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Module 2-3 - Section 1: 安全保障論——抑止理論と戦争の原因

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-3: 国際政治学の展開
前提セクション なし(Module 1-4 Section 3「安全保障の基礎概念」の理解を前提とする)
想定学習時間 3時間

導入

Module 1-4 Section 3「安全保障の基礎概念」では、安全保障のジレンマ、抑止の基本論理(能力・信憑性・通信の三条件)、相互確証破壊(MAD)の概念、脅威均衡論、同盟のジレンマといった基礎的分析枠組みを検討した。本セクションでは、これらの基礎概念を踏まえた上で、安全保障論の理論的深化——核抑止戦略の歴史的展開、拡大抑止のコミットメント問題、同盟理論の発展的議論——を扱い、さらに戦争の原因に関する合理主義的説明(Fearonのバーゲニング・モデル)および国内政治要因(民主的平和論、観衆費用)を検討する。

本セクションの分析対象は「古典的安全保障(traditional security)」——国家間の軍事的脅威と武力紛争——である。テロリズム、サイバーセキュリティ、人間の安全保障といった非伝統的安全保障の諸問題は、次セクション(→ Module 2-3, Section 2「非伝統的安全保障と平和構築」参照)で扱う。


核抑止理論の展開——核戦略の歴史的進化

Module 1-4 Section 3では、抑止の三条件(能力・信憑性・通信)とMADの基本論理を検討した。ここでは、冷戦期を通じて核戦略がいかに変遷したかを、ドクトリンの展開として検討する。

大量報復戦略から柔軟反応戦略へ

Key Concept: 大量報復戦略(Massive Retaliation) 1954年にアメリカ国務長官ジョン・フォスター・ダレスが宣言した核戦略ドクトリン。ソ連によるいかなる侵略行為に対しても、「我々自身が選択する場所と手段で」——すなわち核兵器による全面的報復で——対応するという方針。通常戦力での対抗コストを回避する経済的合理性に基づいたが、信憑性に根本的な問題を抱えていた。

アイゼンハワー政権期(1953-1961年)のアメリカは、大量報復戦略(massive retaliation)を公式ドクトリンとして採用した。ジョン・フォスター・ダレス(John Foster Dulles, 1888-1959)国務長官は1954年1月の演説において、ソ連の侵略に対して「我々自身が選択する場所と手段で(at places and with means of our own choosing)」報復すると宣言した。この戦略の背景には、朝鮮戦争(1950-1953年)の経験から、通常戦力でソ連圏に対抗することの財政的・人的コストの大きさが認識されたことがある。核報復の脅威によって通常戦力を代替する——いわゆる「より多くの見返りをより少ないコストで(more bang for the buck)」——という発想である。

しかし、大量報復戦略には致命的な信憑性の問題があった。ソ連が西ベルリンへの限定的圧力をかけた場合、アメリカは本当にモスクワへの全面核攻撃で応じるのか。核報復の脅威が全面戦争にしか対応しないとすれば、それ以下の挑発に対しては事実上無力となる。この問題を「限定的挑発に対する全面的報復の不均衡」と表現できる。加えて、1950年代後半にソ連がICBM(大陸間弾道ミサイル)能力を獲得するにつれ、アメリカ本土への核報復リスクが現実化し、大量報復の信憑性はさらに低下した。

Key Concept: 柔軟反応戦略(Flexible Response) ケネディ政権期に採用され、1967年にNATOの公式ドクトリンとなった核戦略。侵略の規模と性質に応じて通常戦力から戦術核、戦略核までの段階的対応を可能にすることで、大量報復戦略の信憑性問題に対処しようとした。抑止の「はしご」を複数段に分けたエスカレーション管理の発想に基づく。

ケネディ政権(1961-1963年)のもとで、国防長官ロバート・マクナマラ(Robert McNamara, 1916-2009)は柔軟反応戦略(flexible response)への転換を主導した。この戦略は、侵略の規模に応じて通常戦力による対応、戦術核の限定使用、戦略核による全面報復という複数の段階的選択肢を保持することで、あらゆるレベルの脅威に対応可能にするものである。1967年にはNATOの公式戦略として採択された(MC 14/3)。

柔軟反応戦略は、抑止の信憑性を回復させる試みであった。限定的な侵略に対しても比例的な対応が可能であれば、「報復しない」という選択を相手に推測させる余地が小さくなる。しかし、この戦略にも問題は残った。通常戦力の増強はNATO同盟国に追加の財政負担を課し、また「限定核戦争」が本当に制御可能かという根本的疑問が存在した。

対兵力戦略と対価値戦略

核戦略の議論において重要な区別が、対兵力戦略(counterforce)対価値戦略(countervalue)の区別である。

Key Concept: 対兵力戦略/対価値戦略(Counterforce / Countervalue) 対兵力戦略は敵の軍事施設——ミサイルサイロ、爆撃機基地、指揮統制施設——を標的とする核戦略であり、対価値戦略は敵の都市・産業基盤・人口集中地域を標的とする核戦略である。MADの論理は本質的に対価値的報復能力の保持に基づく。

