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Module 2-2 - Section 2: 憲法設計——連邦制・司法審査・権力分立

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-2: 比較政治学の展開
前提セクション Section 1: 多数決型民主主義と合意型民主主義
想定学習時間 3時間

導入

Section 1では、Lijphartの二次元・10変数モデルを通じて、多数決型と合意型という民主主義の二類型を概観した。本セクションでは、その分析枠組みを前提としつつ、連邦制-単一国家次元に含まれる制度変数——とりわけ執政制度(大統領制・議院内閣制・半大統領制)、連邦制、違憲審査制——を個別に深く分析する。加えて、選挙制度の詳細な比較(混合制の諸類型)を取り上げ、最後にジョージ・ツェベリス(George Tsebelis)の拒否権プレイヤー理論を用いて、これらの制度設計を統合的に分析する枠組みを提示する。

憲法設計(constitutional design)は、民主主義制度の骨格を規定する。どのような執政制度を採るか、権力を連邦と州の間でどう配分するか、立法に対する司法の統制をどう設計するか——これらの選択は、政策の安定性、民主主義の存続、少数派の保護に重大な帰結をもたらす。本セクションは、比較政治学における制度分析の核心に位置するこれらの論点を、理論と事例の双方から検討する。


大統領制 vs 議院内閣制——Linzの「大統領制の危険」

Key Concept: 大統領制の危険(perils of presidentialism) フアン・リンス(Juan J. Linz)が1990年に提唱した議論。大統領制は二重の民主的正統性、勝者総取り、任期の硬直性という構造的特性により、民主主義の不安定化を招きやすいと主張した。安定した民主主義国家の大多数が議院内閣制であるという経験的観察を根拠とする。

Linzの三つの論点

リンス(Juan J. Linz, 1926-2013)は、1990年の論文 "The Perils of Presidentialism" において、大統領制に内在する構造的な問題を3点指摘した。

第一に、二重の民主的正統性(dual democratic legitimacy)の問題である。 大統領制では、大統領と議会がそれぞれ独立した選挙で選出されるため、双方が「国民の信任」を主張しうる。両者の間に政策上の対立が生じた場合、いずれの主張が優越するかを解決する制度的メカニズムが存在しない。議院内閣制では、内閣が議会の信任に依存するため、このような二元的対立は原理的に発生しない。

第二に、勝者総取り(winner-take-all)の構造である。 大統領選挙は本質的にゼロサムゲームである。当選者が行政権力を全面的に掌握し、敗者は完全に排除される。この構造は政治的対立を先鋭化させ、敗者が体制内での勝利の見込みを失った場合、体制外の手段(軍事クーデタなど)に訴える誘因を生じさせる。議院内閣制の連立政権形成では、選挙の敗者も連立の一角に加わりうるため、排除の程度が緩和される。

第三に、任期の硬直性(temporal rigidity)である。 大統領の任期は固定されており、政治的危機が生じた場合でも任期途中での円滑な政権交代が困難である。議院内閣制では、不信任決議と解散総選挙によって政治的膠着を打開できるが、大統領制にはこのような柔軟な安全弁が欠如している。弾劾(impeachment)は手続きが重く、通常の政策対立の解消手段としては機能しない。

Linzの経験的根拠

Linzは、長期にわたって安定した民主主義を維持している国家の圧倒的多数が議院内閣制を採用していると指摘した。大統領制で長期の民主的連続性を達成したのはアメリカ合衆国のみであり、ラテンアメリカの大統領制国家は頻繁な民主主義の崩壊を経験してきた。この経験的パターンは、大統領制に内在する制度的リスクの証左であるとLinzは論じた。

Mainwaringの「困難な組み合わせ」

Key Concept: 困難な組み合わせ(difficult combination) スコット・メインウォーリング(Scott Mainwaring)が1993年に提唱した議論。大統領制と多党制の組み合わせが民主主義の安定にとって特に有害であると主張した。多党制下の大統領は議会で安定的多数を確保できず、行政-立法間のデッドロックを招きやすい。

メインウォーリング(Scott Mainwaring, 1954-)は、Linzの議論を発展させ、大統領制そのものよりも、大統領制と多党制の組み合わせが民主主義の不安定化に寄与すると論じた(1993)。その理由は三点に要約される。

