Module 2-2 - Section 5: 戦略の実行と統合¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-2: 経営戦略論 |
| 前提セクション | Section 2, 3, 4 |
| 想定学習時間 | 2時間 |
導入¶
Section 1で外部環境分析、Section 2で内部資源分析、Section 3で競争戦略、Section 4で企業戦略を扱ってきた。これらはいずれも「何をすべきか」を決定する戦略策定(strategy formulation)の領域に属する。しかし、いかに優れた戦略を策定しても、それが組織内で実行されなければ成果には結びつかない。戦略の実行(strategy execution / implementation)は、策定以上に困難であるとされる。ある調査によれば、策定された戦略のうち実際に意図通り実行されるものは50%未満にとどまるとも言われる。
本セクションでは、戦略を組織的に実行するためのマネジメント・ツールとしてバランスト・スコアカード(BSC)と戦略マップを取り上げ、次に戦略と組織構造の適合関係に関するチャンドラーの古典的命題を検討する。さらに、戦略実行を阻害する要因と、それを克服するための組織的基盤について論じる。最後に、Module 2-2全体を通じて学んだ分析フレームワークと戦略類型を統合的に整理する。
バランスト・スコアカード(BSC)¶
BSCの背景と基本思想¶
1990年代初頭、多くの企業が財務指標偏重の業績管理に陥っていた。財務指標は過去の業績を示す遅行指標(lagging indicator)であり、将来の競争力を予測する先行指標(leading indicator)としては不十分である。ロバート・キャプラン(Robert S. Kaplan)とデイヴィッド・ノートン(David P. Norton)は、1992年にHarvard Business Reviewに発表した論文「The Balanced Scorecard: Measures That Drive Performance」において、財務指標と非財務指標を組み合わせた多面的な業績管理の枠組みを提唱した。
Key Concept: バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard: BSC) 財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4つの視点から、戦略目標・指標・ターゲット・施策を設定し、戦略の実行を体系的に管理するフレームワーク。財務指標だけでなく非財務指標を統合することで、短期的業績と長期的な価値創造のバランスをとる。
4つの視点¶
BSCは以下の4つの視点(perspective)で構成される。
1. 財務の視点(Financial Perspective)
株主や資金提供者に対して、どのような財務的成果を示すべきかを問う。売上成長率、営業利益率、投下資本利益率(ROI)、経済的付加価値(EVA)などの指標が用いられる。財務の視点は戦略の最終的な成果を測定するものであり、他の3つの視点の活動がここに帰結する。
2. 顧客の視点(Customer Perspective)
ターゲット顧客に対して、どのような価値提案(value proposition)を行うかを明確にする。顧客満足度、顧客維持率、市場シェア、新規顧客獲得率などの指標が設定される。競争戦略(→ Section 3参照)で定めた差別化の方向性が、ここで具体的な指標に変換される。
3. 内部プロセスの視点(Internal Business Process Perspective)
顧客への価値提案と財務目標を実現するために、どの業務プロセスに秀でなければならないかを特定する。オペレーション・プロセス、顧客管理プロセス、イノベーション・プロセス、規制・社会プロセスの4カテゴリに分類されることが多い。プロセスの効率性、品質、サイクルタイムなどが指標となる。
4. 学習と成長の視点(Learning and Growth Perspective)
内部プロセスを改善し続けるための組織基盤を問う。人的資本(従業員のスキル・知識)、情報資本(IT基盤・データベース)、組織資本(文化・リーダーシップ・チームワーク)の3カテゴリから構成される。従業員満足度、研修投資額、情報システムの充実度などが指標として用いられる。この視点は、他の3つの視点を支える基盤であり、BSCの因果連鎖の出発点となる。
