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Module 2-1 - Section 5: 集団意思決定と組織変革

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-1: 経営組織論・組織行動論
前提セクション Section 2(モチベーション理論)、Section 4(組織文化・組織学習・知識経営)
想定学習時間 2.5時間

導入

Section 2では個人レベルの動機づけメカニズムを、Section 4では組織レベルの文化・学習・知識創造を扱った。本セクションでは、その中間に位置する集団レベルの現象に焦点を当てる。組織における意思決定の多くは個人ではなく集団(会議体、委員会、プロジェクトチーム)によって行われるが、集団での意思決定には個人単独では生じない固有のバイアスやダイナミクスが働く。さらに、組織が環境変化に適応するためには変革が不可欠であるが、変革は既存の組織文化や個人の動機づけ構造と衝突し、抵抗を引き起こす。本セクションでは、集団意思決定の特性とその陥穽、グループダイナミクスの基本概念、そして組織変革のプロセスモデルと変革への抵抗の管理について体系的に論じる。


集団意思決定の特性

リスキーシフトと集団極性化

集団による意思決定は、個人の意思決定と質的に異なる特性を示す。ジェームズ・A・F・ストーナー(James A. F. Stoner)は1961年の研究において、集団での議論を経た後の意思決定が個人の事前判断よりもリスク志向に傾くことを発見し、これをリスキーシフト(risky shift)と呼んだ。この発見は、集団は個人よりも保守的であるという当時の通念を覆すものであった。

しかし、その後の研究により、集団での議論が常にリスク方向に偏るわけではなく、構成員が事前に慎重な傾向を持つ場合にはより慎重な方向へ偏るコーシャスシフト(cautious shift)も生じることが明らかになった。

Key Concept: 集団極性化(Group Polarization) 集団での議論を経ると、構成員の当初の傾向がより極端な方向へ増幅される現象。リスク志向の構成員が多ければリスキーシフトが、慎重志向の構成員が多ければコーシャスシフトが生じる。

集団極性化が生じるメカニズムとしては、主に2つの理論的説明がある。

  1. 社会的比較説(social comparison theory): 構成員は集団内で好ましい自己像を呈示しようとし、集団の規範的方向(リスク志向または慎重志向)に沿った、しかしそれよりやや極端な立場を表明する傾向がある。結果として、集団全体の立場が極端化する。

  2. 説得的議論説(persuasive arguments theory): 議論の中で交換される情報は、構成員の多数が元来傾いている方向を支持する論拠に偏りやすい。議論を通じて構成員はこれらの一方向的な論拠に繰り返し接触し、当初の傾向が強化される。

集団極性化は、投資委員会における過度なリスクテイク、陪審員の量刑判断の極端化、経営会議における過度に楽観的(または悲観的)な戦略判断など、実務上の多くの場面で観察される。

集団浅慮(Groupthink)

集団意思決定の最も深刻な病理として、アーヴィング・L・ジャニス(Irving L. Janis)が提唱した集団浅慮がある。

Key Concept: 集団浅慮(Groupthink) 凝集性の高い集団において、合意への圧力が批判的思考を抑制し、非合理的・不適切な意思決定に至る現象。ジャニスはピッグス湾事件(1961年)やチャレンジャー号事故(1986年)などの政策的失敗事例の分析からこの概念を導出した。

集団浅慮の先行条件

ジャニスは集団浅慮が生じやすい先行条件として以下を特定した。

カテゴリ 条件
集団の構造的特性 高い凝集性、外部からの隔離、指示的リーダーシップ、方法論的手続きの欠如、構成員の社会的同質性
状況的文脈 外部からの高い脅威・ストレス、低い集団的自尊心、直近の失敗経験

集団浅慮の8つの症候

ジャニスは集団浅慮の症候を3類型・8項目に整理した。

I. 集団の力の過大評価 1. 無敵幻想(illusion of invulnerability): 集団は過度な楽観主義に陥り、極端なリスクを取る 2. 道徳性の確信(belief in inherent morality): 集団の決定の倫理的正当性を疑わない

II. 閉鎖性 3. 集合的合理化(collective rationalization): 警告信号を割り引いて解釈し、前提を再検討しない 4. 外集団へのステレオタイプ(stereotyped views of out-groups): 対立者や外集団を劣った存在として見なす

