動問題を示さないが、青年期に入って非行行動を開始し、成人期初期(20代前半)までに非行から離脱する
  • 病因: 思春期に伴う生物学的成熟と社会的地位のギャップ(「成熟ギャップ」; maturity gap)。身体的には成人に近いが、社会的自律や権限は制限された状態にあることへの不満が、反社会的行動を成熟の象徴として模倣する動機を生じさせる
  • メカニズム: 青年期限定型の非行は、主に仲間の影響と社会学習(LCP型の仲間の行動を観察・模倣すること)によって獲得される。非行行動は仲間集団内での地位と自律性を獲得する手段として機能する
  • 予後: 成人期に入り社会的役割(就職、パートナーシップ)を獲得するにつれて非行から離脱する。ただし、青年期の非行が「累積的帰結」(犯罪記録、学業の中断、薬物依存)をもたらした場合、離脱が困難になる可能性がある
graph LR
    subgraph "Moffittの発達的分類理論"
        LCP["生涯持続型(LCP)<br>幼児期から持続<br>神経心理学的リスク × 環境リスク<br>人口の約5-10%"]
        AL["青年期限定型(AL)<br>青年期のみ<br>成熟ギャップ × 仲間の影響<br>人口のかなりの割合"]
    end
    LCP -->|"幼児期 → 児童期 → 青年期 → 成人期"| LCP_OUT["持続的犯罪関与"]
    AL -->|"青年期のみ"| AL_OUT["成人期に離脱"]

自己統制理論

Key Concept: 自己統制理論(self-control theory / general theory of crime) Gottfredson & Hirschi(1990)が『A General Theory of Crime』で提唱した犯罪理論。低い自己統制(low self-control)が犯罪行動の最も重要な個人差要因であると主張する。低い自己統制は衝動性、リスク志向、近視眼的判断、低い忍耐力、自己中心性として特徴づけられ、主に幼児期の不適切な養育(監督の不足、逸脱行動への一貫しない罰)によって形成される。

Michael R. Gottfredson(マイケル・ゴットフレッドソン)とTravis Hirschi(トラヴィス・ハーシ)の自己統制理論は、犯罪行動だけでなく、喫煙、飲酒、薬物使用、交通事故、不安定な雇用など、広範な類似行動(analogous behavior)を低い自己統制という単一の構成概念で統一的に説明しようとする野心的な理論である。

Pratt & Cullen(2000)のメタ分析は、低い自己統制と犯罪行動の関連について中程度から強い効果量(d ≈ .50-.60)を報告しており、自己統制が犯罪行動の頑健な予測因子であることを支持している。ただし、自己統制のみで犯罪行動の分散のすべてを説明できるわけではなく、社会的要因(仲間の影響、犯罪機会)の独立した予測力も確認されている。この点で「一般理論」という名称はやや過大であるとの批判がある。


社会学習理論と犯罪

Banduraの社会学習理論の犯罪への適用

Module 1-3, Section 3で検討したBanduraの社会学習理論(social learning theory)は、犯罪行動の獲得メカニズムを理解するうえで中心的な理論枠組みの一つである。犯罪行動は、古典的条件づけやオペラント条件づけのみならず、観察学習(observational learning)——すなわち他者(モデル)の犯罪行動とその結果を観察することによる学習——を通じても獲得される。

犯罪行動の文脈での社会学習過程は以下のように整理される。

  1. 注意過程: 犯罪モデル(家族、仲間、メディア等)の行動に注意を向ける。モデルとの親密さ、モデルの地位や魅力が注意の配分に影響する
  2. 保持過程: 観察した犯罪行動のパターンを記憶に符号化する。暴力的な行動スクリプトが認知的に保持される
  3. 運動再生過程: 保持された行動パターンを実際の行動に変換する
  4. 動機づけ過程: 犯罪行動が報酬をもたらす(金銭、仲間からの尊敬、興奮)と期待される場合、または犯罪行動を行わないことが罰をもたらす(仲間からの排除、弱さの烙印)と期待される場合に、犯罪行動の遂行が促進される

Akersの社会学習理論

Key Concept: Akersの社会学習理論(Akers' social learning theory) Ronald L. Akers(1973, 1998)が、Banduraの社会学習理論とSutherland(サザーランド)の分化的接触理論(differential association theory)を統合して構築した犯罪学理論。犯罪行動は、分化的接触(differential association)、定義(definitions)、分化的強化(differential reinforcement)、模倣(imitation)の4つの概念によって説明される。