対兵力戦略は、敵の核戦力を先制攻撃によって無力化し、残存戦力による報復を限定しようとする攻撃的戦略としても、また限定核戦争において軍事目標のみを攻撃することでエスカレーションを管理しようとする戦略としても構想された。マクナマラは1960年代初頭に対兵力オプションを検討したが(「ノー・シティーズ・ドクトリン(no-cities doctrine)」)、相手側が対価値攻撃に転じるリスクを制御できないとして、最終的にはMAD——対価値報復能力の確保による相互抑止——を戦略の中核に据えた。

この対兵力/対価値の区分は、第一撃能力(first-strike capability)第二撃能力(second-strike capability)の概念(→ Module 1-4, Section 3「安全保障の基礎概念」参照)と密接に関連する。対兵力先制攻撃によって相手の第二撃能力を破壊できれば、MADの論理は崩壊する。したがって、戦略的安定性は双方の第二撃能力が確保されている状態——すなわち、先制攻撃を行っても相手の報復能力を完全に除去できない状態——において成立する。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が戦略的安定性の基盤とみなされたのは、海中に潜伏するSLBM搭載潜水艦が対兵力先制攻撃に対して高い残存性を持つためである。

graph TD
    subgraph 核戦略ドクトリンの展開
        MR["大量報復戦略(1954年〜)<br/>Massive Retaliation"] -->|"信憑性の問題"| FR["柔軟反応戦略(1961年〜)<br/>Flexible Response"]
        FR -->|"限定核戦争の<br/>制御可能性問題"| MAD["相互確証破壊<br/>MAD"]
    end
    subgraph 標的選択の論理
        CF["対兵力戦略<br/>Counterforce"] ---|"対立する論理"| CV["対価値戦略<br/>Countervalue"]
        CF -->|"先制攻撃で<br/>相手戦力を無力化"| FS["第一撃能力の追求"]
        CV -->|"報復能力の確保"| SS["第二撃能力の確保"]
    end
    MAD --> CV
    SS -->|"戦略的安定性の基盤"| STAB["戦略的安定性<br/>Strategic Stability"]
    FS -->|"安定性を損なう"| STAB

    style MR fill:#fadbd8,stroke:#333
    style FR fill:#fdebd0,stroke:#333
    style MAD fill:#d5f5e3,stroke:#333
    style CF fill:#d4e6f1,stroke:#333
    style CV fill:#d4e6f1,stroke:#333
    style STAB fill:#d5f5e3,stroke:#333

1972年の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約は、この戦略的安定性の論理を制度化したものである。防御システム(ABM)の配備を厳しく制限することで、双方の第二撃能力を「脆弱なまま」に維持し、先制攻撃のインセンティブを除去した。「防御が安定を損なう」という逆説的論理は、MADの核心的洞察である。


拡大抑止とコミットメント問題

拡大抑止の信憑性問題

Key Concept: 拡大抑止(Extended Deterrence) 核保有国が同盟国に対する攻撃を自国の核報復で抑止すること。「核の傘(nuclear umbrella)」の提供とも称される。自国領土への直接攻撃に対する抑止(中心的抑止)と異なり、「第三者のために核戦争のリスクを負うか」という信憑性の根本問題を内包する。

Module 1-4 Section 3で言及した拡大抑止の問題を、ここでより詳細に検討する。拡大抑止(extended deterrence)とは、核保有国が自国ではなく同盟国への攻撃に対して核報復の脅威を提示することにより、同盟国の安全を保障する戦略的取り組みである。冷戦期のアメリカによる西欧・日本・韓国への「核の傘」の提供がその代表例である。

拡大抑止の根本的な問題は、シェリング(→ Module 1-4, Section 3参照)が鋭く指摘した信憑性の問題のより深刻な形態として現れる。自国領土への攻撃に対する核報復(中心的抑止(central deterrence))では、報復の動機は生存に直結するため信憑性が比較的高い。しかし、拡大抑止では「パリのためにニューヨークを犠牲にするか」という問いが突きつけられる。シャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle, 1890-1970)がフランスの独自核武装を推進した根拠の一つが、まさにこの信憑性への疑念であった。ド・ゴールは「アメリカはヨーロッパのためにアメリカの都市を犠牲にはしない」と判断し、フランス独自の核抑止力(force de frappe)を構築した。

シェリングの「偶然に委ねる脅威」

シェリングは『軍備と影響力(Arms and Influence)』(1966年)において、拡大抑止の信憑性問題に対する理論的解答として「偶然に委ねる脅威(the threat that leaves something to chance)」の概念を提示した。シェリング自身の表現では、核報復の脅威には「私がやるかもしれないし、やらないかもしれない——私自身にもまったく確かではない」という要素が含まれるべきだとされる。

