Module 2-4 - Section 2: 資産の評価と減価償却¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-4: 財務会計・管理会計 |
| 前提セクション | Section 1 |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
企業が保有する資産は、取得時に記録された金額のまま永続的に貸借対照表に計上されるわけではない。棚卸資産は販売・消費されるにつれて費用化され、有形固定資産は使用期間にわたって減価償却を通じて費用配分される。また、金融資産は保有目的や契約内容に応じて公正価値または償却原価で測定される。これらの資産評価は、企業の財政状態と経営成績を適正に表示するための根幹をなす会計処理である。
Section 1で学んだ会計基準の枠組み(日本基準・IFRS・US GAAP)の違いは、資産評価の局面でとりわけ顕著に現れる。本セクションでは、棚卸資産の評価方法、有形固定資産の取得原価決定と減価償却、減損会計の基礎、および金融資産の分類と測定について、日本基準とIFRSの相違点を意識しながら体系的に学ぶ。
棚卸資産の評価¶
棚卸資産の原価配分方法¶
Key Concept: 棚卸資産(Inventory) 企業が通常の営業活動において販売するために保有する資産、または生産過程にある資産、もしくは生産・サービス提供に消費される原材料・貯蔵品の総称である。商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などが含まれる。
棚卸資産の取得原価は、購入代価に引取費用等の付随費用を加算して決定される。問題となるのは、同一品目を異なる時点・異なる単価で仕入れた場合に、期末在庫と売上原価にどのように原価を配分するかである。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、以下の原価配分方法が認められている。
先入先出法(FIFO: First-In, First-Out)¶
最も古く取得された棚卸資産から順次払出しが行われると仮定し、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして算定する方法である。物価上昇局面では、期末在庫が直近の高い単価で評価されるため、売上原価が相対的に低くなり、利益が大きく計上される傾向がある。
移動平均法(Moving Average Method)¶
仕入が行われるたびに、その時点の在庫数量と在庫金額に新たな仕入数量と仕入金額を加え、新しい平均単価を算出する方法である。払出単価を適時に把握できる利点があるが、仕入・払出の頻度が高い場合に計算が煩雑になる。
総平均法(Weighted Average Method)¶
一定期間(通常は1会計期間)の期首在庫と当期仕入の合計金額を、合計数量で除して平均単価を算出する方法である。計算が簡便であるが、期末まで払出単価が確定しないため、期中の原価計算に適時に活用できない難点がある。
計算例による比較¶
以下に、同一のデータを用いて各方法の違いを示す。
前提条件: - 期首在庫: 100個 × @100円 = 10,000円 - 仕入①: 200個 × @120円 = 24,000円 - 仕入②: 150個 × @130円 = 19,500円 - 販売: 300個 - 期末在庫: 150個
| 方法 | 期末在庫額 | 売上原価 | 計算根拠 |
|---|---|---|---|
| 先入先出法 | 19,500円 | 34,000円 | 期末150個 = 仕入②の150個 × @130円 |
| 総平均法 | 17,833円 | 35,667円 | 平均単価 = 53,500円 ÷ 450個 ≒ @118.89円、150個 × @118.89円 |
| 移動平均法 | 約18,000円 | 約35,500円 | 仕入の都度、平均単価を再計算(払出時点の在庫構成に依存) |
先入先出法は物価上昇局面で最も高い期末在庫額(=最も低い売上原価=最も高い利益)を示し、総平均法はその中間的な結果を示す。この違いは、評価方法の選択が企業の報告利益に直接影響することを意味する。
なお、後入先出法(LIFO: Last-In, First-Out)は、IFRSでは禁止されており(IAS第2号)、日本基準でも2010年に廃止された。
低価法と棚卸資産評価損¶
Key Concept: 低価法(Lower of Cost or Net Realizable Value) 棚卸資産の期末評価において、取得原価と正味売却価額のいずれか低い方の金額をもって貸借対照表価額とする方法である。収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を回収可能な水準まで切り下げる。
