Module 2-4 - Section 4: 原価計算の基礎とCVP分析¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-4: 財務会計・管理会計 |
| 前提セクション | なし(管理会計領域の基盤セクション) |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
Module 2-4のSection 1〜3では、企業外部への報告を目的とする財務会計を扱った。Section 4からは、経営管理者の意思決定を支援するための管理会計(Management Accounting)に焦点を移す。
管理会計の中核を成すのが原価計算と、その応用であるCVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)である。財務会計における原価計算が制度的な製品原価の算定を目的とするのに対し、管理会計における原価計算は経営意思決定に資する情報を提供することを目的とする。本セクションでは、まず原価の分類体系を整理し、全部原価計算と直接原価計算という2つの原価計算方式を比較する。次に、直接原価計算の考え方を基盤とするCVP分析の理論と手法を学ぶ。
原価の分類¶
原価(Cost)は、製品やサービスの生産・提供のために消費された経済的資源の貨幣的測定値である。原価は複数の分類軸によって整理され、それぞれの分類が異なる管理目的に対応する。
形態別分類(費目別分類)¶
原価を消費された経済的資源の種類に基づいて分類する方法であり、「原価計算基準」(1962年、大蔵省企業会計審議会)において基本的な分類として定められている。
| 分類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 材料費 | 物品の消費によって生じる原価 | 素材費、買入部品費、補助材料費、工場消耗品費、燃料費 |
| 労務費 | 労働力の消費によって生じる原価 | 賃金・給料、賞与手当、退職給付費用、法定福利費 |
| 経費 | 材料費・労務費以外の原価 | 減価償却費、賃借料、保険料、修繕費、水道光熱費、外注加工費 |
製品との関連による分類¶
原価を特定の製品に直接的に跡付け(トレース)可能かどうかで分類する方法である。
| 分類 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| 直接費 | 特定の製品に直接跡付けできる原価 | 直接材料費、直接労務費、直接経費(外注加工費等) |
| 間接費 | 複数の製品に共通して発生し、直接跡付けできない原価 | 間接材料費(消耗品等)、間接労務費(監督者給与等)、間接経費(減価償却費等) |
間接費は何らかの配賦基準(Allocation Base)を用いて各製品に配分する必要がある。配賦基準の選択は原価計算の精度に大きく影響する。
操業度との関連による分類(原価態様)¶
原価を操業度(生産量・販売量等の活動水準)の変動との関係で分類する方法であり、管理会計において特に重要である。
Key Concept: 変動費(Variable Cost) 操業度の増減に比例して総額が変動する原価。生産量1単位あたりの変動費は一定である。例: 直接材料費、直接労務費(出来高払いの場合)、販売手数料。
Key Concept: 固定費(Fixed Cost) 操業度の増減にかかわらず、一定期間において総額が変動しない原価。生産量1単位あたりの固定費は操業度の増加に伴い逓減する。例: 工場賃借料、管理者の給与、減価償却費(定額法の場合)。
実際には、変動費と固定費の中間的な性質をもつ原価も存在する。一定額の固定部分と操業度に比例する変動部分の両方をもつ原価を準変動費(Semi-variable Cost)といい、一定の操業度範囲では固定的であるが操業度がある水準を超えると段階的に増加する原価を準固定費(Semi-fixed Cost / Step Cost)という。CVP分析においては、これらを変動費部分と固定費部分に分解する手続き(固変分解)が必要となる。
分類の交差¶
上記3つの分類軸は独立しており、1つの原価要素は各軸上の位置を同時にもつ。例えば「直接材料費」は、形態別分類では材料費、製品関連分類では直接費、操業度関連分類では変動費に該当する。一方、「工場の減価償却費」は、形態別では経費、製品関連では間接費、操業度関連では固定費に該当する。