4つの視点間の因果関係¶
BSCの本質は、4つの視点が因果関係で連鎖している点にある。学習と成長への投資が内部プロセスの能力を向上させ、プロセスの改善が顧客への価値提供を高め、顧客からの支持が財務成果に結実する。この因果連鎖を「戦略の仮説」として明示することで、組織全体が戦略のロジックを共有し、各部門の活動を整合的に方向づけることが可能となる。
戦略マップ¶
戦略マップの概念¶
キャプランとノートンは、2000年代初頭にBSCの発展形として戦略マップ(strategy map)を提唱した。2004年の著書『Strategy Maps: Converting Intangible Assets into Tangible Outcomes』で体系的に論じられたこの手法は、BSCの4つの視点における戦略目標間の因果関係を1枚の図に可視化するものである。
Key Concept: 戦略マップ(Strategy Map) BSCの4つの視点における戦略目標間の因果関係を視覚的に表現した図。「もし学習と成長にこう投資すれば、このプロセスが改善され、顧客にこの価値を提供でき、結果としてこの財務成果が得られる」という戦略の因果仮説を明示する。
戦略マップの構造¶
戦略マップは下から上へ因果関係が流れる構造をとる。最下層の「学習と成長」から始まり、「内部プロセス」「顧客」を経て、最上層の「財務」に到達する。各視点の中に複数の戦略目標が配置され、目標間が矢印で接続される。
graph BT
subgraph LG["学習と成長の視点"]
L1["人的資本の強化"]
L2["情報資本の整備"]
L3["組織文化の醸成"]
end
subgraph IP["内部プロセスの視点"]
P1["オペレーション効率化"]
P2["イノベーション推進"]
P3["顧客管理の高度化"]
end
subgraph CU["顧客の視点"]
C1["顧客満足度向上"]
C2["ブランド価値強化"]
end
subgraph FI["財務の視点"]
F1["売上成長"]
F2["収益性向上"]
end
L1 --> P1
L1 --> P2
L2 --> P1
L2 --> P3
L3 --> P2
P1 --> C1
P2 --> C2
P3 --> C1
C1 --> F1
C2 --> F1
C1 --> F2
C2 --> F2
BSCと戦略マップの実務的意義¶
BSCと戦略マップは、戦略の「翻訳ツール」として機能する。経営トップが策定した抽象的な戦略を、各部門・各従業員の日常業務に紐づく具体的な目標と指標に分解できる。これにより、戦略の「見える化」が実現し、組織全体の方向性が統一される。
ただし、BSCには限界も指摘されている。因果関係の仮説が実証的に検証されにくいこと、定量化が困難な戦略目標が存在すること、指標の数が増大して管理コストが肥大化するリスクがあることなどである。また、BSCは既存の戦略を実行するためのツールであり、戦略そのものの妥当性を問うものではない点にも留意が必要である。
戦略と組織の適合¶
チャンドラーの「組織は戦略に従う」命題¶
アルフレッド・D・チャンドラー(Alfred D. Chandler, Jr.)は、1962年の著書『Strategy and Structure: Chapters in the History of the American Industrial Enterprise』において、デュポン(DuPont)、ゼネラルモーターズ(GM)、スタンダードオイル(Standard Oil of New Jersey)、シアーズ・ローバック(Sears, Roebuck)の4社の歴史的分析から、企業の戦略が変化すると、それに適合する組織構造もまた変化するという命題を提示した。
Key Concept: 「組織は戦略に従う」(Structure Follows Strategy) チャンドラーが歴史分析から導出した命題。企業が新たな戦略(特に多角化戦略)を採用すると、既存の組織構造では管理上の非効率が生じ、やがて戦略に適合した新たな組織構造(事業部制など)が採用されるという因果関係を主張する。(→ Module 2-1, Section 1「組織構造の基本」参照)
