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Module 2-6 - Section 2: 人材育成と人事評価

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 2-6: 人的資源管理(HRM)
前提セクション Section 1: 戦略的人的資源管理と採用・選考
想定学習時間 3時間

導入

前セクションでは、HRMの戦略的位置づけと採用・選考プロセスの設計原理を検討した。採用・選考を経て組織に参入した人材は、そのままでは組織の戦略的目標に十全に貢献しうる状態にはない。組織は、個人の能力を計画的に開発し、その成果を適切に評価する仕組みを構築する必要がある。ミシガン・モデルにおける人的資源サイクルの4機能のうち、「育成(Development)」と「評価(Appraisal)」がここでの主題である。

本セクションでは、まず人材育成の方法論として OJT・Off-JT・自己啓発の体系を概観し、続いてキャリア開発の主要理論を検討する。次に、人事評価の代表的手法として目標管理(MBO)、コンピテンシー評価、360度評価を取り上げ、最後に評価プロセスに不可避的に介入するバイアスの問題とその対策を論じる。


人材育成の方法論

OJT・Off-JT・自己啓発の体系

企業における人材育成は、大別して3つの方法論に依拠する。職場内訓練(OJT)、職場外訓練(Off-JT)、および自己啓発(SD: Self Development)である。これらは相互補完的に機能し、体系的な能力開発プログラムを構成する。

Key Concept: OJT(On-the-Job Training) 日常の業務遂行を通じて、上司・先輩が部下・後輩に対し、職務遂行に必要な知識・技能・態度を計画的・意図的に指導する教育訓練方法。実務と学習が一体化しているため、即時的な業務適応と暗黙知の移転に優れる。

OJTの基本プロセスは、一般に「Show(やってみせる)→ Tell(説明する)→ Do(やらせてみる)→ Check(評価・指導する)」の4段階で構成される。これは、第一次世界大戦中に米国で体系化されたTWI(Training Within Industry)プログラムに起源を持つ。OJTの最大の利点は、実際の業務文脈の中で即座に学習が生じるため、学習内容の転移(transfer of training)が高いことにある。一方で、指導者の力量に成果が大きく依存すること、体系的な知識の習得が困難であること、指導者の業務負担が増大することが限界として指摘される。

日本企業ではOJTが人材育成の中核的手段として位置づけられてきた。多くの企業がトレーナー制度(新入社員1名に対し先輩社員1名を指導担当として配置する仕組み)やメンター制度(直属の上司以外の先輩社員が精神面・キャリア面のサポートを行う仕組み)を導入している。両者の相違として、トレーナー制度は業務スキルの習得を主目的とするのに対し、メンター制度は心理的支援とキャリア発達の促進を主目的とする。

Key Concept: Off-JT(Off-the-Job Training) 日常の業務を離れて実施される教育訓練。集合研修、外部セミナー、eラーニング等の形態をとり、体系的な知識・理論の習得に適する。OJTでは習得が困難な専門的・横断的知識の教育に有効である。

Off-JTの代表的な形態として、新入社員研修(企業理念・ビジネスマナー・業務基礎の集中的教育)、階層別研修(管理職研修・中堅社員研修等)、職能別研修(営業・技術・財務等の専門スキル研修)、外部派遣研修(ビジネススクール・専門機関への派遣)が挙げられる。Off-JTは体系的な知識の付与に優れるが、学習内容を実務に転移させることが課題となる。研修で学んだ内容が職場で活用されない「研修転移の問題(transfer problem)」は、Off-JT設計における最大の課題の一つである。

自己啓発(SD: Self Development)は、従業員が自発的に行う学習活動であり、資格取得支援、通信教育補助、書籍購入補助、社内図書館の整備等を通じて組織が間接的に支援する。OJTとOff-JTが組織主導の能力開発であるのに対し、自己啓発は個人主導である点で異なる。生涯学習の観点からは、従業員の自律的な学習習慣の形成が長期的な組織能力の向上に寄与する。

これら3つの方法論の関係と特徴を以下の図に整理する。

graph TD
    HRD["人材育成の体系"]
    OJT["OJT<br>職場内訓練"]
    OFFJT["Off-JT<br>職場外訓練"]
    SD["自己啓発<br>SD"]

