Module 2-1 - Section 1: 組織構造の基本類型と設計原理¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-1: 経営組織論・組織行動論 |
| 前提セクション | なし(Module 1-4の知識を前提) |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
Module 1-4では、経営管理論の古典的基盤としてテイラーの科学的管理法、ファヨールの管理過程論、バーナードの組織の3要素(共通目的・貢献意欲・コミュニケーション)、そしてバーンズ=ストーカーによる機械的組織と有機的組織の区別を学んだ(→ Module 1-4参照)。本セクションでは、これらの基礎理論を踏まえたうえで、現実の企業が採用する具体的な組織構造の類型と、その設計を支える理論的原理を体系的に検討する。
組織構造は、企業の戦略遂行能力、意思決定の速度、環境適応力を根底から規定する。適切な組織構造の選択は、単なる管理上の技術的問題ではなく、企業の持続的競争優位に直結する戦略的意思決定である。
組織構造の基本概念¶
組織構造とは、組織内における業務の分担(分業)、各部門・個人間の関係の調整(調整メカニズム)、そして意思決定権限の配分(権限配分)を定めた公式的な枠組みである。
Key Concept: 組織構造(Organizational Structure) 組織における業務の分割・グルーピングと、各部門間の権限関係・調整メカニズムを規定する公式的な枠組み。分業(division of labor)、調整(coordination)、権限配分(authority allocation)の3つの設計次元から構成される。
分業(Division of Labor)¶
分業とは、組織全体の業務を個々の職務やタスクに分割することである。アダム・スミス(Adam Smith)がピン工場の例で示したように、分業は専門化による効率性の向上をもたらす。しかし同時に、分割された業務を統合する必要性(調整コスト)を生み出す。組織設計の根本的な課題は、この分業の利益と調整の費用のトレードオフにある。
分業には2つの次元がある。水平的分業は業務を機能や製品、地域などの基準で横方向に分割するものであり、垂直的分業は意思決定の階層を形成し、上位者が下位者を指揮・監督する権限構造を生み出す。
調整メカニズム¶
ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)は組織における調整メカニズムを以下の5つに分類した。
| 調整メカニズム | 内容 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 相互調整(Mutual Adjustment) | 担当者同士の直接コミュニケーション | 小規模組織・高度に複雑な業務 |
| 直接監督(Direct Supervision) | 上位者が下位者の業務を指揮 | 単純な業務の大規模組織 |
| 業務プロセスの標準化 | 作業手順の事前規定 | 定型的業務 |
| 産出物の標準化 | 成果物・アウトプットの基準設定 | 多角化事業の管理 |
| 技能の標準化 | 訓練・教育による能力統一 | 専門職組織(病院、大学等) |
権限配分:集権化と分権化¶
意思決定権限を組織の上位層に集中させることを集権化(centralization)、下位層や現場に委譲することを分権化(decentralization)という。集権化は統一性・効率性に優れる一方、環境変化への対応が遅くなる。分権化は現場の判断力を活かし迅速な対応を可能にするが、全社的な一貫性の維持が課題となる。
機能別組織¶
Key Concept: 機能別組織(Functional Organization) 製造、販売、財務、人事など業務機能(function)を基準に部門編成する組織形態。専門性の蓄積と規模の経済性に優れるが、部門間調整の困難さと事業全体を見渡す管理者の育成に課題がある。
機能別組織は、組織を業務機能ごとに分割し、各機能部門が専門的な活動に集中する形態である。ファヨールの管理過程論が想定した組織構造は、基本的にこの機能別組織に対応する(→ Module 1-4参照)。
特徴と構造¶
機能別組織では、製造部門、営業部門、経理部門、人事部門といった機能単位が並列し、それぞれの部門長がCEO(最高経営責任者)に報告するピラミッド型の階層構造をとる。各部門内では高度な専門的知識が蓄積され、同一機能に従事する人員を集約することで規模の経済性(economies of scale)を実現する。
