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Module 1-3 - Section 2: 複式簿記の原理

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-3: 簿記・会計の基礎
前提セクション Section 1(企業活動と会計の役割)
想定学習時間 2.5時間

導入

Section 1では、会計が企業の経済活動を記録・測定・伝達する体系的プロセスであること、そしてその手続が会計サイクルとして循環することを確認した。本セクションでは、その会計サイクルの中核を成す記録技術――複式簿記(Double-entry Bookkeeping)――の原理を扱う。

複式簿記は、すべての取引を借方(左側)と貸方(右側)の2つの側面から同時に記録する方法であり、500年以上にわたって企業会計の基盤として機能してきた。勘定科目の分類体系、仕訳から財務諸表作成に至る一連の手続を理解することは、Section 3以降で学ぶ貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の構造を読み解くための必須前提である。


複式簿記とは何か

単式簿記と複式簿記の比較

簿記には、記録方法の違いにより単式簿記と複式簿記の2つがある。

単式簿記は、取引を1つの勘定(主に現金)のみで記録する方法である。家計簿のように「いつ」「何に」「いくら」入出金したかを記録するだけであり、簡便だが、企業の資産・負債の全体像や利益の発生原因を体系的に把握することができない。

Key Concept: 複式簿記(Double-entry Bookkeeping) すべての取引を、借方(左側)と貸方(右側)という2つの側面から同額で記録する簿記の方法。取引の原因と結果を同時に捉えることで、財政状態と経営成績を体系的に把握することを可能にする。

複式簿記の核心は「取引の二面性(duality of transaction)」にある。たとえば、現金100万円で商品を仕入れたという取引は、「商品(資産)が100万円増加した」という側面と「現金(資産)が100万円減少した」という側面を同時に持つ。複式簿記では、この2つの側面をそれぞれ借方・貸方に分けて記録する。

比較項目 単式簿記 複式簿記
記録の側面 1つ(主に現金の増減) 2つ(借方と貸方)
記録対象 現金の入出金が中心 すべての資産・負債・純資産・収益・費用
財務諸表の作成 直接作成できない 貸借対照表・損益計算書を体系的に導出
自己検証機能 なし 貸借一致による検証が可能
適用場面 家計簿、小規模な団体 企業会計、制度会計

歴史的起源

複式簿記の実務上の起源は、13〜14世紀のイタリア商業都市に遡る。フィレンツェのメディチ家をはじめとする商人・銀行家たちが、複雑化する商取引を管理するために体系的な記帳法を発展させた。さらに遡れば、11世紀のカイロにおけるユダヤ系銀行家の帳簿にも複式的記録の萌芽が確認されている。

この記帳法を初めて体系的に文献化したのが、フランシスコ会修道士であり数学者でもあったルカ・パチョーリ(Luca Pacioli, 1447頃-1517)である。パチョーリは1494年にヴェネツィアで刊行した数学書『スンマ・デ・アリトメティカ(Summa de arithmetica, geometria, proportioni et proportionalità)』の一部として、簿記論(Particularis de computis et scripturis)を収録した。この著作は、複式簿記の手続を仕訳帳(Giornale)、元帳(Quaderno)、備忘録(Memoriale)の3帳簿体系として整理し、広く普及させた点で画期的であった。パチョーリ自身が複式簿記を発明したわけではないが、既存の実務を初めて体系的に記述・公刊したことから「会計の父(Father of Accounting)」と称される。

パチョーリが定めた複式簿記の基本原理は、500年以上を経た現在でもその本質において変わっていない。


借方と貸方

借方・貸方の定義

Key Concept: 借方(Debit) 仕訳や勘定の左側を指す簿記上の用語。資産・費用の増加、負債・純資産・収益の減少を記録する側である。略記は「Dr」(ラテン語 debere に由来)。

Key Concept: 貸方(Credit) 仕訳や勘定の右側を指す簿記上の用語。負債・純資産・収益の増加、資産・費用の減少を記録する側である。略記は「Cr」(ラテン語 credere に由来)。

複式簿記のすべての記録は、この借方と貸方の対で構成される。いかなる取引においても、借方の合計金額と貸方の合計金額は必ず一致する。これを貸借平均の原理(principle of equilibrium)と呼ぶ。

