Module 1-1 - Section 1: 需要・供給と市場均衡¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-1: 経済学基礎(ミクロ・マクロ) |
| 前提セクション | なし |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
ミクロ経済学の中心的な分析枠組みは、需要と供給のモデルである。市場における財・サービスの価格と取引量がどのように決定されるかを理解することは、経営上の意思決定——価格設定、生産量の決定、市場参入の判断——の基盤となる。
本セクションでは、需要と供給の基本法則から出発し、市場均衡の決定メカニズム、弾力性の概念、そして余剰分析による市場の効率性評価までを体系的に扱う。これらの概念は、後続のセクションで学ぶ消費者理論・生産者理論・市場構造論の前提知識となる。
需要の概念と需要曲線¶
需要の法則¶
Key Concept: 需要曲線(Demand Curve) ある財の価格と、その価格において消費者が購入しようとする数量(需要量)の関係を図示した曲線。通常、価格を縦軸、数量を横軸にとる。
需要(demand)とは、消費者がある財を一定期間内に購入する意思と能力の双方を備えた数量を指す。単なる欲求(want)とは異なり、支払い能力(purchasing power)を伴う点が重要である。
需要の法則(law of demand)は、「他の条件が一定(ceteris paribus)のとき、財の価格が上昇すれば需要量は減少し、価格が下落すれば需要量は増加する」と述べる。この逆の関係が成立する理由は主に2つある。
- 代替効果(substitution effect): 価格が上昇した財の代わりに、相対的に安価になった他の財を購入する傾向
- 所得効果(income effect): 価格上昇により実質所得が低下し、購買力が減少する効果
需要曲線は通常、右下がりの形状をとる。これは需要の法則を図示したものである。
需要曲線のシフト要因¶
需要曲線上の移動(movement along the curve)と、需要曲線そのもののシフト(shift of the curve)を区別することが重要である。価格変化は曲線上の移動を引き起こすが、以下の要因は曲線全体をシフトさせる。
| シフト要因 | 右シフト(需要増加) | 左シフト(需要減少) |
|---|---|---|
| 所得の変化 | 正常財: 所得増加 | 正常財: 所得減少 |
| 関連財の価格 | 代替財の価格上昇 / 補完財の価格下落 | 代替財の価格下落 / 補完財の価格上昇 |
| 消費者の嗜好 | 選好の強まり | 選好の弱まり |
| 人口・市場規模 | 消費者数の増加 | 消費者数の減少 |
| 将来の期待 | 将来の価格上昇予想 | 将来の価格下落予想 |
正常財(normal goods) は所得増加に伴い需要が増加する財であり、劣等財(inferior goods) は所得増加に伴い需要が減少する財である。たとえば、所得が増加すると外食(正常財)の需要は増え、カップ麺(劣等財)の需要は減少する傾向がある。
代替財(substitutes) は互いに代替関係にある財(コーヒーと紅茶など)、補完財(complements) は一緒に消費される財(自動車とガソリンなど)である。
供給の概念と供給曲線¶
供給の法則¶
Key Concept: 供給曲線(Supply Curve) ある財の価格と、その価格において生産者が市場に供給しようとする数量(供給量)の関係を図示した曲線。通常、右上がりの形状をとる。
供給(supply)とは、生産者がある財を一定期間内に市場で販売する意思と能力を備えた数量を指す。
供給の法則(law of supply)は、「他の条件が一定のとき、財の価格が上昇すれば供給量は増加し、価格が下落すれば供給量は減少する」と述べる。価格上昇は生産者にとって利潤拡大の機会を意味し、より多くの生産を動機づけるためである。供給曲線は通常、右上がりの形状をとる。
供給曲線のシフト要因¶
供給曲線も価格変化による曲線上の移動と、曲線全体のシフトを区別する必要がある。
| シフト要因 | 右シフト(供給増加) | 左シフト(供給減少) |
|---|---|---|
