コンテンツにスキップ

Module 1-4 - Section 2: 企業の諸形態と株式会社制度

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 1-4: 経営学入門(総論)
前提セクション Section 1: 経営学の対象と方法
想定学習時間 2.5時間

導入

前セクション(Section 1)では、経営学が企業を中心とする組織体の管理・運営を研究する社会科学であることを確認した。また、経営学と法学の関係として、会社法が企業の設立・運営・解散の法的基盤を規定し、コーポレート・ガバナンスの議論に直接的な影響を与える点にも触れた。本セクションでは、経営学の中核的な研究対象である「企業」が、法的にどのような形態をとりうるかを整理したうえで、とりわけ株式会社という形態がなぜ現代経済の支配的な組織形態となったかを検討する。さらに、株式会社の発展にともなって生じた「所有と経営の分離」という現象を、バーリ=ミーンズの古典的議論およびエージェンシー理論の枠組みから分析し、コーポレート・ガバナンスの基本概念を導入する。


企業形態の分類

企業形態を分類する視点

企業の法的形態は、経営学において単なる法律上の区分にとどまらない重要な意味を持つ。企業形態の選択は、出資者の責任範囲、意思決定の仕組み、資金調達の可能性、そして所有と経営の関係を規定するからである。

企業形態を分類するための主要な基準は以下の三つである。

  1. 出資者の責任形態: 出資者が企業の債務に対してどこまで責任を負うか(無限責任か有限責任か)
  2. 所有と経営の関係: 出資者が自ら経営に携わるか、経営を他者に委任するか
  3. 法人格の有無: 企業が出資者とは独立した法的主体(法人)として認められるか

日本の会社法における企業形態

日本の会社法(2005年制定、2006年施行)は、四つの会社形態を規定している。これらは大きく「株式会社」と「持分会社」(合名会社・合資会社・合同会社)に二分される。

Key Concept: 有限責任(Limited Liability) 出資者(株主・社員)が企業の債務に対して、自己の出資額を限度としてのみ責任を負う制度。出資額を超える損失が生じても、出資者の個人財産は保護される。株式会社および合同会社の出資者に適用される。

graph TD
    CO["会社 Company"] --> KK["株式会社"]
    CO --> MC["持分会社"]

    MC --> GMK["合名会社"]
    MC --> GSK["合資会社"]
    MC --> GDK["合同会社 LLC"]

    KK --- KK_D["全社員: 有限責任<br/>所有と経営の分離<br/>株式による資金調達"]
    GMK --- GMK_D["全社員: 無限責任<br/>社員が直接経営"]
    GSK --- GSK_D["無限責任社員 + 有限責任社員<br/>社員が直接経営"]
    GDK --- GDK_D["全社員: 有限責任<br/>社員が直接経営"]

以下、個人企業を含めた各形態の特徴を整理する。

個人企業

個人企業(sole proprietorship)は、個人が単独で事業を営む最も基本的な企業形態である。法人格を持たず、事業主個人と企業は法的に区別されない。したがって、事業上の債務は事業主個人の無限責任となる。開業手続が簡便で、意思決定の迅速さが長所であるが、資金調達能力には限界がある。事業の継続は事業主個人に依存するため、事業承継にも困難をともなう。

合名会社

合名会社(general partnership company)は、社員(出資者)の全員が無限責任社員で構成される持分会社である(会社法576条)。社員は会社債権者に対して直接連帯無限責任を負う。社員が直接経営に参加することが原則であり(社員の業務執行権、会社法590条)、所有と経営は一致している。社員間の人的信頼関係を基盤とする組織であるため、社員の変動(加入・脱退)には他の社員の同意を要する。

合資会社

合資会社(limited partnership company)は、無限責任社員と有限責任社員の両方で構成される持分会社である(会社法576条)。無限責任社員が経営を担当し、有限責任社員は出資のみを行うという役割分担が基本形である。歴史的には、商業資本の時代に、商人が航海や貿易の資金を集めるための仕組みとして発達した。現代では新規設立数は少ないが、この形態が示す「経営を担う出資者」と「資金のみを提供する出資者」の分離は、後述する株式会社における所有と経営の分離を考える際の重要な先行形態である。

