Module 2-5 - Section 1: 貨幣の時間価値とリスク・リターン¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 2-5: コーポレート・ファイナンス |
| 前提セクション | なし |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
コーポレート・ファイナンスにおける意思決定(投資、資金調達、配当)は、すべてキャッシュフローの評価に帰着する。しかし、同じ金額であっても、受け取る時点が異なればその経済的価値は異なる。「今日の1万円は明日の1万円よりも価値がある」という命題は、インフレーションや機会費用の存在により正当化され、これを定量的に扱う枠組みが貨幣の時間価値(Time Value of Money, TVM)である。
さらに、将来のキャッシュフローが不確実である場合、その不確実性を定量化し、リターンとの関係として理解する必要がある。リスクとリターンの関係は、ポートフォリオ理論やCAPM(Capital Asset Pricing Model)へと発展し、企業の資本コスト推定や投資判断の基盤となる。
本セクションでは、まず貨幣の時間価値に関する基本的な計算手法を体系的に整理し、次にリスクとリターンの定量的分析の基礎を扱う。これらはModule 2-5全体を通じて繰り返し使用される基盤的概念である。
貨幣の時間価値(Time Value of Money)¶
基本概念¶
貨幣の時間価値とは、同一の金額であっても、受領・支払の時点が異なれば経済的価値が異なるという原則である。この原則が成立する根拠は以下の3点に集約される。
- 機会費用(Opportunity Cost): 現在手元にある資金は投資に回すことが可能であり、その運用利回りを放棄することが将来受け取りのコストとなる
- インフレーション: 物価上昇により、同一の名目金額の購買力は時間の経過とともに低下する
- 不確実性: 将来のキャッシュフローには債務不履行等のリスクが伴う
Key Concept: 貨幣の時間価値(Time Value of Money) 同一金額の貨幣であっても、受領時点が異なればその経済的価値は異なるという原則。現在の貨幣は将来の貨幣よりも高い価値を持つ。これは機会費用、インフレーション、不確実性に起因する。
単利と複利¶
単利(Simple Interest) は、元本に対してのみ利息が計算される方式である。期間 $n$、利率 $r$ のとき:
$$\text{単利による利息} = P \times r \times n$$
複利(Compound Interest) は、元本に加え、過去に発生した利息にも利息が付される方式である。ファイナンスの実務においては複利が標準的に用いられる。
$$\text{複利による将来価値} = P \times (1 + r)^n$$
計算例: 元本100万円、年利5%、3年間の場合
- 単利: 100万 × 0.05 × 3 = 15万円(合計115万円)
- 複利: 100万 × (1.05)³ = 100万 × 1.157625 ≒ 115.76万円
複利と単利の差は期間が長いほど拡大する。この差を複利効果(Compounding Effect)と呼ぶ。
将来価値と現在価値¶
Key Concept: 現在価値(Present Value, PV) 将来のキャッシュフローを現時点で評価した価値。将来価値を割引率で除する(割り引く)ことで算出される。コーポレート・ファイナンスにおける投資判断の基礎となる中核概念である。
将来価値(Future Value, FV) は、現在の金額を一定の利率で運用した場合の将来時点における価値である。
$$FV = PV \times (1 + r)^n$$
現在価値(Present Value, PV) は、将来のキャッシュフローを現時点で評価した価値であり、将来価値の逆算として求められる。
$$PV = \frac{FV}{(1 + r)^n}$$
ここで $(1 + r)^n$ を複利係数(Compound Factor)、$\frac{1}{(1+r)^n}$ を割引係数(Discount Factor)と呼ぶ。
graph LR
subgraph 時間軸
PV["現在価値 PV"]
FV["将来価値 FV"]
end
PV -->|"× (1+r)^n(複利計算)"| FV
FV -->|"÷ (1+r)^n(割引計算)"| PV
割引率¶
Key Concept: 割引率(Discount Rate) 将来のキャッシュフローを現在価値に変換する際に使用する利率。投資家の要求収益率、資金の機会費用、またはリスクに応じた調整を反映する。割引率が高いほど、同一の将来キャッシュフローの現在価値は低くなる。
割引率は文脈に応じて以下のように解釈される:
| 文脈 | 割引率の解釈 |
|---|---|
| 投資判断 | 要求収益率(Required Rate of Return) |
| 企業価値評価 | 加重平均資本コスト(WACC) |