| 投入要素の価格 | 原材料・賃金の低下 | 原材料・賃金の上昇 |
| 技術水準 | 技術革新 | — |
| 生産者数 | 市場参入の増加 | 市場からの退出 |
| 政府の政策 | 補助金の交付 | 規制の強化・増税 |
| 自然条件 | 豊作(農産物の場合) | 自然災害 |
| 将来の期待 | 将来の価格下落予想 | 将来の価格上昇予想 |
たとえば、半導体製造技術の革新は電子機器の供給曲線を右にシフトさせ、同じ価格でもより多くの製品が供給される。逆に、原油価格の高騰はガソリンの供給曲線を左にシフトさせる。
市場均衡¶
均衡価格と均衡取引量の決定メカニズム¶
Key Concept: 市場均衡(Market Equilibrium) 需要量と供給量が一致する状態。このとき成立する価格を均衡価格(equilibrium price)、取引量を均衡取引量(equilibrium quantity)と呼ぶ。
市場均衡は需要曲線と供給曲線の交点で決定される。均衡価格においては、消費者が購入したい量と生産者が販売したい量が等しく、価格を変化させる力が作用しない。
均衡への収束メカニズムは次のように機能する。
- 超過需要(excess demand): 市場価格が均衡価格より低い場合、需要量が供給量を上回る。品不足が生じ、消費者間の競争により価格は上昇する。
- 超過供給(excess supply): 市場価格が均衡価格より高い場合、供給量が需要量を上回る。売れ残りが生じ、生産者間の競争により価格は下落する。
このように、市場メカニズムは超過需要・超過供給を解消する方向に価格を調整し、均衡へと収束させる。アダム・スミス(Adam Smith)はこの自律的調整機能を「見えざる手(invisible hand)」と呼んだ。
graph TD
A["市場価格 P の設定"] --> B{"P と均衡価格 P* の比較"}
B -->|"P < P*"| C["超過需要発生<br/>需要量 > 供給量"]
B -->|"P > P*"| D["超過供給発生<br/>供給量 > 需要量"]
B -->|"P = P*"| E["均衡状態<br/>需要量 = 供給量"]
C --> F["価格上昇圧力"]
D --> G["価格下落圧力"]
F --> A
G --> A
E --> H["市場均衡の成立"]
比較静学¶
Key Concept: 比較静学(Comparative Statics) 外生的な条件変化の前後で均衡状態を比較する分析手法。変化の過程ではなく、2つの均衡状態の差異に着目する。
比較静学は、需要曲線や供給曲線のシフトが均衡にどのような変化をもたらすかを分析する方法である。
| 変化 | 均衡価格 | 均衡取引量 |
|---|---|---|
| 需要増加(右シフト)、供給不変 | 上昇 | 増加 |
| 需要減少(左シフト)、供給不変 | 下落 | 減少 |
| 供給増加(右シフト)、需要不変 | 下落 | 増加 |
| 供給減少(左シフト)、需要不変 | 上昇 | 減少 |
| 需要増加 + 供給増加 | 不確定 | 増加 |
| 需要増加 + 供給減少 | 上昇 | 不確定 |
具体例: 猛暑の夏にアイスクリーム市場を考える。高気温により消費者の需要が増加(需要曲線の右シフト)する一方、原材料の牛乳価格が安定していれば供給は不変である。結果、均衡価格は上昇し、均衡取引量も増加する。
需要と供給の双方が同時にシフトする場合、価格と取引量のいずれか一方の変化方向は確定するが、もう一方はシフトの相対的な大きさに依存するため不確定となる。
弾力性¶
弾力性(elasticity)は、ある経済変数の変化に対して別の経済変数がどの程度反応するかを測定する指標である。
需要の価格弾力性¶
Key Concept: 価格弾力性(Price Elasticity) 価格の変化率に対する需要量(または供給量)の変化率の比。需要の反応度を測定する尺度であり、弾力的(elastic)・非弾力的(inelastic)・単位弾力的(unit elastic)に分類される。
需要の価格弾力性(price elasticity of demand: PED)は次の式で定義される。
$$ E_d = \frac{\text{需要量の変化率}}{\text{価格の変化率}} = \frac{\%\Delta Q_d}{\%\Delta P} $$
