Module 2-2 - Section 1: 戦略の基本概念と外部環境分析¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-2: 経営戦略論 |
| 前提セクション | なし(Module 2-1の知識を前提) |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
Module 2-1では、組織構造の基本類型(機能別組織、事業部制組織、マトリクス組織等)と、組織設計の理論的基盤を学んだ(→ Module 2-1, Section 1「組織構造の基本類型と設計原理」参照)。そこで触れたアルフレッド・チャンドラー(Alfred D. Chandler Jr.)の「組織は戦略に従う」という命題が示すように、組織と戦略は不可分の関係にある。本セクションでは、その「戦略」そのものの概念を正面から検討し、戦略策定の出発点となる外部環境分析の枠組みを体系的に学ぶ。
経営戦略論は、企業がいかにして持続的な競争優位を構築し、維持するかを探究する学問領域である。本セクションでは、戦略とは何かという根本的な問いから出発し、戦略の階層構造を整理したうえで、外部環境を分析するための主要なフレームワーク(PEST分析、5フォース分析、戦略グループ分析)を順に検討する。
戦略とは何か¶
ミンツバーグの戦略の5P¶
経営戦略の定義は論者によって多様であり、統一的な定義は存在しない。この多義性を体系的に整理したのが、ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)による「戦略の5P」である。ミンツバーグは1987年の論文 "The Strategy Concept I: Five Ps for Strategy"(California Management Review)において、戦略を5つの異なる意味で捉える枠組みを提示した。
Key Concept: ミンツバーグの戦略の5P(Mintzberg's 5Ps of Strategy) 戦略という概念を5つの視点から定義する枠組み。Plan(計画)、Ploy(策略)、Pattern(パターン)、Position(ポジション)、Perspective(パースペクティブ)の5つの「P」から成り、戦略の多面的な性質を明らかにする。
1. 計画としての戦略(Strategy as Plan)
戦略を「将来の行動に関する意識的・意図的な指針」として捉える見方である。これは最も一般的な戦略の理解であり、目標を設定し、それを達成するための行動方針を事前に定めるという意味で用いられる。経営計画や事業計画はこの見方に立脚している。
2. 策略としての戦略(Strategy as Ploy)
計画の特殊形態として、競争相手を出し抜くための具体的な駆け引きや策略を指す。たとえば、実際には建設しない工場の建設計画を発表して競争相手の参入を抑止するような行為がこれにあたる。戦略を競争的な駆け引きの文脈で捉える視点である。
3. パターンとしての戦略(Strategy as Pattern)
過去の行動の一貫性・連続性に着目し、実際に実現された行動の流れ(stream of actions)を戦略と見なす。計画(Plan)が「意図された戦略(intended strategy)」を指すのに対し、パターンは「実現された戦略(realized strategy)」に対応する。ミンツバーグはこの区別を重視し、意図された戦略がそのまま実現されるとは限らないこと、また意図せず事後的に一貫した行動パターンが生じる「創発的戦略(emergent strategy)」の存在を強調した。
4. ポジションとしての戦略(Strategy as Position)
戦略を外部環境における企業の位置づけとして定義する。製品・市場の組み合わせ(product-market domain)において、どの場所に自社を位置づけるかという外部指向の視点である。ポーターの競争戦略論(→ Section 3参照)はこの見方に立脚している。
5. パースペクティブとしての戦略(Strategy as Perspective)
戦略を組織内部に共有された世界観・ものの見方として捉える。これは組織の集合的な認知枠組みであり、「われわれは何者であり、何をする企業であるか」という根本的な自己認識に関わる。ポジションが外部指向であるのに対し、パースペクティブは内部指向である。
| 5P | 意味 | 視点の方向 | 時間軸 |
|---|---|---|---|
| Plan(計画) | 将来への行動指針 | 未来志向 | 事前(ex ante) |
| Ploy(策略) | 競争相手を出し抜く駆け引き | 外部(競争相手) | 状況依存 |
| Pattern(パターン) | 実現された行動の一貫性 | 過去志向 | 事後(ex post) |
| Position(ポジション) | 製品・市場における位置づけ | 外部(市場環境) | 現在 |
| Perspective(パースペクティブ) | 組織に共有された世界観 | 内部(組織文化) | 持続的 |
意図された戦略と創発的戦略¶