  1. 行政-立法間のデッドロック: 多党制下では大統領の所属政党が議会の過半数を確保することが困難であり、立法上の膠着が恒常化する。二大政党制下の大統領制(アメリカ型)ではこの問題は相対的に緩和される。
  2. イデオロギー的分極化: 多党制は二大政党制よりもイデオロギー的分極化を招きやすく、これが大統領と議会の対立を深刻化させる。
  3. 連合形成の困難: 議院内閣制における連立と異なり、大統領制下での政党間連合は拘束力が弱い。連立参加政党の閣僚が大統領に解任されても連立離脱の義務はなく、逆に、連立を維持するための組織的インセンティブも乏しい。

Mainwaringの分析時点(1993年)では、大統領制と多党制の組み合わせで25年以上安定した民主主義を維持した事例はチリ(1933-1973)のみであった。ただし、Mainwaring自身が後に認めたように、その後の30年間でブラジルやその他のラテンアメリカ諸国が大統領制と多党制の下で民主主義を維持しており、当初の悲観論は修正を要する状況にある。

大統領制の利点に関する反論

Linz-Mainwaring的な「大統領制の危険」テーゼに対しては、以下の反論がある。

  • 直接的な民主的正統性: 大統領は国民の直接選挙で選出されるため、行政府の長の正統性が明確である
  • アカウンタビリティの明確さ: 有権者は行政の責任者を直接選出・評価でき、責任帰属が明瞭である
  • 政策の安定性: 固定任期は政権の予測可能性を高め、短期的な政治変動から政策の継続性を保護しうる
  • マシュー・シュガート(Matthew Shugart)とジョン・ケアリー(John Carey)は Presidents and Assemblies(1992)において、大統領制の制度設計にも多様性があり、大統領の立法権限や議会の権限構造次第で帰結は大きく異なると論じた

半大統領制——フランス第五共和政を中心に

Key Concept: 半大統領制(semi-presidentialism) モーリス・デュヴェルジェ(Maurice Duverger)が概念化した政治体制。(1) 国民の直接選挙で選出された大統領が存在し、(2) 大統領が相当の権限を有し、(3) 首相および内閣が議会の信任に依存する、という三要件を満たす体制。大統領制と議院内閣制の要素を併せ持つ。

Duvergerの概念規定

デュヴェルジェ(Maurice Duverger, 1917-2014)は、1978年の著作 Échec au roi において、フランス第五共和政の政治体制を分析する過程で「半大統領制」の概念を提唱した。大統領制でも議院内閣制でもない第三の類型として、国民直選の大統領が実質的権限を持ちながら、同時に首相と内閣が議会の信任に依存するという制度的特徴を持つ体制を定式化した。

フランス第五共和政の制度構造

1958年にシャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle)の下で制定されたフランス第五共和政憲法は、半大統領制の原型(archetype)とされる。その制度構造は以下のとおりである。

  • 大統領: 国民の直接選挙(1962年の憲法改正以降)で選出される。国民議会の解散権、首相の任命権、外交・防衛における主導権、条約批准権を有する。任期は5年(2000年の改正以前は7年)
  • 首相・内閣: 大統領が任命するが、国民議会の信任に依存する。議会は不信任決議によって首相を退陣させうる
  • 二元的行政: 大統領と首相が行政権を分有する。政策領域によって両者の主導権が異なり、外交・防衛は大統領の「留保領域」(domaine réservé)、内政は首相の管轄とされることが多い

コアビタシオン

半大統領制に固有の現象として、コアビタシオン(cohabitation, 保革共存)がある。これは、大統領と議会多数派の政治的立場が異なる場合に、大統領が対立陣営から首相を任命せざるをえない状態を指す。フランスでは1986-1988年(ミッテラン大統領/シラク首相)、1993-1995年(ミッテラン大統領/バラデュール首相)、1997-2002年(シラク大統領/ジョスパン首相)の三度にわたりコアビタシオンが生じた。

コアビタシオン下では、権力の重心が大統領から首相に移動し、体制は議院内閣制に近い運用となる。大統領の多数派と議会多数派が一致している「通常期」には、大統領が事実上の最高権力者として機能し、首相は大統領の政策を実行する役割を担う。この権力構造の変動性は、半大統領制の本質的特徴である。2000年の大統領任期短縮(7年→5年)と大統領選挙と国民議会選挙の同時化により、コアビタシオンの発生確率は低下した。

