Module 1-3 - Section 2: 政治体制の比較¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-3: 比較政治学入門 |
| 前提セクション | Section 1: 比較政治学の方法論 |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
政治体制(political regime)の比較は、比較政治学の中核的テーマである。民主主義国家であっても、権力がどのように配分され、行使されるかは制度設計によって大きく異なる。議院内閣制では立法府と行政府が融合し、大統領制では両者が分立する。この制度的差異は、政策決定の速度、政治的安定性、民主的正統性の所在に直接的な影響を与える。
本セクションでは、議院内閣制(parliamentary system)、大統領制(presidential system)、半大統領制(semi-presidential system)の三類型を取り上げ、各体制の構造・利点・問題点を体系的に比較する。その際、Section 1で学んだ拒否権プレイヤー理論を分析枠組みとして活用し、体制間の差異を「拒否権プレイヤーの数と配置」という共通の変数から分析する。
議院内閣制¶
基本的構造¶
議院内閣制(parliamentary system)は、行政府(内閣)が立法府(議会)の信任に基づいて成立し、議会に対して連帯責任を負う政治体制である。
Key Concept: 議院内閣制(Parliamentary System) 行政府(内閣)が立法府(議会)の信任を基盤として存立する政治体制。首相は通常、議会の多数派から選出され、議会は不信任決議によって内閣を退陣させることができる。立法権と行政権の「融合」(fusion of powers)を特徴とする。
議院内閣制の中核的特徴は以下のとおりである。
- 行政府と立法府の融合: 内閣の構成員は通常、議会議員の中から選ばれる。首相(prime minister)は議会の多数派の指導者として、行政権と立法権の結節点に立つ
- 内閣の連帯責任: 内閣は議会に対して集団的に責任を負い、議会は不信任決議(vote of no confidence)によって内閣を総辞職させることができる
- 議会の解散権: 多くの議院内閣制では、首相または国家元首が議会を解散し、総選挙を実施する権限を持つ。これは行政府と立法府の対立を有権者の判断に委ねる機能を果たす
- 国家元首と行政府の長の分離: 国家元首(君主または大統領)は儀礼的な役割を担い、実質的な行政権は首相が行使する
ウェストミンスター・モデル¶
Key Concept: ウェストミンスター・モデル(Westminster Model) 英国議会を原型とする議院内閣制の一類型。小選挙区制、二大政党制、単独過半数政権、強い内閣主導、議会主権を特徴とし、多数決型民主主義の典型とされる。
英国に起源を持つウェストミンスター・モデルは、議院内閣制の最も純粋な形態とされる。その主要な特徴は以下のとおりである。
- 小選挙区制(first-past-the-post) により二大政党制が形成されやすい(Duvergerの法則)
- 選挙の勝者が議会の単独過半数を確保し、単独政党内閣を組閣する
- 内閣は議会多数派に支えられるため、法案を確実に通過させることができ、行政主導の政策決定が可能となる
- 野党は「影の内閣」(shadow cabinet)を組織し、次の選挙に備えて政権交代を目指す
ウェストミンスター・モデルにおいて、拒否権プレイヤーは実質的に一つ(与党)である。上院(貴族院)は1911年の議会法以降、法案を遅延させる権限のみを持ち、実質的な拒否権は制限されている。このため政策安定性は低く、政権交代ごとに大規模な政策転換が可能となる。
Lijphartの二類型: 多数決型とコンセンサス型¶
Arend Lijphart(アレンド・レイプハルト)は『Democracies』(1984)および『Patterns of Democracy』(1999; 第2版2012)において、民主主義体制を多数決型民主主義(majoritarian democracy) とコンセンサス型民主主義(consensus democracy) の二類型に分類した。
Key Concept: 多数決型民主主義(Majoritarian Democracy) 選挙における多数派が政治権力を集中的に行使する民主主義の形態。単独政党内閣、二大政党制、小選挙区制、一院制(または弱い二院制)、単一制国家を特徴とする。ウェストミンスター・モデルがその典型である。
