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Module 1-3 - Section 3: 選挙制度と政党システム

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-3: 比較政治学入門
前提セクション Section 1: 比較政治学の方法論
想定学習時間 3時間

導入

民主政治において、有権者の選好を政治的代表に変換する制度的メカニズムが選挙制度(electoral system)である。選挙制度は単なる技術的装置ではなく、政党の数、政権の安定性、代表の多様性、さらには政策の方向性にまで影響を及ぼす。比較政治学においては、選挙制度と政党システムの関係が中心的な研究テーマの一つであり、モーリス・デュヴェルジェ(Maurice Duverger)の古典的命題を起点として膨大な理論的・実証的蓄積がある。本セクションでは、選挙制度の基本類型を整理した上で、デュヴェルジェの法則とその批判、サルトーリ(Giovanni Sartori)の政党システム類型論、そして制度選択がもたらす政治的帰結を検討する。


選挙制度の基本類型

選挙制度は、投票を議席に変換するルールの総体である。その分類は多様であるが、基本的には以下の三類型に大別される。

Key Concept: 選挙制度(electoral system) 有権者の投票を議席配分に変換する制度的ルールの総体。選挙区の大きさ(定数)、投票方式、議席配分方式の三要素から構成される。

小選挙区制

小選挙区制(single-member plurality, SMP)は、一選挙区から一名のみを選出する制度であり、最多得票者が当選する(first-past-the-post, FPTP)。イギリス、アメリカ、カナダなど、主に旧英連邦諸国で採用されている。

Key Concept: 小選挙区制(single-member plurality) 一選挙区から一名を選出し、最多得票の候補者が当選する制度。相対多数制とも呼ばれる。

利点: - 選挙区と代表者の結びつきが明確で、有権者にとって責任の所在が分かりやすい - 単独政党による安定的な政権形成を促しやすい - 制度が単純で、有権者にとって理解しやすい

問題点: - 死票(wasted votes)が多くなり、得票率と議席率の乖離が大きくなる - 少数派の代表が困難になる - ゲリマンダリング(gerrymandering、選挙区の恣意的区割り)の影響を受けやすい

比例代表制

比例代表制(proportional representation, PR)は、政党の得票率に応じて議席を配分する制度である。ヨーロッパ大陸諸国を中心に広く採用されている。

Key Concept: 比例代表制(proportional representation) 政党の得票割合に応じて議席を配分する選挙制度。得票率と議席率の比例性を高めることを目的とする。

比例代表制には複数の変種がある。

名簿式比例代表制: - 拘束名簿式(closed list): 政党が候補者の当選順位をあらかじめ決定し、有権者は政党にのみ投票する。政党組織の統制力が強い - 非拘束名簿式(open list): 有権者が候補者個人にも投票でき、個人票の多寡が当選順位に影響する

議席配分方式: - ドント式(D'Hondt method): 各政党の得票数を1, 2, 3, ...の整数で順次除し、商の大きい順に議席を配分する。大政党にやや有利に働く。日本の衆議院比例代表区やEU加盟国の多くが採用 - サン=ラゲ式(Sainte-Laguë method): 除数を1, 3, 5, 7, ...の奇数とする。ドント式より小政党に有利。北欧諸国が採用 - 最大剰余法(largest remainder method): ヘア基数(Hare quota)等で基本議席を配分し、残余議席を剰余の大きい政党順に配分する

利点: - 得票率と議席率の乖離が小さく、多様な民意の反映が可能 - 少数派の代表が確保されやすい

問題点: - 連立政権が常態化し、政権形成に時間を要する場合がある - 小党の乱立を招き、政治的安定性が損なわれる可能性がある - 拘束名簿式では有権者と代表者の距離が遠くなる

混合制

混合制(mixed system)は、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた制度であり、両者の利点を取り込むことを意図している。

Key Concept: 混合制(mixed system) 小選挙区制と比例代表制を組み合わせた選挙制度。並立制と連用制(併用制)の二類型がある。

並立制(parallel system): 小選挙区部分と比例代表部分の議席配分を独立して行う。両者の間に議席数の調整メカニズムがない。日本の衆議院選挙(1994年導入)が代表例であり、小選挙区300議席(現289議席)と比例代表180議席(現176議席)を別個に配分する。小選挙区制の効果が比較的強く反映される傾向がある。

