Module 2-2 - Section 2: 内部資源分析とSWOT¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-2: 経営戦略論 |
| 前提セクション | Section 1(戦略の基本概念と外部環境分析) |
| 想定学習時間 | 2.5時間 |
導入¶
Section 1では、PEST分析や5フォース分析を通じて企業の外部環境を分析する枠組みを扱った。外部環境分析は「業界の魅力度」や「競争構造」を明らかにするが、同一業界内でも企業間に業績格差が存在するという事実を十分に説明できない。この業績格差を説明するためには、企業の内部に目を向ける必要がある。
本セクションでは、企業の内部資源・能力に着目した分析枠組みを学ぶ。具体的には、リソース・ベースト・ビュー(RBV)の基本思想、VRIO分析による資源評価、コア・コンピタンスの概念、ダイナミック・ケイパビリティの理論を順に取り上げる。最後に、外部環境分析と内部資源分析を統合するSWOT分析の枠組みを扱い、戦略策定における両者の結合の仕方を理解する。
リソース・ベースト・ビュー(RBV)¶
理論の背景と基本的考え方¶
1980年代の経営戦略論はマイケル・ポーター(Michael Porter)の産業組織論的アプローチが主流であり、企業の収益性は業界構造によって大きく規定されるとする立場が支配的であった。しかし、同一業界内で持続的に高い業績を上げる企業と低迷する企業が併存するという実証的知見が蓄積され、業界構造だけでは企業間の業績差を十分に説明できないことが明らかになった。実証研究では、企業業績の分散の30〜45%程度は企業固有の要因(firm effects)によって説明されることが示されている。
Key Concept: リソース・ベースト・ビュー(Resource-Based View: RBV) 企業の持続的競争優位は、企業が保有する経営資源(resources)と能力(capabilities)の異質性と固着性に由来するとする戦略論の立場。ジェイ・バーニー(Jay B. Barney)が1991年の論文 "Firm Resources and Sustained Competitive Advantage" で体系化した。
RBVの基本的前提は以下の2点に集約される。
- 資源の異質性(resource heterogeneity): 企業が保有する経営資源は企業ごとに異なる
- 資源の固着性(resource immobility): 経営資源は企業間で容易に移転・取引できない
この2つの前提が成立するとき、優れた経営資源を保有する企業は他社が模倣困難な競争優位を構築でき、それが持続的競争優位(sustained competitive advantage)の源泉となる。
経営資源の分類¶
バーニーは経営資源を以下の3つに分類した。
| 分類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 物的資本資源 | 有形の物理的資産 | 設備、立地、原材料へのアクセス |
| 人的資本資源 | 個人が保有する知識・スキル | 経験、判断力、訓練 |
| 組織資本資源 | 組織に埋め込まれた属性 | 組織構造、管理システム、企業文化、社内ネットワーク |
重要なのは、すべての経営資源が競争優位の源泉になるわけではないという点である。競争優位に寄与する資源を体系的に評価するための枠組みがVRIO分析である。
VRIO分析¶
VRIOの4要素¶
バーニーは当初、持続的競争優位の条件としてVRIN(Value, Rarity, Inimitability, Non-substitutability)を提示していたが、1995年にこれを発展させ、より実践的なVRIOフレームワークを提唱した。VRIOは以下の4つの問いから構成される。
Key Concept: VRIO分析(VRIO Framework) 企業の経営資源・能力が持続的競争優位の源泉となりうるかを、価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)の4つの基準で評価するフレームワーク。
1. 価値(Value): その資源は価値があるか?
当該資源が外部環境における機会の活用や脅威の無力化を可能にするかどうかを問う。価値のない資源は、いかに希少で模倣困難であっても、競争優位の源泉とはならない。資源の価値は外部環境の変化によって変動しうる点にも注意が必要である。
2. 希少性(Rarity): その資源は希少か?
同じ資源を保有する競合企業が少ないかどうかを問う。価値があっても多くの競合が同様の資源を保有していれば、それは競争均衡(competitive parity)をもたらすにすぎない。
3. 模倣困難性(Inimitability): その資源の模倣にはコストがかかるか?