日本基準では、企業会計基準第9号により、通常の販売目的で保有する棚卸資産について、期末における正味売却価額(Net Realizable Value: NRV)が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることが求められている。正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除した金額である。
取得原価と正味売却価額の差額は当期の費用(棚卸資産評価損)として処理される。評価損の発生原因には、物理的な品質低下(品質低下損)、流行遅れ・型落ちなどの経済的な陳腐化(陳腐化評価損)、市場価格の下落(低価法評価損)があるが、いずれも収益性の低下という点で共通している。
IFRSにおいても、IAS第2号「棚卸資産」により、棚卸資産は取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い方で測定するとされており、この点で日本基準とIFRSの間に本質的な差異はない。
有形固定資産と減価償却¶
有形固定資産の取得原価の決定¶
有形固定資産の取得原価は、購入代価に付随費用を加算して決定される。付随費用には、買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等が含まれる。正当な理由がある場合には、付随費用の一部または全部を加算しないことも認められるが、原則として取得に要した費用はすべて資産計上する。
IFRSでは、IAS第16号「有形固定資産」において、取得原価に以下を含めると規定している。
- 購入価格(値引き・割戻しを控除後)
- 資産を意図した使用が可能な状態にするために直接起因する原価
- 資産の解体・除去および敷地の原状回復に要する費用の当初見積額(資産除去債務)
日本基準においても、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」により、有形固定資産の除去に関して法令や契約で生じる義務がある場合、資産除去債務の割引現在価値を有形固定資産の取得原価に含め、耐用年数にわたって費用配分する処理が求められている。
減価償却の目的と方法¶
Key Concept: 減価償却(Depreciation) 有形固定資産の取得原価を、当該資産の耐用年数にわたって規則的に費用配分する手続きである。物理的な磨耗や機能的な陳腐化による価値の減少を、各会計期間の費用として認識することで、適正な期間損益計算を実現する。
減価償却は、資産の「価値の評価」ではなく「原価の配分」であるという点が重要である。減価償却の対象は、土地のように使用しても価値が減少しない資産を除く有形固定資産であり、建物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品などが該当する。
減価償却の計算に必要な要素は、①取得原価、②残存価額(耐用年数終了時に見込まれる処分価額)、③耐用年数の3つである。
定額法(Straight-Line Method)¶
毎期同額の減価償却費を計上する方法である。
$$\text{減価償却費} = \frac{\text{取得原価} - \text{残存価額}}{\text{耐用年数}}$$
資産の経済的便益が各期間にわたり均等に消費されると考えられる場合に適している。IFRSを適用する企業の大多数がこの方法を採用している。
定率法(Declining Balance Method)¶
期首の未償却残高(帳簿価額)に一定率を乗じて減価償却費を計算する方法である。
$$\text{減価償却費} = \text{期首帳簿価額} \times \text{償却率}$$
初期に多額の減価償却費が計上され、年次が進むにつれて逓減する。技術革新が早い設備や、取得初期に生産能力が高い資産に適するとされる。日本の税法では、法人税法に基づく償却率が規定されており、税務上のメリットから定率法を採用する企業が多かった。
生産高比例法(Units of Production Method)¶
資産の利用量(生産高、使用時間、走行距離等)に比例して減価償却費を配分する方法である。
$$\text{減価償却費} = \frac{\text{取得原価} - \text{残存価額}}{\text{見積総利用量}} \times \text{当期利用量}$$
鉱業用設備や航空機のように、利用度に応じて経済的便益が消費される資産に適している。
計算例による比較¶
前提条件: 取得原価1,000万円、残存価額0円、耐用年数5年、定率法償却率40%