長所と短所¶
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 専門性の深化・技術的卓越性の追求が容易 | 部門間のセクショナリズム(部門利益の優先) |
| 規模の経済性の実現 | 製品・市場横断的な調整の困難さ |
| 明確な権限・責任系統 | 事業全体を統括できるゼネラルマネジャーが育ちにくい |
| 業務プロセスの標準化が容易 | 多角化戦略への対応力が低い |
適用条件¶
機能別組織は、単一事業または少数の関連事業に集中する企業、安定的な環境下で効率性を重視する企業に適合する。コンティンジェンシー理論の観点からは、機械的組織に近い特性を持つ(→ Module 1-4参照)。
事業部制組織とチャンドラーの命題¶
Key Concept: 事業部制組織(Divisional Organization) 製品、地域、顧客などの事業単位を基準に自律的な事業部(division)を編成する組織形態。各事業部が独自の機能(製造・販売等)を内包し、利益責任を負う。M型組織(Multidivisional Form)とも呼ばれる。
事業部制組織は、20世紀の企業経営において最も重要な組織革新の一つである。この組織形態の歴史的意義を解明したのが、経営史家アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニア(Alfred D. Chandler, Jr.)の古典的研究である。
チャンドラーの「組織は戦略に従う」¶
チャンドラーは著書『経営戦略と組織(Strategy and Structure)』(1962年)において、デュポン(DuPont)、ゼネラルモーターズ(GM)、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(Standard Oil of New Jersey)、シアーズ・ローバック(Sears, Roebuck)の4つの大企業を詳細に分析した。そこから導出された命題が「組織は戦略に従う(structure follows strategy)」である。
チャンドラーの分析によれば、企業が多角化戦略を展開すると、既存の機能別組織では製品ライン間の調整が困難になり、組織の非効率が生じる。この問題を解決するために、各事業を独立した事業部として編成し、事業部長に日常的な経営判断の権限を委譲する一方、本社(ゼネラル・オフィス)は全社的な資源配分・戦略策定・業績評価に専念するという分権的構造が生まれた。
スローンとGMの事業部制¶
チャンドラーの研究において最も象徴的な事例が、アルフレッド・P・スローン・ジュニア(Alfred P. Sloan, Jr.)によるGMの組織改革である。
1920年代初頭のGMは、創業者ウィリアム・デュラント(William Durant)のもとで急速な企業買収を行った結果、シボレー、ビュイック、オールズモビル、キャデラックなど複数のブランドが並存しながら、全社的な調整メカニズムを欠いていた。スローンは1920年代に以下の改革を実行した。
- 事業部への権限委譲: 各ブランド(自動車部門)を独立した事業部とし、事業部長に製造・販売の日常的意思決定権限を付与した
- 本社スタッフの整備: 財務、法務、研究開発などの全社的機能を本社に集約し、専門的な支援と統制を行った
- 業績管理制度の確立: 各事業部を利益センター(profit center)として位置づけ、投下資本利益率(ROI)による業績評価を体系化した
スローンの改革は、分権化による現場の自律性と、本社による統制を両立させた「分権的事業部制(decentralized divisional structure)」の原型を確立した。チャンドラーはスローンをGMの戦略の設計者、組織の構築者、管理システムの考案者と評した。
事業部制組織の長所と短所¶
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 事業ごとの損益責任が明確 | 事業部間の資源重複(各事業部に類似機能を配置) |
| 環境変化への迅速な対応 | 事業部間のシナジー追求が困難 |
| ゼネラルマネジャーの育成に適する | 事業部の部分最適化(全社利益より事業部利益を優先) |
| 多角化戦略との整合性が高い | 本社と事業部間の情報の非対称性 |
マトリクス組織¶
Key Concept: マトリクス組織(Matrix Organization) 機能別の縦の命令系統と、製品・プロジェクト別の横の命令系統を交差させ、一人の従業員が二人の上司に報告する二重の権限構造を持つ組織形態。