Key Concept: コンセンサス型民主主義(Consensus Democracy) 可能な限り多くの政治勢力の合意に基づいて政策決定を行う民主主義の形態。連立内閣、多党制、比例代表制、強い二院制、連邦制を特徴とする。オランダ、ベルギー、スイスがその典型である。
Lijphartはこの二類型を、10の制度的変数に基づいて二次元で整理した。
第一次元(executives-parties dimension: 行政府-政党次元)
| 特徴 | 多数決型 | コンセンサス型 |
|---|---|---|
| 行政権の集中 | 単独過半数内閣 | 連立内閣 |
| 行政府-立法府関係 | 行政府優位 | 均衡 |
| 政党システム | 二党制 | 多党制 |
| 選挙制度 | 小選挙区制 | 比例代表制 |
| 利益団体システム | 多元主義的 | コーポラティズム的 |
第二次元(federal-unitary dimension: 連邦制-単一制次元)
| 特徴 | 多数決型 | コンセンサス型 |
|---|---|---|
| 国家構造 | 中央集権・単一制 | 分権・連邦制 |
| 立法府構造 | 一院制(弱い二院制) | 強い二院制 |
| 憲法改正 | 柔軟(単純多数) | 硬性(特別多数等) |
| 違憲審査 | なし(弱い) | あり(強い) |
| 中央銀行 | 政府依存 | 独立 |
Lijphartの実証研究において重要な知見は、コンセンサス型民主主義は政策決定が遅いという通説に反し、多数決型と比較して政策パフォーマンスに劣らないという点である。むしろコンセンサス型は「より穏やかな(kinder, gentler)」政策的帰結——低い投獄率、手厚い福祉支出、環境保護への積極性——をもたらす傾向があるとされる。
graph TD
subgraph 多数決型["多数決型民主主義"]
W1[単独政党内閣] --> W2[行政府優位]
W3[小選挙区制] --> W4[二大政党制]
W5[単一制国家] --> W6[権力集中]
end
subgraph コンセンサス型["コンセンサス型民主主義"]
C1[連立内閣] --> C2[権力共有]
C3[比例代表制] --> C4[多党制]
C5[連邦制] --> C6[権力分散]
end
多数決型 ---|対照的な制度配置| コンセンサス型
典型例1["典型例: 英国<br/>ニュージーランド"] --- 多数決型
典型例2["典型例: スイス<br/>ベルギー"] --- コンセンサス型
拒否権プレイヤー理論との関連でいえば、多数決型は拒否権プレイヤーが少なく(権力集中)、コンセンサス型は拒否権プレイヤーが多い(権力分散)という対応関係にある。ただし、Lijphartの二次元モデルは拒否権プレイヤー理論より広い範囲の制度的変数を包含しており、両者は補完的な関係にある。
大統領制¶
基本的構造¶
大統領制(presidential system)は、行政府の長(大統領)と立法府(議会)がそれぞれ独立した選挙で選出され、両者が相互に独立して存在する政治体制である。
Key Concept: 大統領制(Presidential System) 行政府の長(大統領)が国民から直接選出され、立法府(議会)から独立して行政権を行使する政治体制。行政権と立法権の「分立」(separation of powers)を特徴とし、大統領と議会はそれぞれ固定された任期を持つ。
大統領制の中核的特徴は以下のとおりである。
- 権力分立(separation of powers): 行政権(大統領)と立法権(議会)が制度的に分離され、それぞれが独立した正統性を持つ
- 大統領の直接選出: 大統領は国民投票(直接または間接)によって選出され、議会の信任に依存しない
- 固定任期: 大統領も議会もそれぞれ固定された任期を持ち、相互に解任・解散する権限を通常持たない(弾劾は例外的手続き)
- 大統領の拒否権: 多くの大統領制において、大統領は議会が可決した法案に対する拒否権(veto power)を持つ
アメリカ合衆国のモデル¶
アメリカ合衆国は大統領制の原型であり、最も長期にわたって安定的に機能してきた大統領制国家である。その制度的特徴は以下のとおりである。
- 厳格な三権分立: 行政(大統領)・立法(連邦議会上下両院)・司法(連邦最高裁判所)が相互に抑制・均衡する「チェック・アンド・バランス(checks and balances)」の体制
- 大統領の立法拒否権: 大統領は議会の法案に拒否権を行使でき、議会が拒否権を覆すには両院の3分の2以上の賛成が必要
- 上院の助言と同意: 条約の批准や高官の任命には上院の承認が必要
- 連邦制: 連邦政府と州政府の権限が憲法によって配分されている