    HRD --> OJT
    HRD --> OFFJT
    HRD --> SD

    OJT --> OJT1["トレーナー制度"]
    OJT --> OJT2["メンター制度"]
    OJT --> OJT3["ジョブローテーション"]
    OJT --> OJT4["プロジェクト参画"]

    OFFJT --> OFF1["新入社員研修"]
    OFFJT --> OFF2["階層別研修"]
    OFFJT --> OFF3["職能別研修"]
    OFFJT --> OFF4["外部派遣研修"]

    SD --> SD1["資格取得支援"]
    SD --> SD2["通信教育・eラーニング"]
    SD --> SD3["自主勉強会"]

    style HRD fill:#1a5276,color:#fff
    style OJT fill:#2e86c1,color:#fff
    style OFFJT fill:#2e86c1,color:#fff
    style SD fill:#2e86c1,color:#fff

体系的人材育成の設計原理

効果的な人材育成プログラムの設計は、一般に以下のプロセスを経る。

  1. ニーズ分析(Training Needs Analysis): 組織レベル(経営戦略上の要請)、職務レベル(職務遂行に必要な能力と現有能力のギャップ)、個人レベル(各従業員の能力開発ニーズ)の3水準で教育ニーズを特定する。
  2. 目標設定: 教育訓練によって達成すべき行動目標を具体的・測定可能な形で設定する。
  3. プログラム設計: OJT・Off-JT・自己啓発を組み合わせ、対象者の階層・職種・キャリアステージに応じた教育体系を構築する。
  4. 実施: 設計に基づきプログラムを実行する。
  5. 評価: カークパトリック(Donald Kirkpatrick, 1959)の4段階評価モデルが広く採用されている。すなわち、反応(Reaction: 受講者の満足度)、学習(Learning: 知識・技能の習得度)、行動(Behavior: 職務行動の変容)、結果(Results: 業績指標への影響)の4水準で教育効果を測定する。

日本企業における人材育成の特徴として、長期的視点に立った計画的育成が挙げられる。新入社員には数ヶ月にわたる集合研修(Off-JT)を実施した後、配属先でOJTトレーナーを任命し、1〜3年間の計画的指導を行う体系が多くの大企業で制度化されている。また、ジョブローテーション(定期的な配置転換)を通じて多様な職務経験を積ませ、ゼネラリストとしての能力開発を図ることも日本的人材育成の特質である。


キャリア開発の理論

スーパーのキャリア発達理論

ドナルド・E・スーパー(Donald E. Super)は、キャリアを生涯にわたる発達プロセスとして捉える「ライフスパン・ライフスペース理論(Life-Span, Life-Space Theory)」を提唱した。スーパーの理論は、キャリア発達が個人の自己概念(self-concept)の形成・実現・修正の過程であるとする立場に立つ。

スーパーは、人生を5つの発達段階(ライフステージ)に区分した。

段階 年齢の目安 発達課題
成長期(Growth) 出生〜14歳 自己概念の形成、職業世界への関心
探索期(Exploration) 15〜24歳 職業的選好の明確化、暫定的選択と試行
確立期(Establishment) 25〜44歳 職業的地位の安定化、昇進と専門性の深化
維持期(Maintenance) 45〜64歳 地位・業績の維持、後進の指導
解放期(Disengagement) 65歳以降 引退への移行、新たな役割の模索

スーパーはさらに「ライフ・キャリア・レインボー(Life-Career Rainbow)」の概念を導入し、個人が生涯を通じて子ども、学生、余暇人、市民、労働者、家庭人等の複数の役割(ライフロール)を同時に遂行することを視覚化した。この視点は、キャリアを職業生活のみに限定せず、人生全体の中に位置づける包括的なキャリア観を提示するものである。

シャインのキャリア・アンカー

エドガー・H・シャイン(Edgar H. Schein)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクールの卒業生を対象とした縦断的研究に基づき、「キャリア・アンカー(Career Anchor)」の概念を提唱した(1978年)。

Key Concept: キャリア・アンカー(Career Anchor) 個人がキャリアに関する選択を行う際に、最も放棄したくない自己認識上の拠り所。自己の才能・能力に関する認知、動機・欲求、価値観の3要素から構成される。シャインは当初5類型を提示し、後に8類型に拡張した。

