コンテンツにスキップ

Module 2-3 - Section 2: 非伝統的安全保障と平和構築

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-3: 国際政治学の展開
前提セクション Section 1(安全保障論——抑止理論と戦争の原因)
想定学習時間 3時間

導入

Section 1では、古典的安全保障——国家間の軍事的脅威を中心とする安全保障パラダイム——を検討し、核抑止理論、同盟理論、戦争の原因に関する合理主義的分析を扱った。しかし、冷戦の終結は安全保障概念の根本的再検討を促した。1990年代以降、安全保障の「指示対象(referent object)」は国家から個人へと拡張され、軍事的脅威に限定されない多様な脅威——貧困、疾病、テロリズム、環境破壊、サイバー攻撃——が安全保障の射程に含まれるようになった。さらに、冷戦後の武力紛争の主要形態は国家間戦争から内戦へと移行し、紛争後の平和構築が国際社会の中心的課題となった。

本セクションでは、第一に安全保障概念の拡大と深化を「人間の安全保障」概念を中心に検討し、第二にテロリズムとサイバーセキュリティという非伝統的脅威の政治学的分析を行い、第三に内戦の原因論と平和構築の理論・実践を検討し、第四に軍縮・軍備管理の国際制度を概観する。


人間の安全保障——安全保障概念の拡大と深化

概念の成立と展開

Key Concept: 人間の安全保障(Human Security) 国家ではなく個人を安全保障の指示対象とし、軍事的脅威のみならず貧困・疾病・環境破壊など人々の生存・生活・尊厳に対するあらゆる脅威からの保護を目指す安全保障概念。1994年のUNDP『人間開発報告書』で体系的に提唱された。

冷戦期の安全保障論は、国家を指示対象とし、軍事的脅威を中心的な分析対象としていた(→ Module 2-3, Section 1「安全保障論」参照)。しかし、冷戦終結後、国家間戦争の頻度が低下する一方で、内戦、テロリズム、貧困、感染症、環境劣化といった脅威が顕在化し、国家中心の安全保障概念では捉えきれない課題が浮上した。

UNDP(国連開発計画)が1994年に刊行した『人間開発報告書(Human Development Report)』は、「人間の安全保障」を体系的に定式化した画期的文書である。同報告書は、安全保障を「恐怖からの自由(freedom from fear)」と「欠乏からの自由(freedom from want)」の二本柱として再定義し、「飢餓、疾病、抑圧といった慢性的脅威からの安全、および日常生活のパターンが突然かつ有害に断絶されることからの保護」と定義した。さらに、人間の安全保障の7つの構成要素——経済的安全保障、食料安全保障、健康安全保障、環境安全保障、個人的安全保障、共同体安全保障、政治的安全保障——を提示した。

カナダ・アプローチと日本アプローチ

人間の安全保障概念は、その広範な射程ゆえに、政策的実践においては二つの対照的なアプローチに分岐した。

カナダ・アプローチ(狭義のアプローチ)は「恐怖からの自由」に重点を置き、物理的暴力からの個人の保護を中核に据える。カナダのロイド・アクスワージー(Lloyd Axworthy)外相(在任1996-2000年)は、対人地雷禁止条約の推進、国際刑事裁判所の設立支援、「保護する責任(Responsibility to Protect: R2P)」概念の提唱など、人間の安全保障を具体的政策手段として展開した。カナダは国連平和維持活動(PKO)への主要貢献国として、暴力的脅威からの保護を重視する立場をとった。

日本アプローチ(広義のアプローチ)は「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」の双方を包括する広い定義を採用し、開発援助を通じた貧困削減、保健・教育の充実を人間の安全保障の中核に位置づける。日本は1999年に国連に「人間の安全保障基金(United Nations Trust Fund for Human Security)」を設立し、また「人間の安全保障委員会」(共同議長: アマルティア・セン、緒方貞子)を主導した。日本のアプローチは、開発援助の主要供与国としての政策伝統と整合的であり、戦後平和憲法の理念と結びつけて人間の安全保障を国家アイデンティティの一部として位置づけた。

両アプローチの相違は、安全保障概念の射程をめぐる根本的な緊張を反映している。狭義のアプローチは政策的に焦点が明確であるが、貧困や疾病といった構造的暴力を射程外に置く。広義のアプローチは包括的であるが、概念の拡散による分析的有用性の低下というリスクを伴う。

学術的論争——概念の有用性をめぐって

人間の安全保障概念に対しては、ローランド・パリス(Roland Paris)による批判が代表的である。パリスは2001年の論文「人間の安全保障——パラダイム転換か空論か(Human Security: Paradigm Shift or Hot Air?)」において、人間の安全保障の概念が「あまりに曖昧で無意味に近い」ため、「適用を望む学者にも、競合する政策目標の間で優先順位をつけねばならない政策立案者にも、実践的な指針をほとんど提供しない」と論じた。環境劣化から失業まであらゆるものを安全保障の脅威と定義すれば、すべてが優先事項となり、結果としていかなる優先順位づけも不可能になるという批判である。