マトリクス組織は、機能別組織の専門性と事業部制組織の市場対応力を同時に追求しようとする組織形態である。1960年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)のアポロ計画で採用され、注目を集めた。
構造の特徴¶
マトリクス組織では、従業員は機能部門のマネジャー(例: 製造部長)と製品・プロジェクトのマネジャー(例: 製品Aプロジェクトリーダー)の双方に報告する。これにより、機能的専門知識の活用と、製品・プロジェクト単位の統合的管理が同時に可能となる。
graph TD
CEO["CEO"]
FM1["製造部長"]
FM2["マーケティング部長"]
FM3["R&D部長"]
PM1["製品A マネジャー"]
PM2["製品B マネジャー"]
CEO --> FM1
CEO --> FM2
CEO --> FM3
CEO --> PM1
CEO --> PM2
PM1 -.- FM1
PM1 -.- FM2
PM1 -.- FM3
PM2 -.- FM1
PM2 -.- FM2
PM2 -.- FM3
長所と短所¶
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 機能的専門性と市場対応力の両立 | 二重の命令系統による権限の曖昧さ・役割葛藤 |
| 資源の柔軟な配分(人材の共有) | 意思決定の遅延(二人の上司の合意が必要) |
| 部門間の情報共有・協働の促進 | 政治的駆け引きの増加 |
| 複雑な環境・技術への適応力 | 管理コストの増大 |
運用上の課題¶
マトリクス組織が有効に機能するためには、両系統のマネジャー間の力関係を適切に設定する必要がある。実際には、一方の系統が優越する「弱いマトリクス」や「強いマトリクス」が生まれやすく、純粋なバランス型マトリクスの維持は困難である。また、二重報告に伴うストレスや、意思決定プロセスの複雑化が従業員の士気低下を招くリスクもある。
ネットワーク組織¶
Key Concept: ネットワーク組織(Network Organization) 複数の独立した組織や個人が、契約関係や協働関係を通じて緩やかに結合し、共通の目的のもとで柔軟に活動する組織形態。組織の境界が流動的であり、市場と組織の中間的な性格を持つ。
20世紀末から21世紀にかけて、情報通信技術の発展とグローバル化の進展を背景に、伝統的な階層型組織とは異なるネットワーク型の組織形態が台頭した。
類型¶
ネットワーク組織にはいくつかの変種がある。
仮想組織(Virtual Organization): 中核となる少数の機能のみを社内に保持し、製造、物流、マーケティングなどの主要機能を外部パートナーに委託する形態。アパレル業界で自社工場を持たず、デザインとブランド管理に特化する企業がその典型である。
プラットフォーム型組織: 共通のプラットフォーム(技術基盤、取引基盤等)を提供し、その上で多数の参加者が自律的に活動する形態。プラットフォーム提供者はルールの設定と基盤の維持に注力し、価値創造の大部分は参加者に委ねられる。
ハイブリッド型組織: 既存の階層型組織を維持しつつ、部分的にネットワーク型の要素(プロジェクトチーム、社内ベンチャー、外部連携等)を導入する形態。多くの大企業が実質的にこの形態をとっている。
長所と短所¶
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 高い柔軟性・環境適応力 | 統制・品質管理の困難さ |
| 固定費の低減(資産の軽量化) | パートナーへの過度な依存リスク |
| 外部の専門能力の活用 | 組織としての一体性・忠誠心の維持が困難 |
| 迅速な規模の拡大・縮小 | 知的財産の流出リスク |
取引費用経済学と組織の境界¶
ネットワーク組織の理論的基礎の一つは、取引費用経済学(Transaction Cost Economics: TCE)にある。企業が内製すべきか外部に委託すべきかという「組織の境界」の問題は、この理論によって体系的に分析される。
Key Concept: 取引費用(Transaction Costs) 市場における取引の実行に伴うコスト。取引相手の探索・情報収集のコスト、契約の交渉・締結のコスト、契約の履行監視・紛争解決のコストを含む。ロナルド・コース(Ronald Coase)が1937年の論文「企業の本質(The Nature of the Firm)」で提唱した概念を、オリバー・ウィリアムソン(Oliver Williamson)が体系化した。
コースの問い¶