シャインが特定した8つのキャリア・アンカーは以下のとおりである。

  1. 専門・職能別能力(Technical/Functional Competence): 特定分野の専門性の追求
  2. 全般管理能力(General Management Competence): 組織全体の管理・統合への志向
  3. 自律・独立(Autonomy/Independence): 組織の制約から自由な働き方の追求
  4. 保障・安定(Security/Stability): 雇用の安定性と予測可能性の重視
  5. 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity): 新規事業や新たな組織の創造
  6. 奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause): 社会的意義のある仕事への献身
  7. 純粋な挑戦(Pure Challenge): 困難な問題や競争への挑戦
  8. 生活様式(Lifestyle): 仕事と私生活の統合・バランスの追求

キャリア・アンカーは、ある程度の職業経験を積んだ後に安定化するとされ、一度形成されると容易には変化しない。このため「アンカー(錨)」という比喩が用いられる。組織の人材育成においては、個人のキャリア・アンカーを理解した上で、それに適合するキャリアパスや能力開発の機会を提供することが、従業員のコミットメントとパフォーマンスの向上に寄与する。

ホールのプロティアン・キャリア

ダグラス・T・ホール(Douglas T. Hall)は1976年の著書 Careers in Organizations において「プロティアン・キャリア(Protean Career)」の概念を提唱した。「プロティアン」とはギリシャ神話の変幻自在の神プロテウス(Proteus)に由来し、環境変化に応じて自在に形を変えるキャリアのあり方を意味する。

伝統的キャリアモデルが組織内での昇進・地位向上を成功の指標とするのに対し、プロティアン・キャリアでは個人の内的な価値基準に基づく「心理的成功(psychological success)」が成功の指標となる。ホールによれば、プロティアン・キャリア志向の核心をなす2つの次元は以下のとおりである。

  • 自己主導性(Self-Directedness): キャリアの管理主体が組織ではなく個人自身であること。キャリアに関する意思決定を自律的に行う能力と姿勢。
  • 価値志向性(Values-Driven): 外的報酬(給与、地位)ではなく、自己の内的価値観に基づいてキャリア選択を行うこと。

ホールはさらに、プロティアン・キャリアを効果的に遂行するために必要なメタ・コンピテンシーとして、「アイデンティティ意識(Identity Awareness)」と「アダプタビリティ(Adaptability)」の2つを挙げた。前者は自己の価値観・動機・能力についての明確な認知であり、後者は環境変化に対応して自己を変容させる能力である。

プロティアン・キャリアの概念は、終身雇用の弱体化、組織のフラット化、テクノロジーの急速な進展といった21世紀の労働環境の変容を背景に、その重要性を増している。シャインのキャリア・アンカーが「何を放棄しないか」という安定的な自己認識に焦点を当てるのに対し、ホールのプロティアン・キャリアは「いかに変化に適応するか」という動的な能力に焦点を当てる。両理論は対立するものではなく、相互補完的に個人のキャリア発達を説明する。


人事評価の手法

目標管理(MBO)

Key Concept: 目標管理(MBO: Management by Objectives) ピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker)が1954年の著書 The Practice of Management で提唱した管理手法。正式名称は「目標による管理と自己統制(Management by Objectives and Self-Control)」。上司と部下が協議の上で具体的な目標を設定し、その達成度によって業績を評価する仕組みである。

MBOの基本原理は、以下の要素から構成される。

  1. 目標の連鎖(Cascading of Objectives): 組織全体の目標が部門目標、チーム目標、個人目標へと段階的に展開される。各レベルの目標が上位目標と整合することで、組織全体の方向性が統一される。
  2. 参加的目標設定(Participative Goal Setting): 上司が一方的に目標を付与するのではなく、上司と部下の対話を通じて目標を合意形成する。これにより部下の目標へのコミットメントが高まる。
  3. 自己統制(Self-Control): ドラッカーがMBOの本質として最も重視した要素である。目標が明確に設定されれば、個人は自律的にその達成に向けて行動を管理できるとする。外部からの統制ではなく、内発的な動機づけに基づく管理が理想とされる。
  4. 業績レビュー(Performance Review): 設定された目標に対する達成度を定期的に評価し、フィードバックを行う。

