Module 1-1 - Section 4: 民主主義の諸相と政治参加¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-1: 政治学原論 |
| 前提セクション | Section 1, Section 3 |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
Section 3では、国家の概念と政治体制の三類型(民主主義・権威主義・全体主義)を概観し、民主主義を「人民による統治を原理とする政治体制」として概括的に定義した。しかし、この定義はあくまで出発点にすぎない。「人民による統治」とは具体的に何を意味するのか——選挙で代表を選ぶことか、市民が直接的に政策決定に関与することか、それとも公共的な議論を通じて合意を形成することか——という問いに対しては、政治学内部で根本的に異なる回答が存在する。
本セクションでは、まず民主主義の諸定義を体系的に整理し、手続的民主主義から実質的民主主義、参加民主主義、熟議民主主義に至る理論的系譜を検討する。次に、民主主義の実証的測定をめぐる指標群を概観する。さらに、民主主義を支える社会的基盤としての市民社会と公共圏の概念を考察し、最後に政治参加の諸形態とその現代的課題を分析する。これにより、Module 1-1全体の総括として、政治学原論の基礎的概念装置を完成させる。
民主主義の諸定義¶
手続的民主主義——シュンペーターの「競争的エリート主義」¶
ヨーゼフ・アロイス・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は、主著『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)において、18世紀以来の「古典的民主主義学説」を根底から批判した。シュンペーターによれば、古典的学説は「人民の意志」や「共通善」の実在を前提としているが、これらは経験的に確認できない虚構である。市民は日常的な政治問題について合理的判断を下す能力も意欲も持たず、「人民の意志」なるものは政治的プロパガンダによって操作・製造されうる。
Key Concept: 手続的民主主義(procedural democracy) 民主主義を自由・平等といった価値理念ではなく、政治的決定に到達するための制度的手続きとして定義する立場。シュンペーターが古典的民主主義学説を批判して提唱した概念であり、「政治的決定に到達するために、個々人が人民の投票を獲得するための競争的闘争を行うことにより決定力を得るような制度的装置」と定義される。
シュンペーターのモデルにおいて、民主主義の本質は「人民による統治」ではなく「人民による承認」にある。有権者の役割は政策を決定することではなく、政治的決定を行う指導者(エリート)を選出することに限定される。民主主義とは、複数のエリート集団が有権者の票をめぐって競争する制度的仕組みにほかならない。この見解は「競争的エリート主義」(competitive elitism)とも呼ばれる。
シュンペーターの定義は「最小限の定義」(minimal definition)として、その後の比較政治学に多大な影響を与えた。民主主義を理念ではなく観察可能な制度的手続きとして捉えることで、実証的な体制比較が可能になったためである。
ダールのポリアーキー論¶
ロバート・アラン・ダール(Robert Alan Dahl, 1915-2014)は、シュンペーターの手続的定義を継承しつつも、民主主義の実証的条件をより精緻に体系化した。ダールは「民主主義」を完全には実現されえない理念型と位置づけ、現実に存在する比較的民主化された体制を「ポリアーキー」と呼んだ。
Key Concept: ポリアーキー(polyarchy) ダールが理念としての「民主主義」と区別して提唱した概念。「公的異議申立て」(public contestation)と「包括性」(inclusiveness)の二次元が十分に発達した政治体制を指す。完全な民主主義は理念型として実現不可能であり、現実に存在する体制はポリアーキーとして近似的に把握されるとする。
ダールの『ポリアーキー』(1971年)は、政治体制を「公的異議申立て(自由化)」と「包括性(参加)」の二次元で分類する。公的異議申立ては、野党や反対勢力が政権に対して公然と異議を唱える自由の度合いを意味し、包括性は政治参加が市民全体にどこまで開かれているかを意味する。
この二次元の組み合わせにより、政治体制は以下の四類型に分類される。
quadrantChart
title "ダールの政治体制の四類型"
x-axis "低い包括性" --> "高い包括性"
