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Module 2-4 - Section 3: 引当金・連結財務諸表・財務諸表分析

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-4: 財務会計・管理会計
前提セクション Section 1
想定学習時間 3時間

導入

財務会計の報告体系において、Section 1では会計基準の全体像と収益認識を、Section 2では資産の評価と減価償却を扱った。本セクションでは、財務会計の残る主要論点として、引当金・偶発債務連結財務諸表、および財務諸表分析の3領域を取り上げる。

引当金は、将来の支出に対する合理的な見積りを通じて期間損益を適正化するための負債項目である。企業活動が複雑化するなかで、偶発的な債務をいかに認識・測定・開示するかは、財務報告の信頼性に直結する問題である。

連結財務諸表は、親会社とその子会社から構成される企業グループ全体の財政状態と経営成績を一体として報告するための仕組みである。M&Aの活発化とグループ経営の拡大に伴い、連結ベースでの情報開示の重要性は年々高まっている。

財務諸表分析は、企業が公表する財務諸表を用いて収益性・安全性・効率性・成長性を体系的に評価する手法であり、投資判断や与信判断の基礎を提供する。特にデュポン分析に代表される指標分解の手法は、企業の収益構造を多面的に理解するうえで不可欠のツールである。


引当金

引当金の意義と認識要件

Key Concept: 引当金(Provision) 将来の特定の費用または損失に備えて、その発生原因が当期以前の事象に起因する場合に、当期の負担額を見積り計上する負債項目。期間損益計算の適正化と財政状態の適切な表示を目的とする。

引当金は、まだ法的に確定していない将来の支出について、発生主義の原則に基づき当期の費用または損失として認識するものである。その本質は、将来の経済的便益の流出が見込まれる義務を適時に財務諸表に反映させ、期間損益計算を歪めないことにある。

日本基準の4要件

企業会計原則注解注18は、引当金の計上要件として以下の4つを定めている。

  1. 将来の特定の費用または損失であること
  2. その発生が当期以前の事象に起因すること
  3. 発生の可能性が高いこと
  4. その金額を合理的に見積ることができること

これら4要件をすべて満たす場合に、当期の負担に属する金額を費用または損失として引当金に繰り入れ、残高を貸借対照表の負債の部(または資産の部の控除項目)に記載する。典型例として、製品保証引当金、貸倒引当金、退職給付引当金、修繕引当金、賞与引当金などがある。

日本基準の特徴は、引当金に債務性を要件としていない点にある。すなわち、修繕引当金のように法的義務が存在しなくても、上記4要件を充足すれば引当金の計上が求められる。

IAS 37の3要件

IFRSにおいては、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が引当金の認識規準を定めている。IAS 37第14項によれば、以下の3要件をすべて満たすときに引当金を認識する。

  1. 過去の事象の結果として現在の義務(法的または推定的)を有していること
  2. 当該義務を決済するために経済的便益を有する資源の流出が必要となる可能性が高い(probable)こと
  3. 当該義務の金額について信頼性のある見積りができること

日本基準との最大の相違は、IAS 37が現在の義務の存在を要件としている点である。ここでいう義務には、法令や契約に基づく法的義務(legal obligation)だけでなく、企業の過去の行動パターンや公表方針等により相手方に合理的な期待を生じさせた推定的義務(constructive obligation)も含まれる。しかし、現在の義務が存在しない場合――たとえば将来の修繕のように企業の意思で回避可能な支出――は引当金として認識されない。このため、日本基準では計上される修繕引当金がIFRSでは認識されないという差異が生じる。

比較項目 日本基準(注解注18) IFRS(IAS 37)
要件数 4要件 3要件
債務性 不要(費用性引当金も認容) 必要(現在の義務が前提)
推定的義務 明示的な規定なし 明示的に認容
修繕引当金 計上可 計上不可(現在の義務なし)

