Module 1-4 - Section 2: リベラリズムとコンストラクティヴィズム¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-4: 国際政治学入門 |
| 前提セクション | Section 1: リアリズムの系譜 |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
前セクションでは、国際政治を権力闘争として把握するリアリズムの理論的系譜を検討した。リアリズムは、アナーキー下における国家間の権力政治を分析する上で強力な枠組みを提供するが、国際社会に観察される協力現象——国際機関の設立、経済的相互依存の深化、人権規範の普及——を十分に説明できるかという点で批判を受けてきた。
本セクションでは、リアリズムに対する二つの対抗パラダイムを検討する。第一に、国際制度と相互依存に着目し、アナーキー下でも国家間協力が可能であると主張するリベラリズム(自由主義的国際関係論)である。第二に、物質的要因ではなく観念・規範・アイデンティティといった社会的要因が国際関係を構成すると主張するコンストラクティヴィズム(構成主義)である。これらのパラダイムは、リアリズムとは異なる問いの立て方と分析の焦点を持ち、国際政治学の理論的多元性を形成している。
リベラリズムの基本的立場¶
リアリズムへの対抗パラダイム¶
Key Concept: リベラリズム(Liberalism) 国際関係論において、国際制度・経済的相互依存・民主主義の拡大などを通じて、アナーキー下でも国家間協力が可能であり、平和は促進されうると主張する理論的パラダイム。リアリズムの権力政治観に対する主要な対抗理論として位置づけられる。
リベラリズムは、国際政治をゼロサム的な権力闘争として描くリアリズムに対し、国家間関係には協力の余地が十分にあると主張する。その知的系譜はイマヌエル・カント(Immanuel Kant, 1724–1804)の『永遠平和のために(Zum ewigen Frieden)』(1795年)に遡る。カントは、共和制的統治体制、自由な国家の連合、世界市民法という三つの条件が整うことで恒久平和が実現可能であると論じた。
リベラリズムが国際関係論において体系的なパラダイムとして確立されるのは、第二次世界大戦後、特に1970年代以降である。リアリズムが「なぜ国家は対立するのか」を中心的問いとするのに対し、リベラリズムは「アナーキー下でなぜ・いかにして協力が成立するのか」を問う。両者は分析の前提(国家が主要な行為者であること、アナーキーの存在)を部分的に共有しつつも、アナーキーの帰結に関する評価が根本的に異なる。
相互依存論¶
コヘインとナイ: 複合的相互依存¶
Key Concept: 複合的相互依存(Complex Interdependence) ロバート・コヘインとジョセフ・ナイが『権力と相互依存』(1977年)で提唱した概念。リアリズムが前提とする国際政治像に対し、現実の国際関係はより複雑な相互依存構造を持つことを示す理論的枠組みである。
ロバート・コヘイン(Robert Keohane, 1941–)とジョセフ・ナイ(Joseph Nye, 1937–2024)は、共著『権力と相互依存(Power and Interdependence)』(1977年)において、リアリズムが描く国際政治像に対する体系的な代替モデルを提示した。コヘインとナイは「相互依存」を、国際的取引——資金・財・人・情報の国境を越えた流れ——から生じる行為者間の相互的影響と定義した。
リアリズムは、国家が唯一の重要な行為者であり、軍事力が究極的な権力資源であり、安全保障が最優先課題であるという前提に立つ。コヘインとナイは、現実の国際関係がこのリアリスト・モデルとは乖離する場合があることを指摘し、「複合的相互依存」という理念型を対置した。
複合的相互依存は、以下の三つの条件によって特徴づけられる。
| 条件 | 内容 | リアリズムとの対比 |
|---|---|---|
| 1. 多元的チャネル | 社会を結ぶ経路は政府間関係のみでなく、政府横断的(transgovernmental)・脱国家的(transnational)な関係を含む複数のチャネルから構成される | リアリズム: 国家間関係が唯一の重要チャネル |
| 2. 争点間のヒエラルキーの不在 | 国際政治の争点は安全保障を頂点とする明確な序列を持たず、経済・環境・人権等の多様な争点が並立する。国内政策と外交政策の境界も曖昧化する | リアリズム: 安全保障(ハイ・ポリティクス)が最優先 |
| 3. 軍事力の役割の低下 | 複合的相互依存の下では、軍事力は政策手段としての有効性が低下する。経済的手段や制度的手段がより重要となる | リアリズム: 軍事力が究極的な権力資源 |
graph TD