具体的には、チャンドラーは以下のプロセスを観察した。4社はいずれも、事業の多角化という戦略的転換を遂げた後、従来の職能別組織では管理の限界に直面し、事業部制組織(multidivisional form: M-form)へと構造転換を行った。すなわち、戦略が先行し、構造がそれに追随するという時系列的な因果関係が確認された。
命題の意義と限界¶
チャンドラーの命題は、戦略と組織を別個の問題としてではなく、相互に連動するシステムとして捉える視点を確立した点で、経営学史上の画期的貢献である。
しかし、後続の研究者から複数の批判が提起されている。
1. 逆方向の因果関係 ダニエル・ホール(Daniel J. Hall)とモーリス・サイアス(Maurice A. Saias)は、既存の組織構造が戦略の選択肢を制約する「戦略は構造に従う」(strategy follows structure)という逆命題を提唱した。例えば、事業部制構造を持つ企業は、その構造的特性ゆえに多角化戦略を採用しやすいという論理である。
2. 相互規定関係 ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)をはじめとする研究者は、戦略と構造は一方向の因果関係ではなく、相互に規定し合う関係にあると主張した。組織構造は戦略の実行を可能にすると同時に、将来の戦略的選択の幅を限定する。
3. 環境変化への適用限界 デジタル技術の進展や事業環境の急速な変化により、戦略の修正サイクルが短縮化している現代においては、戦略に追随して組織構造を逐次変更することが現実的でない場合もある。アジャイル型の組織設計やプラットフォーム型組織のように、多様な戦略に柔軟に対応できる構造を先行的に構築する動きも見られる。
これらの批判を踏まえると、現代の経営戦略論では、戦略と構造の関係を一方向的な従属関係ではなく、動的な適合(dynamic fit)として捉えることが主流となっている。重要なのは、戦略と組織構造のミスマッチ(不適合)が生じたときにそれを検知し、修正する能力である。
戦略実行の阻害要因と組織的基盤¶
戦略実行のギャップ¶
戦略の策定と実行の間には「実行ギャップ」(strategy-execution gap)と呼ばれる断絶が存在する。ローレンス・ヘルビニアック(Lawrence G. Hrebiniak)は、2006年の研究においてアメリカ企業の管理職443名を対象とした調査を行い、戦略実行を妨げる主要な障壁を特定した。
主要な阻害要因¶
ヘルビニアックらの研究および後続の調査から、以下の阻害要因が繰り返し指摘されている。
1. 実行計画の不在 戦略を具体的なアクションプラン、責任者、マイルストーン、KPIに分解する実行計画が欠如している場合、戦略は抽象的なスローガンにとどまる。
2. 組織内のケイパビリティ不足 ある調査では、経営幹部の3分の2が「自社には戦略を実行するために必要なケイパビリティが不足している」と回答した。戦略が要求するスキルや能力と、組織が現に保有するそれとの間の乖離が、実行の最大の障壁となり得る(→ Section 2「ダイナミック・ケイパビリティ」参照)。
3. 組織の権力構造との衝突 新たな戦略の実行は、既存の権力配分や資源配分を変更することを意味する。これに対する組織内の抵抗が、実行を遅延・阻害する。
4. 戦略とインセンティブの不整合 従業員の評価・報酬体系が新戦略と整合していない場合、戦略の方向性と日常の行動が乖離する。BSCは、この問題に対する解決策の一つとして位置づけられる。
5. コミュニケーションの断絶 経営層が策定した戦略が、ミドルマネジメントや現場の従業員に正確に伝達されないことがある。戦略の意図や背景が共有されなければ、現場での適切な判断が困難となる。
6. 変革への抵抗と組織文化 組織文化(→ Module 2-1, Section 4参照)が新戦略と適合しない場合、文化的慣性が実行の障壁となる。特に、過去の成功体験に基づく行動パターンが固定化している組織では、新たな戦略への転換が困難である。
実行力の組織的基盤¶
戦略実行のギャップを克服するために、以下の組織的基盤が必要とされる。
統合的リーダーシップ: 経営層だけでなく、ミドルマネジメントが戦略の翻訳者・推進者として機能すること。ミドルマネジメントは、トップの戦略意図を現場の具体的行動に変換する結節点として重要である。
戦略と日常業務の接続: BSCや戦略マップは、戦略を日常の業務目標に分解するための仕組みとして、この接続を実現するツールとなる。