合同会社

合同会社(limited liability company, LLC)は、2005年の会社法制定時に新設された持分会社の一類型である。全社員が有限責任社員で構成され(会社法576条4項)、同時に社員が直接経営に携わることができる点に特徴がある。有限責任と経営参加の柔軟性を両立させた形態であり、アメリカのLLC(Limited Liability Company)を参考に導入された。定款自治の範囲が広く、利益配分を出資比率に連動させない取り決めも可能である。IT企業やスタートアップ、外資系企業の日本法人などで採用が増加している。ただし、株式発行による資金調達や株式上場はできないため、大規模な資金調達には制約がある。

株式会社

株式会社(corporation / joint-stock company)は、出資者(株主)の全員が有限責任であり、会社の所有権が株式という均一な持分単位に分割される会社形態である。株式の譲渡が原則として自由であり(公開会社の場合)、証券市場を通じた大規模な資金調達が可能である。株式会社については次節以降で詳述する。

企業形態の比較

比較項目 個人企業 合名会社 合資会社 合同会社 株式会社
法人格 なし あり あり あり あり
出資者の責任 無限責任 全員無限責任 無限+有限 全員有限責任 全員有限責任
所有と経営 一致 一致 部分的分離 原則一致 分離可能
最低出資者数 1名 1名 2名 1名 1名
資金調達能力 低い 低い やや低い 中程度 高い
持分の譲渡性 社員の同意要 社員の同意要 社員の同意要 原則自由
設立費用 最も低い 低い 低い やや低い やや高い
機関設計の複雑性 なし 単純 単純 単純 複雑

株式会社の基本構造

株式会社の本質的特徴

株式会社が他の企業形態と決定的に異なる点は、以下の四つの特徴の組み合わせにある。

Key Concept: 株式会社(Corporation / Joint-Stock Company) 出資者(株主)が有限責任を負い、会社の所有権が「株式」という均一な持分単位に分割された企業形態。株式の譲渡可能性、有限責任制、法人格の独立性により、広範な投資家からの大規模な資金調達を可能にする。近代資本主義経済の中核的な組織形態である。

  1. 有限責任制: 株主は出資額を限度として責任を負い、会社の債務が出資額を超えても個人財産に及ばない。
  2. 株式による所有の分割: 所有権が均一な単位(株式)に分割され、多数の投資家が小口の出資を行うことを可能にする。
  3. 株式の譲渡可能性: 株式は原則として自由に譲渡でき、証券市場を通じて流動性が確保される。
  4. 法人格の永続性: 株式会社は出資者個人から独立した法人格を持ち、株主の交代・死亡に関わらず存続し続ける。

これらの特徴の組み合わせが、見知らぬ多数の投資家から巨額の資本を集積することを可能にし、大規模な事業の遂行を可能にした。産業革命以降の資本主義経済の発展は、株式会社制度の発展と不可分の関係にある。

株式会社の機関設計

日本の会社法は、株式会社に対して一定の機関(organ)を設置することを要求する。「機関」とは、会社の意思決定や業務執行を担う法定の組織体をいう。株式会社のガバナンス構造を理解するうえで、主要三機関の関係を把握することが不可欠である。

graph TD
    SH["株主総会<br/>Shareholders Meeting<br/>最高意思決定機関"] -->|取締役の選任・解任| BD["取締役会<br/>Board of Directors<br/>業務執行の意思決定・監督"]
    SH -->|監査役の選任・解任| AU["監査役 / 監査役会<br/>Auditors / Board of Auditors<br/>取締役の職務執行の監査"]
    BD -->|業務執行の委任| CEO["代表取締役<br/>Representative Director<br/>業務の執行・会社の代表"]
    AU -->|監査| BD
    AU -->|監査| CEO

(1)株主総会(Shareholders' Meeting)

株主総会は、株式会社の最高意思決定機関であり、全ての株式会社に設置が義務づけられている(会社法295条)。定款変更、取締役・監査役の選解任、合併・解散など、会社の基本的事項を決定する。取締役会設置会社では、株主総会の決議事項は法律および定款に定められた事項に限定される(会社法295条2項)。各株主は原則として保有株式数に応じた議決権を有する(一株一議決権の原則、会社法308条1項)。

(2)取締役会(Board of Directors)

取締役会は、業務執行の意思決定および取締役の職務執行の監督を行う機関である(会社法362条)。公開会社(株式の全部または一部について譲渡制限のない会社)では取締役会の設置が義務づけられる。取締役会は3名以上の取締役で構成され(会社法331条5項)、代表取締役を選定する(会社法362条3項)。取締役会には業務執行の決定権限があるが、その執行自体は代表取締役を含む業務執行取締役が担う。

(3)監査役・監査役会(Auditor / Board of Auditors)