借方・貸方の語源と命名の歴史

「借方」「貸方」の日本語名称は、福沢諭吉が1873年(明治6年)にアメリカの簿記書を翻訳した『帳合之法』に由来するとされる。英語の debit / credit はそれぞれラテン語の debere(借りている、負っている)/ credere(信じる、委ねる)に由来する。

ただし、パチョーリ自身が元帳の左側・右側に使った用語は "in dare"(与える)と "in havere"(持つ、受け取る)であった。現在の debit / credit という用語は、中世イタリアの簿記実務において、債権者(creditor)と債務者(debtor)の人名勘定から発展したものである。すなわち、元来は「Aさんが私に借りがある(debit)」「Bさんに対して貸しがある(credit)」という債権・債務関係を記録する文脈で用いられた。この語源的意味と、現代の会計における借方・貸方の機能が直接的に対応しない点は、学習上の混乱を招きやすい。重要なのは、借方=左側、貸方=右側という位置関係のみを確実に把握することである。


勘定科目の5分類

会計等式と勘定の分類

複式簿記の構造は、以下の会計等式(accounting equation)を基盤とする。

$$\text{資産} = \text{負債} + \text{純資産}$$

この等式は、企業が保有する経済的資源(資産)が、他人からの調達(負債)と自己資本(純資産)の合計によって賄われていることを示す。すべての取引は、この等式の均衡を保つように記録される。

さらに、一会計期間の経営成績を表すために、収益と費用の概念が加わる。

$$\text{資産} = \text{負債} + \text{純資産} + \text{収益} - \text{費用}$$

Key Concept: 勘定科目(Account) 取引の内容を分類・記録するための項目名。資産・負債・純資産・収益・費用の5つのグループに分類され、各科目は借方または貸方に定位置(ホームポジション)を持つ。

5分類の詳細と増減ルール

勘定科目は以下の5つに大別される。

分類 定義 代表的な勘定科目 記載される財務諸表
資産 企業が支配する経済的資源 現金、売掛金、商品、建物、土地 貸借対照表
負債 将来、経済的資源を引き渡す義務 買掛金、借入金、未払金 貸借対照表
純資産 資産から負債を控除した残余持分 資本金、利益剰余金 貸借対照表
収益 一会計期間に獲得した経済的便益の増加 売上、受取利息、受取配当金 損益計算書
費用 一会計期間に消費した経済的便益の減少 仕入、給料、減価償却費 損益計算書

各分類の増減と借方・貸方の対応は以下のとおりである。

分類 増加 減少
資産 借方(左) 貸方(右)
負債 貸方(右) 借方(左)
純資産 貸方(右) 借方(左)
収益 貸方(右) 借方(左)
費用 借方(左) 貸方(右)

このルールは、会計等式から論理的に導出される。資産は等式の左辺にあるため、増加は借方(左)に記録される。負債・純資産は等式の右辺にあるため、増加は貸方(右)に記録される。費用は純資産を減少させるものであるから、純資産の反対側(借方)に記録される。収益は純資産を増加させるものであるから、純資産と同じ側(貸方)に記録される。

graph LR
    subgraph BS ["貸借対照表(B/S)"]
        subgraph left_bs ["借方(左)"]
            A["資産<br/>増加: 借方<br/>減少: 貸方"]
        end
        subgraph right_bs ["貸方(右)"]
            L["負債<br/>増加: 貸方<br/>減少: 借方"]
            E["純資産<br/>増加: 貸方<br/>減少: 借方"]
        end
    end
    subgraph PL ["損益計算書(P/L)"]
        subgraph left_pl ["借方(左)"]
            EX["費用<br/>増加: 借方<br/>減少: 貸方"]
        end
        subgraph right_pl ["貸方(右)"]
            R["収益<br/>増加: 貸方<br/>減少: 借方"]
        end
    end

仕訳の方法

仕訳とは

Key Concept: 仕訳(Journal Entry) 発生した取引を分析し、該当する勘定科目を借方・貸方に分けて記録する手続。会計処理の最初のステップであり、仕訳帳(journal)に記入される。

仕訳の手順は以下の3ステップである。

  1. 取引の分析: 取引によってどの勘定科目が増減したかを識別する
  2. 借方・貸方の決定: 増減ルールに基づき、各勘定科目を借方・貸方に振り分ける
  3. 金額の記入: 借方合計と貸方合計が一致することを確認して記入する

