Module 1-1 - Section 3: 生産者理論¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 1-1: 経済学基礎(ミクロ・マクロ) |
| 前提セクション | Section 1 |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
Section 1で学んだ供給曲線は「価格が上昇すれば供給量が増加する」という経験則を記述するものであった。しかし、なぜ供給曲線が右上がりになるのか、そしてどの価格水準で企業が生産を開始・停止するのかを理解するには、供給曲線の背後にある企業の生産技術と費用構造を分析する必要がある。
本セクションでは、投入要素と産出量の技術的関係を記述する生産関数から出発し、それに基づく費用関数の構造を導出する。さらに、利潤最大化行動から企業の供給曲線がどのように導かれるかを示し、操業停止点・損益分岐点といった経営上の重要な判断基準を明らかにする。
生産関数¶
生産関数の定義¶
Key Concept: 生産関数(Production Function) 投入要素(input)の組み合わせから、技術的に達成可能な最大の産出量(output)への対応関係を示す関数。企業の技術水準を集約的に表現する。
生産関数は一般に次のように記述される。
$$Q = f(L, K)$$
ここで $Q$ は産出量、$L$ は労働投入量、$K$ は資本投入量である。この関数は、与えられた投入量のもとで技術的に効率的な最大産出量を表す。実際の企業は労働・資本以外にも原材料・土地・エネルギーなど多様な投入要素を使用するが、分析の簡明さのために2投入要素モデルが標準的に用いられる。
代表的な生産関数としてコブ=ダグラス型(Cobb-Douglas)がある。
$$Q = AL^\alpha K^\beta$$
$A$ は技術水準を表すパラメータ、$\alpha$ と $\beta$ はそれぞれ労働と資本の産出弾力性である。$\alpha + \beta$ の値によって規模に対する収穫(returns to scale)の性質が決まる。$\alpha + \beta = 1$ であれば収穫一定、$\alpha + \beta > 1$ であれば収穫逓増、$\alpha + \beta < 1$ であれば収穫逓減を意味する。
短期と長期の区別¶
生産者理論における短期(short run)と長期(long run)の区別は、暦上の時間ではなく、投入要素の調整可能性によって定義される。
- 短期: 少なくとも1つの投入要素が固定されている期間。典型的には資本 $K$ が固定、労働 $L$ のみ可変
- 長期: すべての投入要素を自由に調整できる期間。$L$ と $K$ の双方を変更可能
たとえば、工場(資本)の建設には数年を要するが、労働者の雇用は比較的短期間で調整できる。工場の規模を所与として労働者数のみを変化させる分析が短期の枠組みであり、工場の規模自体を選択する分析が長期の枠組みである。
短期の生産:限界生産物と収穫逓減¶
総生産物・平均生産物・限界生産物¶
短期では資本が $\bar{K}$ に固定されるため、生産関数は $Q = f(L, \bar{K})$ と労働の1変数関数になる。このとき3つの概念が重要である。
| 概念 | 定義 | 数式 |
|---|---|---|
| 総生産物(TP: Total Product) | 労働投入量 $L$ に対する総産出量 | $TP = f(L, \bar{K})$ |
| 平均生産物(AP: Average Product) | 労働1単位あたりの産出量 | $AP_L = Q / L$ |
| 限界生産物(MP: Marginal Product) | 労働を1単位追加投入したときの産出量の増分 | $MP_L = \Delta Q / \Delta L$ |
Key Concept: 限界生産物(Marginal Product) ある投入要素を1単位追加したとき、産出量がどれだけ増加するかを示す指標。$MP_L = \partial Q / \partial L$ で定義される。生産の効率性を評価する上で中核的な概念である。