III. 同調圧力 5. 自己検閲(self-censorship): 集団の合意から逸脱する意見や疑念を表明しない 6. 全会一致の幻想(illusion of unanimity): 沈黙を同意と解釈し、全員が一致していると錯覚する 7. 異論者への直接圧力(direct pressure on dissenters): 疑念を表明する構成員に対して圧力をかける 8. 自己任命の精神的番人(self-appointed mindguards): 集団の合意を脅かす外部情報を遮断する構成員の存在

集団浅慮の予防策

ジャニスは以下の対策を提案した。

  • リーダーが各構成員に批判的評価者(critical evaluator)の役割を割り当てる
  • リーダーは議論の初期段階で自らの選好を表明しない
  • 独立した複数の集団に同一問題を検討させる
  • 悪魔の代弁者(devil's advocate)を公式に指名し、反対意見を意図的に提出させる
  • 外部の専門家を定期的に招聘し、集団の議論に批判的な視点を導入する
  • 合意形成後に「セカンドチャンス会議」を開催し、残存する疑念を再検討する

グループダイナミクス

Key Concept: グループダイナミクス(Group Dynamics) 集団内の個人間の相互作用パターン、集団構造、集団過程の総称。クルト・レヴィン(Kurt Lewin)が1930〜40年代に体系化した研究領域であり、集団凝集性、社会的促進・抑制、同調圧力などを包含する。

集団凝集性

集団凝集性(group cohesiveness)とは、構成員が集団にとどまろうとする力の総体を指す。凝集性が高い集団は構成員の満足度やコミットメントが高い一方、前述の集団浅慮のリスクを内包する。凝集性と集団パフォーマンスの関係は線形ではなく、集団規範の方向に依存する。すなわち、生産性向上を志向する規範を持つ凝集性の高い集団は高いパフォーマンスを発揮するが、生産性を制限する規範を持つ凝集性の高い集団はむしろパフォーマンスを低下させる。

社会的促進と社会的抑制

社会的促進(social facilitation)は、他者の存在が個人のパフォーマンスに影響を与える現象であり、ロバート・ザイアンス(Robert Zajonc, 1965)が体系化した。ザイアンスの覚醒理論によれば、他者の存在は個人の覚醒水準を高め、優勢反応(dominant response)の出現確率を増加させる。課題が単純または習熟済みであれば優勢反応は正しい反応であるため、パフォーマンスが向上する(社会的促進)。一方、課題が複雑または未習熟であれば優勢反応が誤反応となるため、パフォーマンスが低下する(社会的抑制, social inhibition)。

これと対照的な現象が社会的手抜き(social loafing)である。個人の貢献が識別不能な集団課題において、個人は単独作業時よりも努力を低下させる傾向がある。この現象はマックス・リンゲルマン(Max Ringelmann)の綱引き実験(1913年)に遡り、集団の規模が増加するほど一人あたりの貢献度が低下するリンゲルマン効果として知られる。社会的手抜きの対策としては、個人の貢献を可視化すること、課題への関与感を高めること、集団規模を適切に管理することが挙げられる。

同調圧力

ソロモン・アッシュ(Solomon Asch, 1955)の線分判断実験は、同調圧力の威力を実証的に示した古典的研究である。アッシュは、明らかに誤った回答を述べるサクラ(confederate)に囲まれた実験参加者の約76%が、少なくとも一度は集団の誤った判断に同調したことを報告した。同調が生じるメカニズムとしては、情報的影響(informational influence: 集団の判断を正しい情報源として受容する)と規範的影響(normative influence: 集団から排除されることへの恐れから表面的に同調する)の2つが区別される。

組織の文脈では、同調圧力は会議における「空気を読む」行動や、上司の意見に無批判に追従する傾向として現れ、集団浅慮の温床となる。心理的安全性(psychological safety)の概念は、この同調圧力を軽減し、率直な意見表明を可能にする組織風土の重要性を強調するものである(→ Module 2-1, Section 3「リーダーシップ論」参照)。