y-axis "低い公的異議申立て" --> "高い公的異議申立て"
quadrant-1 "ポリアーキー"
quadrant-2 "競争的寡頭体制"
quadrant-3 "閉鎖的抑圧体制"
quadrant-4 "包括的抑圧体制"
ダールは後に、ポリアーキーの制度的要件として以下の六つの条件を提示した。(1) 選挙によって選出された公務員、(2) 自由で公正かつ定期的な選挙、(3) 表現の自由、(4) 多様な情報源へのアクセス、(5) 結社の自律性、(6) 包括的な市民権。これらは手続的民主主義の条件を制度的に具体化したものとして理解できる。
実質的民主主義——自由民主主義の諸条件¶
手続的定義が選挙競争という制度的手続きに焦点を当てるのに対し、実質的民主主義(substantive democracy)の立場は、民主主義の実現には手続きだけでなく実質的な諸条件が必要であると主張する。
自由民主主義(liberal democracy)は、選挙による代表の選出に加えて、基本的人権の保障、法の支配、権力分立、少数者の権利の保護といった自由主義的要素を民主主義の不可欠の構成要素とみなす。この立場では、たとえ自由で公正な選挙が実施されていても、市民的自由が制約されていれば民主主義とは呼べないことになる。
ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)は「選挙民主主義」(electoral democracy)と「自由民主主義」(liberal democracy)を区別し、後者は前者を包含しつつ、法の支配、政治的自由、市民的自由の保障を追加的条件として要求すると論じた。この区別は、形式的には選挙を行いながらも市民的自由を実質的に制限する「非自由主義的民主主義」(illiberal democracy)の問題を可視化するうえで重要である。
参加民主主義¶
Key Concept: 参加民主主義(participatory democracy) 市民の直接的かつ能動的な政治参加を重視し、選挙における投票にとどまらず、職場・地域社会・政策決定過程など多様な領域における参加を通じて民主主義を実現すべきとする理論的立場。キャロル・パテマン、ベンジャミン・バーバーらが代表的論者である。
キャロル・パテマン(Carole Pateman)は『参加と民主主義理論』(1970年)において、シュンペーター流の競争的エリート主義を批判し、ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)やジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)の思想に立ち返って参加民主主義の理論を構築した。パテマンは、民主主義が単なる政府形態ではなく社会全体の組織原理であるべきとし、とりわけ職場における参加(workplace democracy)を重視した。パテマンの核心的主張は、参加そのものが教育的機能を持つという点にある。政治参加の経験は市民の政治的能力と有効性感覚を高め、さらなる参加への動機づけとなる。
ベンジャミン・バーバー(Benjamin Barber)は『強い民主主義』(1984年)において、既存の自由民主主義を市民の参加を最小限に抑える「薄い民主主義」(thin democracy)として批判し、市民の積極的な自己統治を中核とする「強い民主主義」(strong democracy)を構想した。
参加民主主義の理論は、民主主義の量的次元——いかに多くの市民が、いかに多くの領域で政治に関与するか——に焦点を当てる点に特徴がある。
熟議民主主義¶
Key Concept: 熟議民主主義(deliberative democracy) 民主的決定の正統性を多数決や利益集約ではなく、自由で平等な市民間の公共的な理由づけ(public reasoning)と討議に求める理論的立場。ユルゲン・ハーバーマスが代表的論者であり、「より良い論拠の強制なき強制力」を通じた合意形成を理想とする。
ユルゲン・ハーバーマス(Jurgen Habermas)の討議倫理学・討議的民主主義論に理論的基盤を持つ熟議民主主義は、民主主義の質的次元——政治的決定がいかなるプロセスを経て正統化されるか——に焦点を当てる。
ハーバーマスによれば、民主的決定の正統性は単なる多数決ではなく、関係者全員が自由かつ平等に参加できる討議を通じて、「より良い論拠の強制なき強制力」(der zwanglose Zwang des besseren Arguments)によって合意に至るプロセスに由来する。このプロセスでは、参加者は私的利益ではなく公共的理由(public reasons)を提示し、相互に批判的検討を行うことが求められる。