AP と MP の間には次の関係がある。$MP_L > AP_L$ のとき $AP_L$ は上昇し、$MP_L < AP_L$ のとき $AP_L$ は下降する。したがって、$MP_L = AP_L$ となる点が $AP_L$ の最大値である。この関係は、テストの点数の比喩で理解できる——新たな試験の点(限界値)がこれまでの平均より高ければ平均は上昇し、低ければ平均は下降する。
収穫逓減の法則¶
Key Concept: 収穫逓減の法則(Law of Diminishing Returns) 他の投入要素を固定したまま、ある1つの投入要素を追加投入し続けると、ある点を超えてからその限界生産物は減少していく、という経験的法則。短期の生産に固有の現象である。
たとえば、ある工場で機械設備(資本)を固定したまま労働者を追加していく場合を考える。最初の数人は機械の稼働率を高め、分業の利益を享受するため、限界生産物は増加する場合もある。しかし、工場のスペースや機械台数には限りがあるため、労働者数が一定水準を超えると、追加の労働者による産出量の増分(限界生産物)は次第に減少する。極端な場合、労働者が多すぎて互いの作業を妨げ、限界生産物が負になることもある。
収穫逓減の法則は、短期においてのみ成立する命題である点に注意が必要である。長期ではすべての投入要素を変更できるため、この法則は直接適用されない。
費用関数の構造¶
費用の分類¶
生産活動に伴う費用は、短期において次のように分類される。
| 費用概念 | 英語 | 定義 |
|---|---|---|
| 固定費用(FC) | Fixed Cost | 産出量に関わらず一定に発生する費用。工場の賃借料・設備の減価償却費・保険料など |
| 可変費用(VC) | Variable Cost | 産出量に応じて変動する費用。原材料費・直接労働の賃金・電力費など |
| 総費用(TC) | Total Cost | $TC = FC + VC$ |
さらに、これらを産出量 $Q$ で割ることで、単位あたり(平均)の費用概念が得られる。
| 費用概念 | 英語 | 定義 |
|---|---|---|
| 平均固定費用(AFC) | Average Fixed Cost | $AFC = FC / Q$ |
| 平均可変費用(AVC) | Average Variable Cost | $AVC = VC / Q$ |
| 平均費用(AC) | Average Cost | $AC = TC / Q = AFC + AVC$ |
| 限界費用(MC) | Marginal Cost | $MC = \Delta TC / \Delta Q = \Delta VC / \Delta Q$ |
Key Concept: 限界費用(Marginal Cost) 産出量を1単位追加するのに必要な費用の増分。$MC = dTC/dQ$ で定義される。固定費用は産出量によって変化しないため、$MC = dVC/dQ$ でもある。企業の最適な生産量の決定において決定的な役割を果たす。
生産関数と費用関数の対応関係¶
限界生産物と限界費用の間には逆数的な関係がある。労働1単位の価格(賃金率)を $w$ とすると、短期において次が成立する。
$$MC = \frac{w}{MP_L}$$
この関係は直観的にも明快である。労働者1人を追加雇用するのに $w$ 円かかり、その労働者が $MP_L$ 単位を追加生産するのであれば、1単位追加生産するための費用は $w / MP_L$ 円である。
この関係から重要な帰結が導かれる。収穫逓減の法則により $MP_L$ が減少すれば、$MC$ は増加する。すなわち、短期の限界費用曲線が右上がりになる根本的原因は収穫逓減の法則にある。
同様に、平均可変費用と平均生産物の間にも逆数的関係が成り立つ。
$$AVC = \frac{w}{AP_L}$$
したがって、$AP_L$ が最大のとき $AVC$ は最小になり、$MP_L$ が最大のとき $MC$ は最小になる。
短期費用曲線の関係¶
費用曲線の体系¶
graph TD
subgraph total ["総費用"]
FC["固定費用 FC<br/>産出量に依存しない"]
VC["可変費用 VC<br/>産出量とともに増加"]
TC["総費用 TC = FC + VC"]
end
FC --> TC
VC --> TC
subgraph average ["単位あたり費用"]
