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Module 1-1 - Section 2: 消費者理論

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-1: 経済学基礎(ミクロ・マクロ)
前提セクション Section 1
想定学習時間 3時間

導入

前セクションでは、需要曲線が「価格と需要量の関係」を示すことを学び、その背後にある代替効果と所得効果にも触れた。しかし、需要曲線がなぜ右下がりになるのか、消費者はどのようにして財の組み合わせを選択するのかという問いには、より精緻な理論的枠組みが必要である。

本セクションでは、消費者の選好と予算制約に基づく最適消費の決定メカニズムを体系的に扱う。効用の概念から出発し、無差別曲線による選好の表現、予算制約のもとでの最適化、価格変化に対する所得効果と代替効果の分解、そして個別需要曲線の導出までを展開する。これらは、前セクションで所与としていた需要曲線の「ミクロ的基礎付け(microfoundation)」にあたるものであり、経営学における消費者行動の分析にも直結する。


効用の概念

基数的効用と序数的効用

Key Concept: 効用(Utility) 消費者が財やサービスの消費から得る満足の度合い。経済学では、消費者の選好を数理的に表現するための概念として用いられる。

効用概念の歴史は、1870年代の限界革命(marginal revolution)にまで遡る。ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ(William Stanley Jevons)、カール・メンガー(Carl Menger)、レオン・ワルラス(Léon Walras)の3人がほぼ同時期に、財の価値は生産コストではなく消費者の主観的な満足度(効用)の「限界的な増分」によって決まるという理論を提唱した。

初期の効用理論では、効用を快楽の量として数値的に測定可能と考えた。これが基数的効用(cardinal utility)の立場である。「リンゴ1個の効用は10、ミカン1個の効用は6」のように、絶対的な数値で効用を表し、その差や比率にも意味を持たせる。

しかし、20世紀に入り、ヴィルフレド・パレート(Vilfredo Pareto)は1900年頃から、効用の絶対値を測定する必要はなく、消費者がどちらの組み合わせを「より好む」かという順序関係さえわかればよいと主張した。この考え方を序数的効用(ordinal utility)と呼ぶ。1930年代にジョン・ヒックス(John R. Hicks)とロイ・アレン(Roy G.D. Allen)がこの枠組みを精緻化し、現代ミクロ経済学の標準的な消費者理論は序数的効用に基づいている。

序数的効用の立場では、効用関数 $u(x_1, x_2)$ の値そのものに意味はなく、$u(A) > u(B)$ ならば消費者は組み合わせAをBより好む、という順序関係のみが情報を持つ。したがって、効用関数の単調増加変換(例: $v = 2u + 5$)を施しても、選好の順序は変わらず、同一の消費者行動を記述する。

限界効用と限界効用逓減の法則

Key Concept: 限界効用(Marginal Utility) 他の財の消費量を一定に保ったまま、ある財の消費を1単位追加したときの効用の増分。数学的には効用関数の偏微分 $MU_i = \partial u / \partial x_i$ で表される。

限界効用逓減の法則(law of diminishing marginal utility)とは、ある財の消費量が増加するにつれて、追加1単位から得られる効用の増分が次第に小さくなるという経験則である。1杯目のコーヒーから得る満足は大きいが、3杯目、4杯目になると追加的な満足は小さくなる。この法則は基数的効用の枠組みで定式化されたものであるが、序数的効用の枠組みにおいても、無差別曲線が原点に凸であるという性質と整合的である。


無差別曲線と選好

選好の公理

消費者理論は、消費者の選好に関する以下の3つの基本公理を前提とする。

公理 内容
完備性(completeness) 任意の2つの財の組み合わせAとBについて、AをBより好む、BをAより好む、または無差別のいずれかが成立する
推移性(transitivity) AをBより好み、BをCより好むならば、AをCより好む
非飽和性(non-satiation) 少なくとも一方の財がより多い組み合わせを、そうでない組み合わせより好む(多いほど良い)