Ronald L. Akers(ロナルド・エイカーズ)は、Edwin H. Sutherland(エドウィン・サザーランド)の分化的接触理論——犯罪行動は、犯罪に好意的な定義を持つ他者との接触を通じて学習されるとする理論——をBanduraの社会学習理論の枠組みで再定式化した。

Akersのモデルにおける4つの中核概念は以下の通りである。

概念 内容
分化的接触(differential association) 犯罪に好意的な態度や行動パターンを持つ他者(特に親密な仲間集団)との交流の程度。犯罪に好意的な接触が反犯罪的な接触を上回るとき、犯罪行動の学習が促進される
定義(definitions) 犯罪行動に対する個人の態度・信念。犯罪行動を正当化・中和する認知的定義(例: 「みんなやっている」「被害者にも落ち度がある」)が犯罪行動を促進する
分化的強化(differential reinforcement) 犯罪行動がもたらす報酬(正の強化: 金銭、地位獲得)と罰(逮捕、拘禁)のバランス。犯罪行動からの期待される報酬が罰を上回るとき、犯罪行動が維持される
模倣(imitation) 他者の犯罪行動を直接観察し模倣すること。犯罪行動の開始において特に重要であり、維持段階では分化的強化がより重要になる

Akersの社会学習理論は、犯罪行動の獲得(開始)と維持の両方を説明するメカニズムを提供する点で有力であり、多くの経験的研究で支持されている。

中和の技術

Key Concept: 中和の技術(techniques of neutralization) Sykes & Matza(1957)が提唱した概念。犯罪者が自らの行為に対する罪悪感や道徳的制約を一時的に「中和」するために用いる認知的方略の体系。犯罪者は必ずしも支配的な道徳規範を完全に拒否しているわけではなく、特定の状況において規範の拘束力を一時的に無効化する認知的操作を行う。

Gresham M. Sykes(グレシャム・サイクス)とDavid Matza(デイヴィッド・マッツァ)は5つの中和の技術を同定した。

技術 内容
責任の否定(denial of responsibility) 自分の行為は自分の統制外の事情によるもの 「育ち方が悪かったから仕方ない」
被害の否定(denial of injury) 自分の行為は実際には誰も傷つけていない 「大企業から盗んだだけで誰も困らない」
被害者の否定(denial of victim) 被害者は被害を受けて当然の存在である 「あいつは報いを受けたのだ」
非難者への非難(condemnation of condemners) 自分を非難する側こそ腐敗している 「警察のほうがよほど悪いことをしている」
高次の忠誠への訴え(appeal to higher loyalties) 仲間や集団への忠誠のために規範を破った 「仲間のためにやった」

中和の技術は、Akersの社会学習理論における「定義」概念と密接に関連する。犯罪に好意的な定義は、中和の技術を通じて形成・維持されると理解できる。


少年非行と更生

少年非行の疫学的特徴

犯罪行動の年齢-犯罪曲線(age-crime curve)は、犯罪学における最も頑健な経験的一般化の一つである。犯罪行為(特に一般犯罪)の発生率は10代半ばから急激に上昇し、16-19歳でピークに達した後、20代以降は漸減する。この曲線の形状は文化・時代を超えて顕著に一貫しており、犯罪行動と年齢の関係が普遍的であることを示唆する。

Moffittの分類理論に基づけば、この年齢-犯罪曲線の形状は主に青年期限定型(AL)の寄与によって規定される。すなわち、青年期に一時的に犯罪行動を示す大量のAL型が曲線の急峻なピークを形成し、生涯持続型(LCP)の少数の個人は青年期以降も犯罪行動を継続するため曲線の右裾(成人期以降)を形成する。

リスクアセスメント

Key Concept: リスクアセスメント(risk assessment) 個人が将来犯罪行動(特に再犯)を行う可能性を体系的に評価する手続き。臨床的判断(非構造化)、アクチュアリアルアセスメント(統計的予測)、構造化専門家判断(SPJ: Structured Professional Judgment)の3つのアプローチがある。

少年非行への介入において、リスクアセスメントは重要な役割を果たす。アクチュアリアルアセスメント(actuarial assessment)は、経験的に再犯と関連することが示された要因(静的リスク要因: 犯罪歴、初犯年齢、犯罪類型など)に基づいて統計的にリスクを推定する方法であり、臨床家の主観的判断よりも予測的妥当性が高いことが複数のメタ分析で確認されている。

構造化専門家判断(SPJ)は、アクチュアリアルアプローチの客観性と臨床家の専門的知識を統合したアプローチであり、少年犯罪のリスクアセスメントツールとしてはSAVRY(Structured Assessment of Violence Risk in Youth)などが開発されている。

