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Module 2-4 - Section 3: 規制行政・NPM・地方分権

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-4: 行政学・公共政策
前提セクション Section 1
想定学習時間 3.5時間

導入

Section 1では、ウェーバーの官僚制論、プリンシパル=エージェント理論、政策過程論の主要モデルを概観した。これらの理論的基盤は、現代の行政改革を理解するうえで不可欠の前提をなす。本セクションでは、これらの理論が具体的な制度設計・改革実践にどのように結びついているかを検討する。

具体的には、まず規制行政の理論を概観し、規制がいかなる論理で形成・維持・改革されるかを分析する。次に、1980年代以降の世界的な行政改革運動であるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の理論と実践を検討し、さらにNPMへの批判を踏まえたポストNPMの潮流を概観する。最後に、日本における地方分権改革の展開を体系的に整理する。これらの主題は、Section 1で検討したP-A理論や政策過程論の応用的展開として位置づけられる。


規制行政の理論

規制の類型

国家による規制は、その目的と対象により大きく二つの類型に分けられる。

Key Concept: 経済的規制(Economic Regulation) 市場への参入・退出、価格設定、生産量等に関する規制。市場の失敗(自然独占、外部性等)の是正を名目とするが、実際には既存事業者の保護に機能する場合がある。電力・ガス・通信・運輸等のネットワーク産業が典型的な対象である。

Key Concept: 社会的規制(Social Regulation) 安全・健康・環境・消費者保護等を目的とする規制。市場メカニズムでは十分に確保できない価値を保護するために課される。労働基準法、食品衛生法、環境規制等がこれに該当する。

比較項目 経済的規制 社会的規制
目的 市場の失敗の是正・産業秩序の維持 安全・健康・環境等の価値の保護
対象 参入・退出・価格・生産量 製品安全・労働条件・環境基準
規制改革の方向 緩和・撤廃が主流 強化・高度化の方向もあり
典型例 電力・通信・運輸の参入規制 食品安全基準・排出規制・労働基準

1980年代以降の規制改革においては、経済的規制の緩和・撤廃が中心課題となる一方、社会的規制については必ずしも緩和一辺倒ではなく、規制手法の合理化・高度化が追求される傾向にある。

規制の政治経済学

規制はなぜ形成され、誰の利益に資するのか。この問いに対して、規制の公益理論と規制の経済理論(規制の虜理論)という二つの対照的な理論が提示されてきた。

規制の公益理論(public interest theory of regulation)は、規制は市場の失敗を是正し公共の利益を増進するために導入されるとする。自然独占による消費者搾取の防止、外部不経済の内部化、情報の非対称性の是正がその典型的根拠である。この理論は規範的には妥当性を持つが、現実の規制が公益から乖離する事例を十分に説明できないという批判を受けた。

Key Concept: 規制の虜理論(Regulatory Capture Theory) ジョージ・スティグラー(George Stigler)が1971年の論文 "The Theory of Economic Regulation" で提示した理論。規制は被規制産業によって「獲得」(acquire)されるものであり、産業の利益のために設計・運用されるとする。規制機関が被規制者の利益に「捕獲」される構造的傾向を分析した。

スティグラーの理論は以下の論理に基づく。第一に、国家は強制力という資源を持ち、これはあらゆる産業にとって潜在的な資源ないし脅威である。第二に、産業は少数の組織化された利害関係者で構成されるため、分散した消費者よりも政治的に有効に行動できる(集合行為問題におけるオルソンの論理)。第三に、産業は規制を通じて参入障壁の設定、代替財の抑制、補助金の獲得、価格の固定化という四つの便益を追求する。結果として、「原則として、規制は産業によって獲得され、主として産業の利益のために設計・運用される」。

スティグラーの理論はシカゴ学派の規制経済学の基礎をなし、その後、ペルツマン(Sam Peltzman)やベッカー(Gary Becker)によって精緻化された。ペルツマンは、規制者が産業と消費者の双方の支持を最大化するように規制政策を選択するモデルを構築し、スティグラーの産業一辺倒の捕獲理論をより一般的な枠組みへと拡張した。