競合企業がその資源を獲得・開発するのに多大なコスト上の不利(cost disadvantage)が生じるかどうかを問う。模倣困難性が生じる主な要因は以下の3つである。
| 要因 | 説明 |
|---|---|
| 独自の歴史的条件(unique historical conditions) | 特定の時点・状況で蓄積された資源は再現困難 |
| 因果曖昧性(causal ambiguity) | 資源と競争優位の因果関係が外部から特定できない |
| 社会的複雑性(social complexity) | 企業文化、人間関係、信頼関係など社会的に複雑な資源は意図的に構築しにくい |
4. 組織(Organization): その資源を活用する組織体制があるか?
価値があり、希少で、模倣困難な資源を保有していても、それを十分に活用する組織的な仕組み(報酬体系、組織構造、管理システムなど)が整っていなければ、持続的競争優位は実現しない。組織はそれ自体が独立した競争優位の源泉というよりも、他の3条件を満たす資源のポテンシャルを顕在化させる調整要因(complementary factor)として機能する。
VRIO判定フロー¶
VRIOの4つの問いは段階的に適用される。以下のフロー図はその判定プロセスを示す。
graph TD
A["経営資源・能力"] --> B{"価値があるか?<br/>Value"}
B -- No --> C["競争劣位"]
B -- Yes --> D{"希少か?<br/>Rarity"}
D -- No --> E["競争均衡"]
D -- Yes --> F{"模倣困難か?<br/>Inimitability"}
F -- No --> G["一時的競争優位"]
F -- Yes --> H{"組織体制は<br/>整っているか?<br/>Organization"}
H -- No --> I["未活用の<br/>競争優位"]
H -- Yes --> J["持続的競争優位"]
style C fill:#f99,stroke:#c00
style E fill:#ffc,stroke:#cc0
style G fill:#cfc,stroke:#0a0
style I fill:#ccf,stroke:#00c
style J fill:#0c0,stroke:#090,color:#fff
| VRIO条件の充足状況 | 競争上の帰結 | 経済的パフォーマンス |
|---|---|---|
| V=No | 競争劣位 | 平均以下 |
| V=Yes, R=No | 競争均衡 | 平均 |
| V=Yes, R=Yes, I=No | 一時的競争優位 | 平均以上(一時的) |
| V=Yes, R=Yes, I=Yes, O=No | 未活用の競争優位 | 平均以上(潜在的) |
| V=Yes, R=Yes, I=Yes, O=Yes | 持続的競争優位 | 平均以上(持続的) |
コア・コンピタンス¶
概念の定義¶
Key Concept: コア・コンピタンス(Core Competence) ゲイリー・ハメル(Gary Hamel)とC・K・プラハラード(C. K. Prahalad)が1990年の論文 "The Core Competence of the Corporation" で提唱した概念。顧客に対して他社には模倣困難な自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な技術・能力を指す。
ハメルとプラハラードは、企業を事業単位(SBU: Strategic Business Unit)の集合体として捉える従来の見方を批判し、企業を「コア・コンピタンスの束」として捉えるべきだと主張した。彼らは企業を樹木に喩え、根がコア・コンピタンス、幹がコア製品、枝が事業部、葉・花・果実が最終製品であるとした。
コア・コンピタンスの3条件¶
ある能力がコア・コンピタンスと認められるには、以下の3条件を満たす必要がある。
- 顧客価値の提供: 顧客に知覚される価値に実質的な貢献をすること
- 競合他社との差別化: 競合他社が容易に模倣できないこと
- 複数市場への展開可能性: 多様な製品・市場へ応用可能であること
具体例¶
| 企業 | コア・コンピタンス | 展開先 |
|---|---|---|
| ホンダ | エンジン・パワートレイン技術 | 自動車、バイク、汎用機、航空機 |
| ソニー(当時) | 小型化技術 | ウォークマン、ハンディカム、各種電子機器 |
| キヤノン | 精密光学技術 | カメラ、複写機、プリンター、半導体露光装置 |
RBVとの関係¶
