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Module 2-1 - Section 2: モチベーション理論

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-1: 経営組織論・組織行動論
前提セクション なし(Module 1-4の知識を前提)
想定学習時間 2.5時間

導入

Module 1-4で扱った経営管理の発展史において、テイラー(Frederick Winslow Taylor)の科学的管理法は経済的報酬を動機づけの中心に据え、メイヨー(Elton Mayo)のホーソン実験は社会的関係性が労働者の行動に影響を与えることを明らかにした。また、バーナード(Chester Irving Barnard)は組織の3要素の一つとして「貢献意欲」を挙げ、組織の存続には成員の動機づけが不可欠であることを理論的に示した(→ Module 1-4参照)。

本セクションでは、これらの古典的知見を踏まえつつ、モチベーション研究がどのように体系化されてきたかを扱う。モチベーション理論は大きく「内容理論」と「過程理論」に分類される。内容理論は「何が人を動機づけるのか」という欲求の内容に焦点を当て、過程理論は「どのようなプロセスで動機づけが生じるのか」という認知メカニズムに注目する。この分類を軸として、主要な理論を順次検討する。


モチベーション理論の分類

Key Concept: モチベーション(Motivation) 目標に向かって行動を引き起こし、方向づけ、維持する心理的プロセス。組織行動論においては、個人がどの程度の努力を、どの方向に、どれだけ持続して投入するかという3側面から捉えられる。

モチベーション理論は、その問題関心に応じて以下の2系統に分類される。

内容理論(content theories) は、「人は何によって動機づけられるのか」を問う。人間が持つ欲求やニーズの種類・構造を明らかにし、どの欲求が充足されれば動機づけが高まるかを論じる。マズローの欲求階層説、ハーズバーグの動機づけ-衛生理論、マクレガーのX理論・Y理論がこの系統に属する。

過程理論(process theories) は、「人はどのようなメカニズムで動機づけられるのか」を問う。欲求の中身よりも、認知的な判断プロセス――期待、比較、評価――に着目し、動機づけが発生・変動する過程を説明する。ブルームの期待理論、アダムスの公正理論がこの系統に属する。

なお、デシとライアンの自己決定理論は内容理論と過程理論の双方にまたがる統合的フレームワークであり、後半で独立して扱う。

graph TB
    MT["モチベーション理論"]
    CT["内容理論<br>Content Theories"]
    PT["過程理論<br>Process Theories"]
    INT["統合的理論"]

    MT --> CT
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    PT --> A["アダムス<br>公正理論"]

    INT --> SDT["デシ・ライアン<br>自己決定理論"]

マズローの欲求階層説

Key Concept: 欲求階層説(Hierarchy of Needs) エイブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow)が提唱した、人間の欲求を5段階の階層構造として捉える理論。低次の欲求がある程度充足されると、より高次の欲求が動機づけの源泉として顕在化するとされる。

5段階の欲求

マズローは1943年の論文 "A Theory of Human Motivation" において、人間の欲求を以下の5段階に整理した。

階層 欲求の名称 内容 組織場面での例
第5段階 自己実現欲求 自分の潜在能力を最大限に発揮したいという欲求 挑戦的なプロジェクト、創造的業務
第4段階 承認欲求(自尊欲求) 他者からの承認・尊敬、自己評価の向上を求める欲求 昇進、表彰、専門性の認知
第3段階 社会的欲求(所属欲求) 集団への帰属、他者との親和的関係を求める欲求 職場の人間関係、チーム所属
第2段階 安全欲求 身体的・経済的な安全・安定を求める欲求 雇用保障、福利厚生、安全な労働環境
第1段階 生理的欲求 食事・睡眠・休息など生存に直結する基本的欲求 適正な給与水準、休憩時間

マズローはこの5段階を、さらに大きく2つに区分した。第1〜第4段階を欠乏欲求(deficiency needs)、第5段階を成長欲求(growth needs) と呼ぶ。欠乏欲求は不足を補おうとする動機であり、充足されれば動機づけの力は弱まる。一方、成長欲求は充足されてもなお追求が続き、むしろ充足によって動機づけが強まる性質を持つ。

