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Module 3-5 - Section 2: 法と心理学

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-5: 司法・犯罪心理学
前提セクション Section 1(犯罪の心理学的理解)
想定学習時間 7時間

導入

Section 1では犯罪行動の発生メカニズムを個人差要因、発達的要因、社会学習過程から検討した。本セクションでは、心理学と法制度の接点——すなわち法心理学(forensic psychology / psychology and law)の主要テーマを扱う。

法心理学が実務的・社会的に重要である理由は、法制度が心理学的仮定の上に構築されているにもかかわらず、その仮定がしばしば経験的に支持されないことにある。たとえば、法制度は目撃者が出来事を正確に知覚・記憶・報告できることを前提とするが、認知心理学の知見はこの前提の脆弱性を繰り返し示してきた(→ Module 1-1, Section 2「記憶」参照)。同様に、自白は自発的かつ正確であることが想定されるが、社会心理学の研究は特定の状況下で無実の人間が虚偽の自白を行うことを実証している(→ Module 1-4「社会心理学」参照)。

本セクションでは、(1)目撃証言の心理学、(2)虚偽自白の心理学、(3)裁判員・陪審員の意思決定、(4)犯罪者プロファイリングの4つの主題を順に検討する。


目撃証言の心理学

目撃証言の誤りと冤罪

目撃証言(eyewitness testimony)は、刑事司法において最も有力かつ最も危険な証拠の一つである。米国のInnocence Projectの分析によれば、DNA鑑定によって冤罪が証明された事例の約70%以上において、誤った目撃証言が有罪判決の根拠となっていた。この知見は、目撃証言の正確性に関する心理学的研究の法的・社会的重要性を端的に示している。

Key Concept: 目撃証言(eyewitness testimony) 犯罪や事件の目撃者が、知覚・記憶した内容を法廷や捜査の場で報告する証拠形態。目撃証言は、目撃者自身の確信度が高い場合でも不正確でありうることが繰り返し実証されており、証言の確信度と正確性の相関は一般に想定されるよりも低い。

目撃証言の誤りは、記憶の3段階——符号化(encoding)、貯蔵(storage)、検索(retrieval)——のいずれにおいても生じうる。

graph LR
    subgraph "目撃証言の誤りが生じる段階"
        ENC["符号化段階<br>ストレス・武器注目効果<br>曝露時間・照明条件<br>異人種間識別の困難"]
        STO["貯蔵段階<br>事後情報効果<br>記憶の再構成<br>時間経過による減衰"]
        RET["検索段階<br>誘導的質問<br>ラインナップの構成<br>検索手がかりの偏り"]
    end
    ENC --> STO --> RET
    RET --> VER["証言の産出"]

符号化段階の要因

符号化段階において目撃証言の正確性に影響を与える主要な要因は以下の通りである。

武器注目効果(weapon focus effect): 犯罪場面に武器が存在する場合、目撃者の注意が武器に集中し、犯人の顔貌など他の情報の符号化が低下する現象。Steblay(1992)のメタ分析は、武器の存在が犯人の同定精度を有意に低下させることを確認した。この効果は、武器が脅威刺激として注意を自動的に捕捉するという注意の狭窄化(attentional narrowing)によって説明される。

ストレスと覚醒水準: 高いストレス状態は、出来事の中心的詳細(例: 武器の種類)の記憶を促進する一方、周辺的詳細(例: 犯人の服装)の記憶を低下させるという、Easterbrookの手がかり利用仮説(cue-utilization hypothesis, 1959)と整合的な知見が報告されている。ただし、極度のストレスが記憶の全般的な劣化を引き起こすか否かについては知見が一致していない。

異人種間識別バイアス(cross-race effect / other-race effect): 自分と異なる人種の顔の識別精度は、同人種の顔と比較して有意に低い。Meissner & Brigham(2001)のメタ分析は、この効果の頑健性を確認し、効果量が中程度であることを示した。

貯蔵段階の要因——事後情報効果

Key Concept: 事後情報効果(misinformation effect) 出来事を目撃した後に接触した誤った情報が、元の記憶を歪曲・変容させる現象。Elizabeth F. Loftus(エリザベス・ロフタス)が1970年代から体系的に実証した。事後情報効果は、目撃証言の信頼性を揺るがす最も重要な認知心理学的現象の一つである。

Loftus & Palmer(1974)の古典的実験は、交通事故の映像を視聴した参加者に対して、衝突の速度を尋ねる質問の動詞を操作した(「smashed」「collided」「bumped」「hit」「contacted」)。"smashed"条件の参加者は"contacted"条件と比較して有意に高い速度を推定し、さらに1週間後の再質問において存在しなかった「割れたガラス」を見たと報告する割合が2倍以上であった。