ミンツバーグの5Pのうち、PlanとPatternの区別から導かれる重要な概念が、意図された戦略(intended strategy)と創発的戦略(emergent strategy)の対比である。
Key Concept: 創発的戦略(Emergent Strategy) 事前に明確に計画されたものではなく、日々の意思決定や環境変化への対応の積み重ねの中から、事後的に一貫したパターンとして認識される戦略。ミンツバーグが提唱し、計画的アプローチ偏重への批判として重要な概念である。
意図された戦略のすべてが実現されるわけではない。途中で放棄される部分(unrealized strategy)があり、一方で計画にはなかった行動が実践を通じて戦略として結実する部分がある。現実の企業戦略は、意図的な計画と創発的な適応の混合体であるとミンツバーグは主張した。この見方は、戦略を「策定するもの」としてのみ捉えるのではなく、「形成されるもの」としても理解する視座を提供する。
戦略の階層構造¶
企業における戦略は、その対象範囲に応じて複数の階層に分けて理解される。一般に、企業戦略、事業戦略、機能戦略の3層構造として整理される。
Key Concept: 企業戦略(Corporate Strategy) 多角化企業全体としての方向性を定める最上位の戦略。「どの事業領域で戦うか」を決定し、事業ポートフォリオの構成、経営資源の事業間配分、新規事業への参入・既存事業からの撤退等を扱う。
Key Concept: 事業戦略(Business Strategy) 個々の事業単位(事業部、SBU: Strategic Business Unit)が、特定の市場においていかに競争するかを定める戦略。「いかに戦うか」を決定し、競争優位の構築が中心的課題となる。競争戦略(competitive strategy)とほぼ同義で用いられることが多い。
機能戦略(Functional Strategy) は、事業戦略の下位に位置し、マーケティング、生産、人事、財務、研究開発等の各機能領域における具体的な方針を定める。事業戦略を実行に移すための操作的な計画である。
graph TD
CS["企業戦略 Corporate Strategy"]
BS1["事業戦略A Business Strategy"]
BS2["事業戦略B Business Strategy"]
FS1["マーケティング戦略"]
FS2["生産戦略"]
FS3["研究開発戦略"]
FS4["マーケティング戦略"]
FS5["財務戦略"]
CS --> BS1
CS --> BS2
BS1 --> FS1
BS1 --> FS2
BS1 --> FS3
BS2 --> FS4
BS2 --> FS5
style CS fill:#e8f4f8,stroke:#2196F3
style BS1 fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
style BS2 fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
style FS1 fill:#e8f5e9,stroke:#4CAF50
style FS2 fill:#e8f5e9,stroke:#4CAF50
style FS3 fill:#e8f5e9,stroke:#4CAF50
style FS4 fill:#e8f5e9,stroke:#4CAF50
style FS5 fill:#e8f5e9,stroke:#4CAF50
企業戦略は「どこで戦うか(where to compete)」、事業戦略は「いかに戦うか(how to compete)」という問いにそれぞれ対応する。単一事業企業では企業戦略と事業戦略が事実上一体化するが、複数事業を展開する企業では両者の区別が不可欠となる。事業部制組織(→ Module 2-1, Section 1参照)はこの戦略階層を組織構造として具現化したものである。
経営理念・ビジョン・ミッション¶
戦略の上位に位置し、戦略策定の前提・方向性を規定するものとして、経営理念(management philosophy)、ミッション(mission)、ビジョン(vision)がある。
ミッションは、組織の存在意義・社会的使命を表明するものであり、「われわれは何のために存在するのか」という問いに答える。ミッションは組織の根本的な目的を示すものであるため、事業環境が変化しても容易には変わらない比較的永続的な性格を持つ。
ビジョンは、組織が将来実現すべき望ましい姿を描くものであり、「われわれはどこへ向かうのか」という問いに答える。ミッションよりも具体的で、中長期的な達成目標としての性格を持つ。事業環境の変化に応じて更新されうる。
経営理念は、組織の基本的な価値観・信条を示すものであり、ミッションやビジョンの根底にある思想的基盤である。日本企業では伝統的に経営理念が重視されてきた。
これらは相互に関連しつつ、戦略策定の出発点として機能する。ミッション・ビジョンが明確であることにより、戦略的選択肢の評価基準が定まり、組織構成員の方向性が統一される。
外部環境分析の枠組み¶