組織変革のプロセスモデル

レヴィンの3段階モデル

Key Concept: レヴィンの3段階モデル(Lewin's Three-Stage Model) クルト・レヴィン(Kurt Lewin)が1940年代に提唱した組織変革のプロセスモデル。変革を「解凍(unfreezing)→ 変革(changing/moving)→ 再凍結(refreezing)」の3段階で捉える。物理学における相転移の比喩に基づく。

レヴィンは、組織を「変革を推進する力」と「変革に抵抗する力」の均衡(力の場の分析, force field analysis)として捉えた。変革を実現するためには、推進力を強化するか、抵抗力を弱めるか、またはその両方が必要であるとした。

graph LR
    subgraph "Stage 1: 解凍"
        A1["現状への不満の醸成"]
        A2["変革の必要性の認識"]
        A3["心理的安全性の確保"]
    end
    subgraph "Stage 2: 変革"
        B1["新しい行動・プロセスの導入"]
        B2["学習と試行錯誤"]
        B3["ロールモデルの提示"]
    end
    subgraph "Stage 3: 再凍結"
        C1["新しい行動の定着"]
        C2["制度・仕組みの整備"]
        C3["成功体験の強化"]
    end
    A1 --> A2 --> A3 --> B1 --> B2 --> B3 --> C1 --> C2 --> C3

第1段階: 解凍(Unfreezing) 現状の均衡状態を崩し、変革への準備を整える段階である。変革の必要性を組織構成員に認識させ、既存の行動パターン・信念・態度を「解凍」する。具体的には、現状の問題点の可視化、危機意識の共有、変革後のビジョンの提示などが含まれる。この段階では、構成員が既存の枠組みを手放すことへの不安を軽減するため、心理的安全性の確保が不可欠である。

第2段階: 変革(Changing/Moving) 新しい行動、態度、プロセスを実際に導入・実践する段階である。構成員は試行錯誤を通じて新しい方法を学習する。この段階では、変革の方向性を示すロールモデルの存在、十分な教育・訓練の提供、段階的な移行の設計が重要となる。ダブルループ学習(→ Section 4参照)の観点からは、既存の前提そのものを問い直す機会を意図的に設けることが求められる。

第3段階: 再凍結(Refreezing) 変革によって導入された新しい行動パターンを安定化・定着させる段階である。公式的な制度(評価制度、報酬体系、業務手順書)の改訂、非公式な規範の再構築、成功体験の共有と強化などによって、新しい均衡状態を確立する。この段階が不十分であると、変革は一時的なものにとどまり、旧来の行動パターンへの回帰(退行, regression)が生じる。

レヴィンのモデルは簡潔で直感的な理解を促す一方、変革を線形的かつ一回的なプロセスとして描いている点、各段階の具体的な実行方法に関する指針が乏しい点が限界として指摘される。

コッターの8段階モデル

Key Concept: コッターの8段階モデル(Kotter's Eight-Step Model) ジョン・P・コッター(John P. Kotter)がハーバード・ビジネス・スクールでの研究に基づき、1996年の著書『Leading Change』で提唱した組織変革のプロセスモデル。レヴィンのモデルを精緻化・実践化したものと位置づけられる。

コッターは、組織変革の70%以上が失敗に終わるという観察から、変革を成功に導くための8つの段階を体系化した。

graph TD
    S1["1. 危機意識を高める"]
    S2["2. 変革推進チームを結成する"]
    S3["3. ビジョンと戦略を策定する"]
    S4["4. ビジョンを周知徹底する"]
    S5["5. 障害を取り除き行動を促す"]
    S6["6. 短期的成果を生み出す"]
    S7["7. 成果を活かして更なる変革を推進する"]
    S8["8. 新しいアプローチを文化に定着させる"]
    S1 --> S2 --> S3 --> S4 --> S5 --> S6 --> S7 --> S8
段階 内容 レヴィンモデルとの対応
1. 危機意識を高める 市場動向・競合状況の分析を通じ、変革の緊急性を組織全体に浸透させる 解凍
2. 変革推進チームを結成する 十分な権限・専門性・信頼性を持つ変革推進の連合体(guiding coalition)を組織する 解凍
3. ビジョンと戦略を策定する 変革の方向性を示す明確なビジョンと、その実現のための戦略を策定する 解凍
4. ビジョンを周知徹底する あらゆるコミュニケーションチャネルを活用し、ビジョンを繰り返し伝達する。推進チーム自身がロールモデルとして行動する 変革
5. 障害を取り除き行動を促す ビジョン実現を阻む構造的障壁(硬直的な組織構造、不整合な評価制度等)を除去し、リスクテイクや新しいアイデアの実行を奨励する 変革
6. 短期的成果を生み出す 短期間で目に見える成果(quick wins)を計画的に創出し、変革の勢いと正当性を確保する 変革
7. 成果を活かして更なる変革を推進する 短期的成果で得た信頼を活かし、変革に適合しないシステム・構造・政策をさらに変更する。新たな人材の登用やプロジェクトの立ち上げで変革を加速する 変革/再凍結
8. 新しいアプローチを文化に定着させる 新しい行動パターンと組織文化の結びつきを明示し、後継リーダーの育成を通じて変革を持続可能なものにする 再凍結

