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Module 1-3 - Section 5: 財務諸表の相互関係と基礎分析

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-3: 簿記・会計の基礎
前提セクション Section 3, Section 4
想定学習時間 2.5時間

導入

Section 3 および Section 4 において、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)の構造と読み方を個別に学んだ。Section 3 では、P/L の当期純利益が B/S の利益剰余金に接続することを確認し、Section 4 では、C/F が B/S と P/L では捉えきれない現金動態を補完する役割を担うことを学んだ。

本セクションでは、これら財務三表(Three Financial Statements)が相互にどのように結びついているかを体系的に整理し、さらに株主資本等変動計算書の位置づけを確認した上で、財務諸表を読み解くための基礎的な財務指標を導入する。本セクションは Module 1-3 の最終セクションであり、ここまでの学習内容を統合し、後続の Module 2-4(財務会計・管理会計)への橋渡しを行う。


財務三表の連関構造

3つの結節点

財務三表は、以下の3つの主要な結節点によって有機的に結びついている。

Key Concept: 財務三表(Three Financial Statements) 貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)の総称。企業の財政状態(ストック)、経営成績(フロー)、資金動態(キャッシュフロー)を三位一体で表現し、相互に整合的な関係を持つ。

結節点1: P/L の当期純利益 → B/S の利益剰余金

P/L で算出された当期純利益は、配当等の社外流出を控除した後、B/S の純資産の部における利益剰余金に加算される(→ Module 1-3, Section 3「貸借対照表と損益計算書」参照)。この接続により、一会計期間のフロー情報(P/L)が、期末時点のストック情報(B/S)に反映される。

結節点2: B/S の期首・期末の現金残高 ← C/F の現金増減

C/F は一定期間における現金及び現金同等物の増減を営業・投資・財務の3区分で表示する。3区分の合計である純増減額に、B/S の期首における現金及び現金同等物残高を加算すると、B/S の期末における現金及び現金同等物残高と一致する。すなわち、C/F は B/S 上の現金及び現金同等物の変動原因を説明する計算書である。

結節点3: P/L の税引前当期純利益 → C/F(間接法の出発点)

間接法によるC/F では、P/L の税引前当期純利益を出発点として、非資金損益項目・運転資本変動等を調整し、営業活動によるキャッシュフローを算出する(→ Module 1-3, Section 4「キャッシュフロー計算書」参照)。この調整プロセスを通じて、発生主義に基づく利益と現金主義に基づくキャッシュフローの差異が明示される。

財務三表の連関図

graph TD
    subgraph PL ["損益計算書 P/L"]
        REV["売上高"]
        EXP["費用"]
        NI["当期純利益"]
        NIBT["税引前当期純利益"]
        REV --> NI
        EXP --> NI
        REV --> NIBT
        EXP --> NIBT
    end

    subgraph BS ["貸借対照表 B/S"]
        CASH["現金及び現金同等物"]
        OTHER_A["その他の資産"]
        LIAB["負債"]
        RE["利益剰余金"]
        OTHER_EQ["その他の純資産"]
    end

    subgraph CF ["キャッシュフロー計算書 C/F"]
        OCF["営業C/F"]
        ICF["投資C/F"]
        FCF_fin["財務C/F"]
        NET_CF["現金増減額"]
        OCF --> NET_CF
        ICF --> NET_CF
        FCF_fin --> NET_CF
    end

    NI -- "配当控除後" --> RE
    NIBT -- "間接法の出発点" --> OCF
    NET_CF -- "期首残高に加算" --> CASH

具体例による連関の確認

以下に、架空のX社の簡易的な財務三表を用いて連関を確認する。

X社 損益計算書(P/L) 20X1年4月1日〜20X2年3月31日

科目 金額(百万円)
売上高 5,000
売上原価 3,000
売上総利益 2,000
販売費及び一般管理費 1,200
営業利益 800
営業外収益 20
営業外費用 40
経常利益 780
特別利益 0
特別損失 30
税引前当期純利益 750
法人税等 250
当期純利益 500

X社 キャッシュフロー計算書(C/F) 20X1年4月1日〜20X2年3月31日(間接法)