一方、擁護者は、人間の安全保障概念が安全保障研究の射程を国家中心主義から解放し、従来は「安全保障」と認識されなかった脅威に対する国際的関心を喚起する規範的・政治的機能を果たしてきたと主張する。概念の分析的精密さと規範的有用性のどちらを重視するかが、この論争の核心である。

graph TD
    A["伝統的安全保障<br/>Traditional Security"] --> B["指示対象: 国家"]
    A --> C["脅威: 軍事的脅威"]
    A --> D["手段: 軍事力・同盟"]

    E["人間の安全保障<br/>Human Security"] --> F["指示対象: 個人"]
    E --> G["脅威: 多元的脅威"]
    E --> H["手段: 開発・制度・保護"]

    G --> G1["恐怖からの自由<br/>Freedom from Fear"]
    G --> G2["欠乏からの自由<br/>Freedom from Want"]

    G1 --> I["カナダ・アプローチ<br/>狭義: 物理的暴力からの保護"]
    G2 --> J["日本アプローチ<br/>広義: 開発・保健・教育を含む"]

    A -.->|"冷戦終結後の<br/>概念拡大"| E

テロリズムの政治学

テロリズムの定義問題

テロリズムは国際政治学において最も定義が困難な概念の一つである。国連においても加盟国間で合意された包括的定義は存在しない。定義の困難の根底には、「ある者にとってのテロリストは、別の者にとっての自由の闘士である(one man's terrorist is another man's freedom fighter)」という政治的相対性の問題がある。

学術的に広く参照される定義要素としては、(1) 政治的目的の追求、(2) 非戦闘員(市民)に対する意図的な暴力の行使または脅威、(3) 直接の被害者を超えた聴衆への心理的効果の狙い、が挙げられる。テロリズムは「宣伝行為としての暴力(propaganda by the deed)」——物理的破壊そのものよりも、暴力の象徴的・伝達的効果を通じて政治的目的を達成しようとする戦略——として特徴づけられる。

国家テロリズム(state terrorism)と非国家テロリズム(non-state terrorism)の区別も重要な論点である。ラテンアメリカの軍事独裁政権による「汚い戦争」や、スターリン体制下の大粛清は国家テロリズムの事例として議論されるが、テロリズム研究の主流は非国家主体によるテロリズムに焦点を当ててきた。

合理的行為としてのテロリズム——ペイプの戦略論理

Key Concept: ラディカライゼーション(Radicalization) 個人が漸進的に過激な政治的信条を採用し、最終的に暴力の行使を正当化・実行するに至る心理的・社会的過程。モガダム(Moghaddam)の「テロリズムへの階段(Staircase to Terrorism)」モデルやサジマン(Sageman)のネットワーク・モデルが代表的な理論的枠組みである。

ロバート・ペイプ(Robert Pape)は、2003年の論文「自爆テロリズムの戦略論理(The Strategic Logic of Suicide Terrorism)」および2005年の著書『死を選ぶ(Dying to Win)』において、自爆テロリズムを非合理的な宗教的狂信ではなく、合理的な戦略的行動として分析した。ペイプは1980年から2003年までの全世界の自爆テロ攻撃315件のデータベースを構築し、以下の知見を提示した。

第一に、自爆テロの攻撃の95%は外国軍の占領に対する抵抗として実行されており、その本質的目的は「近代民主主義国家に対して、テロリストが自らの祖国とみなす領土から軍事力を撤退させることを強いる」ことにある。第二に、自爆テロは世俗的民族主義運動にも広くみられ、宗教的動機のみでは説明できない。第三に、民主主義国家が標的として選好されるのは、民主主義社会が人的損失に対してより敏感であり、世論の圧力を通じた政策変更の可能性が高いためである。

ペイプの議論は、テロリズムを戦争の原因に関するバーゲニング・モデル(→ Module 2-3, Section 1「安全保障論」参照)の延長線上に位置づけ、テロリストを合理的アクターとして分析する枠組みを提供した。ただし、ペイプの理論は、外国軍の占領が存在しない状況での自爆テロ(いわゆる「ホームグロウン・テロリズム」)を十分に説明できないという批判を受けている。

ラディカライゼーションの理論

個人がいかにしてテロリズムへと至るかという過程——ラディカライゼーション——については、複数の理論モデルが提示されている。

ファタリ・モガダム(Fathali Moghaddam)の「テロリズムへの階段(Staircase to Terrorism)」モデル(2005年)は、ラディカライゼーションを5階建ての建物の階段を上る漸進的過程として描写する。地上階では不公正感・相対的剥奪の知覚が存在し、各階を上るにつれて選択肢が狭まり、最上階では「他者の破壊、自己の破壊、あるいはその双方しか可能な結末として見えなくなる」。このモデルは、大多数の不満を抱える人々が上階に進まないことを強調し、各段階での「降り口(off-ramp)」の存在を示唆する点で、テロ対策への含意を持つ。