コッターのモデルの特徴は、レヴィンの抽象的な3段階をより具体的な行動指針に分解した点、リーダーシップと連合体構築の重要性を強調した点、短期的成果による勢いの維持を明示的に組み込んだ点にある。一方、限界としては、線形的・逐次的なプロセスを前提としており、動的・複雑な環境における非線形的な変革プロセスに十分対応できない点、個人の心理的・感情的な側面への配慮が弱い点が指摘されている。

2つのモデルの比較

比較軸 レヴィンの3段階モデル コッターの8段階モデル
抽象度 高い(概念的フレームワーク) 低い(実践的行動指針)
段階数 3段階 8段階
リーダーシップの扱い 明示的には強調しない 中核的要素として位置づけ
時間軸 変革の完了と安定化を想定 長期的・継続的な変革を想定
適用範囲 組織変革全般の理論的理解 大規模変革の実践的ガイド
共通点 現状の打破→新行動の導入→定着という基本構造

変革への抵抗とその管理

Key Concept: 変革への抵抗(Resistance to Change) 組織変革に対して個人や集団が示す反対、消極的態度、妨害行動の総称。抵抗は変革の失敗要因であると同時に、変革の問題点を検知するシグナルとしても機能しうる。

抵抗の原因

変革への抵抗は多層的な原因から生じる。

個人レベルの原因 - 不確実性への不安: 変革後の状況が予測できないことへの心理的不安。Section 2で扱った欲求階層説における安全欲求の充足が脅かされる - 習慣の喪失: 長年にわたって形成された業務ルーティンの変更への抵抗。既存の行動パターンは心理的な安定をもたらしており、その喪失は脅威として知覚される - 経済的損失の恐れ: 変革による地位、権限、報酬、雇用の喪失への懸念 - 選択的情報処理: 個人は自身の既存の信念や態度と整合的な情報を選択的に知覚・記憶する傾向があり、変革の必要性を示す情報を無視または過小評価する

組織レベルの原因 - 構造的慣性: 組織は安定性を維持するために設計されたシステム(公式的規則、標準業務手順、採用・訓練プログラム)を有しており、これらが変革への構造的抵抗として機能する - 集団規範の固着: 既存の集団規範からの逸脱は同調圧力によって抑制される - 権力構造の脅威: 変革は既存の権力配分や資源配分を変更しうるため、現状から利益を得ている集団・個人からの抵抗を招く - 過去の変革の失敗経験: 過去に不適切に管理された変革の経験は、組織にシニシズムを蓄積させ、新たな変革への信頼を損なう

抵抗の管理手法

コッター=シュレジンガー(Kotter & Schlesinger, 1979)は、変革への抵抗に対処するための6つの手法を提示した。

手法 内容 有効な場面 限界
教育とコミュニケーション 変革の論理的根拠を説明し、誤解を解消する 情報不足や誤解が抵抗の原因である場合 多数の人員を対象とする場合、時間と労力を要する
参加と巻き込み 変革の計画段階から影響を受ける構成員を参加させる 変革推進者が十分な情報を持たない場合、構成員の抵抗力が大きい場合 不適切な変革が設計されるリスクがある
促進と支援 カウンセリング、訓練、休暇の付与などにより適応を支援する 適応困難が抵抗の主因である場合 コストが高く、成功が保証されない
交渉と合意 抵抗勢力に具体的なインセンティブを提供する 抵抗勢力が明確な損失を被る場合 コストが高く、他の集団からも要求を招く可能性がある
操作と取り込み 選択的な情報提供、抵抗のリーダーを変革推進側に取り込む 他の手法が機能しない場合 発覚した場合に信頼を大きく損なう
明示的・暗示的強制 解雇、配置転換、昇進停止などの脅威による服従 迅速な変革が不可欠で、推進者が強い権力を持つ場合 構成員の敵意を招き、長期的には逆効果になりうる