Loftus, Miller & Burns(1978)の実験では、参加者は交通事故の場面で一時停止標識(stop sign)を見た後、事後質問においてそれが譲れ標識(yield sign)であったという誤情報に曝露された。その結果、約41%の参加者が誤情報に一致する記憶を報告した。

事後情報効果のメカニズムについては複数の説明が提案されている。

理論 主張 提唱者
記憶痕跡の上書き(trace overwriting) 事後情報が元の記憶痕跡を不可逆的に置き換える Loftus(初期の立場)
ソースモニタリングの失敗(source monitoring failure) 元の記憶と事後情報の両方が保持されるが、情報の出所の弁別に失敗する Lindsay & Johnson(1989)
検索妨害(retrieval interference) 事後情報が元の記憶の検索を妨害するが、元の記憶自体は残存する Bekerian & Bowers(1983)
社会的同調(social conformity) 他者からの情報を社会的圧力のもとで受容する Gabbert et al.(2003)

現在の研究では、ソースモニタリングの失敗が事後情報効果の主要なメカニズムとして広く受容されている。目撃者は出来事そのものの記憶と事後的に接触した情報の記憶の両方を保持しているが、どの情報がどの出所に由来するかの弁別(ソースモニタリング)に失敗するのである(→ Module 1-1, Section 2「記憶の誤り」参照)。

検索段階の要因——誘導質問とラインナップ

誘導質問(leading questions)は、質問の文言自体に特定の回答を示唆する情報が含まれている質問であり、Loftusの研究が示すように証言の内容を歪曲しうる。捜査面接において、「犯人はナイフを持っていましたか」(ナイフの存在を前提とする)のような質問は、元の記憶にナイフが含まれていなかった目撃者にも「ナイフがあった」という記憶を生成する可能性がある。

ラインナップ(lineup)は、目撃者に容疑者を含む複数の人物を提示し、犯人を同定させる手続きである。ラインナップの実施方法が同定精度に大きく影響することが実証されている。

Key Concept: 逐次提示法と同時提示法(sequential vs. simultaneous lineup) ラインナップの提示方法の分類。同時提示法(simultaneous lineup)は複数の人物を一度に提示する方法であり、目撃者は相対的判断(提示された中で最も犯人に似た人物を選ぶ)を行いやすい。逐次提示法(sequential lineup)は人物を一人ずつ順番に提示する方法であり、絶対的判断(各人物が犯人かどうかを独立に判断する)を促進する。逐次提示法は誤同定率を低減させるが、正同定率もやや低下させる。

Gary L. Wells(ゲイリー・ウェルズ)は、目撃者の同定手続きに関する心理学的研究の先駆者であり、推定変数(estimator variables: 犯罪の状況など操作不可能な変数)とシステム変数(system variables: ラインナップの構成や教示など法制度が操作可能な変数)の区別を導入した(Wells, 1978)。この区別は、心理学的知見を法制度の改善に応用するための概念的枠組みとして極めて有用である。

graph TD
    subgraph "Wellsの推定変数とシステム変数"
        EST["推定変数(estimator variables)<br>犯罪時の状況要因<br>操作不可能"]
        SYS["システム変数(system variables)<br>捜査・司法手続きの要因<br>操作可能"]
    end
    EST --> E1["照明条件"]
    EST --> E2["曝露時間"]
    EST --> E3["ストレス水準"]
    EST --> E4["異人種間識別"]
    SYS --> S1["ラインナップの構成"]
    SYS --> S2["提示方法"]
    SYS --> S3["教示内容"]
    SYS --> S4["実施者のブラインド化"]

Wellsらの研究に基づき、米国心理学会(APA)および米国司法省は、目撃者同定手続きの改善に関する勧告を公表している。主要な改善策として、(1)ラインナップ実施者のブラインド化(犯人が誰かを知らない者が実施する)、(2)目撃者への教示(「犯人がいないこともある」と明示する)、(3)フィラー(ダミー人物)の適切な選定、(4)確信度の即時記録が挙げられる。

認知面接法

Key Concept: 認知面接法(cognitive interview: CI) Ronald P. Fisher(ロナルド・フィッシャー)とR. Edward Geiselman(エドワード・ガイゼルマン)が1984年に開発した、記憶の認知心理学的原理に基づく捜査面接技法。(1)文脈の心的復元(mental context reinstatement)、(2)網羅的報告(report everything)、(3)時間順序の変更(change temporal order)、(4)視点の変更(change perspective)の4つの記憶検索方略を用いて、目撃者から正確かつ豊富な情報を引き出す。

