コンテンツにスキップ

Module 1-5 - Section 4: 地方自治と中央地方関係

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-5: 日本政治入門
前提セクション Section 1: 日本国憲法と統治機構
想定学習時間 3時間

導入

国家の統治構造を理解するには、中央政府の制度のみならず、中央と地方の権限配分を把握することが不可欠である。比較政治学(→ Module 1-3 参照)で検討した連邦制と単一国家の類型論に照らせば、日本は単一国家(unitary state)に分類される。しかし、日本国憲法は第8章「地方自治」を独立の章として設け、地方自治を憲法上の制度として保障しており、単純な中央集権体制とは異なる構造を持つ。

本セクションでは、まず憲法が保障する地方自治の原理と制度的枠組みを確認し、次に首長と議会の関係を規定する二元代表制を検討する。そのうえで、戦前から戦後にかけての中央地方関係の歴史的変容を辿り、1990年代末以降の地方分権改革の展開を追う。最後に、平成の大合併、道州制論議、地方財政の困難といった現代的課題を考察する。


日本の地方自治制度

憲法第8章「地方自治」

日本国憲法は第92条から第95条までの4か条で地方自治を規定する。大日本帝国憲法(明治憲法)には地方自治に関する規定が存在せず、地方制度は法律事項として国の裁量に委ねられていた。日本国憲法が地方自治に独立の章を設けたことは、戦後民主化の重要な柱の一つである。

各条文の内容は以下のとおりである。

条文 内容
第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて法律で定める
第93条 地方公共団体に議事機関として議会を設置し、長・議員等は住民の直接選挙で選出する
第94条 地方公共団体は財産管理、事務処理、行政執行の権能を有し、法律の範囲内で条例を制定できる
第95条 特定の地方公共団体のみに適用される特別法は、住民投票で過半数の同意を必要とする

Key Concept: 地方自治の本旨(Principle of Local Autonomy) 憲法第92条に規定される地方自治制度の根本原理。その内容は「団体自治」と「住民自治」の二つの要素から構成されると解されている。法律によっても地方自治の本旨に反する制度設計は許されないとするのが通説的理解である。

団体自治と住民自治

「地方自治の本旨」は、団体自治(institutional autonomy)と住民自治(popular autonomy)の二つの要素から成る。

  • 団体自治: 国から独立した地方公共団体が、自らの権限と責任において地域の行政を処理すること。中央政府からの不当な干渉を排除する側面を持つ。ヨーロッパ大陸(とりわけドイツ)の自治理念に由来する。
  • 住民自治: 地域の行政がその地域の住民の意思に基づいて行われること。住民が直接・間接に地方政治に参加する民主主義的側面を指す。イギリスの自治伝統に由来する。

連邦制国家(→ Module 1-3 参照)における州の権限が憲法上の「固有権」として理解されるのに対し、日本の地方公共団体の権限は、憲法の保障を受けつつも具体的な内容は法律によって定められる。この点で、日本の地方自治は「制度的保障」の枠組みの中に位置づけられる。

都道府県と市町村の二層制

日本の地方自治制度は、広域自治体としての都道府県(47団体)と、基礎自治体としての市町村(2024年時点で1,718団体)による二層制を採用している。

区分 種類 主な役割
広域自治体 都道府県(1都1道2府43県) 広域行政、市町村間の調整、市町村を補完する事務
基礎自治体 市・町・村 住民に身近な行政サービスの提供
特別地方公共団体 特別区(東京23区)、一部事務組合等 特定の行政事務を共同処理

地方自治法は、基礎自治体である市町村を住民に最も身近な行政主体として位置づけ、市町村が処理できない広域的・補完的な事務を都道府県が担うという「補完性の原理」(principle of subsidiarity)に基づく役割分担を志向している。


二元代表制

制度の概要

日本の地方自治体は、国政の議院内閣制(→ Section 1 参照)とは異なり、二元代表制(dual representative system)を採用している。首長(知事・市町村長)と議会の議員がそれぞれ住民の直接選挙により選出され、両者が独立した民主的正統性を持つ点が最大の特徴である。

Key Concept: 二元代表制(Dual Representative System) 執行機関の長(首長)と議事機関(議会)の双方が住民の直接選挙により選出される統治構造。両者は相互に独立した民主的正統性を有し、牽制と均衡(checks and balances)の関係に立つ。アメリカの大統領制に類似する構造であり、議院内閣制を採用する国政とは原理を異にする。

graph TD
    A["住民(有権者)"] -->|"直接選挙"| B["首長(知事・市長等)"]
    A -->|"直接選挙"| C["地方議会"]
    B -->|"予算案提出・条例案提出"| C
    C -->|"議決(予算・条例等)"| B
    B -->|"再議権(拒否権)"| C
    C -->|"不信任決議"| B
    B -->|"議会解散権"| C