熟議民主主義と参加民主主義は相互に関連するが、理論的重点は異なる。参加民主主義が参加の範囲と頻度(量的拡大)を重視するのに対し、熟議民主主義は参加の様式と質(理由づけに基づく討議)を重視する。パテマン自身が指摘するように、熟議民主主義の論者は熟議フォーラムの内部プロセスに関心を集中させる傾向があり、社会の構造的条件(職場、家庭など)における参加の問題を十分に扱わない場合がある。
民主主義の定義の系譜¶
以下の図は、民主主義理論の四つの主要な潮流とその焦点を整理したものである。
graph TD
A["古典的民主主義学説<br/>「人民の意志」「共通善」"] -->|批判| B["手続的民主主義<br/>シュンペーター (1942)<br/>焦点: 選挙競争"]
B -->|精緻化| C["ポリアーキー論<br/>ダール (1971)<br/>焦点: 制度的条件"]
A -->|継承・発展| D["参加民主主義<br/>パテマン (1970)<br/>焦点: 参加の量的拡大"]
A -->|批判的再構成| E["熟議民主主義<br/>ハーバーマス<br/>焦点: 討議の質"]
B -->|拡張| F["実質的民主主義<br/>自由民主主義<br/>焦点: 権利・自由の保障"]
D -.->|相互補完| E
これらの定義は相互排他的ではなく、補完的に理解されうる。現代の民主主義理論は、手続的条件(自由で公正な選挙)を必要条件としつつ、実質的条件(権利保障)、参加的条件(市民の積極的関与)、熟議的条件(公共的理由づけ)を加重的に求める方向で発展している。
民主主義の測定¶
民主主義の理論的定義が多様であるのと並行して、民主主義の程度を経験的に測定するための指標が複数開発されてきた。これらの指標は、比較政治学における体制分析や民主化研究の基盤となっている。
主要な民主主義指標¶
| 指標 | 開発主体 | 開始年 | 主要な測定次元 | スケール |
|---|---|---|---|---|
| Freedom House | Freedom House | 1972年 | 政治的権利・市民的自由 | 1-7(1が最も自由) |
| Polity | 政治的不安定性タスクフォース → CSP | 1975年 | 制度的民主主義・制度的独裁 | -10〜+10 |
| V-Dem | ヨーテボリ大学 V-Dem研究所 | 2014年 | 選挙的・自由主義的・参加的・熟議的・平等主義的民主主義 | 0-1(連続尺度) |
Freedom Houseは、世界人権宣言(1948年)の原則に根拠を置き、「政治的権利」と「市民的自由」の二つの下位指標で各国を評価する。最終スコアは両者の平均であり、「自由」「部分的に自由」「自由でない」の三段階に分類される。
Polity(現在はPolity5)は、「制度的民主主義」と「制度的独裁」の下位指標を統合し、-10(完全な独裁)から+10(完全な民主主義)までのスケールで各国を評価する。行政権へのアクセスの競争性、行政権の制約、政治参加の競争性などの下位要素から構成される。
V-Dem(Varieties of Democracy)は、2014年にヨーテボリ大学のV-Dem研究所が本格的に公開した指標であり、470以上の指標、82の中間指標、5つの上位指標を有する。V-Demの特徴は、民主主義を単一の次元ではなく、選挙的(electoral)・自由主義的(liberal)・参加的(participatory)・熟議的(deliberative)・平等主義的(egalitarian)という五つの原理に分解して測定する点にある。これは、先述の民主主義の諸定義に対応した多次元的な測定枠組みといえる。
比較研究によれば、Freedom HouseとPolityは多くの国について類似した評価を下すが、一部の国で顕著な乖離が見られる。V-Demは測定の定義の明確さ、スケールの精緻さ、集計方法の透明性においてFreedom HouseやPolityを上回ると評価されている。
市民社会¶
Key Concept: 市民社会(civil society) 国家と市場の間に位置する、市民の自発的結社・組織・ネットワークの総体。自治的な中間団体(NGO、労働組合、宗教団体、学術団体など)を通じた市民の自己組織化の領域を指し、民主主義の社会的基盤として論じられる。
市民社会の概念は長い思想史的系譜を持ち、論者によって含意が大きく異なる。ここでは、ヘーゲル、トクヴィル、グラムシの三つの系譜を検討する。
ヘーゲルの市民社会論¶