なお、規制の虜理論は2011年の福島第一原子力発電所事故後、国会事故調査委員会報告書においても援用され、東京電力と原子力安全・保安院の関係が「規制の虜」の構造を示していたと指摘された。この事例は、規制の虜理論が現代においてもなお有効な分析枠組みであることを示している。

日本の規制改革

日本における規制改革は、1980年代の臨時行政調査会(第二次臨調、1981-1983年)に端を発する。土光敏夫会長のもとで「増税なき財政再建」が掲げられ、三公社(日本国有鉄道・日本専売公社・日本電信電話公社)の民営化が実現した。

1990年代以降、規制改革は体系的に進展した。その推進体制は以下のように変遷している。

期間 組織名称 主な成果
1994-1997年 行政改革委員会規制緩和小委員会 規制緩和推進計画の策定
1998-2001年 規制改革委員会 規制改革推進3か年計画
2001-2004年 総合規制改革会議 構造改革特区制度の創設
2004-2007年 規制改革・民間開放推進会議 市場化テストの導入
2007-2010年 規制改革会議 規制改革推進のための3か年計画
2013年- 規制改革推進会議 国家戦略特区の創設、提案募集方式

規制改革の具体的手法として特筆すべきは、特区制度の活用である。

Key Concept: 構造改革特区(Structural Reform Special Zones) 2002年の構造改革特別区域法に基づき創設された制度。全国一律の規制改革が困難な場合に、特定地域に限定して規制の特例措置を適用し、その成果を全国展開する手法。地方公共団体の発意による「実験的規制改革」の仕組みである。

構造改革特区は、規制改革を全国一律に行うことへの政治的抵抗を回避しつつ、地域の自主的提案に基づいて規制の特例措置を試行し、成功事例を全国に波及させる段階的改革手法として機能した。2003年度の第1次認定以来、累計で1,200件以上の特区が認定されている。

2013年には国家戦略特別区域法が制定され、国家戦略特区が創設された。これは「世界で一番ビジネスのしやすい環境」の創出を目標に掲げ、首相主導のもとで大胆な規制・制度改革を実施する仕組みである。構造改革特区が地方発意のボトムアップ型であるのに対し、国家戦略特区は国主導のトップダウン型という点で性格を異にする。


ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)

NPMの理論的基盤

Key Concept: ニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management: NPM) 1980年代以降、英国・ニュージーランド等を起点として世界的に展開した行政改革の理論・手法の総称。民間企業の経営手法を公共部門に導入し、成果志向・競争原理・顧客志向によって行政の効率性と有効性を向上させることを目指す。

NPMの成立背景には、1970年代の財政危機、福祉国家の肥大化に対する批判、「政府の失敗」論の台頭がある。NPMの理論的基盤は以下の三つの学問的潮流から構成される。

第一に、公共選択論(public choice theory) である。ブキャナン(James Buchanan)やニスカネン(William Niskanen)に代表されるこの理論は、政治家や官僚を自己利益を追求する合理的経済人として捉える。ニスカネンは、官僚が予算最大化を志向するために公共部門が過大に膨張する傾向があることを理論的に示した(→ Section 1のP-A理論参照)。公共選択論は、NPMが競争原理の導入や民営化を正当化する理論的根拠を提供した。

第二に、P-A理論 である。Section 1で検討したように、P-A理論は情報の非対称性と利害不一致から生じるモラルハザードやエージェンシー・スラックの問題を分析する。NPMにおいては、この理論が業績測定・成果管理によるエージェント統制の手法を基礎づける。企画立案部門(プリンシパル)と実施執行部門(エージェント)の分離、明確な業績指標の設定と評価がP-A理論の応用的帰結である。

第三に、取引費用理論(transaction cost theory) である。ウィリアムソン(Oliver Williamson)に代表されるこの理論は、組織内部での取引(階層的調整)と市場を通じた取引のどちらが効率的かを取引費用の観点から分析する。NPMにおいては、公共サービスの提供を組織内部で行うか外部委託するかの判断基準として取引費用理論が援用される。

クリストファー・フッド(Christopher Hood)は1991年の論文 "A Public Management for All Seasons?" において、NPMの七つの構成要素を以下のように整理した。