RM["リアリスト・モデル"] --> R1["国家が唯一の行為者"]
RM --> R2["安全保障が最優先"]
RM --> R3["軍事力が究極的手段"]
CI["複合的相互依存モデル"] --> C1["多元的チャネル<br/>(政府間・政府横断・脱国家)"]
CI --> C2["争点間ヒエラルキーの不在"]
CI --> C3["軍事力の役割の低下"]
RM -.->|"対比"| CI
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style CI fill:#d5f5e3,stroke:#333
重要なのは、コヘインとナイがリアリスト・モデルを完全に否定したのではなく、複合的相互依存をリアリスト・モデルと対極にある理念型として設定した点である。現実の国際関係は、この二つの理念型の間のスペクトラム上に位置する。安全保障問題が支配的な地域(冷戦期の米ソ関係など)ではリアリスト・モデルに近づき、経済的相互依存が深い先進民主主義国間の関係では複合的相互依存モデルに近づく。
民主的平和論¶
カントから現代の実証的命題へ¶
Key Concept: 民主的平和論(Democratic Peace Theory) 民主主義国家同士は互いに戦争をしない(あるいは戦争をする確率が極めて低い)という経験的命題。カントの『永遠平和のために』に思想的起源を持ち、統計的研究によって概ね支持されている。
民主的平和論は、リベラリズムの系譜に属する理論的命題の中で最も広範な実証的検証を受けたものの一つである。その中心的主張は、民主主義国家同士は互いに戦争を行わないという経験的規則性である。
この命題の思想的起源は、カントの『永遠平和のために』に求められる。カントは恒久平和の条件として以下の三項目を提示した。
- 共和制的統治体制(republikanische Verfassung): 戦争の費用を負担するのは市民であるから、市民の同意が必要な共和制の下では戦争への敷居が高くなる
- 自由な国家の連合(Föderalismus freier Staaten): 共和制国家が相互に平和条約を結び、連合体を形成する
- 世界市民法(Weltbürgerrecht): 普遍的友好の条件が保障される
カントの議論は哲学的な規範的構想であったが、20世紀後半に入り、マイケル・ドイル(Michael Doyle)やブルース・ラセット(Bruce Russett)らの政治学者が、歴史的データと統計的手法を用いてこの命題を実証的に検証した。ドイルは1983年の論文で、リベラルな民主主義国家同士の間で戦争が発生した事例が歴史上ほとんど存在しないことを体系的に示し、ラセットは『民主主義の平和についての把握(Grasping the Democratic Peace)』(1993年)でこの命題の統計的裏付けを提示した。
二つの説明メカニズム¶
民主的平和論の因果メカニズムについては、主に二つの説明が提示されている。
制度的説明(institutional/structural explanation): 民主主義体制には、戦争の開始を困難にする制度的制約が組み込まれている。政策決定に立法府の承認が必要であること、言論・報道の自由が政府の政策を監視すること、定期的選挙が指導者に説明責任を課すこと——これらの制度的特徴が、戦争という高コストの政策選択への抑制として機能する。
規範的説明(normative/cultural explanation): 民主主義国家は国内政治において妥協・交渉・法の支配といった紛争解決の規範を共有している。この規範が対外関係にも外化(externalize)され、民主主義国家同士は非暴力的な紛争解決を期待し合うようになる。対する非民主主義国家に対しては、この規範的期待が適用されないため、民主主義国家と非民主主義国家の間では戦争が回避されるとは限らない。
民主的平和論は広範な実証的支持を得ているが、批判も存在する。定義の問題(何をもって「民主主義国家」「戦争」とするか)、因果の方向性(平和が民主化を促すのか、民主化が平和を促すのか)、古代世界への適用可能性に関する疑義などが指摘されている。リアリストからは、民主主義国家間の平和は民主主義それ自体ではなく共通の脅威(冷戦期のソ連)に対する同盟関係で説明可能であるとの反論もなされている。
国際制度論(ネオリベラル制度主義)¶
コヘインの『覇権後の協力』¶
Key Concept: ネオリベラル制度主義(Neoliberal Institutionalism) 国際制度(レジーム)が国家間の協力を促進するメカニズムを分析する理論的立場。ネオリアリズムと同様に国家の合理性とアナーキーを前提としつつ、制度が取引コストを削減し、情報を提供することで、自己利益追求的な国家間にも協力が成立すると主張する。