半大統領制の多様性

半大統領制と分類される国家は多数存在するが、その実態は大きく異なる。ロバート・エルジー(Robert Elgie)は、半大統領制を二つの下位類型に区分した。

  • 大統領優位型(president-parliamentarism): 大統領が首相を罷免しうる。ワイマール共和国、ロシア連邦が該当する。大統領と議会の双方が首相に対する解任権を持つため、首相の立場は不安定である
  • 首相・大統領型(premier-presidentialism): 首相の解任は議会のみが行いうる。フランス、ポルトガル、フィンランドが該当する。こちらのほうが民主主義の安定性が高いとされる
graph TB
    subgraph 大統領制["大統領制(presidentialism)"]
        P1["大統領 = 国家元首 + 行政府の長"]
        P2["議会"]
        P1 --- |"相互独立<br/>固定任期"| P2
    end

    subgraph 議院内閣制["議院内閣制(parliamentarism)"]
        PM1["国家元首<br/>(君主/大統領)"]
        PM2["首相・内閣"]
        PM3["議会"]
        PM1 -.- |"儀礼的"| PM2
        PM3 --> |"信任・不信任"| PM2
        PM2 --> |"解散権"| PM3
    end

    subgraph 半大統領制["半大統領制(semi-presidentialism)"]
        SP1["大統領<br/>(国民直選)"]
        SP2["首相・内閣"]
        SP3["議会"]
        SP1 --> |"任命"| SP2
        SP3 --> |"信任・不信任"| SP2
        SP1 --> |"解散権"| SP3
    end

連邦制 vs 単一国家——類型と理論

Key Concept: 連邦制(federalism) 中央政府と構成単位(州・カントン等)の間で統治権限が憲法上配分され、いずれの政府層も他方によって一方的に廃止されえない政治体制。ウィリアム・ライカー(William Riker)は、連邦制の成立を軍事的脅威や拡張的利益に応じた「連邦の取引」(federal bargain)として説明した。

Rikerの連邦制理論

ライカー(William H. Riker, 1920-1993)は、Federalism: Origin, Operation, Significance(1964)において、連邦制を合理的選択の産物として分析した。Rikerの中心的命題は以下である。

連邦の取引(federal bargain): 連邦制は、(1) 外的軍事的脅威を防ぐため、または (2) 領土拡張の機会を活用するために、複数の政治単位が統合の利益と自治の維持を交換する「取引」として成立する。この取引が成功するためには、拡張を望む政治指導者(連邦制を提案する側)と、脅威への対応のために主権の一部を譲渡することを受容する構成単位の双方が存在することが必要である。

Rikerはまた、連邦制の実効性は中央政府と構成単位の間の権限配分の「条文」ではなく、政党システムによって決定されると論じた。中央集権的な政党が支配する連邦制は形式的連邦制にすぎず、構成単位の政党組織が自律性を持つ場合にのみ実質的な連邦制が機能する。

連邦制の類型

連邦制は一枚岩ではなく、複数の類型に分類される。

類型 特徴 事例
対称型連邦制 すべての構成単位が同一の権限・地位を有する アメリカ(50州は法的に同格)
非対称型連邦制 構成単位によって異なる権限・地位が付与される カナダ(ケベック州の特殊地位)、スペイン(自治州間の権限格差)
二元的連邦制 中央と州がそれぞれ独立した政策領域を持つ アメリカ(初期の理念型)
協調的連邦制 中央と州が政策領域を共有し、共同で統治する ドイツ(共同税制度、連邦参議院を通じた州政府の連邦立法への関与)
競争的連邦制 構成単位間が政策・税制等で競争する アメリカ(州間の税率・規制競争)、スイス(カントン間の租税競争)

ドイツの協調的連邦制 は比較政治学上の重要な事例である。連邦参議院(Bundesrat)は各州政府の代表によって構成され、連邦法の相当部分(とくに州の行政に影響する法律)について同意権を持つ。フリッツ・シャルプフ(Fritz Scharpf)はこの構造を「政策の膠着(Politikverflechtungsfalle)」として批判した。連邦政府と州政府が相互に拒否権を持つことで、改革に必要な合意形成が著しく困難になるという指摘である。

単一国家(unitary state) は中央政府に権力が集中する体制であるが、単一国家であっても地方分権の程度は多様である。フランスは1982年のミッテラン政権下の地方分権改革以降、レジオン(地域圏)への権限移譲を段階的に進めた。イギリスは1998年以降のデボリューション(devolution, 権限移譲)により、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに立法権を移譲しているが、これは連邦制への移行ではなく、イギリス議会が一方的に撤回しうるという意味で単一国家の枠内にとどまる(→ Section 1「ウェストミンスター・モデル」参照)。