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel)は『法の哲学』(1820年)において、「市民社会」(burgerliche Gesellschaft)を「国家」から明確に区別した。ヘーゲル以前の政治思想では、市民社会と政治社会(国家)はほぼ同義であったが、ヘーゲルはこの同一視を解体した。ヘーゲルにおける市民社会は、各人が私的利益を追求する「欲求の体系」(System der Bedurfnisse)を中核とする経済的社会であり、家族と国家の中間に位置づけられる。ただし、市民社会は私的利益の衝突と不平等を内包するため、ヘーゲルはそれを乗り越える倫理的共同体としての国家の役割を強調した。
トクヴィルの結社論¶
アレクシ・ド・トクヴィル(Alexis de Tocqueville)は『アメリカのデモクラシー』(1835-1840年)において、アメリカ社会における多様な市民的結社(civil associations)の活発さに注目し、これが民主主義の維持に不可欠であると論じた。トクヴィルの議論の核心は、民主主義社会において結社が果たす二重の機能にある。第一に、結社は個人を孤立から救い出し、共同の目標に向けた協力の経験を提供する。第二に、結社は国家権力に対する中間団体として機能し、多数の暴政(tyranny of the majority)を抑制する。トクヴィルにとって、市民的結社への能動的参加なくしては民主主義的政治文化を維持する道はない。
現代の市民社会論の多くはトクヴィルの系譜に位置しており、市民社会を民主主義の積極的な促進要因として捉える。
グラムシの市民社会論¶
アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci)は、マルクス主義の伝統を批判的に継承しつつ、独自の市民社会概念を展開した。グラムシにおいて国家は「政治社会(political society)+市民社会」として把握される。政治社会が直接的な強制力(軍隊、警察、司法)の領域であるのに対し、市民社会はヘゲモニー(→ Module 1-1, Section 1「政治学の定義と基本概念」参照)が作動する領域——すなわち教育制度、宗教組織、メディア、文化的団体など、支配階級が知的・道徳的指導を通じて被支配階級の「同意」を調達する領域——である。
グラムシの視点は、市民社会を無条件に民主主義の促進要因とみなすトクヴィル的理解への重要な修正を提供する。市民社会は解放の場であると同時に支配の場でもありうるのであり、その両義性を認識することが重要である。
市民社会と民主主義の関係¶
以下の図は、市民社会の概念的位置づけを示す。
graph TD
S["国家<br/>(State)"] --- CS["市民社会<br/>(Civil Society)"]
CS --- M["市場<br/>(Market)"]
CS --- F["家族<br/>(Family)"]
CS --> |"結社・NGO<br/>労働組合<br/>宗教団体<br/>メディア"| CS
S -->|"強制"| CS
CS -->|"異議申立て・監視"| S
M -->|"資源提供"| CS
CS -->|"規範形成"| M
現代の政治学において、市民社会は以下の機能を通じて民主主義を支えるとされる。(1) 市民の利益を組織化し、国家に伝達する利益集約機能、(2) 国家権力を監視し、権力の濫用を抑制するアカウンタビリティ機能、(3) 市民に政治参加の技能と習慣を涵養する政治的社会化機能。
ただし、市民社会が常に民主主義を促進するとは限らないという批判的議論も存在する。排他的な民族主義団体、権威主義的な宗教組織、反民主主義的な運動団体も市民社会の一部である。市民社会が民主主義に貢献するか否かは、その内部の規範、組織構造、国家との関係性に依存する。
公共圏¶
Key Concept: 公共圏(public sphere) 私的領域と国家権力の間に位置する、市民が自由かつ平等に公共的問題について討議を行う言論・コミュニケーションの空間。ハーバーマスが18世紀ヨーロッパのブルジョア公共圏を理念型として提唱した概念であり、世論(public opinion)の形成と民主的正統化の基盤とされる。
ハーバーマスの公共圏論¶
ハーバーマスは『公共性の構造転換——市民社会の一カテゴリーについての探究』(Strukturwandel der Offentlichkeit, 1962年)において、市民的公共圏(burgerliche Offentlichkeit)の成立・発展・変質を歴史社会学的に分析した。