graph TD
A["製造原価"] --> B["材料費"]
A --> C["労務費"]
A --> D["経費"]
B --> B1["直接材料費<br/>(変動費)"]
B --> B2["間接材料費<br/>(変動費/固定費)"]
C --> C1["直接労務費<br/>(変動費)"]
C --> C2["間接労務費<br/>(固定費)"]
D --> D1["直接経費<br/>(変動費)"]
D --> D2["間接経費<br/>(固定費)"]
B1 --> E["直接費"]
C1 --> E
D1 --> E
B2 --> F["間接費<br/>(製造間接費)"]
C2 --> F
D2 --> F
全部原価計算と直接原価計算¶
原価計算方式は、製品原価に含める原価の範囲によって大きく2つに分類される。
全部原価計算¶
Key Concept: 全部原価計算(Absorption Costing) すべての製造原価(変動製造原価+固定製造原価)を製品原価に算入する原価計算方式。製品1単位の原価には、直接材料費、直接労務費、変動製造間接費に加え、固定製造間接費の配賦額が含まれる。
全部原価計算は、日本の「原価計算基準」およびGAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)、IFRS(国際財務報告基準)のいずれにおいても、外部報告目的の財務諸表作成において要求される方式である。
全部原価計算における損益計算の構造は以下の通りである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売上高 | |
| (-)売上原価 | 期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高 |
| 売上総利益(粗利益) | |
| (-)販売費及び一般管理費 | |
| 営業利益 |
全部原価計算の特徴として、固定製造間接費が製品原価に含まれるため、製品が売れずに在庫として残る場合、その在庫に含まれる固定製造間接費は当期の費用とならず、貸借対照表上の棚卸資産として繰り延べられる。
直接原価計算¶
Key Concept: 直接原価計算(Variable Costing / Direct Costing) 変動製造原価のみを製品原価に算入し、固定製造原価は全額を発生した期間の費用(期間原価)として処理する原価計算方式。内部管理目的で使用され、CVP分析の基盤となる。
直接原価計算における損益計算の構造は以下の通りである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売上高 | |
| (-)変動売上原価 | 期首製品棚卸高+当期変動製品製造原価-期末製品棚卸高 |
| 変動製造マージン | |
| (-)変動販売費 | |
| 貢献利益 | |
| (-)固定費(固定製造原価+固定販売費及び一般管理費) | |
| 営業利益 |
「直接原価計算」という名称は歴史的経緯によるもので、実際には「変動原価計算」(Variable Costing)と呼ぶ方がその本質を正確に表す。直接費のみを製品原価とするのではなく、変動費のみを製品原価とする方式である。
両方式の利益差異¶
全部原価計算と直接原価計算では、生産量と販売量が異なる場合(すなわち在庫が増減する場合)に営業利益が異なる。この差異は、固定製造間接費の処理の違いから生じる。
利益差異の公式:
すなわち:
| 在庫の状況 | 利益の大小関係 |
|---|---|
| 生産量 > 販売量(在庫増加) | 全部原価計算の利益 > 直接原価計算の利益 |
| 生産量 = 販売量(在庫不変) | 両者の利益は一致 |
| 生産量 < 販売量(在庫減少) | 全部原価計算の利益 < 直接原価計算の利益 |
差異発生のメカニズム: 全部原価計算では、固定製造間接費が製品原価に含まれるため、在庫が増加すると固定製造間接費の一部が棚卸資産として資産化され、当期の費用から除外される。その結果、当期の売上原価が小さくなり、利益が大きく計算される。逆に在庫が減少すると、前期に資産化された固定製造間接費が当期の売上原価に含まれ、利益が小さくなる。直接原価計算では固定製造間接費は全額期間費用として処理されるため、在庫変動の影響を受けない。
数値例による比較¶
