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Module 2-4 - Section 6: 意思決定会計と業績評価

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-4: 財務会計・管理会計
前提セクション Section 4
想定学習時間 3時間

導入

管理会計の究極的な目的は、経営意思決定に有用な情報を提供することにある。Section 4で学んだ原価計算やCVP分析は、原価の構造を把握し損益分岐点を算出するための基礎的手法であった。本セクションでは、その知識を土台として、具体的な経営判断場面においてどの原価情報が意思決定に関連し(relevant)、どの情報は無関係(irrelevant)であるかを識別する枠組みを学ぶ。

さらに、組織が大規模化し事業部制を採用する場合には、各事業部の業績をいかに公正かつ適切に評価するかという問題が生じる。責任会計の考え方と、ROI・RI・EVAといった業績評価指標、そして事業部間取引の価格設定(内部振替価格)について体系的に整理する。

本セクションはModule 2-4の最終セクションであり、財務会計と管理会計の全体像を統合する視点も含めてまとめる。


意思決定のための会計情報

経営者は日常的に「特別注文を受けるか」「部品を自製するか外注するか」「製品ラインを廃止するか」といった判断を迫られる。これらの短期的意思決定(short-term decision making)において重要なのは、代替案間で異なる原価と収益のみを比較対象とすることである。

関連原価と無関連原価

Key Concept: 関連原価(Relevant Cost) 意思決定において代替案間で金額が異なり、将来発生する原価のこと。意思決定の判断に影響を与える原価のみが「関連原価」であり、代替案間で変化しない原価や既に発生済みの原価は意思決定上無関係(irrelevant)である。

関連原価を識別するための2つの条件は以下のとおりである。

  1. 将来原価であること: 過去に既に発生した原価は、いかなる意思決定によっても変更できないため無関連である。
  2. 代替案間で差異があること: すべての代替案で同額発生する原価は、意思決定の結論に影響を与えない。

この枠組みに基づき、いくつかの重要な原価概念を整理する。

Key Concept: 埋没原価(Sunk Cost) 過去の意思決定の結果として既に発生し、回収不能となった原価。将来のいかなる意思決定によっても変更できないため、合理的な意思決定においては無視すべき原価である。

埋没原価の典型例は、既に購入した設備の取得原価である。設備を更新するか継続使用するかの判断において、旧設備の簿価は埋没原価であり、意思決定に含めてはならない。しかし、心理的には「せっかく投資したのだから」という認知バイアス(サンクコストの誤謬)が働きやすく、実務上は注意を要する。

Key Concept: 差額原価(Differential Cost) 2つの代替案を比較した際に生じる原価の差額。増分原価(incremental cost)とも呼ばれる。差額原価は変動費に限らず、代替案間で異なる固定費も含まれる。

Key Concept: 機会費用(Opportunity Cost) ある代替案を選択することによって放棄される、次善の代替案から得られたであろう最大の利益。帳簿上は記録されないが、意思決定においては関連原価として考慮しなければならない。

機会費用は会計帳簿に記録されない点が特徴的である。たとえば、自社工場で部品Aを自製する場合、その生産能力を他の用途(外部からの受注生産など)に充てていれば得られたであろう貢献利益が機会費用となる。

回避可能原価と回避不能原価

意思決定分析においてもう一つ重要な区分は、回避可能原価(avoidable cost)と回避不能原価(unavoidable cost)である。ある代替案を選択することで発生を回避できる原価は関連原価であり、どの代替案を選んでも発生する原価は無関連原価である。たとえば、製品ラインを廃止する判断において、当該ラインの専任従業員の人件費は回避可能だが、全社的に配賦されている本社管理費は通常回避不能である。


典型的な意思決定問題

関連原価分析が適用される代表的な意思決定問題を、数値例を交えて検討する。

特別注文の受諾/拒否

通常の販売チャネル外から、正規価格より低い価格で大量注文を受ける場合の判断である。

設例: A社は製品Xを正規価格@2,000円で販売しており、年間生産能力10,000個に対し現在8,000個を生産・販売している。製品Xの単位原価は以下のとおりである。