コア・コンピタンス論とRBVは、いずれも企業内部に競争優位の源泉を求めるという点で共通する。ただし、焦点と粒度に違いがある。RBVが個別の経営資源のレベルで分析するのに対し、コア・コンピタンス論は複数の技術・スキルの統合体として能力を捉え、組織全体の学習プロセスを重視する。コア・コンピタンスはVRIOの4条件を満たす資源・能力のうち、特に組織横断的に統合された能力を指すと位置づけることができる。
ダイナミック・ケイパビリティ¶
RBVの限界と動態的視点の必要性¶
RBVとコア・コンピタンス論は、企業が保有する資源・能力の「現在の状態」を静態的に分析する枠組みである。しかし、環境変化が激しい状況では、現時点で価値がある資源が将来も価値を持ち続ける保証はない。かつての強みが環境変化によって陳腐化し、むしろ変革の足枷となる現象は「コア・リジディティ(core rigidity)」と呼ばれる。この問題に対応する理論がダイナミック・ケイパビリティである。
Key Concept: ダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capability) デイヴィッド・ティース(David J. Teece)らが提唱した概念。急速に変化する環境に対応するために、企業が内外のコンピタンスを統合・構築・再配置する能力を指す。「資源を持つこと」ではなく「資源を変革する能力」に焦点を当てる点でRBVを動態的に拡張する。
3つの能力クラスター¶
ティースはダイナミック・ケイパビリティを以下の3つの能力群に分解した。
1. 感知(Sensing): 機会と脅威の識別・評価
市場動向、技術変化、顧客ニーズの変化を走査し、新たな機会や脅威を認識する能力である。具体的には、研究開発活動、顧客との対話、サプライヤーとの連携、技術動向の探索などが含まれる。
2. 捕捉(Seizing): 機会への対応と資源の動員
感知した機会に対して、新しいビジネスモデルの設計、投資判断、資源の動員を行い、価値を獲得する能力である。事業モデルの革新、資本へのアクセス確保、適切な意思決定プロセスの設計が含まれる。
3. 変革(Transforming): 組織の継続的な再配置・刷新
環境変化に適応するために、組織の資源配分、構造、文化を継続的に刷新する能力である。既存資産の再結合、組織構造の再設計、知識管理の高度化が含まれる。
これら3つの活動は必ずしも逐次的に実行されるものではなく、多くの場合並行的かつ継続的に営まれる。
オーディナリー・ケイパビリティとの対比¶
ティースはダイナミック・ケイパビリティをオーディナリー・ケイパビリティ(ordinary capability)と対比して位置づけた。
| 区分 | オーディナリー・ケイパビリティ | ダイナミック・ケイパビリティ |
|---|---|---|
| 目的 | 現在の事業の効率的運営 | 資源基盤の変革・刷新 |
| 性質 | 「正しく物事を行う」(doing things right) | 「正しい物事を行う」(doing the right things) |
| 例 | 品質管理、コスト削減、業務改善 | 新市場の開拓、ビジネスモデル変革、M&A統合 |
| 模倣可能性 | ベストプラクティスとして移転可能 | 企業固有で模倣困難 |
オーディナリー・ケイパビリティは業務効率を高めるが、それだけでは持続的競争優位に至らない。外部環境が変化する中で持続的に競争力を維持するには、ダイナミック・ケイパビリティが不可欠となる。
SWOT分析の統合的活用¶
外部環境分析と内部資源分析の統合¶
ここまで、Section 1で学んだ外部環境分析(PEST分析、5フォース分析)と本セクションで学んだ内部資源分析(RBV、VRIO、コア・コンピタンス)をそれぞれ扱ってきた。SWOT分析はこれら2つの視点を統合し、戦略策定に結びつけるための枠組みである。
Key Concept: SWOT分析(SWOT Analysis) 企業の内部環境を強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)に、外部環境を機会(Opportunities)と脅威(Threats)に分類し、4象限のマトリクスとして整理する分析手法。内部・外部の分析結果を統合し、戦略オプションを導出する際に用いられる。
SWOT分析の各要素は以下のように対応する。
| 区分 | 内容 | 情報源 |
|---|---|---|
| 強み(S) | 自社が保有する優位な資源・能力 | VRIO分析、コア・コンピタンス分析 |
| 弱み(W) | 自社に不足する資源・能力 | VRIO分析(条件を満たさない資源) |
| 機会(O) | 外部環境における好機 | PEST分析、5フォース分析 |
| 脅威(T) | 外部環境におけるリスク | PEST分析、5フォース分析 |