監査役は、取締役の職務の執行を監査する機関である(会社法381条)。監査には、業務監査(法令・定款への適合性の監査)と会計監査がある。大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)かつ公開会社には監査役会の設置が義務づけられる。

なお、2014年の会社法改正以降、日本の上場会社には以下の三つの機関設計の選択肢が存在する。

機関設計類型 監督機構 特徴
監査役会設置会社 監査役会 日本の伝統的な機関設計。取締役会が業務執行の意思決定と監督を兼ね、監査役会が取締役を監査する
監査等委員会設置会社 監査等委員会 2014年新設。取締役会の内部に監査等委員会を設置。監査等委員は取締役として議決権を持つ
指名委員会等設置会社 指名委員会・監査委員会・報酬委員会 アメリカ型に近い構造。取締役会内に三委員会を設置し、業務執行は執行役に委任する

所有と経営の分離

所有と経営の分離の発生メカニズム

株式会社の発展にともない、企業の「所有者」と「経営者」が分離するという現象が生じた。この現象は、株式会社の本質的特徴から論理的に導かれる。

Key Concept: 所有と経営の分離(Separation of Ownership and Control) 株式会社において、株式所有を通じて会社を所有する株主と、日常の業務執行を担う経営者(取締役・執行役員)が別個の主体となる現象。株式の分散保有により個々の株主の影響力が低下し、実質的な経営支配権が専門経営者に移行することを指す。

所有と経営が分離するメカニズムは以下のように説明される。

  1. 株式の分散: 事業の拡大にともない株式が広く分散し、個々の株主の持株比率が低下する
  2. 株主の経営能力の限界: 多数の小口株主は、複雑化した企業経営に必要な専門知識・経験を持たない
  3. 集合行為問題: 分散した株主が連携して経営を監視することはコストが高く、個々の株主にとっては合理的でない(フリーライダー問題)
  4. 専門経営者の台頭: 経営の複雑化にともない、所有者に代わって専門的な経営能力を持つ者が業務を執行するようになる

バーリ=ミーンズの議論

所有と経営の分離を実証的に明らかにしたのが、アドルフ・バーリ(Adolf Berle)とガーディナー・ミーンズ(Gardiner Means)の古典的著作『近代株式会社と私有財産』(The Modern Corporation and Private Property, 1932年)である。

バーリとミーンズは、当時のアメリカにおける最大規模の200社を調査し、以下の知見を示した。

  1. 経済的集中の進行: アメリカ経済において、少数の巨大企業への富の集中が進行していた。最大200社が全企業資産の約半分を支配していた。
  2. 所有の分散: これらの巨大企業において、株式所有は広く分散しており、過半数の株式を保有する支配株主が存在しないケースが多数を占めた。
  3. 経営者支配の出現: 株式が分散した結果、実質的な企業支配権は株主から専門経営者(取締役・役員)に移行していた。バーリとミーンズはこれを「経営者支配」(management control)と呼んだ。

バーリ=ミーンズの議論の核心は、株式会社において所有と経営が分離した場合、「私有財産」の伝統的な意味が変質するという点にあった。伝統的な私有財産の論理では、所有者は自らの財産を自らの利益のために管理・処分する。しかし株式の分散保有のもとでは、所有者(株主)は名目上の所有者にすぎず、財産の管理・処分の実権は経営者が握る。この構造のもとで、経営者が株主の利益ではなく自己の利益を追求する可能性が構造的に生じる。

この問題提起は、その後のエージェンシー理論やコーポレート・ガバナンス論の出発点となった。


エージェンシー理論

エージェンシー理論の基本構造

バーリ=ミーンズが提起した問題、すなわち「所有と経営の分離のもとで、経営者は株主の利益のために行動するか」という問いに、経済学の分析枠組みから体系的に応答したのがエージェンシー理論(Agency Theory)である。マイケル・ジェンセン(Michael Jensen)とウィリアム・メクリング(William Meckling)が1976年の論文「企業の理論:経営者行動、エージェンシー費用および所有構造」(Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure)において定式化した。

Key Concept: エージェンシー理論(Agency Theory) 「依頼人」(プリンシパル)が「代理人」(エージェント)に業務を委任する関係において生じる利害の不一致と情報の非対称性の問題を分析する理論。経営学ではとりわけ株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)の関係に適用される。