原価項目 単位あたり
直接材料費 500円
直接労務費 300円
変動製造間接費 200円
固定製造間接費 400円
製造原価合計 1,400円
変動販売費 100円
総原価 1,500円

B社から製品Xを@1,200円で1,500個購入したいとの特別注文が入った。この注文では変動販売費は発生しない。受諾すべきか。

分析: 遊休能力が2,000個(= 10,000 - 8,000)あるため、特別注文1,500個は追加的な固定費の増加なしに生産可能である。

項目 金額
特別注文の収益 @1,200 × 1,500 = 1,800,000円
関連原価(変動製造原価) @1,000 × 1,500 = 1,500,000円
差額利益 300,000円

固定製造間接費@400円は特別注文の有無にかかわらず発生するため無関連原価である。変動販売費も発生しないため無関連である。特別注文価格@1,200円は全部原価@1,400円を下回るが、関連原価(変動製造原価@1,000円)を上回っているため、受諾により300,000円の利益増加が見込まれる。

ただし、遊休能力がない場合は状況が異なる。仮に現在9,000個生産しており、特別注文1,500個を受けるために通常販売500個を犠牲にする必要があるとすれば、その500個分の貢献利益(@2,000 - @1,100 = @900 × 500 = 450,000円)が機会費用として加算される。この場合、差額利益は300,000 - 450,000 = △150,000円となり、拒否が合理的な判断となる。

自製か購入か(Make or Buy)

部品や中間製品を社内で製造するか、外部から購入するかの判断である。

設例: C社は製品Yの部品Pを年間5,000個自製しており、単位原価は以下のとおりである。

原価項目 単位あたり
直接材料費 600円
直接労務費 400円
変動製造間接費 200円
固定製造間接費(専用設備分) 300円
固定製造間接費(共通配賦分) 500円
自製原価合計 2,000円

外部サプライヤーが部品Pを@1,400円で供給可能と申し出た。購入に切り替えるべきか。

分析: 購入に切り替えた場合、共通配賦分の固定製造間接費@500円は他の製品に再配賦されるだけで消滅しない(回避不能原価)。一方、専用設備分の固定費@300円は廃止により回避可能と仮定する。

項目 自製 購入 差額
直接材料費 600円
直接労務費 400円
変動製造間接費 200円
固定製造間接費(専用) 300円
購入価格 1,400円
関連原価合計 1,500円 1,400円 △100円

購入価格@1,400円は関連原価の自製コスト@1,500円を下回るため、年間500,000円(= @100 × 5,000個)のコスト削減が見込まれ、購入が有利である。

さらに、購入に切り替えることで生じる遊休生産能力を他の用途に転用できる場合は、その機会利益も考慮に入れる。たとえば、空いた生産ラインで年間200,000円の貢献利益が見込める製品Zを生産できるなら、購入の優位性はさらに700,000円に拡大する。

追加加工の可否(Sell or Process Further)

ある製品を現状の加工段階で販売するか、追加加工を施してより高い価格で販売するかの判断である。

この判断において、分離点(split-off point)までに発生した原価(結合原価、joint cost)は埋没原価である。追加加工するか否かにかかわらず既に発生しているため、意思決定には無関連である。比較すべきは、追加加工による収益増加分と追加加工原価のみである。

判断基準: 追加加工後の販売価格 − 分離点での販売価格 > 追加加工原価 であれば追加加工が有利。

製品ラインの廃止判断

赤字の製品ラインを廃止すべきかどうかの判断である。

ここで注意すべきは、当該ラインのセグメント損益計算書における営業損失が、共通固定費の配賦によって生じている場合である。廃止しても共通固定費は消滅しないため、回避不能原価である。判断基準は、当該ラインが正の貢献利益を生み出しているか、すなわち回避可能原価を上回る収益を計上しているかである。

判断基準: 当該ラインの貢献利益 > 当該ラインの回避可能固定費 であれば、ラインの存続が全社的に有利である。

graph TD
    A["意思決定問題の発生"] --> B["代替案の識別"]
    B --> C["関連原価・関連収益の識別"]
    C --> D{"将来原価か?"}
    D -->|"No"| E["除外(埋没原価)"]
    D -->|"Yes"| F{"代替案間で<br/>差異があるか?"}
    F -->|"No"| G["除外(無関連原価)"]
    F -->|"Yes"| H["関連原価として分析に含める"]
    H --> I["機会費用の考慮"]
    I --> J["代替案間の差額利益を比較"]
    J --> K["定性的要因の検討"]
    K --> L["最終判断"]

