Module 1-4 - Section 1: リアリズムの系譜¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-4: 国際政治学入門 |
| 前提セクション | なし(Module 1-1の知識を前提とする) |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
国際政治学は、国内政治学とは根本的に異なる前提の上に成立する学問領域である。国内政治においては中央政府が法の執行と秩序の維持を担うのに対し、国際社会にはそのような上位権威が存在しない。この状態はアナーキー(国際的無政府状態)と呼ばれ、国際政治を分析する際の出発点となる。
本セクションでは、国際政治学の主要パラダイムの一つであるリアリズム(現実主義)の思想的系譜を、古典的リアリズムからネオリアリズム、そして攻撃的リアリズムに至るまで体系的に検討する。リアリズムは、国家間関係を権力闘争として把握する理論的伝統であり、トゥキディデスに始まる長い知的系譜を持つ。
国際政治学の学問的特質¶
アナーキーという前提¶
Key Concept: アナーキー(Anarchy) 国際システムにおいて、国家の上位に立つ中央政府・世界政府が存在しない状態。国際政治学の諸理論が共有する基本的前提であり、国内政治との根本的差異を規定する構造的条件である。
国内政治では、政府が法律を制定し、警察・司法がそれを執行する。紛争が生じた場合には裁判所が裁定を下し、国家権力がその執行を担保する。しかし国際社会においては、このような階層的秩序(ヒエラルキー)は成立していない。国際連合や国際司法裁判所が存在するものの、その決定を強制的に執行する手段は限定的であり、各国家は究極的には自助(self-help)によって自らの安全を確保しなければならない。
この構造的条件が、国際政治に固有の力学——安全保障のジレンマ、軍備競争、同盟形成——を生み出す根本的要因となっている。
パラダイム論争の概観¶
国際政治学には複数の理論的パラダイムが併存しており、その間の論争が学問の発展を駆動してきた。主要なパラダイムとして以下の三つが挙げられる。
| パラダイム | 中心的主張 | 代表的論者 |
|---|---|---|
| リアリズム | 国家は権力と安全保障を追求する | モーゲンソー、ウォルツ |
| リベラリズム | 国際制度・相互依存が協力を可能にする | コヘイン、ナイ |
| コンストラクティヴィズム | 観念・規範・アイデンティティが国際関係を構成する | ウェント |
本セクションではリアリズムの内部的発展に焦点を当てる。
graph LR
A["トゥキディデス<br/>マキアヴェッリ<br/>ホッブズ"] --> B["古典的リアリズム<br/>モーゲンソー<br/>(1948)"]
B --> C["ネオリアリズム<br/>(防御的リアリズム)<br/>ウォルツ<br/>(1979)"]
C --> D["攻撃的リアリズム<br/>ミアシャイマー<br/>(2001)"]
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古典的リアリズム¶
思想的源流: トゥキディデスからマキアヴェッリへ¶
リアリズムの知的系譜は古代ギリシアにまで遡る。トゥキディデス(Thucydides, 紀元前460年頃–400年頃)は、『戦史(History of the Peloponnesian War)』においてペロポネソス戦争(前431–前404年)の記録を残した。この著作は単なる歴史書ではなく、国家間関係における権力の論理を鮮明に描き出した分析的著作である。
トゥキディデスはペロポネソス戦争の原因を以下のように述べている——「この戦争を不可避にした真の原因は、アテネの勢力の増大と、それがスパルタに引き起こした恐怖であった」。この分析は、台頭する大国と既存の覇権国の間の構造的緊張を指摘するものであり、現代の国際政治学においても「トゥキディデスの罠(Thucydides's Trap)」として参照される。
Key Concept: メロス対話(Melian Dialogue) 『戦史』に記録されたアテネとメロス島(スパルタの植民都市)の間の外交交渉。アテネの使節は「強者と弱者の間では、強者がいかに大を得られるか、弱者がいかに小なる譲歩で逃れ得るか、その可能性のみが問題となる」と主張した。正義よりも力の論理が支配するという権力政治の本質を象徴する一節である。