以下の条件で両方式の営業利益を比較する。
前提条件: - 販売単価: 1,000円/個 - 変動製造原価: 400円/個 - 固定製造原価: 総額600,000円/期 - 変動販売費: 50円/個 - 固定販売費及び一般管理費: 200,000円/期 - 生産量: 2,000個、販売量: 1,500個(期首在庫なし) - 固定製造間接費配賦率: 600,000円 ÷ 2,000個 = 300円/個
全部原価計算:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高(1,000円 × 1,500個) | 1,500,000円 |
| 売上原価((400+300)円 × 1,500個) | 1,050,000円 |
| 売上総利益 | 450,000円 |
| 販売費及び一般管理費(50円×1,500個 + 200,000円) | 275,000円 |
| 営業利益 | 175,000円 |
直接原価計算:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高(1,000円 × 1,500個) | 1,500,000円 |
| 変動売上原価(400円 × 1,500個) | 600,000円 |
| 変動製造マージン | 900,000円 |
| 変動販売費(50円 × 1,500個) | 75,000円 |
| 貢献利益 | 825,000円 |
| 固定費(600,000円 + 200,000円) | 800,000円 |
| 営業利益 | 25,000円 |
差異の検証: 175,000円 − 25,000円 = 150,000円 = 300円/個 ×(500個 − 0個)= 150,000円。在庫が500個増加し、1個あたり300円の固定製造間接費が在庫に含まれるため、全部原価計算の利益が150,000円大きくなっている。
各方式の長所と短所¶
| 観点 | 全部原価計算 | 直接原価計算 |
|---|---|---|
| 外部報告 | GAAP/IFRS準拠(制度会計で必須) | 外部報告には不適(制度上認められない) |
| 利益管理 | 在庫操作により利益操作が可能(問題点) | 販売量に連動した利益で操作不可 |
| 原価情報 | 全製造原価を含む「フルコスト」情報 | 意思決定に有用な変動費情報 |
| CVP分析 | 直接的には適用困難 | CVP分析の直接的基盤 |
| 価格設定 | 長期的な価格設定に有用 | 短期的な追加受注判断に有用 |
CVP分析¶
Key Concept: CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis) 原価(Cost)、営業量(Volume)、利益(Profit)の相互関係を分析する管理会計手法。損益分岐点の算定、目標利益達成に必要な売上高の算出、事業のリスク評価などに用いられる。損益分岐点分析(Break-Even Analysis)とも呼ばれる。
CVP分析は直接原価計算の考え方を前提とし、原価を変動費と固定費に分解したうえで、販売量の変動が利益に与える影響を体系的に分析する。
基本モデル¶
CVP分析の基本的な利益方程式は以下の通りである。
ここで「販売単価 − 単位変動費」を単位貢献利益(Unit Contribution Margin)と呼ぶ。
Key Concept: 貢献利益(Contribution Margin) 売上高から変動費を差し引いた利益。固定費の回収と利益の獲得に「貢献」する金額を意味する。総額で表す場合と、1単位あたり(単位貢献利益)で表す場合、売上高に対する比率(貢献利益率)で表す場合がある。
貢献利益率(Contribution Margin Ratio)は以下の式で求められる。
この比率は、売上高が1円増加するごとに貢献利益がどれだけ増加するかを示す。
損益分岐点¶
Key Concept: 損益分岐点(Break-Even Point: BEP) 売上高と総費用が等しくなり、営業利益がちょうどゼロとなる売上高または販売量。この点を超えると利益が発生し、下回ると損失が発生する。
営業利益 = 0 とおくと:
数値例: 販売単価1,000円、単位変動費600円、固定費2,000,000円の場合。 - 単位貢献利益 = 1,000 − 600 = 400円 - 貢献利益率 = 400 ÷ 1,000 = 0.4(40%) - 損益分岐点販売量 = 2,000,000 ÷ 400 = 5,000個 - 損益分岐点売上高 = 2,000,000 ÷ 0.4 = 5,000,000円