戦略策定において、自社を取り巻く外部環境の分析は不可欠の前提作業である。外部環境は、マクロ環境(一般環境)と業界環境(競争環境)の2層に分けて分析するのが一般的である。マクロ環境分析にはPEST分析、業界環境分析にはポーターの5フォース分析がそれぞれ代表的なフレームワークとして用いられる。
PEST分析¶
Key Concept: PEST分析(PEST Analysis) マクロ環境を政治的要因(Political)、経済的要因(Economic)、社会的要因(Social)、技術的要因(Technological)の4つのカテゴリに分類して分析するフレームワーク。ハーバード大学のフランシス・アギラー(Francis J. Aguilar)が1967年の著書 Scanning the Business Environment で提唱したETPS分析を原型とし、のちにPESTの順序に再編された。
PEST分析の目的は、業界を超えて広く企業に影響を与えるマクロレベルの環境変化を体系的に把握することにある。個々の企業や業界の努力では変えることのできない外生的要因を整理し、戦略策定の前提条件として認識するために用いられる。
| カテゴリ | 分析対象の例 |
|---|---|
| 政治的要因(Political) | 政府の規制・規制緩和、税制改正、貿易政策、政治的安定性、労働法規 |
| 経済的要因(Economic) | GDP成長率、金利動向、為替レート、インフレ率、失業率、景気循環 |
| 社会的要因(Social) | 人口動態(少子高齢化等)、ライフスタイルの変化、教育水準、文化的価値観 |
| 技術的要因(Technological) | 技術革新(AI、IoT等)、研究開発投資、技術移転の速度、特許・知的財産の動向 |
PEST分析の実施にあたっては、単に各カテゴリの要因を列挙するだけでなく、それらが自社の事業にどのような機会(opportunity)または脅威(threat)をもたらすかを評価することが重要である。また、各要因は相互に連関しており(たとえば技術革新が規制変更を促し、それが市場構造を変える等)、要因間の因果関係にも注意を払う必要がある。
PESTの拡張版として、法的要因(Legal)と環境的要因(Environmental)を加えたPESTLE分析、および倫理的要因(Ethical)を加えたSTEEPLE分析なども用いられるが、基本的な思考の枠組みは同一である。
ポーターの5フォース分析¶
マクロ環境の分析に続き、企業が直接的に競争する業界の構造を分析するフレームワークが、マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)の5フォース分析である。
Key Concept: 5フォース分析(Five Forces Analysis) ポーターが1980年の著書 Competitive Strategy で提唱した業界構造分析の枠組み。業界の収益性を規定する5つの競争要因(competitive forces)を分析し、業界の魅力度と自社の競争ポジションを評価する。
ポーターは、業界の長期的な収益性(平均利益率)は業界構造によって規定されるという立場をとった。業界構造を形成する5つの競争要因は以下のとおりである。
1. 業界内の競争(Rivalry among Existing Competitors)¶
既存企業間の競争の激しさを指す。以下の条件がそろうと競争は激化する。
- 競争企業が多数存在する、または同規模の企業が拮抗している
- 業界の成長率が低い(ゼロサム的な競争)
- 固定費や在庫費用が高く、稼働率を維持する圧力がある
- 製品の差別化が困難で、スイッチングコストが低い
- 撤退障壁(exit barriers)が高い(専用設備、雇用維持の社会的圧力等)
2. 新規参入の脅威(Threat of New Entrants)¶
新たな競争者が業界に参入する可能性とその容易さを指す。参入障壁(entry barriers)が低い業界では新規参入の脅威が高まり、既存企業の収益性を押し下げる。主要な参入障壁には以下がある。
- 規模の経済性(economies of scale): 大量生産によるコスト優位
- 製品差別化: ブランドロイヤルティ、顧客の慣れ
- 巨額の資本要件: 設備投資、研究開発投資
- スイッチングコスト: 顧客が既存製品から切り替える際のコスト
- 流通チャネルへのアクセス: 既存企業による販売網の占有
- 政府の規制: 許認可制度、特許保護
3. 代替品の脅威(Threat of Substitute Products or Services)¶
業界の製品・サービスと同等の機能を果たしうる代替品の存在を指す。代替品は業界が設定できる価格の上限を規定する。代替品の脅威が高い条件は以下のとおりである。
- 代替品の価格対性能比が業界の製品より優れている
- 代替品へのスイッチングコストが低い
- 代替品を提供する業界の収益性が高い(攻勢を強める余力がある)
4. 買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers)¶
顧客が値引き要求、品質向上の要求、競合他社への切り替えの示唆等を通じて業界に及ぼす圧力である。以下の条件で買い手の交渉力が高まる。