この論理は以下のように展開される。核危機が発生した場合、意図的な核使用の決定は信憑性が低い。しかし、危機が深刻化すれば偶発的なエスカレーション——誤認、通信途絶、現場指揮官の独断的行動——のリスクが不可避的に増大する。したがって、指導者は核使用を「決断」する必要はない。危機のエスカレーションを通じて「制御不能な事態が生じるリスク」を相手に認識させればよい。これがシェリングの言う瀬戸際政策(brinkmanship)の本質である。瀬戸際政策とは、崖の端に向かって意図的に歩みを進めることで、双方が崖から転落する(全面核戦争に至る)リスクを操作する行為である。合理的な指導者が意図的に核戦争を開始することは信じがたいが、危機状況で事態が制御不能になることは十分にありうる——この不確実性そのものが抑止の源泉となる。

NATOにおける拡大抑止の実践

冷戦期のNATOは、拡大抑止の信憑性を高めるために複数の方策を採用した。

第一に、前方展開(forward deployment)——西ドイツを含むNATO前線地域にアメリカ軍を駐留させること——である。これは、ソ連の侵攻がアメリカ軍に直接的損害を与えることを確実にすることで、アメリカの参戦を自動的に引き起こす「仕掛線(tripwire)」として機能した。アメリカ軍が直接攻撃されれば、アメリカ政府は国内世論から報復を求められ、「見捨てる」選択が政治的に困難になる。

第二に、核共有(nuclear sharing)——NATO同盟国にアメリカの戦術核兵器を配備し、有事にはその使用に同盟国の航空機が参加する取り決め——である。これにより、核使用の決定がアメリカ単独ではなく同盟全体の問題となり、コミットメントの共有が図られた。

第三に、柔軟反応戦略の下でのエスカレーション・ラダー(escalation ladder)の構築である。ハーマン・カーン(Herman Kahn, 1922-1983)は著書『エスカレーションについて(On Escalation)』(1965年)において、紛争のエスカレーションを44段階に分類し、核戦争に至るまでの段階的プロセスを体系化した。この枠組みは、通常戦力の段階から戦術核、戦域核、戦略核へと段階的にエスカレートする過程において、各段階で相手に「次の段階に進むコスト」を認識させ、紛争の拡大を抑制する論理を提供した。


同盟の理論——発展的議論

連鎖巻き込まれと責任転嫁

Module 1-4 Section 3ではスナイダーの同盟のジレンマ(巻き込まれと見捨てられのトレードオフ)を検討した。トマス・クリステンセン(Thomas J. Christensen)とジャック・スナイダー(Jack Snyder)は、1990年の共著論文「Chain Gangs and Passed Bucks: Predicting Alliance Patterns in Multipolarity」(『International Organization』誌)において、この問題を多極システムにおける同盟パターンの予測理論へと発展させた。

Key Concept: 連鎖巻き込まれ/責任転嫁(Chain-ganging / Buck-passing) 多極システムにおける二つの対照的な同盟行動パターン。連鎖巻き込まれとは、攻撃優位の認識の下で同盟国を無条件に支持し連鎖的に紛争に引きずり込まれる行動であり、責任転嫁とは、防御優位の認識の下で安全保障の負担を他国に押し付け自らは関与を回避する行動である。

クリステンセンとスナイダーは、ウォルツの多極システム理論とジャーヴィスの攻撃・防御均衡理論(→ Module 1-4, Section 3参照)を統合し、多極システムにおいて国家が連鎖巻き込まれと責任転嫁のどちらの行動をとるかを、攻撃・防御均衡の認識によって予測できると論じた。

連鎖巻き込まれ(chain-ganging): 攻撃が優位であると認識される場合に生じる。攻撃優位の下では、同盟国が敗北すれば自国の安全が直接脅かされるため、同盟国を見捨てるコストが極めて高い。その結果、国家は同盟のコミットメントを強化し、同盟国の紛争に無条件に引きずり込まれる。第一次世界大戦前のヨーロッパにおける同盟の連鎖——ドイツのオーストリア=ハンガリーへの白紙委任状、ロシアのセルビア支持、フランスのロシアとの軍事同盟——が典型例である。一国の紛争が同盟の連鎖を通じて大陸規模の戦争に拡大した。

責任転嫁(buck-passing): 防御が優位であると認識される場合に生じる。防御優位の下では、自国が直接攻撃されても防衛可能であるとの認識から、他国の安全保障にコストを払うインセンティブが低下する。脅威への対処を他の国家に委ねようとする行動が生じる。1930年代のヨーロッパにおけるイギリスとフランスの宥和政策——ナチス・ドイツの台頭に対して相互に対処の責任を押し付け合い、効果的な対抗同盟の形成が遅れた——がその事例である。