科目 金額(百万円)
税引前当期純利益 750 ← P/L と一致
減価償却費 +200
売上債権の増加額 -100
棚卸資産の減少額 +30
仕入債務の増加額 +50
その他の調整 -10
法人税等の支払額 -250
営業活動によるC/F +670
有形固定資産の取得 -400
投資活動によるC/F -400
長期借入金の返済 -100
配当金の支払 -100
財務活動によるC/F -200
現金及び現金同等物の増減額 +70
現金及び現金同等物の期首残高 300
現金及び現金同等物の期末残高 370

X社 貸借対照表(B/S) 20X2年3月31日

科目 金額(百万円) 科目 金額(百万円)
現金及び現金同等物 370 ← C/F と一致 流動負債 600
売掛金 500 固定負債 900
棚卸資産 270 負債合計 1,500
有形固定資産 1,800 資本金 500
その他の資産 160 利益剰余金 1,100 ← P/L と接続
純資産合計 1,600
資産合計 3,100 負債純資産合計 3,100

この三表の連関を確認する。

  1. P/L → B/S: 当期純利益500から配当金100を差し引いた400が利益剰余金に加算される。期首の利益剰余金が700であったとすると、700 + 500 - 100 = 1,100 となり、期末の利益剰余金1,100と一致する。
  2. P/L → C/F: P/L の税引前当期純利益750が、C/F(間接法)の出発点となっている。
  3. C/F → B/S: C/F の期末残高370が、B/S の現金及び現金同等物370と一致する。

株主資本等変動計算書の位置づけ

B/S と P/L の橋渡し

Section 3 で、P/L の当期純利益が B/S の利益剰余金に接続することを学んだが、純資産の変動は当期純利益だけに起因するものではない。増資、配当、自己株式の取得・処分、その他有価証券評価差額金の変動など、純資産の各構成要素はさまざまな原因で増減する。これらの変動を一覧的に示すのが株主資本等変動計算書である。

Key Concept: 株主資本等変動計算書(Statement of Changes in Equity, S/S) 一会計期間における純資産の各構成要素(資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、評価・換算差額等、新株予約権)の変動事由と金額を一覧表示する財務諸表。B/S の期首純資産と期末純資産の変動原因を、P/L の当期純利益を含めて体系的に説明する。

構造

株主資本等変動計算書は、縦軸に変動事由(当期純利益、配当金の支払、新株の発行、自己株式の取得等)を、横軸に純資産の各構成要素(資本金、資本準備金、利益準備金、その他利益剰余金、自己株式等)を配置するマトリクス形式で表示される。

以下に、X社を用いた簡易的な株主資本等変動計算書を示す。

変動事由 資本金 資本剰余金 利益剰余金 自己株式 株主資本合計
期首残高 500 200 700 -50 1,350
当期純利益 +500 +500
配当金の支払 -100 -100
自己株式の取得 -150 -150
期末残高 500 200 1,100 -200 1,600

この表から、以下の関係が読み取れる。

  • P/L との接続: 当期純利益500は P/L の最終値と一致する
  • B/S との接続: 期末残高の各項目は、B/S の純資産の部の各項目と一致する
  • 利益剰余金の変動内訳: 当期純利益 +500、配当金 -100 の結果、利益剰余金は期首700から期末1,100へ変動

財務四表の連関

株主資本等変動計算書を加えた4つの計算書は、以下のように連関する。

graph TD
    PL["P/L: 当期純利益"] --> SS["S/S: 利益剰余金の変動"]
    SS --> BS["B/S: 純資産の部"]
    CF["C/F: 現金増減額"] --> BS_CASH["B/S: 現金及び現金同等物"]
    PL_NIBT["P/L: 税引前当期純利益"] --> CF_OCF["C/F: 営業C/F"]
    SS_DIV["S/S: 配当金の支払"] --> CF_FIN["C/F: 財務C/F"]

株主資本等変動計算書は、会社法上の計算書類として作成が義務づけられている(会社法第435条第2項、会社計算規則第96条)。金融商品取引法に基づく有価証券報告書においても開示が求められる。2006年の会社法施行に伴い、従来の利益処分計算書に代わって導入された。その背景には、会社法により株主総会決議以外の場面(取締役会決議等)でも配当や自己株式の処分が可能となり、純資産の変動をより詳細に追跡する必要性が高まったことがある。