これらの公理を満たす選好関係は、効用関数によって表現できることが知られている。

無差別曲線の定義と性質

Key Concept: 無差別曲線(Indifference Curve) 消費者に同一の効用水準をもたらす財の組み合わせを結んだ曲線。無差別曲線上のどの点を選んでも、消費者の満足度は等しい。

2財モデル(財1: 食料、財2: 衣服 とする)を考える。消費者がある効用水準 $\bar{u}$ を達成するすべての $(x_1, x_2)$ の組み合わせを平面上にプロットすると、1本の無差別曲線が得られる。効用水準を変えると、別の無差別曲線が描かれ、無差別曲線の集合(無差別曲線地図、indifference map)が形成される。

無差別曲線は以下の4つの性質を持つ。

1. 右下がりである 非飽和性の公理から導かれる。一方の財を増やしたとき効用を一定に保つには、他方の財を減らす必要がある。

2. 2本の無差別曲線は交わらない 推移性の公理から導かれる。もし2本の無差別曲線が交点Pを持つとすると、曲線1上の点Aと曲線2上の点BはともにPと無差別であるから、推移性よりAとBも無差別でなければならない。しかしAとBは異なる効用水準にあるとしているため矛盾が生じる。

3. 原点から遠い無差別曲線ほど高い効用水準を表す 非飽和性の公理による。原点から遠い曲線上の点は、より多くの財を含むため、より高い効用をもたらす。

4. 原点に凸(convex to the origin)である 限界代替率が逓減するという仮定に対応する。2つの極端な組み合わせの平均(中間的な組み合わせ)が、極端な組み合わせと少なくとも同等に好まれる。

限界代替率

Key Concept: 限界代替率(Marginal Rate of Substitution, MRS) 効用水準を一定に保ったまま、財1を1単位追加するために消費者が放棄してよいと考える財2の最大量。無差別曲線上の各点における接線の傾きの絶対値に等しい。

数学的には、無差別曲線 $u(x_1, x_2) = \bar{u}$ 上で全微分を取ると、

$$du = MU_1 \cdot dx_1 + MU_2 \cdot dx_2 = 0$$

から、

$$MRS_{12} = -\frac{dx_2}{dx_1} = \frac{MU_1}{MU_2}$$

と表される。限界代替率は2財の限界効用の比に等しい。

限界代替率逓減の法則(diminishing MRS) とは、財1の消費量を増やすにつれてMRSが低下する(財1の追加1単位に対して放棄してもよい財2の量が減る)という性質である。食料をすでに多く持っている消費者は、追加の食料1単位と交換に衣服を大量に手放そうとはしない。この性質が、無差別曲線を原点に凸にする。

コーヒーと紅茶の選択で直感的に説明すると、コーヒーを1杯しか持っていないときは紅茶3杯と交換してもよいと思うかもしれないが、コーヒーを5杯持っているときは紅茶1杯との交換でも十分と感じる。これがMRSの逓減である。


予算制約

予算制約線の定義

Key Concept: 予算制約線(Budget Constraint) 所得と財の価格が与えられたとき、消費者が購入可能な財の組み合わせの上限を示す直線。$p_1 x_1 + p_2 x_2 = I$($p_i$: 財$i$の価格、$I$: 所得)で表される。

消費者の所得を $I$、財1の価格を $p_1$、財2の価格を $p_2$ とすると、購入可能な組み合わせは以下の不等式を満たす。

$$p_1 x_1 + p_2 x_2 \leq I$$

等号が成立する場合が予算制約線であり、その下側の領域が予算集合(budget set)である。予算制約線を $x_2$ について解くと、

$$x_2 = \frac{I}{p_2} - \frac{p_1}{p_2} x_1$$

となり、縦軸切片は $I/p_2$、横軸切片は $I/p_1$、傾きは $-p_1/p_2$(価格比のマイナス)である。

予算制約線の変化

所得の変化: 所得 $I$ が増加すると、傾き $-p_1/p_2$ は不変のまま、予算制約線は原点から離れる方向に平行シフトする。購買力が全体的に拡大する。

一方の財の価格変化: 財1の価格 $p_1$ が上昇すると、横軸切片 $I/p_1$ が縮小し、縦軸切片 $I/p_2$ は不変のまま、予算制約線は横軸切片を中心に内側へ回転する。財1が相対的に高価になり、購入可能な最大量が減少する。