認知面接法は、符号化特殊性原理(encoding specificity principle)と複数検索経路の原理に基づいている。メタ分析(Memon et al., 2010)は、認知面接法が標準的面接法と比較して正確な情報量を約34%増加させることを報告している。ただし、不正確な情報もわずかに増加する傾向があり、情報量の増大と正確性のトレードオフが存在する点には留意が必要である。


虚偽自白の心理学

虚偽自白の類型

自白は刑事司法において極めて強力な証拠であり、裁判官・裁判員・陪審員の有罪判断に対して他の証拠類型よりも大きな影響を持つことが実証されている。しかし、心理学的研究は、特定の条件下で無実の被疑者が虚偽の自白(false confession)を行うことを明らかにしてきた。

Key Concept: 虚偽自白(false confession) 実際には行っていない犯罪について、自分が犯人であると告白すること。Saul M. Kassin(ソール・キャシン)とLawrence S. Wrightsman(1985)による分類では、自発的虚偽自白(voluntary false confession)、追従的虚偽自白(compliant false confession)、内面化された虚偽自白(internalized false confession)の3類型に区別される。

類型 定義 メカニズム 具体例
自発的虚偽自白(voluntary) 外部的圧力なしに自発的に行う虚偽の自白 注目願望、罪悪感、精神疾患、実際の犯人の庇護など 著名事件に対する複数の自称犯人の出現
追従的虚偽自白(compliant) 取調べの圧力から逃れるために意識的に虚偽の自白を行う 取調べの圧力、睡眠剥奪、取調べの早期終了への欲求、暗示された利得 長時間の取調べに耐えかねて「認めれば楽になる」と自白
内面化された虚偽自白(internalized) 取調べの過程で自分が犯罪を行ったと信じるようになる 誘導質問、偽証拠の提示、記憶への信頼の低下、被暗示性 取調官から繰り返し証拠を突きつけられ、自らの記憶を疑い始める

Kassinの実験的研究

Kassin & Kiechel(1996)のコンピュータクラッシュ実験は、虚偽自白の生成メカニズムを実験的に実証した画期的研究である。参加者はキーボード入力課題に従事中、禁止キー(ALTキー)を押してコンピュータをクラッシュさせたと偽りの告発を受けた(実際には押していない)。実験の結果、69%の参加者が虚偽の自白文書に署名し(追従)、28%が自分が実際にキーを押したと信じるようになり(内面化)、9%が押した状況の詳細を捏造した(虚偽記憶の作話)。特に、偽りの目撃証拠(「別の参加者があなたがキーを押すのを見た」という偽情報)が提示された条件では、内面化率が飛躍的に上昇した。

この実験は、追従的虚偽自白から内面化された虚偽自白への移行——すなわち、当初は圧力への屈従として自白した被疑者が、やがて自分が本当に犯罪を行ったと信じるようになる過程——を実証的に示した点で重要である。

取調べ技法と虚偽自白リスク

Key Concept: リード・テクニック(Reid Technique) John E. Reid & Associates社が開発した取調べ技法の体系。1960年代以降、米国の法執行機関で最も広く使用されてきた。被疑者の有罪を確信したうえで、(1)対決(犯人であると直接的に告げる)、(2)テーマの展開(犯行動機の道徳的合理化を提供する)、(3)否認の阻止、(4)異議の克服、(5)注意の維持、(6)受動性への対応、(7)二者択一質問(どちらも有罪を前提とする2つの選択肢を提示する)、(8)詳細な自白の引出し、(9)文書化の9段階からなる。

リード・テクニックの中核的問題は、取調べの開始時点で取調官が被疑者の有罪を「確信」していることを前提とする点にある。Kassinらの研究は、この確信がしばしば確証バイアス(confirmation bias)によって歪められていることを示した。取調官は有罪を示唆する手がかりを選択的に知覚・解釈し、無実を示唆する手がかりを無視する傾向がある。

graph TD
    subgraph "虚偽自白の生成プロセス"
        BIAS["取調官の有罪確信<br>(確証バイアス)"]
        PRESS["取調べの圧力<br>長時間拘束・睡眠剥奪<br>偽証拠の提示<br>利益の暗示"]
        VUL["被疑者の脆弱性<br>若年・知的障害<br>被暗示性・従順さ<br>不安・疲労"]
        COMP["追従的虚偽自白<br>(圧力からの逃避)"]
        INT["内面化された虚偽自白<br>(自己の記憶への疑念)"]
        CONV["有罪判決"]
    end
    BIAS --> PRESS
    PRESS --> COMP
    VUL --> COMP
    COMP --> INT
    COMP --> CONV
    INT --> CONV