違憲審査制と司法の政治化

Key Concept: 違憲審査制(judicial review) 裁判所が立法府の制定法や行政行為が憲法に適合するか否かを審査し、違憲と判断した場合にその効力を否定する制度。集中型(ケルゼン型)と分散型(アメリカ型)の二大類型がある。

二つのモデル

違憲審査制の制度設計は、大きく二つのモデルに分類される。

分散型(アメリカ型, diffuse/decentralized review): 1803年のマーベリー対マディソン事件(Marbury v. Madison)における合衆国最高裁判所長官ジョン・マーシャル(John Marshall)の判決を起点とする。すべての裁判所が個別の訴訟において法律の合憲性を審査しうる。審査は具体的争訟(concrete case)の中で付随的に行われ、判決の効果は原則として当該事件の当事者に限定される(ただし先例拘束性により事実上の一般的効果を持つ)。

集中型(ケルゼン型, concentrated/centralized review): ハンス・ケルゼン(Hans Kelsen, 1881-1973)が1920年のオーストリア憲法制定時に設計した制度。専門の憲法裁判所(Verfassungsgerichtshof)のみが違憲審査権を行使し、通常の裁判所はこの権限を持たない。抽象的規範統制(abstract norm control)、すなわち具体的な事件の係属なしに法律の合憲性を審査する手続きが認められる場合が多い。違憲判決は対世的効力(erga omnes)を有し、当該法律を一般的に無効とする。

特徴 分散型(アメリカ型) 集中型(ケルゼン型)
審査主体 すべての裁判所 専門の憲法裁判所のみ
審査の契機 具体的争訟の付随的審査 抽象的規範統制も可能
判決の効力 個別的(先例拘束性で拡張) 対世的(法律の一般的無効)
代表的事例 アメリカ、日本、カナダ ドイツ、フランス、韓国、イタリア
理論的根拠 マーシャルの司法権理論 ケルゼンの法秩序段階構造論

ケルゼンが集中型を構想した理由は、法的安定性の保障にある。すべての裁判所が違憲審査を行えるとすれば、同一の法律について裁判所間で合憲・違憲の判断が分かれる事態が生じ、法的確実性が損なわれる。専門の憲法裁判所に審査権限を集中させることで、憲法解釈の統一性が担保される。

司法の政治化

違憲審査制の拡大は、必然的に「司法の政治化」(judicialization of politics)を伴う。すなわち、本来は立法府や行政府が決定すべき政策問題が、裁判所の判断に委ねられる傾向が生じる。ラン・ハーシュル(Ran Hirschl)は Towards Juristocracy(2004)において、違憲審査制の世界的拡大を「法律家支配(juristocracy)」への移行として批判的に分析した。

ドイツ連邦憲法裁判所 は、集中型違憲審査の最も影響力のある事例である。基本法に基づき設立され、抽象的規範統制、具体的規範統制(通常裁判所からの移送)、憲法異議(Verfassungsbeschwerde, 個人が基本権侵害を主張して提訴する手続き)の三つの主要な審査経路を持つ。その判決は政治過程に広範な影響を及ぼしており、EU統合に関する一連の判決(マーストリヒト判決1993年、リスボン条約判決2009年など)は連邦憲法裁判所の政治的影響力の大きさを示す。

フランス憲法院(Conseil constitutionnel) は、第五共和政憲法の下で設立された特異な機関である。当初は議会の権限逸脱を統制する機関として構想されたが、1971年の「結社の自由」判決と1974年の憲法改正(60名の議員による提訴権の付与)を経て、人権保障機関としての機能を獲得した。2008年の憲法改正で導入された合憲性の優先問題(question prioritaire de constitutionnalité, QPC)は、事後的・具体的な違憲審査の道を開き、フランスの制度をケルゼン型に接近させた。


選挙制度の詳細比較——混合制を中心に

Key Concept: 混合制選挙(mixed electoral system) 小選挙区制(多数代表制)と比例代表制を組み合わせた選挙制度の総称。連用制(MMP: mixed-member proportional)と並立制(parallel system)の二大類型があり、前者は比例代表部分が小選挙区の結果を補正する連動型、後者は両部分が独立に作用する非連動型である。

選挙制度はLijphartの第4変数(選挙制度)に対応するが、Section 1で扱った比例代表制vs小選挙区制という二項対立を超えて、多くの国が両者を組み合わせた「混合制」を採用している。混合制の制度設計は多様であり、その帰結は類型によって大きく異なる。