マーク・サジマン(Marc Sageman)は、アルカイダの構成員の分析に基づき、ラディカライゼーションを「ボトムアップ」の社会ネットワーク過程として理論化した。サジマンによれば、テロ組織への参加は上意下達の勧誘ではなく、友人関係や親族関係に基づく小集団のダイナミクスによって駆動される。「スリルを求め、栄光の幻想を追い、集団と大義への帰属感を渇望する若者たち」が、社会的ネットワークを通じて動員されるという「仲間集団(bunch of guys)」理論である。

両理論に共通するのは、イデオロギーがラディカライゼーションの第一原因(primum movens)ではなく、むしろ疎外感・不公正感といった心理社会的要因が先行し、イデオロギーはそれを正当化する枠組みとして後から機能するという認識である。

対テロ戦略——対テロリズムと対反乱作戦

テロリズムへの対応戦略は、大きく対テロリズム(counterterrorism: CT)対反乱作戦(counterinsurgency: COIN)の二つのアプローチに区別される。

対テロリズムは、テロリストの標的殺害(targeted killing)、ネットワークの破壊、資金源の遮断といった直接的・軍事的手段によってテロ組織の能力を無力化することを目指す。情報機関の活動と精密攻撃(precision strike)に依存し、比較的短期間での効果を追求する。

対反乱作戦は、反乱勢力を支える社会的基盤に働きかけ、政府の正統性を回復することで反乱の根本原因に対処しようとするアプローチである。デイヴィッド・キルカレン(David Kilcullen)が定式化したCOINドクトリンは、反乱を「確立された政府の支配と正統性を弱体化させ、反乱勢力の支配を拡大するために設計された、組織的かつ長期的な政治的・軍事的闘争」と定義し、住民の「心と精神(hearts and minds)」の獲得を重視する。COINの論理は、「住民の不満(grievance)が少数の過激化した集団の武装蜂起を引き起こす」という前提に立ち、政府の正統性回復がそれらの不満を解消するとする。

2001年の9.11同時多発テロ以降のアメリカの「対テロ戦争」は、両アプローチの適用と限界を示す事例である。アフガニスタン・イラクでの軍事介入は、当初のCT中心のアプローチから、2006-2007年にかけてCOIN重視へと転換したが、いずれのアプローチも単独では持続的な安定を達成できなかった。CTとCOINは相互排他的ではなく、状況に応じた組み合わせが求められるが、その最適な配分は依然として議論の対象である。


サイバーセキュリティの国際政治学

サイバー攻撃の類型論

Key Concept: サイバー抑止(Cyber Deterrence) サイバー空間における攻撃を報復の脅威または防御態勢の強化によって抑止しようとする試み。帰属問題(攻撃者の特定困難)、エスカレーション管理の不確実性、攻撃と防御の非対称性により、核抑止の論理をサイバー空間に適用することは著しく困難である。

トマス・リッド(Thomas Rid)は2012年の論文「サイバー戦争は起こらない(Cyber War Will Not Take Place)」において、政治的動機に基づくサイバー攻撃は「戦争」ではなく、伝統的な諜報活動(espionage)破壊工作(sabotage)転覆活動(subversion)の高度化された形態であると論じた。この三類型は、サイバー攻撃を既存の国際政治学の分析枠組みに位置づける上で有用である。

諜報活動(espionage)は、国家機密・知的財産・個人情報の窃取を目的とするサイバー活動であり、APT(Advanced Persistent Threat: 高度持続的脅威)攻撃やフィッシング、マルウェアを手段とする。サイバー諜報は、従来のスパイ活動に比べて規模・速度・匿名性において飛躍的に拡大している。

破壊工作(sabotage)は、物理的インフラやデジタルシステムに対する損害の惹起を目的とする。2010年に発覚したStuxnet(スタックスネット)は、サイバー破壊工作の代表的事例である。Stuxnetはイランのナタンズ(Natanz)核施設のウラン濃縮遠心分離機を標的とし、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition: 監視制御・データ収集)システムに感染して遠心分離機の回転速度を操作することで、推定約2,000基の遠心分離機を損傷させた。米国とイスラエルの共同作戦(「オリンピック・ゲームズ作戦」)によるものとされ、サイバー攻撃が物理的破壊を引き起こしうることを実証した最初の事例として、サイバーセキュリティ研究の転機となった。

転覆活動(subversion)は、ソーシャルメディアやインターネットサービスを利用して、対象国の政治体制・社会的結束を内部から掘り崩す活動である。2016年のアメリカ大統領選挙への外国の介入疑惑に見られる情報戦(information warfare)・影響工作(influence operation)がその典型である。