適応的な実行プロセス: 戦略実行は一度設計すれば完了するものではなく、環境変化に応じて継続的に調整される反復的なプロセスである。実行中のフィードバックを戦略の修正に反映する「戦略的学習」のループが不可欠である。
Module 2-2の統合的整理¶
本セクションの最後に、Module 2-2全体で学んだ枠組みを統合的に整理する。経営戦略論は、分析(analysis)、策定(formulation)、実行(execution)の3つのフェーズから構成される。
分析フェーズ¶
| 分析対象 | フレームワーク | Section |
|---|---|---|
| 外部環境(マクロ) | PEST分析 | S1 |
| 外部環境(業界) | 5フォース分析 | S1 |
| 内部資源 | VRIO分析 | S2 |
| 内部能力 | コア・コンピタンス分析 | S2 |
| 動的適応 | ダイナミック・ケイパビリティ | S2 |
| 統合分析 | SWOT分析・クロスSWOT | S2 |
策定フェーズ¶
| 戦略レベル | 主な選択肢 | Section |
|---|---|---|
| 競争戦略(事業レベル) | コストリーダーシップ、差別化、集中 | S3 |
| 新市場創造 | ブルー・オーシャン戦略 | S3 |
| 競争と協調 | コーペティション | S3 |
| 企業戦略(全社レベル) | 多角化、垂直統合、M&A、戦略的提携 | S4 |
| 成長方向 | アンゾフの成長マトリクス | S4 |
| 事業ポートフォリオ | BCGマトリクス | S4 |
実行フェーズ¶
| 課題 | ツール・概念 | Section |
|---|---|---|
| 戦略の翻訳と管理 | BSC、戦略マップ | S5 |
| 組織との適合 | 「組織は戦略に従う」命題 | S5 |
| 実行の障壁克服 | 阻害要因の特定と組織的基盤 | S5 |
統合フレームワーク¶
以下の図は、Module 2-2全体のフレームワークを示す。外部・内部の分析に基づいて競争戦略・企業戦略を策定し、BSCと組織適合を通じて実行する一連の流れである。
graph LR
subgraph Analysis["分析"]
A1["外部環境分析"]
A2["内部資源分析"]
A3["SWOT統合"]
end
subgraph Formulation["策定"]
F1["競争戦略"]
F2["企業戦略"]
end
subgraph Execution["実行"]
E1["BSC / 戦略マップ"]
E2["組織構造の適合"]
E3["実行プロセス管理"]
end
subgraph Feedback["フィードバック"]
FB["戦略的学習"]
end
A1 --> A3
A2 --> A3
A3 --> F1
A3 --> F2
F1 --> E1
F2 --> E1
E1 --> E2
E2 --> E3
E3 --> FB
FB --> A1
FB --> A2
この図で注目すべきは、実行フェーズから分析フェーズへ戻るフィードバック・ループの存在である。戦略は策定して終わりではなく、実行過程で得られた情報を分析に還元し、戦略を修正するという循環的プロセスである。ミンツバーグが指摘した「創発的戦略」(emergent strategy)の概念とも通じるこの視点は、戦略を静的な計画としてではなく、動的な学習プロセスとして捉えることの重要性を示している。
まとめ¶
- BSCは財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4つの視点から戦略の実行を管理するフレームワークであり、戦略マップはその因果関係を可視化するツールである
- 4つの視点は「学習と成長 → 内部プロセス → 顧客 → 財務」という因果連鎖を構成し、戦略の仮説を明示する
- チャンドラーの「組織は戦略に従う」命題は、戦略と組織構造の適合関係を示す古典的知見であるが、逆方向の因果関係や相互規定関係を指摘する後続研究により、動的な適合として捉える見方が主流となっている
- 戦略実行の主要な阻害要因として、実行計画の不在、ケイパビリティ不足、権力構造との衝突、インセンティブの不整合、コミュニケーション断絶、組織文化の抵抗がある
- 経営戦略論は分析→策定→実行→フィードバックの循環的プロセスとして統合的に理解されるべきである