混合制の二類型

連用制(MMP: Mixed-Member Proportional): 有権者は二票を投じる(一票は小選挙区、一票は政党名簿)。最終的な議席配分は政党得票に基づく比例配分によって決定され、小選挙区での獲得議席は比例配分からの前払いとして扱われる。小選挙区での獲得議席が比例配分を超過する場合に「超過議席(Überhangmandate)」が生じる。全体としての比例性は高い。

並立制(Parallel System / Mixed-Member Majoritarian): 有権者は二票を投じるが、小選挙区部分と比例代表部分が独立して作動し、相互に補正しない。比例代表部分は単独で比例配分を行い、小選挙区部分は別個に勝者を確定させる。全体としての比例性はMMPより低い。

三カ国の比較

特徴 ドイツ(MMP) ニュージーランド(MMP) 日本(並立制)
導入年 1949年 1996年 1994年
小選挙区/比例代表 299/299(基本定数) 72/48(2023年時点) 289/176(2024年時点)
連動性 連動(比例が全体配分を決定) 連動(比例が全体配分を決定) 非連動(各部分が独立)
超過議席 あり(2023年改革で原則廃止) あり(上限1議席) なし(制度上発生しない)
比例性 高い 高い 中程度
阻止条項 5%または小選挙区3議席 5%または小選挙区1議席 なし
有効政党数 4-6 3-5 2-4

ドイツの制度改革(2023年): 超過議席の累積による議会肥大化が長年の問題であった(2017年選挙後は709議席、2021年は736議席)。2023年の選挙法改正で超過議席は原則廃止され、比例配分による議席数が厳格に遵守されることとなった(定数630議席)。これにより、小選挙区で当選しても比例配分に枠がなければ議席を失うという「第二票カバー条項(Zweitstimmendeckung)」が導入された。

ニュージーランドのMMP導入(1996年): 1993年の国民投票でFPTP(小選挙区相対多数制)からMMPへの移行が決定された。二大政党制から多党制への移行をもたらし、少数政党の議会進出が大幅に増加した。マオリ枠(Maori electorates)の維持など独自の制度要素を持つ。

日本の並立制(1994年導入): 小選挙区比例代表並立制は、小選挙区289議席と比例代表176議席が非連動で作動する。重複立候補(小選挙区と比例名簿の同時立候補)が認められ、惜敗率(小選挙区での当選者得票に対する得票率)による比例復活当選の仕組みがある。ドイツ型MMPと比較すると比例性は低く、大政党に有利な結果をもたらす傾向がある(→ Module 1-3, Section 3「選挙制度と政党システム」参照)。

比例代表制の諸方式

混合制の比例代表部分、および純粋な比例代表制においても、議席配分方式(divisor method / quota method)によって結果が異なる。

  • ドント式(D'Hondt method): 各政党の得票を1, 2, 3...で順次除し、商の大きい順に議席を配分する。大政党にやや有利
  • サン=ラゲ式(Sainte-Laguë method): 除数を1, 3, 5, 7...とする。ドント式より小政党に有利
  • 修正サン=ラゲ式: 最初の除数を1.4とする。北欧諸国で採用。中間的な効果
  • ヘア式最大剰余法(Hare quota with largest remainder): 有効投票数を議席定数で除したヘア基数を用いて、各政党の得票を基数で除した整数部分を先に配分し、残余議席を剩余の大きい順に配分する

拒否権プレイヤー理論——制度設計の統合的分析

Key Concept: 拒否権プレイヤー(veto player) ジョージ・ツェベリス(George Tsebelis)が提唱した概念。現状(status quo)を変更するために同意が必要な個人的または集合的アクター。拒否権プレイヤーの数が多いほど、またそのイデオロギー的距離が大きいほど、政策変更は困難になる(政策安定性が高まる)。

Tsebelisの理論枠組み

ツェベリス(George Tsebelis, 1952-)は、Veto Players: How Political Institutions Work(2002)において、比較政治学における制度分析の統一的枠組みを提示した。従来の比較政治学では、大統領制vs議院内閣制、連邦制vs単一制、二院制vs一院制といった制度的二項対立を個別に分析する傾向があったが、Tsebelisはこれらを「拒否権プレイヤー」という単一の概念で統合的に把握することを提案した。

基本命題

Tsebelisの理論の核心は以下の命題に集約される。

  1. 拒否権プレイヤーの数が増加するほど、政策変更は困難になる(政策安定性が高まる)
  2. 拒否権プレイヤー間のイデオロギー的距離が大きいほど、政策変更は困難になる
  3. 拒否権プレイヤー内部の凝集性(cohesion)が高いほど、政策変更は困難になる