サイバー抑止の困難——帰属問題

核抑止の論理(→ Module 2-3, Section 1「安全保障論」参照)をサイバー空間に適用することは、構造的に困難である。その核心にあるのが帰属問題(attribution problem)である。

核攻撃や通常兵器による攻撃の場合、攻撃者の特定は比較的容易であり、これが報復の脅威を信頼可能にする。しかし、サイバー攻撃においては、攻撃の発信源を技術的に偽装・隠蔽することが可能であり、攻撃者の特定には時間とコストがかかる。さらに、攻撃が国家によるものか、非国家主体によるものか、あるいは国家が非国家主体を代理として利用したものかの判別が困難である。報復の脅威が抑止として機能するためには「攻撃すれば報復される」という認識が前提となるが、帰属が困難なサイバー攻撃では、この前提が成立しにくい。

加えて、サイバー空間では攻撃が防御に対して構造的優位にある(offense-defense balance が攻撃側に傾いている)とされる。脆弱性の発見と悪用は、全ての脆弱性を事前に塞ぐことよりも容易であるためである。この攻撃優位の状況は、相互抑止の安定性を損なう。

タリン・マニュアル——サイバー空間と国際法

Key Concept: タリン・マニュアル(Tallinn Manual) NATOサイバー防衛センター・オブ・エクセレンス(CCDCOE)が主導し、国際法学者が執筆したサイバー活動に対する国際法の適用に関する学術的文書。法的拘束力はないが、サイバー空間における国際法の解釈に関する最も包括的な参照文書として広く引用される。

タリン・マニュアル(Tallinn Manual on the International Law Applicable to Cyber Warfare)は、2013年に初版、2017年に第2版(Tallinn Manual 2.0)が公刊された。初版は武力紛争に関連する最も深刻なサイバー活動——武力行使の禁止に違反する活動、自衛権の行使を正当化する活動、武力紛争中に行われる活動——を対象とした。第2版はその射程を平時の法的枠組みに拡張し、主権、国家責任、人権、海洋法・航空法・宇宙法におけるサイバー活動の法的地位を扱った。

タリン・マニュアルは法的拘束力を持たない学術的文書であるが、サイバー活動に対する既存の国際法(ius ad bellum およびius in bello)の適用可能性を示し、国家のサイバー行動に対する法的枠組みの形成に大きな影響を与えた。主要な争点として、サイバー諜報が国家主権の侵害に該当するか否かについては、国家間で見解の相違が存在する。


内戦と平和構築

内戦の原因論——貪欲と不満

Key Concept: 貪欲と不満(Greed vs. Grievance) 内戦の原因を経済的動機(貪欲: greed)と政治的不満(不満: grievance)のいずれで説明するかをめぐる論争。コリアー(Collier)とヘフラー(Hoeffler)が提唱した経済的動機の優位性仮説に対し、ケーン(Keen)らは両要因の相互作用を強調する。

冷戦後に増加した内戦の原因をめぐり、ポール・コリアー(Paul Collier)とアンケ・ヘフラー(Anke Hoeffler)は2004年の論文「内戦における貪欲と不満(Greed and Grievance in Civil War)」において、計量分析に基づき、反乱の実現可能性(feasibility)——すなわち反乱を軍事的・財政的に維持する条件——が、不満(inequality、政治的権利の欠如、民族的・宗教的分断など)よりも内戦の発生を強く予測すると論じた。

コリアーとヘフラーの分析は、一次産品輸出への依存と大規模なディアスポラの存在が内戦リスクを顕著に増大させることを示した。天然資源——特にダイヤモンドや石油——は反乱の初期費用を低下させ、長期化の資金源となり、また国家権力の掌握をより魅力的な「賞品」にする。この「貪欲」仮説は、内戦を政治的正義の闘争としてではなく、経済的レント追求の一形態として分析する視角を提供した。

事例: シエラレオネ内戦(1991-2002年)——シエラレオネの内戦は、greed vs. grievance論争の典型的事例として議論されてきた。革命統一戦線(RUF: Revolutionary United Front)はダイヤモンド鉱山の支配を通じて活動資金を調達し、「紛争ダイヤモンド(blood diamonds)」が内戦の長期化に寄与した。コリアーの枠組みでは、これはgreedが支配的な事例として位置づけられる。しかし、RUFの蜂起の背景には、スティーヴンス政権以来の政治的腐敗、経済的疎外、若年層の大量失業といった深刻な不満(grievance)が存在した。デイヴィッド・ケーン(David Keen)は、貪欲が不満を生み出し、不満が反乱を正当化し、反乱がさらなる貪欲を可能にするという循環的相互作用を強調し、greedとgrievanceの二項対立を批判した。