ハーバーマスによれば、17世紀末から18世紀にかけてのヨーロッパにおいて、コーヒーハウス(イギリス)、サロン(フランス)、読書サークル(ドイツ)などを舞台に、身分や地位にかかわりなく私人が集い、文芸や政治について理性的に討議する空間——市民的公共圏——が成立した。この空間は以下の原則によって特徴づけられる。(1) 社会的地位の括弧入れ(身分ではなく論拠の質が問われる)、(2) 従来自明視されていた問題領域の問題化、(3) 原理的な開放性(誰でも参加できる)。
しかし19世紀後半以降、福祉国家の発展と大衆メディアの登場により、公共圏は構造的に変質する。国家と社会の相互浸透が進み、批判的公論(critical publicity)は操作的公開性(manipulative publicity)へと転換する。公共圏はもはや理性的討議の場ではなく、組織化された利害関係者とマスメディアによる世論操作の舞台と化す。
公共圏論の現代的意義と批判¶
ハーバーマスの公共圏論は広範な学術的影響を与えたが、同時に多くの批判も提起されている。ナンシー・フレイザー(Nancy Fraser)は、ハーバーマスのモデルが単一の包括的公共圏を前提としている点を批判し、女性、労働者、人種的マイノリティなど、支配的公共圏から排除された集団が形成する「対抗的公衆」(subaltern counterpublics)の存在と意義を強調した。
デジタル時代において、インターネットとソーシャルメディアは公共圏の構造を再び根本的に変容させている。一方ではアクセスの障壁が低下し参加の可能性が拡大したが、他方ではフィルターバブル、フェイクニュース、エコーチェンバー現象が理性的討議の条件を掘り崩しているとの指摘がある。ハーバーマスの公共圏論は、デジタル時代の民主主義を考察する規範的参照枠として、その重要性を増している。
政治参加の諸形態¶
民主主義が市民の参加を不可欠の要素とする以上、政治参加の実態を理解することは政治学の中心的課題である。政治参加(political participation)は、一般に「市民が政府の政策決定に直接的・間接的に影響を及ぼそうとする活動」と定義される。
慣習的政治参加と非慣習的政治参加¶
政治参加の形態は、制度化の程度に応じて慣習的(conventional)参加と非慣習的(unconventional)参加に分類される。
graph TD
PP["政治参加<br/>(Political Participation)"] --> C["慣習的参加<br/>(Conventional)"]
PP --> U["非慣習的参加<br/>(Unconventional)"]
C --> C1["投票"]
C --> C2["選挙運動への参加"]
C --> C3["政党活動"]
C --> C4["陳情・請願"]
C --> C5["政治献金"]
U --> U1["署名活動"]
U --> U2["デモ・集会"]
U --> U3["ボイコット"]
U --> U4["市民的不服従"]
U --> U5["抗議活動"]
慣習的参加は、制度的に確立されたチャネルを通じた参加であり、投票が最も基本的かつ普遍的な形態である。これに加え、選挙運動、政党活動、候補者への接触、政治献金、議員や行政機関への陳情なども含まれる。
非慣習的参加は、制度化された正規のチャネルの外部で行われる政治的行為である。署名活動、デモ行進、ストライキ、ボイコット、座り込み、市民的不服従(civil disobedience)などが含まれる。1960-70年代の先進民主主義国における社会運動(公民権運動、反戦運動、環境運動、フェミニズム運動)の高揚を背景に、非慣習的参加は政治学の重要な研究対象となった。
注意すべきは、「非慣習的」という呼称は歴史的に相対的であるという点である。かつて非慣習的とされた署名活動やデモ行進は、今日では多くの民主主義国において日常的な政治参加の一形態として受容されている。
投票率の国際比較¶
投票は最も基本的な政治参加の形態であるが、その実態は国によって大きく異なる。OECD加盟国の国政選挙における投票率を比較すると、義務投票制を採用するオーストラリアやベルギーでは投票率が90%前後に達するのに対し、日本やスイスでは50%台にとどまる。
主要先進国の投票率(近年の国政選挙)の概況は以下の通りである。スウェーデンが約84%、デンマークが約84%、ドイツが約77%、フランスが約74%、イギリスが約67%、アメリカが約67%、日本が約56%であり、日本はOECD加盟国の中で最低水準に位置する。
投票率の差異を説明する要因としては、義務投票制の有無、選挙制度(比例代表制は小選挙区制より投票率が高い傾向にある)、政党システム、政治文化、社会経済的条件、人口の年齢構成などが挙げられる。