| 債券評価 | 最終利回り(Yield to Maturity) |
| プロジェクト評価 | ハードルレート(Hurdle Rate) |
割引率と現在価値は逆方向の関係にある。割引率が上昇すれば、同一の将来キャッシュフローの現在価値は減少する。
計算例: 3年後に受け取る100万円の現在価値(割引率8%の場合)
$$PV = \frac{1{,}000{,}000}{(1.08)^3} = \frac{1{,}000{,}000}{1.259712} \approx 793{,}832 \text{円}$$
年金(Annuity)¶
Key Concept: 年金(Annuity) 一定期間にわたり、等額のキャッシュフローが一定間隔で発生する金融商品または支払パターン。期末払いの通常年金(Ordinary Annuity)と期首払いの期首年金(Annuity Due)がある。
通常年金(Ordinary Annuity)¶
各期末に一定額 $C$ が $n$ 期間にわたって支払われる場合の現在価値と将来価値は以下のとおりである。
現在価値:
$$PV = C \times \frac{1 - (1+r)^{-n}}{r}$$
将来価値:
$$FV = C \times \frac{(1+r)^n - 1}{r}$$
$\frac{1 - (1+r)^{-n}}{r}$ を年金現価係数(Present Value Interest Factor of Annuity, PVIFA)と呼ぶ。
期首年金(Annuity Due)¶
各期首に支払いが発生する場合、通常年金の公式に $(1+r)$ を乗じる。
$$PV_{\text{due}} = C \times \frac{1 - (1+r)^{-n}}{r} \times (1+r)$$
期首年金の現在価値は通常年金より大きい。これは各支払いが1期分早く発生するため、割引期間が1期短くなることによる。
計算例(住宅ローン): 毎月末10万円の返済、年利3%(月利0.25%)、30年(360回)の住宅ローンの現在価値(借入可能額)
$$PV = 100{,}000 \times \frac{1 - (1.0025)^{-360}}{0.0025} \approx 100{,}000 \times 237.19 \approx 23{,}719{,}000 \text{円}$$
永久年金(Perpetuity)¶
永久年金とは、無限期間にわたって一定額のキャッシュフローが継続する年金である。優先株式の配当や、イギリスの永久国債(コンソル債)がその典型例である。
$$PV = \frac{C}{r}$$
成長型永久年金(Growing Perpetuity) は、キャッシュフローが毎期一定率 $g$ で成長する場合の現在価値であり、$r > g$ のとき:
$$PV = \frac{C_1}{r - g}$$
ここで $C_1$ は次期のキャッシュフローである。この公式はゴードン成長モデル(Gordon Growth Model)として配当割引モデルに応用される(→ Module 2-5, Section 5「企業価値評価」参照)。
計算例: 毎年50万円の配当を永久に受け取る場合(要求収益率5%)
$$PV = \frac{500{,}000}{0.05} = 10{,}000{,}000 \text{円}$$
配当が毎年2%ずつ成長する場合:
$$PV = \frac{500{,}000}{0.05 - 0.02} = \frac{500{,}000}{0.03} \approx 16{,}667{,}000 \text{円}$$
リスクとリターン¶
リターンの測定¶
投資のリターン(Return)は以下の2つの観点から測定される。
実現収益率(Realized Return / Holding Period Return) は、実際に得られた収益率であり、以下で計算される:
$$R = \frac{P_1 - P_0 + D}{P_0}$$
ここで $P_0$ は期首価格、$P_1$ は期末価格、$D$ は期間中の配当やクーポン等のインカムゲインである。
Key Concept: 期待収益率(Expected Return) 将来の各シナリオの収益率を、それぞれの発生確率で加重平均した値。不確実な将来のリターンの期待値を表し、投資判断における基準的指標となる。
$$E(R) = \sum_{i=1}^{n} p_i \times R_i$$
ここで $p_i$ は各シナリオの発生確率、$R_i$ は各シナリオにおける収益率である。
計算例: ある株式の来期シナリオ
| シナリオ | 確率 | 収益率 |
|---|---|---|
| 好況 | 30% | +20% |
| 普通 | 50% | +8% |
| 不況 | 20% | -10% |
$$E(R) = 0.30 \times 20\% + 0.50 \times 8\% + 0.20 \times (-10\%) = 6\% + 4\% - 2\% = 8\%$$
リスクの測定¶
ファイナンスにおけるリスクとは、実現収益率が期待収益率から乖離する可能性であり、統計学的には分散(Variance)および標準偏差(Standard Deviation)で定量化される。