仕訳の具体例

以下に、典型的な取引の仕訳例を示す。

例1: 商品100,000円を現金で仕入れた

取引の分析: 仕入(費用)が増加し、現金(資産)が減少する。

借方 金額 貸方 金額
仕入 100,000 現金 100,000

例2: 商品を150,000円で売り上げ、代金は掛けとした

取引の分析: 売掛金(資産)が増加し、売上(収益)が増加する。

借方 金額 貸方 金額
売掛金 150,000 売上 150,000

例3: 銀行から500,000円を借り入れ、普通預金に入金された

取引の分析: 普通預金(資産)が増加し、借入金(負債)が増加する。

借方 金額 貸方 金額
普通預金 500,000 借入金 500,000

例4: 従業員の給料200,000円を現金で支払った

取引の分析: 給料(費用)が増加し、現金(資産)が減少する。

借方 金額 貸方 金額
給料 200,000 現金 200,000

例5: 備品300,000円を購入し、代金のうち100,000円は現金で支払い、残額は未払とした

取引の分析: 備品(資産)が増加し、現金(資産)が減少し、未払金(負債)が増加する。

借方 金額 貸方 金額
備品 300,000 現金 100,000
未払金 200,000

この例5のように、借方・貸方のいずれかが複数の勘定科目で構成される仕訳を複合仕訳と呼ぶ。いずれの場合も借方合計と貸方合計は一致する。


転記と総勘定元帳

転記の手続

仕訳帳に記入された仕訳は、勘定科目ごとに総勘定元帳へ書き写される。この作業を転記(posting)と呼ぶ。

Key Concept: 総勘定元帳(General Ledger) すべての勘定科目について、借方・貸方の記録を集約した帳簿。仕訳帳が取引の発生順(時系列)で記録するのに対し、総勘定元帳は勘定科目ごとに分類して記録する。

仕訳帳は取引日順に記録されるため、特定の勘定科目(たとえば現金)の残高を知りたい場合、すべての仕訳帳を通読しなければならない。総勘定元帳への転記により、各勘定科目の増減と残高を一覧的に把握することが可能となる。

一連の流れの例示

以下に、架空の会社「甲商店」の4月中の取引を用いて、仕訳から転記までの流れを示す。

取引一覧: 1. 4/1: 現金1,000,000円を元入れして開業した(資本金) 2. 4/5: 商品200,000円を現金で仕入れた 3. 4/10: 商品を350,000円で売り上げ、現金を受け取った 4. 4/15: 備品150,000円を現金で購入した 5. 4/20: 商品100,000円を掛けで仕入れた 6. 4/25: 買掛金100,000円を現金で支払った

仕訳帳(抜粋):

日付 借方科目 金額 貸方科目 金額
4/1 現金 1,000,000 資本金 1,000,000
4/5 仕入 200,000 現金 200,000
4/10 現金 350,000 売上 350,000
4/15 備品 150,000 現金 150,000
4/20 仕入 100,000 買掛金 100,000
4/25 買掛金 100,000 現金 100,000

総勘定元帳(現金勘定):

借方 貸方
4/1 資本金 1,000,000 4/5 仕入 200,000
4/10 売上 350,000 4/15 備品 150,000
4/25 買掛金 100,000
借方合計 1,350,000 貸方合計 450,000

現金勘定の残高 = 1,350,000 - 450,000 = 900,000円(借方残高)


試算表の作成

試算表とは

Key Concept: 試算表(Trial Balance) 一定時点において、総勘定元帳の全勘定科目の借方合計・貸方合計または残高を一覧にまとめた集計表。借方合計と貸方合計が一致することを確認し、転記の正確性を検証する機能を持つ。

試算表には3つの形式がある。

種類 記載内容
合計試算表 各勘定科目の借方合計額と貸方合計額を記載
残高試算表 各勘定科目の借方残高または貸方残高のみを記載
合計残高試算表 合計と残高の両方を記載

甲商店の試算表

上記の甲商店の取引に基づく残高試算表を示す。

勘定科目 借方残高 貸方残高
現金 900,000
備品 150,000
買掛金 0
資本金 1,000,000
売上 350,000
仕入 300,000
合計 1,350,000 1,350,000