Key Concept: プリンシパル=エージェント問題(Principal-Agent Problem) プリンシパル(依頼人)がエージェント(代理人)に業務を委任する際に、両者の利害が一致せず、かつプリンシパルがエージェントの行動を完全に観察できないことから生じる問題。エージェントがプリンシパルの利益ではなく自己の利益を追求する誘因が構造的に存在する。

エージェンシー関係は、ある主体(プリンシパル)が自己の利益のために他の主体(エージェント)に意思決定の権限を委任するあらゆる関係に存在する。株式会社における株主と経営者の関係はその典型例であるが、雇用者と被雇用者、弁護士と依頼人、医師と患者など、広範な社会関係に適用可能な枠組みである。

プリンシパル=エージェント問題が生じるには、二つの前提条件がある。

  1. 利害の不一致: プリンシパルとエージェントの目的関数が異なる。株主は企業価値の最大化を望むが、経営者は報酬の最大化、権力の拡大、在職の安定、快適な職場環境(いわゆる「特権的消費」(perquisite consumption))を追求しうる。
  2. 情報の非対称性: エージェントはプリンシパルよりも自身の行動や能力について多くの情報を持つ。プリンシパルはエージェントの行動を完全には観察・検証できない。

モラルハザードと逆選択

情報の非対称性のもとで生じる代表的な問題として、モラルハザード(moral hazard)と逆選択(adverse selection)がある。

モラルハザード(Moral Hazard) は、契約締結後にエージェントの行動をプリンシパルが十分に観察できないことから生じる問題である(隠された行動、hidden action)。経営者が十分な努力を払わずに高額報酬を受け取る、あるいはリスクの高い投資案件を回避して自己の在職安定を図るといった行動がこれにあたる。

逆選択(Adverse Selection) は、契約締結前にエージェントの能力や特性についてプリンシパルが十分な情報を持たないことから生じる問題である(隠された情報、hidden information)。たとえば、取締役候補者の真の経営能力を株主が事前に正確に評価できないといった状況がこれにあたる。

エージェンシー費用

ジェンセンとメクリングは、プリンシパル=エージェント関係において生じる費用を「エージェンシー費用」(agency costs)として三つに分類した。

費用の種類 内容 具体例
モニタリング費用(monitoring costs) プリンシパルがエージェントの行動を監視するための費用 取締役会の運営費、外部監査費用、情報開示制度の費用
ボンディング費用(bonding costs) エージェントが自らプリンシパルの利益に反しないことを保証するための費用 業績連動報酬制度の導入費用、自主的な情報開示の費用
残余損失(residual loss) モニタリングとボンディングを行ってもなお残るプリンシパルの損失 経営者が株主利益と完全に一致しない意思決定を行うことによる企業価値の毀損

エージェンシー理論が示す重要な含意は、所有と経営の分離が生じている株式会社では、エージェンシー費用はゼロにはならないという点である。完全な監視には無限の費用がかかり、経営者の行動を株主利益と完全に一致させることは不可能である。したがって、コーポレート・ガバナンスの課題は、エージェンシー費用を最小化する仕組みをいかに設計するかという問題に帰着する。


コーポレート・ガバナンスの基本概念

コーポレート・ガバナンスとは

Key Concept: コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance) 企業(とりわけ株式会社)の経営が、誰のために、誰によって、いかに規律づけられるべきかに関する制度的枠組みの総体。株主・経営者・従業員・債権者などのステークホルダー間の利害調整メカニズムを含む。

コーポレート・ガバナンスは、所有と経営の分離から生じるエージェンシー問題に対する制度的な応答として位置づけられる。その中心的な問いは、「経営者の行動をいかに規律づけるか」であり、具体的には以下のメカニズムが論じられる。

メカニズム 分類 内容
取締役会の監督機能 内部メカニズム 社外取締役の設置、委員会制度
報酬制度の設計 内部メカニズム 業績連動報酬、ストックオプション
株主による規律 内部メカニズム 議決権行使、株主提案、機関投資家のエンゲージメント
株式市場の規律 外部メカニズム 株価による経営評価、敵対的買収の脅威
経営者労働市場 外部メカニズム 経営者の評判、解任リスク
法的規制 外部メカニズム 会社法、金融商品取引法、上場規則

日本型とアメリカ型の概観

コーポレート・ガバナンスの制度設計は国・地域によって異なり、経営学ではしばしば「日本型」と「アメリカ型」が対比される。ここではその概観を示す(詳細な分析は → Module 3-4 に委ねる)。