ロバート・コヘインは『覇権後の協力——世界政治経済における協調と不和(After Hegemony: Cooperation and Discord in the World Political Economy)』(1984年)において、ネオリベラル制度主義の理論的基礎を確立した。この著作は、覇権安定論——国際協力は圧倒的な覇権国の存在によってのみ可能であるとする理論——に対する挑戦として構想された。
コヘインの問いは、「覇権国の相対的衰退の後にも国際協力は持続しうるか」というものであった。1970年代以降のアメリカの相対的地位の低下にもかかわらず、ブレトンウッズ体制後の国際経済協力が一定程度維持されたという事実が、この問いの背景にある。
コヘインの理論は、ネオリアリズムと重要な前提を共有する。国家は合理的な利己的行為者であり、国際システムはアナーキーである。しかし、コヘインはこれらの前提からネオリアリズムとは異なる結論を導く。合理的な利己的行為者であっても、適切な制度的条件が整えば協力は可能なのである。
国際レジームの機能¶
Key Concept: 国際レジーム(International Regime) スティーヴン・クラズナーの古典的定義によれば、「特定の国際関係の争点領域において行為者の期待が収斂するところの、明示的または暗黙的な原則・規範・規則・意思決定手続きの集合」。国際協力を支える制度的枠組みを分析する概念である。
国際レジームの概念は、スティーヴン・クラズナー(Stephen Krasner)が1983年に編集した論文集で提示した定義が広く受容されている。コヘインはこのレジーム概念を発展させ、制度が国家間協力を促進するメカニズムを以下のように整理した。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 取引コストの削減 | 交渉の場と手続きを提供し、個別交渉のコストを低減する |
| 情報の提供 | 各国の行動を監視し、情報の非対称性を緩和する。これにより、相手が協力義務を遵守しているか否かを確認できる |
| 期待の収斂 | 共有された規則と規範が行為者の期待を安定化させ、予測可能性を高める |
| 裏切りの抑止 | 反復的な相互作用の中で、裏切り行為に対する評判コスト(reputation cost)を発生させ、協力を自己拘束的にする |
コヘインの理論は、ゲーム理論——特に繰り返し囚人のジレンマ——の知見を援用している。一回限りの相互作用では裏切りが合理的であっても、将来の相互作用が予期される場合には、協力を維持することが長期的に合理的となりうる。国際制度は、この「繰り返しゲームの影」(shadow of the future)を拡大し、協力の自己維持的な均衡を可能にする装置として機能する。
graph LR
P["国家間協力の障害<br/>(アナーキー下の不確実性)"] --> IR["国際レジーム"]
IR --> F1["取引コスト削減"]
IR --> F2["情報の提供・監視"]
IR --> F3["期待の収斂"]
IR --> F4["裏切りの抑止<br/>(評判コスト)"]
F1 --> C["国家間協力の促進"]
F2 --> C
F3 --> C
F4 --> C
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style IR fill:#d4e6f1,stroke:#333
style C fill:#d5f5e3,stroke:#333
ネオリアリズムとの対話¶
ネオリベラル制度主義とネオリアリズムは、国際関係論における「ネオ-ネオ論争(neo-neo debate)」として知られる重要な理論的対話を展開した。両者は国家の合理性・アナーキー・国家中心主義といった前提を共有するが、以下の点で見解が分岐する。
| 論点 | ネオリアリズム | ネオリベラル制度主義 |
|---|---|---|
| 協力の可能性 | 限定的——裏切りと相対的利得への懸念が障害 | 十分に可能——制度が障害を緩和する |
| 利得の評価 | 相対的利得(relative gains)を重視: 協力の結果、相手がより多く利得を得れば自国の安全保障が脅かされる | 絶対的利得(absolute gains)を重視: 協力から自国が利得を得ていれば十分 |
| 制度の効果 | 制度は大国の利害を反映するに過ぎず、独立的な因果的効果は限定的 | 制度は独立変数として国家行動を規定しうる |
コンストラクティヴィズム¶
「アナーキーは国家が作るもの」¶
Key Concept: コンストラクティヴィズム(Constructivism) 国際政治の構造は物質的要因のみでなく、共有された観念・規範・アイデンティティによって社会的に構成されるとする理論的立場。アレクサンダー・ウェントの「アナーキーは国家が作るもの」(1992年)が国際関係論における確立の契機となった。