基礎的な財務指標

財務三表のデータを用いて企業の経営状態を数量的に評価する手法が財務分析(Financial Analysis)である。ここでは、収益性・安全性・効率性の3つの観点から基礎的な財務指標を導入する。

収益性の指標

収益性指標は、企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを測定する。

Key Concept: ROA(Return on Assets / 総資産利益率) 企業が保有する総資産を用いてどれだけの利益を生み出したかを示す指標。事業に投下された資産全体の収益効率を測定する。計算式は「ROA = 当期純利益 / 総資産 × 100(%)」。分子に経常利益や営業利益を用いる場合もある。

Key Concept: ROE(Return on Equity / 自己資本利益率) 株主が出資した自己資本に対してどれだけの利益を生み出したかを示す指標。株主の視点から見た収益効率を測定する。計算式は「ROE = 当期純利益 / 自己資本 × 100(%)」。

指標 計算式 意味
ROA 当期純利益 / 総資産 × 100 資産全体の収益効率
ROE 当期純利益 / 自己資本 × 100 株主資本の収益効率
売上高営業利益率 営業利益 / 売上高 × 100 本業の収益力

ROA は「企業全体の経営効率」を測定するのに対し、ROE は「株主の投資効率」を測定する。ROA が高くても、負債が多ければ株主に帰属する利益は限定的となる場合がある。逆に、負債を積極的に活用することで ROE を高めることも可能であるが、その場合は財務リスクの増大を伴う。この関係を体系的に分析する手法がデュポン分析である。

安全性の指標

安全性指標は、企業の支払能力と財務基盤の安定性を測定する。

Key Concept: 流動比率(Current Ratio) 流動負債に対する流動資産の割合を示す指標。短期的な支払能力を測定する。計算式は「流動比率 = 流動資産 / 流動負債 × 100(%)」。一般に200%以上が望ましいとされる。

Key Concept: 自己資本比率(Equity Ratio) 総資産に対する自己資本の割合を示す指標。企業の長期的な財務安定性を測定する。計算式は「自己資本比率 = 自己資本 / 総資産 × 100(%)」。

指標 計算式 意味 目安
流動比率 流動資産 / 流動負債 × 100 短期支払能力 200%以上
当座比率 当座資産 / 流動負債 × 100 より厳密な短期支払能力 100%以上
自己資本比率 自己資本 / 総資産 × 100 長期的な財務安定性 業種により異なる

当座比率は、流動比率の補完指標である。流動資産には棚卸資産や前払費用など、短期間での現金化が困難な項目も含まれる。当座比率は、これらを除いた当座資産(現金預金、受取手形、売掛金、有価証券等)のみを分子とすることで、より保守的に短期支払能力を評価する。

効率性の指標

効率性指標は、企業が保有する資産をどれだけ効率的に活用して売上を生み出しているかを測定する。

指標 計算式 意味
総資産回転率 売上高 / 総資産(回) 総資産全体の活用効率
棚卸資産回転率 売上高 / 棚卸資産(回) 在庫の回転速度
売上債権回転期間 売上債権 / (売上高 / 12)(月) 売掛金の回収に要する期間

総資産回転率が高いほど、少ない資産で多くの売上を生み出していることを意味する。ただし、業種によって水準は大きく異なる。たとえば、小売業は総資産回転率が高い傾向にあるが、設備投資が重い製造業や不動産業は低い傾向にある。棚卸資産回転率は在庫管理の効率性を示し、値が低い場合は過剰在庫や滞留在庫の存在が疑われる。売上債権回転期間が長期化している場合は、売掛金の回収遅延や不良債権の発生リスクを示唆する。


デュポン分析

ROE の3要素分解

Key Concept: デュポン分析(DuPont Analysis) ROE を「売上高純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つの要素に分解し、ROE の変動原因を構造的に分析する手法。米国デュポン社(E. I. du Pont de Nemours and Company)が社内管理に用いたことに由来する。