需要の法則により需要量と価格は逆方向に変化するため、PEDは負の値をとるが、慣習的に絶対値で議論する。
| 分類 | 絶対値 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| 完全非弾力的 | 0 | 価格変化に全く反応しない | インスリン(糖尿病患者にとって) |
| 非弾力的 | 0 < |E_d| < 1 | 価格変化に対する反応が小さい | ガソリン、米 |
| 単位弾力的 | 1 | 価格変化率と需要量変化率が等しい | — |
| 弾力的 | |E_d| > 1 | 価格変化に対する反応が大きい | ブランド品、外食 |
| 完全弾力的 | ∞ | わずかな価格上昇で需要量がゼロに | 完全競争下の個別企業の需要 |
中点法(midpoint method): 弾力性の計算において、始点と終点のどちらを基準にするかで値が変わる問題を避けるため、変化前後の平均値を基準にする方法が用いられる。
$$ E_d = \frac{(Q_2 - Q_1) / [(Q_1 + Q_2)/2]}{(P_2 - P_1) / [(P_1 + P_2)/2]} $$
弾力性の決定要因: - 代替財の存在: 代替財が多いほど弾力的(バターはマーガリンで代替可能) - 必需品か奢侈品か: 必需品は非弾力的、奢侈品は弾力的 - 支出に占める割合: 支出に占める割合が大きい財ほど弾力的 - 時間的視野: 長期ほど弾力的(調整の余地が広がるため)
所得弾力性と交差弾力性¶
需要の所得弾力性(income elasticity of demand) は、所得の変化率に対する需要量の変化率の比である。
$$ E_I = \frac{\%\Delta Q_d}{\%\Delta I} $$
- $E_I > 0$: 正常財(所得増加で需要増加)
- $0 < E_I < 1$: 必需財(所得増加率より需要増加率が小さい)
- $E_I > 1$: 奢侈財(所得増加率より需要増加率が大きい)
- $E_I < 0$: 劣等財(所得増加で需要減少)
需要の交差弾力性(cross-price elasticity of demand) は、関連する別の財の価格変化率に対する需要量の変化率の比である。
$$ E_{XY} = \frac{\%\Delta Q_X}{\%\Delta P_Y} $$
- $E_{XY} > 0$: 代替財(Y財の価格上昇でX財の需要増加)
- $E_{XY} < 0$: 補完財(Y財の価格上昇でX財の需要減少)
- $E_{XY} = 0$: 独立財(無関係)
供給の価格弾力性¶
供給の価格弾力性(price elasticity of supply: PES)は、価格変化率に対する供給量変化率の比である。供給の法則により通常は正の値をとる。
$$ E_s = \frac{\%\Delta Q_s}{\%\Delta P} $$
供給の弾力性は生産の調整容易性に依存する。生産拡大が容易な財(デジタル製品など)は弾力的であり、生産拡大に長期を要する財(不動産、農産物など)は非弾力的である。短期では供給は非弾力的になりやすく、長期では弾力的になる傾向がある。
graph TD
subgraph 弾力性の体系
A["弾力性(Elasticity)"] --> B["需要の価格弾力性"]
A --> C["供給の価格弾力性"]
A --> D["所得弾力性"]
A --> E["交差弾力性"]
end
B --> B1["弾力的: |Ed| > 1"]
B --> B2["非弾力的: |Ed| < 1"]
B --> B3["単位弾力的: |Ed| = 1"]
D --> D1["正常財: EI > 0"]
D --> D2["劣等財: EI < 0"]
D1 --> D3["必需財: 0 < EI < 1"]
D1 --> D4["奢侈財: EI > 1"]
E --> E1["代替財: EXY > 0"]
E --> E2["補完財: EXY < 0"]
余剰分析¶
消費者余剰と生産者余剰¶
Key Concept: 消費者余剰(Consumer Surplus) 消費者が財に対して支払ってもよいと考える最大金額(支払意思額)と、実際に支払う価格との差額の合計。需要曲線と市場価格の間の面積で表される。