上図は関連原価分析の意思決定フレームワークを示している。すべての意思決定問題に共通して適用可能であり、埋没原価の除外、関連原価の識別、機会費用の考慮、そして定量分析では捉えきれない定性的要因(品質、信頼性、従業員の士気、顧客関係など)の検討という手順を踏む。


業績評価の手法

組織が拡大し、事業部制やカンパニー制を採用する場合、各部門の管理者にどの程度の権限と責任を委譲し、その業績をいかに評価するかが重要な経営課題となる。

責任会計

Key Concept: 責任会計(Responsibility Accounting) 組織内の各管理者が管理可能な(controllable)原価・収益・投資について責任を負い、その業績を評価する会計制度。管理者は自らの権限範囲内の項目についてのみ評価対象とされる。

責任会計の基本原則は、管理可能性原則(controllability principle) である。管理者は自己の権限の及ぶ範囲の業績について責任を負うべきであり、管理不能な項目(たとえば全社共通費の配賦額や、本社が決定する方針変更の影響)で評価されるべきではない。

組織内の責任単位は、委譲される権限の範囲に応じて以下の3つに分類される。

責任センター 管理者の責任範囲 主な評価指標
コストセンター(Cost Center) 原価のみ 予算差異、原価効率
プロフィットセンター(Profit Center) 原価と収益 部門利益、貢献利益
インベストメントセンター(Investment Center) 原価・収益・投資 ROI、RI、EVA

コストセンター は製造部門や管理部門など、収益に直接責任を持たない部門が該当する。予算と実績の差異分析が主たる評価手法である。

プロフィットセンター は営業部門や事業部など、収益と原価の両方に責任を持つ部門である。部門利益や貢献利益で業績が測定される。

インベストメントセンター はプロフィットセンターの責任に加え、投下資本に対する責任も負う部門である。事業部制における各事業部が典型例であり、以下で述べるROI・RI・EVAが評価指標として用いられる。

事業部業績の評価指標

ROI(投資利益率)

Key Concept: ROI(投資利益率、Return on Investment) 事業部の営業利益を投下資本(営業資産)で除した比率。事業部が投下された資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標であり、異なる規模の事業部間の比較を可能にする。

$$ \text{ROI} = \frac{\text{営業利益}}{\text{営業資産}} = \frac{\text{営業利益}}{\text{売上高}} \times \frac{\text{売上高}}{\text{営業資産}} $$

右辺の分解は「売上高利益率 × 資産回転率」であり、デュポン分析(DuPont analysis)と呼ばれる。ROIを改善するには、利益率の向上(コスト削減や高付加価値化)か、資産回転率の向上(遊休資産の削減や売上増加)のいずれか、または両方が必要であることを示している。

ROIの限界: ROIを業績評価に用いる場合、重大な問題が生じうる。それは過少投資問題(underinvestment problem) である。

設例: D事業部の現在のROIは25%(営業利益5,000万円 ÷ 営業資産2億円)である。全社的な最低要求収益率は15%である。新規プロジェクト(投資額8,000万円、期待営業利益1,600万円、期待ROI 20%)の提案がある。

全社的には最低要求収益率15%を上回る20%のROIが見込めるため、このプロジェクトは採択されるべきである。しかし、D事業部の管理者がROIで評価される場合、プロジェクト採択後のROIは(5,000 + 1,600) ÷ (20,000 + 8,000) = 23.6%と現在の25%を下回るため、管理者は自己の評価が低下することを恐れて有益なプロジェクトを拒否するインセンティブを持つ。これが過少投資問題である。

RI(残余利益)

Key Concept: 残余利益(Residual Income, RI) 事業部の営業利益から、投下資本に対する最低要求利益(資本費用)を差し引いた絶対額。最低要求収益率を超過する利益を金額で示す指標であり、ROIにおける過少投資問題を解消する。

$$ \text{RI} = \text{営業利益} - (\text{営業資産} \times \text{最低要求収益率}) $$

先のD事業部の例でRIを計算する。

項目 プロジェクト前 プロジェクト後
営業利益 5,000万円 6,600万円
営業資産 20,000万円 28,000万円
資本費用(@15%) 3,000万円 4,200万円
RI 2,000万円 2,400万円