  1. 公共部門における専門職業的管理の実践
  2. 業績の明確な基準と測定手法の確立
  3. 結果(アウトプット)の重視
  4. 公共部門の組織単位への分割
  5. 公共部門への競争原理の導入
  6. 民間部門の経営手法の活用
  7. 資源利用における規律と節約

NPMの主要手法

NPMに基づく行政改革は、以下の四つの手法を柱として展開された。

民営化(Privatization)

公共部門が担ってきた事業を民間部門に移転する手法である。狭義には国有企業の株式売却を指すが、広義には公共サービスの民間委託、公私パートナーシップを含む。英国サッチャー(Margaret Thatcher)政権(1979-1990年)は、ブリティッシュ・テレコム(1984年)、ブリティッシュ・ガス(1986年)、ブリティッシュ・エアウェイズ(1987年)等の大規模民営化を実施し、NPM改革の先駆的事例を提供した。日本においても、前述の三公社民営化(1985-1987年)に続き、郵政民営化(2007年)が実施された。

エージェンシー化(Agencification)

Key Concept: エージェンシー化(Agencification) 行政組織の政策企画立案機能と事業実施執行機能を分離し、実施執行部門を独立した組織(エージェンシー)として設置する手法。エージェンシーには人事・予算・事業運営について大幅な裁量権が付与される一方、業績目標の設定と評価によって統制される。

英国では1988年のネクスト・ステップス(Next Steps)報告書に基づき、エージェンシー制度が導入された。政府の事業実施部門を本省から独立させ、エージェンシーの長に大幅な裁量を委ねる一方で、所管大臣との間で「枠組み文書」(framework document)に基づく業績目標を設定し、成果に基づく統制を行った。最盛期には130以上のエージェンシーが設置され、公務員の約75%がエージェンシーで勤務する状態となった。

日本においては、英国のエージェンシー制度を参考として2001年に独立行政法人制度が創設された。国の事務・事業のうち、政策の企画立案機能と実施機能を分離し、実施部門を独立行政法人として設置する仕組みである。各法人は中期目標に基づく運営を行い、主務大臣が設定する中期目標の達成度について第三者機関による評価を受ける。ただし、日本の独立行政法人制度は英国のエージェンシーと比較して、法人格の付与、独立した会計制度、退職時の解散規定等の点で異なり、より独立性が高い制度設計となっている。

PFI(Private Finance Initiative)

Key Concept: PFI(Private Finance Initiative) 公共施設等の設計・建設・維持管理・運営に民間の資金と経営能力を活用する手法。1992年に英国メージャー(John Major)政権が導入し、日本では1999年のPFI法制定により本格的に導入された。

PFIの基本的な仕組みは、公共施設等の整備において従来の公共調達に替えて、民間事業者に施設の設計・建設から維持管理・運営までを一括して委ねることにある。民間事業者は自ら資金を調達し、リスクを負担する代わりに、サービス対価を長期にわたって公共部門から受け取る。これにより、民間の経営ノウハウと資金力を活用しつつ、VFM(Value for Money: 支払いに対して最も価値の高いサービスを供給すること)の向上を図る。日本では1999年の「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)の制定以来、累計で900件以上の事業が実施されている。

市場化テスト(Market Testing)

公共サービスの提供について、官民の間で競争入札を実施し、より効率的なサービス提供者を選定する手法である。日本では2006年の「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(公共サービス改革法)に基づき導入された。従来行政機関が独占的に提供してきたサービスについて、民間事業者との競争入札を義務付けることで、コスト削減とサービスの質の向上を追求するものである。

graph TD
    subgraph "NPMの理論的基盤"
        A["公共選択論"] --> D["NPM"]
        B["P-A理論"] --> D
        C["取引費用理論"] --> D
    end
    subgraph "NPMの主要手法"
        D --> E["民営化"]
        D --> F["エージェンシー化"]
        D --> G["PFI"]
        D --> H["市場化テスト"]
    end
    subgraph "NPMの基本原理"
        D --> I["成果志向"]
        D --> J["競争原理"]
        D --> K["企画と実施の分離"]
        D --> L["顧客志向"]
    end