政治的無関心とその問題¶
低投票率の背景には、政治的無関心(political apathy)の問題がある。政治的無関心は、政治に対する関心・知識・参加意欲の欠如を指すが、その原因は一様ではない。
第一に、政治的有効性感覚(political efficacy)の欠如がある。自分の政治参加が政策決定に影響を及ぼしうるという感覚が失われると、参加への動機が低下する。第二に、政治不信(political distrust)がある。政治制度や政治家に対する信頼の低下は、制度的参加からの撤退を招く。第三に、生活上の制約(時間的・経済的余裕の欠如、情報へのアクセスの困難)が参加を阻害する場合がある。
政治的無関心は民主主義にとって二重の意味で問題である。一つには、参加の不平等をもたらす点である。政治参加は社会経済的地位と相関しており、低所得層・低学歴層・若年層の参加率が低い傾向にある。これは政策決定における代表の歪みにつながる。もう一つには、民主主義の正統性そのものを掘り崩す点である。市民の大半が政治過程から離脱するならば、民主的決定の「人民による統治」としての性格は著しく希薄化する。
まとめ¶
- 民主主義の定義は、手続的定義(シュンペーター)、ポリアーキー論(ダール)、実質的定義(自由民主主義)、参加民主主義(パテマン)、熟議民主主義(ハーバーマス)に大別され、それぞれが異なる次元に焦点を当てる。
- 手続的定義は選挙競争を民主主義の最小条件とし、比較政治学の実証研究を可能にした。実質的定義は権利・自由の保障を、参加民主主義は参加の量的拡大を、熟議民主主義は討議の質をそれぞれ民主主義の条件に加える。
- Freedom House、Polity、V-Demなどの民主主義指標は、理論的定義を操作化し、各国の民主主義の程度を経験的に測定する。V-Demの多次元的アプローチは、民主主義の複数の定義に対応した測定枠組みである。
- 市民社会は国家と市場の間の自発的結社の領域であり、トクヴィルは民主主義の促進要因として、グラムシは支配と解放の両義的な場として把握した。市民社会が民主主義に貢献するか否かは自明ではなく、その内部構造と国家との関係に依存する。
- ハーバーマスの公共圏論は、理性的討議を通じた公論形成の空間を理念型として提示し、その歴史的変質を分析した。デジタル時代における公共圏の変容は現代民主主義の重要な課題である。
- 政治参加は慣習的参加と非慣習的参加に分類される。投票率の国際比較は参加の不平等を可視化し、政治的無関心は民主主義の正統性にかかわる根本的な問題を提起する。
Module 1-1全体の振り返り: 本モジュールでは、政治学の基礎的概念装置を四つのセクションを通じて構築した。Section 1で権力・権威・正統性という政治学の出発点を確認し、Section 2で学問としての政治学の方法論的発展を辿り、Section 3で国家と政治体制の類型を整理し、本Section 4で民主主義の多様な定義とそれを支える社会的・制度的条件を検討した。これらの概念は、Module 1-2(政治思想入門)以降の学習における基盤となる。とりわけ、正統性の諸類型、権力の多面的理解、民主主義の複数の定義は、政治思想の古典的テクストを読解し、現代の政治現象を分析するうえで繰り返し参照されることになる。
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 手続的民主主義 | procedural democracy | 民主主義を価値理念ではなく、政治的決定に到達するための制度的手続き(選挙競争)として定義する立場 |
| ポリアーキー | polyarchy | ダールが提唱した概念。「公的異議申立て」と「包括性」の二次元が十分に発達した、現実に存在する比較的民主化された政治体制 |
| 参加民主主義 | participatory democracy | 市民の直接的・能動的な政治参加を重視し、選挙にとどまらず多様な領域における参加を通じた民主主義の実現を主張する理論的立場 |
| 熟議民主主義 | deliberative democracy | 民主的決定の正統性を、自由で平等な市民間の公共的理由づけと討議に求める理論的立場 |
| 市民社会 | civil society | 国家と市場の間に位置する、市民の自発的結社・組織・ネットワークの総体 |
| 公共圏 | public sphere | 私的領域と国家権力の間に位置する、市民が公共的問題について自由かつ平等に討議を行う言論空間 |
| 選挙民主主義 | electoral democracy | 自由で公正な選挙の実施を主要な基準として定義される民主主義の類型 |