安全保障のジレンマと内戦——ポーゼンの議論

バリー・ポーゼン(Barry Posen)は1993年の論文「安全保障のジレンマと民族紛争(The Security Dilemma and Ethnic Conflict)」において、国際関係理論における安全保障のジレンマの概念を国内紛争に適用した先駆的議論を展開した。

ポーゼンの議論の核心は、多民族国家の崩壊が国際システムにおけるアナーキーに類似した状況を国内に生み出すという点にある。中央政府の統治能力が崩壊すると、各民族集団は自らの安全を自力で確保せねばならなくなり、そのための軍事的準備が他の民族集団には攻撃的意図のシグナルとして解釈される。歴史的な不信感と民族間の相互認識の歪みがこの安全保障のジレンマを悪化させ、暴力の螺旋的エスカレーションを引き起こす。

ポーゼンは旧ユーゴスラヴィア紛争をこの枠組みで分析した。ユーゴスラヴィア連邦の解体によって各民族集団(セルビア人、クロアチア人、ボスニア人)は自助(self-help)の状態に置かれ、各集団の防衛的動員が他集団によって攻撃的意図と解読され、暴力のエスカレーションへと至った。

平和構築の理論と実践

Key Concept: DDR(武装解除・動員解除・社会復帰)(Disarmament, Demobilization, and Reintegration) 紛争後の平和構築における中核的プログラム。武装解除(小火器・軽火器の回収・処理)、動員解除(戦闘員の軍事組織からの解放)、社会復帰(元戦闘員の市民生活への再統合)の3段階から構成される。

Key Concept: 移行期正義(Transitional Justice) 大規模な人権侵害を経験した社会が、過去の不正義に対処しつつ民主的体制への移行を図るための司法的・非司法的メカニズムの総体。真実委員会、刑事訴追、被害者への賠償、制度改革(vetting)などを含む。

紛争後の平和構築(post-conflict peacebuilding)は、1992年のブトロス・ブトロス=ガーリ(Boutros Boutros-Ghali)国連事務総長の報告書『平和への課題(An Agenda for Peace)』において、国連の平和活動の枠組みに正式に位置づけられた。平和構築は、停戦の達成から持続的平和の構築に至る長期的過程を包括し、DDR、安全保障部門改革(SSR: Security Sector Reform)、移行期正義、経済復興、選挙支援、法の支配の確立など多面的な介入を含む。

DDRは紛争後の安全保障環境の安定化において最も基本的なプログラムである。武装解除は戦闘員から小火器・軽火器・重火器を回収・記録・処理する過程であり、動員解除は戦闘員を軍事組織から正式に解放する過程であり、社会復帰は元戦闘員が市民としての地位と持続的な雇用・収入を得る社会的・経済的過程である。DDRプログラムは和平合意全体の約27%にのみ完全な形で含まれており、不完全なDDRはアンゴラ、南スーダン、コンゴ民主共和国などにおいて暴力の再発に寄与した。

SSR(安全保障部門改革)は、軍、警察、情報機関、司法制度を含む安全保障部門を民主的統治の原則に基づいて再編するプログラムである。DDRとSSRは密接に連関しており、元戦闘員が再編された安全保障部門に統合される場合も多い。

移行期正義は、過去の大規模な人権侵害への対処を通じて、社会的和解と法の支配の再確立を図る。主要なメカニズムとして、真実和解委員会(truth and reconciliation commission)、刑事訴追(criminal prosecution)、被害者への賠償(reparation)、公職追放・審査(vetting)がある。南アフリカのアパルトヘイト後の真実和解委員会(1996-1998年)は、移行期正義の代表的な実践例である。

graph LR
    A["武力紛争"] --> B["停戦・和平合意"]
    B --> C["DDR<br/>武装解除・動員解除・社会復帰"]
    B --> D["SSR<br/>安全保障部門改革"]
    B --> E["移行期正義<br/>真実委員会・刑事訴追・賠償"]
    C --> F["安全保障環境の安定化"]
    D --> F
    E --> G["社会的和解"]
    F --> H["経済復興・開発"]
    G --> H
    H --> I["持続的平和"]

    J["自由主義的平和構築<br/>Liberal Peacebuilding"] -.->|"民主化・市場経済化"| H
    K["IBL批判<br/>Paris"] -.->|"制度構築を先行すべき"| J

自由主義的平和構築の限界

冷戦後の平和構築は、民主主義と市場経済の導入が平和の基盤になるという「自由主義的平和構築(liberal peacebuilding)」のパラダイムに基づいて実施されてきた。民主的平和論(→ Module 2-3, Section 1「安全保障論」参照)の論理——民主主義国家同士は戦争をしない——が、紛争後社会への民主化支援を正当化する知的基盤となった。

しかし、ローランド・パリスは2004年の著書『戦争の終わりに(At War's End)』において、1990年代の14の平和構築ミッションを体系的に分析し、効果的な制度が未整備の社会に急速な政治的・経済的自由化を導入することは、平和を促進するどころか紛争再発のリスクを増大させると論じた。選挙は民族的動員の手段となりうるし、市場経済化は不平等を拡大し社会的緊張を高めうる。