損益分岐点図表¶
CVP関係はグラフで視覚化される。横軸に販売量(または売上高)、縦軸に金額をとり、売上高線と総費用線の交点が損益分岐点となる。
graph LR
subgraph CVP ["CVP分析の構造"]
direction TB
S["売上高 = 販売単価 x 販売量"] --> CM["貢献利益 = 売上高 - 変動費"]
VC["変動費 = 単位変動費 x 販売量"] --> CM
CM --> P["営業利益 = 貢献利益 - 固定費"]
FC["固定費(一定額)"] --> P
P --> BEP["損益分岐点: 営業利益 = 0"]
P --> TP["目標利益: 営業利益 = 目標額"]
end
安全余裕率¶
Key Concept: 安全余裕率(Margin of Safety) 実際の売上高(または予想売上高)が損益分岐点売上高をどの程度上回っているかを示す指標。売上高がどれだけ減少しても損失に転じないかという安全度を表す。
一般的な目安として、安全余裕率が20%以上であれば比較的安全、10%未満であれば危険水準と判断される。
数値例(続き): 実際の販売量が7,000個(売上高7,000,000円)の場合。 - 安全余裕率 = (7,000,000 − 5,000,000)÷ 7,000,000 × 100 ≒ 28.6%
なお、安全余裕率と損益分岐点比率(損益分岐点売上高 ÷ 実際売上高)の間には以下の関係が成り立つ。
目標利益分析¶
CVP分析を用いて、目標とする利益を達成するために必要な売上高・販売量を算出できる。
税引後目標利益で考える場合は、税引前の目標営業利益に換算する。
数値例: 上記の条件で、税引後目標利益600,000円、法人税率40%の場合。 - 税引前目標営業利益 = 600,000 ÷(1 − 0.4)= 1,000,000円 - 目標利益達成販売量 = (2,000,000 + 1,000,000)÷ 400 = 7,500個 - 目標利益達成売上高 = 7,500 × 1,000 = 7,500,000円
感度分析¶
感度分析(Sensitivity Analysis)とは、CVPモデルの各変数(販売単価、単位変動費、固定費、販売量)を変化させたときに、利益がどの程度変動するかを分析する手法である。経営者が「もし○○が変わったら(What-if)」という問いに答えるために用いられる。
分析例: 販売単価1,000円、単位変動費600円、固定費2,000,000円、販売量7,000個を基準とし、各変数を10%変化させた場合の営業利益への影響を比較する。
基準営業利益 = 400 × 7,000 − 2,000,000 = 800,000円
| 変化させる変数 | 変化内容(+10%) | 営業利益 | 変化額 | 変化率 |
|---|---|---|---|---|
| 販売単価 | 1,000→1,100円 | 1,500,000円 | +700,000円 | +87.5% |
| 単位変動費 | 600→660円 | 380,000円 | −420,000円 | −52.5% |
| 固定費 | 200万→220万円 | 600,000円 | −200,000円 | −25.0% |
| 販売量 | 7,000→7,700個 | 1,080,000円 | +280,000円 | +35.0% |
この結果から、営業利益は販売単価の変動に最も敏感であり、次いで単位変動費、販売量、固定費の順に影響が大きいことが分かる。
多品種製品のCVP分析(セールスミックス)¶
企業が複数の製品を販売している場合、CVP分析にはセールスミックス(Sales Mix: 各製品の売上構成比率)の仮定が必要となる。
加重平均貢献利益率法: 各製品の貢献利益率をセールスミックスで加重平均し、その加重平均貢献利益率を用いて損益分岐点売上高を算出する。
数値例:
| 製品 | 販売単価 | 単位変動費 | 単位貢献利益 | 貢献利益率 | 売上構成比 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 800円 | 480円 | 320円 | 40% | 60% |
| B | 1,200円 | 840円 | 360円 | 30% | 40% |