理論の意義と限界

意義: 欲求階層説は、人間の動機づけを体系的に分類した先駆的業績であり、組織管理において「賃金だけでは動機づけが不十分であり、高次欲求への配慮が必要である」という視座を提供した。テイラーの経済人モデルに対するオルタナティブとして大きな影響力を持った。

限界: しかし、欲求が厳密に階層的に順序づけられるという前提は、実証研究によって十分に支持されていない。アルダファー(Clayton Paul Alderfer)はERG理論(1969)において、マズローの5段階を「存在(Existence)」「関係性(Relatedness)」「成長(Growth)」の3カテゴリーに再編し、欲求の充足が必ずしも下位から上位へと順次進むわけではないこと(フラストレーション退行仮説)を指摘した。また、文化や個人差によって欲求の優先順位が異なるという批判も多い。


ハーズバーグの動機づけ-衛生理論

Key Concept: 動機づけ-衛生理論(Motivation-Hygiene Theory) フレデリック・ハーズバーグ(Frederick Irving Herzberg)が提唱した理論。職務満足を引き起こす要因(動機づけ要因)と職務不満を引き起こす要因(衛生要因)は質的に異なるとする二要因理論(two-factor theory)。

理論の背景と研究方法

ハーズバーグは1959年の著書 The Motivation to Work において、ピッツバーグの技術者・会計士約200名を対象に「仕事で非常に満足を感じた出来事」と「非常に不満足を感じた出来事」を聞く面接調査(臨界事象法 / critical incident technique)を実施した。その結果、満足に関わる要因と不満に関わる要因が別個の次元に属することを見出した。

動機づけ要因と衛生要因

動機づけ要因(Motivators) 衛生要因(Hygiene Factors)
達成(Achievement) 会社の方針・管理(Company policy)
承認(Recognition) 監督の質(Supervision)
仕事そのもの(Work itself) 上司との関係(Relationship with supervisor)
責任(Responsibility) 労働条件(Working conditions)
昇進(Advancement) 給与(Salary)
成長(Growth) 同僚との関係(Peer relationships)

動機づけ要因 は、職務内容そのものに関わる要因であり、充足されることで積極的な満足と動機づけをもたらす。これらが欠如しても、直ちに不満足を引き起こすわけではなく、動機づけが低い「中立」の状態にとどまる。

衛生要因 は、職務の周辺環境に関わる要因であり、不足すると不満足を引き起こすが、充足されても満足を積極的にもたらすわけではなく、不満足の解消にとどまる。ハーズバーグはこれを医学の衛生概念になぞらえた。衛生管理は病気を予防するが、それだけでは健康を積極的に増進しない、という比喩である。

実務的含意と批判

ハーズバーグの理論は、職務充実(job enrichment) という管理施策の理論的基盤を提供した。単に給与や労働条件を改善する(衛生要因の充足)だけでは真の動機づけに至らず、仕事の内容そのものに達成感・責任・成長の機会を組み込む必要がある、という処方箋である。

一方、批判も多い。研究方法が臨界事象法に依存しており、人間は成功を自分の内的要因に、失敗を外的環境に帰属させやすいという帰属バイアスの影響を受けている可能性が指摘されている。また、動機づけ要因と衛生要因の明確な二分法が常に成立するかについても疑問が呈されている。


マクレガーのX理論・Y理論

マサチューセッツ工科大学の経営学教授であったダグラス・マクレガー(Douglas Murray McGregor)は、1960年の著書 The Human Side of Enterprise において、管理者が従業員について暗黙に抱く人間観を2つの理想型として定式化した。