引当金の測定

引当金の金額は、報告期間の末日現在の義務を決済するために要する支出の最善の見積り(best estimate)によって測定する。

IAS 37においては、測定にあたり以下の点が考慮される。

  • リスクと不確実性: 見積りに内在するリスクを考慮し、期待値(確率加重平均)または最頻値により算定する。大量の類似項目がある場合(例: 製品保証)は期待値法が適切であり、単一の義務の場合は最頻値が適切とされる。
  • 現在価値: 貨幣の時間価値の影響が重大な場合、将来キャッシュ・フローを税引前の割引率で現在価値に割り引く。日本基準では現在価値への割引は必ずしも一般的ではなく、名目額で計上する実務が多い。
  • 将来の事象: 義務の決済に要する金額に影響を与える将来の事象について、それが生じるという十分かつ客観的な証拠がある場合には、見積りに反映させる。

具体例: 製品保証引当金の計算

A社は電子機器を製造・販売しており、製品に2年間の保証を付している。過去の実績データから、販売製品の5%に軽微な欠陥(修理コスト平均2万円)が、1%に重大な欠陥(修理コスト平均10万円)が発生すると見積もられている。当期の売上台数が10,000台の場合:

  • 軽微な欠陥: 10,000台 × 5% × 2万円 = 1,000万円
  • 重大な欠陥: 10,000台 × 1% × 10万円 = 1,000万円
  • 製品保証引当金計上額 = 2,000万円(期待値法による最善の見積り)

偶発債務と偶発資産

Key Concept: 偶発債務(Contingent Liability) 過去の事象から生じた潜在的な義務であって、企業が完全には支配できない1つ以上の不確実な将来の事象の発生・不発生によってのみその存在が確認されるもの。または、経済的便益の流出の可能性が高くないか、金額を信頼性をもって見積れないため認識されない現在の義務。引当金とは異なり、貸借対照表には計上せず注記で開示する。

IAS 37は、引当金・偶発負債・偶発資産の関係を以下のように整理している。

分類 資源流出の蓋然性 会計処理
引当金 可能性が高い(probable) 認識(貸借対照表に計上)
偶発負債 可能性がある(possible) 開示(注記のみ)
偶発負債 可能性が僅少(remote) 開示も不要
偶発資産 ほぼ確実(virtually certain) 認識(もはや偶発ではない)
偶発資産 可能性が高い(probable) 開示(注記のみ)
偶発資産 可能性が高くない 開示も不要

偶発債務の典型例としては、係争中の訴訟、債務保証、手形の裏書譲渡などがある。偶発資産の例としては、企業が提起した訴訟における損害賠償請求権がある。いずれも状況の変化により蓋然性が変動しうるため、毎期の再評価が求められる。引当金として認識していた項目が、状況の変化により資源流出の可能性が低下した場合には引当金を戻し入れ、逆に偶発負債として開示していた項目が可能性が高くなった場合には引当金として認識する。


連結財務諸表

連結の意義と範囲

Key Concept: 連結財務諸表(Consolidated Financial Statements) 親会社とその子会社から構成される企業グループを単一の経済的実体とみなし、グループ全体の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況を報告するために作成される財務諸表。個別財務諸表では把握できないグループ全体像を利害関係者に提供する機能を持つ。

連結財務諸表の作成にあたっては、まず連結の範囲を決定する必要がある。すなわち、どの会社を子会社として連結に含めるかという判断である。

支配の概念

日本基準・IFRSともに、連結の範囲は支配(control)の有無により判定される。

日本基準(企業会計基準第22号)では、実質支配力基準を採用している。議決権の過半数を保有する場合はもちろん、議決権の40%以上50%以下を保有し、かつ一定の要件(意思決定機関の支配、重要な契約の存在等)を満たす場合にも子会社と判定される。具体的な数値基準が設けられている点が日本基準の特徴である。

IFRS(IFRS第10号)では、支配の3要素を定義している。

  1. パワー: 被投資企業の関連性のある活動を指図する現在の能力
  2. リターンへのエクスポージャー: 被投資企業への関与から生じる変動リターンに対するエクスポージャーまたは権利
  3. パワーとリターンの結合: リターンの額に影響を与えるためにパワーを使用する能力