- 買い手の購入量が大きく、売り手の売上に占める比率が高い
- 購入する製品が標準化されており、代替供給源が多い
- 買い手のスイッチングコストが低い
- 買い手が川上統合(後方統合)する能力・意思を持つ
5. 売り手の交渉力(Bargaining Power of Suppliers)¶
供給業者が価格引き上げや品質低下を通じて業界に及ぼす圧力である。以下の条件で売り手の交渉力が高まる。
- 供給業者の数が少なく、業界よりも集中度が高い
- 代替可能な供給源がない(差別化された中間財)
- 業界が供給業者にとって重要な顧客でない
- 売り手が川下統合(前方統合)する能力・意思を持つ
graph TD
NE["新規参入の脅威"]
SC["売り手の交渉力"]
R["業界内の競争"]
BC["買い手の交渉力"]
SB["代替品の脅威"]
NE -->|参入圧力| R
SC -->|供給側の圧力| R
BC -->|需要側の圧力| R
SB -->|代替圧力| R
style R fill:#e8f4f8,stroke:#2196F3
style NE fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
style SC fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
style BC fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
style SB fill:#fff3e0,stroke:#FF9800
5フォース分析の意義と限界¶
5フォース分析の意義は、業界の競争を既存企業間の直接的な対抗関係に限定せず、潜在的参入者、代替品、買い手、売り手を含む広い視野で捉える点にある。これにより、業界の収益性を構造的に理解し、自社にとって有利なポジションを特定する基盤が得られる。
一方、5フォース分析にはいくつかの限界も指摘されている。第一に、業界の境界線の画定が必ずしも容易でない(特にデジタル化の進展により業界の融合が進む場合)。第二に、分析が静態的であり、業界構造の動態的な変化を捉えにくい。第三に、補完財(complements)の存在が明示的に扱われていない。アダム・ブランデンバーガー(Adam M. Brandenburger)とバリー・ネイルバフ(Barry J. Nalebuff)は、5フォースに「補完的企業」を加えた価値相関図(value net)の枠組みを提唱しており(1996年)、この点を補完している。
戦略グループ¶
5フォース分析は業界全体の構造を対象とするが、同一業界内でもすべての企業が同質の競争環境に直面するわけではない。業界内の企業を戦略的な類似性に基づいてグルーピングする概念が、戦略グループ(strategic group)である。
Key Concept: 戦略グループ(Strategic Group) 業界内で類似の戦略的次元(製品ラインの幅、地理的展開範囲、価格帯、技術的アプローチ等)を採用する企業の集団。ポーターが Competitive Strategy(1980年)で体系化した概念であり、業界分析をより精緻化するための分析単位として用いられる。
移動障壁¶
戦略グループ間には、移動障壁(mobility barriers) が存在する。これは、ある戦略グループに属する企業が別の戦略グループに移動することを阻害する要因である。参入障壁が業界への新規参入を阻むのと同様に、移動障壁はグループ間の移動を困難にする。たとえば、大量生産型の自動車メーカーが高級車セグメントに参入しようとする場合、ブランドイメージの構築、高級車に適した販売網の整備、精密な製造技術の獲得といった障壁に直面する。
戦略グループ・マップ¶
戦略グループ分析は、2つの重要な戦略的次元を軸とする2次元マップ(戦略グループ・マップ)として視覚化されることが多い。軸の選定にあたっては、以下の原則が推奨される。
- 業界における主要な移動障壁を反映する変数を選ぶ
- 2つの軸は相互に独立(相関が低い)であること
- 業界内の戦略的多様性を最もよく描出する変数を選ぶ
戦略グループ分析は、業界内の競争構造をより立体的に把握し、自社の競争相手を正確に識別するうえで有用である。同じ戦略グループ内の企業間の競争は、異なるグループに属する企業間の競争よりも一般に激しい。
まとめ¶
- 戦略は多義的な概念であり、ミンツバーグの5P(Plan, Ploy, Pattern, Position, Perspective)はこの多面性を体系的に整理する枠組みである
- 意図された戦略と創発的戦略の区別は、戦略が計画だけでなく実践の中からも生まれることを示す
- 戦略には企業戦略(どこで戦うか)、事業戦略(いかに戦うか)、機能戦略の3つの階層がある
- 経営理念・ミッション・ビジョンは戦略策定の上位に位置し、方向性を規定する
- PEST分析はマクロ環境を政治・経済・社会・技術の4要因で分析する
- ポーターの5フォース分析は、業界の収益性を規定する5つの競争要因から業界構造を分析する