コンストラクティヴィズム(構成主義)は、リアリズム・リベラリズムの双方が共有する合理主義的・物質主義的前提そのものに疑問を投げかける理論的立場である。1980年代から1990年代にかけて国際関係論に浸透し、リアリズム・リベラリズムと並ぶ「第三のパラダイム」としての地位を確立した。
アレクサンダー・ウェント(Alexander Wendt, 1958–)は、1992年に『国際機構(International Organization)』誌に発表した論文「アナーキーは国家が作るもの——権力政治の社会的構成(Anarchy Is What States Make of It: The Social Construction of Power Politics)」において、コンストラクティヴィズムの立場から、当時支配的であったネオリアリズムに根本的な挑戦を突きつけた。
ウォルツのネオリアリズムは、アナーキーという構造から自助(self-help)と権力政治が必然的に導出されると主張した。ウェントの反論の核心は、アナーキーそれ自体は空虚な構造であり、自助はアナーキーの論理的帰結ではないというものである。自助的な行動様式が出現するのは、国家間の相互作用を通じて特定の文化的構造が社会的に構成された結果である。アナーキーという同一の条件下でも、国家間の相互認識のあり方次第で、敵対的な関係も協調的な関係も成立しうる。
ウェントの二つのテーゼ¶
ウェントは、コンストラクティヴィズムの基本命題として以下の二つを提示した。
- 人間の結合の構造は、物質的力ではなく共有された観念(shared ideas)によって主に決定される
- 目的的行為者のアイデンティティと利益は、自然に与えられたものではなく、共有された観念によって構成される
第一のテーゼは、ネオリアリズムの物質主義——能力の分布が国際政治を決定するという主張——に対するアンチテーゼである。例えば、イギリスの核兵器500発とイランの核兵器5発では、物質的な能力の差はアメリカにとってイギリスの方が脅威的であるはずである。しかしアメリカがイランの核兵器をイギリスの核兵器よりも脅威と見なすのは、物質的能力ではなく、各国に対して抱いている観念——敵なのか友なのか——によってである。
第二のテーゼは、リアリズムが前提とする「国家の利益は所与(事前に決まっている)」という想定への批判である。国家が何を「利益」と見なすかは、その国家のアイデンティティに依存し、アイデンティティは他の国家との社会的相互作用を通じて構成される。
アナーキーの三つの文化¶
ウェントは主著『国際政治の社会理論(Social Theory of International Politics)』(1999年)において、1992年の論文を体系的に発展させ、アナーキー下に成立しうる三つの「文化」を提示した。
Key Concept: アナーキーの文化(Cultures of Anarchy) ウェントが『国際政治の社会理論』で提示した概念。同じアナーキーの下でも、国家間の相互認識のあり方によって異なる文化的構造が成立する。ホッブズ的・ロック的・カント的の三類型が区別される。
| 文化 | 他者の位置づけ | 暴力の使用 | 国際関係の論理 | 歴史的対応 |
|---|---|---|---|---|
| ホッブズ的文化 | 敵(enemy) | 無制限——存在の否定を含む | 万人の万人に対する闘争 | 近代国家システム以前 |
| ロック的文化 | 競争者(rival) | 制限あり——相手の存在権は承認 | 競争的共存、主権の相互承認 | ウェストファリア体制以降 |
| カント的文化 | 友(friend) | 紛争解決に暴力を使用しない | 集団安全保障、協調 | 現代の民主主義国間関係 |
graph LR
A["アナーキー<br/>(所与の構造)"] --> H["ホッブズ的文化<br/>他者 = 敵"]
A --> L["ロック的文化<br/>他者 = 競争者"]
A --> K["カント的文化<br/>他者 = 友"]
H --> H1["無制限の暴力"]
L --> L1["制限された競争<br/>主権の相互承認"]
K --> K1["非暴力的紛争解決<br/>集団安全保障"]
style A fill:#e8daef,stroke:#333
style H fill:#fadbd8,stroke:#333
style L fill:#d4e6f1,stroke:#333
style K fill:#d5f5e3,stroke:#333
ネオリアリズムがアナーキーから自助と権力政治を演繹的に導出するのに対し、ウェントはアナーキーが生み出す帰結は一義的ではなく、国家間の社会的相互作用を通じて構成される文化に依存すると主張したのである。現代のウェストファリア・システムはロック的文化に該当し、NATO加盟国間の関係はカント的文化に近づいているとウェントは論じた。