行動パターン 攻撃・防御認識 メカニズム 歴史的事例 リスク
連鎖巻き込まれ 攻撃優位 同盟国の敗北が自国の安全を直接脅かすため無条件支持 1914年の同盟連鎖 不要な戦争への拡大
責任転嫁 防御優位 自力防衛可能との認識から他国に負担を転嫁 1930年代の宥和政策 脅威への対処遅延

ウォルトの脅威均衡論の発展——同盟の持続と変容

ウォルト(→ Module 1-4, Section 3参照)の脅威均衡論は同盟形成の論理を説明したが、同盟の持続と変容についても重要な含意を持つ。脅威の認識が変化すれば、同盟の存在理由も変化する。冷戦の終結によりソ連という共通脅威が消滅した後、NATOが存続・拡大を続けたことは、脅威均衡論の単純な適用では説明が困難であり、制度主義的説明(→ Module 2-3, Section 4「国際制度・国際法・グローバルガバナンス」参照)やコンストラクティヴィズム的説明(共有されたアイデンティティの持続)の補完が必要となる。


戦争の合理主義的説明——Fearonのバーゲニング・モデル

戦争のパズルとバーゲニング空間

Key Concept: バーゲニング・モデル(Bargaining Model of War) ジェームズ・フィアロンが1995年の論文で体系化した、戦争の原因に関する合理主義的理論枠組み。戦争はコストを伴うため、合理的な国家間には双方が戦争よりも選好する交渉解が存在するはずであるにもかかわらず、なぜ戦争が生じるのかを問う。私的情報、コミットメント問題、不可分財の三つのメカニズムを特定した。

ジェームズ・フィアロン(James D. Fearon)は、1995年の論文「Rationalist Explanations for War」(『International Organization』誌)において、戦争の原因に関する従来の合理主義的議論を批判的に検討し、バーゲニング・モデルとして体系化した。この論文は国際政治学における戦争研究の方向性を決定的に転換させた業績である。

フィアロンの出発点は「戦争のパズル」にある。戦争はすべての当事者にコスト(人命の喪失、経済的破壊、政治的リスク等)を課す。したがって、合理的な国家間には、戦争の結果とほぼ同等の利益配分を実現しつつ戦争のコストを回避する交渉解(negotiated settlement)が原理的に存在するはずである。にもかかわらず戦争が生じるのはなぜか——これが合理主義に対する根本的な問い(puzzle)である。

graph LR
    A["国家Aの<br/>最善の結果"] --- B["バーゲニング空間<br/>(双方が戦争より選好する交渉解の範囲)"]
    B --- C["国家Bの<br/>最善の結果"]
    D["戦争のコスト"] -->|"コストを差し引くと<br/>交渉解の方が有利"| B
    style B fill:#d5f5e3,stroke:#333
    style D fill:#fadbd8,stroke:#333

フィアロンは、合理主義的枠組みの中で戦争を説明しうるメカニズムとして三つを特定した。

私的情報と虚偽表示のインセンティブ

第一のメカニズムは、私的情報(private information)虚偽表示のインセンティブ(incentives to misrepresent)の組み合わせである。

国家は自国の軍事能力、戦闘への意志(resolve)、コスト許容度について、相手には入手不可能な私的情報を持つ。合理的な交渉解を見出すためには、互いの能力と意志に関する正確な情報が必要であるが、各国家には自国の能力と意志を実際より大きく見せかけるインセンティブがある。そうすることで、交渉において自国に有利な分配を引き出せるからである。

たとえば、国家Aが自国の軍事力の弱さを正直に開示すれば、国家Bはより多くの譲歩を要求する。したがって、弱い国家ほど強さを装うインセンティブが強い。しかし、すべての国家がこうした虚偽表示のインセンティブを持つことが共有知識であるため、相手の主張は額面通りには受け取られず、情報の非対称性は交渉によって容易に解消されない。相互不信の下で双方が自国の立場を過大に主張する結果、交渉が決裂し戦争に至る。

コミットメント問題

第二のメカニズムは、コミットメント問題(commitment problem)である。

Key Concept: コミットメント問題(Commitment Problem) 合意内容を将来にわたって遵守することを当事者が信頼できる形で約束できない状況。国際政治においては、合意を強制する上位権威(世界政府)が存在しないため構造的に生じる。たとえ現時点で双方が受容可能な合意が存在しても、将来の力関係の変化により一方がその合意を覆すと予想される場合、予防戦争のインセンティブが生じる。

コミットメント問題は、交渉解が原理的に存在する場合であっても、合意を将来にわたって遵守する保証がない場合に戦争が合理的となるメカニズムである。典型的なシナリオは以下の通りである。