連用制/併用制(mixed-member proportional, MMP): 全体の議席配分を比例代表の得票率に基づいて決定し、小選挙区での当選分を差し引いた残りを比例代表から配分する。ドイツやニュージーランドが代表例である。比例代表制の効果がより強く反映され、得票率と議席率の比例性が高くなる。ただし、超過議席(Überhangmandate、小選挙区当選数が比例配分数を超過する場合に生じる追加議席)が発生しうる。

graph TD
    A[選挙制度の基本類型] --> B[小選挙区制<br/>SMP / FPTP]
    A --> C[比例代表制<br/>PR]
    A --> D[混合制<br/>Mixed System]
    C --> C1[拘束名簿式]
    C --> C2[非拘束名簿式]
    C --> C3[議席配分方式]
    C3 --> C3a[ドント式]
    C3 --> C3b[サン=ラゲ式]
    C3 --> C3c[最大剰余法]
    D --> D1[並立制<br/>Parallel]
    D --> D2[連用制 / 併用制<br/>MMP]

デュヴェルジェの法則

選挙制度と政党システムの関係に関する最も影響力のある命題が、フランスの政治学者モーリス・デュヴェルジェ(Maurice Duverger, 1917-2014)によって提示された二つの命題である。

Key Concept: デュヴェルジェの法則(Duverger's law) 小選挙区相対多数制は二大政党制を促進するという経験的一般化。デュヴェルジェが『政党論』(Les partis politiques, 1951)で提唱した。

法則と仮説

デュヴェルジェは二つの命題を区別した。

  1. デュヴェルジェの法則(Duverger's law): 小選挙区相対多数制は二大政党制(two-party system)を促進する
  2. デュヴェルジェの仮説(Duverger's hypothesis): 比例代表制および二回投票制は多党制(multi-party system)を促進する

前者はより強い因果的主張(「法則」)として、後者はより弱い傾向的主張(「仮説」)として位置づけられている。

機械的効果と心理的効果

デュヴェルジェの法則が作動するメカニズムとして、二つの効果が指摘されている。

Key Concept: 機械的効果(mechanical effect) 選挙制度が得票を議席に変換する際に生じる構造的な偏り。小選挙区制では、第三党以下の得票が議席に反映されにくい。

Key Concept: 心理的効果(psychological effect) 選挙制度の機械的効果を有権者や政党が予測して行動を変えること。有権者の戦略的投票や政党の参入・撤退の判断に影響する。

機械的効果: 小選挙区制では、各選挙区で最多得票の候補者のみが当選する。そのため、全国的に一定の支持を持つ第三政党であっても、各選挙区で第一位を獲得できなければ議席を得られない。得票率に比して議席率が著しく低くなるのが構造的特徴である。例えば、イギリスの自由民主党(Liberal Democrats)は全国で10〜20%程度の得票率を得ながらも、議席占有率はそれを大きく下回る傾向が続いてきた。

心理的効果: 機械的効果の存在を認識した有権者は、勝利の見込みのない候補者への投票を「死票」と判断し、相対的に好ましい上位二候補のいずれかに投票先を変更する。これが戦略的投票(strategic voting / tactical voting)である。同様に、政党の側も当選の見込みが低い選挙区への候補者擁立を控え、資源を集中する戦略的参入(strategic entry)が生じる。これらの心理的効果は機械的効果を増幅し、二大政党制への収斂を促進する。

デュヴェルジェの法則への批判と修正

デュヴェルジェの法則は比較政治学における最も著名な一般化の一つであるが、多くの批判と修正が提起されてきた。

主な批判: - 反例の存在: インドやカナダなど、小選挙区制を採用しながらも多党制が存続する事例が存在する。特にインドでは、地域政党の存在により全国レベルで多党制が維持されている。これに対しては、デュヴェルジェの法則は選挙区レベルでの二候補への収斂を予測するものであり、全国レベルの政党数を直接予測するものではないとする反論がある - 因果の方向性: 選挙制度が政党システムを規定するのか、既存の政党システムが選挙制度の選択を規定するのかという内生性(endogeneity)の問題が指摘されている。政党は自らに有利な選挙制度を選択する傾向がある - 社会的亀裂の独立的効果: リプセット(Seymour Martin Lipset)とロッカン(Stein Rokkan)が論じた社会的亀裂(social cleavage)の構造が、選挙制度とは独立に政党システムの形成に影響する - 選挙区レベルと全国レベルの区別: ゲイリー・コックス(Gary Cox, 1997, Making Votes Count)は、デュヴェルジェの法則を選挙区レベルでの「M+1ルール」として再定式化した。選挙区定数Mの選挙区において、有力な候補者数がM+1に収斂するという命題である