NPMの成果と限界

NPMは行政の効率性向上に一定の成果を挙げた。コスト削減、サービス対応の迅速化、業績測定の定着などが主な成果として指摘される。しかし同時に、以下のような限界も明らかとなった。

第一に、測定困難な公共的価値の軽視である。NPMは数量的に測定可能な成果指標を重視するが、公平性・民主的説明責任・社会的包摂といった測定困難な価値が軽視される傾向がある。「測定できるものだけが管理される」(what gets measured gets managed)という問題である。

第二に、組織の断片化(fragmentation)である。エージェンシー化や分権化によって行政組織が細分化された結果、組織間の調整が困難となり、政策の統合性が失われるという問題が生じた。英国では、省庁とエージェンシーの間の責任の所在が曖昧になる事例が報告された。

第三に、取引費用の増大である。契約に基づくガバナンスは、契約の策定・監視・執行にかかる取引費用を発生させる。競争入札の手続き費用、業績測定のためのデータ収集費用、モニタリング費用等が効率化による節約を相殺する場合がある。

第四に、公共部門固有の倫理の侵食である。民間の経営手法が、公務員の公共的使命感や職業倫理を損なうという批判がある。公共サービスの提供者を「顧客」対応の観点のみで評価することは、市民としての権利・義務の関係を矮小化するとの指摘もなされた。


ポストNPMとニュー・パブリック・ガバナンス

NPM批判の潮流

2000年代以降、NPMの限界への反省から複数のポストNPM理論が提示された。これらに共通するのは、NPMが前提とした「市場・競争・分権」のパラダイムの見直しと、統合・協働・ネットワークへの回帰である。

ニュー・パブリック・ガバナンス(NPG)

スティーヴン・オズボーン(Stephen Osborne)は2006年以降の著作において、ニュー・パブリック・ガバナンス(New Public Governance: NPG)を提唱した。NPGは、公共サービスの提供を国家・市場・市民社会の多元的なアクターによるネットワークの中で捉える枠組みである。

比較項目 伝統的行政(OPA) NPM NPG
基盤理論 政治学・行政学 経済学・経営学 社会学・ネットワーク理論
組織原理 階層制(ヒエラルキー) 市場 ネットワーク
統制手法 規則・命令 契約・業績指標 信頼・関係性
市民の位置づけ 被治者 顧客 共同生産者
焦点 インプット・手続き アウトプット・効率性 アウトカム・有効性

ネットワーク・ガバナンス

Key Concept: ネットワーク・ガバナンス(Network Governance) 政府・企業・NPO・市民等の多様なアクターが、水平的なネットワーク関係を通じて公共的問題の解決に協働する統治形態。ヒエラルキー(階層制)でも市場でもない「第三の調整様式」として位置づけられる。

ネットワーク・ガバナンスの理論的基礎は、ロバート・ローズ(R.A.W. Rhodes)が1997年に提示した「中空化する国家」(hollowing out of the state)の議論にある。ローズは、民営化・エージェンシー化・EU統合等により、中央政府の直接的統制力が低下し、政策の形成・実施が政府を超えた多元的なネットワークにおいて行われるようになったと論じた。

ネットワーク・ガバナンスにおいて政府の役割は、直接的なサービス提供者から「メタガバナー」(meta-governor)へと変化する。メタガバナンスとは、ネットワーク自体の設計・促進・調整を行う間接的な統制の手法である。

協働(Co-production)

協働(co-production)は、公共サービスの設計・提供過程に市民を積極的に参加させる手法である。エリノア・オストロム(Elinor Ostrom)が1970年代に概念化したこの手法は、ポストNPMの文脈で再評価された。NPMが市民を「顧客」として受動的に位置づけたのに対し、協働は市民をサービスの「共同生産者」として能動的に位置づける点で、市民と行政の関係を根本的に再構成する。

デジタル時代のガバナンス(DEG)

パトリック・ダンレヴィー(Patrick Dunleavy)らは2006年に「デジタル時代のガバナンス」(Digital Era Governance: DEG)を提唱した。DEGは、NPMの組織断片化を批判し、情報技術を活用した行政の再統合を主張する。DEGの三つの柱は以下の通りである。