国家Bの国力が急速に成長しており、将来的に国家Aよりも優位に立つと予測される場合を考える。現時点では国家Aに有利な合意が可能であるが、将来的に力関係が逆転すれば、国家Bはその合意を覆して自国に有利な条件を要求するであろう。国家Bが「将来も現在の合意を遵守する」と約束しても、その約束を強制する上位権威がアナーキーな国際システムには存在しない。したがって、国家Aにとっては、国家Bがまだ相対的に弱い現時点で戦争に訴える——すなわち予防戦争(preventive war)を遂行する——ことが合理的となりうる。

フィアロンは、ツキディデス(Thucydides)がペロポネソス戦争(BC 431-404年)の原因として記述した「アテネの国力の成長と、それがスパルタに引き起こした恐怖」が、まさにコミットメント問題の古典的表現であると指摘した。この文脈はしばしばツキディデスの罠(Thucydides's trap)と呼ばれ、現代の米中関係の分析にも援用されている。

不可分財

第三のメカニズムは、不可分財(issue indivisibility)である。係争対象が物理的または象徴的に分割不可能であれば、双方が受容する妥協点が存在せず、戦争が唯一の解決手段となりうる。たとえば、エルサレムの統治権のように宗教的・象徴的に分割が困難な問題が典型例とされる。

ただし、フィアロン自身はこのメカニズムに対して懐疑的であった。理論的には、不可分な財であっても、金銭的補償や他の争点とのリンケージ(issue linkage)によって実質的な分割が可能であることが多いためである。現実に「真に不可分な争点」が存在するかは経験的に議論が分かれる。

バーゲニング・モデルの意義と限界

フィアロンのバーゲニング・モデルは、戦争研究に以下の貢献をもたらした。第一に、「なぜ戦争が起きるか」という問いを「なぜ交渉が失敗するか」という問いに再定式化することで、分析の焦点を明確化した。第二に、アナーキーや勢力均衡といったシステムレベルの変数だけでは戦争の発生を十分に説明できず、情報の問題やコミットメントの問題といった戦略的相互作用のミクロ的メカニズムが不可欠であることを示した。

一方、バーゲニング・モデルへの批判として、合理性の前提が非合理的な動機(ナショナリズム的熱狂、イデオロギー的対立、復讐心等)による戦争を捨象すること、また国家を単一の合理的行為者として扱い国内政治過程を十分に組み込んでいないことが指摘される。後者の批判に関連するのが、次に検討する戦争の国内政治要因である。


戦争の国内政治要因

民主的平和論の精緻化

Key Concept: 民主的平和論(Democratic Peace Theory) 民主主義国家同士は互いに戦争をしない(ないし戦争の蓋然性が極めて低い)という経験的命題と、それを説明する理論群の総称。イマヌエル・カントの『永遠平和のために』(1795年)に知的起源を持ち、マイケル・ドイルの1983年の論文で現代的に定式化された。説明のメカニズムについて規範的説明と制度的説明の二つの系統がある。

民主的平和論(democratic peace theory)は、国際政治学において最も広範な経験的支持を受けている命題の一つである。マイケル・ドイル(Michael Doyle)が1983年の論文「Kant, Liberal Legacies, and Foreign Affairs」で体系的に提示して以来、その妥当性と因果メカニズムをめぐる精緻化が進められてきた。

民主的平和論の説明メカニズムには、主として二つの系統がある。

規範的説明(normative explanation): 民主主義国家は国内政治において紛争を平和的に解決する規範——交渉、妥協、法の支配——を内面化しており、これが対外関係にも外延化(externalize)される。民主主義国家同士は相手もこの規範を共有していると認識するため、紛争の平和的解決に対する相互の信頼が成立する。しかし、非民主主義国家に対してはこの信頼が成立しないため、民主主義国家は非民主主義国家との間では戦争を回避しない——これが「民主主義国家同士は戦わないが、民主主義国家と非民主主義国家の間では戦争が起きうる(dyadic peace)」という観察を説明する。

制度的説明(institutional explanation): 民主主義国家では、戦争の決定に際して議会の承認、世論の支持、メディアの監視など複数の制度的制約(institutional constraints)が存在する。これらの制約は戦争決定のプロセスを遅延させ、指導者に戦争回避のインセンティブを与える。また、民主的な意思決定過程の透明性は、相手国に対する情報の開示(シグナリング)を促進し、フィアロンのバーゲニング・モデルにおける私的情報の問題を緩和する。

観衆費用理論

Key Concept: 観衆費用(Audience Costs) 国際危機において、指導者が公に発した脅威や約束を履行せずに引き下がった場合に、国内の有権者・世論(「観衆」)から受ける政治的ペナルティ(支持率低下、次回選挙での敗北等)。フィアロンが1994年の論文で定式化した概念であり、民主主義国家の指導者はより高い観衆費用に直面するため、その脅威がより信憑性を持つと論じた。