政党と政党システム

政党の定義と機能

Key Concept: 政党(political party) 政治権力の獲得・行使を目的として組織された集団。利益の集約、候補者の擁立、政権の担当、政策の形成など多面的機能を果たす。

政党の定義はさまざまであるが、アンソニー・ダウンズ(Anthony Downs, 1957)は「選挙を通じて統治機構の運営権を獲得することを目的とするチーム」と定義し、サルトーリ(Sartori, 1976)は「選挙に候補者を擁立し、選挙を通じて公職に就くことを目指す政治集団」と定義した。

政党の主要な機能は以下のように整理される。

機能 内容
利益集約(interest aggregation) 多様な社会的利益・要求を政策パッケージに統合する
候補者の募集・擁立(recruitment) 公職の候補者を選抜し、選挙に擁立する
有権者の動員(mobilization) 選挙への参加を促し、支持を組織する
政府の組織化(government organization) 議会運営や政権の構成を行う
政策形成(policy formulation) 政策プログラムを策定し、実現を図る

サルトーリの政党システム類型論

ジョヴァンニ・サルトーリ(Giovanni Sartori, 1924-2017)は、主著『政党と政党システム』(Parties and Party Systems, 1976)において、政党システムの体系的な類型論を展開した。サルトーリは、単に政党の数を数えるのではなく、「関連政党(relevant parties)」の数、すなわち連合能力(coalition potential)または威嚇能力(blackmail potential)を持つ政党の数に基づく類型化を主張した。

Key Concept: サルトーリの政党システム類型論 関連政党の数と政党間競争の方向性(求心的/遠心的)に基づく政党システムの分類体系。サルトーリが1976年に提唱した。

サルトーリの類型は以下の通りである。

類型 特徴
一党制(one-party system) 一つの政党のみ合法的に存在 旧ソ連共産党
ヘゲモニー政党制(hegemonic party system) 衛星政党が存在するが、政権交代は起こりえない 民主化以前のメキシコ(PRI)
一党優位制(predominant party system) 複数政党が競合するが、一党が継続的に勝利 1955-93年の日本(自民党)
二党制(two-party system) 二大政党が政権を争い、単独で政権を担当 アメリカ、イギリス
穏健な多党制(moderate pluralism) 3〜5の関連政党、求心的競争、連立政権 ドイツ、オランダ
分極的多党制(polarized pluralism) 6以上の関連政党、遠心的競争、反体制政党の存在 1970年代のイタリア
原子化政党制(atomized party system) 多数の微小政党が乱立し、構造化されていない 民主化直後の一部新興国

サルトーリの類型論で重要なのは、政党の数だけでなく、競争の方向性(dynamics)を組み込んだ点である。穏健な多党制では政党間競争が中道に向かう求心的(centripetal)傾向を示すのに対し、分極的多党制ではイデオロギー的両極に向かう遠心的(centrifugal)傾向が生じる。

有効政党数

Key Concept: 有効政党数(effective number of parties, ENP) 政党システムの断片化(fragmentation)を測定する指標。ラークソとターゲペラ(Laakso & Taagepera, 1979)が考案した。得票率ベース(ENEP)と議席率ベース(ENPP)がある。

有効政党数は以下の算式で計算される。

ENP = 1 / Σ(pi²)

ここで、piは各政党iの得票率(または議席率)である。この指標は、ハーフィンダール=ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index, HHI)の逆数に相当し、すべての政党が同じ規模であった場合の「等価な」政党数を表す。

  • ENEP(effective number of electoral parties): 得票率に基づく有効政党数。有権者の選好の多様性を示す
  • ENPP(effective number of parliamentary parties): 議席率に基づく有効政党数。議会内の勢力分布を示す

例えば、ある議会において2政党がそれぞれ50%の議席を持てば ENP = 2.0 であり、3政党がそれぞれ33.3%の議席を持てば ENP = 3.0 である。一党が80%、他党が20%であれば ENP ≈ 1.47 となり、数値上は二党制に近いが実質的に一党優位であることを定量的に示す。

ENEPとENPPの乖離は選挙制度の不比例性を反映する。小選挙区制ではENEP > ENPPとなる傾向が強く、比例代表制では両者の差が小さくなる。

graph LR
    subgraph 選挙制度
        SMP[小選挙区制]
        PR[比例代表制]
        MIX[混合制]
    end
    subgraph 政党システム
        TWO[二党制<br/>ENP ≈ 2]
        MOD[穏健な多党制<br/>ENP ≈ 3-5]
        POL[分極的多党制<br/>ENP ≧ 6]
    end
    SMP -->|デュヴェルジェの法則| TWO
    PR -->|デュヴェルジェの仮説| MOD
    PR -->|社会的亀裂が深い場合| POL
    MIX -->|並立制| TWO
    MIX -->|連用制| MOD