ニッコロ・マキアヴェッリ(Niccolò Machiavelli, 1469–1527)は『君主論(Il Principe)』(1532年刊)において、政治の現実(verità effettuale)を直視すべきことを説いた。道徳的理想と政治的現実の乖離を認識し、権力の維持と行使に関する実践的知恵を論じた。トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes, 1588–1679)は『リヴァイアサン(Leviathan)』(1651年)において、中央権力の不在する「自然状態」を「万人の万人に対する闘争」と描写し、この自然状態の論理が国際関係にも妥当することを示唆した。
ハンス・モーゲンソーと近代リアリズムの確立¶
Key Concept: 古典的リアリズム(Classical Realism) 人間本性に権力追求の根源を求め、国際政治を権力闘争として体系的に分析する理論的立場。ハンス・モーゲンソーの『国際政治(Politics Among Nations)』(1948年)がその体系化の基礎を築いた。
ハンス・モーゲンソー(Hans Morgenthau, 1904–1980)は、ドイツからアメリカに亡命したユダヤ系政治学者であり、近代国際政治学におけるリアリズムの体系化に最も大きく貢献した人物である。その主著『国際政治——権力と平和の闘争(Politics Among Nations: The Struggle for Power and Peace)』は1948年に初版が刊行され、彼の生前に5版を重ね、アメリカの大学における国際政治学の標準的教科書として広く採用された。
モーゲンソーのリアリズムの核心は、以下の命題に集約される。
政治的リアリズムの六原則(モーゲンソーによる要約):
- 政治は客観的法則に支配される: 政治は人間本性に根ざす客観的法則によって支配されており、これらの法則の理解に基づいて合理的政策が導かれる
- 権力によって定義される利益: 「政治的リアリズムが国際政治の見通しをつけるための主要な道標は、権力によって定義される利益(interest defined in terms of power)の概念である」
- 利益の概念は普遍的だが内容は可変的: 権力によって定義される利益の概念は政治の自律性を確保するが、利益の具体的内容は時代と状況によって変化する
- 道徳と政治の緊張関係: 政治的行為は道徳的意味を持つが、道徳的要請と政治的成功の要請は常に一致するとは限らない
- 特定国家の道徳的野心の相対化: いかなる国家の道徳的要求も普遍的な道徳法則と同一視されてはならない
- 政治的領域の自律性: 政治は経済・法律・倫理とは区別される独自の領域であり、その独自の基準(権力)によって分析される
モーゲンソーが「権力によって定義される利益」を中心概念に据えたことは重要である。これにより、国際政治の分析は個々の政治家の動機や意図ではなく、客観的な利益構造に基づくものとなった。国益(national interest)とは個人的な欲望ではなく、国家の生存・安全・繁栄に関わる構造的要請なのである。
ネオリアリズム(構造的リアリズム)¶
ウォルツの理論革新¶
Key Concept: ネオリアリズム/構造的リアリズム(Neorealism / Structural Realism) 国際システムの構造(アナーキーという秩序原理と能力の分布)が国家行動を規定するとする理論。ケネス・ウォルツの『国際政治の理論(Theory of International Politics)』(1979年)が確立した。人間本性ではなくシステム構造に因果的説明力を求める点で古典的リアリズムと区別される。
ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz, 1924–2013)は、コロンビア大学およびカリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執った政治学者であり、国際政治学の理論的基礎を根本的に刷新した人物である。その主著『国際政治の理論(Theory of International Politics)』(1979年)は、アメリカの大学院における国際関係論の教育で最も多く指定される文献の一つであり、学問分野に根本的な言説上の転換をもたらした。
ウォルツの最大の貢献は、国際政治の説明における分析レベル(levels of analysis)の明確化と、システムレベルの理論の構築にある。彼は先行研究『人間・国家・戦争(Man, the State, and War)』(1959年)において、戦争原因の三つの分析レベル——第一イメージ(人間本性)、第二イメージ(国内体制)、第三イメージ(国際システム)——を区別した。『国際政治の理論』ではこの第三イメージを発展させ、体系的なシステム理論を提示した。