借方合計と貸方合計が一致(1,350,000円)しており、貸借一致の原理が保たれていることが確認できる。

貸借一致の原理とその限界

試算表の貸借が一致することは、転記の正確性の必要条件ではあるが、十分条件ではない。以下のような誤りは、貸借一致が保たれたまま発生しうる。

  • 転記漏れ: ある取引の仕訳自体が転記されていない場合、借方・貸方とも同額が欠落するため、貸借は一致する
  • 二重転記: 同一取引が二重に転記された場合も、借方・貸方とも同額が過大となり、貸借は一致する
  • 勘定科目の誤り: 借方に記入すべき勘定科目を誤った場合(例: 備品とすべきところを消耗品としたなど)、金額は正しいため貸借は一致する
  • 貸借逆記入: 借方と貸方を逆に転記し、かつ同一金額であれば、合計試算表では検出できない場合がある

したがって、試算表は有用な検証手段であるが、すべての誤りを検出できるわけではない点に留意する必要がある。


決算整理仕訳

決算整理仕訳の意義

Key Concept: 決算整理仕訳(Adjusting Entries) 決算にあたり、期中の記録では適正に反映されていない事項を修正するために行う仕訳。発生主義会計のもとで、収益・費用を適正な期間に帰属させることを目的とする。

期中取引の記録は、現金の収支に基づいて行われることが多い。しかし、適正な期間損益計算のためには、収益・費用を発生した期間に正しく帰属させる必要がある(発生主義・実現主義)。決算整理仕訳は、この調整を行う手続である。

代表的な決算整理仕訳

1. 減価償却

建物・備品・車両などの固定資産は、長期にわたって使用されるため、取得時に全額を費用とするのではなく、その耐用年数にわたって費用を配分する。これを減価償却と呼ぶ。

具体例: 備品を600,000円で取得、耐用年数5年、残存価額ゼロ、定額法を採用する場合。

年間の減価償却費 = 600,000 ÷ 5 = 120,000円

借方 金額 貸方 金額
減価償却費 120,000 減価償却累計額 120,000

減価償却費(費用)を借方に計上し、減価償却累計額(資産のマイナス=評価勘定)を貸方に計上する。備品勘定の取得原価はそのまま維持し、減価償却累計額を控除することで帳簿価額(簿価)を算定する。

2. 貸倒引当金の設定

売掛金や受取手形などの債権は、取引先の倒産等により回収不能となるリスクがある。このリスクに備え、将来の貸倒れを見積もって費用計上する。

具体例: 期末の売掛金残高500,000円に対し、過去の実績から2%の貸倒れを見積もる場合。

貸倒引当金繰入額 = 500,000 × 2% = 10,000円

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 10,000 貸倒引当金 10,000

貸倒引当金繰入(費用)を借方に、貸倒引当金(資産のマイナス=評価勘定)を貸方に計上する。

3. 経過勘定(前払費用・未払費用・前受収益・未収収益)

期中に計上した費用・収益のうち、当期に帰属しない部分を調整する。

具体例: 前払費用 4月1日に向こう1年分の保険料120,000円を現金で支払った。決算日は12月31日である。

期中仕訳(4/1):

借方 金額 貸方 金額
保険料 120,000 現金 120,000

決算整理仕訳(12/31): 翌期分(1月〜3月、3か月分)を前払費用に振り替える。

前払分 = 120,000 × 3/12 = 30,000円

借方 金額 貸方 金額
前払保険料 30,000 保険料 30,000

具体例: 未払費用 従業員への給料は月末締め翌月10日払いである。12月分の給料250,000円が未払いのまま決算を迎えた。

借方 金額 貸方 金額
給料 250,000 未払給料 250,000

当期の費用として給料(費用)を計上し、同時に未払給料(負債)を認識する。


精算表と帳簿の締切

精算表の構造

精算表(worksheet)は、試算表から決算整理仕訳を経て財務諸表を導出する過程を一覧的に示す作業用の表である。一般的な8桁精算表は以下の4区分で構成される。

区分 借方 貸方 内容
残高試算表 決算整理前の各勘定残高
修正記入 決算整理仕訳の内容
損益計算書 費用・収益の集計(当期純利益を含む)
貸借対照表 資産・負債・純資産の集計