RIはプロジェクト採択により2,000万円から2,400万円に増加するため、管理者は有益なプロジェクトを採択するインセンティブを持つ。最低要求収益率を上回るプロジェクトは必ずRIを増加させるため、過少投資問題は生じない。

RIの限界としては、絶対額による指標であるため、規模の異なる事業部間の比較が困難であることが挙げられる。大規模事業部は小規模事業部よりも大きなRIを示しやすい。

EVA(経済的付加価値)

Key Concept: EVA(経済的付加価値、Economic Value Added) 税引後営業利益(NOPAT)から投下資本に対する加重平均資本コスト(WACC)を差し引いた金額。企業が株主・債権者を含む全資本提供者の期待収益率を超えて創出した価値を測定する指標である。Stern Stewart社が開発・商標登録した。

$$ \text{EVA} = \text{NOPAT} - (\text{投下資本} \times \text{WACC}) $$

EVAはRIの発展形であり、以下の点でRIと異なる。

  1. 税引後ベース: 営業利益ではなくNOPAT(Net Operating Profit After Tax)を用いる。
  2. 加重平均資本コスト: 最低要求収益率ではなく、負債コストと株主資本コストを加重平均したWACC(Weighted Average Cost of Capital)を用いる。
  3. 会計調整: 研究開発費の資産計上やリース資産のオンバランス化など、経済的実態を反映するための調整が行われる場合がある。

EVAが正であれば企業は資本コストを超える価値を創出しており、負であれば資本コストを賄えていない(価値を毀損している)ことを意味する。


内部振替価格

Key Concept: 内部振替価格(Transfer Price) 組織内の事業部間で財・サービスが移転される際に適用される価格。振替価格の設定は各事業部の業績評価に直接影響するとともに、全社最適な資源配分を実現するうえでも重要な役割を果たす。

事業部制組織において、ある事業部(売手事業部)が生産した中間製品を別の事業部(買手事業部)に供給する場合、その取引価格をどう設定するかは、双方の事業部利益と全社利益の整合性に関わる重要な問題である。

振替価格の設定方法

市場価格基準

外部市場で成立している価格を振替価格とする方法である。競争的な外部市場が存在する場合、市場価格は需給を反映した客観的な価格であり、事業部間の交渉コストを最小化できる。売手事業部は外部に販売する場合と同等の収益を確保でき、買手事業部は外部から調達する場合と同等のコストで仕入れることができるため、双方の事業部の自律性と責任会計の原則に合致する。

適用条件: 当該中間製品に競争的な外部市場が存在すること。

原価基準

実際原価、標準原価、あるいは原価にマークアップ(利益加算)を加えた金額を振替価格とする方法である。外部市場が存在しない場合や、内部取引特有のコスト削減(販売費の不要など)がある場合に用いられる。

ただし、実際原価をそのまま用いると、売手事業部の非効率が買手事業部に転嫁されてしまう問題がある。このため、標準原価を基準とすることが望ましい。また、原価ベースでは売手事業部に利益が計上されないため、売手事業部がプロフィットセンターとして評価される場合には原価プラスマークアップ方式が採用される。

交渉価格

売手事業部と買手事業部の管理者間の交渉によって決定される価格である。両事業部の自律性を尊重する方法であるが、交渉コストが発生し、力関係によって不公正な価格が設定されるリスクがある。

最適な振替価格の条件

振替価格には理論的な上限と下限が存在する。

  • 上限: 外部市場での購入価格(買手事業部にとって、内部調達が外部調達より不利であれば内部取引の動機がない)
  • 下限: 変動製造原価 + 単位あたり機会費用(売手事業部にとって、この水準を下回ると内部取引で損失が生じる)

$$ \text{最低振替価格} = \text{変動製造原価} + \text{単位あたり機会費用} $$

売手事業部に遊休能力がある場合: 外部への販売機会がないため機会費用はゼロとなり、最低振替価格は変動製造原価に等しい。この場合、変動製造原価と市場価格の間のどこかで振替価格が設定されれば、双方の事業部と全社にとって望ましい取引となる。