制度選択とその帰結

選挙制度と政党システムの相互関係

選挙制度と政党システムの関係は一方向的な因果関係ではなく、相互に影響し合う。選挙制度は政党の数と行動パターンを規定する一方で、既存の政党構成が選挙制度の選択・維持に影響を与える。大政党は自らに有利な小選挙区制を選好し、小政党は比例代表制を求める傾向がある。この内生性の問題は、制度と帰結の因果推論を困難にする(→ Module 1-3, Section 1「比較政治学の方法論」参照)。

比例性と代表性のトレードオフ

Key Concept: 比例性(proportionality) 政党の得票率と議席率の一致度。ガラガー指数(Gallagher index)等で定量的に測定される。

選挙制度の設計には、比例性と政治的安定性の間にトレードオフが存在する。比例性を高めれば多様な民意が反映されるが、小党の乱立による政治的不安定や、連立交渉の長期化が生じうる。逆に小選挙区制は安定的な単独政権を生みやすいが、少数派の排除や「製造された多数派」(manufactured majority、得票率では過半数に達しないが議席では過半数を獲得する状態)が生じる。

この問題に対処するため、比例代表制を採用する国の多くは阻止条項(electoral threshold)を設けている。ドイツの5%条項、トルコの7%条項(2022年に引き下げ)、イスラエルの3.25%条項などがその例である。阻止条項は、極小政党の議会参入を阻止することで、比例代表制の下でも一定の政治的安定性を確保する機能を果たす。

選挙制度改革の事例

選挙制度改革は、既存制度の問題点を解消するために行われるが、既得権益を持つ政党の抵抗があるため実現は容易ではない。比較政治学では以下の事例が頻繁に分析される。

日本(1994年): 中選挙区制(single non-transferable vote, SNTV)から小選挙区比例代表並立制に移行した。同一政党の候補者間競争を解消し、政策本位の選挙を促すことが改革の目的であった。結果として二大政党化の傾向が一時的に強まったが、2012年以降は自民党の一党優位的状況が続いている。

ニュージーランド(1996年): 小選挙区制から混合比例代表制(MMP)に移行した。1993年の国民投票で承認され、移行後は有効政党数が増加し、連立政権が常態化した。小選挙区制下で生じていた得票率と議席率の大きな乖離が改善された。

イタリア(1993年・2005年・2017年): イタリアでは選挙制度が頻繁に改変されている。1993年に比例代表制から混合制(マッタレッルム法、小選挙区75%・比例代表25%)に移行し、その後も複数回の制度変更を経ている。政党システムの不安定性と選挙制度改革の連鎖は、制度と政治の相互作用を示す典型例である。


まとめ

  • 選挙制度は小選挙区制、比例代表制、混合制の三類型に大別される。各制度は議席配分方式や選挙区の設計によって多様な変種を持つ
  • デュヴェルジェの法則は、小選挙区制が機械的効果と心理的効果を通じて二大政党制を促進するという経験的一般化であり、比較政治学における最も著名な命題の一つである。ただし、インドやカナダなどの反例、因果の内生性、社会的亀裂の独立的効果など、多くの批判と修正が存在する
  • サルトーリの政党システム類型論は、関連政党の数と競争の方向性に基づく分類体系であり、政党数の単純な計数を超えた分析枠組みを提供する
  • 有効政党数(ENP)は政党システムの断片化を定量的に測定する指標であり、選挙制度の比例性の評価にも用いられる
  • 選挙制度の設計には比例性と安定性のトレードオフが内在しており、阻止条項などの補完的制度によって調整される