ジェームズ・フィアロン(James D. Fearon)は、1994年の論文「Domestic Political Audiences and the Escalation of International Disputes」(『American Political Science Review』誌)において、観衆費用(audience costs)の概念を提示した。

国際危機において指導者が公に脅威を発した後、それを実行せずに引き下がると、国内の「観衆」(有権者、議会、メディア等)から「弱腰」「無能」との批判を受け、政治的コスト(支持率の低下、選挙での敗北等)を被る。民主主義国家の指導者は、選挙による政治的説明責任を負うため、権威主義国家の指導者よりも高い観衆費用に直面する。したがって、民主主義国家の指導者が公に脅威を発する場合、その脅威は「引き下がれば政治的に高くつく」ことを意味し、より信憑性が高いシグナルとなる。

ケネス・シュルツ(Kenneth A. Schultz)は、観衆費用の概念をさらに発展させ、民主主義国家における野党の役割に注目した。シュルツの議論では、民主主義国家の野党は政府の危機対応を国内政治の場で批判する能力を持ち、政府が不当な戦争を遂行しようとする場合には反対を表明する。逆に、野党が政府の危機対応を支持する場合、それは超党派的に「この脅威は真剣である」というシグナルを相手国に送ることになる。こうした民主的政治過程の透明性が、情報の非対称性を緩和し、危機交渉を成功させる可能性を高めるとされる。

観衆費用理論に対する批判も存在する。ジェシカ・ウィークス(Jessica L. Weeks)は、特定の類型の権威主義体制(特に軍事政権や一党支配体制)においても、国内エリートが指導者に対して事実上の説明責任を要求しうることを示し、観衆費用が民主主義に固有の現象であるという前提に疑問を呈した。また、マイケル・トムズ(Michael Tomz)とウィークスの共同研究(2013年)は、サーベイ実験を用いて一般市民が民主主義国家に対する軍事行動をより忌避する傾向を確認し、民主的平和の因果メカニズムに対する市民レベルの証拠を提示した。

軍産複合体と官僚政治

Key Concept: 軍産複合体(Military-Industrial Complex) 軍部、軍需産業、議会の軍事関連委員会の間に形成される利害の共同体。1961年のアイゼンハワー大統領の退任演説で警告された概念であり、軍備拡張と好戦的政策を推進する国内政治的圧力として機能しうる。

ドワイト・D・アイゼンハワー(Dwight D. Eisenhower, 1890-1969)大統領は、1961年の退任演説において「軍産複合体(military-industrial complex)」の不当な影響力の増大に対して警告を発した。軍部は組織的利益として予算の拡大と任務の正当化を追求し、軍需産業は兵器の生産・販売による利潤を追求する。これらが議会の軍事関連委員会のメンバー(選挙区に軍事基地や軍需工場を持つ議員)と結びつくことで、軍備拡張と対外介入を志向する政治的連合が形成される。

この議論は、戦争の原因を国際システムの構造ではなく国内政治構造に求めるアプローチの一類型である。グレアム・アリソン(Graham T. Allison)の『決定の本質(Essence of Decision)』(1971年)は、キューバ・ミサイル危機(1962年)の分析を通じて、外交政策の決定が合理的行為者モデル(Model I)だけでなく、組織過程モデル(Model II)——官僚組織がそれぞれの標準作業手順(SOP)に従って行動する——や官僚政治モデル(Model III)——異なる立場にある政策担当者間の政治的駆け引きの帰結として政策が決まる——によっても説明されることを示した。

アリソンの分析は、「国家」を単一の合理的行為者として扱う前提に対する有力な批判であり、フィアロンのバーゲニング・モデルが前提とする合理性がいかに国内の組織的・政治的要因によって歪められうるかを示すものとして理論的に重要である。


古典的安全保障の総括と非伝統的安全保障への接続

本セクションで検討した理論群は、いずれも国家間の軍事的脅威と武力紛争を分析対象とする「古典的安全保障」のパラダイムに属する。このパラダイムの特徴は以下のように要約される。

第一に、安全保障の主体(referent object)が国家である。安全保障のジレンマ、抑止理論、同盟理論のいずれも、国家の存続と領土的一体性の保全を中心的関心とする。第二に、脅威は主として軍事的なものとして定義される。核兵器、通常戦力、同盟の軍事的バランスが分析の中心である。第三に、対処手段も軍事力の行使または軍事力による脅威の提示が基本である。

しかし、冷戦の終結以降、このパラダイムが捉えきれない安全保障上の諸問題——テロリズム、サイバー攻撃、感染症、気候変動、内戦、大量虐殺——が国際社会の主要な課題として浮上した。次セクション(→ Module 2-3, Section 2「非伝統的安全保障と平和構築」参照)では、安全保障の概念を国家中心・軍事中心のパラダイムから拡張し、「人間の安全保障」「非伝統的安全保障」の枠組みを検討する。