精算表の作成手順: 1. 残高試算表欄に、総勘定元帳の各勘定残高を記入する 2. 修正記入欄に、決算整理仕訳を記入する 3. 残高試算表の金額に修正記入の金額を加減し、損益計算書欄(収益・費用)と貸借対照表欄(資産・負債・純資産)に振り分ける 4. 損益計算書欄の貸借差額として当期純利益(または当期純損失)を算定し、貸借対照表欄にも同額を記入する

帳簿の締切

精算表の完成後、帳簿を正式に締め切る手続を行う。

  1. 収益・費用の各勘定を損益勘定に振り替える: 収益勘定の残高を損益勘定の貸方に、費用勘定の残高を損益勘定の借方に振り替え、各勘定を締め切る
  2. 損益勘定の差額(当期純利益)を繰越利益剰余金に振り替える: 損益勘定の貸借差額を繰越利益剰余金(純資産)に振り替える
  3. 資産・負債・純資産の各勘定を締め切り、次期に繰り越す: 各勘定の残高を「次期繰越」として記入し、翌期首に「前期繰越」として開始記入を行う

簿記一巡の手続(まとめ)

以上の手続を時系列で整理すると、簿記一巡の手続(会計サイクルの記帳部分)は以下のようになる。

graph TD
    A["1. 取引の発生"] --> B["2. 仕訳<br/>仕訳帳に記入"]
    B --> C["3. 転記<br/>総勘定元帳へ"]
    C --> D["4. 試算表の作成<br/>貸借一致を確認"]
    D --> E["5. 決算整理仕訳<br/>期間帰属の調整"]
    E --> F["6. 精算表の作成<br/>財務諸表の導出"]
    F --> G["7. 帳簿の締切<br/>損益振替・資産負債の繰越"]
    G --> H["8. 財務諸表の作成<br/>B/S・P/L"]
    H -->|"翌期へ"| A

この一連の手続は会計サイクル(→ Module 1-3, Section 1「企業活動と会計の役割」参照)の中核を成し、1会計期間(通常1年)を単位として繰り返される。


まとめ

  • 複式簿記は、すべての取引を借方(左側)と貸方(右側)の2つの側面から同額で記録する簿記の方法であり、取引の二面性を捉えることで財政状態と経営成績を体系的に把握する
  • 勘定科目は資産・負債・純資産・収益・費用の5つに分類され、各分類は会計等式に基づく増減ルール(借方増加/貸方増加)を持つ
  • 仕訳は取引を分析して借方・貸方に分解する手続であり、仕訳帳から総勘定元帳への転記を経て、試算表で貸借一致を検証する
  • 決算整理仕訳により、減価償却・貸倒引当金設定・経過勘定項目の調整など、期間帰属の修正を行う
  • 精算表は試算表から財務諸表を導出する過程を一覧化し、帳簿の締切を経て会計サイクルが完結する
  • 次のSection 3では、この複式簿記の手続から生成される財務諸表のうち、貸借対照表と損益計算書の構造を詳しく検討する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
複式簿記 Double-entry Bookkeeping すべての取引を借方と貸方の2つの側面から同額で記録する簿記の方法
借方 Debit 仕訳や勘定の左側を指す簿記上の用語。資産・費用の増加を記録する側
貸方 Credit 仕訳や勘定の右側を指す簿記上の用語。負債・純資産・収益の増加を記録する側
勘定科目 Account 取引の内容を分類・記録するための項目名。5つのグループに分類される
仕訳 Journal Entry 取引を分析し、勘定科目を借方・貸方に分けて記録する手続
総勘定元帳 General Ledger すべての勘定科目の借方・貸方の記録を集約した帳簿
試算表 Trial Balance 総勘定元帳の全勘定科目の残高を一覧にまとめ、貸借一致を検証する集計表
決算整理仕訳 Adjusting Entries 決算にあたり、収益・費用を適正な期間に帰属させるために行う修正仕訳
貸借平均の原理 Principle of Equilibrium いかなる取引においても借方合計と貸方合計が一致するという複式簿記の基本原理
転記 Posting 仕訳帳の記録を勘定科目ごとに総勘定元帳へ書き写す手続
会計等式 Accounting Equation 資産=負債+純資産 という等式で、複式簿記の構造的基盤
精算表 Worksheet 試算表から決算整理を経て財務諸表を導出する過程を一覧化した作業表
減価償却 Depreciation 固定資産の取得原価を耐用年数にわたって費用配分する手続
経過勘定 Accrued/Deferred Items 前払費用・未払費用・前受収益・未収収益の総称。期間帰属の調整に用いる
複合仕訳 Compound Journal Entry 借方または貸方のいずれかが複数の勘定科目で構成される仕訳