パリスの処方箋は「自由化に先立つ制度構築(Institutionalization Before Liberalization: IBL)」である。政治的競争や経済的自由化を導入する前に、法の支配、行政能力、紛争管理メカニズムといった制度的基盤を確立すべきであるという主張である。この議論は、自由主義的平和構築の理論的前提に対する内在的批判として広く影響を与えた。

事例: ボスニア・ヘルツェゴヴィナ——1995年のデイトン合意(Dayton Agreement)によって終結したボスニア紛争後の平和構築は、自由主義的平和構築の功罪を示す事例である。約30万人の兵士の動員解除が実施されたが、民族ごとに分割された政治制度(連邦とスルプスカ共和国の二つのエンティティ)は、民族間の政治的対立を制度化した。国際社会の強力な関与にもかかわらず、SSRは不完全であり、ローカル・オーナーシップの欠如が改革の持続可能性に疑問を投げかけている。


軍縮・軍備管理

軍備管理と軍縮の概念的区別

軍備管理(arms control)と軍縮(disarmament)は、しばしば混同されるが概念的に区別される。

軍備管理は、武器の種類・数量・配備に関する合意を通じて、戦争のリスクを低減し、軍拡競争を抑制し、戦争が発生した場合の被害を限定することを目的とする。軍備管理は武器の廃絶を必ずしも目指さず、むしろ戦略的安定性の維持を主眼とする。冷戦期の米ソ間の戦略兵器制限交渉(SALT)や中距離核戦力全廃条約(INF条約)は軍備管理の典型例である。

軍縮は、武器の削減・廃絶そのものを目的とする。特定の兵器カテゴリーの全面的禁止(対人地雷禁止条約、化学兵器禁止条約)から一般完全軍縮(general and complete disarmament)までの幅広い射程を持つ。

核不拡散体制——NPT

Key Concept: 核不拡散体制(Nuclear Non-Proliferation Regime) 核兵器の拡散を防止するための国際的な規範・制度・条約の総体。その中核を成す核兵器不拡散条約(NPT, 1968年)は、不拡散・軍縮・原子力平和利用の三本柱から成る「大取引(grand bargain)」を基盤とする。

核兵器不拡散条約(NPT: Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)は1968年に署名開放され、1970年に発効した。NPTは以下の「大取引」に基づく。(1) 非核兵器国は核兵器を取得しない(不拡散)。(2) 核兵器国(米・露・英・仏・中の5か国)は核軍縮を誠実に追求する(軍縮)。(3) すべての締約国は、保障措置の下での原子力の平和利用の権利を有する(平和利用)。NPTは国際原子力機関(IAEA)の保障措置制度と結びつき、核不拡散の検証メカニズムを構成する。

NPTの限界と課題は複数存在する。第一に、NPTの枠外で核兵器を取得した国家——インド、パキスタン、イスラエル(公式には認めていない)——が存在し、NPT体制の普遍性を損なっている。第二に、核兵器国は軍縮義務(第6条)の誠実な履行を怠っているとの非核兵器国からの批判が根強い。第三に、北朝鮮はNPTから脱退(2003年)した上で核実験を実施し、NPTの脱退条項(第10条)の不備を露呈した。

事例: イラン核合意(JCPOA)——2015年の包括的共同行動計画(JCPOA: Joint Comprehensive Plan of Action)は、P5+1(国連安保理常任理事国5か国+ドイツ)とイランの間で締結された、イランの核計画の制限と経済制裁の段階的解除を定めた合意である。JCPOAは核不拡散の外交的解決の試みとして画期的であったが、2018年のアメリカの一方的離脱によって存続の危機に瀕し、多国間軍備管理合意の脆弱性を示した。

化学兵器禁止条約(CWC)

化学兵器禁止条約(CWC: Chemical Weapons Convention)は1993年に署名開放され、1997年に発効した。CWCは化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を全面的に禁止し、既存の化学兵器の廃棄を義務づけた、大量破壊兵器に関する初の検証メカニズムを備えた軍縮条約である。化学兵器禁止機関(OPCW: Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons)が条約の実施を監督し、2013年にノーベル平和賞を受賞した。ただし、シリア内戦(2013年以降)における化学兵器使用疑惑は、CWC体制の執行力の限界を示した。

通常兵器規制——対人地雷禁止条約

対人地雷禁止条約(オタワ条約: Ottawa Treaty)は、1997年に署名開放され、1999年に発効した。同条約は対人地雷の使用・開発・生産・貯蔵・移譲を全面的に禁止し、既存の備蓄の廃棄と地雷汚染地域の除去を義務づけた。2025年8月時点で162か国が批准している。