まとめ

  • 核抑止戦略は大量報復戦略→柔軟反応戦略→MADの確立という歴史的展開を辿った。対兵力戦略と対価値戦略の区別、第一撃能力と第二撃能力の関係が戦略的安定性の核心を構成する
  • 拡大抑止はシェリングの「偶然に委ねる脅威」の論理、前方展開、核共有、エスカレーション・ラダーといった方策を通じて信憑性の確保が図られた
  • クリステンセンとスナイダーは、多極システムにおける同盟パターンを攻撃・防御均衡の認識に基づいて連鎖巻き込まれと責任転嫁に類型化した
  • フィアロンのバーゲニング・モデルは、戦争の原因を私的情報・コミットメント問題・不可分財の三メカニズムとして体系化し、「なぜ戦争が起きるか」を「なぜ交渉が失敗するか」に再定式化した
  • 民主的平和論は規範的説明と制度的説明の二系統を持ち、観衆費用理論は民主主義国家の脅威の信憑性メカニズムを解明した。軍産複合体や官僚政治モデルは国内政治構造が戦争の決定に与える影響を分析する
  • 本セクションの古典的安全保障パラダイムは国家間・軍事的脅威に焦点を当てるが、冷戦後は非伝統的安全保障の諸課題がその射程を拡張する(→ Module 2-3, Section 2参照)

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
大量報復戦略 Massive Retaliation いかなる侵略行為に対しても核兵器による全面的報復で対応するという1950年代のアメリカの核戦略ドクトリン
柔軟反応戦略 Flexible Response 侵略の規模に応じて通常戦力から核兵器まで段階的対応を行う核戦略。1967年にNATO公式ドクトリンとなった
対兵力戦略 Counterforce 敵の軍事施設(ミサイルサイロ、基地、指揮系統等)を標的とする核攻撃戦略
対価値戦略 Countervalue 敵の都市・産業基盤・人口集中地域を標的とする核攻撃戦略。MADの論理はこの戦略に基づく
戦略的安定性 Strategic Stability 核武装国間で先制攻撃のインセンティブが存在しない状態。双方の第二撃能力の確保により実現される
拡大抑止 Extended Deterrence 核保有国が同盟国への攻撃を核報復の脅威で抑止すること。「核の傘」の提供
瀬戸際政策 Brinkmanship 危機をエスカレートさせ偶発的核戦争のリスクを操作することで相手に譲歩を迫る戦略。シェリングが理論化
連鎖巻き込まれ Chain-ganging 攻撃優位の認識下で同盟国を無条件に支持し紛争に連鎖的に引きずり込まれる行動パターン
責任転嫁 Buck-passing 防御優位の認識下で安全保障の負担を他国に押し付け自らは関与を回避する行動パターン
バーゲニング・モデル Bargaining Model of War フィアロンが体系化した戦争原因の合理主義的理論。戦争を交渉の失敗として分析する
コミットメント問題 Commitment Problem 合意を将来にわたって遵守する約束を信頼できる形で行えない状況。国際政治で構造的に生じる
観衆費用 Audience Costs 指導者が公の脅威を履行せず引き下がった際に国内の有権者等から受ける政治的ペナルティ
民主的平和論 Democratic Peace Theory 民主主義国家同士は戦争をしないという経験的命題とその説明理論群
軍産複合体 Military-Industrial Complex 軍部・軍需産業・議会軍事委員会の利害共同体。軍備拡張を推進する国内政治的圧力

確認問題

Q1: 大量報復戦略から柔軟反応戦略への転換はなぜ必要であったか。大量報復戦略の信憑性の問題を具体的に説明し、柔軟反応戦略がそれにどう対処しようとしたかを論ぜよ。

A1: 大量報復戦略は、ソ連によるいかなる侵略に対しても核兵器による全面報復で応じると宣言するものであったが、限定的な挑発(例: 西ベルリンへの局地的圧力)に対して全面核戦争で応じることは不均衡であり、信憑性に欠けた。ソ連がICBM能力を獲得し米本土への核報復が現実的リスクとなったことで、アメリカが全面核戦争を選択するとは信じがたくなった。限定的な侵略行為に対して「全面核報復か無対応か」の二択しかないことが構造的な弱点であった。柔軟反応戦略は、通常戦力→戦術核→戦域核→戦略核という段階的対応の選択肢を用意することで、侵略の規模に見合った比例的対応を可能にし、あらゆるレベルでの抑止の信憑性を回復しようとした。限定的侵略に対しても実行可能な対応が存在するため、「報復しない」という推測の余地を減じる効果が期待された。

Q2: フィアロンのバーゲニング・モデルにおける「私的情報と虚偽表示のインセンティブ」が戦争を引き起こすメカニズムを説明せよ。また、このメカニズムが示唆する戦争回避の条件は何か。