最適消費の決定

効用最大化条件

消費者は、予算制約のもとで効用を最大化する組み合わせ $(x_1^, x_2^)$ を選択する。幾何学的には、予算制約線と最も高い無差別曲線が接する点が最適消費点である。

接点では、無差別曲線の傾き(MRS)と予算制約線の傾き(価格比)が一致する。

$$MRS_{12} = \frac{MU_1}{MU_2} = \frac{p_1}{p_2}$$

これを変形すると、

$$\frac{MU_1}{p_1} = \frac{MU_2}{p_2}$$

すなわち、各財の1円あたりの限界効用が均等化される(加重限界効用均等の法則、equimarginal principle)。もし $MU_1/p_1 > MU_2/p_2$ であれば、財1への支出を増やし財2への支出を減らすことで、同じ予算でより高い効用を達成できるからである。

flowchart TD
    A["消費者の選好を無差別曲線で表現"] --> B["予算制約線を描く"]
    B --> C{"MRS = 価格比か?"}
    C -->|Yes| D["最適消費点の決定"]
    C -->|No: MRS > 価格比| E["財1の消費を増やし財2を減らす"]
    C -->|No: MRS < 価格比| F["財2の消費を増やし財1を減らす"]
    E --> C
    F --> C

コーナー解

上記の接線条件(内点解)が常に成立するとは限らない。消費者がある財を全く消費しない場合をコーナー解(corner solution)と呼ぶ。例えば、ある消費者が紅茶をまったく好まない場合、最適点は横軸上(紅茶の消費量がゼロ)に位置し、予算のすべてをコーヒーに費やす。コーナー解では $MRS \neq p_1/p_2$ となりうる。


所得効果と代替効果

価格変化の分解

財1の価格が下落したとき、消費者の最適消費点は変化する。この変化(全効果、total effect)は、2つの異なる効果に分解できる。

Key Concept: 代替効果(Substitution Effect) 効用水準を一定に保ったまま、相対価格の変化のみによって生じる消費量の変化。財の価格が下落すると、その財は相対的に安くなるため、消費が増加する。代替効果は常に価格変化と逆方向に働く。

Key Concept: 所得効果(Income Effect) 相対価格を新しい水準に固定したまま、実質所得の変化によって生じる消費量の変化。財の価格下落は実質所得を増加させるため、正常財であれば消費が増加する。

ヒックスの分解とスルツキーの分解

価格変化の全効果を所得効果と代替効果に分解する方法は、主に2つ存在する。

ヒックスの分解(Hicksian decomposition): 効用水準を一定に保つという基準を用いる。価格変化後の新しい価格比のもとで、元の効用水準を達成するのに必要な最小支出を求め、その仮想的な予算のもとでの消費量の変化を代替効果とする。ヒックスの代替効果は、元の無差別曲線上で新しい価格比に対応する接点へ移動することに対応する。この仮想的な所得調整を補償変分(compensating variation)と呼ぶ。

スルツキーの分解(Slutsky decomposition): 元の消費バンドルを購入可能な所得を維持するという基準を用いる。価格変化後の新しい価格比のもとで、元の消費バンドルをちょうど購入できる所得を仮定し、その予算のもとでの消費量の変化を代替効果とする。ヒックスの分解が「効用を補償する」のに対し、スルツキーの分解は「購買力を補償する」点が異なる。