拒否権プレイヤー理論の観点からは、アメリカには最低3つの制度的拒否権プレイヤー(大統領・上院・下院)が存在し、連邦最高裁判所の違憲審査権を含めれば4つとなる。この多数の拒否権プレイヤーの存在が、アメリカ政治における政策変更の困難さ——いわゆる「グリッドロック(gridlock)」——の制度的根拠となっている。
分割政府の問題¶
Key Concept: 分割政府(Divided Government) 大統領と議会多数派が異なる政党に属する状態。大統領制に固有の現象であり、立法過程における膠着(gridlock)を引き起こしうる。
大統領制においては、大統領と議会がそれぞれ独立した選挙で選出されるため、両者が異なる政党に掌握される分割政府が構造的に生じうる。議院内閣制では内閣が議会多数派に基づいて成立するため、この問題は原理的に発生しない。
分割政府の帰結については学術的論争がある。David Mayhew(デイヴィッド・メイヒュー)は『Divided We Govern』(1991)において、分割政府と統一政府の間で重要立法の成立数に有意な差がないことを示した。一方、他の研究者は、分割政府が政策の漸進主義化や立法の質の低下をもたらすと指摘している。
Linzの大統領制批判¶
Juan J. Linz(フアン・リンス)は1990年の論文「The Perils of Presidentialism」(Journal of Democracy, Vol.1, No.1)において、大統領制が民主主義の安定にとって構造的に不利であると論じた。その主要な論点は以下の4つである。
Key Concept: 二重の民主的正統性(Dual Democratic Legitimacy) 大統領制において、大統領と議会がともに国民の直接選挙によって選出されることから生じる問題。両者が対立した場合、どちらが「国民の意思」を代表するかを解決する制度的メカニズムが存在しない。
-
二重の民主的正統性: 大統領と議会がそれぞれ独立に国民から選出されるため、両者の間に政策的対立が生じた場合、どちらが民主的正統性を持つかを解決する制度的仕組みがない。議院内閣制では不信任決議と議会解散によって対立を解消できるが、大統領制にはこうした「安全弁」が欠如している
-
任期の固定性(rigidity): 大統領の任期は固定されており、政治的危機や民意の変化に対して柔軟に対応できない。議院内閣制では不信任決議や自発的辞任によって行政府の長が交代しうるが、大統領制では弾劾という例外的手続きを除いて任期途中の交代は困難である
-
勝者総取り(winner-take-all)の性格: 大統領選挙は単一のポストをめぐるゼロサムの競争であり、敗者は次の選挙まで行政権から完全に排除される。この性格は政治的対立の先鋭化と敗者の疎外感を招きやすい
-
任期制限による統治の歪み: 再選禁止や任期制限が設けられている場合、大統領は限られた時間の中で政策実現を急ぐインセンティブを持ち、拙速な意思決定や民主的手続きの逸脱を招くことがある
Linzはこれらの構造的問題から、「世界の安定した民主主義国家の圧倒的多数が議院内閣制である」という経験的事実を説明できると論じた。アメリカ合衆国は長期にわたって安定した大統領制民主主義を維持しているが、Linzはこれを大統領制の一般的優位性ではなく、アメリカ固有の条件(政党の非イデオロギー性、連邦制による権限分散等)による例外と位置づけた。
graph TD
subgraph 議院内閣制["議院内閣制の危機対応"]
P1[政策対立] --> P2[不信任決議 / 議会解散]
P2 --> P3[総選挙による民意確認]
P3 --> P4[新たな多数派に基づく政権]
end
subgraph 大統領制["大統領制の危機対応"]
R1[政策対立] --> R2[制度的解消手段の欠如]
R2 --> R3[グリッドロック<br/>または超憲法的解決]
R3 --> R4[民主主義の不安定化]
end
半大統領制¶
Duvergerの定義¶
半大統領制(semi-presidential system)は、議院内閣制と大統領制の要素を併せ持つ混合型の政治体制である。この概念はMaurice Duverger(モーリス・デュヴェルジェ)が1970年に提唱したもので、フランス第五共和政の制度を説明するために導入された。
Key Concept: 半大統領制(Semi-Presidential System) 国民から直接選出された大統領と、議会の信任に基づく首相が並存する政治体制。大統領は単なる儀礼的元首ではなく実質的な権限を持つ一方、首相は議会に対して責任を負う。Duverger(1970)が提唱した概念であり、フランス第五共和政がその典型例とされる。
Duvergerの定義による半大統領制の三条件は以下のとおりである。