首長の権限

地方自治法は首長に広範な権限を付与している。地方自治法第149条は首長の担任事務を列挙するが、その権限は概括的・包括的であり、列挙事項に限定されない(概括例示主義)。

主な権限は以下のとおりである。

権限 内容
予算編成権 予算の調製・提出は首長の専権事項(議会は修正可能だが、首長の提案権を侵害できない)
条例提案権 条例案を議会に提出する権限(議員提案も可能だが、実態として首長提案が圧倒的多数)
人事権 副知事・副市長、教育委員会委員、監査委員等の選任(議会の同意を要するものあり)
規則制定権 法令の範囲内で規則を制定する権限
再議権 議会の議決に対する拒否権(一般再議と特別再議)
専決処分 議会が成立しない場合等における首長の単独処分権

議会の権限と機能

地方議会の権限は、地方自治法第96条に限定列挙される(制限列挙主義)。首長の概括例示主義とは対照的であり、制度設計上、首長に比較的強い権限が与えられている。

議会の主な権限には、条例の制定・改廃、予算の議決、決算の認定、重要な契約の締結、副知事・副市長等の選任への同意、地方公共団体の事務に関する調査権(百条調査権)などがある。

首長と議会の牽制関係

二元代表制のもとでは、以下のような牽制メカニズムが制度化されている。

  • 不信任決議と議会解散: 議会は首長に対する不信任決議を行うことができる(議員数の3分の2以上の出席、その4分の3以上の賛成が必要)。不信任決議が可決された場合、首長は10日以内に議会を解散できる。解散後の議会で再度不信任決議が可決された場合、首長は失職する。
  • 再議(拒否権): 首長は議会の議決に異議がある場合、再議に付すことができる。再議の場合、議会は出席議員の3分の2以上の賛成で当初の議決を維持できる。

この構造は、アメリカの大統領と連邦議会の関係に部分的に類似するが、地方自治法に基づく不信任決議・解散権の存在が、純粋な大統領制とは異なる日本独自の制度を形成している。


中央地方関係の歴史的展開

戦前の中央集権体制

明治政府は1871年の廃藩置県により封建的な藩体制を解体し、強力な中央集権国家を構築した。府県知事は中央政府が任命する「官選知事」であり、地方行政は内務省の統制下に置かれた。市町村レベルでは1888年の市制・町村制の施行により一定の自治が認められたが、国の監督は広範に及んだ。

明治憲法には地方自治に関する規定は存在せず、地方制度の全体が法律・命令によって規律された。地方団体は国の統治機構の一部として位置づけられ、独立の法人格を有する自治体という観念は希薄であった。

戦後の地方自治法制定

日本国憲法の施行に伴い、1947年に地方自治法が制定された。知事の公選制が導入され、地方公共団体に法人格が付与された。この改革は、戦前の中央集権体制からの根本的な転換を意味するものであった。

しかし、戦後改革においても中央政府の地方に対する強い統制は維持された。その中核をなしたのが機関委任事務制度である。

Key Concept: 機関委任事務(Agency Delegated Functions) 国の事務を法令に基づいて地方公共団体の首長(知事・市町村長)に委任し、首長を「国の機関」として当該事務を処理させる制度。首長は委任された事務については国の指揮監督に服し、地方議会の審議対象から除外された。1999年の地方分権一括法により廃止。

機関委任事務のもとでは、知事や市町村長は国の「下部機関」として位置づけられ、主務大臣の包括的な指揮監督権に服した。該当事務について地方議会は条例を制定できず、監査委員による監査の対象外とされるなど、地方の自主性は大幅に制約された。都道府県の事務のうち機関委任事務が占める割合は7〜8割に及んだとされる。

Key Concept: 三割自治(30% Autonomy) 地方公共団体の自主財源(地方税収入等)が歳入全体に占める割合がおよそ3割にすぎない状態を揶揄する表現。機関委任事務による行政面の従属と相まって、地方自治の空洞化を象徴する用語として用いられてきた。

三割自治の問題は、財源の依存構造(地方交付税交付金、国庫支出金への依存)と権限の従属構造(機関委任事務)の二つの側面から理解される。自主財源比率が3〜4割にとどまるなか、残りの財源は国から交付される地方交付税交付金や国庫支出金(補助金)で賄われた。財源を国に依存する構造は、地方の政策的自律性をさらに制約する要因となった。