AFC["平均固定費用 AFC = FC/Q<br/>Q増加で単調減少"]
AVC["平均可変費用 AVC = VC/Q<br/>U字型"]
AC["平均費用 AC = AFC + AVC<br/>U字型"]
end
FC --> AFC
VC --> AVC
AFC --> AC
AVC --> AC
subgraph marginal ["限界費用"]
MC["限界費用 MC = dTC/dQ<br/>U字型"]
end
TC --> MC
MC曲線とAC曲線・AVC曲線の関係¶
MC曲線、AC曲線、AVC曲線の間には数学的に厳密な関係がある。
MC曲線はAVC曲線の最低点を通る。 平均可変費用 $AVC = VC/Q$ を $Q$ で微分するとゼロとなる条件は $MC = AVC$ である。すなわち、AVC曲線の底で限界費用と一致する。
MC曲線はAC曲線の最低点を通る。 同様の論理で、$AC = TC/Q$ を $Q$ で微分するとゼロとなる条件は $MC = AC$ である。
この性質は平均と限界の一般的な数学的関係から導かれる。限界値が平均値を上回っていれば平均は上昇し、下回っていれば平均は下降する。したがって両者が等しくなる点は必然的に平均の極値(ここでは最小値)となる。
AFC曲線は直角双曲線 の形状をとり、$Q$ の増加とともに単調に減少する($AFC = FC/Q$ であり $FC$ は定数)。
AC曲線のU字型は次のように説明される。産出量が少ないうちは AFC の急速な減少が AVC の増加を上回るため AC は低下する。産出量が十分に増えると AFC の減少幅が小さくなり、AVC の増加が支配的になるため AC は上昇に転じる。AC曲線の最低点は AVC曲線の最低点よりも右側(より大きな産出量)に位置する。
長期費用曲線¶
長期平均費用曲線と包絡線¶
長期ではすべての投入要素が可変であるため、固定費用は存在しない。企業は各産出量水準に対して最も費用の低い投入要素の組み合わせ(および工場規模)を自由に選択できる。
長期平均費用曲線(LAC: Long-run Average Cost curve)は、異なる工場規模(短期)それぞれに対応する短期平均費用曲線(SAC)群の包絡線(envelope curve) として描かれる。各産出量水準において、最も費用が低くなる工場規模を選択した結果の軌跡が LAC 曲線である。
したがって、LAC 曲線上のどの点においても、LAC はある SAC 曲線と接しており、その産出量水準ではその規模の工場を選択するのが最適であることを意味する。LAC 曲線は常にすべての SAC 曲線の下側(または接点上)に位置する。これは長期では規模の選択の自由度があるため、短期よりも費用を低く抑えられる(少なくとも同等にできる)ことを反映している。
規模の経済と規模の不経済¶
Key Concept: 規模の経済(Economies of Scale) 生産規模の拡大に伴い、長期平均費用が低下する現象。大量生産による固定費分散、専門化・分業の深化、大量購入割引などがその源泉である。
Key Concept: 規模の不経済(Diseconomies of Scale) 生産規模の拡大に伴い、長期平均費用が上昇する現象。組織の肥大化による管理費用の増大、コミュニケーションの非効率化、従業員のモチベーション低下などが原因となる。
LAC 曲線の形状と規模の経済・不経済は直接対応する。
| LAC曲線の傾き | 規模の状態 | 意味 |
|---|---|---|
| 右下がり | 規模の経済 | 生産拡大で平均費用が低下 |
| 水平 | 規模に対して一定 | 生産規模と平均費用が無関係 |
| 右上がり | 規模の不経済 | 生産拡大で平均費用が上昇 |
規模の経済の源泉は多岐にわたる。
- 固定費の分散: 研究開発費、広告費、設備投資費などの固定的支出が大量の産出量に薄く配分される
- 専門化と分業: 大規模組織では各労働者が特定の作業に専念でき、習熟度が向上する
- 技術的要因: 設備の大型化に伴い、容積(産出能力)は3乗で増加するのに対し、表面積(建設費用に比例)は2乗でしか増加しない(2/3乗則)
- 交渉力: 大量購入による原材料の単価引き下げ、有利な融資条件の獲得