- 大統領が普通選挙(直接選挙)によって選出されること
- 大統領が相当の(considerable)権限を保有すること
- 大統領に加えて、首相および閣僚が行政権を行使し、議会の信任を維持する限りにおいて在職すること
ただし、Robert Elgie(ロバート・エルジー)はDuvergerの定義における「相当の権限」という基準が曖昧であると批判し、より簡素な定義——「国民の直接選挙で選出された大統領と、議会に対して責任を負う首相が並存する体制」——を提案した。
フランス第五共和政のモデル¶
フランス第五共和政(1958年〜)は、半大統領制の原型かつ最も研究されてきた事例である。Charles de Gaulle(シャルル・ド・ゴール)のもとで制定された1958年憲法は、第四共和政(議院内閣制)における政治的不安定——頻繁な内閣交代、弱い行政府——への処方箋として、強い大統領を制度的に創出した。1962年の憲法改正により大統領の直接公選制が導入された。
フランスの大統領は以下の権限を持つ。
- 首相の任命権(議会の事前承認は不要だが、首相は議会の信任を維持する必要がある)
- 国民議会の解散権
- 国民投票の付議権
- 非常事態権限(第16条)
- 外交・安全保障政策における主導的役割
一方、首相は以下の機能を担う。
- 日常的な行政運営の指揮
- 議会への法案提出
- 議会に対する責任(不信任決議の対象)
コアビタシオン¶
Key Concept: コアビタシオン(Cohabitation) 半大統領制において、大統領と首相が異なる政党に属する状態。大統領の任期と議会の任期がずれている場合に構造的に発生しうる。この状態では実質的権力が首相に移行し、体制は議院内閣制に近い形で機能する。
フランス第五共和政では、大統領の任期(当初7年、2000年の改正後5年)と国民議会の任期(5年)が異なっていたため、大統領の政党と議会多数派の政党が異なるコアビタシオンが発生した。歴史上3回のコアビタシオンが経験されている。
| 期間 | 大統領 | 首相 | 大統領の党派 | 首相の党派 |
|---|---|---|---|---|
| 1986-1988 | Francois Mitterrand | Jacques Chirac | 左派(社会党) | 右派(RPR) |
| 1993-1995 | Francois Mitterrand | Edouard Balladur | 左派(社会党) | 右派(RPR) |
| 1997-2002 | Jacques Chirac | Lionel Jospin | 右派(RPR) | 左派(社会党) |
コアビタシオン期には、大統領の実質的権限が縮小し、首相が行政権の中核を担う。大統領は外交・安全保障の領域で一定の影響力を保持するが、内政の主導権は首相に移る。体制は事実上、議院内閣制に近い形で機能する。
2000年の大統領任期短縮(7年から5年へ)と、大統領選挙直後に国民議会選挙を実施する慣行の定着により、コアビタシオンの発生確率は大幅に低下した。大統領選挙で勝利した政党が直後の議会選挙でも多数派を獲得する「蜜月効果(honeymoon effect)」が働くためである。
半大統領制の拒否権プレイヤー構成は、政治状況によって変動する。大統領と議会多数派が同一政党の場合、大統領が実質的に唯一の拒否権プレイヤーとなり(議会多数派は大統領に従う)、体制は多数決型に近づく。コアビタシオンの場合は、大統領と首相(議会多数派)という2つの拒否権プレイヤーが存在し、政策安定性が高まる。
体制比較の分析枠組み¶
拒否権プレイヤー理論による統一的比較¶
Section 1で学んだ拒否権プレイヤー理論は、上述の三類型を統一的な枠組みで比較するために有効である。各体制における拒否権プレイヤーの構成を整理すると以下のようになる。
| 体制類型 | 制度的拒否権プレイヤー | パルチザン拒否権プレイヤー | 典型的な政策安定性 |
|---|---|---|---|
| 議院内閣制(単独政権) | 議会(実質的に行政府と一体) | なし(単独与党) | 低い |
| 議院内閣制(連立政権) | 議会 | 連立各党 | 中程度 |
| 大統領制(統一政府) | 大統領 + 議会二院 | 同一政党 | 中程度 |
| 大統領制(分割政府) | 大統領 + 議会二院 | 異なる政党 | 高い |
| 半大統領制(同一党派) | 大統領 + 議会 | 同一政党 | 低い |
| 半大統領制(コアビタシオン) | 大統領 + 首相(議会) | 異なる政党 | 高い |
この表から明らかなように、政策安定性を規定するのは体制の類型名そのものではなく、拒否権プレイヤーの数とその間のイデオロギー的距離である。議院内閣制だから政策変更が容易であるとも、大統領制だから困難であるとも一概にはいえない。