確認問題

Q1: 複式簿記において、すべての取引で借方合計と貸方合計が一致する理由を、会計等式の観点から説明せよ。

A1: 複式簿記は「資産=負債+純資産」という会計等式の均衡を常に維持するように設計されている。すべての取引は、この等式の左辺と右辺を同額だけ変動させるか、同一辺内の増減を相殺する形で記録される。たとえば、現金で商品を仕入れた場合、資産の一項目(仕入→費用として純資産を減少)が増加し、資産の別の一項目(現金)が同額減少するため、等式の均衡は保たれる。このように、取引は必ず2つ以上の勘定に同額の影響を及ぼすため、借方合計と貸方合計は常に一致する。

Q2: 以下の取引について仕訳を示せ。(a) 商品80,000円を掛けで仕入れた。(b) 売掛金120,000円を現金で回収した。(c) 借入金200,000円のうち100,000円を現金で返済した。

A2: (a) 仕入(費用)の増加を借方に、買掛金(負債)の増加を貸方に記録する。 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |------|------|------|------| | 仕入 | 80,000 | 買掛金 | 80,000 |

(b) 現金(資産)の増加を借方に、売掛金(資産)の減少を貸方に記録する。 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |------|------|------|------| | 現金 | 120,000 | 売掛金 | 120,000 |

(c) 借入金(負債)の減少を借方に、現金(資産)の減少を貸方に記録する。 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |------|------|------|------| | 借入金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |

Q3: 試算表の貸借が一致しているにもかかわらず、帳簿に誤りが含まれている可能性がある。貸借一致を保ったまま発生しうる誤りの類型を3つ挙げ、それぞれ具体例を示せ。

A3: (1) 転記漏れ: 仕訳帳に記入された取引が総勘定元帳にまったく転記されなかった場合。例: 現金50,000円の売上取引が仕訳帳に記載されているが、現金勘定・売上勘定のいずれにも転記されていない。借方・貸方とも同額が欠落するため貸借は一致する。 (2) 勘定科目の誤り: 正しい勘定科目ではなく、別の同分類の勘定科目に転記した場合。例: 通信費とすべき支出を消耗品費に転記した。金額と借方・貸方の位置は正しいため貸借は一致する。 (3) 二重転記: 同一取引を2回転記した場合。例: 仕入100,000円/現金100,000円の取引が2回転記された。借方・貸方とも同額が過大となるため貸借は一致する。

Q4: 以下の条件で減価償却費の決算整理仕訳を示せ。車両運搬具の取得原価2,400,000円、耐用年数6年、残存価額ゼロ、定額法を採用する。

A4: 年間減価償却費 = 2,400,000 ÷ 6 = 400,000円

借方 金額 貸方 金額
減価償却費 400,000 減価償却累計額 400,000

減価償却費(費用)を借方に計上し、車両運搬具の評価勘定である減価償却累計額を貸方に計上する。これにより、車両運搬具の帳簿価額(取得原価 - 減価償却累計額)が400,000円減少する。

Q5: 9月1日に向こう1年分の家賃360,000円を現金で前払いした。決算日が12月31日である場合、期中仕訳と決算整理仕訳をそれぞれ示し、当期の費用計上額を求めよ。

A5: 期中仕訳(9/1): | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |------|------|------|------| | 支払家賃 | 360,000 | 現金 | 360,000 |

決算整理仕訳(12/31): 1年分のうち、9月〜12月の4か月分が当期に帰属する。翌期分(1月〜8月の8か月分)を前払家賃に振り替える。 前払分 = 360,000 × 8/12 = 240,000円

借方 金額 貸方 金額
前払家賃 240,000 支払家賃 240,000

当期の費用計上額 = 360,000 - 240,000 = 120,000円(4か月分)