自動車産業はこの典型例である。トヨタ自動車は年間約1,000万台規模の生産を行うことで、プラットフォームの共通化、部品の大量調達による交渉力、巨額の研究開発費の分散といった規模の経済を享受している。
一方、規模の不経済は主に組織管理の問題から生じる。巨大企業では意思決定の遅延、官僚的手続きの増大、部門間の調整費用の増加、現場情報の経営層への伝達ロスなどが発生する。
範囲の経済¶
Key Concept: 範囲の経済(Economies of Scope) 1つの企業が複数の財・サービスを同時に生産する方が、それぞれを別の企業が生産するよりも総費用が低くなる現象。共通の投入要素(技術・設備・ブランド・流通チャネルなど)の共有がその源泉である。
範囲の経済は次の不等式で定義される。
$$C(Q_1, Q_2) < C(Q_1, 0) + C(0, Q_2)$$
すなわち、財1と財2を1つの企業が同時に生産する費用が、それぞれを別の企業が単独生産する費用の合計よりも小さい場合、範囲の経済が存在する。
具体例として、Google(Alphabet)は検索エンジンの開発で蓄積した大規模データ処理技術・機械学習技術を、広告配信・クラウドサービス(Google Cloud)・自動運転(Waymo)・スマートフォンOS(Android)など多様な事業に展開している。共通の技術基盤を複数事業で共有することにより、各事業を個別の企業が独立に運営するよりも低い費用で提供することが可能となっている。
規模の経済が「同一製品の大量生産」に関する概念であるのに対し、範囲の経済は「複数製品の同時生産」に関する概念である点で区別される。
利潤最大化と企業の供給曲線¶
利潤最大化条件¶
企業の利潤 $\pi$ は総収入(TR: Total Revenue)と総費用(TC)の差として定義される。
$$\pi = TR - TC$$
Key Concept: 利潤最大化(Profit Maximization) 企業の基本的な行動目的。利潤が最大となる産出量は、限界収入(MR)と限界費用(MC)が等しくなる水準で達成される。すなわち $MR = MC$ が利潤最大化の一階条件である。
利潤最大化の一階条件 $MR = MC$ は次のように導出される。利潤を産出量 $Q$ で微分してゼロとおくと、
$$\frac{d\pi}{dQ} = \frac{dTR}{dQ} - \frac{dTC}{dQ} = MR - MC = 0$$
したがって $MR = MC$ が最適条件となる。ただし、この条件が利潤の最大値(極小値ではなく)を与えるためには、二階条件として $MR$ の傾き < $MC$ の傾き、すなわち MC曲線が MR を下から上に横切ることが必要である。
完全競争下の利潤最大化¶
完全競争市場では個々の企業はプライステイカー(price taker)であり、市場価格 $P$ を所与として受け入れる。このとき、限界収入は価格に等しい。
$$MR = P$$
したがって、完全競争企業の利潤最大化条件は次のように簡略化される。
$$P = MC$$
これは「価格と限界費用が等しくなる産出量を選択する」ことを意味する。
企業の短期供給曲線の導出¶
利潤最大化条件 $P = MC$ から、市場価格の各水準に対して企業が選択する最適な産出量が決まる。しかし、企業が操業を行うか否かにはもう1つの条件が関わる。
graph TD
A["市場価格 P を確認"] --> B{"P >= AC の最低点?"}
B -- Yes --> C["損益分岐点以上<br/>経済的利潤 >= 0<br/>P = MC で生産"]
B -- No --> D{"P >= AVC の最低点?"}
D -- Yes --> E["損失が発生するが操業継続<br/>損失 < FC<br/>P = MC で生産"]
D -- No --> F["操業停止<br/>損失 = FC のみ"]
損益分岐点(break-even point): $P = AC$ の最低点。この価格では経済的利潤がちょうどゼロとなる。これを上回る価格では正の経済的利潤を得る。
操業停止点(shutdown point): $P = AVC$ の最低点。この価格を下回ると、操業により可変費用すら回収できなくなるため、操業を停止して固定費用の損失のみに抑えるのが合理的である。