両者は微小な価格変化に対しては一致するが、大きな価格変化に対しては異なる結果を与える。現代のミクロ経済学では、理論的にはヒックスの分解が、実証分析ではスルツキーの分解(観測可能な量に基づくため)がそれぞれ多く用いられる。

財の分類と効果の方向

代替効果は常に価格変化と逆方向に働く(価格下落→消費増加)。一方、所得効果の方向は財の性質に依存する。

財の種類 代替効果 所得効果 全効果 需要曲線
正常財 価格と逆方向 代替効果と同方向 価格と逆方向 右下がり
劣等財(通常) 価格と逆方向 代替効果と逆方向(だが小さい) 価格と逆方向 右下がり
ギッフェン財 価格と逆方向 代替効果と逆方向(かつ大きい) 価格と同方向 右上がり

Key Concept: ギッフェン財(Giffen Goods) 価格の上昇に伴い需要量が増加する財。所得効果が代替効果を上回るほど強い劣等財である場合に発生する。需要の法則の例外となる。

ギッフェン財の存在は理論的に可能であるが、実証的に確認された事例は極めて稀である。伝統的な教科書では、19世紀のアイルランド大飢饉時のジャガイモがギッフェン財の例とされてきた。ジャガイモの価格上昇により実質所得が大幅に低下し、肉などの高級食品をさらに購入できなくなった貧困層が、主食であるジャガイモへの依存を強めたという説明である。しかし、ケンブリッジ大学のチャールズ・リード(Charles Read)による2013年の実証研究は、数量データに基づいてこの通説に疑問を呈し、ジャガイモではなくベーコン用の豚がギッフェン的行動を示した可能性を指摘している。ギッフェン財の実在は現在も学術的議論の対象である。


需要曲線の導出

個別需要曲線

消費者理論の枠組みを用いると、需要曲線を理論的に導出できる。財1の価格 $p_1$ を段階的に変化させ、他の条件($p_2$, $I$, 選好)を一定に保ったとき、各価格に対応する最適消費量 $x_1^$ を求める。これら $(p_1, x_1^)$ の組み合わせをプロットしたものが、価格消費曲線(price-consumption curve)に基づく個別需要曲線である。

正常財の場合、価格が下落すると代替効果・所得効果ともに消費を増加させるため、需要曲線は右下がりとなる。これが前セクションで学んだ需要の法則のミクロ的基礎付けである。

市場需要曲線

市場需要曲線(market demand curve)は、各価格水準において全消費者の個別需要量を水平方向に合計(horizontal summation)することで得られる。例えば、消費者Aが価格100円で5個、消費者Bが同価格で3個を需要するなら、市場需要量は8個である。

市場需要曲線は個別需要曲線と同様に通常は右下がりであるが、その傾きは消費者数や個々の消費者の選好の多様性に依存する。


エンゲル曲線

Key Concept: エンゲル曲線(Engel Curve) 財の価格を一定に保ったまま、消費者の所得と財の需要量の関係を示す曲線。19世紀ドイツの統計学者エルンスト・エンゲル(Ernst Engel)にちなむ。

所得 $I$ を段階的に変化させ、価格を固定したとき、各所得水準に対応する最適消費量をプロットしたものがエンゲル曲線である。無差別曲線地図上では、所得変化に伴う最適消費点の軌跡を所得消費曲線(income-consumption curve)と呼び、これを所得-消費量の平面に射影したものがエンゲル曲線に対応する。

エンゲル曲線の形状は財の性質を反映する。

財の分類 エンゲル曲線の形状 所得弾力性
正常財(必需財) 右上がりだが傾きが逓減 0 < $\eta$ < 1
正常財(奢侈財) 右上がりで傾きが逓増 $\eta$ > 1
劣等財 ある所得水準から右下がりに転じる $\eta$ < 0