なお、近年の研究では、抵抗を単に排除すべき障害として捉えるのではなく、変革計画の問題点を明らかにする建設的フィードバックとして活用する視点も重視されている。変革への抵抗が示すシグナルを丁寧に分析することで、変革計画の修正・改善につなげることが可能となる。


まとめ

  • 集団意思決定には集団極性化(リスキーシフト・コーシャスシフト)が生じ、個人の当初の傾向が増幅される。その背景には社会的比較と説得的議論のメカニズムがある
  • 集団浅慮(groupthink)は凝集性の高い集団において合意志向が批判的思考を圧殺する現象であり、ジャニスが8つの症候と予防策を体系化した
  • グループダイナミクスの観点からは、集団凝集性、社会的促進・抑制、社会的手抜き、同調圧力といった集団特有の現象が意思決定と行動に影響を及ぼす
  • レヴィンの3段階モデル(解凍→変革→再凍結)は組織変革の基本的な概念枠組みを提供し、コッターの8段階モデルはそれを実践的な行動指針に精緻化した
  • 変革への抵抗は個人レベル・組織レベルの多層的原因から生じ、教育・参加・支援・交渉・操作・強制の各手法で対処されるが、抵抗を建設的フィードバックとして活用する視点も重要である
  • 集団意思決定の質の向上と効果的な組織変革の実現には、Section 4で扱った組織文化の変容やダブルループ学習の促進が不可分に関わっている

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
リスキーシフト Risky Shift 集団での議論後に、個人の事前判断よりもリスク志向の意思決定がなされる現象
コーシャスシフト Cautious Shift 集団での議論後に、個人の事前判断よりも慎重な意思決定がなされる現象
集団極性化 Group Polarization 集団での議論により、構成員の当初の傾向がより極端な方向へ増幅される現象
集団浅慮 Groupthink 凝集性の高い集団で合意への圧力が批判的思考を抑制し、不適切な意思決定に至る現象
無敵幻想 Illusion of Invulnerability 集団が自集団の判断能力を過大評価し、過度な楽観主義に陥る症候
悪魔の代弁者 Devil's Advocate 集団浅慮の予防策として、意図的に反対意見を提出する役割
グループダイナミクス Group Dynamics 集団内の個人間相互作用、集団構造、集団過程の総称
集団凝集性 Group Cohesiveness 構成員が集団にとどまろうとする力の総体
社会的促進 Social Facilitation 他者の存在が単純課題のパフォーマンスを向上させる現象
社会的抑制 Social Inhibition 他者の存在が複雑課題のパフォーマンスを低下させる現象
社会的手抜き Social Loafing 集団課題で個人の貢献が識別不能な場合に努力が低下する現象
リンゲルマン効果 Ringelmann Effect 集団規模の増加に伴い一人あたりの貢献度が低下する現象
同調圧力 Conformity Pressure 集団の多数派の判断・行動に個人が合わせるよう働く社会的圧力
力の場の分析 Force Field Analysis 変革を推進する力と抵抗する力の均衡として組織状態を分析する手法
レヴィンの3段階モデル Lewin's Three-Stage Model 解凍→変革→再凍結の3段階で組織変革を捉えるプロセスモデル
解凍 Unfreezing 現状の均衡を崩し、変革への準備を整える段階
再凍結 Refreezing 変革後の新しい行動パターンを安定化・定着させる段階
コッターの8段階モデル Kotter's Eight-Step Model J.P.コッターが提唱した組織変革の8段階プロセスモデル
変革への抵抗 Resistance to Change 組織変革に対する反対・消極的態度・妨害行動の総称
構造的慣性 Structural Inertia 組織の安定性維持メカニズムが変革への抵抗として機能する現象