ROE の定義式は以下の通りである。

$$ \text{ROE} = \frac{\text{当期純利益}}{\text{自己資本}} $$

この式の分子と分母にそれぞれ「売上高」と「総資産」を掛けて整理すると、以下のように3要素に分解できる。

$$ \text{ROE} = \frac{\text{当期純利益}}{\text{売上高}} \times \frac{\text{売上高}}{\text{総資産}} \times \frac{\text{総資産}}{\text{自己資本}} $$

すなわち、

$$ \text{ROE} = \text{売上高純利益率} \times \text{総資産回転率} \times \text{財務レバレッジ} $$

各要素の意味は以下の通りである。

要素 計算式 分析観点
売上高純利益率 当期純利益 / 売上高 収益性: 売上からどれだけ利益を残せるか
総資産回転率 売上高 / 総資産 効率性: 資産をどれだけ効率的に活用しているか
財務レバレッジ 総資産 / 自己資本 資本構成: 負債をどの程度活用しているか

デュポン分析のツリー図

graph TD
    ROE["ROE"] --> PM["売上高純利益率"]
    ROE --> TAT["総資産回転率"]
    ROE --> FL["財務レバレッジ"]
    PM --> NI_PM["当期純利益 / 売上高"]
    TAT --> S_TA["売上高 / 総資産"]
    FL --> TA_EQ["総資産 / 自己資本"]

ROA との関係

デュポン分析の3要素のうち、売上高純利益率と総資産回転率の積は ROA に等しい。

$$ \text{ROA} = \text{売上高純利益率} \times \text{総資産回転率} $$

したがって、ROE は次のようにも表現できる。

$$ \text{ROE} = \text{ROA} \times \text{財務レバレッジ} $$

この関係は重要な含意を持つ。ROA が同一の2社であっても、負債を多く活用している企業(財務レバレッジが高い企業)の方が ROE は高くなる。しかし、高い財務レバレッジは財務リスクの増大を伴う。ROE の水準を評価する際には、それが収益性や効率性の改善によるものか、あるいは財務レバレッジの拡大によるものかを識別することが不可欠であり、デュポン分析はそのための分析ツールである。

数値例による比較分析

以下に、架空のA社とB社の財務データを用いてデュポン分析を行う。

指標 A社 B社
売上高 10,000 5,000
当期純利益 500 400
総資産 8,000 4,000
自己資本 4,000 1,000

A社のデュポン分析:

要素 計算
売上高純利益率 500 / 10,000 5.0%
総資産回転率 10,000 / 8,000 1.25回
財務レバレッジ 8,000 / 4,000 2.0倍
ROE 5.0% × 1.25 × 2.0 12.5%

B社のデュポン分析:

要素 計算
売上高純利益率 400 / 5,000 8.0%
総資産回転率 5,000 / 4,000 1.25回
財務レバレッジ 4,000 / 1,000 4.0倍
ROE 8.0% × 1.25 × 4.0 40.0%

分析:

B社の ROE(40.0%)は A社(12.5%)の3倍以上であるが、その要因を分解すると状況は異なる。B社の売上高純利益率は8.0%と A社(5.0%)を上回っており、収益性は優れている。総資産回転率は両社とも1.25回で同水準である。しかし、B社の財務レバレッジは4.0倍と A社(2.0倍)の2倍であり、自己資本比率は25%(A社は50%)にとどまる。B社の高い ROE は収益性と財務レバレッジの両方に起因しており、高い ROE の裏側に大きな財務リスクが潜んでいることが、デュポン分析によって可視化される。


包括利益と財務諸表の体系

クリーン・サープラス関係の補足

Section 3 において、当期純利益に着目した場合には厳密なクリーン・サープラス関係が成立しないことを述べた。これは、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益が損益計算書を経由せず、B/S の純資産に直接計上されるためである。

この問題に対処するために導入されたのが包括利益(Comprehensive Income)の概念である。包括利益は、当期純利益にその他の包括利益(Other Comprehensive Income, OCI)を加算した金額として定義される。

$$ \text{包括利益} = \text{当期純利益} + \text{その他の包括利益} $$

その他の包括利益に含まれる主な項目は以下の通りである。

項目 内容
その他有価証券評価差額金 その他有価証券の時価変動による評価差額
繰延ヘッジ損益 ヘッジ手段に係る未実現損益
為替換算調整勘定 在外子会社の財務諸表の換算差額
退職給付に係る調整額 退職給付の数理計算上の差異等