ここで所得弾力性 $\eta$ は前セクションで学んだ概念である(→ Module 1-1, Section 1「需要・供給と市場均衡」参照)。エンゲルの法則(Engel's law)は、所得が増加するにつれて食料費の支出割合が低下するという経験則であり、食料が必需財であることを示している。


効用理論の体系

消費者理論の主要概念の関係を以下に整理する。

graph TD
    A["選好の公理"] --> B["効用関数"]
    B --> C["無差別曲線"]
    C --> D["限界代替率 MRS"]
    E["所得・価格"] --> F["予算制約線"]
    D --> G["最適消費: MRS = 価格比"]
    F --> G
    G --> H["価格変化の分析"]
    H --> I["代替効果"]
    H --> J["所得効果"]
    I --> K["個別需要曲線の導出"]
    J --> K
    G --> L["所得変化の分析"]
    L --> M["エンゲル曲線"]
    K --> N["市場需要曲線"]

まとめ

  • 効用は消費者の満足度を表す概念であり、現代経済学では序数的効用(順序関係のみ)に基づく分析が標準的である
  • 無差別曲線は同一効用をもたらす財の組み合わせを表し、右下がり・交わらない・原点に凸という性質を持つ
  • 限界代替率(MRS)は無差別曲線の傾きの絶対値であり、2財の限界効用の比に等しい
  • 消費者は予算制約線と無差別曲線の接点で効用を最大化し、最適化条件は MRS = 価格比(= 加重限界効用均等化)である
  • 価格変化の効果は代替効果と所得効果に分解され、ヒックスの分解は効用水準を、スルツキーの分解は購買力を補償する
  • 正常財では両効果が同方向に働き需要曲線は右下がりとなるが、劣等財では所得効果が逆方向に働く。ギッフェン財は所得効果が代替効果を上回る特殊な場合である
  • エンゲル曲線は所得と需要量の関係を示し、財の分類(正常財・劣等財・奢侈財)を反映する
  • 次セクションでは、供給側の行動原理である生産者理論(費用構造、利潤最大化)を扱う

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
効用 Utility 消費者が財やサービスの消費から得る満足の度合い
基数的効用 Cardinal Utility 効用を絶対的な数値で測定可能とする立場。差や比率に意味を持たせる
序数的効用 Ordinal Utility 効用の大小関係(順序)のみに意味があるとする立場
限界効用 Marginal Utility ある財の消費を1単位追加したときの効用の増分
無差別曲線 Indifference Curve 消費者に同一の効用水準をもたらす財の組み合わせを結んだ曲線
限界代替率 Marginal Rate of Substitution (MRS) 効用を一定に保ったまま財1を1単位増やすために放棄してよい財2の最大量
予算制約線 Budget Constraint 所得と価格のもとで消費者が購入可能な財の組み合わせの上限を示す直線
予算集合 Budget Set 予算制約を満たす消費可能な財の組み合わせの全体
加重限界効用均等の法則 Equimarginal Principle 最適消費において各財の1円あたり限界効用が等しくなるという条件
代替効果 Substitution Effect 効用水準一定のもとで相対価格変化のみにより生じる消費量の変化
所得効果 Income Effect 実質所得の変化により生じる消費量の変化
ヒックスの分解 Hicksian Decomposition 効用水準を一定に保つ基準で全効果を代替効果と所得効果に分解する方法
スルツキーの分解 Slutsky Decomposition 元の消費バンドルの購買力を維持する基準で分解する方法
補償変分 Compensating Variation 価格変化後に元の効用水準を維持するために必要な所得調整額
ギッフェン財 Giffen Goods 価格上昇に伴い需要量が増加する財。所得効果が代替効果を上回る劣等財
価格消費曲線 Price-Consumption Curve 一方の財の価格を変化させたときの最適消費点の軌跡
エンゲル曲線 Engel Curve 所得と財の需要量の関係を示す曲線
所得消費曲線 Income-Consumption Curve 所得を変化させたときの最適消費点の軌跡
コーナー解 Corner Solution 最適消費において一方の財の消費量がゼロとなる解