オタワ条約は、その成立過程において注目すべき特徴を持つ。「対人地雷禁止国際キャンペーン(ICBL: International Campaign to Ban Landmines)」というNGO連合が、カナダ政府との協力の下、従来の多国間軍縮交渉(ジュネーヴ軍縮会議)を迂回して条約の実現を推進した。このプロセスは「オタワ・プロセス」と呼ばれ、市民社会が軍縮・軍備管理のアジェンダを主導しうることを示した先例として評価される。ICBLとその創設コーディネーターであるジョディ・ウィリアムズ(Jody Williams)は1997年のノーベル平和賞を共同受賞した。

しかし、主要な軍事大国——アメリカ、中国、ロシア——はオタワ条約に加入しておらず、対人地雷の主要な生産国・保有国の不参加が条約の実効性を制約している。

軍縮の政治的ダイナミクス

軍縮と軍備管理は、純粋に技術的・法律的な営みではなく、安全保障環境に関する認識、同盟関係、国内政治、規範の進化といった政治的ダイナミクスに規定される。

第一に、軍備管理は相互性の論理に基づく。自国の軍事能力を一方的に制限することは安全保障上のリスクを伴うため、相互に検証可能な形での均衡的削減が必要となる。この相互性の確保が軍備管理交渉の中心的課題である。

第二に、市民社会・NGOの役割が増大している。オタワ条約やクラスター弾に関する条約(オスロ条約、2008年)に見られるように、政府間交渉を補完・迂回する形で、NGOが軍縮アジェンダの設定と条約の実現に大きな役割を果たすようになった。核兵器禁止条約(TPNW: Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, 2017年採択)も、「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の主導によるものであり、ICANは2017年のノーベル平和賞を受賞した。ただし、TPNWには核兵器国はいずれも参加しておらず、規範形成と実効性の乖離が課題として残る。


まとめ

  • 人間の安全保障は、安全保障の指示対象を国家から個人へ拡張し、軍事的脅威を超えた多元的脅威への対処を要請する概念である。「恐怖からの自由」を重視するカナダ・アプローチと「欠乏からの自由」を含む日本アプローチの分岐は、概念の射程をめぐる根本的緊張を反映する。パリスの批判は、概念の包括性と分析的有用性のトレードオフを鋭く指摘した
  • テロリズムの政治学は、ペイプの戦略論理仮説によって合理的アクターとしてのテロリスト像を提示し、ラディカライゼーション理論は個人がテロリズムに至る心理社会的過程を解明した。対テロ戦略はCT(直接的無力化)とCOIN(社会的基盤への働きかけ)の二つのアプローチに大別され、その最適な組み合わせが課題となる
  • サイバーセキュリティの国際政治学は、リッドの三類型(諜報・破壊・転覆)を枠組みとし、帰属問題がサイバー抑止を著しく困難にしていることを示す。タリン・マニュアルはサイバー空間への既存国際法の適用を試みる最も包括的な学術的文書である
  • 内戦の原因論は、コリアー・ヘフラーのgreed仮説とgrievance仮説の対立を軸に展開し、ポーゼンは安全保障のジレンマの国内適用を通じて民族紛争のエスカレーション・メカニズムを解明した。平和構築はDDR・SSR・移行期正義を中核とし、パリスは自由主義的平和構築の限界を指摘してIBL(制度構築の先行)を提唱した
  • 軍縮・軍備管理は、NPTを中核とする核不拡散体制、CWCによる化学兵器の全面禁止、オタワ条約による対人地雷禁止を含む多層的な国際制度を形成し、市民社会・NGOの役割が増大している

本セクションで扱った非伝統的安全保障の諸課題は、Section 1で検討した古典的安全保障のパラダイムを拡張・補完するものであり、現代の安全保障環境を包括的に理解するためには両者の統合的把握が不可欠である。次セクション(→ Module 2-3, Section 3「国際政治経済論」参照)では、安全保障とは異なる軸——国際経済秩序の政治的ダイナミクス——から国際政治を分析する。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
人間の安全保障 Human Security 国家ではなく個人を安全保障の指示対象とし、軍事的脅威のみならず貧困・疾病・環境破壊など人々の生存・生活・尊厳に対するあらゆる脅威からの保護を目指す安全保障概念
ラディカライゼーション Radicalization 個人が漸進的に過激な政治的信条を採用し、最終的に暴力の行使を正当化・実行するに至る心理的・社会的過程
サイバー抑止 Cyber Deterrence サイバー空間における攻撃を報復の脅威または防御態勢の強化によって抑止しようとする試み。帰属問題により核抑止の論理の適用が著しく困難
帰属問題 Attribution Problem サイバー攻撃において攻撃者の身元を技術的に特定することが困難である問題。サイバー抑止の成立を阻む中核的障害
貪欲と不満 Greed vs. Grievance 内戦の原因を経済的動機(貪欲)と政治的不満のいずれで説明するかをめぐる論争。コリアーとヘフラーが提唱
DDR Disarmament, Demobilization, and Reintegration 武装解除・動員解除・社会復帰。紛争後の平和構築における中核的プログラム
SSR Security Sector Reform 安全保障部門改革。軍・警察・情報機関・司法制度を民主的統治の原則に基づいて再編するプログラム
移行期正義 Transitional Justice 大規模な人権侵害を経験した社会が、過去の不正義に対処しつつ民主的体制への移行を図るための司法的・非司法的メカニズムの総体
自由主義的平和構築 Liberal Peacebuilding 民主主義と市場経済の導入が紛争後社会の平和の基盤になるという前提に基づく平和構築パラダイム
IBL Institutionalization Before Liberalization パリスが提唱した平和構築の処方箋。政治的・経済的自由化に先立ち制度的基盤を確立すべきとする主張
核不拡散体制 Nuclear Non-Proliferation Regime 核兵器の拡散を防止するための国際的な規範・制度・条約の総体。NPTを中核とする
タリン・マニュアル Tallinn Manual NATOサイバー防衛センター・オブ・エクセレンスが主導した、サイバー活動に対する国際法の適用に関する学術的参照文書