二種類の拒否権プレイヤー

  • 制度的拒否権プレイヤー(institutional veto players): 憲法によって創設される。大統領、上院、下院、憲法裁判所など。例えば、アメリカでは大統領、上院、下院の三者が制度的拒否権プレイヤーである
  • 党派的拒否権プレイヤー(partisan veto players): 政治過程の中で生じる。連立政権の構成政党がその典型である。ドイツの連立内閣では、連立を構成する各政党が拒否権プレイヤーとなる

各制度への適用

graph LR
    subgraph VP["拒否権プレイヤー理論の適用"]
        direction TB
        A["拒否権プレイヤーの数"]
        B["イデオロギー的距離"]
        C["内部凝集性"]
        A --> D["政策安定性"]
        B --> D
        C --> D
    end

    subgraph 制度例["制度比較"]
        E["アメリカ: 大統領+上院+下院<br/>= 制度的VP 3"]
        F["イギリス: 下院多数派のみ<br/>= 制度的VP 1"]
        G["ドイツ: 連立内閣+連邦参議院<br/>= 制度的VP 2 + 党派的VP 2-3"]
    end

    D --> E
    D --> F
    D --> G

大統領制 vs 議院内閣制: Tsebelis理論では、大統領制か議院内閣制かという分類自体は分析的に本質的ではない。重要なのは各体制が生み出す拒否権プレイヤーの数と構成である。単一政党が議会の過半数を占めるイギリス型では拒否権プレイヤーが実質的に1(内閣=与党)であり、政策変更が容易である。アメリカ型大統領制では大統領・上院・下院の三者が拒否権プレイヤーとなり、政策変更のハードルが高い。

連邦制: 強い二院制を持つ連邦制は、上院という追加的な拒否権プレイヤーを生み出す。ドイツの連邦参議院は州政府の代表で構成されるため、連邦政府と異なる党派構成を持つ場合に実質的な拒否権プレイヤーとなる。

違憲審査制: 憲法裁判所は、立法過程の最終段階における追加的な拒否権プレイヤーとして機能する。ただし、裁判所が拒否権を行使するのは「現状の変更」(新法の制定)に対してのみではなく、「違憲状態の維持」を阻止する場合もある。

選挙制度: 選挙制度は拒否権プレイヤーの数に間接的に影響する。比例代表制は多党制を促進し、連立政権を生じさせることで党派的拒否権プレイヤーを増加させる。小選挙区制は二大政党制を促進し、単独政権を可能にすることで拒否権プレイヤーを減少させる。

Tsebelis理論の意義と限界

意義: 従来の制度比較が個別の制度二項対立に依拠していたのに対し、拒否権プレイヤーという単一の概念で多様な制度設計を統合的に比較分析する枠組みを提供した。大統領制/議院内閣制、連邦制/単一制、多数決型/合意型といった分類を横断する分析が可能になる。Lijphartの枠組みとの対応で言えば、合意型民主主義とは拒否権プレイヤーが多い体制であり、多数決型とは拒否権プレイヤーが少ない体制である。

限界: 第一に、理論は政策変更の「困難さ」を予測するが、政策の「望ましさ」については規範的に中立である。政策安定性が高いことは、良い現状の維持にも悪い現状の固定にもなりうる。第二に、非公式な制度・慣行(政治文化、クライエンテリズム、軍の政治的影響力など)が拒否権プレイヤー理論の射程外にある。第三に、アジェンダ設定権(誰が政策案を提案するか)の重要性をTsebelis自身が認めつつも、理論的統合が十分でないとの批判がある。


まとめ

  • Linzの「大統領制の危険」テーゼは、二重の民主的正統性、勝者総取り、任期の硬直性という構造的問題を指摘し、Mainwaringは大統領制と多党制の組み合わせがとくに不安定であると論じた。ただし、近年のラテンアメリカの経験はこの悲観論の修正を迫っている
  • 半大統領制はDuvergerが概念化した第三の類型であり、フランス第五共和政が原型とされる。大統領優位型と首相・大統領型の下位類型があり、コアビタシオンという固有の現象を生じさせる
  • 連邦制にはRikerの「連邦の取引」理論があり、対称型/非対称型、二元的/協調的/競争的の複数の類型が識別される。ドイツの協調的連邦制はScharpfの「政策の膠着」批判を受けた重要な事例である
  • 違憲審査制は分散型(アメリカ型)と集中型(ケルゼン型)に大別される。ドイツ連邦憲法裁判所は集中型の最も影響力のある事例であり、フランス憲法院は2008年のQPC導入により事後的審査への道を開いた
  • 混合制選挙は連用制(MMP: ドイツ、ニュージーランド)と並立制(日本)に分類され、連動性の有無が比例性に大きく影響する
  • Tsebelisの拒否権プレイヤー理論は、制度的拒否権プレイヤーと党派的拒否権プレイヤーの概念を用いて、多様な制度設計を統合的に分析する枠組みを提供する。拒否権プレイヤーの数とイデオロギー的距離が政策安定性を規定するという命題は、Lijphartの多数決型/合意型の区分を理論的に基礎づける