A2: バーゲニング・モデルでは、戦争にはコストが伴うため、合理的な国家間には双方が戦争よりも選好する交渉解が存在するはずである。しかし、各国家は自国の軍事能力や戦闘意志について私的情報を持ち、かつその情報を実際より大きく見せかけるインセンティブがある(自国を強く見せれば交渉で有利な条件を引き出せるため)。この虚偽表示のインセンティブが共有知識であるため、相手の主張は額面通りに信じられず、情報の非対称性が交渉によって解消されない。双方が自国の立場を過大に主張する結果、バーゲニング空間の所在について合意できず交渉が決裂し、戦争に至る。このメカニズムが示唆する戦争回避の条件は、私的情報の非対称性が低減されること——すなわち、各国の能力と意志に関する信頼性ある情報が共有されること——である。民主主義国家の透明な意思決定過程や国際的な軍事力査察体制などが、情報の非対称性を緩和する制度的メカニズムとして理解される。

Q3: コミットメント問題がどのように予防戦争のインセンティブを生み出すか、台頭する国家と衰退する国家の関係を例にとって説明せよ。ツキディデスの罠との関連にも言及せよ。

A3: 国家Bの国力が急速に成長している場合、現時点では国家Aに有利な交渉解が可能であっても、将来Bが優位に立てばその合意を覆して自国に有利な条件を要求する可能性がある。Bが「将来も現合意を遵守する」と約束しても、アナーキーな国際システムにはその約束を強制する上位権威がなく、約束は信頼できない。したがって、Aにとっては相対的にBが弱い現時点で戦争に訴える——予防戦争——ことが合理的となりうる。ツキディデスはペロポネソス戦争の原因として「アテネの国力の成長とそれがスパルタに引き起こした恐怖」を挙げたが、これはまさにコミットメント問題の構造である。台頭するアテネが将来スパルタの利益を侵害しないと約束しても、その約束を担保する手段がなかったため、スパルタはアテネがまだ相対的に弱い段階で戦争に踏み切った。この構造はツキディデスの罠と呼ばれ、現代の米中関係——急速に台頭する中国と、その台頭を懸念する既存覇権国アメリカ——の分析にも援用されている。

Q4: 観衆費用理論を用いて、民主主義国家が国際危機においてより信憑性のある脅威を発することができるメカニズムを説明せよ。また、この理論に対する批判を一つ挙げよ。

A4: 観衆費用理論によれば、民主主義国家の指導者が国際危機において公に脅威を発した後、それを履行せずに引き下がると、国内の有権者・議会・メディアから「弱腰」「信頼できない」との批判を受け、支持率の低下や選挙での敗北という政治的ペナルティ(観衆費用)を被る。民主主義国家の指導者は選挙による説明責任を負うため、権威主義体制の指導者よりも高い観衆費用に直面する。したがって、民主主義国家の指導者が公に発した脅威は「引き下がれば政治的に高くつく」ことを相手国が認識するため、より信憑性のあるシグナルとなる。批判としては、ウィークスの指摘が代表的である。軍事政権や一党支配体制といった特定類型の権威主義体制においても、軍幹部や党エリートが指導者に事実上の説明責任を要求しうるため、観衆費用は民主主義に固有の現象ではない可能性がある。また、市民が外交的後退を実際にどの程度罰するかについては実証的な議論が続いている。

Q5: クリステンセンとスナイダーの連鎖巻き込まれ/責任転嫁理論において、攻撃・防御均衡の認識がどのように同盟行動パターンを規定するか説明せよ。第一次世界大戦前と1930年代のヨーロッパを事例として比較せよ。

A5: クリステンセンとスナイダーは、多極システムにおける同盟行動を攻撃・防御均衡の認識によって予測した。攻撃が優位と認識される場合、同盟国の敗北が自国の安全を直接脅かすため、同盟国への支持を強化し紛争に連鎖的に巻き込まれる(連鎖巻き込まれ)。防御が優位と認識される場合、自力防衛可能との判断から安全保障の負担を他国に押し付けようとする(責任転嫁)。第一次世界大戦前のヨーロッパでは、当時の軍事指導者の多くが攻撃優位——迅速な動員と攻勢が決定的であるとの認識——を共有していた。この認識の下、各国は同盟国の危機を自国の危機と同一視し、ドイツはオーストリア=ハンガリーに白紙委任状を与え、ロシアはセルビアを支持し、一国の紛争が連鎖的に大陸規模の戦争に拡大した。対照的に、1930年代のヨーロッパでは第一次世界大戦の塹壕戦の経験から防御優位の認識が広まり、イギリスとフランスはナチス・ドイツの脅威への対処を互いに押し付け合い(宥和政策)、効果的な対抗同盟の形成が遅れた。結果として、ドイツの軍事的拡張を初期段階で阻止する機会が失われた。