X理論の人間観

X理論は、人間は本来怠惰であり、仕事を嫌い、できれば働くことを避けようとするという前提に立つ。この前提のもとでは、従業員を動かすには外部からの強制・統制・処罰の脅威が不可欠であり、管理者は命令と監視を中心とする権威主義的マネジメントを採用することになる。これはテイラーの科学的管理法の背後にある経済人モデルと親和的な人間観である。

Y理論の人間観

Y理論は、人間にとって仕事は遊びや休息と同様に自然なものであり、適切な条件が整えば、人は自発的に責任を引き受け、創造性を発揮するという前提に立つ。Y理論のもとでは、管理者の役割は強制・統制ではなく、従業員の潜在能力を発揮できる環境を整えることにある。分権化、権限委譲、参加型意思決定といった施策がY理論から導かれる。

理論の位置づけ

マクレガーのX理論・Y理論は、特定の動機づけメカニズムを実証的に明らかにした理論というよりも、管理者の人間観が組織設計や管理施策にいかに影響を与えるかを示した規範的フレームワークである。マクレガー自身はY理論的人間観に立脚した管理を推奨したが、あらゆる状況でY理論が妥当であるとは限らない。業務の性質、従業員の成熟度、組織文化などの文脈に応じて、適切なアプローチは異なりうる。


ブルームの期待理論

Key Concept: 期待理論(Expectancy Theory) ビクター・ブルーム(Victor Harold Vroom)が1964年の著書 Work and Motivation で提唱した過程理論。個人のモチベーションは、努力が成果につながるという期待、成果が報酬につながるという道具性、報酬の主観的魅力の3要素の積として決定されるとする。

VIEモデル

ブルームは、動機づけの強さ(Motivational Force)を以下の3変数の関数として定式化した。

期待(Expectancy: E) は、自分が努力すれば望む水準のパフォーマンスを達成できるという主観的確率である。過去の経験、自己効力感(self-efficacy)、課題の難易度の認知などに影響される。値は0(達成不可能)から1(確実に達成可能)の範囲をとる。

道具性(Instrumentality: I) は、一定水準のパフォーマンスを達成すれば、それに対する報酬(昇給、昇進、承認など)が得られるという主観的確率である。値は-1(パフォーマンスが報酬を妨げる)から1(パフォーマンスが確実に報酬をもたらす)の範囲をとる。

誘意性(Valence: V) は、特定の報酬に対して個人が感じる主観的な魅力・価値である。正の値(望ましい報酬)、0(無関心)、負の値(望ましくない結果)をとりうる。

動機づけの強さは以下の式で表現される。

MF = E × I × V

3変数のいずれかが0であれば、動機づけの強さは0となる。たとえば、報酬が魅力的(高V)であっても、努力しても成果を出せないと感じていれば(低E)、動機づけは生じない。

理論の意義と限界

期待理論の意義は、動機づけを個人の認知的・主観的判断プロセスとして捉えた点にある。同じ報酬でも個人によって誘意性が異なり、同じ課題でも自己効力感の程度によって期待が異なる。このことは、画一的な動機づけ施策の限界を理論的に説明する。

限界としては、人間が実際にこれほど合理的な計算を行っているかという疑問がある。また、3変数の測定が困難であり、実証研究の結果は一貫していない。ポーター(Lyman William Porter)とローラー(Edward Emmet Lawler III)は期待理論を拡張し、努力→業績→報酬→満足というより精緻なプロセスモデルを構築した。


アダムスの公正理論

Key Concept: 公正理論(Equity Theory) ジョン・ステイシー・アダムス(John Stacey Adams)が1963年に提唱した過程理論。個人は自分の投入(Input)と成果(Outcome)の比率を、他者のそれと比較し、不公正を知覚した場合に動機づけの変化が生じるとする。

理論の基本構造

公正理論では、個人は自分のインプット(努力、時間、スキル、忠誠など)とアウトカム(給与、承認、昇進、地位など)の比率を算出し、比較対象者(referent other)の比率と照合する。