| 年度 | 定額法 | 定率法 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 200万円 | 400万円 | △200万円 |
| 2年目 | 200万円 | 240万円 | △40万円 |
| 3年目 | 200万円 | 144万円 | +56万円 |
| 4年目 | 200万円 | 108万円 | +92万円 |
| 5年目 | 200万円 | 108万円 | +92万円 |
| 合計 | 1,000万円 | 1,000万円 | 0円 |
(定率法の4・5年目は改定償却率の適用により均等額となる例を示している)
耐用年数全体での減価償却費の合計は同額であるが、各年度への配分パターンが異なる。定率法は初年度に大きな費用を計上するため、取得初期の利益を圧縮し、課税の繰り延べ効果をもたらす。
日本基準とIFRSにおける減価償却の相違点¶
| 論点 | 日本基準 | IFRS(IAS第16号) |
|---|---|---|
| 減価償却方法の選択 | 税法との親和性から定率法の採用も多い | 経済的便益の消費パターンに合致すべき(定額法が主流) |
| 残存価額 | 税法上、備忘価額1円まで償却 | 毎期見直しが必要(重要な変動があれば変更) |
| 耐用年数 | 税法上の法定耐用年数を用いることが多い | 経営者の見積りに基づく経済的耐用年数を使用 |
| コンポーネント会計 | 原則として資産全体を一括償却 | 重要な構成部分は区分して個別に償却 |
| 見積りの見直し | 会計方針の変更(遡及適用の対象) | 会計上の見積りの変更(将来に向かって適用) |
IFRSでは、減価償却方法・残存価額・耐用年数を少なくとも各事業年度末に見直すことが求められ、期待される消費パターンに重要な変動がある場合には変更しなければならない。日本では、税法上の法定耐用年数に著しく不合理でない限り依拠する実務が広く行われてきたが、IFRS適用企業では経営者による自主的な見積りが必要となる。
減損会計の基礎¶
Key Concept: 減損(Impairment) 資産の回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その差額を減損損失として認識する会計処理である。減価償却が規則的な費用配分であるのに対し、減損は資産の収益性低下に対する臨時的な評価切下げである。
減損会計の手続き¶
日本基準における固定資産の減損会計は、「固定資産の減損に係る会計基準」(2002年)に基づき、以下の3段階で行われる。
第1段階: 減損の兆候の把握
以下のいずれかに該当する場合、減損の兆候があるとされる。
- 営業活動から生じる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスであるか、継続してマイナスとなる見込みである
- 使用範囲または方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化がある(または見込まれる)
- 経営環境の著しい悪化がある(または見込まれる)
- 市場価格が著しく下落している
第2段階: 減損損失の認識の判定
減損の兆候がある資産または資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識する。割引前キャッシュ・フローを用いるのは、日本基準における認識と測定を分離するアプローチの特徴である。
第3段階: 減損損失の測定
帳簿価額を回収可能価額まで減額し、差額を減損損失として当期の損失に計上する。回収可能価額は、正味売却価額(資産の時価から処分費用見込額を控除した金額)と使用価値(将来キャッシュ・フローの割引現在価値)のいずれか高い方である。
日本基準とIFRSの減損会計の相違点¶
| 論点 | 日本基準 | IFRS(IAS第36号) |
|---|---|---|
| 兆候の判定基準 | 過去の実績の推移で評価 | 経営者の予測とのかい離で評価 |
| 認識の判定 | 割引前キャッシュ・フローで判定(2段階アプローチ) | 認識と測定を分離しない(1段階アプローチ) |
| 測定 | 回収可能価額まで減額 | 回収可能価額まで減額(同一) |
| 減損損失の戻入れ | 禁止 | のれん以外は戻入れが必要 |
日本基準の2段階アプローチ(認識判定に割引前キャッシュ・フロー、測定に回収可能価額を使用)は、減損損失の認識を慎重に行う趣旨であり、IFRSの1段階アプローチと比較して減損が認識されにくい構造になっている。また、減損損失の戻入れについて、日本基準は禁止しているのに対し、IFRSではのれん以外の資産について回収可能価額が回復した場合に戻入れを要求している点が重要な相違である。