クロスSWOT分析による戦略導出¶
SWOT分析の真価は、4要素を単に列挙することではなく、内部要因と外部要因を掛け合わせて具体的な戦略オプションを導出する「クロスSWOT分析」にある。
graph TD
subgraph "外部環境"
O["機会 Opportunities"]
T["脅威 Threats"]
end
subgraph "内部環境"
S["強み Strengths"]
W["弱み Weaknesses"]
end
S --> SO["SO戦略: 積極攻勢"]
O --> SO
S --> ST["ST戦略: 差別化"]
T --> ST
W --> WO["WO戦略: 弱点克服"]
O --> WO
W --> WT["WT戦略: 防衛・撤退"]
T --> WT
style SO fill:#0c0,stroke:#090,color:#fff
style ST fill:#fc0,stroke:#c90
style WO fill:#6cf,stroke:#39c
style WT fill:#f66,stroke:#c33,color:#fff
クロスSWOT分析で導出される4つの戦略オプションは以下のとおりである。
1. SO戦略(強み × 機会): 積極攻勢戦略
自社の強みを活かして外部環境の機会を最大限に活用する戦略。最も攻撃的で成長志向のオプションであり、新規市場への参入や事業拡大の方向性を示す。
2. ST戦略(強み × 脅威): 差別化戦略
自社の強みを活用して外部環境の脅威の影響を最小化する戦略。競合の攻勢や市場環境の悪化に対して、自社の優位な資源で差別化を図る。
3. WO戦略(弱み × 機会): 弱点克服戦略
外部環境の機会を活かすために、自社の弱みを克服する戦略。提携・M&A・人材採用など外部からの資源獲得によって弱みを補完し、機会を捕捉する方向性を含む。
4. WT戦略(弱み × 脅威): 防衛・撤退戦略
弱みと脅威が重なる最も厳しい状況への対応策。損害を最小限に抑えるための撤退、縮小、リスク回避が中心となる。
SWOT分析の限界と留意点¶
SWOT分析は直感的でわかりやすい反面、以下の限界がある。
- 分類の主観性: 何を強み・弱み・機会・脅威とするかは分析者の主観に依存しやすい。VRIO分析や5フォース分析といった構造化されたツールを入力として用いることで客観性を高める必要がある
- 優先順位の欠如: 要素を羅列するだけでは、どの要素が戦略的に重要かの判断ができない。各要素の重要度・緊急度を評価する補完的な作業が不可欠である
- 静態的な分析: SWOT分析は特定時点のスナップショットであり、環境変化を動態的に捉えるにはダイナミック・ケイパビリティの視点と組み合わせる必要がある
- 因果関係の不明確さ: 強みと機会を掛け合わせればよいという単純な図式では、実際の戦略実行における因果メカニズムが不明確になりがちである
これらの限界を踏まえ、SWOT分析は他の分析ツールの成果を統合するための「総括的フレームワーク」として位置づけ、それ単体で分析を完結させるのではなく、Section 1の外部環境分析と本セクションの内部資源分析の成果を戦略策定へ橋渡しする装置として活用すべきである。
まとめ¶
- リソース・ベースト・ビュー(RBV)は、企業の持続的競争優位の源泉を業界構造ではなく企業固有の経営資源に求める理論的立場である。資源の異質性と固着性が基本的前提となる
- VRIO分析は、経営資源が持続的競争優位をもたらすかを価値・希少性・模倣困難性・組織体制の4基準で段階的に評価するフレームワークである
- コア・コンピタンスは、顧客価値の提供・競合との差別化・複数市場への展開可能性の3条件を満たす組織横断的な中核能力であり、RBVとは焦点と粒度において補完的な関係にある
- ダイナミック・ケイパビリティは、感知・捕捉・変革の3能力を通じて環境変化に適応し資源基盤を刷新する能力であり、RBVの静態的分析を動態的に拡張する
- SWOT分析は外部環境分析(機会・脅威)と内部資源分析(強み・弱み)を統合し、クロスSWOT分析によって4つの戦略オプション(SO・ST・WO・WT)を導出するフレームワークである
- 次のSection 3(競争戦略)では、本セクションで把握した内部資源の強み・弱みを前提として、事業レベルでの競争戦略の類型(コストリーダーシップ、差別化、集中)を扱う
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| リソース・ベースト・ビュー | Resource-Based View (RBV) | 企業の持続的競争優位は保有する経営資源の異質性と固着性に由来するとする戦略論の立場 |
| 資源の異質性 | Resource Heterogeneity | 企業が保有する経営資源は企業ごとに異なるという前提 |