  1. 再統合(Reintegration): NPMによって断片化した組織を再統合する。省庁統合、ワンストップ・サービス、バックオフィス機能の共有化等。
  2. 全体主義的ニーズ志向(Needs-based Holism): 行政の縦割り構造を超えて、市民のニーズを起点にサービスを再設計する。ライフイベントに基づくサービス提供等。
  3. デジタル化(Digitalization): 情報技術を活用してサービス提供を変革する。電子申請、オープンデータ、データ駆動型政策立案等。

DEGは、NPMが生み出した問題(断片化・調整コストの増大)を情報技術によって克服しようとする点で、NPMの全面的否定ではなくその批判的継承という性格を持つ。


日本の地方分権改革

地方分権改革の前史

日本の地方自治制度は、戦後改革により日本国憲法第8章に「地方自治」が明記され、地方自治法(1947年)が制定されたことにより法的基盤が確立された。しかし、実態としては中央集権的な構造が維持されていた。その中核に位置していたのが機関委任事務制度である。

Key Concept: 機関委任事務(Agency Delegated Functions) 本来は国の事務であるが、法律または政令により都道府県知事や市町村長を国の機関として位置づけ、その事務の執行を委任する制度。知事・市長は主務大臣の指揮監督下に置かれ、議会の関与も制限された。戦後約150件で発足し、廃止時には561件にまで増加していた。

機関委任事務制度のもとでは、自治体の首長は国の出先機関としての地位を持ち、当該事務について主務大臣の指揮監督を受けた。地方議会は機関委任事務について条例の制定や監査の実施が原則として認められず、地方自治体の自律性は大幅に制約されていた。国と地方の関係は法的に「上下・主従」の関係として構成されていた。

第一次地方分権改革

1993年の衆参両院における「地方分権の推進に関する決議」を契機に、地方分権改革が本格化した。1995年に地方分権推進法が制定され、地方分権推進委員会が設置された。同委員会は5次にわたる勧告を行い、その集大成として1999年に地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)が成立し、2000年4月に施行された。

第一次分権改革の最大の成果は、機関委任事務制度の全面廃止である。従来の機関委任事務は、自治事務と法定受託事務に再編された。

事務区分 性格 国の関与 議会の関与
自治事務 地方公共団体が自主的に処理する事務 技術的助言・勧告が原則 条例制定・監査可能
法定受託事務 国が本来果たすべき役割に係る事務で法律により委託 是正の指示が可能 条例制定・監査可能(一部制限)

機関委任事務の廃止により、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと法的に転換された。また、国と地方の間の紛争を処理するため、国地方係争処理委員会が設置された。

ただし、第一次分権改革には「未完の改革」という評価も多い。とりわけ税財源の移譲が十分になされず、事務・権限の移譲に見合う財政的裏付けが欠けていたことが最大の課題として残された。

三位一体改革

Key Concept: 三位一体改革(Trinity Reform) 小泉純一郎政権(2001-2006年)のもとで実施された地方財政改革。(1)国庫補助負担金の改革(約4.7兆円削減)、(2)税源移譲(所得税から個人住民税へ約3兆円)、(3)地方交付税の改革(約5.1兆円削減)の三つを一体的に行うことを目指した。

三位一体改革は、第一次分権改革で積み残された税財源問題への対応として位置づけられる。しかし、その評価は分かれている。

税源移譲が実現した点は評価される一方で、国庫補助負担金の削減が補助率の引下げにとどまり真の自由度向上につながらなかった点、地方交付税の大幅削減が財政力の弱い自治体に深刻な影響を与えた点が批判された。結果として、地方間の財政格差がむしろ拡大したとの指摘がなされている。

第二次地方分権改革

2006年の地方分権改革推進法に基づき、地方分権改革推進委員会が設置され、第二次地方分権改革が始動した。第二次改革の特徴は、義務付け・枠付けの見直しと権限移譲を中心課題とした点にある。

「義務付け・枠付け」とは、国の法令によって地方公共団体の事務の実施方法や基準を縛る仕組みである。自治事務であっても、法令で施設の面積基準や職員の配置基準を詳細に定めることで、実質的に地方の自主性が制約されていた。地方分権改革推進委員会は4次にわたる勧告において、これらの義務付け・枠付けの見直しを求めた。