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| バランスト・スコアカード | Balanced Scorecard (BSC) | 財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4視点で戦略実行を管理するフレームワーク |
| 戦略マップ | Strategy Map | BSCの4視点における戦略目標間の因果関係を可視化した図 |
| 「組織は戦略に従う」 | Structure Follows Strategy | 戦略の変化が組織構造の変化を引き起こすとするチャンドラーの命題 |
| 遅行指標 | Lagging Indicator | 過去の業績結果を示す指標(例: 売上高、利益率) |
| 先行指標 | Leading Indicator | 将来の業績を予測する先行的な指標(例: 顧客満足度、従業員研修時間) |
| 価値提案 | Value Proposition | 顧客に対して提供する価値の内容と差別化要素の組み合わせ |
| 実行ギャップ | Strategy-Execution Gap | 策定された戦略と実際の実行結果との間の断絶 |
| 戦略的学習 | Strategic Learning | 戦略実行の過程で得られたフィードバックを戦略の修正に反映する循環的プロセス |
確認問題¶
Q1: BSCの4つの視点はどのような因果関係で連鎖しているか。具体的な企業の例を想定して、各視点間の因果連鎖を説明せよ。
A1: BSCの4つの視点は「学習と成長 → 内部プロセス → 顧客 → 財務」の順に因果関係で連鎖している。例えば、あるIT企業を想定すると、エンジニアのスキル向上研修への投資(学習と成長)が、ソフトウェア開発プロセスの品質向上とリードタイム短縮(内部プロセス)をもたらし、それが顧客に提供するサービスの信頼性と迅速性を高め(顧客)、結果として契約更新率の上昇と売上成長(財務)に結実する。この因果連鎖を「戦略の仮説」として明示し、各視点の目標と指標を設定することがBSCの本質である。
Q2: チャンドラーの「組織は戦略に従う」命題に対する主要な批判を2つ挙げ、それぞれの論点を説明せよ。
A2: 第一に、ホールとサイアスによる「戦略は構造に従う」という逆命題がある。これは、既存の組織構造が戦略の選択肢を制約するという論点であり、例えば事業部制構造を持つ企業がその構造的特性ゆえに多角化戦略を採用しやすくなるという現象を指摘する。第二に、ミンツバーグらによる相互規定関係の指摘がある。これは、戦略と構造の関係を一方向的な因果関係ではなく、互いに影響を及ぼし合う双方向的な関係として捉える見方であり、組織構造が戦略実行を可能にすると同時に、将来の戦略的選択の幅を限定するという二面性を強調する。
Q3: 戦略実行を阻害する主要な要因のうち、BSC(バランスト・スコアカード)がその克服に特に貢献し得るものはどれか。BSCがどのようなメカニズムで阻害要因を緩和するかを論じよ。
A3: BSCは特に「戦略とインセンティブの不整合」と「コミュニケーションの断絶」の克服に貢献し得る。インセンティブの不整合に対しては、BSCが戦略目標を4つの視点から具体的な指標とターゲットに分解するため、この指標体系を評価・報酬制度と連動させることで、従業員の行動を戦略の方向性に整合させることが可能となる。コミュニケーションの断絶に対しては、戦略マップが戦略の因果ロジックを1枚の図として可視化するため、経営層の戦略意図を組織全体に伝達する「共通言語」として機能する。ただし、BSCは実行計画の不在やケイパビリティ不足といった、より構造的・資源的な問題を直接解決するものではない点に留意すべきである。
Q4: Module 2-2全体を通じて、「分析→策定→実行」のプロセスにフィードバック・ループが存在することの戦略的意義を論じよ。
A4: フィードバック・ループの存在は、戦略を一回限りの計画策定ではなく、継続的な学習プロセスとして捉えることの重要性を示している。実行過程で得られた市場の反応や内部データは、PEST分析や5フォース分析の前提を更新し、VRIO分析における資源評価を修正する材料となる。これにより、当初の戦略仮説が環境変化によって陳腐化した場合でも、迅速に戦略を修正することが可能となる。この循環的プロセスは、ミンツバーグの「創発的戦略」の概念と通じるものであり、意図された戦略(deliberate strategy)と現場から立ち上がる創発的戦略を統合する「戦略的学習」のメカニズムとして不可欠である。