三類型の体系的比較¶
graph LR
subgraph 議院内閣制["議院内閣制"]
PA[立法府] -->|信任| PB[行政府<br/>首相・内閣]
PA -->|不信任決議| PB
PB -->|解散権| PA
end
subgraph 大統領制["大統領制"]
RA[立法府<br/>議会] ---|権力分立| RB[行政府<br/>大統領]
RC[有権者] -->|選出| RA
RC -->|選出| RB
end
subgraph 半大統領制["半大統領制"]
SA[立法府<br/>議会] -->|信任| SB[首相・内閣]
SC[大統領] -->|任命| SB
SD[有権者] -->|選出| SA
SD -->|選出| SC
end
各体制の利点と問題点を体系的に整理する。
| 評価軸 | 議院内閣制 | 大統領制 | 半大統領制 |
|---|---|---|---|
| 民主的正統性 | 間接的(議会を通じた信任) | 直接的(国民が大統領を選出) | 二重(大統領は直接、首相は間接) |
| 政策決定の効率性 | 高い(行政府-立法府の融合) | 低い(グリッドロックの可能性) | 状況依存(同一党派なら高い) |
| 危機対応の柔軟性 | 高い(不信任・解散の仕組み) | 低い(固定任期の硬直性) | 中程度 |
| 権力の抑制 | 弱い(多数決型の場合) | 強い(チェック・アンド・バランス) | 中程度 |
| 民主的安定性の実績 | 高い(Linzの指摘) | 米国を除き不安定な傾向 | 事例による |
ただし、この比較はあくまで制度設計レベルのものであり、実際の政治的帰結は選挙制度、政党システム、政治文化、社会経済的条件など多くの要因に規定される。制度決定論に陥ることなく、制度が機能する文脈を合わせて分析することが比較政治学の要諦である。
まとめ¶
- 議院内閣制は行政府と立法府の融合を特徴とし、ウェストミンスター・モデル(多数決型)とコンセンサス型の二つの類型に大別される。Lijphartは10の制度的変数に基づいてこの二類型を体系化した
- 大統領制は権力分立を特徴とし、アメリカがその典型である。Linzは二重の民主的正統性、任期の固定性、勝者総取りの性格から、大統領制が民主主義の安定に構造的に不利であると論じた
- 半大統領制は直接公選の大統領と議会に責任を負う首相が並存する混合体制であり、フランス第五共和政がその典型である。コアビタシオンの発生により、体制の実質的な機能態様が変動する
- 拒否権プレイヤー理論を適用することで、三類型を「拒否権プレイヤーの数と配置」という共通の変数から統一的に比較できる。政策安定性を規定するのは体制の類型名ではなく、拒否権プレイヤーの構成である
- 制度設計は政治的帰結の重要な規定要因であるが、選挙制度・政党システム・政治文化などの文脈要因との相互作用を考慮する必要がある
次のSection 3「選挙制度と政党システム」では、本セクションで繰り返し言及した選挙制度(小選挙区制・比例代表制等)と政党システムの関係を、Duvergerの法則を中心に体系的に分析する。
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 議院内閣制 | Parliamentary System | 行政府が立法府の信任に基づいて存立し、議会に対して連帯責任を負う政治体制 |
| ウェストミンスター・モデル | Westminster Model | 英国議会を原型とする議院内閣制の一類型。小選挙区制、二大政党制、単独過半数政権を特徴とする |
| 多数決型民主主義 | Majoritarian Democracy | 選挙の多数派が権力を集中的に行使する民主主義の形態。Lijphartの二類型の一方 |
| コンセンサス型民主主義 | Consensus Democracy | 多数の政治勢力の合意に基づいて政策決定を行う民主主義の形態。Lijphartの二類型の一方 |
| 大統領制 | Presidential System | 大統領が国民から直接選出され、議会から独立して行政権を行使する政治体制 |
| 分割政府 | Divided Government | 大統領と議会多数派が異なる政党に属する状態 |
| 二重の民主的正統性 | Dual Democratic Legitimacy | 大統領と議会が共に直接選挙で選出されることから生じる正統性の競合問題 |
| 半大統領制 | Semi-Presidential System | 直接公選の大統領と議会に責任を負う首相が並存する政治体制 |