金融資産の分類と評価¶
日本基準における有価証券の分類¶
日本基準(金融商品に関する会計基準)では、有価証券を保有目的に応じて以下の4分類に区分し、それぞれ異なる測定方法を適用する。
| 分類 | 測定方法 | 評価差額の処理 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価(公正価値) | 当期の損益に計上 |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価 | 利息法または定額法で償却 |
| 子会社株式・関連会社株式 | 取得原価 | 個別FSでは評価差額を認識しない |
| その他有価証券 | 時価(公正価値) | その他の包括利益(純資産の部)に計上 |
「その他有価証券」の評価差額は、洗替方式によりその他の包括利益に計上され、売却時にリサイクリング(損益への振替)が行われる。また、時価が著しく下落し回復の見込みがない場合には、減損処理(強制評価減)が求められる。
IFRS第9号における金融資産の分類¶
Key Concept: 公正価値(Fair Value) 測定日において市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るか、または負債を移転するために支払う価格である。IFRS第13号「公正価値測定」で定義される。
Key Concept: 償却原価(Amortized Cost) 金融資産の当初認識額から元本返済額を控除し、実効金利法を用いて当初認識額と満期金額の差額を配分した累計額を加減し、さらに減損損失の累計額を控除した金額である。
IFRS第9号「金融商品」では、金融資産の分類を保有者の主観的な「目的」ではなく、事業モデル(Business Model)と契約キャッシュ・フロー特性(SPPIテスト)の2つの客観的基準に基づいて決定する。
事業モデルの評価: 金融資産のポートフォリオを管理する目的が、①契約上のキャッシュ・フローの回収(Held to Collect)か、②回収と売却の両方か、③その他(トレーディング等)かを判定する。
SPPIテスト(Solely Payments of Principal and Interest): 契約上のキャッシュ・フローが元本および元本残高に対する利息の支払いのみからなるかどうかを判定する。
これらの判定結果に基づき、金融資産は以下の3区分のいずれかに分類される。
| 分類 | 事業モデル | SPPI | 測定方法 |
|---|---|---|---|
| 償却原価 | 回収目的 | 充足 | 実効金利法による償却原価 |
| FVOCI(その他の包括利益を通じた公正価値) | 回収+売却目的 | 充足 | 公正価値(差額はOCIに計上、売却時にリサイクリング) |
| FVTPL(純損益を通じた公正価値) | 上記以外 | 不問 | 公正価値(差額は当期の損益に計上) |
なお、資本性金融商品(株式等)については、SPPIテストを満たさないため原則としてFVTPLに分類されるが、トレーディング目的でない場合には、企業の選択(取消不能)によりFVOCIに指定することができる。ただし、この場合の評価差額はリサイクリングが禁止され、売却時にもOCIから損益に振り替えられない(OCI内で利益剰余金に振り替えられる)。
graph TD
A["金融資産の取得"] --> B{"SPPIテスト充足?"}
B -->|Yes| C{"事業モデルは?"}
B -->|No| D["FVTPL<br/>純損益を通じた公正価値"]
C -->|"回収目的"| E["償却原価測定"]
C -->|"回収+売却目的"| F["FVOCI<br/>OCIを通じた公正価値"]
C -->|"その他"| D
A --> G{"資本性金融商品?"}
G -->|"Yes: 原則"| D
G -->|"Yes: FVOCI指定"| H["FVOCI<br/>リサイクリング禁止"]
日本基準とIFRSの金融資産分類の対応関係¶
| 日本基準 | IFRS第9号 | 主な相違点 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | FVTPL | 概ね対応 |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価 | IFRSはSPPIテスト+事業モデルで判定 |
| その他有価証券 | FVOCI(負債性)/ FVOCI指定(資本性) | IFRSの資本性FVOCIはリサイクリング禁止 |
| 子会社・関連会社株式 | 連結では支配・重要な影響力で判断 | 個別FSの取扱いが異なる |