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
大統領制の危険 perils of presidentialism Linzが指摘した大統領制の構造的問題。二重の民主的正統性、勝者総取り、任期の硬直性を内容とする
困難な組み合わせ difficult combination Mainwaringが指摘した大統領制と多党制の組み合わせの不安定性
二重の民主的正統性 dual democratic legitimacy 大統領制において大統領と議会の双方が国民の信任を主張しうる構造
半大統領制 semi-presidentialism 国民直選の大統領と議会に依存する首相が併存する政治体制。Duvergerが概念化
コアビタシオン cohabitation 半大統領制において大統領と議会多数派が異なる政治勢力に属する状態
大統領優位型 president-parliamentarism 大統領が首相を罷免しうる半大統領制の下位類型
首相・大統領型 premier-presidentialism 首相の解任が議会のみに認められる半大統領制の下位類型
連邦の取引 federal bargain Rikerによる連邦制成立の説明。軍事的脅威や拡張的利益に応じた政治単位間の取引
対称型連邦制 symmetric federalism すべての構成単位が同一の権限・地位を有する連邦制
非対称型連邦制 asymmetric federalism 構成単位によって異なる権限・地位が付与される連邦制
協調的連邦制 cooperative federalism 中央と構成単位が政策領域を共有し共同で統治する連邦制。ドイツが典型
違憲審査制 judicial review 裁判所が法律の合憲性を審査する制度。分散型(アメリカ型)と集中型(ケルゼン型)がある
抽象的規範統制 abstract norm control 具体的事件の係属なしに法律の合憲性を審査する手続き
対世的効力 erga omnes 違憲判決が当事者のみならず一般的に法律を無効とする効力
混合制選挙 mixed electoral system 小選挙区制と比例代表制を組み合わせた選挙制度の総称
連用制 mixed-member proportional (MMP) 比例代表部分が全体の議席配分を決定し、小選挙区結果を補正する混合制
並立制 parallel system 小選挙区部分と比例代表部分が独立に作動する混合制
超過議席 Überhangmandate MMPで小選挙区獲得議席が比例配分を超過した場合に生じる追加議席
拒否権プレイヤー veto player 政策の現状変更に同意が必要なアクター。Tsebelisが体系化
制度的拒否権プレイヤー institutional veto player 憲法によって創設される拒否権プレイヤー。大統領、上院、憲法裁判所など
党派的拒否権プレイヤー partisan veto player 政治過程で生じる拒否権プレイヤー。連立政権の構成政党など

確認問題

Q1: Linzの「大統領制の危険」における三つの構造的問題を説明し、Mainwaringがこの議論をどのように発展させたかを論ぜよ。

A1: Linzが指摘した構造的問題は以下の三点である。第一に、二重の民主的正統性の問題。大統領と議会がそれぞれ国民から直接選出されるため、両者の間に政策的対立が生じた場合、いずれの民主的正統性が優越するかを解決する制度的メカニズムが存在しない。第二に、勝者総取りの構造。大統領選挙はゼロサムゲームであり、敗者が政権から完全に排除される。第三に、任期の硬直性。大統領の固定任期は政治的危機の際に柔軟な政権交代を困難にする。Mainwaringはこの議論を発展させ、大統領制そのものよりも大統領制と多党制の組み合わせがとくに不安定であると論じた。多党制下では大統領の所属政党が議会過半数を確保しにくく、デッドロックが恒常化すること、多党制がイデオロギー的分極化を招きやすいこと、大統領制下では議院内閣制と異なり拘束力のある連合形成が困難であることを根拠とした。