- 加重平均貢献利益率 = 40% × 0.6 + 30% × 0.4 = 24% + 12% = 36%
- 固定費が1,800,000円の場合: 損益分岐点売上高 = 1,800,000 ÷ 0.36 = 5,000,000円
セールスミックスが変化すると損益分岐点も変化する。貢献利益率の高い製品の構成比が高まると損益分岐点は低下し、収益性が改善する。
CVP分析の前提条件と限界¶
CVP分析は以下の前提条件のもとで成立する。これらの前提が現実と乖離する場合、分析結果の信頼性は低下する。
前提条件:
- 原価の線形性: 変動費は操業度に完全に比例し、固定費は操業度にかかわらず一定である(原価関数が一次関数)。
- 収益の線形性: 販売単価は販売量にかかわらず一定である(数量割引や価格競争による変動がない)。
- 単一製品または一定のセールスミックス: 複数製品の場合、セールスミックスが分析期間を通じて一定である。
- 生産量と販売量の一致: 在庫変動がないか、その影響が無視できる。
- 関連範囲(Relevant Range)の存在: 上記の線形関係が成立する操業度の範囲が存在する。
限界:
- 現実の原価は完全に変動費と固定費に二分できるわけではなく、準変動費や準固定費が存在する。
- 大幅な操業度の変動に対しては、固定費が段階的に増加(ステップコスト)したり、変動費率が変化したりする。
- 長期的には「固定費」も変動するため、CVP分析は主に短期的な意思決定ツールとして位置づけられる。
- 不確実性を考慮していない確定的モデルであるため、リスクを含む意思決定には確率分布の導入等の拡張が必要となる。
これらの限界を認識したうえで、CVP分析は短期利益計画の立案、特に関連範囲内での意思決定において強力なツールとなる。
まとめ¶
- 原価は形態別(材料費・労務費・経費)、製品関連別(直接費・間接費)、操業度関連別(変動費・固定費)の3軸で分類される。管理会計では変動費・固定費の区分が特に重要である。
- 全部原価計算はすべての製造原価を製品原価に含め、制度会計(外部報告)で使用される。直接原価計算は変動製造原価のみを製品原価とし、管理会計(内部管理)で使用される。
- 両方式の利益差異は、在庫変動に伴う固定製造間接費の期間帰属の違いから生じる。
- CVP分析は、原価・営業量・利益の線形関係を前提として、損益分岐点や目標利益達成に必要な販売量を算出する手法である。
- 貢献利益と安全余裕率は、事業のリスクと収益構造を評価する基本指標である。
- CVP分析には線形性・セールスミックス一定等の前提条件があり、主に短期的な意思決定ツールとして活用される。
- 次セクション(Section 5)では、原価計算を発展させた標準原価計算、活動基準原価計算(ABC)、および予算管理の手法を学ぶ。
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 変動費 | Variable Cost | 操業度の増減に比例して総額が変動する原価 |
| 固定費 | Fixed Cost | 操業度の増減にかかわらず一定期間において総額が変動しない原価 |
| 全部原価計算 | Absorption Costing | すべての製造原価を製品原価に算入する原価計算方式 |
| 直接原価計算 | Variable Costing / Direct Costing | 変動製造原価のみを製品原価に算入する原価計算方式 |
| 貢献利益 | Contribution Margin | 売上高から変動費を差し引いた利益。固定費の回収と利益獲得に貢献する金額 |
| 貢献利益率 | Contribution Margin Ratio | 貢献利益を売上高で除した比率 |
| 損益分岐点 | Break-Even Point (BEP) | 売上高と総費用が等しく営業利益がゼロとなる点 |
| 安全余裕率 | Margin of Safety | 実際売上高が損益分岐点売上高をどの程度上回っているかを示す比率 |
| CVP分析 | Cost-Volume-Profit Analysis | 原価・営業量・利益の相互関係を分析する管理会計手法 |
| 配賦 | Allocation | 間接費を一定の基準に基づいて各製品に配分すること |
| 関連範囲 | Relevant Range | 原価の線形関係が成立する操業度の範囲 |