| コアビタシオン | Cohabitation | 半大統領制で大統領と首相が異なる政党に属する状態 |
| 不信任決議 | Vote of No Confidence | 議会が内閣の退陣を求める決議。議院内閣制の中核的メカニズム |
| 権力分立 | Separation of Powers | 立法・行政・司法の権力を異なる機関に配分する原則 |
| チェック・アンド・バランス | Checks and Balances | 権力分立のもと各機関が相互に抑制・均衡する仕組み |
| グリッドロック | Gridlock | 拒否権プレイヤー間の対立により立法過程が膠着する状態 |
確認問題¶
Q1: 議院内閣制の中核的特徴を3つ挙げ、大統領制との構造的差異を説明せよ。
A1: 議院内閣制の中核的特徴は、(1) 行政府(内閣)が立法府(議会)の信任に基づいて成立し連帯責任を負うこと、(2) 首相が議会多数派から選出され行政権と立法権の融合が実現すること、(3) 議会の解散権によって行政府と立法府の対立を選挙で解消できること、である。大統領制との構造的差異は、大統領制が行政権と立法権の分立を原則とし、大統領と議会がそれぞれ独立した選挙で選出され固定任期を持つのに対し、議院内閣制は行政権と立法権の融合を原則とし、行政府の存続が議会の信任に依存する点にある。
Q2: Lijphartの多数決型民主主義とコンセンサス型民主主義の分類を、行政府-政党次元の変数を用いて説明し、拒否権プレイヤー理論との関連を述べよ。
A2: Lijphartは行政府-政党次元において、多数決型を単独過半数内閣・行政府優位・二党制・小選挙区制・多元主義的利益団体システムの5変数で、コンセンサス型を連立内閣・行政府-立法府の均衡・多党制・比例代表制・コーポラティズム的利益団体システムの5変数で特徴づけた。拒否権プレイヤー理論との関連では、多数決型は実質的な拒否権プレイヤーが少なく(単独与党が行政府と立法府を支配)政策安定性が低い。コンセンサス型は連立各党がパルチザン拒否権プレイヤーとなり、比例代表制による多党制が拒否権プレイヤーの数を増やすため、政策安定性が高まる。
Q3: Linzの大統領制批判における「二重の民主的正統性」の問題を説明し、議院内閣制がこの問題をどのように回避しているか述べよ。
A3: 「二重の民主的正統性」とは、大統領制において大統領と議会がともに国民の直接選挙によって選出されるため、両者が対立した場合にどちらが「国民の意思」を正統に代表するかを解決する制度的メカニズムが存在しないという問題である。この対立は政治的膠着を生み、最悪の場合、一方が超憲法的手段で対立を解消しようとすることで民主主義そのものの危機を招く。議院内閣制は、行政府(内閣)の正統性が議会の信任に由来するという一元的構造によりこの問題を回避している。行政府と立法府が対立した場合、不信任決議による内閣の交代または議会の解散・総選挙という制度的メカニズムが機能し、対立を民主的手続きの範囲内で解消できる。
Q4: フランス第五共和政のコアビタシオンについて、その発生メカニズムと体制の機能態様への影響を説明せよ。
A4: コアビタシオンは、大統領の任期と国民議会の任期のずれから構造的に発生する。大統領の任期が7年、国民議会の任期が5年であった時期には、大統領の任期途中で行われる議会選挙で大統領の政党が敗北し、反対党派が議会多数派となる状況が生じた。この場合、大統領は議会多数派から首相を任命せざるをえず、大統領と首相が異なる政党に属するコアビタシオンが発生する。コアビタシオン期には実質的な行政権が首相に移行し、大統領の権限は外交・安全保障の領域に限定される。体制は事実上、議院内閣制に近い形で機能する。2000年の大統領任期の5年への短縮により、大統領選と議会選が近接して行われるようになり、コアビタシオンの発生確率は大幅に低下した。
Q5: 拒否権プレイヤー理論を用いて、議院内閣制の単独政権・大統領制の分割政府・半大統領制のコアビタシオンにおける政策安定性の差異を説明せよ。
A5: 議院内閣制の単独政権では、議会多数派と内閣が一体化しているため実質的な拒否権プレイヤーは1つ(与党)であり、政策安定性は低い(政策変更が容易)。大統領制の分割政府では、大統領・上院・下院がそれぞれ異なる政党に掌握されうるため、最大3つの制度的拒否権プレイヤーが異なるイデオロギー的立場から政策変更に拒否権を行使でき、政策安定性は高い(グリッドロック)。半大統領制のコアビタシオンでは、大統領と首相(議会多数派)が異なる政党に属するため2つの拒否権プレイヤーが存在し、政策安定性は中程度から高い。このように、政策安定性を決定するのは体制の名称ではなく、拒否権プレイヤーの数とそのイデオロギー的距離である。