2011年以降、累次の地方分権一括法(第1次~第13次、2024年時点)が制定され、義務付け・枠付けの見直し、国から地方への事務・権限の移譲が段階的に進められた。2014年からは提案募集方式が導入され、個別の地方公共団体が分権改革に関する提案を行い、その実現に向けて検討する仕組みへと移行した。これは従来の国主導・委員会勧告型から、地方発意・ボトムアップ型への転換を意味する。

timeline
    title 日本の地方分権改革の展開
    1993 : 衆参両院 地方分権推進決議
    1995 : 地方分権推進法制定
         : 地方分権推進委員会設置
    1999 : 地方分権一括法成立
    2000 : 機関委任事務制度の廃止
         : 国と地方の関係を対等・協力へ
    2004-2006 : 三位一体改革
              : 税源移譲 約3兆円
              : 交付税削減 約5.1兆円
    2006 : 地方分権改革推進法
         : 第二次分権改革の開始
    2011-2024 : 累次の地方分権一括法
              : 義務付け・枠付けの見直し
    2014 : 提案募集方式の導入

道州制論議

地方分権改革の延長線上に、都道府県を廃止して広域的な行政単位としての「道」「州」を設置する道州制論議がある。第28次地方制度調査会は2006年に道州制の導入を答申したが、以下の論点が対立しており、実現には至っていない。

論点 推進論 慎重論
行政効率 広域行政の効率化が可能 統合コストが膨大
権限移譲 国の事務権限の大幅な移譲が可能 基礎自治体の弱体化の懸念
地域格差 広域的な資源配分の最適化 州間格差が新たに発生
住民自治 都道府県の形骸化の解消 行政単位の拡大による住民自治の希薄化

道州制論議は2010年代以降やや低調であるが、人口減少社会における行政体制の持続可能性という観点から、広域連携や圏域行政のあり方とともに引き続き検討課題となっている。


まとめ

  • 規制行政の理論は、公益理論と経済理論(規制の虜理論)の対立を軸に展開してきた。スティグラーの規制の虜理論は、規制が被規制産業に「捕獲」される構造的傾向を明らかにし、規制改革の理論的基盤を提供した
  • NPMは、公共選択論・P-A理論・取引費用理論を基盤として、民営化・エージェンシー化・PFI・市場化テストなどの手法を通じて行政の効率化を追求した。一方で、公共的価値の軽視、組織の断片化、取引費用の増大といった限界も明らかとなった
  • ポストNPMの潮流は、NPMの限界を踏まえ、ネットワーク・ガバナンス、協働、デジタル時代のガバナンス(DEG)など、統合・参加・デジタル化を志向する新たな理論枠組みを発展させている
  • 日本の地方分権改革は、第一次改革における機関委任事務制度の廃止、三位一体改革による税財源の再編、第二次改革における義務付け・枠付けの見直しを経て、提案募集方式による地方発意型の改革へと移行している
  • 規制改革・NPM・地方分権は相互に連関しており、いずれも「政府の役割の再定義」という共通の問題意識に基づく

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
経済的規制 Economic Regulation 市場への参入・退出、価格設定等に関する規制
社会的規制 Social Regulation 安全・健康・環境・消費者保護等を目的とする規制
規制の虜理論 Regulatory Capture Theory 規制機関が被規制産業の利益に捕獲される構造的傾向を分析する理論
ニュー・パブリック・マネジメント New Public Management: NPM 民間の経営手法を公共部門に導入する行政改革の理論・手法の総称
エージェンシー化 Agencification 政策企画と事業実施を分離し実施部門を独立組織化する手法
PFI Private Finance Initiative 公共施設整備に民間資金と経営能力を活用する手法
市場化テスト Market Testing 公共サービスの官民競争入札制度
ネットワーク・ガバナンス Network Governance 多様なアクターの水平的ネットワークによる統治形態
協働 Co-production 公共サービスの設計・提供過程への市民参加
デジタル時代のガバナンス Digital Era Governance: DEG 情報技術による行政の再統合を主張するポストNPM理論
機関委任事務 Agency Delegated Functions 国の事務を自治体首長に委任する制度(2000年廃止)
自治事務 Autonomous Functions 地方公共団体が自主的に処理する事務
法定受託事務 Legally Entrusted Functions 国が本来果たすべき役割に係る事務で法律により地方に委託される事務
三位一体改革 Trinity Reform 国庫補助負担金・税源移譲・地方交付税の三つの改革を一体的に行う財政改革
構造改革特区 Structural Reform Special Zones 特定地域に限定して規制の特例措置を適用する制度
義務付け・枠付け Mandatory Requirements and Frameworks 国の法令により地方の事務の実施方法を拘束する仕組み
提案募集方式 Proposal Recruitment Method 地方公共団体の提案に基づく分権改革の推進方式