  • 自分の O/I = 他者の O/I → 公正の知覚 → 現状維持
  • 自分の O/I < 他者の O/I → 過小報酬の不公正 → 不満足・動機づけ低下
  • 自分の O/I > 他者の O/I → 過大報酬の不公正 → 罪悪感・不安

不公正を知覚した個人は、認知的不協和を解消するために以下のような行動をとるとされる。

  1. 投入の変更: 努力量を減らす(過小報酬時)または増やす(過大報酬時)
  2. 成果の変更: 昇給の交渉、報酬改善の要求
  3. 認知の歪曲: 「自分の仕事はそれほど重要ではない」と再評価する
  4. 比較対象の変更: 別の比較対象者を選ぶ
  5. 離職: 状況から離脱する

理論の意義と展開

公正理論は、動機づけにおける社会的比較の重要性を明示した点で大きな貢献をもたらした。人は孤立して動機づけを形成するのではなく、周囲との比較を通じて報酬の妥当性を評価する。この知見は、組織における報酬制度の設計や、透明性の確保に関する議論の基盤となっている。

後の研究では、公正の概念がさらに分化し、分配的公正(distributive justice: 結果の配分の公正さ)、手続き的公正(procedural justice: 意思決定プロセスの公正さ)、相互作用的公正(interactional justice: 対人的処遇の公正さ)という組織的公正論へと展開した。


自己決定理論と内発的・外発的動機づけ

Key Concept: 自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT) エドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)が1985年の著書 Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior で体系化した動機づけの包括的理論。人間には自律性・有能感・関係性という3つの基本的心理欲求があり、これらの充足が内発的動機づけと心理的健康を促進するとする。

3つの基本的心理欲求

自己決定理論は、以下の3つの基本的心理欲求(basic psychological needs)を理論の中核に据える。

欲求 英語 内容
自律性 Autonomy 自分の行動を自ら選択・決定しているという感覚
有能感 Competence 環境に対して効果的に働きかけられるという感覚
関係性 Relatedness 他者と結びつき、所属しているという感覚

これら3欲求が充足される環境では内発的動機づけが促進され、阻害される環境では動機づけが低下し、心理的健康にも悪影響が生じる。

内発的動機づけと外発的動機づけ

Key Concept: 内発的動機づけ(Intrinsic Motivation) 活動そのものに内在する興味・楽しさ・充実感によって駆動される動機づけ。外部からの報酬や圧力がなくても、活動自体が目的となる。

外発的動機づけ(extrinsic motivation)は、活動の外部にある結果――報酬の獲得、罰の回避、社会的承認の獲得など――を目的とする動機づけである。ただし、自己決定理論は外発的動機づけを単一のカテゴリーとして扱わず、自律性の程度に応じた連続体(continuum)として捉える点に特徴がある。

動機づけのタイプ 調整の種類 自律性の程度
無動機 なし 最低 何のためにやっているかわからない
外発的動機づけ 外的調整 罰を避けるために従う
外発的動機づけ 取り入れ的調整 やや低 罪悪感や不安を避けるために行動する
外発的動機づけ 同一化的調整 やや高 価値を理解し、自ら選択して行動する
外発的動機づけ 統合的調整 自己の価値観と完全に一致している
内発的動機づけ 内発的調整 最高 純粋な興味・楽しさで行動する

この連続体の上位に行くほど、外発的動機づけが内在化(internalization) され、自律的な動機づけに近づく。組織の管理施策は、単に外的報酬を付与するだけでなく、成員の自律性・有能感・関係性を支援することで、外発的動機づけの内在化を促進することが望ましい。

アンダーマイニング効果

デシは1971年の実験で、内発的動機づけに対する外的報酬の影響を検証した。実験参加者(大学生)を2群に分け、いずれの群にもパズル(ソーマキューブ)を解かせた。実験群にはパズルを解くたびに金銭報酬を与え、統制群には報酬を与えなかった。その後、自由時間にパズルに取り組む時間を計測したところ、報酬を受けた群は報酬が除去された後に自発的にパズルに取り組む時間が減少した。