地方分権改革

改革の背景と第一次分権改革

1990年代に入り、冷戦の終結、バブル経済の崩壊、55年体制の崩壊といった国内外の構造変動を背景に、地方分権改革が本格的に始動した。1993年に衆参両院で「地方分権の推進に関する決議」が全会一致で採択され、1995年に地方分権推進法が制定された。同法に基づき設置された地方分権推進委員会は、5次にわたる勧告を行い、改革の骨格を形成した。

この勧告を受けて1999年に成立したのが地方分権一括法(「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」)である。475本の法律を一括改正し、2000年4月に施行された。

Key Concept: 地方分権一括法(Omnibus Decentralization Act, 1999) 機関委任事務制度を全面的に廃止し、地方公共団体の事務を「自治事務」と「法定受託事務」に再編した法律。国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」へ転換することを目指した、戦後地方自治制度の最大の構造改革。

第一次分権改革の核心は、機関委任事務の廃止と事務の再構成にある。

graph LR
    subgraph "改革前"
        A["機関委任事務"] --> B["国の事務を首長に委任"]
        B --> C["主務大臣の指揮監督"]
        B --> D["地方議会の関与なし"]
    end
    subgraph "改革後(2000年〜)"
        E["自治事務"] --> F["地方の判断で処理"]
        F --> G["条例制定可能"]
        H["法定受託事務"] --> I["国が本来果たすべき事務"]
        I --> J["法律で処理基準を設定"]
    end
    A -.->|"廃止・再構成"| E
    A -.->|"廃止・再構成"| H
事務区分 定義
自治事務 法定受託事務以外の地方公共団体の事務 都市計画決定、介護保険、公立学校の管理運営
法定受託事務 国が本来果たすべき役割に係る事務で、法律により地方公共団体が処理するもの 国政選挙の管理、旅券(パスポート)の交付、戸籍事務

改革の結果、地方公共団体は自治事務について法令に反しない限り独自の条例を制定できるようになり、自己決定権が拡充された。また、国と地方の間の係争を処理する「国地方係争処理委員会」が設置され、対等な関係を制度的に担保する仕組みが整備された。

三位一体の改革

第一次分権改革は権限の移譲を中心としたが、財源面の改革は不十分であった。小泉純一郎内閣は「聖域なき構造改革」の一環として、2004年度から2006年度にかけて「三位一体の改革」を推進した。

三位一体の改革は、以下の三つを同時に実施することを目指すものである。

  1. 国庫補助負担金の廃止・縮減: 約4.7兆円の削減
  2. 税源移譲: 所得税から個人住民税への約3兆円の税源移譲(個人住民税所得割の税率を一律10%に統一)
  3. 地方交付税の見直し: 総額の抑制
timeline
    title 地方分権改革の時系列
    1993 : "衆参両院「地方分権の推進に関する決議」"
    1995 : "地方分権推進法制定"
    1999 : "地方分権一括法成立"
    2000 : "地方分権一括法施行(機関委任事務廃止)"
    2004 : "三位一体の改革開始"
    2006 : "三位一体の改革完了(税源移譲実施)"
    2007 : "地方分権改革推進法制定(第二次分権改革)"
    2011 : "第1次・第2次一括法(義務付け・枠付けの見直し)"
    2014 : "地方分権改革「提案募集方式」導入"

三位一体の改革の評価は分かれる。税源移譲により地方の自主財源が一定程度拡充された点は積極的に評価されるが、地方交付税の大幅削減(約5.1兆円)は財政力の弱い自治体に深刻な影響を与えた。国庫補助負担金の削減も、地方が真に望む改革ではなく、国の財政再建の論理が優先されたとの批判がある。

第二次分権改革以降

2006年に地方分権改革推進法が制定され、第二次分権改革が始動した。地方分権改革推進委員会の勧告に基づき、2011年以降、数次にわたる「一括法」が制定され、国による「義務付け・枠付け」(地方に一律の基準を課す規制)の見直しが進められた。

2014年からは「提案募集方式」が導入され、地方自治体が自ら分権に関する提案を行い、内閣府の地方分権改革推進室が関係府省と調整する仕組みが定着した。これは、トップダウン型の改革からボトムアップ型の改革への転換を象徴するものである。