Key Concept: 生産者余剰(Producer Surplus) 生産者が実際に受け取る価格と、その財を供給するために最低限受け入れ可能な価格(限界費用)との差額の合計。市場価格と供給曲線の間の面積で表される。
消費者余剰は、消費者が市場取引から得る便益を金銭的に測定したものであり、需要曲線の下側かつ価格線の上側の面積に等しい。直感的には「お買い得感」の総量といえる。
生産者余剰は、生産者が市場取引から得る便益であり、価格線の下側かつ供給曲線の上側の面積に等しい。
総余剰(total surplus) は消費者余剰と生産者余剰の合計であり、市場取引によって社会全体が得る便益を表す。競争市場における均衡は総余剰を最大化する——これが市場の効率性の根拠である。
課税の効果と死荷重¶
政府が財に従量税(per-unit tax)を課すと、市場均衡に以下の変化が生じる。
- 税のくさび(tax wedge): 買い手が支払う価格と売り手が受け取る価格の間に税額分の差が生じる
- 取引量の減少: 均衡取引量が税導入前より減少する
- 税収の発生: 税額 × 取引量が政府の税収となる
- 死荷重(deadweight loss)の発生: 取引量の減少により、課税がなければ実現していた取引から得られるはずの余剰が失われる
課税後の余剰配分は以下のようになる。
| 項目 | 変化 |
|---|---|
| 消費者余剰 | 減少 |
| 生産者余剰 | 減少 |
| 政府の税収 | 増加(新規発生) |
| 死荷重 | 増加(新規発生) |
| 総余剰 | 減少(死荷重分) |
税の帰着(tax incidence) ——税負担が買い手と売り手にどう配分されるか——は、需要と供給の価格弾力性の相対的な大きさによって決まる。
- 需要が供給より非弾力的な場合: 買い手がより多くの税負担を負う
- 供給が需要より非弾力的な場合: 売り手がより多くの税負担を負う
この原則は「弾力性の小さい側がより多くの負担を負う」と要約される。
具体例: 日本の消費税率引き上げ(8% → 10%、2019年)を考える。生活必需品(米、食パン等)は需要が非弾力的であるため、税負担の多くは消費者に転嫁される。一方、外食やブランド品のような需要が弾力的な財では、価格転嫁が困難であり、生産者(事業者)側の負担割合が相対的に大きくなる。なお、日本では軽減税率制度が導入され、飲食料品等は8%に据え置かれている。
まとめ¶
- 需要の法則: 価格上昇で需要量は減少する(代替効果と所得効果)。需要曲線は右下がり
- 供給の法則: 価格上昇で供給量は増加する。供給曲線は右上がり
- 市場均衡: 需要曲線と供給曲線の交点で均衡価格・均衡取引量が決まる。超過需要・超過供給は価格調整により解消される
- 比較静学: 需要・供給曲線のシフトによる均衡の変化を分析する手法。双方が同時にシフトする場合、一方の変化方向は不確定となる
- 弾力性: 価格弾力性・所得弾力性・交差弾力性により、需要・供給の反応度を定量的に把握できる。弾力性は代替財の存在、必需品/奢侈品の別、時間的視野に依存する
- 余剰分析: 消費者余剰と生産者余剰の合計(総余剰)が市場の効率性を測る。課税は死荷重を発生させ、税負担は弾力性の小さい側により多く帰着する
次のセクション(消費者理論)では、需要曲線の背後にある消費者の最適化行動(効用最大化、予算制約、無差別曲線)を詳しく分析する。また、生産者理論のセクションでは供給曲線の背後にある企業の費用構造と利潤最大化行動を扱う。
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 需要曲線 | Demand Curve | 財の価格と需要量の関係を示す曲線。通常、右下がり |
| 供給曲線 | Supply Curve | 財の価格と供給量の関係を示す曲線。通常、右上がり |
| 市場均衡 | Market Equilibrium | 需要量と供給量が一致し、価格変化の圧力が存在しない状態 |
| 均衡価格 | Equilibrium Price | 市場均衡において成立する価格 |
| 均衡取引量 | Equilibrium Quantity | 市場均衡において取引される数量 |
| 比較静学 | Comparative Statics | 外生条件変化の前後で均衡状態を比較する分析手法 |