$$\sigma^2 = \sum_{i=1}^{n} p_i \times (R_i - E(R))^2$$
$$\sigma = \sqrt{\sigma^2}$$
上記の計算例の続き:
$$\sigma^2 = 0.30(0.20 - 0.08)^2 + 0.50(0.08 - 0.08)^2 + 0.20(-0.10 - 0.08)^2$$ $$= 0.30 \times 0.0144 + 0.50 \times 0 + 0.20 \times 0.0324$$ $$= 0.00432 + 0 + 0.00648 = 0.0108$$
$$\sigma = \sqrt{0.0108} \approx 0.1039 = 10.39\%$$
標準偏差が大きいほど、期待収益率からの乖離幅が大きく、リスクが高いと判断される。
ポートフォリオ理論の基礎¶
Harry Markowitz(1952)によって提唱されたポートフォリオ理論(Modern Portfolio Theory, MPT)は、分散投資によるリスク低減を定量的に示した。
2資産ポートフォリオの期待収益率¶
資産Aの構成比 $w_A$、資産Bの構成比 $w_B = 1 - w_A$ のとき:
$$E(R_p) = w_A \times E(R_A) + w_B \times E(R_B)$$
2資産ポートフォリオの分散¶
$$\sigma_p^2 = w_A^2 \sigma_A^2 + w_B^2 \sigma_B^2 + 2 w_A w_B \rho_{AB} \sigma_A \sigma_B$$
ここで $\rho_{AB}$ は資産Aと資産Bの収益率の相関係数(Correlation Coefficient)である。$\rho_{AB}$ は $-1 \leq \rho_{AB} \leq 1$ の値をとる。
分散投資の効果は相関係数に依存する:
| 相関係数 $\rho$ | 分散投資の効果 |
|---|---|
| +1.0 | リスク低減効果なし(加重平均と同じ) |
| 0 < ρ < 1 | 一定のリスク低減効果あり |
| 0 | 比較的大きなリスク低減効果 |
| -1 < ρ < 0 | さらに大きなリスク低減効果 |
| -1.0 | リスクを完全に消去可能 |
数値例(2銘柄ポートフォリオ):
| 銘柄X | 銘柄Y | |
|---|---|---|
| 期待収益率 | 12% | 8% |
| 標準偏差 | 20% | 15% |
| 構成比 | 60% | 40% |
相関係数 $\rho_{XY} = 0.3$ のとき:
$$E(R_p) = 0.60 \times 12\% + 0.40 \times 8\% = 10.4\%$$
$$\sigma_p^2 = (0.60)^2(0.20)^2 + (0.40)^2(0.15)^2 + 2(0.60)(0.40)(0.3)(0.20)(0.15)$$ $$= 0.0144 + 0.0036 + 0.00216 = 0.02016$$
$$\sigma_p = \sqrt{0.02016} \approx 14.20\%$$
構成比の加重平均標準偏差は $0.60 \times 20\% + 0.40 \times 15\% = 18\%$ であるが、実際のポートフォリオ標準偏差は約14.20%に低下する。これが分散投資効果であり、相関係数が1未満である限り発生する。
系統的リスクと非系統的リスク¶
Key Concept: 系統的リスク(Systematic Risk) 市場全体に影響を及ぼすリスクであり、分散投資によって除去することができない。市場リスク(Market Risk)または非分散可能リスク(Non-diversifiable Risk)とも呼ばれる。景気変動、金利変動、政治的事象などがその要因である。
非系統的リスク(Unsystematic Risk) は、個別企業や特定の産業に固有のリスクであり、十分な分散投資(先進国市場では概ね30〜40銘柄)によって実質的に除去できる。企業固有リスク(Firm-specific Risk)、分散可能リスク(Diversifiable Risk)とも呼ばれる。
合理的な投資家は分散投資により非系統的リスクを除去できるため、市場はこのリスクに対してプレミアムを支払わない。したがって、資産の期待収益率を決定するのは系統的リスクのみである。
graph TD
TR["総リスク<br/>Total Risk"] --> SR["系統的リスク<br/>Systematic Risk"]
TR --> UR["非系統的リスク<br/>Unsystematic Risk"]
SR --> SRF["要因: 景気変動・金利変動・<br/>為替変動・政治的事象"]
UR --> URF["要因: 経営判断・労使紛争・<br/>製品リコール・訴訟"]
SR --> SRN["分散投資で除去不可"]
UR --> URN["分散投資で除去可能<br/>(30-40銘柄で概ね消去)"]