現代の課題

平成の大合併

1999年から2010年にかけて政府主導で推進された大規模な市町村合併は「平成の大合併」と呼ばれる。合併前に3,232あった市町村は、合併後に1,727にまで統合された。

項目 内容
背景 地方分権の受け皿づくり、少子高齢化への対応、行財政の効率化、日常生活圏の広域化
推進策 合併特例債(有利な条件の地方債)、地方交付税の合併算定替(一定期間の優遇措置)
結果 3,232市町村 → 1,727市町村(約46%減)
積極的評価 行政体制の強化、専門職員の確保、広域的な行政課題への対応力向上
批判的評価 周辺部の衰退・行政サービスの低下、旧町村地域の住民の政治的代表性の希薄化、地域コミュニティの弱体化

平成の大合併は、行政の効率化と地方分権の受け皿整備という点で一定の成果を上げたが、合併によって広域化した自治体の周辺部で住民サービスの低下や地域の一体性の喪失が生じたとの指摘も多い。

道州制論議

道州制とは、現行の都道府県を廃止し、より広域の「道」または「州」に再編する構想である。戦前から断続的に議論されてきたが、平成期に入って本格的な検討が進められた。2006年の第28次地方制度調査会答申は道州制の導入を選択肢として提示し、道州の区域について3つの案(9道州、11道州、13道州)を示した。

道州制の論点は以下のとおりである。

賛成論 反対論
広域的な行政課題への効率的対応 住民と行政の距離の拡大
国と地方の二重行政の解消 道州間の財政力格差の拡大
地域の自立的な産業振興・税制優遇 移行コストの巨額さ
国の役割を外交・防衛等に限定し、地方の自律性向上 都道府県が培ってきた行政ノウハウ・アイデンティティの喪失

2010年代半ば以降、大阪都構想の住民投票での否決(2015年、2020年)もあり、道州制の議論は下火となっている。

地方財政の困難

地方財政は構造的な課題を抱えている。地方税収入が歳入全体に占める割合は依然として4割前後であり、地方交付税交付金と国庫支出金への依存構造は根本的に解消されていない。

加えて、少子高齢化の進行は地方財政を二重に圧迫する。税収の基盤となる生産年齢人口が減少する一方で、社会保障関係経費(特に高齢者医療・介護)は増大し続けている。人口減少が著しい地方自治体では、行政サービスの維持そのものが困難となりつつある。

こうした状況に対し、「地方創生」政策(2014年〜)が進められ、地方への移住促進、地域産業の振興、デジタル田園都市国家構想などの施策が展開されている。しかし、東京一極集中の是正は容易ではなく、構造的課題の解決には長期的な取り組みが求められる。


まとめ

  • 日本国憲法第8章は「地方自治の本旨」に基づく地方自治を保障し、団体自治と住民自治の二つの原理を基盤とする
  • 地方自治体は二元代表制を採用し、首長と議会がそれぞれ住民の直接選挙で選ばれる。首長は予算編成権を含む広範な権限を持つ
  • 戦後、地方自治法が制定されたが、機関委任事務制度と財源の中央依存(三割自治)が地方の自律性を制約した
  • 1999年の地方分権一括法により機関委任事務が廃止され、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと転換された
  • 三位一体の改革は税源移譲を実現したが、地方交付税の削減により財政力の弱い自治体への影響も生じた
  • 平成の大合併は市町村数を約半減させたが、周辺部の衰退など負の側面も顕在化している
  • 次のSection 5では、選挙制度と政党システムを検討し、ここで扱った地方政治の制度的枠組みが、実際の政治過程においてどのように機能するかを考察する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
地方自治の本旨 Principle of Local Autonomy 憲法第92条に規定される地方自治の根本原理。団体自治と住民自治の二要素から構成される
団体自治 Institutional Autonomy 国から独立した地方公共団体が自らの権限と責任で地域行政を処理すること
住民自治 Popular Autonomy 地域の行政が住民の意思に基づいて行われること
二元代表制 Dual Representative System 首長と議会の双方が住民の直接選挙で選出される地方の統治構造
機関委任事務 Agency Delegated Functions 国の事務を地方首長に委任し、首長を国の機関として処理させる制度(1999年廃止)
三割自治 30% Autonomy 地方の自主財源が歳入の約3割にとどまる状態を揶揄する表現
自治事務 Autonomous Affairs 法定受託事務以外の地方公共団体の事務。地方の判断で処理し、条例制定が可能
法定受託事務 Legally Entrusted Affairs 国が本来果たすべき役割に係る事務で、法律により地方が処理するもの
地方分権一括法 Omnibus Decentralization Act 機関委任事務を廃止し、国と地方の関係を対等・協力に転換した1999年の法律
三位一体の改革 Trinity Reform 国庫補助負担金の削減、税源移譲、地方交付税の見直しを一体的に行った2004-2006年の改革
平成の大合併 Great Heisei Mergers 1999-2010年に推進された大規模な市町村合併。3,232市町村が1,727に統合された
補完性の原理 Principle of Subsidiarity 行政事務は住民に最も身近な基礎自治体が優先的に担うべきとする原理