日本基準は保有者の「目的」という主観的基準に依存するのに対し、IFRSは事業モデルとキャッシュ・フロー特性という客観的・実態的基準で分類する点が根本的な設計思想の違いである。
graph LR
subgraph 日本基準
J1["売買目的有価証券<br/>時価 → 損益"]
J2["満期保有目的の債券<br/>償却原価"]
J3["その他有価証券<br/>時価 → OCI"]
J4["子会社・関連会社株式<br/>取得原価"]
end
subgraph IFRS9
I1["FVTPL<br/>公正価値 → 損益"]
I2["償却原価<br/>実効金利法"]
I3["FVOCI<br/>公正価値 → OCI"]
end
J1 -.->|"概ね対応"| I1
J2 -.->|"SPPIテスト充足時"| I2
J3 -.->|"負債性金融商品"| I3
J3 -.->|"資本性金融商品"| I1
まとめ¶
- 棚卸資産の原価配分方法(先入先出法、移動平均法、総平均法)は、期末在庫額と売上原価の計算結果に影響を与え、評価方法の選択は報告利益に直接的な影響をもたらす
- 棚卸資産は低価法により、正味売却価額が取得原価を下回った場合に評価損を計上する。この処理は日本基準・IFRSで共通している
- 有形固定資産の取得原価は、購入代価に付随費用と資産除去債務の割引現在価値を加算して決定される
- 減価償却の方法(定額法、定率法、生産高比例法)は費用配分のパターンを決定するものであり、IFRSでは経済的便益の消費パターンに合致する方法の選択が求められる
- 減損会計は、資産の収益性低下時に帳簿価額を回収可能価額まで切り下げる処理であり、日本基準の2段階アプローチ(認識→測定)とIFRSの1段階アプローチには構造的な違いがある。また減損損失の戻入れの可否も重要な相違点である
- 金融資産の分類は、日本基準が保有目的(主観的基準)に基づくのに対し、IFRSは事業モデルとSPPIテスト(客観的基準)に基づく。特にIFRSにおける資本性金融商品のFVOCI指定でリサイクリングが禁止される点は、日本基準の「その他有価証券」の処理と異なる
- 次のSection 3では、引当金の計上基準、連結財務諸表の作成手続き、および財務諸表分析の手法について扱う
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 棚卸資産 | Inventory | 企業が通常の営業活動において販売・消費するために保有する資産(商品、製品、原材料等) |
| 先入先出法 | First-In, First-Out (FIFO) | 最も古く取得された棚卸資産から順次払出しが行われると仮定して原価配分する方法 |
| 移動平均法 | Moving Average Method | 仕入の都度、在庫の平均単価を再計算する原価配分方法 |
| 総平均法 | Weighted Average Method | 一定期間の仕入総額を仕入総数量で除して平均単価を算出する方法 |
| 低価法 | Lower of Cost or Net Realizable Value | 取得原価と正味売却価額の低い方を貸借対照表価額とする評価方法 |
| 正味売却価額 | Net Realizable Value (NRV) | 売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除した金額 |
| 減価償却 | Depreciation | 有形固定資産の取得原価を耐用年数にわたって規則的に費用配分する手続き |
| 定額法 | Straight-Line Method | 毎期同額の減価償却費を計上する方法 |
| 定率法 | Declining Balance Method | 期首帳簿価額に一定率を乗じて減価償却費を計算する方法 |
| 生産高比例法 | Units of Production Method | 資産の利用量に比例して減価償却費を配分する方法 |
| 減損 | Impairment | 資産の回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に帳簿価額を減額する処理 |
| 回収可能価額 | Recoverable Amount | 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額 |
| 公正価値 | Fair Value | 市場参加者間の秩序ある取引において資産の売却で受け取る価格 |
| 償却原価 | Amortized Cost | 当初認識額から元本返済額を控除し実効金利法による配分額を加減した金額 |
| FVOCI | Fair Value through Other Comprehensive Income | 公正価値で測定し変動をその他の包括利益に計上する区分 |