規範の国際政治における役割¶
コンストラクティヴィズムの重要な研究プログラムの一つが、国際規範(international norms)の形成・伝播・内面化のメカニズムの解明である。
Key Concept: 規範(Norm) 特定のアイデンティティを持つ行為者にとって適切な行動についての共有された期待。国際政治においては、主権不干渉原則、人権保護規範、大量破壊兵器使用の禁止規範などが該当する。
マーサ・フィネモア(Martha Finnemore)とキャスリン・シキンク(Kathryn Sikkink)は「規範のライフサイクル(norm life cycle)」モデル(1998年)を提示し、国際規範がいかにして形成され、普及し、当然視されるに至るかを分析した。このモデルでは、規範の発展は三段階を経る——(1) 規範起業家(norm entrepreneur)による規範の提起、(2) 規範のカスケード(tipping point を超えた急速な普及)、(3) 規範の内面化(internalization、規範が当然視され議論の対象でなくなる段階)である。
例えば、奴隷制の廃止は、かつては少数の道徳的起業家の主張にすぎなかったが、19世紀を通じて国際規範として確立され、現在では奴隷制が許容されうるかどうかを議論すること自体が不適切とみなされる——すなわち完全に内面化された規範である。
三つのパラダイムの比較¶
リアリズム・リベラリズム・コンストラクティヴィズムの三パラダイムは、国際政治の異なる側面を照らし出す分析的レンズである。
| 比較軸 | リアリズム | リベラリズム | コンストラクティヴィズム |
|---|---|---|---|
| 中心的問い | なぜ国家は対立するか | いかにして協力が可能か | 国家の利益・アイデンティティはいかに構成されるか |
| 主要変数 | 物質的能力(軍事力) | 国際制度・相互依存 | 観念・規範・アイデンティティ |
| アナーキーの帰結 | 自助・権力政治は不可避 | 制度により協力は可能 | 国家の相互作用次第で多様な帰結がありうる |
| 利益の扱い | 所与(安全保障・権力) | 所与(合理的利己心) | 社会的に構成される |
| 存在論 | 物質主義 | 物質主義(部分的) | 観念主義 |
| 変化の見通し | 構造的制約により限定的 | 制度の発展により可能 | 観念の変化により根本的変化が可能 |
まとめ¶
- リベラリズムは、リアリズムの権力政治観に対し、アナーキー下でも国際制度・経済的相互依存・民主主義を通じて国家間協力が可能であると主張する対抗パラダイムである
- コヘインとナイの複合的相互依存論は、多元的チャネル・争点間ヒエラルキーの不在・軍事力の役割の低下という三条件によって、リアリスト・モデルの代替像を提示した
- 民主的平和論は、民主主義国家同士は戦争しないという経験的命題であり、制度的説明と規範的説明の二つのメカニズムが提示されている
- ネオリベラル制度主義(コヘイン)は、国際レジームが取引コストの削減・情報の提供・期待の収斂を通じて国家間協力を促進すると論じた
- コンストラクティヴィズムは、アナーキーの帰結は国家間の社会的相互作用によって構成されると主張し、物質主義的前提そのものに疑問を投げかけた
- ウェントの「アナーキーの三つの文化」(ホッブズ的・ロック的・カント的)は、同一のアナーキー下でも異なる国際秩序が成立しうることを理論的に示した
- 次のセクションでは、これらの理論的パラダイムが具体的にどのような争点・事例に適用されるかを検討する
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| リベラリズム | Liberalism | 国際制度・相互依存・民主主義を通じてアナーキー下でも協力が可能とする理論的パラダイム |
| 複合的相互依存 | Complex Interdependence | コヘインとナイが提示した概念。多元的チャネル・争点間ヒエラルキーの不在・軍事力の役割の低下を特徴とする国際関係モデル |
| 民主的平和論 | Democratic Peace Theory | 民主主義国家同士は戦争しないという経験的命題 |
| ネオリベラル制度主義 | Neoliberal Institutionalism | 国際制度が国家間協力を促進するメカニズムを分析する理論的立場 |
| 国際レジーム | International Regime | 特定の争点領域における原則・規範・規則・意思決定手続きの集合 |
| 相対的利得 | Relative Gains | 協力による利得の配分において、自国と他国の利得の差を重視する考え方 |
| 絶対的利得 | Absolute Gains | 協力から自国が得る利得の絶対量を重視する考え方 |