コースは「市場メカニズムが効率的であるならば、なぜ企業という組織が存在するのか」という根本的問いを立てた。その答えは、市場での取引にはコストがかかるため、取引費用が企業内部の管理費用(官僚制費用)を上回る場合、取引を組織内部に取り込む(内製する)方が効率的になるというものであった。
ウィリアムソンの取引費用経済学¶
ウィリアムソンは、コースの着想を精緻化し、取引費用の大きさを規定する要因として以下の3つを特定した。
人間的要因: - 限定合理性(bounded rationality): ハーバート・サイモン(Herbert Simon)が提唱した概念で、人間の情報処理能力には限界があり、将来のすべての事態を予測して完全な契約を締結することは不可能であることを意味する - 機会主義(opportunism): 取引相手が自己利益のために情報を歪めたり、契約の隙を突いたりする行動をとる可能性
取引の特性: - 資産特殊性(asset specificity): 特定の取引相手との関係においてのみ価値を持つ資産への投資の程度。資産特殊性が高いほど、取引相手を変更する際のスイッチングコストが増大し、取引相手に対する依存度(ロックイン)が高まる
市場-中間組織-ヒエラルキーの連続体¶
ウィリアムソンの理論において、ガバナンス構造は市場(market)とヒエラルキー(hierarchy=組織)の二択ではなく、両者の間にハイブリッド(hybrid)と呼ばれる中間的な形態が存在する連続体として捉えられる。
graph LR
M["市場取引<br/>Market"]
H1["長期契約"]
H2["戦略的提携<br/>ジョイントベンチャー"]
H3["フランチャイズ"]
O["組織内取引<br/>Hierarchy"]
M --- H1 --- H2 --- H3 --- O
style M fill:#e3f2fd,stroke:#1565c0
style O fill:#fce4ec,stroke:#c62828
style H1 fill:#fff3e0,stroke:#ef6c00
style H2 fill:#fff3e0,stroke:#ef6c00
style H3 fill:#fff3e0,stroke:#ef6c00
- 市場取引: 資産特殊性が低く、取引が標準化されている場合に効率的。価格メカニズムによる調整
- 中間形態(ハイブリッド): 長期契約、戦略的提携、フランチャイズ、ジョイントベンチャーなど。一定の資産特殊性があるが、完全な統合までは必要としない場合に採用される
- ヒエラルキー(組織内取引): 資産特殊性が高く、取引の不確実性が大きい場合に効率的。権限関係による調整
make-or-buy 決定¶
取引費用経済学に基づくmake-or-buy決定(内製か外注かの判断)の基本的な論理は以下のとおりである。
- 取引費用(市場利用のコスト)と官僚制費用(組織内管理のコスト)を比較する
- 資産特殊性が高く、取引頻度が高く、不確実性が大きい場合は内製(make)が有利
- 資産特殊性が低く、取引が標準化されている場合は外注(buy)が有利
- 中間的な条件ではハイブリッド型のガバナンスが選択される
ウィリアムソンは2009年にこの研究業績によりノーベル経済学賞を受賞した。
官僚制とその逆機能¶
Key Concept: 官僚制(Bureaucracy) マックス・ウェーバー(Max Weber)が理念型として提示した、規則に基づく合理的・合法的な支配の組織形態。階層的権限構造、明文化された規則・手続き、専門的分業、没人格性(impersonality)、能力に基づく任用を特徴とする。
ウェーバーの官僚制理論¶
ウェーバーは支配の正当性を3つの類型に分類した。すなわち、伝統的支配(慣習・慣例に基づく)、カリスマ的支配(指導者の超人的資質に基づく)、合法的支配(制定された規則に基づく)である。官僚制はこの合法的支配の最も純粋な形態として位置づけられる。
ウェーバーが提示した官僚制の理念型(ideal type)は、現実をそのまま記述するものではなく、分析のための概念装置である。その主要な特徴は以下のとおりである。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 規則による規律 | 明文化された規則・手続きに基づいて業務を遂行する |
| 階層的権限構造 | 上下の命令系統が明確に定められている |
| 専門的分業 | 各職位に専門化された職務が割り当てられる |
| 没人格性 | 個人的な感情や恣意を排し、規則に基づいて公平に処理する |
| 文書主義 | 業務の記録・文書化を重視する |
| 能力主義的任用 | 専門的資格・能力に基づいて人員を選抜する |