国際システムの構造¶
ウォルツによれば、国際システムの構造は以下の三要素によって定義される。
- 秩序原理(ordering principle): アナーキー(無政府状態)。国内政治がヒエラルキー(階層制)に基づくのに対し、国際システムにはアナーキーが支配する
- 単位の機能的分化(functional differentiation of units): アナーキー下では国家は機能的に同質であり、すべての国家が自助によって同様の課題(安全保障)に対処しなければならない
- 能力の分布(distribution of capabilities): 国家間の物質的能力(軍事力・経済力等)の配分が、システムの極構造(polarity)を決定する
graph TD
S["国際システムの構造"] --> O["秩序原理: アナーキー"]
S --> F["単位の機能的分化: なし<br/>(国家は機能的に同質)"]
S --> D["能力の分布"]
D --> U["単極(Unipolarity)"]
D --> B["二極(Bipolarity)"]
D --> M["多極(Multipolarity)"]
O --> SH["自助(Self-help)<br/>の行動様式"]
SH --> BP["勢力均衡の<br/>自動的傾向"]
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この理論の核心は、国際政治の帰結を説明する際に、個々の国家の内部的属性(政治体制、指導者の性格、イデオロギー等)ではなく、システムの構造的圧力に因果的説明力を求める点にある。アナーキーの構造が国家に自助行動を強い、能力の分布が国家間関係のパターンを規定する。
勢力均衡と極構造¶
Key Concept: 勢力均衡(Balance of Power) 国際システムにおいて、突出した国家に対して他の国家が対抗的に連合し、権力の均等化が自動的に生じる傾向。ウォルツのネオリアリズムでは、アナーキー下で国家が自国の安全を追求する結果として構造的に生じるメカニズムとして説明される。
ウォルツの理論において、勢力均衡は政策的選択というよりも、アナーキー下で国家が生存を追求する結果として繰り返し生じる構造的傾向である。支配的な大国が出現すれば、他の国家は内的均衡化(自国の軍備増強)や外的均衡化(対抗同盟の形成)を通じて、その権力を相殺しようとする。
極構造と安定性に関するウォルツの議論は以下の通りである。
| 極構造 | 特徴 | 安定性(ウォルツの評価) |
|---|---|---|
| 単極(Unipolarity) | 一つの超大国が圧倒的な能力を保持 | 不安定——他国による均衡化圧力が生じるため持続困難 |
| 二極(Bipolarity) | 二つの超大国が突出 | 最も安定——相互調整が迅速で、誤算のリスクが低い |
| 多極(Multipolarity) | 三つ以上の大国が並立 | 不安定——同盟の流動性が高く、誤算と連鎖的紛争のリスクが大きい |
ウォルツは冷戦期の米ソ二極体制を最も安定的なシステムと評価した。二極体制では、二つの超大国が互いの行動を直接的に監視・調整できるため、意図の誤読や計算の誤りが生じにくい。対照的に多極体制では、同盟関係の変動や情報の不確実性が増大し、第一次世界大戦のような連鎖的紛争拡大のリスクが高まるとされた。
防御的リアリズムとしてのウォルツ理論¶
Key Concept: 防御的リアリズム(Defensive Realism) ネオリアリズムの一派で、国家の第一の目標は安全保障の確保であり、過度な権力の拡大はかえって安全保障を損なうと主張する立場。ウォルツの理論がその代表である。
ウォルツのネオリアリズムは、後に「防御的リアリズム」として分類されるようになった。その理由は、ウォルツの理論において国家が追求するのは安全保障(security)であり、権力の最大化ではないからである。国家は現状維持的(status quo)な動機を持ち、自国の安全に必要な範囲の権力を確保しようとする。過度の権力拡大は、他国の均衡化行動を招き、かえって安全保障を悪化させる可能性がある。
攻撃的リアリズム¶
ミアシャイマーの権力最大化論¶
Key Concept: 攻撃的リアリズム(Offensive Realism) ネオリアリズムの一派で、アナーキー下では国家は安全保障を十分に確保することができないため、権力(パワー)の最大化を追求し、可能であれば地域覇権を目指すと主張する立場。ジョン・ミアシャイマーの『大国政治の悲劇(The Tragedy of Great Power Politics)』(2001年)が体系化した。
ジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer, 1947–)は、シカゴ大学の政治学者であり、攻撃的リアリズムの提唱者として知られる。その主著『大国政治の悲劇(The Tragedy of Great Power Politics)』(2001年)は、ウォルツの防御的リアリズムに対する根本的な理論的対抗を提示した。
ミアシャイマーの理論は、以下の五つの前提に基づく。
- 国際システムはアナーキーである(中央権威の不在)
- 大国は攻撃的な軍事能力を本質的に保有する
- 国家は他国の意図を確信をもって知ることができない
- 国家の根本的目標は生存である
- 国家は合理的行為者である
これらの前提自体はウォルツのネオリアリズムと共有されるが、ミアシャイマーはこれらの前提からウォルツとは異なる結論を導出する。他国の意図が不確実であるならば、「十分な安全」という状態は存在しえない。国家が安全を確保する最善の方法は、可能な限り多くのパワーを獲得し、究極的には地域覇権(regional hegemony)を達成することである。
ウォルツとの理論的対比¶
防御的リアリズムと攻撃的リアリズムの対比は、ネオリアリズム内部の最も重要な論争の一つである。
| 論点 | 防御的リアリズム(ウォルツ) | 攻撃的リアリズム(ミアシャイマー) |
|---|---|---|
| 国家の目標 | 安全保障の確保 | パワーの最大化 |
| 権力拡大への評価 | 過度な拡大は逆効果 | パワーが多いほど安全 |
| 勢力均衡の帰結 | 安定と現状維持 | 覇権追求と競争の継続 |
| 国家の性格 | 現状維持勢力 | 修正主義的勢力 |
| 戦略的選好 | 均衡化・抑制 | パワー最大化・覇権追求 |
| 国際政治の見通し | 一定の安定が可能 | 大国間競争は不可避的に危険 |
graph TD
NR["ネオリアリズムの共有前提<br/>・アナーキー<br/>・国家は合理的行為者<br/>・意図の不確実性"] --> DR["防御的リアリズム<br/>(ウォルツ)"]
NR --> OR["攻撃的リアリズム<br/>(ミアシャイマー)"]
DR --> DG["国家目標: 安全保障の確保"]
DR --> DS["戦略: 均衡化・抑制"]
DR --> DO["帰結: 現状維持・安定"]
OR --> OG["国家目標: パワーの最大化"]
OR --> OS["戦略: 覇権追求"]
OR --> OO["帰結: 大国間競争・紛争リスク"]
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style DR fill:#d5f5e3,stroke:#333
style OR fill:#fadbd8,stroke:#333
ミアシャイマーが「大国政治の悲劇」と呼ぶのは、大国が安全を求めて行動するほど、他国の安全を脅かし、競争と対立が深化するという構造的なジレンマである。大国は善意で行動していても、アナーキー下の構造的圧力によって、権力拡大と対立に駆り立てられる。この意味において、大国政治は構造的に「悲劇的」なのである。
ミアシャイマーの理論は、冷戦後のアメリカの対外政策、中国の台頭、ロシアのウクライナ侵攻などの現実の国際情勢に対する分析枠組みとして、学界のみならず政策論争においても広く参照されている。
まとめ¶
- 国際政治学は、アナーキー(中央政府の不在)という構造的条件を前提として成立する学問であり、国内政治とは根本的に異なる論理が支配する
- リアリズムの知的系譜は、トゥキディデス・マキアヴェッリ・ホッブズから、モーゲンソーの古典的リアリズム、ウォルツのネオリアリズムを経て、ミアシャイマーの攻撃的リアリズムに至る
- 古典的リアリズム(モーゲンソー)は人間本性に権力追求の根源を求め、「権力によって定義される利益」を中心概念とした
- ネオリアリズム(ウォルツ)は人間本性ではなく国際システムの構造(アナーキー+能力の分布)に因果的説明力を求め、勢力均衡の自動的傾向と二極体制の安定性を論じた
- 攻撃的リアリズム(ミアシャイマー)は、同じネオリアリズムの前提からより悲観的な結論を導き、国家は安全保障ではなくパワーの最大化を追求すると主張した
- 次のセクションでは、リアリズムに対する対抗パラダイムとしてのリベラリズム(自由主義)の系譜を検討する
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| アナーキー | Anarchy | 国際システムにおいて国家の上位に立つ中央権威が存在しない状態 |
| リアリズム | Realism | 国際政治を権力闘争として分析する理論的伝統 |