この現象はアンダーマイニング効果(undermining effect)、あるいは過剰正当化効果(overjustification effect)と呼ばれる。外的報酬の導入が、元来存在していた内発的動機づけを低下させるのである。自己決定理論の枠組みでは、外的報酬が行動の原因帰属を「内部(楽しいからやっている)」から「外部(報酬のためにやっている)」へとシフトさせ、自律性の感覚を損なうことで説明される。

ただし、すべての外的報酬がアンダーマイニング効果を引き起こすわけではない。報酬が行動の統制手段としてではなく、有能感の情報的フィードバック(例: 正のフィードバック、上達の承認)として機能する場合には、内発的動機づけを維持・強化しうることもデシとライアンは論じている。

実務への示唆

自己決定理論は、たとえばGoogle社がかつて採用していた「20%ルール」(勤務時間の20%を自分の関心あるプロジェクトに充てられる制度)のような施策の理論的根拠を提供する。これは従業員の自律性を保障する仕組みであり、GmailやGoogle Newsといったプロダクトがこの制度から生まれたとされる。また、職場における心理的安全性の確保は関係性の欲求を、適切な目標設定とフィードバックは有能感の欲求を、それぞれ充足する施策として位置づけられる。


まとめ

  • モチベーション理論は、「何が動機づけるか」を問う内容理論と、「どのように動機づけられるか」を問う過程理論に大別される。
  • マズローの欲求階層説は5段階の欲求構造を提示し、高次欲求への配慮の必要性を示した。ただし、欲求の厳密な階層性には実証的裏づけが不十分である。
  • ハーズバーグの動機づけ-衛生理論は、満足と不満足が別次元であることを主張し、職務充実の理論的基盤を提供した。
  • マクレガーのX理論・Y理論は、管理者の人間観が管理施策を規定することを示す規範的フレームワークである。
  • ブルームの期待理論は、動機づけを期待・道具性・誘意性の認知的計算プロセスとして定式化した。
  • アダムスの公正理論は、他者との社会的比較が動機づけに影響を与えることを明らかにした。
  • デシとライアンの自己決定理論は、自律性・有能感・関係性の3欲求を中核に据え、内発的・外発的動機づけの統合的理解を提供する。
  • 次のセクション(リーダーシップ論)では、本セクションの動機づけ理論が、リーダーがフォロワーをどのように動機づけるかという問題にどう接続するかを扱う。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
モチベーション Motivation 目標に向かって行動を引き起こし、方向づけ、維持する心理的プロセス
内容理論 Content Theories 人を動機づける欲求やニーズの内容・構造に焦点を当てる理論群
過程理論 Process Theories 動機づけが生じる認知的プロセスやメカニズムに焦点を当てる理論群
欲求階層説 Hierarchy of Needs マズローによる、人間の欲求を5段階の階層構造で捉えた理論
動機づけ-衛生理論 Motivation-Hygiene Theory ハーズバーグによる、職務満足と不満足が異なる要因に起因するとした二要因理論
動機づけ要因 Motivators 職務内容に関わり、充足されると積極的な満足をもたらす要因
衛生要因 Hygiene Factors 職務環境に関わり、不足すると不満足を引き起こすが充足しても満足には至らない要因
期待理論 Expectancy Theory ブルームによる、E×I×Vの認知的計算で動機づけの強さが決定されるとする理論
誘意性 Valence 特定の報酬に対して個人が感じる主観的な魅力・価値
道具性 Instrumentality パフォーマンスが報酬につながるという主観的確率
公正理論 Equity Theory アダムスによる、自他の投入-成果比率の比較から動機づけを説明する理論
自己決定理論 Self-Determination Theory デシとライアンによる、自律性・有能感・関係性の3基本欲求を中核とした動機づけ理論
内発的動機づけ Intrinsic Motivation 活動そのものの興味・楽しさによって駆動される動機づけ
外発的動機づけ Extrinsic Motivation 活動外部の結果(報酬・罰など)を目的とする動機づけ
アンダーマイニング効果 Undermining Effect 外的報酬の付与が内発的動機づけを低下させる現象
職務充実 Job Enrichment 仕事の内容に達成感・責任・成長の機会を組み込む管理施策