SR --> Beta["ベータ(β)で測定"]
ベータ(β)¶
Key Concept: ベータ(Beta, β) 個別証券の収益率が市場ポートフォリオの収益率に対してどの程度感応的に変動するかを示す指標。市場全体の系統的リスクに対する当該証券の相対的リスク尺度であり、CAPMにおいて期待収益率の決定に用いられる。
$$\beta_i = \frac{\text{Cov}(R_i, R_m)}{\sigma_m^2} = \frac{\rho_{i,m} \sigma_i}{\sigma_m}$$
ここで $R_i$ は個別証券のリターン、$R_m$ は市場ポートフォリオのリターン、$\sigma_m^2$ は市場ポートフォリオの分散である。
ベータの解釈は以下のとおりである:
| β値 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| β = 1.0 | 市場と同じ変動性 | 市場インデックスに連動するETF |
| β > 1.0 | 市場より大きく変動(攻撃的) | β=1.5の場合、市場が10%上昇すると当該銘柄は約15%上昇 |
| 0 < β < 1.0 | 市場より小さく変動(防御的) | β=0.5の場合、市場が10%上昇すると当該銘柄は約5%上昇 |
| β = 0 | 市場との連動性なし | 無リスク資産 |
| β < 0 | 市場と逆方向に変動 | 極めて稀(一部のヘッジ資産) |
ポートフォリオのベータは、各構成証券のベータの加重平均として求められる:
$$\beta_p = \sum_{i=1}^{n} w_i \beta_i$$
CAPMとの関係: CAPM(Capital Asset Pricing Model)は、ベータを用いて個別証券の期待収益率を以下のように定式化する:
$$E(R_i) = R_f + \beta_i \times [E(R_m) - R_f]$$
ここで $R_f$ は無リスク利子率(Risk-free Rate)、$E(R_m) - R_f$ は市場リスク・プレミアム(Equity Risk Premium)である。CAPMの詳細は次セクション以降で扱う(→ Module 2-5, Section 3「資本コストと資本構成」参照)。
計算例: 無リスク利子率が2%、市場リスク・プレミアムが6%、ある企業のβが1.3のとき:
$$E(R) = 2\% + 1.3 \times 6\% = 2\% + 7.8\% = 9.8\%$$
まとめ¶
- 貨幣の時間価値は、現在の1円と将来の1円の価値が異なるという原則であり、機会費用・インフレーション・不確実性に起因する
- 現在価値は将来キャッシュフローを割引率で割り引いて算出し、将来価値はその逆の計算である。いずれも複利計算を前提とする
- 年金は等額キャッシュフローの一定期間にわたる支払パターンであり、通常年金と期首年金で計算式が異なる。永久年金は無限期間の年金の特殊ケースである
- リスクは収益率の分散・標準偏差で測定され、リターンは期待収益率として定量化される
- 分散投資は相関係数が1未満である限りポートフォリオのリスクを低減させる効果を持つ
- 系統的リスク(分散投資で除去不可)のみが期待収益率の決定要因であり、ベータはその尺度である
- 次セクション(Section 2)では、これらの概念を応用し、NPVやIRR等の投資決定手法を扱う
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| 貨幣の時間価値 | Time Value of Money | 同一金額でも受領時点により経済的価値が異なるという原則 |
| 現在価値 | Present Value (PV) | 将来キャッシュフローを割引率で現時点に変換した価値 |
| 将来価値 | Future Value (FV) | 現在の金額を複利計算で将来時点に変換した価値 |
| 割引率 | Discount Rate | 将来キャッシュフローを現在価値に変換する際の利率 |
| 複利 | Compound Interest | 元本に加え既発生利息にも利息が付く計算方式 |
| 単利 | Simple Interest | 元本のみに対して利息が計算される方式 |
| 年金 | Annuity | 等額のキャッシュフローが一定間隔で発生する支払パターン |
| 通常年金 | Ordinary Annuity | 各期末にキャッシュフローが発生する年金 |
| 期首年金 | Annuity Due | 各期首にキャッシュフローが発生する年金 |
| 永久年金 | Perpetuity | 無限期間にわたる年金 |
| 成長型永久年金 | Growing Perpetuity | キャッシュフローが一定率で成長する永久年金 |
| 期待収益率 | Expected Return | 各シナリオの収益率の確率加重平均 |
| 分散 | Variance | 収益率の期待値からの乖離の二乗の期待値 |
| 標準偏差 | Standard Deviation | 分散の平方根。リスクの代表的尺度 |