虚偽自白のリスクを高める被疑者側の要因として、以下が同定されている。

  • 若年性: 青年(特に16歳未満)は成人と比較して取調べの圧力に対する脆弱性が高く、虚偽自白率が高い。前頭前皮質の発達が未完であることによる衝動統制・将来帰結の予測の困難が関与する
  • 知的障害: 知的障害を持つ被疑者は、取調官の誘導に対する被暗示性が高く、質問の法的含意の理解が困難である
  • 被暗示性(suggestibility): Gudjonsson(ギュドジョンソン)が開発したGudjonsson Suggestibility Scale(GSS)によって測定される個人差特性であり、虚偽自白の予測因子として機能する
  • 従順性(compliance): 対人的圧力に屈従しやすい傾向。Gudjonsson Compliance Scale(GCS)によって測定される

録画・録音による可視化と代替的取調べモデル

虚偽自白の防止策として最も広く導入されているのが、取調べの全過程の録画・録音(electronic recording)である。ただし、録画の視点(カメラアングル)が評価者の判断に影響するという実証的知見がある。Lassiter(ラシター)らの研究は、カメラが被疑者のみに焦点を当てた場合、同じ自白が「より自発的」であると判断されること(カメラ視点バイアス; camera perspective bias)を示した。

また、リード・テクニックの問題点を踏まえ、情報収集型取調べ(information-gathering approach)が代替モデルとして発展している。英国で1992年に導入されたPEACE モデル(Planning and preparation, Engage and explain, Account, Closure, Evaluate)は、被疑者の有罪を前提とせず、開放的質問を通じて正確な情報を収集することを重視するアプローチであり、虚偽自白のリスクを低減させると評価されている。


裁判員・陪審員の意思決定

法的判断における認知バイアス

裁判員・陪審員の判断は、合理的・論理的であることが法制度上想定されているが、認知心理学・社会心理学の知見は、法的判断が様々な認知バイアスの影響を受けることを示している。

Key Concept: ストーリーモデル(story model) Nancy Pennington(ナンシー・ペニントン)とReid Hastie(リード・ヘイスティ)が提唱した陪審員の意思決定モデル。陪審員は証拠を個別に評価するのではなく、証拠を統合して事件の因果的物語(causal narrative)を構成し、その物語と各評決選択肢(有罪・無罪)との適合度に基づいて判断を行う。証拠の提示順序が物語の構成しやすさに影響し、判断を左右する。

Pennington & Hastie(1992)の研究は、証拠が物語順(時系列順)で提示された場合、証人順(証人ごとにまとめて提示)で提示された場合と比較して、有罪判断の割合が有意に変動することを示した。これは、人間の認知が物語的構造に基づいて情報を処理する傾向——物語的思考(narrative thinking)——を反映している。

法的判断に影響を与える主要な認知バイアスには以下のものがある。

バイアス 内容 法的文脈での影響
確証バイアス(confirmation bias) 既存の信念に合致する情報を選択的に探索・解釈する傾向 初期印象(例: 起訴されたこと自体)が有罪方向の証拠解釈を促進
後知恵バイアス(hindsight bias) 結果を知った後にその結果が予見可能であったと判断する傾向 民事訴訟における過失認定の歪み。事故の結果を知った裁判員が「予見できたはず」と判断しやすい
アンカリング効果(anchoring effect) 最初に提示された数値が後続の数的判断に影響する 検察の求刑が量刑判断のアンカーとなり、最終的な量刑を当該方向に引き寄せる
感情ヒューリスティック(affect heuristic) 感情的反応が判断を方向づける 残虐な犯行写真の提示が、被告人の有罪確率の推定を不当に高める
被告人の特性バイアス 被告人の外見・人種・社会的地位が判断に影響 被告人の外見的魅力が高いほど軽い量刑、被告人の人種による量刑格差

裁判員の判断の特質——日本の裁判員制度

日本の裁判員制度(2009年施行)は、職業裁判官3名と裁判員6名が合議体を構成し、重大刑事事件の事実認定と量刑を行う制度である。裁判員制度の心理学的研究は、以下の特徴を明らかにしている。

裁判員制度に固有の心理学的課題として、専門家-素人間の知識の非対称性が挙げられる。裁判員は法的知識を持たないため、職業裁判官の意見に追従する同調圧力が生じうる。一方で、裁判員の参加が「健全な市民感覚」を裁判に反映させるという制度趣旨は、専門家集団の中に多様な視点を導入することによる集団意思決定の質の向上を企図している(→ Module 1-4, Section 2「集団意思決定」参照)。