| 古典的リアリズム | Classical Realism | 人間本性に権力追求の根源を求めるリアリズムの一派。モーゲンソーが代表 |
| 国益 | National Interest | 国家の生存・安全・繁栄に関わる利益。モーゲンソーは「権力によって定義される利益」と定式化 |
| ネオリアリズム | Neorealism / Structural Realism | 国際システムの構造が国家行動を規定するとする理論。ウォルツが確立 |
| 勢力均衡 | Balance of Power | 突出した国家に対し他国が対抗連合を形成し、権力の均等化が生じる傾向 |
| 極構造 | Polarity | 国際システムにおける大国の数と権力配分のパターン(単極・二極・多極) |
| 防御的リアリズム | Defensive Realism | 国家の第一目標は安全保障の確保であり、過度な権力拡大は逆効果とする立場 |
| 攻撃的リアリズム | Offensive Realism | 国家はパワーの最大化を追求し、地域覇権を目指すとする立場 |
| 自助 | Self-help | アナーキー下で国家が自らの力で安全を確保しなければならないという原則 |
| メロス対話 | Melian Dialogue | トゥキディデス『戦史』に記録されたアテネとメロス島の交渉。権力政治の象徴的事例 |
| 地域覇権 | Regional Hegemony | 特定の地域において圧倒的な権力的優位を確立した状態 |
| 分析レベル | Levels of Analysis | 国際政治の原因を人間本性・国内体制・国際システムのいずれに求めるかの区分 |
| 安全保障のジレンマ | Security Dilemma | 一国の安全保障強化が他国の不安を招き、軍備競争を引き起こす構造的問題 |
確認問題¶
Q1: 国際政治におけるアナーキーとは何か。また、それが国家の行動様式にどのような影響を与えるか説明せよ。 A1: アナーキーとは、国際システムにおいて国家の上位に立つ中央政府・世界政府が存在しない状態を指す。この構造的条件の下では、国家は自らの安全を自力で確保する「自助」の原則に従わざるを得ない。その結果、国家は軍備の増強、同盟の形成、勢力均衡の追求といった行動をとり、安全保障のジレンマが構造的に発生する。
Q2: モーゲンソーの古典的リアリズムにおける「権力によって定義される利益」という概念の意義を説明せよ。 A2: この概念は、国際政治の分析を個々の政治家の動機・意図・道徳的判断から切り離し、国家行動を権力構造に基づいて客観的に分析することを可能にした。いかなる時代・地域においても、国家は権力の文脈で定義される利益を追求するという前提を置くことで、国際政治に固有の自律的な分析枠組みが確立された。
Q3: ウォルツのネオリアリズムは、モーゲンソーの古典的リアリズムとどのような点で異なるか。分析レベルの観点から説明せよ。 A3: モーゲンソーの古典的リアリズムは、権力追求の根源を人間本性(第一イメージ)に求めた。これに対しウォルツは、国際政治の帰結を説明する因果的要因を国際システムの構造(第三イメージ)に求めた。すなわち、アナーキーという秩序原理と能力の分布という構造的要因が国家行動を規定するとし、個々の国家の内部属性(政治体制・指導者の性格等)や人間本性ではなく、システムレベルの変数に説明力を集中させた点が根本的な差異である。
Q4: ウォルツが二極体制を最も安定的と評価した理由を説明せよ。 A4: 二極体制では、二つの超大国が互いの行動を直接的に監視・調整できるため、意図の誤読や計算の誤りが生じにくい。同盟関係も固定的であり、多極体制のように同盟の組み替えによる不確実性が発生しない。また、各超大国は自国の能力によって安全を確保できるため、小国の行動に振り回されるリスクも低い。対照的に、多極体制では同盟関係の流動性、情報の不確実性、連鎖的紛争拡大のリスクが増大する。
Q5: 防御的リアリズム(ウォルツ)と攻撃的リアリズム(ミアシャイマー)の理論的前提は共通しているにもかかわらず、結論が異なる。その論理的分岐点を説明せよ。 A5: 両者はアナーキー、国家の合理性、意図の不確実性といった前提を共有する。分岐点は「国家はどれだけの権力を追求すべきか」という問いへの回答にある。防御的リアリズムは、安全に必要な程度の権力で十分であり、過度な拡大は他国の均衡化を招いて逆効果と主張する。これに対し攻撃的リアリズムは、他国の意図が不確実である以上「十分な安全」は存在せず、パワーが多いほど安全であるため、国家は地域覇権の達成に至るまでパワーの最大化を追求すると主張する。この「安全保障の十分条件」に関する評価の差異が、両理論の結論の分岐を生んでいる。