確認問題

Q1: 内容理論と過程理論の違いを、それぞれの問題関心と代表的理論を挙げて説明せよ。 A1: 内容理論は「何が人を動機づけるのか」という欲求の内容に焦点を当て、マズローの欲求階層説やハーズバーグの動機づけ-衛生理論が代表例である。過程理論は「どのようなメカニズムで動機づけが生じるのか」という認知的プロセスに焦点を当て、ブルームの期待理論やアダムスの公正理論が代表例である。内容理論が「動機づけの源泉(What)」を問うのに対し、過程理論は「動機づけのメカニズム(How)」を問う点で区別される。

Q2: ハーズバーグの動機づけ-衛生理論において、給与改善だけでは従業員の積極的な動機づけに至らないとされるのはなぜか。マズローの理論との関連も踏まえて論じよ。 A2: ハーズバーグの理論では、給与は衛生要因に分類される。衛生要因は不足すると不満足を引き起こすが、充足されても不満足の解消にとどまり、積極的な満足や動機づけをもたらさない。積極的な動機づけには、達成・承認・責任・成長といった動機づけ要因の充足が必要である。マズローの理論との対応で見れば、給与は低次の生理的・安全欲求に対応し、動機づけ要因は承認欲求や自己実現欲求といった高次欲求に対応する。両理論とも、低次の条件整備だけでは不十分であり、高次の欲求充足が動機づけの鍵であるという方向性を共有している。

Q3: ブルームの期待理論において、ある従業員が高い動機づけを持つために必要な3条件を、VIEモデルの各変数と関連づけて説明せよ。 A3: 高い動機づけには以下の3条件がすべて満たされる必要がある。第一に、努力すれば目標水準のパフォーマンスを達成できるという期待(E)が高いこと。第二に、そのパフォーマンスを達成すれば報酬が得られるという道具性(I)が高いこと。第三に、その報酬が本人にとって魅力的であるという誘意性(V)が高いこと。動機づけの強さはMF = E × I × Vで表され、いずれか一つでも0に近ければ全体の動機づけは低くなる。

Q4: デシのアンダーマイニング効果について、その実験内容と自己決定理論からの説明を述べよ。また、外的報酬がすべて内発的動機づけを損なうわけではないことについても言及せよ。 A4: デシは1971年の実験で、大学生を2群に分けてパズル課題を行わせた。一方の群にはパズルを解くたびに金銭報酬を与え、他方には与えなかった。報酬除去後の自由時間において、報酬群は統制群よりもパズルに取り組む時間が減少した。自己決定理論では、外的報酬が行動の原因帰属を内部から外部へシフトさせ、自律性の感覚を損なうことでこの現象を説明する。ただし、報酬が統制手段としてではなく、有能感を伝える情報的フィードバック(正のフィードバックや上達の承認など)として機能する場合には、内発的動機づけを損なわず、むしろ強化しうるとされている。

Q5: 公正理論の観点から、同じ職務に従事する2人の従業員の間で給与に差がある場合、低い給与の従業員がどのような反応を示しうるか、理論的に説明せよ。 A5: 公正理論によれば、低い給与の従業員は自分のO/I(成果/投入)比率が同僚のそれより低いと知覚し、過小報酬の不公正を感じる。この認知的不協和を解消するために、以下の行動が予測される。(1) 投入の削減(努力量を減らす)、(2) 成果の変更を要求(昇給交渉)、(3) 認知の歪曲(「相手は自分より大変な仕事をしている」と再評価)、(4) 比較対象の変更(別の同僚と比較する)、(5) 離職(状況からの離脱)。組織としては、報酬制度の透明性を確保し、従業員の公正感を維持することが重要となる。