操業停止点の論理は次の通りである。短期において固定費用は操業の有無に関わらず発生する(埋没費用)。操業の意思決定に際しては、操業することで固定費用以上の追加的損失が生じるか否かのみが関連する。$P > AVC$ であれば、収入が可変費用を上回り、その差額で固定費用の一部を回収できるため、操業を継続する方が損失は小さい。$P < AVC$ であれば、操業するほど損失が拡大するため停止すべきである。
飲食店の事例で考えると、家賃(固定費用)が月50万円、食材費・人件費(可変費用)が月80万円の店舗で、売上が月70万円の場合、操業すると損失は $50 + 80 - 70 = 60$ 万円となるが、操業停止すると損失は固定費用の50万円のみである。このとき売上(70万円)が可変費用(80万円)を下回っているため、操業停止が合理的判断となる。
以上から、完全競争企業の短期供給曲線は、AVC曲線の最低点(操業停止点)より上方のMC曲線部分 として導出される。この結論は、Section 1 で所与とした「供給曲線は右上がりである」という事実の理論的根拠を提供する。供給曲線が右上がりになるのは、MC曲線が(収穫逓減の法則に起因して)右上がりであるためである。
まとめ¶
- 生産関数は投入要素と最大産出量の技術的関係を表す。短期では少なくとも1つの投入要素が固定され、長期ではすべてが可変となる
- 短期の生産では収穫逓減の法則が成立し、これが限界費用の逓増(MC曲線の右上がり)をもたらす
- 費用は固定費用と可変費用に分類され、それぞれから平均費用・限界費用が導出される。MC曲線はAVC曲線およびAC曲線の最低点を通る
- 長期平均費用曲線(LAC)は短期平均費用曲線群の包絡線として描かれ、規模の経済・規模の不経済を反映する
- 範囲の経済は複数財の同時生産による費用優位を意味し、規模の経済(同一財の大量生産による費用優位)とは区別される
- 利潤最大化条件は $MR = MC$ であり、完全競争下では $P = MC$ に帰着する
- 完全競争企業の短期供給曲線は、操業停止点より上方のMC曲線として導出される。これがSection 1で前提とした供給曲線の理論的基礎である
- 次のSection 4では、完全競争以外の市場構造(独占・寡占・独占的競争)を扱い、市場構造の違いが企業行動と市場成果に与える影響を分析する(→ Module 1-1, Section 4「市場構造と競争」参照)
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 生産関数 | Production Function | 投入要素の組み合わせから技術的に達成可能な最大産出量への対応関係を示す関数 |
| 限界生産物 | Marginal Product | ある投入要素を1単位追加したときの産出量の増分 |
| 平均生産物 | Average Product | 投入要素1単位あたりの産出量 |
| 収穫逓減の法則 | Law of Diminishing Returns | 他の投入要素を固定して1つの投入要素を追加し続けると限界生産物が減少する法則 |
| 固定費用 | Fixed Cost | 産出量に関わらず一定に発生する費用 |
| 可変費用 | Variable Cost | 産出量に応じて変動する費用 |
| 総費用 | Total Cost | 固定費用と可変費用の合計 |
| 平均費用 | Average Cost | 産出量1単位あたりの総費用 |
| 平均可変費用 | Average Variable Cost | 産出量1単位あたりの可変費用 |
| 平均固定費用 | Average Fixed Cost | 産出量1単位あたりの固定費用 |
| 限界費用 | Marginal Cost | 産出量を1単位追加するのに必要な費用の増分 |
| 規模の経済 | Economies of Scale | 生産規模の拡大に伴い長期平均費用が低下する現象 |
| 規模の不経済 | Diseconomies of Scale | 生産規模の拡大に伴い長期平均費用が上昇する現象 |
| 範囲の経済 | Economies of Scope | 1企業が複数財を同時生産する方が別々に生産するより総費用が低い現象 |
| 利潤最大化 | Profit Maximization | MR = MC となる産出量を選択する企業行動 |