確認問題

Q1: UNDP(1994年)が定義した人間の安全保障の7つの構成要素を挙げ、それが伝統的安全保障概念とどのように異なるかを説明せよ。

A1: 7つの構成要素は、経済的安全保障、食料安全保障、健康安全保障、環境安全保障、個人的安全保障、共同体安全保障、政治的安全保障である。伝統的安全保障が国家を指示対象とし軍事的脅威に焦点を当てるのに対し、人間の安全保障は個人を指示対象とし、「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」の双方を包含する多元的脅威を安全保障の射程に含める点で根本的に異なる。パリスが批判したように、この概念的拡張は分析的精密さと規範的有用性のトレードオフを伴う。

Q2: ペイプ(Pape)の自爆テロリズムの戦略論理仮説の核心的主張を述べ、その限界を一つ挙げよ。

A2: ペイプの核心的主張は、自爆テロリズムは非合理的な宗教的狂信ではなく、外国軍の占領に対する合理的な戦略的反応であるというものである。ペイプの分析では、自爆テロの95%は外国軍の占領に対する抵抗であり、民主主義国家が標的として選好されるのは、人的損失に対する世論の感受性を通じた政策変更の可能性が高いためである。主要な限界として、外国軍の占領が存在しない状況での自爆テロ(ホームグロウン・テロリズム)を十分に説明できないことが挙げられる。

Q3: サイバー抑止が核抑止に比べて著しく困難である理由を、帰属問題を中心に説明せよ。

A3: 核抑止は報復の脅威の信頼性に基づくが、その前提として攻撃者の特定が容易であることがある。サイバー攻撃では、攻撃の発信源を技術的に偽装・隠蔽することが可能であり、攻撃者の特定(帰属)に時間とコストがかかる。また、攻撃が国家によるものか非国家主体によるものかの判別も困難である。「攻撃すれば報復される」という認識が成立しなければ抑止は機能せず、帰属の困難がこの認識の成立を阻害する。加えて、サイバー空間では攻撃が防御に対して構造的に優位であり、相互抑止の安定性を損なう。

Q4: コリアー・ヘフラーのgreed仮説をシエラレオネ内戦に適用して説明し、ケーン(Keen)による批判の要点を述べよ。

A4: greed仮説に基づけば、シエラレオネ内戦においてRUFはダイヤモンド鉱山の支配を通じて活動資金を調達し、天然資源が反乱の初期費用を低下させるとともに長期化の資金源となった。これは内戦を政治的正義の闘争ではなく経済的レント追求として分析する視角と整合する。ケーンの批判は、greedとgrievanceを二項対立的に扱うことの限界を指摘し、貪欲が不満を生み出し、不満が反乱を正当化し、反乱がさらなる貪欲を可能にするという循環的相互作用を強調する。RUFの蜂起の背景には政治的腐敗や経済的疎外という深刻なgrievanceが存在しており、greedのみでは説明が不十分である。

Q5: パリス(Paris)のIBL(Institutionalization Before Liberalization)の主張を、自由主義的平和構築への批判の文脈で説明せよ。

A5: 自由主義的平和構築は、民主主義と市場経済の導入が紛争後社会の平和を促進するという前提に基づく。しかしパリスは、1990年代の14の平和構築ミッションの分析から、効果的な制度が未整備の社会に急速な政治的・経済的自由化を導入することが、かえって紛争再発のリスクを増大させると論じた。選挙が民族的動員の手段となり、市場経済化が不平等を拡大する危険がある。IBLは、法の支配、行政能力、紛争管理メカニズムといった制度的基盤の確立を政治的・経済的自由化に先行させるべきとする処方箋であり、自由化の過程そのものが内在的に不安定化要因を含むという認識に基づいている。