売手事業部が完全操業の場合: 内部供給のために外部販売を犠牲にする必要があるため、機会費用は外部販売による貢献利益に等しい。市場価格を基準とする振替価格が全社最適をもたらす。

graph LR
    subgraph 責任センターの類型
        CC["コストセンター<br/>(原価責任)"]
        PC["プロフィットセンター<br/>(原価+収益責任)"]
        IC["インベストメントセンター<br/>(原価+収益+投資責任)"]
    end

    subgraph 評価指標
        BV["予算差異分析"]
        CP["部門利益<br/>貢献利益"]
        RM["ROI / RI / EVA"]
    end

    subgraph 振替価格
        MP["市場価格基準"]
        CB["原価基準"]
        NP["交渉価格"]
    end

    CC --> BV
    PC --> CP
    IC --> RM
    IC --> MP
    IC --> CB
    IC --> NP

上図は、責任センターの類型と対応する評価指標、およびインベストメントセンター間の取引で用いられる振替価格の設定方法の関係を示している。


まとめ

  • 短期的意思決定においては、代替案間で異なる将来原価(関連原価)のみを比較対象とする。埋没原価は無関連であり、機会費用は帳簿外であっても関連原価として考慮する。
  • 特別注文、自製か購入か、追加加工の可否、製品ラインの廃止判断など、典型的な意思決定問題はすべて関連原価分析の枠組みで分析可能である。遊休能力の有無が判断を大きく左右する。
  • 責任会計は管理可能性原則に基づき、コストセンター・プロフィットセンター・インベストメントセンターの3類型で各管理者の業績を評価する。
  • ROIは事業部間比較に有用だが、過少投資問題を引き起こす。RIは過少投資問題を解消するが、規模の異なる事業部間の比較が困難である。EVAは税引後・WACC基準でより精緻な価値創出の測定を行う。
  • 内部振替価格は事業部業績と全社最適の整合性を左右する。市場価格基準が理論的には最も優れるが、外部市場の存在が前提である。最適な振替価格の範囲は、変動製造原価+機会費用から市場価格の間に位置する。
  • Module 2-4全体を通じて、財務会計は企業外部の利害関係者への報告(会計基準に基づく測定と開示)を、管理会計は経営者の内部的な意思決定と業績管理(原価計算、CVP分析、予算管理、業績評価)を目的とすることを学んだ。両者は対立するものではなく、企業の経済活動を異なる角度から捉える相互補完的な情報体系である。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
関連原価 Relevant Cost 代替案間で金額が異なる将来原価であり、意思決定に影響を与える原価
埋没原価 Sunk Cost 過去に発生済みで回収不能な原価。意思決定では無視すべき原価
差額原価 Differential Cost 2つの代替案間における原価の差額
機会費用 Opportunity Cost ある代替案の選択により放棄される次善の利益。帳簿外だが意思決定上の関連原価
回避可能原価 Avoidable Cost ある意思決定によって発生を回避できる原価
回避不能原価 Unavoidable Cost どの代替案を選択しても発生する原価
結合原価 Joint Cost 分離点までに複数の製品に共通して発生する原価
責任会計 Responsibility Accounting 管理者が管理可能な項目について責任を負い業績評価する会計制度
管理可能性原則 Controllability Principle 管理者は自らの権限範囲内の項目についてのみ業績評価される原則
コストセンター Cost Center 原価について責任を負う責任単位
プロフィットセンター Profit Center 原価と収益について責任を負う責任単位
インベストメントセンター Investment Center 原価・収益・投資について責任を負う責任単位
ROI Return on Investment 営業利益÷営業資産。事業部の投資効率を示す比率
残余利益 Residual Income (RI) 営業利益から投下資本×最低要求収益率を差し引いた金額
EVA Economic Value Added NOPAT−投下資本×WACC。資本コスト超過の価値創出額
過少投資問題 Underinvestment Problem ROI評価により、有益だが現行ROIを下げる投資が拒否される問題
内部振替価格 Transfer Price 事業部間の財・サービスの移転に適用される内部取引価格
NOPAT Net Operating Profit After Tax 税引後営業利益
WACC Weighted Average Cost of Capital 負債コストと株主資本コストの加重平均