リスク・ニーズ・反応性モデル

Key Concept: RNRモデル(Risk-Need-Responsivity model) D. A. Andrews & James Bonta(1990年代)が提唱した犯罪者処遇の原則的枠組み。犯罪者の更生に効果的な介入は、(1)リスク原則: 高リスクの犯罪者により集中的な介入を行う、(2)ニーズ原則: 犯罪と因果的に関連する動的リスク要因(犯罪誘発ニーズ)を介入標的とする、(3)反応性原則: 犯罪者の学習スタイルや能力に適合した介入方法を用いる、の3原則に基づくべきとする。

D. A. Andrews(ドン・アンドリュース)とJames Bonta(ジェームズ・ボンタ)のRNRモデルは、犯罪者処遇の「何が効果的か(what works)」という問いに対して、最も体系的な回答を提供する理論的枠組みである。

原則 内容 含意
リスク原則(Risk principle) 介入の強度を犯罪者のリスク水準に適合させる 高リスク者に集中的介入、低リスク者には最小限の介入。低リスク者への過剰な介入はかえって有害でありうる
ニーズ原則(Need principle) 犯罪と因果的に関連する動的リスク要因(犯罪誘発ニーズ)を介入標的とする 反社会的認知、反社会的仲間、物質使用、怒り・敵意などが主要な犯罪誘発ニーズ。静的リスク要因(犯罪歴、年齢)は介入で変容できない
反応性原則(Responsivity principle) 犯罪者の学習スタイル、動機づけ、認知能力、文化的背景に適合した介入方法を用いる 一般的反応性: 認知行動療法(CBT)が最も効果的な介入モダリティである。特殊的反応性: 個人の特性(知能、学習障害、精神疾患など)に応じた調整

RNRモデルの3原則に準拠した処遇プログラムは、準拠しないプログラムと比較して再犯率の低減効果が有意に大きいことが、メタ分析(Andrews & Bonta, 2010; Andrews et al., 1990)によって確認されている。3原則すべてに準拠した場合の再犯低減効果は約26%に達するが、いずれの原則にも準拠しない場合は効果が認められないか、逆に再犯を増加させる場合さえある。

認知行動療法に基づく介入

RNRモデルの反応性原則が示すように、犯罪者の更生において最もエビデンスが蓄積されている介入アプローチは認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)およびその派生的プログラムである。

犯罪者向けCBTプログラムは、典型的に以下の要素を含む。

  • 認知の再構成: 犯罪を正当化する歪んだ思考パターン(認知的歪曲; cognitive distortion)の同定と修正。中和の技術への介入もここに含まれる
  • 問題解決スキル訓練: 対人的葛藤や困難な状況に対して非暴力的・合法的な解決策を生成・評価・実行するスキルの獲得
  • 怒りの管理: 怒りの生理的・認知的・行動的側面を認識し、適応的な対処方略を獲得する
  • 社会的スキル訓練: 自己主張、コミュニケーション、共感性などの向社会的対人スキルの獲得
  • 再犯防止計画: 高リスク状況の同定と対処方略の事前計画