| 資源の固着性 | Resource Immobility | 経営資源は企業間で容易に移転・取引できないという前提 |
| VRIO分析 | VRIO Framework | 価値・希少性・模倣困難性・組織体制の4基準で経営資源を評価するフレームワーク |
| 因果曖昧性 | Causal Ambiguity | 資源と競争優位の因果関係が外部から特定できない状態 |
| 社会的複雑性 | Social Complexity | 企業文化・人間関係・信頼関係など社会的に複雑な資源の性質 |
| コア・コンピタンス | Core Competence | 顧客に他社が模倣困難な価値を提供する企業の中核的能力 |
| コア・リジディティ | Core Rigidity | かつてのコア・コンピタンスが環境変化により硬直性に転じる現象 |
| ダイナミック・ケイパビリティ | Dynamic Capability | 環境変化に対応し内外の資源を統合・構築・再配置する企業の能力 |
| オーディナリー・ケイパビリティ | Ordinary Capability | 現在の事業を効率的に運営するための能力 |
| 感知 | Sensing | 機会と脅威を識別・評価する能力 |
| 捕捉 | Seizing | 機会に対応し資源を動員して価値を獲得する能力 |
| 変革 | Transforming | 組織の資源配分・構造・文化を継続的に刷新する能力 |
| SWOT分析 | SWOT Analysis | 内部の強み・弱みと外部の機会・脅威を統合的に分析するフレームワーク |
| クロスSWOT分析 | Cross-SWOT Analysis | SWOTの4要素を掛け合わせて戦略オプションを導出する手法 |
確認問題¶
Q1: VRIO分析において、ある経営資源が「価値があり、希少であるが、模倣困難ではない」場合、企業はどのような競争上のポジションに置かれるか。その理由とともに説明せよ。
A1: 一時的競争優位のポジションに置かれる。その資源は価値があり希少であるため、短期的には競合に対して優位に立てるが、模倣困難でないため競合企業が比較的低コストで同等の資源を獲得・開発できる。その結果、時間の経過とともに競争優位は侵食され、最終的には競争均衡に収斂する。
Q2: コア・コンピタンスの3条件を挙げ、RBVのVRIO分析との理論的な関係を説明せよ。
A2: コア・コンピタンスの3条件は、(1) 顧客価値の提供、(2) 競合他社が模倣困難であること、(3) 複数市場への展開可能性である。RBVのVRIOとの関係について、条件(1)はVRIOのV(価値)に対応し、条件(2)はR(希少性)とI(模倣困難性)に関連する。条件(3)の複数市場への展開可能性はVRIOにない独自の基準であり、コア・コンピタンス論がRBVよりも組織横断的な能力の統合と応用を重視していることを反映している。コア・コンピタンスはVRIOの条件を満たす資源・能力のうち、特に複数事業にまたがる統合的能力と位置づけることができる。
Q3: ダイナミック・ケイパビリティが理論として必要とされた背景を、RBVの限界と関連づけて説明せよ。
A3: RBVは企業が保有する経営資源を特定時点で静態的に評価する枠組みであり、現時点で価値があり希少で模倣困難な資源が将来的にも競争優位をもたらし続けるという暗黙の前提に立つ。しかし、技術変化や市場環境の急速な変動の下では、かつてのコア・コンピタンスが「コア・リジディティ」に転じ、むしろ変革を阻害する要因になりうる。ダイナミック・ケイパビリティは、資源の保有ではなく資源基盤を変革・刷新する能力に着目することで、このRBVの静態的性格を補完し、環境変化への適応メカニズムを説明する理論として位置づけられる。
Q4: SWOT分析のクロス分析において「WO戦略」と「WT戦略」はそれぞれどのような状況を想定し、どのような方向性の戦略を導くか。具体例を交えて説明せよ。
A4: WO戦略(弱み×機会)は、外部環境に魅力的な機会が存在するが、それを活かすための内部資源が不足している状況を想定する。対応策としては、提携・M&A・人材獲得など外部からの資源調達によって弱みを克服し、機会を捕捉する方向をとる。例えば、AI技術の活用機会に対してAI人材が不足している企業が、AI企業との業務提携や専門人材の採用によって弱みを補完するケースがこれにあたる。一方、WT戦略(弱み×脅威)は、弱みと脅威が重なる最も厳しい状況を想定し、損害を最小限に抑えるための撤退・縮小・リスク回避を志向する。例えば、デジタル化の脅威にさらされつつ技術力も不足している事業部門について、段階的な撤退や他事業への経営資源の再配分を検討するケースがこれにあたる。