ウェーバーは、官僚制が技術的に他のあらゆる組織形態に対して優越すると論じた。その精確さ、迅速さ、明確さ、文書への精通、継続性、裁量の排除、統一性、厳格な服従関係、摩擦の減少、物的・人的費用の節約は、他の組織形態では到達し得ない水準に達するとした。
マートンの官僚制の逆機能¶
ロバート・K・マートン(Robert K. Merton)は『社会理論と社会構造(Social Theory and Social Structure)』(1949年、改訂版1957年)において、ウェーバーが理想的とした官僚制の特徴そのものが、意図せざる否定的帰結(逆機能)を生み出すことを分析した。
マートンが指摘した主要な逆機能は以下のとおりである。
1. 目標の置換(Goal Displacement): 規則への服従が本来の組織目標の達成に奉仕するための手段であったにもかかわらず、規則の遵守自体が目的化する現象。手続きの厳格な遵守が、本来の業務目的の達成を妨げる結果を招く。
2. 訓練された無能力(Trained Incapacity): 官僚制における反復的な訓練と規則の内面化が、職員の柔軟な思考・判断能力を低下させること。特定の状況には有能に対処できるが、新しい状況や想定外の事態に対応できなくなる。この概念はもともとソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)が提唱したものをマートンが官僚制分析に適用した。
3. 過同調(Over-conformity): 規則に対する過度の同調が、組織の柔軟性を失わせること。環境変化が生じても既存の規則に固執し、適応的な行動がとれなくなる。
4. 没人格性の極端化: 没人格性の原則が、顧客・住民など組織外部の人間に対する冷淡・非人間的な対応を生み出すこと。「規則ですから」という対応が典型である。
5. エスプリ・ド・コール(Esprit de Corps)の歪み: 官僚の仲間意識が外部からの批判に対する防衛的態度を生み、組織の自己改革能力を阻害すること。
マートンの分析は、ウェーバーが提示した官僚制の「顕在的機能(manifest function)」に対して、その「潜在的機能(latent function)」(ここでは潜在的逆機能)を明らかにしたものであり、構造的な欠陥が個人の怠慢ではなく組織構造そのものから生じることを示した点で画期的であった。
まとめ¶
- 組織構造は分業・調整・権限配分の3次元で設計され、環境・戦略との適合が求められる
- 機能別組織は専門性と効率性に優れるが、多角化戦略には事業部制組織が適合する。チャンドラーの「組織は戦略に従う」命題は、戦略の転換が組織構造の変革を要請することを示した
- マトリクス組織は機能別・事業部制の利点の両立を目指すが、二重の命令系統に伴う運用上の困難を抱える
- ネットワーク組織は柔軟性と資源効率に優れるが、統制と一体性の維持が課題となる
- 取引費用経済学は、資産特殊性・限定合理性・機会主義を鍵概念として、組織の境界(内製か外注か)を理論的に説明する
- ウェーバーの官僚制は合理性・効率性を追求する理念型であるが、マートンが指摘したように、その構造的特徴そのものが目標の置換や訓練された無能力といった逆機能を内在的に生み出す
- 次のセクション(Section 2)では、組織構造のなかで活動する個人の動機づけ(モチベーション)の理論を扱う
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 組織構造 | Organizational Structure | 組織における業務分割・権限関係・調整メカニズムを規定する公式的枠組み |
| 機能別組織 | Functional Organization | 業務機能を基準に部門編成する組織形態 |
| 事業部制組織 | Divisional Organization | 製品・地域・顧客等の事業単位で自律的な事業部を編成する組織形態。M型組織 |
| マトリクス組織 | Matrix Organization | 機能別と製品・プロジェクト別の二重の命令系統を持つ組織形態 |
| ネットワーク組織 | Network Organization | 独立した組織・個人が緩やかに結合し柔軟に活動する組織形態 |
| 取引費用 | Transaction Costs | 市場での取引の探索・交渉・監視に伴うコスト |
| 資産特殊性 | Asset Specificity | 特定の取引関係においてのみ価値を持つ資産への投資の程度 |
| 限定合理性 | Bounded Rationality | 人間の情報処理能力の限界により完全な合理的判断が不可能であること |