包括利益を用いると、純資産の資本取引以外の変動がすべて損益計算書(包括利益計算書)に計上されるため、クリーン・サープラス関係が回復する。2011年3月期以降、日本の連結財務諸表において包括利益計算書の作成が義務化されている。

包括利益と個別の財務諸表の関係、およびリサイクリング(その他の包括利益に計上された項目が実現した時点で当期純利益に振り替えられる処理)については、Module 2-4(財務会計・管理会計)で詳述する。


Module 1-3 の総括

本モジュールでは、以下の内容を5つのセクションにわたって学んだ。

  1. 企業活動と会計の役割(Section 1): 会計の情報提供機能と利害調整機能、財務会計と管理会計の区分、トライアングル体制
  2. 複式簿記の原理(Section 2): 仕訳・転記・試算表・決算整理仕訳の一連の手続
  3. 貸借対照表と損益計算書(Section 3): B/S の構造(資産・負債・純資産)、P/L の段階利益構造、当期純利益を介した B/S と P/L の接続
  4. キャッシュフロー計算書(Section 4): C/F の3区分、直接法と間接法、C/F パターン分析、フリーキャッシュフロー
  5. 財務諸表の相互関係と基礎分析(本セクション): 財務三表の連関構造、株主資本等変動計算書の位置づけ、基礎的な財務指標、デュポン分析

これらの知識は、Module 2-4(財務会計・管理会計)において、以下のようなより高度なテーマへと発展する。

  • 財務会計の各論: 収益認識基準、金融商品会計、減損会計、税効果会計、連結会計など、個別の会計基準の詳細
  • 管理会計: 原価計算、CVP分析(損益分岐点分析)、予算管理、業績評価(BSC等)など、内部意思決定のための会計
  • 財務分析の深化: 本セクションで導入した基礎指標のより精緻な運用、時系列分析・同業他社比較・業種別ベンチマーク

本モジュールで習得した複式簿記の原理と財務三表の読解力は、これらすべてのテーマの基盤となる。


まとめ

  • 財務三表は、(1) P/L の当期純利益 → B/S の利益剰余金、(2) C/F の現金増減 → B/S の現金及び現金同等物、(3) P/L の税引前当期純利益 → C/F(間接法の出発点)の3つの結節点で有機的に連関している
  • 株主資本等変動計算書は、B/S の純資産の各構成要素の変動事由を一覧的に示す計算書であり、P/L の当期純利益と B/S の利益剰余金の接続に加え、配当・増資・自己株式取引等による変動も体系的に説明する
  • 収益性指標(ROA、ROE、売上高営業利益率)、安全性指標(流動比率、当座比率、自己資本比率)、効率性指標(総資産回転率、棚卸資産回転率、売上債権回転期間)は、財務三表から計算され、企業の経営状態を多面的に評価する
  • デュポン分析は ROE を「売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」に分解し、ROE の変動原因を収益性・効率性・資本構成の観点から構造的に分析する手法である
  • 包括利益の概念により、当期純利益では捉えきれない純資産の変動(その他の包括利益)を含めたクリーン・サープラス関係が回復する
  • 本モジュールの知識は、Module 2-4(財務会計・管理会計)における会計各論および管理会計の基盤となる

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
財務三表 Three Financial Statements 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の総称
株主資本等変動計算書 Statement of Changes in Equity 一会計期間における純資産の各構成要素の変動事由と金額を一覧表示する計算書
ROA Return on Assets 当期純利益を総資産で除した収益性指標。総資産の収益効率を示す
ROE Return on Equity 当期純利益を自己資本で除した収益性指標。株主資本の収益効率を示す
デュポン分析 DuPont Analysis ROEを売上高純利益率・総資産回転率・財務レバレッジの3要素に分解する分析手法
流動比率 Current Ratio 流動資産を流動負債で除した安全性指標。短期的な支払能力を示す
自己資本比率 Equity Ratio 自己資本を総資産で除した安全性指標。長期的な財務安定性を示す