これら3要素をすべて充足する場合に支配が存在すると判断される。IFRS第10号は具体的な数値基準を設けず、実質的な判断を重視する原則主義的アプローチを採っている。

連結手続の基本

連結財務諸表の作成は、個別財務諸表を単純合算したうえで、連結修正仕訳を行うことにより実施される。主要な連結手続は以下のとおりである。

投資と資本の相殺消去

連結手続の最も基本的なステップは、親会社の子会社に対する投資勘定(子会社株式)と、これに対応する子会社の資本勘定(株主資本)を相殺消去することである。この手続を資本連結と呼ぶ。

消去にあたっては、子会社の資本は支配獲得日(取得日)の時価で評価する。投資額と子会社の時価純資産のうち親会社持分との差額は、のれん(または負ののれん)として認識される。

数値例: 親会社P社が子会社S社の株式80%を4,000万円で取得した場合

S社の取得日における時価純資産が4,500万円であるとする。

  • 親会社持分: 4,500万円 × 80% = 3,600万円
  • のれん: 4,000万円 − 3,600万円 = 400万円
  • 非支配持分: 4,500万円 × 20% = 900万円
(借方)                    (貸方)
諸資産(時価) 4,500万円    子会社株式    4,000万円
のれん          400万円    非支配持分      900万円

内部取引の消去

企業グループ内の会社間で行われた取引(債権債務、売上・仕入、配当等)は、グループ外部の利害関係者から見れば実質的に内部の資金移動にすぎない。連結財務諸表では、これらの内部取引を全額消去する。

主な消去対象: - 債権債務の消去: 親子会社間の貸付金・借入金、売掛金・買掛金 - 取引高の消去: 親子会社間の売上高・仕入高(売上原価) - 未実現利益の消去: グループ内で販売した棚卸資産・固定資産に含まれる未実現利益

graph TD
    subgraph 連結手続の基本フロー
        A["個別財務諸表の合算<br/>親会社 + 子会社"]
        B["投資と資本の相殺消去<br/>子会社株式 vs 子会社資本"]
        C["のれんの認識<br/>投資額 − 持分額 = のれん"]
        D["非支配持分の計上<br/>子会社資本 × 非支配持分割合"]
        E["内部取引の消去<br/>債権債務・売上仕入・未実現利益"]
        F["連結財務諸表の完成"]
    end

    A --> B
    B --> C
    B --> D
    C --> E
    D --> E
    E --> F

のれんの会計処理

Key Concept: のれん(Goodwill) 企業結合において、取得対価が被取得企業の識別可能な純資産の公正価値に対する取得企業の持分を超過する額。被取得企業の超過収益力、シナジー効果、ブランド価値など個別に識別・分離できない無形の価値を包括的に表す。

のれんの会計処理は、日本基準とIFRSの間で最も議論の多い相違点の一つである。

項目 日本基準 IFRS
会計処理 規則的償却 非償却(減損テストのみ)
償却期間 20年以内(効果の及ぶ期間)
減損テスト 兆候がある場合のみ実施 毎期実施(最低年1回)
減損の戻入れ 認められない 認められない

日本基準の論理: のれんは時間の経過とともに価値が減少し、自己創設のれんに置き換わる。規則的償却により、のれんの帳簿価額を経済的耐用年数にわたって費用配分することが合理的である。

IFRSの論理: のれんの耐用年数および価値減少パターンを合理的に予測することは困難であり、恣意的な償却期間の設定は財務情報の有用性を損なう。非償却としたうえで、厳格な減損テストを毎期実施することにより資産性を担保する方が有用な情報を提供できる。

なお、IASBは2024年以降、のれんの償却再導入について改めて検討を行っている。この議論は決着しておらず、将来的に基準が改訂される可能性がある。

負ののれん(bargain purchase gain)は、取得対価が被取得企業の識別可能純資産の公正価値に対する取得企業の持分を下回る場合に生じる。日本基準・IFRSともに、負ののれんは発生時に利益として一括認識する(IFRSでは「割安購入益」と呼ぶ)。