| 自由民主主義 | liberal democracy | 選挙に加え、基本的人権の保障、法の支配、権力分立、少数者の権利保護を不可欠の構成要素とする民主主義の類型 |
| 政治的有効性感覚 | political efficacy | 自らの政治参加が政策決定に影響を及ぼしうるという市民の主観的感覚 |
| 対抗的公衆 | subaltern counterpublics | フレイザーの概念。支配的公共圏から排除された社会集団が形成する、独自の言説空間と公衆 |
確認問題¶
Q1: シュンペーターの手続的民主主義と、パテマンの参加民主主義は、民主主義における市民の役割をそれぞれどのように捉えているか。両者の相違を説明せよ。
A1: シュンペーターの手続的民主主義において、市民の役割は政治的決定を行うエリート(政治指導者)を選挙によって選出することに限定される。民主主義の本質は「人民による統治」ではなく、エリート間の競争的闘争である。これに対し、パテマンの参加民主主義は、市民の直接的かつ能動的な政治参加を民主主義の中核と捉える。選挙による代表の選出にとどまらず、職場・地域社会など多様な領域における参加を通じて、市民の政治的能力と有効性感覚が涵養されると主張する。シュンペーターが市民の政治的能力に懐疑的であるのに対し、パテマンは参加の教育的機能によって市民の能力が向上すると考える点に根本的な相違がある。
Q2: ダールのポリアーキー概念が「民主主義」ではなく「ポリアーキー」という別の用語を用いる理論的理由を説明せよ。
A2: ダールが「ポリアーキー」という独自の用語を用いるのは、「民主主義」を完全には実現されえない理念型として位置づけるためである。理念としての民主主義が想定する「人民による完全な自己統治」は現実の政治体制においては達成されず、現存する体制はあくまでその近似にすぎない。ダールは「公的異議申立て」と「包括性」の二次元がともに高度に発達した体制をポリアーキーと呼ぶことで、理念と現実の区別を概念的に明確化し、現実の政治体制を理想化することなく実証的に分析する枠組みを提供した。
Q3: ハーバーマスの公共圏論において、公共圏の「構造転換」とは何を指すか。また、デジタル時代における公共圏の変容は、この構造転換の議論とどのように関連するか。
A3: ハーバーマスにおける「構造転換」とは、18世紀に成立した市民的公共圏が、19世紀後半以降の福祉国家の発展と大衆メディアの登場により変質したプロセスを指す。市民が理性的討議を通じて批判的公論を形成する空間は、組織化された利害関係者とマスメディアによる世論操作の舞台へと変容した。デジタル時代においては、インターネットとSNSが参加のアクセス障壁を低下させる一方で、フィルターバブルやエコーチェンバー現象が理性的討議の条件を掘り崩すという新たな構造転換が生じている。これは、操作的公開性がアルゴリズムによる情報選別という新たな形態をとって出現したものとも解釈できる。
Q4: トクヴィルとグラムシは市民社会をそれぞれどのように捉えたか。両者の相違点を踏まえて、市民社会が民主主義に対して持つ両義的な性格を説明せよ。
A4: トクヴィルはアメリカの市民的結社の活発さに注目し、結社が個人を孤立から救い出し、協力の経験を提供するとともに、国家権力に対する中間団体として多数の暴政を抑制する機能を果たすと論じた。市民社会は民主主義の積極的な促進要因として肯定的に捉えられる。一方グラムシは、市民社会を支配階級がヘゲモニーを行使する領域——教育、メディア、宗教組織などを通じて被支配階級の「同意」を調達する空間——として把握した。この二つの視角を統合すると、市民社会は民主的な自己組織化と権力への抵抗の場であると同時に、既存の支配関係を再生産し正統化する場でもありうるという両義性が浮かび上がる。市民社会が民主主義に貢献するか否かは、その内部の規範、組織構造、国家権力との関係に依存する。
Q5: 政治的無関心は民主主義にとってなぜ問題であるか。参加の不平等と正統性の観点から論じよ。
A5: 政治的無関心は民主主義に対して二つの深刻な問題を提起する。第一に、参加の不平等の問題である。政治参加は社会経済的地位と相関しており、低所得層・低学歴層・若年層は政治から離脱しやすい。この結果、政策決定に反映される利益は参加する層に偏り、代表の歪みが生じる。第二に、民主的正統性の問題である。民主主義の正統性は「人民による統治」という原理に根拠を持つが、市民の大半が政治過程から離脱するならば、政治的決定が「人民の意志」を反映しているという主張は大きく弱まる。投票率の継続的な低下は、民主主義体制の正統性そのものを掘り崩す危険性を孕んでいる。