アメリカ型(株主重視モデル) では、企業は株主の所有物であるとの前提に立ち、経営者の義務は株主価値(shareholder value)の最大化であるとされる。取締役会は社外取締役が多数を占め、経営の監督機能(モニタリングモデル)を重視する。業績連動報酬やストックオプション、敵対的買収による経営者の規律づけなど、市場メカニズムを活用したガバナンスが特徴的である。

日本型(ステークホルダー重視モデル) では、企業は株主だけでなく、従業員・取引先・債権者・地域社会など広範なステークホルダーの利害を考慮すべきとする考え方が伝統的に強い。メインバンク制度(主力銀行が融資と監視の両機能を担う)、株式持ち合い(企業間の相互持株)、従業員の長期雇用と内部昇進による経営者の選出などが特徴であった。取締役会は社内出身者が多数を占め、業務執行の意思決定機関としての性格が強かった(マネジメントモデル)。

ただし、日本のコーポレート・ガバナンスは1990年代以降の制度改革によって大きく変容しつつある。2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入、社外取締役の設置義務化(2021年改正会社法)、機関投資家のスチュワードシップ活動の活発化など、アメリカ型のモニタリングモデルへの接近が進んでいる。

比較項目 アメリカ型 日本型(伝統的)
企業観 株主の所有物 ステークホルダーの共同体
経営者の義務 株主価値の最大化 多元的利害の調整
取締役会の構成 社外取締役中心 社内取締役中心
取締役会の機能 経営の監督(モニタリング) 業務執行の意思決定(マネジメント)
主要な外部規律 敵対的買収、株式市場 メインバンク、株式持ち合い
経営者報酬 業績連動型(ストックオプション等) 固定型中心

まとめ

  • 企業形態は、出資者の責任範囲(無限責任・有限責任)、所有と経営の関係、法人格の有無によって分類される
  • 日本の会社法は株式会社と持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の四形態を規定する
  • 株式会社は有限責任制、株式による所有の分割、株式の譲渡可能性、法人格の永続性という四つの本質的特徴により、大規模な資本集積を可能にした
  • 株式会社の機関設計では、株主総会(最高意思決定機関)、取締役会(業務執行の意思決定・監督)、監査役(取締役の監査)の三者の関係が基本構造をなす
  • 株式の分散保有にともない所有と経営の分離が生じ、バーリ=ミーンズ(1932年)はアメリカの大企業においてこの現象を実証的に明らかにした
  • ジェンセン=メクリング(1976年)のエージェンシー理論は、株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)の利害不一致と情報の非対称性からプリンシパル=エージェント問題が生じることを体系化した
  • コーポレート・ガバナンスは、所有と経営の分離から生じるエージェンシー問題への制度的応答であり、内部・外部のメカニズムを通じて経営者の行動を規律づける
  • 次セクション(Section 3)では、これらの組織を「いかに管理するか」という経営管理論の歴史的展開を検討する

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
有限責任 Limited Liability 出資者が企業の債務に対して出資額を限度としてのみ責任を負う制度
無限責任 Unlimited Liability 出資者が企業の債務に対して個人財産を含め全額の弁済義務を負う責任形態
持分会社 Membership Company 合名会社・合資会社・合同会社の総称。社員(出資者)が直接経営に参加する会社形態
株式会社 Corporation / Joint-Stock Company 出資者が有限責任を負い、所有権が株式に分割された企業形態
株主総会 Shareholders' Meeting / General Meeting 株式会社の最高意思決定機関。株主によって構成される
取締役会 Board of Directors 業務執行の意思決定および取締役の職務執行の監督を行う機関
監査役 Auditor 取締役の職務の執行を監査する機関
所有と経営の分離 Separation of Ownership and Control 株式会社において株主(所有者)と経営者が別個の主体となる現象
経営者支配 Management Control 株式が分散し、実質的な企業支配権が株主から経営者に移行した状態
エージェンシー理論 Agency Theory プリンシパルとエージェントの利害不一致・情報の非対称性から生じる問題を分析する理論
プリンシパル=エージェント問題 Principal-Agent Problem プリンシパルがエージェントの行動を完全に観察できず、エージェントが自己利益を追求しうる構造的問題
モラルハザード Moral Hazard 契約締結後にエージェントの行動が観察できないことから生じる問題
逆選択 Adverse Selection 契約締結前にエージェントの能力・特性を十分に把握できないことから生じる問題
エージェンシー費用 Agency Costs プリンシパル=エージェント関係において生じるモニタリング費用・ボンディング費用・残余損失の総称
コーポレート・ガバナンス Corporate Governance 企業経営が誰のために、誰によって、いかに規律づけられるべきかに関する制度的枠組み