| セールスミックス | Sales Mix | 複数製品の売上構成比率 |
| 感度分析 | Sensitivity Analysis | 各変数の変化が利益に与える影響を分析する手法 |
| 固変分解 | Cost Separation | 準変動費等を変動費部分と固定費部分に分解する手続き |
確認問題¶
Q1: 全部原価計算と直接原価計算の根本的な違いは何か。それぞれの方式が適する用途とともに説明せよ。
A1: 両者の根本的な違いは、固定製造間接費の取り扱いにある。全部原価計算はすべての製造原価(変動費+固定費)を製品原価に含め、固定製造間接費を配賦基準に基づいて各製品に配分する。一方、直接原価計算は変動製造原価のみを製品原価とし、固定製造原価は発生した期の期間費用として全額処理する。全部原価計算は制度会計(外部報告用の財務諸表作成)に適し、GAAP/IFRSで要求される。直接原価計算は管理会計(内部管理)に適し、CVP分析や短期的な利益計画の基盤となる。
Q2: ある製品の販売単価が2,000円、単位変動費が1,200円、固定費総額が4,800,000円である。損益分岐点販売量、損益分岐点売上高、および税引後目標利益1,200,000円(法人税率30%)を達成するために必要な販売量を求めよ。
A2: 単位貢献利益 = 2,000 − 1,200 = 800円、貢献利益率 = 800 ÷ 2,000 = 40%。損益分岐点販売量 = 4,800,000 ÷ 800 = 6,000個。損益分岐点売上高 = 4,800,000 ÷ 0.4 = 12,000,000円。税引前目標営業利益 = 1,200,000 ÷(1 − 0.3)≒ 1,714,286円。目標利益達成販売量 =(4,800,000 + 1,714,286)÷ 800 ≒ 8,143個(切り上げ)。
Q3: 生産量が販売量を上回る期において、全部原価計算の方が直接原価計算より営業利益が大きくなる理由を、固定製造間接費の処理の観点から説明せよ。
A3: 全部原価計算では固定製造間接費が製品原価に含まれるため、生産量が販売量を上回って在庫が増加する場合、期末在庫に含まれる固定製造間接費の分だけ当期の売上原価が小さくなる。つまり、固定製造間接費の一部が棚卸資産として貸借対照表上に繰り延べられ、当期の費用として認識されない。一方、直接原価計算では固定製造間接費は全額当期の期間費用として処理されるため、在庫変動にかかわらず全額が費用計上される。この差額(固定製造間接費配賦率 × 在庫増加量)分だけ、全部原価計算の営業利益が大きくなる。
Q4: 安全余裕率が15%の企業と35%の企業について、それぞれの経営リスクの観点から比較し、安全余裕率が低い企業が取りうる改善策を論ぜよ。
A4: 安全余裕率15%の企業は、売上高が15%減少するだけで損失に転じるため、経営リスクが高い。安全余裕率35%の企業は売上高の変動に対する耐性が高く、比較的安定した経営基盤をもつ。安全余裕率の改善策としては、(1) 販売単価の引上げ(貢献利益率の向上)、(2) 変動費の削減(材料費の見直し、生産効率の改善等による貢献利益率の向上)、(3) 固定費の削減(損益分岐点の引下げ)、(4) 売上高の増大(販路拡大、マーケティング強化)が挙げられる。(1)〜(3)はいずれも損益分岐点売上高を低下させることで安全余裕率を改善する。
Q5: 製品Xと製品Yの2製品を販売する企業について、以下の条件でセールスミックスが変化した場合の損益分岐点売上高を比較せよ。製品X: 貢献利益率50%、製品Y: 貢献利益率25%、固定費3,000,000円。ケースA: X:Y = 70:30、ケースB: X:Y = 30:70(売上高構成比)。
A5: ケースA: 加重平均貢献利益率 = 50% × 0.7 + 25% × 0.3 = 35% + 7.5% = 42.5%。損益分岐点売上高 = 3,000,000 ÷ 0.425 ≒ 7,058,824円。ケースB: 加重平均貢献利益率 = 50% × 0.3 + 25% × 0.7 = 15% + 17.5% = 32.5%。損益分岐点売上高 = 3,000,000 ÷ 0.325 ≒ 9,230,769円。ケースBの方が損益分岐点売上高が約217万円高い。これは貢献利益率の低い製品Yの構成比が高くなったためであり、セールスミックスの変化が損益分岐点に大きな影響を与えることを示している。