Lipsey & Cullen(2007)のメタ分析は、CBTに基づく介入が再犯率を平均して約25%低減させることを報告している。


まとめ

  • 犯罪行動は単一要因に還元できず、多要因モデルの枠組みで理解される。個人差要因(パーソナリティ特性、サイコパシー)、発達的要因(リスクファクターの累積)、学習過程(観察学習と強化)、社会・環境的文脈が相互作用して犯罪行動を生じさせる
  • パーソナリティ特性のうち、低い協調性、低い誠実性、低いH因子(HEXACOモデル)が犯罪行動と一貫して関連する。サイコパシーは暴力的再犯の強力な予測因子であり、PCL-Rによって評定される。サイコパシーの神経科学的研究は扁桃体の機能低下と前頭前皮質との結合異常を示している
  • Moffittの発達的分類理論は、反社会的行動を生涯持続型(LCP)と青年期限定型(AL)に質的に区別し、それぞれの病因とメカニズムを異なる理論的枠組みで説明する。LCP型は神経心理学的リスクと環境リスクの相互作用、AL型は成熟ギャップと仲間の影響によって説明される
  • Akersの社会学習理論は、分化的接触、定義、分化的強化、模倣の4概念で犯罪行動の獲得・維持メカニズムを説明する。Sykes & Matzaの中和の技術は、犯罪者が道徳規範の拘束力を一時的に無効化する認知的方略を体系化したものである
  • RNRモデル(リスク・ニーズ・反応性モデル)は、犯罪者処遇の効果を最大化するための原則的枠組みであり、3原則すべてに準拠した処遇プログラムは再犯率を有意に低減させる。認知行動療法がエビデンスに基づく最も効果的な介入アプローチである
  • 次のSection 2では、法と心理学の接点として、目撃証言の信頼性、虚偽自白、裁判員・陪審員の意思決定、プロファイリングを検討する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
反社会的行動 antisocial behavior 他者の権利を侵害し社会的規範に違反する広範な行動パターン
サイコパシー psychopathy 対人的操作性、感情的欠陥、反社会的生活様式を特徴とするパーソナリティ障害
PCL-R Psychopathy Checklist-Revised Hareが開発したサイコパシーの評定尺度。20項目、0-40点
暴力抑制メカニズム Violence Inhibition Mechanism (VIM) Blairが提唱した、他者の苦痛手がかりが扁桃体を介して攻撃を抑制するメカニズム
反社会性パーソナリティ障害 Antisocial Personality Disorder (ASPD) DSM-5に掲載される、15歳以降の反社会的行為の反復パターンによる診断
リスクファクター risk factor 犯罪行動の発生確率を統計的に高める要因
保護要因 protective factor リスクファクターの影響を緩衝する要因
累積リスクモデル cumulative risk model 複数のリスクファクターの累積が犯罪リスクを非線形的に増大させるモデル
生涯持続型 life-course-persistent (LCP) 幼児期から生涯にわたり反社会的行動が持続する発達的類型
青年期限定型 adolescence-limited (AL) 青年期にのみ反社会的行動を示し成人期に離脱する発達的類型
成熟ギャップ maturity gap 生物学的成熟と社会的自律の間のギャップ
自己統制理論 self-control theory / general theory of crime 低い自己統制が犯罪行動の中核的予測因子であるとするGottfredson & Hirschiの理論
分化的接触理論 differential association theory 犯罪行動は犯罪に好意的な定義を持つ他者との接触を通じて学習されるとするSutherlandの理論
Akersの社会学習理論 Akers' social learning theory 分化的接触・定義・分化的強化・模倣で犯罪行動を説明する理論
中和の技術 techniques of neutralization 犯罪者が道徳的制約を一時的に無効化する認知的方略
リスクアセスメント risk assessment 将来の犯罪行動の可能性を体系的に評価する手続き
RNRモデル Risk-Need-Responsivity model リスク・ニーズ・反応性の3原則に基づく犯罪者処遇の枠組み
犯罪誘発ニーズ criminogenic needs 犯罪と因果的に関連する動的リスク要因
認知行動療法 Cognitive Behavioral Therapy (CBT) 認知の再構成と行動変容を組み合わせた心理療法アプローチ
認知的歪曲 cognitive distortion 犯罪行動を正当化する歪んだ思考パターン

確認問題

Q1: PCL-Rの2因子モデル(因子1: 対人的・感情的特徴、因子2: 反社会的生活様式)を説明し、サイコパシーと反社会性パーソナリティ障害(ASPD)の概念的・疫学的な差異を論じよ。

A1: PCL-Rの因子1は対人的・感情的特徴(表面的魅力、誇大的自己像、病的虚言、共感の欠如、良心の呵責の欠如、浅薄な感情)を、因子2は反社会的生活様式(衝動性、無責任、行動統制の困難、少年非行、犯罪の多様性)を捕捉する。ASPDはDSM-5において主に行動的基準(15歳以降の反社会的行為の反復パターンと素行症の既往)に基づいて診断されるのに対し、サイコパシー(PCL-R)はパーソナリティの対人的・感情的特徴(因子1)をより中核的に位置づける。疫学的には、犯罪者集団においてASPD基準を満たす者は50-80%に達するが、PCL-Rによるサイコパシー基準を満たす者は15-25%にとどまる。すなわちASPDはより広い概念であり、サイコパシーの核である因子1の特徴を十分に捕捉していない。この差異は、犯罪者処遇やリスクアセスメントにおいてサイコパシーとASPDを区別することの重要性を示している。

Q2: Moffittの発達的分類理論における生涯持続型(LCP)と青年期限定型(AL)の病因・メカニズム・予後の違いを比較し、この分類がなぜ犯罪心理学において重要であるかを論じよ。