非支配持分と持分法

非支配持分

子会社の資本のうち、親会社に帰属しない部分を非支配持分(non-controlling interest: NCI)と呼ぶ。100%子会社でない場合、子会社の純資産および当期純利益の一部は非支配株主に帰属する。連結貸借対照表では純資産の部に、連結損益計算書では「非支配株主に帰属する当期純利益」として区分表示する。

持分法

持分法(equity method)は、関連会社および非連結子会社に対する投資に適用される会計処理方法である。

関連会社とは、企業が重要な影響力(significant influence)を行使しうる会社であり、一般に議決権の20%以上を保有する場合に推定される。ただし、20%未満であっても、役員派遣・重要な融資・技術提供等を通じて重要な影響力を行使しうる場合には関連会社に該当する。逆に、20%以上であっても影響力がないことを立証できれば関連会社に該当しない。

持分法では、連結上の子会社のように資産・負債を合算するのではなく、投資勘定の金額を被投資会社の純資産の変動に応じて修正する。被投資会社が利益を計上すれば持分相当額を「持分法による投資利益」として認識し、配当を受け取れば投資勘定を減額する。この方法を一行連結と呼ぶことがある。

区分 議決権保有割合の目安 連結上の処理
子会社 50%超(実質支配力基準) 全部連結(資産・負債を合算)
関連会社 20%以上50%以下 持分法(投資勘定の修正)
その他の投資先 20%未満 金融資産として処理

財務諸表分析

財務諸表分析(financial statement analysis)は、企業が公表する財務データを用いて経営状況を定量的に評価する手法である。分析の観点は大きく収益性安全性効率性成長性の4つに分類される。

収益性指標

収益性は、企業が投下した資本や売上に対してどれだけの利益を生み出しているかを測定する。

Key Concept: ROE(Return on Equity) 自己資本利益率。当期純利益を自己資本(株主資本)で除した指標であり、株主が拠出した資本に対する収益性を示す。株式投資における最も基本的な収益性指標の一つ。計算式: ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)

指標 計算式 意味
ROE(自己資本利益率) 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 株主資本に対する収益性
ROA(総資産利益率) 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 総資産に対する収益性
売上高営業利益率 営業利益 ÷ 売上高 × 100 本業の稼ぐ力
売上高経常利益率 経常利益 ÷ 売上高 × 100 経常的な収益力
売上高当期純利益率 当期純利益 ÷ 売上高 × 100 最終的な利益獲得能力

ROEは日本企業の場合おおむね8〜10%が一つの目安とされる。2014年に公表された「伊藤レポート」は、日本企業が最低限8%のROEを達成すべきと提言し、以後コーポレートガバナンス改革と連動して重視されるようになった。

安全性指標

安全性(健全性)は、企業の債務返済能力および財務基盤の安定性を評価する。

指標 計算式 意味 目安
流動比率 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 短期的な支払能力 200%以上が理想
当座比率 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 より厳格な短期支払能力 100%以上が理想
自己資本比率 自己資本 ÷ 総資産 × 100 財務基盤の安定性 業種により異なる
負債比率(D/Eレシオ) 負債 ÷ 自己資本 × 100 他人資本への依存度 低いほど安全
固定比率 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 固定資産の調達源泉 100%以下が理想

流動比率は、1年以内に現金化可能な流動資産が1年以内に返済を要する流動負債をどの程度カバーしているかを示す。当座比率は流動資産から棚卸資産等の換金性が相対的に低い資産を除いた当座資産を用いるため、より保守的な指標となる。

効率性指標

効率性は、企業が保有する資産をいかに有効に活用して売上を生み出しているかを測定する。

指標 計算式 意味
総資産回転率 売上高 ÷ 総資産 総資産の活用効率
棚卸資産回転率 売上原価 ÷ 棚卸資産 在庫の回転速度
売上債権回転日数 売上債権 ÷ 売上高 × 365 売掛金の回収日数
仕入債務回転日数 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365 買掛金の支払日数