次のセクションでは、政治体制の多様性を検討し、民主主義と権威主義の体制類型について分析する。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
選挙制度 electoral system 有権者の投票を議席配分に変換する制度的ルールの総体
小選挙区制 single-member plurality (SMP) 一選挙区から一名を選出し、最多得票者が当選する制度
比例代表制 proportional representation (PR) 政党の得票割合に応じて議席を配分する選挙制度
混合制 mixed system 小選挙区制と比例代表制を組み合わせた選挙制度
並立制 parallel system 小選挙区と比例代表の議席を独立して配分する混合制の一類型
連用制(併用制) mixed-member proportional (MMP) 比例代表の得票率で全体の議席を決定し、小選挙区当選分を差し引く混合制の一類型
デュヴェルジェの法則 Duverger's law 小選挙区制が二大政党制を促進するという経験的一般化
機械的効果 mechanical effect 選挙制度が投票を議席に変換する際に生じる構造的偏り
心理的効果 psychological effect 機械的効果を予測した有権者・政党の戦略的行動変容
戦略的投票 strategic voting 最も好む候補者ではなく、勝利可能性のある候補者に投票する行動
政党 political party 選挙を通じて公職を獲得し政治権力の行使を目指す政治集団
有効政党数 effective number of parties (ENP) 政党システムの断片化を測定する指標。Laakso & Taagepera (1979) が考案
比例性 proportionality 政党の得票率と議席率の一致度を示す概念
阻止条項 electoral threshold 議席配分に与るために必要な最低得票率

確認問題

Q1: 小選挙区制の下でデュヴェルジェの法則が作動する二つのメカニズム(機械的効果と心理的効果)を、それぞれ説明せよ。

A1: 機械的効果とは、小選挙区制において最多得票の候補者のみが当選するため、第三党以下の得票が議席に変換されにくいという制度的・構造的偏りである。心理的効果とは、この機械的効果の存在を認識した有権者が、勝利の見込みのない候補者への投票を避けて上位二候補のいずれかに投票先を変更する戦略的投票、および政党が当選見込みの低い選挙区での候補者擁立を控える戦略的参入の判断である。心理的効果は機械的効果を増幅し、両者が相互に作用して二大政党制への収斂を促進する。

Q2: サルトーリの政党システム類型論において、「穏健な多党制」と「分極的多党制」はどのような基準で区別されるか。両者の競争の方向性の違いを含めて説明せよ。

A2: サルトーリは関連政党の数と政党間競争の方向性によって両者を区別した。穏健な多党制は3〜5の関連政党から構成され、政党間の競争が中道に向かう求心的(centripetal)傾向を持つ。イデオロギー的距離が比較的小さく、連立政権の形成が容易である。分極的多党制は6以上の関連政党が存在し、反体制政党を含む。政党間の競争はイデオロギー的両極に向かう遠心的(centrifugal)傾向を示し、中道政党が弱体化する。政治的分極化と不安定性が特徴である。

Q3: 有効政党数(ENP)の算出方法を示し、得票率ベース(ENEP)と議席率ベース(ENPP)の乖離が大きい場合、それは選挙制度のどのような特性を反映しているか説明せよ。

A3: 有効政党数は ENP = 1 / Σ(pi²) で算出される。piは各政党の得票率(ENEP)または議席率(ENPP)である。ENEPとENPPの乖離が大きい場合、それは選挙制度の不比例性(disproportionality)が高いことを意味する。すなわち、有権者の選好の多様性(ENEPが高い)が議席配分に十分に反映されていない(ENPPがそれより低い)状態である。小選挙区制ではこの乖離が大きくなりやすく、比例代表制では乖離が小さくなる傾向がある。

Q4: 日本の1994年選挙制度改革(中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への移行)の目的と、その後の政党システムへの影響を論ぜよ。

A4: 1994年の改革は、中選挙区制の下で生じていた同一政党候補者間の個人中心の選挙競争を解消し、政党中心・政策本位の選挙を実現することを目的とした。小選挙区制の導入によりデュヴェルジェの法則が作動し、二大政党化の傾向が強まった。2009年の政権交代はその帰結の一つと解釈できる。しかし、並立制であるために比例代表部分が小政党の存続を可能にし、完全な二大政党制には至らなかった。また、2012年以降は自民党の一党優位的状況が続いており、選挙制度改革が意図した通りの結果をもたらしたかについては議論がある。

Q5: 比例代表制における阻止条項の機能と、その存在が政党システムに与える影響について説明せよ。

A5: 阻止条項は、議席配分に与るために政党が獲得すべき最低得票率を定めた規定であり、極小政党の議会参入を阻止する機能を持つ。これにより、比例代表制の下でも小党の乱立を抑制し、一定の政治的安定性を確保する。阻止条項の水準によって効果は異なり、ドイツの5%条項は穏健な多党制の維持に寄与している一方、トルコの旧10%条項(2022年に7%に引き下げ)のように高い閾値は多くの政党の議会参入を阻み、有権者の選好が十分に反映されないという批判を招いた。阻止条項の設計は、比例性と安定性のトレードオフにおけるバランス点を設定する制度的選択である。