確認問題

Q1: 埋没原価と機会費用の違いを説明し、それぞれが意思決定分析において含まれるべきか否かとその理由を述べよ。

A1: 埋没原価は過去の意思決定の結果として既に発生し回収不能な原価であり、将来のいかなる選択によっても変更できないため意思決定では除外すべきである。一方、機会費用はある代替案を選択することで放棄される次善の代替案からの利益であり、会計帳簿には記録されないが将来の経済的犠牲を表すため関連原価として意思決定に含めなければならない。両者はともに通常の原価計算では表面化しにくいが、意思決定における取扱いは正反対である。

Q2: ある事業部の営業利益が8,000万円、営業資産が40,000万円であり、全社的な最低要求収益率が12%である。ROIとRIをそれぞれ算出し、追加投資(投資額10,000万円、期待営業利益1,500万円)を採択した場合にROIとRIがそれぞれどう変化するか分析せよ。これにより、ROI評価の限界を説明せよ。

A2: 現状のROI = 8,000 ÷ 40,000 = 20%、RI = 8,000 − 40,000 × 0.12 = 3,200万円。追加投資後のROI = (8,000 + 1,500) ÷ (40,000 + 10,000) = 19%、RI = 9,500 − 50,000 × 0.12 = 3,500万円。追加投資のROIは15%で最低要求収益率12%を上回り全社的に望ましいが、事業部のROIは20%→19%に低下する。管理者がROIで評価される場合、自己の評価低下を恐れて有益な投資を拒否する(過少投資問題)。一方、RIは3,200→3,500万円に増加するため、RI評価では管理者が有益な投資を受け入れるインセンティブを持つ。

Q3: 製品ラインの廃止判断において、当該ラインの全部原価計算ベースの損益が赤字であっても廃止すべきでない場合がある。その理由を関連原価の観点から説明せよ。

A3: 全部原価計算では共通固定費が各製品ラインに配賦されるが、ある製品ラインを廃止しても共通固定費は消滅せず他のラインに再配賦されるだけである(回避不能原価)。したがって、廃止の可否は配賦後の損益ではなく、当該ラインの貢献利益が回避可能固定費を上回るかで判断すべきである。貢献利益が回避可能固定費を超えている場合、当該ラインは共通固定費の一部を負担しており、廃止すると全社利益がかえって減少する。

Q4: 売手事業部に遊休能力がある場合と完全操業の場合で、理論上の最低振替価格がどう異なるか説明せよ。また、全社最適な意思決定を阻害しない振替価格の条件を述べよ。

A4: 理論上の最低振替価格は「変動製造原価+単位あたり機会費用」で算定される。遊休能力がある場合、外部販売の機会を犠牲にしないため機会費用はゼロとなり、最低振替価格は変動製造原価に等しい。完全操業の場合、内部供給のために外部販売を犠牲にするため、放棄される外部販売の貢献利益が機会費用となり、最低振替価格は変動製造原価+放棄貢献利益となる(多くの場合、市場価格に近くなる)。全社最適を阻害しない条件は、振替価格がこの最低振替価格と買手事業部の外部調達価格(上限)の間に設定されることである。この範囲内であれば、内部取引により双方の事業部と全社の利益が改善される。

Q5: EVAがROIやRIと比較してより精緻な業績評価指標とされる理由を、計算構造の違いに基づいて説明せよ。

A5: EVAは以下の3点でROI・RIと異なり、より精緻な測定を実現する。第一に、税引後営業利益(NOPAT)を用いるため、税効果を反映した実質的な事業収益力を測定する。第二に、最低要求収益率ではなく加重平均資本コスト(WACC)を資本コストとして用いるため、負債と株主資本の双方の調達コストを反映し、資本構成の影響を考慮できる。第三に、研究開発費の資産計上やリースのオンバランス化など会計調整を行うことで、会計基準の違いによる歪みを是正し経済的実態をより正確に反映する。これにより、EVAは企業が真に資本コストを超える価値を創出しているかを測定する指標として機能する。