集団審議のダイナミクス

陪審員・裁判員の審議は集団意思決定(group decision-making)の一形態であり、社会心理学で研究されてきた集団過程のダイナミクスが作用する。

Key Concept: 集団極性化(group polarization) 集団討議の結果、個人の判断よりも極端な方向に集団の判断が移行する現象。陪審・裁判員の審議においては、審議開始前に有罪寄りの初期判断を持つメンバーが多数派である場合、審議を通じてさらに有罪確信が強まる方向に極性化する傾向がある。逆に、無罪寄りの初期判断が多数派の場合は無罪方向に極性化する。

graph TD
    subgraph "陪審・裁判員審議のダイナミクス"
        IND["個々の裁判員の<br>初期判断"]
        MAJ["多数派意見の<br>形成"]
        DEL["審議過程"]
        POL["集団極性化<br>多数派方向への<br>意見の先鋭化"]
        CONF["同調圧力<br>少数派の意見<br>変更"]
        VER["評決"]
    end
    IND --> MAJ
    MAJ --> DEL
    DEL --> POL
    DEL --> CONF
    POL --> VER
    CONF --> VER

Kalven & Zeisel(1966)の古典的研究『The American Jury』は、陪審審議開始時の初回投票における多数派が最終評決を予測する最も強力な因子であることを示した。初回投票で有罪が多数派であった場合、最終的に有罪評決に至る確率は約90%であった。この知見は、審議が新たな情報処理の場としてよりも、既存の判断を強化・正当化する場として機能しやすいことを示唆している。

ただし、少数派の意見が審議過程で無視されるわけではない。Moscoviciの少数派影響(minority influence)の研究(→ Module 1-4参照)が示すように、一貫した少数意見は多数派メンバーの思考を刺激し、より深い情報処理を促進する場合がある。

許容不能証拠の影響

法廷では、違法に収集された証拠や伝聞証拠など、法的に許容されない証拠(inadmissible evidence)について、裁判官が裁判員・陪審員に「無視するように」と教示(指示的忽略; judicial admonition)を与えることがある。しかし、心理学的研究は、この教示が効果的に機能しないことを繰り返し示している。

Kassin & Sommers(1997)は、模擬陪審員が許容不能と教示された証拠であっても、その内容が有力である場合には判断に影響を受けることを実証した。この現象は皮肉的過程理論(ironic process theory; Wegner, 1994)——思考を抑制しようとする試み自体がその思考へのアクセシビリティを高めるという逆説——によって部分的に説明される。


犯罪者プロファイリング

プロファイリングの定義と歴史

Key Concept: 犯罪者プロファイリング(offender profiling / criminal profiling) 犯罪現場の証拠、犯行の特徴、被害者の情報から、未知の犯人の人口統計学的特徴(年齢、性別、人種)、心理学的特徴(パーソナリティ、動機)、行動的特徴(生活様式、職業)を推定する技法の総称。FBIの犯罪捜査分析(Criminal Investigative Analysis)とDavid Canterの捜査心理学(Investigative Psychology)が主要な2つのアプローチである。

犯罪者プロファイリングは、連続殺人・連続性犯罪など、犯人が不明の重大事件の捜査支援として発展した。その歴史的起源はJames A. Brussel(ジェームズ・ブラッセル)による1950年代の「マッドボマー」事件へのプロファイリング——精神医学的知見に基づく犯人像の推定——にまで遡るが、組織的な発展は1970-80年代のFBIの行動科学ユニット(Behavioral Science Unit: BSU)による研究に始まる。

FBIの犯罪捜査分析——秩序型/無秩序型類型

FBI(連邦捜査局)のRobert K. Ressler(ロバート・レスラー)、John E. Douglas(ジョン・ダグラス)、Ann W. Burgess(アン・バージェス)らは、収監中の連続殺人犯36名へのインタビューに基づき、秩序型(organized)と無秩序型(disorganized)の二類型を提唱した(Ressler et al., 1986)。

特徴 秩序型(organized) 無秩序型(disorganized)
犯行の特徴 計画的、統制された犯行、犯行現場の整頓、証拠の隠滅 衝動的、無計画、犯行現場の混乱、証拠の放置
被害者の選択 特定の基準で選択、見知らぬ相手 偶発的、地理的に近い相手
推定される犯人像 高い知能、社会的能力あり、計画的、車両保有 低い知能、社会的に孤立、衝動的、犯行現場近くに居住

FBIアプローチへの批判

秩序型/無秩序型の二類型には、以下の重大な方法論的・概念的批判がある。

標本の問題: 類型の基盤となったデータは36名の連続殺人犯へのインタビューにすぎず、標本は小さく、統制群を欠き、インタビューの構造化も不十分であった。この程度のデータから一般化可能な類型論を導出することの妥当性には深刻な疑問がある。