確認問題

Q1: 財務三表を結びつける3つの主要な結節点を挙げ、それぞれの関係を説明せよ。

A1: (1) P/Lの当期純利益は、配当等の社外流出を控除した後、B/Sの利益剰余金に加算される。これにより一会計期間のフロー情報がストック情報に反映される。(2) C/Fの3区分の合計である現金増減額に期首の現金及び現金同等物残高を加算すると、B/Sの期末現金及び現金同等物残高と一致する。C/FはB/S上の現金の変動原因を説明する計算書である。(3) 間接法によるC/Fでは、P/Lの税引前当期純利益を出発点として、非資金損益項目や運転資本変動を調整し営業C/Fを算出する。この調整により発生主義と現金主義の差異が明示される。

Q2: 以下のデータからROEをデュポン分析で3要素に分解し、各要素の値を計算せよ。売上高: 20,000百万円、当期純利益: 1,000百万円、総資産: 16,000百万円、自己資本: 8,000百万円。

A2: 売上高純利益率 = 1,000 / 20,000 = 5.0%。総資産回転率 = 20,000 / 16,000 = 1.25回。財務レバレッジ = 16,000 / 8,000 = 2.0倍。ROE = 5.0% × 1.25 × 2.0 = 12.5%。検算: ROE = 1,000 / 8,000 × 100 = 12.5%。デュポン分析により、この企業のROEは、5%の利益率を持ち、資産を年1.25回転させ、自己資本の2倍の資産を運用していることによって達成されていることがわかる。

Q3: ある企業の流動資産が800百万円(うち当座資産500百万円)、流動負債が400百万円であるとき、流動比率と当座比率をそれぞれ計算し、両指標の違いを説明せよ。

A3: 流動比率 = 800 / 400 × 100 = 200%。当座比率 = 500 / 400 × 100 = 125%。流動比率は流動資産全体を分子とするため、棚卸資産や前払費用など短期間での現金化が困難な項目も含んでいる。一方、当座比率はこれらを除いた当座資産(現金預金、受取手形、売掛金、有価証券等)のみを分子とするため、より保守的に短期支払能力を評価する。この企業の場合、流動比率は目安の200%を満たすが、当座比率は125%であり、棚卸資産に300百万円が拘束されていることが読み取れる。

Q4: 株主資本等変動計算書が導入された背景と、この計算書が財務諸表の体系においてどのような役割を果たしているか説明せよ。

A4: 2006年の会社法施行により、株主総会決議以外の場面(取締役会決議等)でも配当や自己株式の処分が可能となったため、純資産の変動が多様化・複雑化した。従来の利益処分計算書では、これらの変動を十分に追跡することが困難となり、株主資本等変動計算書が導入された。この計算書は、B/Sの純資産の各構成要素の変動について、P/Lの当期純利益による増加のみならず、配当金の支払、新株の発行、自己株式の取得・処分、評価差額の変動等、すべての変動事由と金額を一覧的に示す。これにより、B/Sの期首純資産から期末純資産への変動原因が体系的に説明され、P/LとB/Sの橋渡しとしての役割を果たしている。

Q5: ROEが同水準の2社について、デュポン分析を用いてどのようなリスク評価が可能となるか、具体的に説明せよ。

A5: ROEが同水準であっても、デュポン分析による3要素の構成比率が異なれば、企業の経営特性とリスクは大きく異なる。たとえば、A社のROE 15%が「売上高純利益率10% × 総資産回転率1.0回 × 財務レバレッジ1.5倍」で構成される場合、高い収益性と低い財務リスクに支えられた健全なROEである。一方、B社の同じROE 15%が「売上高純利益率3% × 総資産回転率1.0回 × 財務レバレッジ5.0倍」で構成される場合、低い収益性を高い財務レバレッジで補っており、自己資本比率は20%と低水準で、金利上昇や業績悪化に対して脆弱である。このように、デュポン分析はROEの表面的な数値の裏にある構造的なリスクを可視化し、企業間比較や投資判断において不可欠な分析ツールとなる。