総資産回転率が高い企業は、少ない資産で多くの売上を生み出している。業種特性により大きく異なり、小売業・卸売業は高く、不動産業・電力業は低い傾向がある。棚卸資産回転率が低い場合は過剰在庫のリスクを示唆し、売上債権回転日数が長い場合は資金回収の遅延を意味する。

成長性指標

成長性は、企業の事業規模や利益水準の拡大テンポを測定する。

指標 計算式 意味
売上高成長率 (当期売上高 − 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100 売上の伸び率
営業利益成長率 (当期営業利益 − 前期営業利益) ÷ 前期営業利益 × 100 本業利益の伸び率
当期純利益成長率 (当期純利益 − 前期純利益) ÷ 前期純利益 × 100 最終利益の伸び率
総資産成長率 (当期末総資産 − 前期末総資産) ÷ 前期末総資産 × 100 企業規模の拡大率

成長性指標は単年度の値だけでなく、3〜5年程度の推移を確認することが重要である。売上が成長していても利益が伴わない場合や、総資産の成長が売上の成長を上回る場合には、資産効率の低下が懸念される。

デュポン分析

Key Concept: デュポン分析(DuPont Analysis) ROEを「売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」の3つの構成要素に分解する分析手法。米国のデュポン社が社内管理のために開発したことからこの名称がある。収益性・効率性・財務政策の各側面からROEの源泉を多面的に把握できる。

デュポン分析は、ROEを以下の3要素に乗法的に分解する。

$$ \text{ROE} = \frac{\text{当期純利益}}{\text{自己資本}} = \frac{\text{当期純利益}}{\text{売上高}} \times \frac{\text{売上高}}{\text{総資産}} \times \frac{\text{総資産}}{\text{自己資本}} $$

すなわち:

ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

構成要素 意味 改善の方向性
売上高当期純利益率 収益性: 売上からどれだけ利益を残せるか コスト削減、高付加価値化、価格戦略
総資産回転率 効率性: 資産をどれだけ効率的に活用しているか 遊休資産の処分、在庫圧縮、運転資本管理
財務レバレッジ 財務政策: 他人資本をどの程度活用しているか 負債の活用(ただしリスクも増大)
graph TD
    ROE["ROE<br/>自己資本利益率"]
    M1["売上高当期純利益率<br/>当期純利益 / 売上高"]
    M2["総資産回転率<br/>売上高 / 総資産"]
    M3["財務レバレッジ<br/>総資産 / 自己資本"]

    ROE --- M1
    ROE --- M2
    ROE --- M3

    M1 --- NI["当期純利益"]
    M1 --- Rev1["売上高"]

    M2 --- Rev2["売上高"]
    M2 --- TA1["総資産"]

    M3 --- TA2["総資産"]
    M3 --- EQ["自己資本"]

デュポン分析の適用例

以下の2社を比較してみよう。

指標 X社(製造業) Y社(小売業)
売上高 500億円 2,000億円
当期純利益 50億円 40億円
総資産 1,000億円 800億円
自己資本 500億円 200億円

X社のROE分解: - 売上高当期純利益率: 50 ÷ 500 = 10.0% - 総資産回転率: 500 ÷ 1,000 = 0.5回 - 財務レバレッジ: 1,000 ÷ 500 = 2.0倍 - ROE: 10.0% × 0.5 × 2.0 = 10.0%

Y社のROE分解: - 売上高当期純利益率: 40 ÷ 2,000 = 2.0% - 総資産回転率: 2,000 ÷ 800 = 2.5回 - 財務レバレッジ: 800 ÷ 200 = 4.0倍 - ROE: 2.0% × 2.5 × 4.0 = 20.0%

Y社はX社よりROEが高いが、その源泉は低い利益率を高い資産回転率と高い財務レバレッジで補っている点にある。X社は利益率は高いが資産の活用効率が低く、財務レバレッジも保守的である。Y社は高い財務レバレッジに伴う財務リスクが大きく、金利上昇局面では収益性が急速に悪化する可能性がある。このように、同じROEであっても、あるいは異なるROEであっても、その構造は企業ごとに大きく異なり、デュポン分析はこの構造的差異を可視化する有用なツールである。