| FVTPL | Fair Value through Profit or Loss | 公正価値で測定し変動を純損益に計上する区分 |
| SPPIテスト | Solely Payments of Principal and Interest Test | 契約キャッシュ・フローが元本と利息の支払いのみからなるかを判定するテスト |
| 資産除去債務 | Asset Retirement Obligation | 有形固定資産の除去に関して法令・契約で生じる義務の割引現在価値 |
確認問題¶
Q1: 先入先出法と総平均法の違いを説明し、物価上昇局面でそれぞれが売上原価と期末在庫額に与える影響の違いを述べよ。
A1: 先入先出法は最も古い取得分から順に払出しが行われると仮定し、期末在庫を直近の仕入価格で評価する方法である。総平均法は期間全体の仕入総額を総数量で除した平均単価で期末在庫と売上原価を計算する。物価上昇局面では、先入先出法は古い低い単価が売上原価に配分されるため売上原価が低くなり、期末在庫額は直近の高い単価で評価されるため高くなる。結果として利益が相対的に大きくなる。総平均法は高低の単価が平均化されるため、先入先出法と比較して売上原価がやや高く、期末在庫額がやや低く、利益は中間的な水準となる。
Q2: 日本基準とIFRSにおける減損会計の手続きの違い(特に認識判定と戻入れ)を説明せよ。
A2: 日本基準は2段階アプローチを採用しており、まず割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較して認識の要否を判定し(第2段階)、認識すると判定された場合に回収可能価額まで減額して損失を測定する(第3段階)。IFRSは1段階アプローチであり、回収可能価額(正味売却価額と使用価値の高い方)が帳簿価額を下回れば直ちに減損損失を認識する。日本基準の2段階アプローチは、割引前キャッシュ・フローによるフィルターがあるため、IFRSより減損が認識されにくい構造になっている。また、減損損失の戻入れについて、日本基準は禁止しているのに対し、IFRSではのれん以外の資産について、回収可能価額が回復した場合に戻入れを要求している。
Q3: IFRS第9号における金融資産の分類は、事業モデルとSPPIテストの2つの基準に基づく。この仕組みを説明し、日本基準の有価証券4分類との設計思想の違いを論じよ。
A3: IFRS第9号では、まずSPPIテストにより契約キャッシュ・フローが元本と利息の支払いのみからなるかを判定する。SPPIテストを充足しない金融資産は自動的にFVTPL(純損益を通じた公正価値)に分類される。SPPIテストを充足する場合、事業モデル(回収目的か、回収+売却目的か、その他か)に基づいて償却原価、FVOCI、FVTPLのいずれかに分類される。この分類体系は、契約内容と事業の実態という客観的基準に基づいている。一方、日本基準は保有者の「目的」(売買目的、満期保有目的、子会社・関連会社、その他)という主観的基準で分類する。IFRSの設計思想は、分類の恣意性を排除し、金融商品の経済的実質に基づく一貫した測定を実現しようとするものである。
Q4: 取得原価1,200万円、残存価額0円、耐用年数6年の機械装置について、定額法と定率法(償却率33.3%)による1年目・2年目の減価償却費をそれぞれ計算せよ。
A4: 定額法: 毎期の減価償却費 = 1,200万円 ÷ 6年 = 200万円。1年目200万円、2年目200万円。定率法: 1年目 = 1,200万円 × 33.3% = 399.6万円(期末帳簿価額800.4万円)。2年目 = 800.4万円 × 33.3% = 266.5万円(期末帳簿価額533.9万円)。定率法は初年度に定額法の約2倍の費用を計上するため、利益を大きく圧縮する。この差異は耐用年数の後半で逆転し、合計では同額(1,200万円)となる。
Q5: IFRSにおいて、資本性金融商品(株式)をFVOCI指定した場合のリサイクリング禁止の意味とその影響を説明せよ。
A5: IFRSでは、トレーディング目的でない資本性金融商品について、取消不能の選択によりFVOCIに指定できる。この場合、公正価値の変動はその他の包括利益(OCI)に計上されるが、日本基準の「その他有価証券」と異なり、売却時にOCIから純損益への振替(リサイクリング)は禁止される。売却時の累計評価差額はOCI内で利益剰余金に直接振り替えられる。この結果、FVOCI指定した株式の売却益や売却損は純損益計算書(損益計算書)に一切計上されない。企業の純利益には影響しないため、投資家が損益計算書のみを重視する場合、売却による実現損益を把握しにくくなるという影響がある。