経験的検証の不在: David V. Canter(デイヴィッド・キャンター)らは、100件の連続殺人事件のデータを多次元尺度構成法(multidimensional scaling: MDS)で分析した結果、秩序型と無秩序型が弁別可能な2つのクラスターを形成しないことを示した(Canter et al., 2004)。すなわち、ほぼすべての連続殺人犯が何らかの「秩序的」行動を示しており、二分法的分類は経験的に支持されなかった。

類型の非排他性: 実際の犯罪現場は秩序型と無秩序型の特徴が混在する場合が多く(mixed type)、二分法的分類の実用性は限定的である。

Canterの捜査心理学

David V. Canter(1994)が提唱した捜査心理学(Investigative Psychology: IP)は、FBIの直観的・臨床的アプローチとは対照的に、経験的データの体系的な統計分析に基づくアプローチである。

graph TD
    subgraph "プロファイリングの2つのアプローチ"
        FBI["FBIの犯罪捜査分析<br>(Criminal Investigative Analysis)"]
        IP["Canterの捜査心理学<br>(Investigative Psychology)"]
    end
    FBI --> F1["臨床的・直観的手法"]
    FBI --> F2["秩序型/無秩序型の類型論"]
    FBI --> F3["経験的基盤が脆弱"]
    IP --> I1["統計的・実証的手法"]
    IP --> I2["多変量解析による行動分析"]
    IP --> I3["心理学理論に基づく仮説検証"]

Canterのアプローチの主要な方法論的特徴は以下の通りである。

  • 犯行の一貫性仮説(consistency hypothesis): 犯人は異なる犯行においても一定の行動パターンの一貫性を示すという仮説。これにより、複数の犯行が同一犯人によるものかを推定する(連結分析; linkage analysis)
  • 同型性仮説(homology hypothesis): 犯行場面での行動的特徴と犯人の日常的特性(パーソナリティ、生活様式)の間に対応関係が存在するという仮説。この仮説の経験的支持は限定的であり、プロファイリングの予測的妥当性を制約する主要因の一つである
  • 統計的手法: 最小空間分析(Smallest Space Analysis: SSA)等の多変量解析を用いて、犯罪行動の構造を経験的に同定する

プロファイリングの予測的妥当性

プロファイリングの有効性に関する経験的証拠は限定的である。

Kocsis(コクシス, 2006)は、プロファイラー、刑事、心理学者、一般市民にプロファイリング課題を実施し、プロファイラーの予測精度が他の群と比較して必ずしも優位ではないことを示した。ただし、この研究自体にも方法論的限界(課題の生態学的妥当性、プロファイラーの経験の統制不足等)があり、結果の解釈には注意が必要である。

プロファイリングの科学的地位については、以下の点を認識することが重要である。

  1. プロファイリングは犯人を「特定」する技法ではなく、捜査の方向性を絞り込む補助的ツールである
  2. FBIの類型論的アプローチは経験的基盤が脆弱であり、科学的手法としての妥当性に重大な疑問がある
  3. Canterの捜査心理学は方法論的厳密性においてFBIアプローチを凌駕するが、同型性仮説の経験的支持の限定性は、犯行行動から犯人の日常的特性を推定するという営み自体の難しさを示している
  4. 地理的プロファイリング(geographic profiling)——犯行現場の空間的分布から犯人の居住地を推定する手法——は比較的強い経験的支持を得ており、プロファイリングの中で最も科学的基盤が堅固な領域の一つである