まとめ

  • 引当金は将来の費用・損失に備える負債項目であり、日本基準(4要件・債務性不要)とIFRS(3要件・現在の義務が前提)では認識範囲が異なる。特に修繕引当金のような債務性のない引当金がIFRSでは認識されない点が重要な差異である
  • 偶発債務は引当金の認識要件を満たさない潜在的義務であり、資源流出の蓋然性に応じて注記で開示する。偶発資産は保守主義の観点から原則として認識せず、蓋然性が高い場合にのみ開示する
  • 連結財務諸表は企業グループを単一の経済的実体として報告する仕組みであり、支配の有無により連結範囲を決定する。投資と資本の相殺消去、内部取引の消去が基本的な連結手続である
  • のれんは取得対価と被取得企業の識別可能純資産の公正価値持分との差額として認識される。日本基準は規則的償却、IFRSは非償却(年次減損テスト)と処理が異なる
  • 財務諸表分析は収益性・安全性・効率性・成長性の4観点から企業を定量的に評価する。デュポン分析はROEを3要素に分解し、企業の収益構造を多角的に把握するための基本的フレームワークである
  • 次のSection 4以降では、企業内部の経営管理を目的とする管理会計の領域に移行し、原価計算とCVP分析を取り上げる

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
引当金 Provision 将来の特定の費用または損失に備えて、発生原因が当期以前の事象に起因する場合に見積り計上する負債項目
偶発債務 Contingent Liability 過去の事象から生じた潜在的な義務で、不確実な将来事象によりその存在が確認されるもの。または認識要件を満たさない現在の義務
推定的義務 Constructive Obligation 法的義務ではないが、企業の過去の行動・方針等により相手方に合理的な期待を生じさせた義務
偶発資産 Contingent Asset 過去の事象から生じた潜在的な資産で、企業が完全には支配できない将来事象の発生によりその存在が確認されるもの
連結財務諸表 Consolidated Financial Statements 親会社と子会社を単一の経済的実体とみなし、グループ全体の財務状況を報告する財務諸表
資本連結 Capital Consolidation 親会社の投資勘定と子会社の資本勘定を相殺消去する連結手続の基本プロセス
のれん Goodwill 企業結合における取得対価が被取得企業の識別可能純資産の公正価値持分を超過する額
負ののれん Negative Goodwill / Bargain Purchase Gain 取得対価が被取得企業の識別可能純資産の公正価値持分を下回る場合に生じる差額。発生時に利益として認識
非支配持分 Non-controlling Interest (NCI) 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分。連結貸借対照表では純資産の部に表示
持分法 Equity Method 関連会社等の純資産の変動に応じて投資勘定を修正する方法。一行連結とも呼ばれる
関連会社 Associate 企業が重要な影響力を行使しうる会社。一般に議決権の20%以上を保有する場合に推定
ROE Return on Equity 自己資本利益率。当期純利益を自己資本で除した指標
ROA Return on Assets 総資産利益率。当期純利益を総資産で除した指標
デュポン分析 DuPont Analysis ROEを売上高当期純利益率・総資産回転率・財務レバレッジの3要素に分解する分析手法
財務レバレッジ Financial Leverage 総資産を自己資本で除した倍率。他人資本の活用度を示す
流動比率 Current Ratio 流動資産を流動負債で除した指標。短期的な支払能力を測定
自己資本比率 Equity Ratio 自己資本を総資産で除した指標。財務基盤の安定性を測定
負債比率 Debt to Equity Ratio 負債を自己資本で除した指標。他人資本への依存度を測定
総資産回転率 Total Asset Turnover 売上高を総資産で除した指標。資産の活用効率を測定
棚卸資産回転率 Inventory Turnover 売上原価を棚卸資産で除した指標。在庫の回転速度を測定
売上債権回転日数 Days Sales Outstanding (DSO) 売上債権を1日あたり売上高で除した日数。売掛金の平均回収期間を示す