確認問題

Q1: 集団浅慮(groupthink)が発生しやすい先行条件を3つ挙げ、それぞれがどのように集団浅慮を促進するか説明せよ。また、集団浅慮を予防するための具体的方策を2つ述べよ。

A1: 先行条件としては、(1) 高い集団凝集性: 構成員間の結束が強いほど、集団の一体感を壊すことへの恐れから異論が抑制される。(2) 指示的リーダーシップ: リーダーが早期に自身の選好を示すと、構成員はリーダーの意向に沿った意見のみを表明する傾向が強まる。(3) 外部からの隔離: 外部の情報源や批判的視点から遮断された集団は、自集団の判断を客観的に検証する機会を失う。予防策としては、(a) 悪魔の代弁者を公式に指名し、すべての提案に対して体系的な反論を行わせること、(b) リーダーが議論の初期段階で自身の意見表明を控え、構成員の自由な発言を促すこと、が挙げられる。

Q2: レヴィンの3段階モデルとコッターの8段階モデルを比較し、コッターのモデルがレヴィンのモデルをどのように発展させたか論じよ。

A2: レヴィンのモデルは「解凍→変革→再凍結」という抽象的な3段階で変革プロセスの本質を捉えた概念枠組みである。コッターのモデルはこの基本構造を踏襲しつつ、8つの具体的段階に分解することで実践的な行動指針を提供した。特にコッターは、(1) 解凍段階において危機意識の醸成と変革推進チーム(guiding coalition)の結成を明示し、リーダーシップと連合体構築の重要性を強調した点、(2) 変革段階において短期的成果(quick wins)の計画的創出を組み込み、変革の勢いを維持するメカニズムを明示した点、(3) 再凍結段階において組織文化への定着を強調し、持続可能な変革を志向した点で、レヴィンのモデルを発展させた。ただし、両モデルとも線形的なプロセスを前提としており、非線形的・反復的な変革プロセスへの対応には限界がある。

Q3: ある企業が基幹業務システムの全面刷新を計画しているが、現場の従業員から強い抵抗が生じている。変革への抵抗の原因として考えられるものを個人レベル・組織レベルからそれぞれ述べ、コッター=シュレジンガーの枠組みに基づく対処策を提案せよ。

A3: 個人レベルの原因としては、新システムへの習熟が求められることへの不安(不確実性への恐れ)、長年使い慣れた操作方法の喪失(習慣の喪失)、新システムへの適応能力に対する自信のなさが考えられる。組織レベルの原因としては、既存の業務プロセスや規則が旧システムを前提として設計されている構造的慣性、過去のシステム導入時の混乱やトラブルの記憶が新たな変革への不信感を生んでいることが挙げられる。対処策としては、(1) 教育とコミュニケーション: 刷新の必要性と具体的なメリットを丁寧に説明し、誤解や不安を解消する、(2) 参加と巻き込み: 現場の従業員を設計段階から参加させ、ユーザーの視点を反映させるとともに当事者意識を醸成する、(3) 促進と支援: 十分な研修期間の設定、マニュアルの整備、ヘルプデスクの設置など、適応を支援する体制を整備する、といった手法が有効である。

Q4: 社会的促進と社会的手抜きはともに集団状況で生じる現象であるが、両者の発生条件はどのように異なるか。組織マネジメントの観点から、それぞれの現象に対してどのような対策が考えられるか述べよ。

A4: 社会的促進は、個人のパフォーマンスが他者から評価可能な状況で生じる。他者の存在が覚醒水準を高め、単純課題では正しい優勢反応が促進されてパフォーマンスが向上する。一方、社会的手抜きは、個人の貢献が集団の成果に埋没し識別不能な状況で生じる。責任の分散と評価可能性の低下により、個人の努力が低下する。両者の決定的な違いは「個人の貢献の識別可能性」にある。組織マネジメントにおいては、社会的促進を活かすためには、単純な定型業務に適度な可視性(例: オープンオフィスでの作業)を設けることが有効である。社会的手抜きへの対策としては、集団課題における個人の貢献を明確化する評価制度の導入、適切な集団規模の維持(大集団を避ける)、課題への個人的関与感の向上(各人に明確な役割を付与する)が挙げられる。