確認問題

Q1: 地方自治の本旨を構成する「団体自治」と「住民自治」の意味をそれぞれ説明し、両者がどのような関係にあるか論じなさい。 A1: 団体自治とは、国から独立した地方公共団体が自らの権限と責任で地域行政を処理することであり、中央政府からの不当な干渉を排除する自由主義的・制度的側面を持つ。住民自治とは、地域の行政が住民の意思に基づいて行われることであり、住民参加を通じた民主主義的側面を持つ。両者は車の両輪の関係にあり、団体自治によって確保された地方の自律性が、住民自治を通じて民主的にコントロールされることで、地方自治が実質的に機能する。団体自治なき住民自治は中央の統制下での形式的参加にとどまり、住民自治なき団体自治は地方エリートの専横に陥る危険がある。

Q2: 機関委任事務制度が地方自治に与えた影響を説明し、その廃止がなぜ「戦後地方自治制度の最大の構造改革」と評価されるのか論じなさい。 A2: 機関委任事務制度のもとでは、地方首長は国の「下部機関」として国の事務を処理し、主務大臣の包括的な指揮監督に服した。該当事務について地方議会は条例制定権を持たず、監査対象からも除外された。都道府県事務の7〜8割が機関委任事務であったことから、地方の自主性は大幅に制約されていた。この制度の廃止は、国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」へ転換するものであり、地方公共団体がすべての事務について条例を制定し、議会が審議できるようになった点で、地方自治の質的転換を意味した。

Q3: 地方自治体における二元代表制と、国政における議院内閣制の構造的な違いを説明しなさい。 A3: 二元代表制では首長と議会の双方が住民の直接選挙で選出され、それぞれ独立した民主的正統性を持つ。首長の地位は議会の信任に依存せず、予算編成権等の広範な権限を有する。一方、議院内閣制では内閣の存立が議会(衆議院)の信任に基づき、内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名される。二元代表制では首長と議会の対立(divided government的状況)が構造的に生じうるのに対し、議院内閣制では行政府と立法府の多数派の一致が原則的に確保される。なお、日本の地方自治法は、不信任決議と議会解散権を規定しており、純粋な大統領制とも異なる独自の制度設計となっている。

Q4: 三位一体の改革の三つの柱を説明し、その成果と限界を論じなさい。 A4: 三位一体の改革の三つの柱は、(1)国庫補助負担金の廃止・縮減(約4.7兆円)、(2)国から地方への税源移譲(所得税から個人住民税へ約3兆円)、(3)地方交付税の見直し(総額の抑制)である。成果としては、税源移譲により地方の自主財源が一定程度拡充され、地方の財政的自律性が向上した点が挙げられる。しかし、地方交付税の大幅削減(約5.1兆円)は財政力の弱い自治体に深刻な影響を与え、国庫補助負担金の削減においても、地方が望む改革ではなく国の財政再建の論理が優先されたとの批判がある。税源移譲額と補助金削減額の間に生じた差額は地方の負担増となり、分権改革としての実質が問われた。

Q5: 連邦制国家(→ Module 1-3 参照)と比較した場合、日本の地方自治制度にはどのような構造的特徴があるか論じなさい。 A5: 連邦制国家では、州(構成単位)が憲法上の固有権として立法権・行政権を持ち、連邦政府と州政府の権限配分が憲法で明示的に規定される。日本の地方自治制度は、憲法が「地方自治の本旨」を保障しつつも、地方公共団体の具体的な権限・組織は法律(地方自治法等)に委ねられる「制度的保障」の枠組みをとる。したがって、国会の法律改正により地方の権限を変更することが法理上可能であり、連邦制における州の固有権とは性質が異なる。また、地方税制の設計も国の法律に大きく依存しており、財政面での自律性は連邦制の構成単位と比較して限定的である。ただし、地方分権一括法以降、法定受託事務と自治事務の区分が明確化され、国と地方の対等な関係が制度的に志向されている点は、単一国家の枠内での分権化の進展として注目に値する。