| 価格弾力性 | Price Elasticity | 価格変化率に対する需要量(または供給量)変化率の比 |
| 所得弾力性 | Income Elasticity of Demand | 所得変化率に対する需要量変化率の比 |
| 交差弾力性 | Cross-Price Elasticity of Demand | 関連財の価格変化率に対する需要量変化率の比 |
| 消費者余剰 | Consumer Surplus | 支払意思額と実際の支払額の差の合計 |
| 生産者余剰 | Producer Surplus | 実際の受取価格と最低受入価格の差の合計 |
| 総余剰 | Total Surplus | 消費者余剰と生産者余剰の合計。市場の効率性の尺度 |
| 死荷重 | Deadweight Loss | 課税等の市場介入により失われる余剰 |
| 正常財 | Normal Goods | 所得増加に伴い需要が増加する財 |
| 劣等財 | Inferior Goods | 所得増加に伴い需要が減少する財 |
| 代替財 | Substitutes | 一方の価格上昇が他方の需要を増加させる財の組 |
| 補完財 | Complements | 一方の価格上昇が他方の需要を減少させる財の組 |
| 税の帰着 | Tax Incidence | 税負担が買い手と売り手にどう配分されるかの問題 |
確認問題¶
Q1: 需要曲線の「シフト」と需要曲線上の「移動」の違いを説明し、それぞれの原因を挙げよ。
A1: 需要曲線上の移動は、当該財自体の価格変化によって需要量が変化することを指す(例: ガソリン価格の上昇による需要量の減少)。一方、需要曲線のシフトは、価格以外の要因——消費者所得の変化、関連財の価格変化、嗜好の変化、人口変動、将来への期待——により、すべての価格水準における需要量が変化することを指す。たとえば、消費者所得の増加は正常財の需要曲線全体を右にシフトさせる。
Q2: ある市場で需要が増加し、同時に供給が減少した場合、均衡価格と均衡取引量はそれぞれどう変化するか。不確定な場合はその理由も述べよ。
A2: 均衡価格は確実に上昇する(需要増加は価格上昇要因、供給減少も価格上昇要因であり、両方が同じ方向に作用するため)。一方、均衡取引量は不確定である。需要増加は取引量を増やす方向に、供給減少は取引量を減らす方向に作用するため、最終的な変化は需要シフトと供給シフトの相対的な大きさに依存する。
Q3: 需要の価格弾力性が1より小さい財(非弾力的な財)に対して売り手が値上げを行った場合、売上収入(価格 × 販売量)はどう変化するか。理由とともに説明せよ。
A3: 売上収入は増加する。非弾力的な財では、価格の上昇率に対して需要量の減少率が小さい。したがって、価格上昇による収入増加効果が、販売量減少による収入減少効果を上回り、結果として売上収入は増える。たとえばガソリン(短期的に非弾力的)の価格が10%上昇しても、需要量の減少は10%未満にとどまるため、売上収入は増加する。
Q4: 消費税が課された場合、その負担が消費者と生産者にどう配分されるかは何によって決まるか。必需品(米など)と奢侈品(高級時計など)の場合を比較して説明せよ。
A4: 税負担の配分は需要と供給の価格弾力性の相対的な大きさによって決まる。弾力性が小さい側がより多くの税負担を負う。米のような必需品は需要が非弾力的であるため、消費者がより多くの税負担を負う(価格上昇しても購入量をあまり減らせないため)。高級時計のような奢侈品は需要が弾力的であるため、価格転嫁が困難であり、生産者側の負担割合が相対的に大きくなる(消費者が価格上昇に敏感に反応し購入を控えるため)。
Q5: 死荷重(deadweight loss)とは何か。なぜ課税は死荷重を発生させるのか、余剰分析の観点から説明せよ。
A5: 死荷重とは、市場への介入(課税等)により、本来実現するはずの取引が行われなくなることで失われる経済的余剰である。課税により、買い手の支払価格と売り手の受取価格の間に税額分の乖離(税のくさび)が生じる。この結果、課税前であれば売り手の費用を上回る支払意思額を持ち取引が成立していた消費者と生産者の一部が、取引を行わなくなる。失われた取引から得られるはずだった消費者余剰と生産者余剰の合計が死荷重であり、政府の税収では回収されない純損失となる。