まとめ

  • 目撃証言は、符号化・貯蔵・検索の各段階で誤りが生じうる。Loftusの事後情報効果の研究は、記憶が固定的な記録ではなく再構成的過程であることを法的文脈で実証した。Wellsの推定変数/システム変数の枠組みと認知面接法は、目撃証言の正確性を高めるための実証的基盤を提供する
  • 虚偽自白は、Kassinの分類による自発的・追従的・内面化の3類型に区分される。取調べの圧力、被疑者の脆弱性要因(若年性、知的障害、被暗示性)、リード・テクニック等の対決的取調べ技法が虚偽自白のリスクを高める。PEACEモデル等の情報収集型取調べが代替的アプローチとして発展している
  • 裁判員・陪審員の意思決定は、ストーリーモデルが示すように物語的構造に基づく情報処理によって行われ、確証バイアス、後知恵バイアス、アンカリング効果等の認知バイアスの影響を受ける。集団審議においては集団極性化と同調圧力が作用する
  • 犯罪者プロファイリングは、FBIの秩序型/無秩序型類型論とCanterの捜査心理学に大別される。FBIの類型論は経験的基盤が脆弱であるのに対し、Canterの捜査心理学は統計的手法に基づくが、同型性仮説の経験的支持は限定的である。プロファイリングは捜査の補助的ツールとして位置づけるべきである
  • 次のセクションでは、矯正心理学と被害者支援の心理学を検討する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
目撃証言 eyewitness testimony 目撃者が知覚・記憶した内容を法廷等で報告する証拠形態
武器注目効果 weapon focus effect 武器の存在により目撃者の注意が武器に集中し他の情報の符号化が低下する現象
異人種間識別バイアス cross-race effect / other-race effect 異なる人種の顔の識別精度が同人種と比較して低い現象
事後情報効果 misinformation effect 目撃後に接触した誤情報が元の記憶を歪曲する現象
ソースモニタリングの失敗 source monitoring failure 情報の出所の弁別に失敗し、事後情報を元の記憶と混同する現象
逐次提示法 sequential lineup ラインナップの人物を一人ずつ順番に提示する方法
推定変数 estimator variables 犯罪の状況等、操作不可能な変数
システム変数 system variables ラインナップの構成等、法制度が操作可能な変数
認知面接法 cognitive interview (CI) 認知心理学の原理に基づく記憶検索を促進する面接技法
虚偽自白 false confession 実際には行っていない犯罪について自分が犯人であると告白すること
追従的虚偽自白 compliant false confession 取調べの圧力から逃れるために意識的に行う虚偽の自白
内面化された虚偽自白 internalized false confession 取調べ過程で自分が犯罪を行ったと信じるようになる虚偽の自白
リード・テクニック Reid Technique 被疑者の有罪を前提とした対決的取調べ技法の体系
PEACEモデル PEACE model 英国で開発された情報収集型取調べモデル
ストーリーモデル story model 陪審員が証拠を因果的物語として統合し判断するモデル
集団極性化 group polarization 集団討議の結果、個人の判断よりも極端な方向に集団判断が移行する現象
後知恵バイアス hindsight bias 結果を知った後にその結果が予見可能であったと判断する傾向
犯罪者プロファイリング offender profiling / criminal profiling 犯罪現場の証拠から未知の犯人の特徴を推定する技法
秩序型/無秩序型 organized / disorganized FBIの連続殺人犯の二類型分類
捜査心理学 Investigative Psychology (IP) Canterが提唱した統計的・実証的プロファイリングアプローチ
同型性仮説 homology hypothesis 犯行場面の行動と犯人の日常的特性に対応関係があるという仮説

確認問題

Q1: Loftusの事後情報効果の研究が目撃証言の法的評価に与えた影響を説明し、事後情報効果の主要なメカニズムとして現在最も広く受容されている理論を述べよ。

A1: Loftusの事後情報効果の研究は、目撃者の記憶が出来事の正確な「記録」ではなく、事後的に接触した情報によって歪曲・変容されうる再構成的過程であることを実証した。Loftus & Palmer(1974)は質問の文言が速度推定と虚偽記憶の生成に影響することを、Loftus et al.(1978)は事後の誤情報が元の記憶を置き換えうることを示した。これらの知見は、目撃証言を唯一または主要な証拠として有罪判決を下すことの危険性を実証し、捜査面接の手法改善やラインナップ手続きの改革に科学的根拠を提供した。現在最も広く受容されているメカニズムはソースモニタリングの失敗である。目撃者は元の記憶と事後情報の両方を保持しているが、どの情報がどの出所に由来するかの弁別に失敗し、事後情報を出来事の記憶として報告してしまう。記憶痕跡の上書き仮説(元の記憶が不可逆的に置換される)は初期に提唱されたが、適切な検索手がかりにより元の記憶が回復される場合があるという知見と矛盾するため、ソースモニタリング説が優勢となっている。

Q2: Kassinの虚偽自白の3類型(自発的・追従的・内面化)を説明し、Kassin & Kiechel(1996)のコンピュータクラッシュ実験がこの分類のどの側面を実証したかを論じよ。