| 損益分岐点 | Break-even Point | 価格が平均費用の最低点と一致し、経済的利潤がゼロとなる点 |
| 操業停止点 | Shutdown Point | 価格が平均可変費用の最低点と一致する点。これを下回ると操業停止が合理的 |
| 包絡線 | Envelope Curve | 短期平均費用曲線群の下限を結んだ線。長期平均費用曲線に対応 |
| コブ=ダグラス型生産関数 | Cobb-Douglas Production Function | $Q = AL^\alpha K^\beta$ の形をとる代表的な生産関数 |
確認問題¶
Q1: 限界費用曲線が平均費用曲線の最低点を通ることを、平均と限界の数学的関係に基づいて説明せよ。
A1: 平均費用 $AC = TC/Q$ を $Q$ で微分すると $dAC/dQ = (MC - AC)/Q$ となる。$AC$ が最小となる点では $dAC/dQ = 0$ であるから、$MC = AC$ が成立する。すなわち、AC曲線の最低点ではMCとACが一致する。また、この点の左側では $MC < AC$ なのでACは下降し、右側では $MC > AC$ なのでACは上昇する。よってMC曲線はAC曲線をその最低点で下から上に横切る。
Q2: 短期において、市場価格が平均可変費用の最低点を下回っているとき、完全競争企業が操業を停止すべき理由を、固定費用と可変費用の関係から論じよ。
A2: 短期において固定費用は操業の有無に関わらず発生する埋没費用である。操業停止した場合の損失は固定費用のみである。一方、$P < AVC$ の場合、操業しても売上が可変費用を回収できないため、操業による損失は固定費用に加えて可変費用の未回収分も含み、停止時よりも損失が大きくなる。したがって、$P < AVC$ のときは操業停止が損失を最小化する合理的判断である。
Q3: 収穫逓減の法則と限界費用曲線の右上がりの間の因果関係を、$MC = w / MP_L$ の式を用いて説明せよ。
A3: $MC = w/MP_L$ において、賃金率 $w$ は短期では一定と仮定する。収穫逓減の法則により、労働投入量の増加に伴い $MP_L$ は減少する。分母の $MP_L$ が小さくなるため、$MC = w/MP_L$ は増加する。つまり、生産量を拡大するほど追加1単位の生産に必要な費用が増加する。これが限界費用曲線の右上がりの原因であり、ひいては供給曲線が右上がりになる理論的根拠でもある。
Q4: 規模の経済と範囲の経済の違いを、それぞれの定義を明示した上で、具体的な企業の例を挙げて説明せよ。
A4: 規模の経済とは、同一財の生産規模を拡大することで長期平均費用が低下する現象である。自動車産業におけるトヨタは、年間約1,000万台規模の生産によりプラットフォーム共通化・部品の大量調達・研究開発費の分散を実現し、1台あたりの生産費用を引き下げている。一方、範囲の経済とは、1つの企業が複数の異なる財を同時に生産する方が、それぞれを別の企業が生産するよりも総費用が低くなる現象である。Googleは検索エンジン開発で蓄積したデータ処理・機械学習技術を、広告配信・クラウド・自動運転など複数事業に展開し、共通の技術基盤を共有することで各事業の費用を抑えている。規模の経済は「同一製品の量」に関する概念であり、範囲の経済は「製品の種類」に関する概念である。
Q5: ある完全競争企業の費用構造が以下の通りであるとする。固定費用が100万円、AVC最低点における産出量が50単位でAVC = 2万円、AC最低点における産出量が80単位でAC = 3万円である。市場価格が2.5万円のとき、この企業はどのような意思決定を行うべきか、理由とともに論じよ。
A5: 市場価格2.5万円は、操業停止点(AVC最低点 = 2万円)を上回り、損益分岐点(AC最低点 = 3万円)を下回る。したがって、$AVC < P < AC$ の状況にある。この場合、企業は短期的に損失を被るが、操業を継続すべきである。操業すれば、売上から可変費用を差し引いた残額($P - AVC > 0$ に対応する部分)で固定費用の一部を回収できる。操業停止すると固定費用100万円がまるまる損失となるが、操業継続により損失は100万円より小さくなる。ただし長期的にはこの価格水準が継続するならば市場からの退出を検討すべきである。