| コンストラクティヴィズム | Constructivism | 国際政治の構造が共有された観念・規範・アイデンティティによって社会的に構成されるとする理論 |
| アナーキーの文化 | Cultures of Anarchy | ウェントが提示した概念。ホッブズ的・ロック的・カント的の三類型からなる |
| 規範 | Norm | 特定のアイデンティティを持つ行為者にとって適切な行動についての共有された期待 |
| 規範のライフサイクル | Norm Life Cycle | フィネモアとシキンクが提示した規範の発展段階モデル(提起→カスケード→内面化) |
| 規範起業家 | Norm Entrepreneur | 新たな規範を積極的に提唱し、その普及を推進する行為者 |
| 覇権安定論 | Hegemonic Stability Theory | 国際協力は覇権国の存在によってのみ可能であるとする理論 |
| ネオ-ネオ論争 | Neo-Neo Debate | ネオリアリズムとネオリベラル制度主義の間の理論的対話 |
| 繰り返しゲームの影 | Shadow of the Future | 将来の相互作用の予期が現在の協力行動を促進する効果 |
確認問題¶
Q1: コヘインとナイの「複合的相互依存」の三つの条件を挙げ、それぞれがリアリスト・モデルのどのような前提と対比されているか説明せよ。 A1: 複合的相互依存の三条件は、(1) 多元的チャネル——政府間関係のみでなく、政府横断的・脱国家的な多様な経路が社会を結ぶ(リアリズム: 国家間関係が唯一の重要チャネル)、(2) 争点間ヒエラルキーの不在——安全保障が常に最優先とは限らず、多様な争点が並立する(リアリズム: 安全保障が最優先)、(3) 軍事力の役割の低下——軍事力の政策手段としての有効性が低下し、経済的・制度的手段が重要になる(リアリズム: 軍事力が究極的な権力資源)。
Q2: 民主的平和論における「制度的説明」と「規範的説明」の違いを論述せよ。 A2: 制度的説明は、民主主義体制が持つ制度的特徴——立法府の承認、報道の自由、定期選挙による説明責任——が戦争の開始を困難にするという構造的要因に着目する。一方、規範的説明は、民主主義国家が国内政治において共有する紛争解決の規範(妥協・交渉・法の支配)が対外関係にも外化され、民主主義国家同士は非暴力的な紛争解決を相互に期待するようになると論じる。制度的説明がフォーマルな制度的制約を強調するのに対し、規範的説明は共有された政治文化と価値観の役割を重視する点で両者は異なる。
Q3: コヘインのネオリベラル制度主義は、ネオリアリズムとどのような前提を共有し、どの点で結論が分岐するか。「相対的利得」と「絶対的利得」の概念を用いて説明せよ。 A3: 両者は、国家が合理的利己的行為者であること、国際システムがアナーキーであること、国家が主要な行為者であることを共有する。結論の分岐は、協力の可能性と利得の評価にある。ネオリアリズムは相対的利得を重視し、協力によって相手が自国より多く利得を得れば将来の脅威となるため、協力には構造的障害があると主張する。対してネオリベラル制度主義は絶対的利得を重視し、自国が協力から正の利得を得ていれば合理的であり、国際制度が裏切りの抑止・情報提供を通じて協力を促進すると主張する。
Q4: ウェントの「アナーキーは国家が作るもの」という命題は、ウォルツのネオリアリズムのどのような主張に対する批判か。その論理を説明せよ。 A4: ウォルツのネオリアリズムは、アナーキーという構造から自助と権力政治が論理的必然として導出されると主張した。ウェントはこれに対し、アナーキーそれ自体は空虚な構造であり、自助はアナーキーの論理的帰結ではないと反論した。自助的行動が出現するのは、国家間の相互作用を通じて敵対的な文化的構造が社会的に構成された結果にすぎない。アナーキーという同一条件下でも、国家間の相互認識次第で敵対関係(ホッブズ的文化)も協調関係(カント的文化)も成立しうる。物質的構造ではなく、共有された観念が国際政治の帰結を決定するというのがウェントの主張である。
Q5: リアリズム・リベラリズム・コンストラクティヴィズムの三パラダイムそれぞれが、「国家の利益」をどのように扱うか比較せよ。 A5: リアリズムは、国家の利益(安全保障・権力)を所与のものとして扱い、アナーキー下で国家が追求する利益は構造的に決定されると考える。リベラリズムも国家の利益を基本的に所与(合理的利己心に基づく利得の最大化)として扱うが、制度を通じて利益の実現方法が変わりうると論じる。コンストラクティヴィズムは、国家が何を利益と見なすか自体が社会的に構成されると主張する。利益はアイデンティティに依存し、アイデンティティは他国との社会的相互作用を通じて形成される。したがって、利益は外生的に与えられるのではなく、内生的に構成されるものである。