Q2: フランス第五共和政の半大統領制において、コアビタシオンが政治体制の運用に与える影響を説明し、2000年の憲法改正がこの現象に与えた影響を論ぜよ。

A2: コアビタシオンとは、大統領と議会多数派が異なる政治勢力に属する状態であり、大統領が対立陣営から首相を任命せざるをえない状況を指す。コアビタシオン下では権力の重心が大統領から首相に移動し、体制は議院内閣制に近い運用となる。外交・防衛が大統領の管轄、内政が首相の管轄とされるが、両者の権限境界は不明確であり、政策をめぐる緊張が生じやすい。一方、大統領の多数派と議会多数派が一致する通常期には、大統領が事実上の最高権力者として機能する。この権力構造の変動性が半大統領制の本質的特徴である。2000年の憲法改正により大統領任期が7年から5年に短縮され、大統領選挙と国民議会選挙の時期が同期化された。これにより、大統領選挙で勝利した勢力がそのまま直後の議会選挙でも勝利しやすくなり、コアビタシオンの発生確率は大幅に低下した。

Q3: 違憲審査制の分散型(アメリカ型)と集中型(ケルゼン型)の制度的相違を説明し、ケルゼンが集中型を構想した理論的根拠を述べよ。

A3: 分散型では、すべての裁判所が具体的争訟において付随的に法律の合憲性を審査しうる。判決の効力は原則として当事者間に限定されるが、先例拘束性により事実上の一般的効果を持つ。集中型では、専門の憲法裁判所のみが違憲審査権を行使する。抽象的規範統制(具体的事件の係属なしに法律の合憲性を審査する手続き)が可能であり、違憲判決は対世的効力を有して法律を一般的に無効とする。ケルゼンが集中型を構想した理論的根拠は法的安定性の保障にある。すべての裁判所が違憲審査を行える分散型では、同一の法律について裁判所間で合憲・違憲の判断が分かれる事態が生じ、法秩序の統一性と予測可能性が損なわれる。審査権限を単一の専門裁判所に集中させることで、憲法解釈の統一性が担保されるというのがケルゼンの論理であった。

Q4: Tsebelisの拒否権プレイヤー理論を用いて、イギリスの議院内閣制とアメリカの大統領制における政策変更の容易さの違いを説明せよ。さらに、この理論とLijphartの多数決型/合意型の区分との関係を論ぜよ。

A4: Tsebelisの理論によれば、政策変更の困難さは拒否権プレイヤーの数とそのイデオロギー的距離によって規定される。イギリスの議院内閣制では、小選挙区制と強い党紀の下で、内閣=与党が実質的に唯一の拒否権プレイヤーとなる。上院は遅延権限のみを持ち、実質的な拒否権プレイヤーではない。したがって政策変更は容易である。アメリカの大統領制では、大統領、上院、下院の三者がそれぞれ制度的拒否権プレイヤーとなる。法案の成立には三者の同意が必要であり(大統領の拒否権には議会の3分の2の再可決で対抗しうるが)、さらに上院のフィリバスター慣行が実質的な60票ルールを生み出している。このため政策変更のハードルは高い。Lijphartの枠組みとの関係で言えば、多数決型民主主義は拒否権プレイヤーが少ない体制に、合意型民主主義は拒否権プレイヤーが多い体制に対応する。Tsebelis理論はLijphartの類型論を拒否権プレイヤーという分析概念によって理論的に基礎づけ、かつ大統領制/議院内閣制、連邦制/単一制といった個別の制度二項対立を横断する統合的な分析を可能にしている。

Q5: ドイツの連用制(MMP)と日本の並立制の制度的相違を説明し、それぞれの制度が政党制に与える影響の違いを論ぜよ。

A5: ドイツのMMPでは、有権者の第二票(政党票)に基づく比例配分が最終的な議席数を決定し、小選挙区での獲得議席は比例配分の前払いとして扱われる。すなわち、全体の議席配分は比例代表の論理で決定されるため、比例性が高い。日本の並立制では、小選挙区289議席と比例代表176議席が相互に独立して作動し、補正が行われない。このため、小選挙区部分で大政党が不比例的に多くの議席を獲得する効果がそのまま反映され、全体の比例性はMMPより低くなる。政党制への影響として、ドイツのMMPは多党制を維持し(有効政党数4-6)、連立政権が常態化する。5%阻止条項が極小政党を排除しつつも、中規模政党の議会進出を可能にする。日本の並立制は二大政党化の圧力を生じさせるが(小選挙区部分の効果)、比例代表部分が中小政党の議席獲得を保障するため、純粋な二大政党制には収斂せず、有効政党数2-4程度の「穏やかな多党制」をもたらす傾向がある。