- 戦略グループは同一業界内の企業を戦略的類似性でグルーピングし、移動障壁の概念によって業界内の競争構造をより精緻に把握する
- Section 2では、外部環境分析と対をなす内部資源分析の枠組みを検討し、SWOT分析として両者を統合する
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 経営戦略 | Strategic Management | 企業が持続的な競争優位を構築・維持するための方向性と意思決定の体系 |
| ミンツバーグの戦略の5P | Mintzberg's 5Ps of Strategy | 戦略をPlan, Ploy, Pattern, Position, Perspectiveの5つの視点から定義する枠組み |
| 創発的戦略 | Emergent Strategy | 事前の計画によらず、行動の蓄積から事後的に一貫したパターンとして認識される戦略 |
| 企業戦略 | Corporate Strategy | 「どの事業で戦うか」を決定する全社レベルの戦略 |
| 事業戦略 | Business Strategy | 特定の市場において「いかに戦うか」を定める事業単位レベルの戦略 |
| 機能戦略 | Functional Strategy | マーケティング・生産・人事等の各機能領域における具体的方針 |
| PEST分析 | PEST Analysis | マクロ環境を政治・経済・社会・技術の4要因で分析するフレームワーク |
| 5フォース分析 | Five Forces Analysis | 業界の収益性を規定する5つの競争要因を分析するポーターのフレームワーク |
| 参入障壁 | Entry Barriers | 新規企業の業界参入を阻害する要因 |
| 移動障壁 | Mobility Barriers | 業界内の戦略グループ間の移動を阻害する要因 |
| 戦略グループ | Strategic Group | 業界内で類似の戦略的次元を採用する企業の集団 |
確認問題¶
Q1: ミンツバーグの戦略の5Pのうち、PlanとPatternはどのように異なるか。両者の違いから導かれる「意図された戦略」と「創発的戦略」の概念について説明せよ。
A1: Plan(計画)は将来の行動に関する意識的・意図的な指針であり、事前に定められた「意図された戦略(intended strategy)」を指す。一方、Pattern(パターン)は実際に実現された行動の一貫性・連続性であり、事後的に認識される「実現された戦略(realized strategy)」を指す。意図された戦略のすべてが実現されるわけではなく(unrealized strategy)、また事前に計画されなかった行動の蓄積が一貫したパターンとして結実することがある。後者が「創発的戦略(emergent strategy)」であり、現実の戦略は意図的な計画と創発的な適応の混合体として理解される。
Q2: ポーターの5フォース分析において、「代替品の脅威」が業界の収益性に影響を与えるメカニズムを具体的に説明せよ。
A2: 代替品とは、業界の製品・サービスと同等の機能を果たしうる他業界の製品・サービスである。代替品は業界が設定できる価格の上限を規定する。代替品の価格対性能比が業界の製品より優位になると、顧客が代替品に流れるため、業界企業は価格を引き上げることが困難になる。たとえば、航空業界にとってのオンライン会議システムは代替品として機能し、ビジネス出張需要の一部を奪うことで航空運賃の上昇を抑制する。代替品へのスイッチングコストが低いほど、この脅威は強まる。
Q3: 企業戦略と事業戦略の違いを、それぞれが答える問いと、単一事業企業・多角化企業における両者の関係に触れながら説明せよ。
A3: 企業戦略は「どの事業領域で戦うか(where to compete)」に答え、事業ポートフォリオの構成、資源配分、参入・撤退の判断を扱う全社レベルの戦略である。事業戦略は「いかに戦うか(how to compete)」に答え、特定の市場における競争優位の構築を扱う事業単位レベルの戦略である。単一事業企業では両者は事実上一体化するが、複数の事業を展開する多角化企業では両者の区別が不可欠となる。多角化企業では、企業戦略が事業戦略の上位に位置し、各事業戦略に対して方向性と資源配分の枠組みを提供する。
Q4: PEST分析と5フォース分析は、それぞれ外部環境のどの層を対象とし、両者はどのような関係にあるか説明せよ。
A4: PEST分析はマクロ環境(一般環境)を対象とし、政治・経済・社会・技術という業界を超えて広く作用する外生的要因を分析する。5フォース分析は業界環境(競争環境)を対象とし、特定業界内の競争構造を規定する5つの要因を分析する。両者は補完的な関係にあり、PEST分析で把握されたマクロ環境の変化が5フォースの各要因に影響を与える形で連関する。たとえば、技術革新(Technology)が参入障壁を低下させ新規参入の脅威を高める、あるいは規制変更(Political)が代替品の台頭を促進するといった因果関係がある。戦略策定においては、まずPEST分析でマクロ環境を把握し、次に5フォース分析で業界構造を分析するという順序が一般的である。