A2: 自発的虚偽自白は外部的圧力なしに行われ、注目願望、罪悪感、精神疾患、真犯人の庇護等が動機となる。追従的虚偽自白は取調べの圧力から逃れるために意識的に虚偽の自白を行うものであり、自白内容が真実でないことを本人は認識している。内面化された虚偽自白は、取調べの過程で被疑者が自分が実際に犯罪を行ったと信じるようになるものであり、最も深刻な形態である。Kassin & Kiechel(1996)の実験では、69%が自白文書に署名し(追従的虚偽自白の類似物)、28%が自分が実際にキーを押したと信じ(内面化された虚偽自白の類似物)、9%が詳細を捏造した(虚偽記憶の作話)。この実験は特に、追従的虚偽自白から内面化された虚偽自白への移行過程——偽りの告発と偽証拠の提示という状況下で、当初は圧力への屈従として自白した者がやがて自らの有罪を信じるようになる過程——を実験的に実証した点で画期的であった。偽りの目撃証拠が内面化率を飛躍的に高めたという知見は、取調べにおける偽証拠の提示が虚偽自白のリスクを著しく高めることを示唆する。

Q3: Wellsの推定変数とシステム変数の区別を説明し、この概念的枠組みが目撃者同定手続きの改善にどのように貢献したかを論じよ。

A3: Wells(1978)は、目撃者の同定精度に影響する変数を、推定変数(estimator variables)とシステム変数(system variables)に区別した。推定変数は犯罪の状況に由来する操作不可能な変数(照明条件、曝露時間、ストレス水準、異人種間識別等)であり、同定精度に影響するが法制度が事後的に統制できない。システム変数はラインナップの構成、提示方法、教示内容、実施者のブラインド化など、法制度・捜査手続きが操作可能な変数である。この区別の貢献は、心理学的知見を実際の政策改善に結びつける概念的枠組みを提供した点にある。推定変数については事後的に統制できないため、証言の信頼性を評価する際の判断材料として用いる。一方、システム変数については手続きの改善によって同定精度を向上させることが可能であり、具体的には実施者のブラインド化(犯人を知らない者が実施)、適切な教示(「犯人がいないこともある」)、逐次提示法の採用、フィラーの適切な選定、確信度の即時記録等の改善策が導出された。これらの改善策は米国の複数の州で法的に義務化されている。

Q4: FBIの秩序型/無秩序型プロファイリングに対する主要な批判を3つ挙げ、Canterの捜査心理学がFBIアプローチとどのように異なるかを説明せよ。

A4: FBIの秩序型/無秩序型類型論に対する主要な批判は以下の3つである。第一に、標本の問題として、類型の基盤となったデータが36名の連続殺人犯へのインタビューにすぎず、標本は小さく、統制群を欠き、インタビューの構造化も不十分であった。第二に、経験的検証の不在として、Canter et al.(2004)が100件の連続殺人事件のデータを多次元尺度構成法で分析した結果、秩序型と無秩序型が弁別可能な2つのクラスターを形成しないことが示された。第三に、類型の非排他性として、実際の犯罪現場は両類型の特徴が混在する場合が多く、二分法的分類の実用性が限定的である。Canterの捜査心理学は、FBIの直観的・臨床的アプローチとは対照的に、経験的データの体系的な統計分析(最小空間分析等の多変量解析)に基づく。FBIが類型論的に犯人像を推定するのに対し、Canterは犯行の一貫性仮説(犯人は異なる犯行で行動パターンの一貫性を示す)と同型性仮説(犯行行動と犯人の日常的特性に対応関係がある)を経験的に検証するアプローチをとる。ただし、同型性仮説の経験的支持は限定的であり、これはプロファイリング全体の予測的妥当性を制約する要因でもある。

Q5: 裁判員・陪審員の意思決定におけるストーリーモデルと集団極性化の知見を統合し、集団審議が判断の質を高める条件と低下させる条件について論じよ。

A5: ストーリーモデル(Pennington & Hastie, 1992)によれば、裁判員・陪審員は個々の証拠を独立に評価するのではなく、証拠を因果的物語として統合し、その物語と評決選択肢との適合度に基づいて判断する。集団極性化の知見は、審議開始時の多数派の方向にさらに極端な判断へ移行することを示す。これらを統合すると、集団審議が判断の質を高める条件と低下させる条件が特定できる。質を高める条件としては、(1)メンバーが異なる物語モデルを構成している場合、審議を通じてそれぞれの物語の弱点が検討され、より包括的な証拠評価が促進される、(2)少数派意見が存在し、一貫して主張される場合、多数派の情報処理が深化する(Moscoviciの少数派影響)、(3)評決規則が全員一致を要求する場合、少数派の議論がより丁寧に検討される。一方、質を低下させる条件としては、(1)メンバーの初期判断が同方向に偏っている場合、集団極性化によってさらに極端な判断に移行し、反対証拠の検討が不十分になる、(2)権威的メンバー(裁判員制度における職業裁判官等)の意見への同調が生じ、独立した判断が抑制される、(3)許容不能証拠への曝露が審議前に生じた場合、教示による抑制が困難であり、物語モデルに組み込まれた誤情報が審議を通じて強化される。