| 相関係数 | Correlation Coefficient | 2変数間の線形関係の強さと方向を示す指標(-1〜+1) |
| 系統的リスク | Systematic Risk | 市場全体に影響し分散投資で除去不可能なリスク |
| 非系統的リスク | Unsystematic Risk | 個別企業固有のリスクで分散投資により除去可能 |
| ベータ | Beta (β) | 市場リスクに対する個別証券の感応度を示す指標 |
| CAPM | Capital Asset Pricing Model | ベータを用いて期待収益率を定式化するモデル |
確認問題¶
Q1: 割引率が上昇した場合、将来キャッシュフローの現在価値はどのように変化するか。その理由とともに説明せよ。
A1: 割引率が上昇すると、将来キャッシュフローの現在価値は低下する。現在価値の計算式 $PV = FV / (1+r)^n$ において、分母の $(1+r)^n$ が大きくなるためである。経済的には、割引率の上昇は投資家の要求収益率の上昇を意味し、同一の将来キャッシュフローを得るために現時点で支払う意思のある金額が減少することを反映している。
Q2: 年利4%のとき、毎年末に100万円を20年間受け取る通常年金の現在価値を求めよ。また、同条件の期首年金の現在価値と比較し、差が生じる理由を述べよ。
A2: 通常年金の現在価値は $PV = 100万 \times \frac{1 - (1.04)^{-20}}{0.04} = 100万 \times 13.5903 \approx 1{,}359万円$ である。期首年金の現在価値は $1{,}359万 \times 1.04 \approx 1{,}413万円$ である。期首年金の方が約54万円大きい。これは各支払いが1年早く発生するため、割引期間が1年短くなり、各キャッシュフローの現在価値がそれぞれ $(1+r)$ 倍になることによる。
Q3: ある投資家が2銘柄のポートフォリオを構成する。銘柄Aの期待収益率15%・標準偏差25%に60%を配分し、銘柄Bの期待収益率7%・標準偏差10%に40%を配分する。相関係数が+1.0の場合と-0.5の場合それぞれについて、ポートフォリオの標準偏差を計算し、分散投資効果を比較せよ。
A3: ポートフォリオの期待収益率はいずれの場合も $0.60 \times 15\% + 0.40 \times 7\% = 11.8\%$ である。
- $\rho = +1.0$ のとき: $\sigma_p^2 = (0.60)^2(0.25)^2 + (0.40)^2(0.10)^2 + 2(0.60)(0.40)(1.0)(0.25)(0.10) = 0.0225 + 0.0016 + 0.012 = 0.0361$、$\sigma_p = 19.0\%$。これは加重平均($0.60 \times 25\% + 0.40 \times 10\% = 19\%$)と一致し、分散投資効果はない。
- $\rho = -0.5$ のとき: $\sigma_p^2 = 0.0225 + 0.0016 + 2(0.60)(0.40)(-0.5)(0.25)(0.10) = 0.0241 - 0.006 = 0.0181$、$\sigma_p \approx 13.45\%$。加重平均の19%から約5.55%ポイント低下しており、負の相関による大きな分散投資効果が確認できる。
Q4: 系統的リスクと非系統的リスクの違いを説明し、CAPMにおいてなぜ系統的リスクのみが期待収益率の決定要因となるかを論じよ。
A4: 系統的リスクは景気変動、金利変動、政治的事象など市場全体に影響を及ぼすリスクであり、分散投資によって除去できない。非系統的リスクは個別企業の経営判断、製品問題、訴訟など企業固有のリスクであり、十分な数の銘柄への分散投資により実質的に除去可能である。CAPMにおいて系統的リスクのみが期待収益率の決定要因となる理由は、合理的投資家は分散投資によって非系統的リスクを無コストで除去できるため、市場はこのリスクの負担に対して追加的なリターン(リスク・プレミアム)を提供しないという論理に基づく。したがって、投資家が報酬を受けるのは、除去不可能な系統的リスクを負担することに対してのみである。
Q5: β=0.8の株式とβ=1.5の株式について、無リスク利子率1.5%、市場リスク・プレミアム5%の条件下でそれぞれのCAPMによる期待収益率を求め、ベータ値の違いが期待収益率に与える影響を説明せよ。
A5: β=0.8の株式: $E(R) = 1.5\% + 0.8 \times 5\% = 1.5\% + 4.0\% = 5.5\%$。β=1.5の株式: $E(R) = 1.5\% + 1.5 \times 5\% = 1.5\% + 7.5\% = 9.0\%$。ベータが高いほど市場リスクへの感応度が高く、投資家はより高いリスク・プレミアムを要求するため、期待収益率が上昇する。β=0.8の株式は市場より変動性が小さい防御的銘柄、β=1.5は市場より大きく変動する攻撃的銘柄と分類され、リスク・リターンのトレードオフが明確に現れている。