確認問題

Q1: 基数的効用と序数的効用の違いを説明し、現代ミクロ経済学が序数的効用を採用している理由を述べよ。 A1: 基数的効用は効用を絶対的な数値で測定可能とし、効用の差や比率に意味を持たせる立場である。一方、序数的効用は消費者がどちらの組み合わせを「より好む」かという順序関係のみに意味があるとする立場である。現代ミクロ経済学が序数的効用を採用する理由は、消費者の最適選択や需要曲線の導出に必要な情報は選好の順序関係だけで十分であり、効用の絶対値を測定するという検証不可能な仮定を置く必要がないからである。パレートが示し、ヒックスとアレンが精緻化したように、効用関数の単調増加変換は消費者行動の記述を変えない。

Q2: 無差別曲線が交わらないことを、選好の公理を用いて証明せよ。 A2: 2本の無差別曲線 $IC_1$(効用水準 $u_1$)と $IC_2$(効用水準 $u_2$, $u_1 \neq u_2$)が交点Pを持つと仮定する。$IC_1$ 上の点AはPと無差別であるから $u(A) = u(P)$。$IC_2$ 上の点BもPと無差別であるから $u(B) = u(P)$。推移性の公理より $u(A) = u(B)$ となるが、これは $u_1 \neq u_2$ に矛盾する。したがって、異なる効用水準の無差別曲線は交わらない。

Q3: 財1の価格が下落したとき、正常財と劣等財のそれぞれについて、代替効果と所得効果がどの方向に作用するか説明せよ。 A3: 代替効果は財の種類に関わらず常に価格変化と逆方向に作用する。したがって、財1の価格下落時、代替効果は財1の消費を増加させる。所得効果については、価格下落は実質所得の増加をもたらすため、正常財の場合は所得効果も財1の消費を増加させる(代替効果と同方向)。劣等財の場合は所得増加が消費を減少させるため、所得効果は財1の消費を減少させる(代替効果と逆方向)。通常の劣等財では代替効果が所得効果を上回るため需要曲線は右下がりとなるが、所得効果が代替効果を上回るギッフェン財では需要曲線が右上がりとなる。

Q4: ヒックスの分解とスルツキーの分解の共通点と相違点を述べ、それぞれがどのような文脈で用いられるか説明せよ。 A4: 共通点は、いずれも価格変化の全効果を代替効果と所得効果に分解する手法であり、微小な価格変化に対しては同一の結果を与える点である。相違点は補償の基準にある。ヒックスの分解は元の効用水準を維持するように所得を補償する(無差別曲線に沿った移動)のに対し、スルツキーの分解は元の消費バンドルを購入可能な購買力を維持するように補償する(予算制約線の平行移動)。理論的分析にはヒックスの分解が適しているが、効用水準は直接観測できないため、実証分析では観測可能な価格・数量データに基づくスルツキーの分解が広く用いられる。

Q5: エンゲル曲線の形状が正常財(必需財)、正常財(奢侈財)、劣等財のそれぞれでどのように異なるかを説明し、具体例を挙げよ。 A5: 正常財(必需財)のエンゲル曲線は右上がりだが傾きが逓減する。所得が増えても需要の伸びは所得の伸びに追いつかず、所得弾力性は0より大きく1未満である。例として食料品がある(エンゲルの法則)。正常財(奢侈財)のエンゲル曲線は右上がりで傾きが逓増する。所得の伸びを上回る割合で需要が増加し、所得弾力性は1を超える。例としてブランド品や海外旅行がある。劣等財のエンゲル曲線は、低所得水準では右上がりだが、ある所得水準を超えると右下がりに転じる。所得弾力性が負となる領域が存在する。例として、所得が十分に増えたときに消費が減少するインスタント食品やバス通勤(自家用車に代替される)がある。