A2: LCP型は幼児期から生涯にわたり反社会的行動が持続する類型であり、病因は神経心理学的リスク(出生前・周産期リスク、神経認知機能の障害、困難な気質)と不適切な養育環境の相互作用にある。メカニズムとして、困難な気質の子どもと養育者の間の相互作用的累積過程が反社会的行動を強化・固着させる。予後は不良で、暴力犯罪への関与が多い。AL型は青年期にのみ非行行動を示す類型であり、病因は生物学的成熟と社会的自律のギャップ(成熟ギャップ)と仲間の影響にある。LCP型の仲間の行動を観察・模倣する社会学習によって非行が獲得される。予後は比較的良好で、成人期の社会的役割の獲得とともに離脱する。この分類の重要性は、年齢-犯罪曲線の形状を説明できること、質的に異なる2群に対して異なる介入アプローチの必要性を示唆すること、そして少数のLCP型が犯罪全体の不均衡に大きな割合を占めるという知見が早期介入の根拠を提供することにある。

Q3: Akersの社会学習理論の4つの中核概念(分化的接触、定義、分化的強化、模倣)を説明し、Sykes & Matzaの中和の技術がこの理論のどの概念と関連するかを論じよ。

A3: 分化的接触とは犯罪に好意的な態度・行動を持つ他者との交流の程度であり、犯罪学習の社会的文脈を規定する。定義とは犯罪行動に対する個人の態度・信念であり、犯罪を正当化・中和する認知的定義が犯罪行動を促進する。分化的強化とは犯罪行動がもたらす報酬と罰のバランスであり、期待される報酬が罰を上回るとき犯罪行動が維持される。模倣とは他者の犯罪行動を直接観察し模倣することであり、犯罪行動の開始において特に重要である。中和の技術は主に「定義」概念と関連する。犯罪者は責任の否定、被害の否定、被害者の否定、非難者への非難、高次の忠誠への訴えといった認知的方略を用いて、道徳規範の拘束力を一時的に無効化し、犯罪行動に好意的な定義を形成・維持する。中和の技術は犯罪行動そのものの直接的な原因というよりも、道徳的障壁を除去することで犯罪行動を可能にする認知的前提条件として機能する。

Q4: RNRモデル(リスク・ニーズ・反応性モデル)の3原則を説明し、3原則のすべてに準拠したプログラムが再犯率の低減に効果的である理由を論じよ。

A4: リスク原則は、介入の強度を犯罪者のリスク水準に適合させることを求め、高リスク者に集中的な介入を、低リスク者には最小限の介入を配分する。低リスク者への過剰な介入はかえって有害でありうる(犯罪的仲間との接触機会の増加など)。ニーズ原則は、犯罪と因果的に関連する動的リスク要因(犯罪誘発ニーズ: 反社会的認知、反社会的仲間、物質使用、怒り・敵意等)を介入標的とすることを求める。静的リスク要因(犯罪歴、年齢)は変容不可能であるため介入標的として適切ではない。反応性原則は、犯罪者の学習スタイルや能力に適合した方法を用いることを求め、認知行動療法が一般的に最も効果的な介入モダリティとされる。3原則すべてに準拠した場合に再犯低減効果が最大化される理由は、限られた処遇資源が最も効果を発揮する対象(高リスク者)に集中され、変容可能な犯罪の原因(動的リスク要因)に焦点化され、かつ犯罪者が効果的に学習できる方法で提供されるためである。いずれかの原則が欠けると、効果が減少するか、逆に有害な結果をもたらしうる。

Q5: 犯罪行動の理解において「単一要因への還元」を避けるべき理由を、本セクションで検討した複数の理論的視点(個人差要因、発達的要因、社会学習理論)を統合して論じよ。

A5: 犯罪行動を単一要因に還元することが不適切である理由は、以下の複数の理論的・経験的根拠に基づく。第一に、個人差要因(サイコパシー、低い自己統制)は犯罪行動の頑健な予測因子であるが、サイコパシー特性が高くても犯罪に至らない「成功したサイコパス」の存在が示すように、十分条件ではない。第二に、発達的研究における累積リスクモデルは、犯罪リスクが複数のリスクファクター(個人的、家族的、社会的)の累積によって非線形的に増大することを示しており、いかなる単一要因も犯罪の十分な説明にはならない。第三に、Moffittの分類理論は、反社会的行動を示す個人が質的に異なる2群(LCP型とAL型)からなり、それぞれの病因が異なる(LCP: 神経心理学的リスク×環境リスク、AL: 成熟ギャップ×仲間影響)ことを示す。第四に、Akersの社会学習理論は、犯罪行動の獲得・維持における分化的接触、認知的定義、強化随伴性、模倣の複合的作用を明らかにしている。これらを統合すれば、犯罪行動は個人の生物学的・心理学的素因が、発達的文脈と社会学習過程を通じて環境と相互作用する中で形成される多要因的現象であり、いずれかの要因のみに帰属させる説明は実証的に支持されない。