確認問題

Q1: 日本基準(企業会計原則注解注18)とIAS 37における引当金の認識要件の違いを説明し、修繕引当金の取扱いがなぜ異なるのかを述べよ。

A1: 日本基準の4要件は(1)将来の特定の費用・損失、(2)発生原因が当期以前、(3)発生可能性が高い、(4)金額の合理的見積り可能であり、債務性を要件としない。一方、IAS 37の3要件は(1)過去の事象から生じた現在の義務(法的または推定的)の存在、(2)経済的便益の流出可能性が高い、(3)信頼性ある見積り可能であり、現在の義務の存在を前提とする。修繕引当金は、修繕を行うかどうかが企業の意思に委ねられており、法的義務も推定的義務も存在しないため、IAS 37の第1要件を満たさず認識されない。日本基準では債務性を要件としないため、4要件を充足すれば計上される。

Q2: P社がS社の発行済株式の80%を6,000万円で取得した。取得日におけるS社の識別可能純資産の公正価値が7,000万円であった場合、のれんの金額と非支配持分の金額を計算し、資本連結の仕訳を示せ。

A2: 親会社持分 = 7,000万円 × 80% = 5,600万円。のれん = 6,000万円 − 5,600万円 = 400万円。非支配持分 = 7,000万円 × 20% = 1,400万円。仕訳は以下のとおり。(借方) 諸資産 7,000万円、のれん 400万円 / (貸方) 子会社株式 6,000万円、非支配持分 1,400万円。

Q3: のれんの会計処理について、日本基準とIFRSの相違点を説明し、それぞれの論拠を述べよ。

A3: 日本基準ではのれんを20年以内の期間で規則的に償却し、減損は兆候がある場合のみテストする。IFRSではのれんを償却せず、最低年1回の減損テストにより資産性を検証する。日本基準の論拠は、のれんは時間の経過とともに価値が減少し自己創設のれんに入れ替わるため、規則的償却が合理的であるというものである。IFRSの論拠は、のれんの耐用年数と減少パターンは予測困難であり、恣意的な償却期間の設定は情報の有用性を損なうため、厳格な年次減損テストによる方がより有用な情報を提供できるというものである。

Q4: ある企業の財務データが以下のとおりであるとき、デュポン分析を用いてROEを分解し、この企業の収益構造の特徴を分析せよ。売上高: 1,200億円、当期純利益: 36億円、総資産: 600億円、自己資本: 150億円。

A4: 売上高当期純利益率 = 36 ÷ 1,200 = 3.0%。総資産回転率 = 1,200 ÷ 600 = 2.0回。財務レバレッジ = 600 ÷ 150 = 4.0倍。ROE = 3.0% × 2.0 × 4.0 = 24.0%。この企業は売上高当期純利益率が3%と比較的低く、利益率の面では高い収益性とは言えない。一方、総資産回転率2.0回は資産を効率的に活用していることを示し、財務レバレッジ4.0倍は負債を積極的に活用していることを意味する。ROEは24%と高水準であるが、その大部分は高い財務レバレッジに依存しており、金利上昇や業績悪化時には財務リスクが顕在化する可能性がある。利益率の改善が中長期的な課題といえる。

Q5: 偶発債務と引当金の違いを、認識・開示の観点から説明せよ。また、偶発債務が引当金に転化するのはどのような場合か。

A5: 引当金は、現在の義務が存在し、経済的便益の流出可能性が高く、金額を信頼性をもって見積れる場合に貸借対照表上に負債として認識(計上)される。偶発債務は、義務の存在自体が不確実であるか、流出の可能性が高くないか、金額の信頼性ある見積りができないため、認識はせず注記による開示にとどまる(流出可能性が僅少な場合は開示も不要)。偶発債務が引当金に転化するのは、不確実であった事象について新たな情報が得られ、経済的便益の流出可能性が「高い」と判断されるに至った場合である。たとえば、係争中であった訴訟について敗訴の可能性が高まり、賠償額の合理的な見積りが可能となった場合には、偶発債務としての開示から引当金としての認識に切り替える。