| 機会主義 | Opportunism | 自己利益のために情報の歪曲や契約の悪用を行う行動傾向 |
| 官僚制 | Bureaucracy | 規則に基づく合理的・合法的支配の組織形態 |
| 目標の置換 | Goal Displacement | 手段であった規則遵守が目的化する現象 |
| 訓練された無能力 | Trained Incapacity | 規則の内面化により新状況への対応力が低下する現象 |
| 分権化 | Decentralization | 意思決定権限を下位層・現場に委譲すること |
確認問題¶
Q1: 機能別組織と事業部制組織それぞれの長所・短所を比較し、企業が多角化戦略を展開する際に事業部制組織が選好される理由をチャンドラーの命題に基づいて説明せよ。
A1: 機能別組織は専門性の深化と規模の経済性に優れるが、製品ライン間の調整が困難であり、事業全体を統括するゼネラルマネジャーの育成にも適さない。事業部制組織は各事業部に損益責任を持たせることで事業ごとの迅速な意思決定を可能にし、ゼネラルマネジャーの育成にも適するが、事業部間の資源重複や部分最適化のリスクがある。チャンドラーは「組織は戦略に従う(structure follows strategy)」と論じ、多角化という戦略の転換が組織構造の変革(機能別→事業部制)を不可避にすることを、デュポンやGMなどの歴史的事例をもとに実証した。多角化により複数の製品市場で同時に競争する必要が生じると、各事業の自律的な経営判断と本社による戦略的資源配分の分離が合理的となり、事業部制が選好される。
Q2: ウィリアムソンの取引費用経済学において、企業が特定の活動を内製(hierarchy)するか市場取引(market)に委ねるかを決定する際の主要な判断基準を、資産特殊性の概念を中心に説明せよ。
A2: ウィリアムソンの取引費用経済学では、取引費用の大きさを規定する要因として、人間の限定合理性と機会主義、および取引の資産特殊性が挙げられる。資産特殊性が高い場合(特定の取引相手との関係においてのみ価値を持つ設備・技能・立地等への投資がある場合)、取引相手を変更する際のスイッチングコストが大きく、取引相手による機会主義的行動(ホールドアップ)のリスクが高まる。このため、取引を組織内部に取り込み(内製化)、権限関係によって調整する方が取引費用を節約できる。逆に、資産特殊性が低く標準的な取引であれば、市場メカニズム(価格競争)による調整が効率的である。両者の中間的な条件では、長期契約や戦略的提携などのハイブリッド型ガバナンスが選択される。
Q3: マートンが指摘した官僚制の「逆機能」のうち、「目標の置換」と「訓練された無能力」について、具体的な例を挙げながらそのメカニズムを説明せよ。
A3: 「目標の置換(goal displacement)」とは、本来手段であるはずの規則遵守が目的化する現象である。例えば、行政窓口において住民の問題解決という本来の目的よりも、所定の書類が揃っているかの確認が優先され、書類に不備があれば形式的に拒否するといった対応がこれに該当する。規則は組織目標を達成するための手段として設けられたものであるが、官僚制における規則の強調が、職員に規則遵守それ自体を行動の準拠とさせてしまう。「訓練された無能力(trained incapacity)」とは、特定の業務パターンに習熟することで、逆に新しい状況への適応能力が低下する現象である。例えば、定型的な審査業務に長年従事した職員が、規則の想定外のケースに直面した際に、規則に記載のない判断を下すことができず、柔軟な対応が取れなくなるケースがこれに当たる。いずれも、個人の能力不足ではなく、官僚制という組織構造そのものが生み出す構造的な帰結である点がマートンの分析の核心である。
Q4: マトリクス組織の二重の命令系統がもたらす利点と問題点を整理し、この組織形態が有効に機能するための条件を論じよ。
A4: マトリクス組織の二重の命令系統は、機能部門の専門性(技術的深さ)と製品・プロジェクト部門の市場対応力(統合的視点)を同時に活用できるという利点をもたらす。人材を複数プロジェクトで共有できるため資源の柔軟な配分も可能である。一方、問題点として、二人の上司間で優先順位が競合した場合の権限の曖昧さ、両系統の合意形成に時間を要する意思決定の遅延、政治的駆け引きの増加、従業員の役割葛藤によるストレスが挙げられる。この組織が有効に機能するためには、両系統のマネジャー間の力関係を意識的に設計・調整すること、紛争解決のための明確なエスカレーション手続きを設けること、そしてマトリクス構造での協働を支える組織文化(オープンなコミュニケーション、対立を建設的に処理する規範)を醸成することが不可欠である。