確認問題

Q1: 合名会社・合資会社・合同会社・株式会社それぞれについて、出資者の責任形態と所有・経営の関係を比較し、株式会社が大規模な資金調達に適している理由を説明せよ。

A1: 合名会社は全社員が無限責任を負い、社員が直接経営に参加する。合資会社は無限責任社員と有限責任社員で構成され、無限責任社員が経営を担う。合同会社は全社員が有限責任を負い、社員が経営に参加する。株式会社は全株主が有限責任を負い、所有と経営の分離が制度的に可能である。株式会社が大規模な資金調達に適する理由は、第一に有限責任制により投資家のリスクが出資額に限定されるため投資への参入障壁が低いこと、第二に所有権が株式という均一な単位に分割されており小口の出資が可能であること、第三に株式の譲渡が原則自由であり証券市場を通じた流動性が確保されるため投資家が資金を回収しやすいこと、これら三つの特徴の相互作用により、見知らぬ多数の投資家から巨額の資本を集積できるためである。

Q2: バーリとミーンズ(1932年)が『近代株式会社と私有財産』で提起した問題の核心を、「私有財産の変質」という観点から説明せよ。

A2: バーリとミーンズの問題提起の核心は、株式の分散保有にともなう所有と経営の分離が、私有財産の伝統的な意味を変質させるという点にある。伝統的な私有財産の論理では、所有者は自らの財産を自己の利益のために管理・処分する権利と能力を持つ。しかし、大企業において株式が広く分散すると、個々の株主は名目上の所有者にすぎなくなり、財産の管理・処分の実権は専門経営者が握る。この結果、所有者としてリスクを負担する株主の利益と、実質的な支配権を持つ経営者の利益が乖離しうる構造が生じる。バーリとミーンズはアメリカ最大200社の実証分析を通じて、このような「経営者支配」の状態が広範に存在することを示し、株式会社における所有と支配の分離がもたらすガバナンス上の問題を提起した。

Q3: エージェンシー理論における「モニタリング費用」「ボンディング費用」「残余損失」の三つのエージェンシー費用について、株式会社のガバナンスにおける具体例を挙げつつ説明せよ。

A3: モニタリング費用とは、プリンシパル(株主)がエージェント(経営者)の行動を監視するために負担する費用であり、具体例として取締役会(特に社外取締役)の運営費用、外部会計監査の費用、有価証券報告書をはじめとする情報開示制度の維持費用がある。ボンディング費用とは、エージェントが自らプリンシパルの利益に反しないことを保証するために負担する費用であり、具体例として業績連動報酬制度やストックオプションの設計・導入費用、経営者による自主的な情報開示(IR活動)の費用がある。残余損失とは、モニタリングとボンディングを行ってもなお完全に排除できない、エージェントの行動がプリンシパルの利益と乖離することによる損失であり、たとえば経営者が企業価値を最大化する投資案件よりも自身の在職安定を優先して保守的な投資判断を行うことにより生じる企業価値の毀損がこれにあたる。エージェンシー理論の重要な含意は、これら三つの費用の合計をゼロにすることは不可能であり、ガバナンスの課題はこの合計を最小化する制度設計にあるという点である。

Q4: ある上場企業の社長が、会社の資金を使って私的な目的の出張を頻繁に行っていたとする。この状況を、エージェンシー理論の枠組み(プリンシパル=エージェント問題、モラルハザード、特権的消費)を用いて分析し、これを防止するための具体的なガバナンス上の方策を二つ以上提案せよ。

A4: この事例は、株主(プリンシパル)と社長(エージェント)の間のプリンシパル=エージェント問題として分析できる。社長が会社の資金を私的な出張に充てる行為は「特権的消費」(perquisite consumption)にあたり、株主の利益(企業価値の最大化)と経営者の利益(私的便益の追求)の乖離の典型例である。この行動が発生する構造的な原因は、株主が社長の日常的な行動を逐一観察できないという情報の非対称性(モラルハザードの発生条件)にある。防止策としては、第一に社外取締役を含む取締役会による経費使途の監督強化と内部統制システムの整備(モニタリング費用の増加による規律づけ)、第二に業績連動報酬制度の導入により社長の報酬を企業業績に連動させ、私的消費よりも企業価値向上を追求する誘因を設計すること(ボンディング)、第三に監査役・監査委員会による業務監査において経費支出の適正性を重点的に検査する体制の構築、などが考えられる。