確認問題

Q1: 経済的規制と社会的規制の違いを説明し、1980年代以降の規制改革においてそれぞれどのような方向性が採られたかを述べよ。 A1: 経済的規制は市場への参入・退出、価格設定等に関する規制であり、自然独占等の市場の失敗の是正を名目とする。社会的規制は安全・健康・環境等の価値の保護を目的とする規制である。1980年代以降の規制改革では、経済的規制については競争促進の観点から緩和・撤廃が主流となった。他方、社会的規制については規制手法の合理化・科学的根拠に基づく高度化が追求され、必ずしも緩和一辺倒ではない。

Q2: スティグラーの規制の虜理論の核心的主張を説明し、規制の公益理論との対比において述べよ。 A2: 規制の公益理論が、規制は市場の失敗を是正し公共の利益を増進するために導入されると説くのに対し、スティグラーの規制の虜理論は、規制は被規制産業によって「獲得」され、産業の利益のために設計・運用されると主張する。産業は少数の組織化された利害関係者で構成されるため、分散した消費者よりも政治的に有効に行動でき、規制を通じて参入障壁の設定や価格の固定化等の便益を追求する。規制機関は構造的に被規制者の利益に「捕獲」される傾向がある。

Q3: NPMの理論的基盤を構成する三つの学問的潮流を挙げ、それぞれがNPMのいかなる手法を基礎づけているかを説明せよ。 A3: 第一に、公共選択論は官僚の予算最大化行動や政府の肥大化を理論的に説明し、競争原理の導入や民営化の正当化根拠を提供した。第二に、P-A理論は情報の非対称性と利害不一致の問題を分析し、業績測定・成果管理による統制、企画立案部門と実施部門の分離(エージェンシー化)を基礎づけた。第三に、取引費用理論は組織内部の階層的調整と市場取引の効率性比較の枠組みを提供し、公共サービスの内部提供か外部委託かの判断基準(PFI、市場化テスト等)を基礎づけた。

Q4: 第一次地方分権改革における機関委任事務制度の廃止の意義を、国と地方の関係の変化の観点から説明せよ。 A4: 機関委任事務制度のもとでは、自治体の首長は国の出先機関として主務大臣の指揮監督を受け、地方議会の関与も制限されていた。国と地方の関係は法的に「上下・主従」の関係であった。1999年の地方分権一括法により機関委任事務が廃止され、自治事務と法定受託事務に再編されたことで、国と地方の関係は「対等・協力」へと法的に転換された。地方議会は両事務について条例制定・監査が可能となり、国地方係争処理委員会の設置により紛争処理の仕組みも整備された。

Q5: NPMとポストNPM(ニュー・パブリック・ガバナンス)の相違点を、組織原理・市民の位置づけ・統制手法の三つの観点から比較して論じよ。 A5: 組織原理について、NPMが市場メカニズムと競争原理を基本とするのに対し、NPGは多様なアクター間のネットワークを基本とする。市民の位置づけについて、NPMが市民を公共サービスの「顧客」として受動的に位置づけるのに対し、NPGは市民をサービスの「共同生産者」(co-producer)として能動的に位置づける。統制手法について、NPMが契約と業績指標に基づく統制を重視するのに対し、NPGは信頼と関係性に基づくネットワーク管理(メタガバナンス)を重視する。NPGはNPMの組織断片化や公共的価値の軽視への反省から生まれた理論であり、統合・協働・関係性を重視する点でNPMと対照をなす。