MBOの運用プロセスは、一般に以下の循環的サイクルをたどる。

目標設定(期初)→ 中間レビュー(期中)→ 業績評価(期末)→ フィードバック・次期目標設定

MBOの理論的強みは、従業員の自律性と目標へのコミットメントを高め、組織目標と個人目標の整合を図ることにある。しかし、日本企業への導入においては、MBOの「自己統制」の側面が脱落し、ノルマ管理的な運用に変質するケースが多く報告されている。城繁幸(2004)は、富士通における成果主義導入の事例研究を通じて、以下の問題点を指摘した。

  • 目標設定が上司からの一方的な押しつけとなり、参加的プロセスが形骸化した
  • 定量的に測定しにくい職務において客観的な業績指標の設定が困難であった
  • 短期的成果に偏重し、長期的な能力開発や組織貢献が軽視された
  • 部門間・個人間の目標の難易度調整が不十分で、公平性が損なわれた

経営学者の高橋伸夫(2004)も『虚妄の成果主義』において、外発的な金銭的動機づけは内発的動機づけ(仕事そのものの面白さや成長実感)を長期的には凌駕しないと論じ、成果主義的MBO運用の限界を指摘した。MBOの適切な運用には、ドラッカーの原点に立ち返り、「自己統制」の原理を尊重した設計が求められる。

コンピテンシー評価

Key Concept: コンピテンシー(Competency) 高業績者を平均的業績者から区別する、個人の根底にある特性。デイビッド・C・マクレランド(David C. McClelland)が1973年の論文で概念的基盤を提示し、後にボヤツィス、スペンサー夫妻らが体系化した。知識・スキルといった顕在的要素だけでなく、動機・特性・自己概念といった潜在的要素を含む包括的な能力概念である。

コンピテンシー概念の起源は、マクレランドが1973年に American Psychologist 誌に発表した論文 "Testing for Competence Rather Than for Intelligence" に遡る。マクレランドは、伝統的な知能検査や適性検査が職務業績を十分に予測できないことを批判し、実際の職務行動に基づくコンピテンシー評価の必要性を主張した。

その後、リチャード・ボヤツィス(Richard Boyatzis, 1982)は著書 The Competent Manager において、コンピテンシーを「ある職務において効果的ないし優れた業績をもたらす、個人の根底にある特性」と定義し、19の汎用的コンピテンシーを5つのクラスターに整理した。ライル・M・スペンサーとサイン・M・スペンサー(Lyle M. Spencer & Signe M. Spencer, 1993)は著書 Competence at Work において、コンピテンシーを「ある職務や状況における効果的ないし優れた業績と因果的に関連する、個人の根底にある特性」と精緻化した。

スペンサー夫妻はマクレランドの概念を発展させ、「氷山モデル(Iceberg Model)」を提示した。このモデルでは、コンピテンシーを水面上の顕在的要素と水面下の潜在的要素に分類する。

  • 水面上(顕在的要素): 知識(Knowledge)、スキル(Skill)—— 教育訓練によって比較的容易に開発可能
  • 水面下(潜在的要素): 自己概念(Self-Concept)、特性(Trait)、動機(Motive)—— 深層に位置し、観察・測定・開発が困難

氷山モデルの含意は、高業績を生む真の要因は水面下の潜在的要素にあり、知識やスキルの習得だけでは高業績者を育成できないという点にある。したがって、採用においては潜在的コンピテンシーを重視し、育成においては知識・スキルの開発に注力することが効率的であるとされる。

コンピテンシー評価の実務的導入にあたっては、組織固有の「コンピテンシー・モデル」を構築することが必要である。高業績者と平均的業績者を対象とした行動事象面接(BEI: Behavioral Event Interview)を実施し、両者を弁別する行動特性を抽出・体系化する手法が標準的である。

ただし、コンピテンシー評価には測定の困難性という根本的な課題がある。潜在的コンピテンシー(動機、特性)は直接観察が不可能であり、行動指標からの推論に依存する。また、文脈依存性の問題(同一のコンピテンシーが異なる組織・文化・職務において同様に有効であるかどうか)についても議論がある。

360度評価

Key Concept: 360度評価(360-Degree Feedback) 被評価者の上司、同僚、部下、場合によっては顧客や取引先など、複数の立場の関係者から多面的にフィードバックを収集する評価手法。多面評価(Multi-Source Feedback)とも呼ばれる。従来の上司による一方向的評価の限界を補い、評価の多面性と公正性を高めることを目的とする。

360度評価の設計においては、以下の要素が重要となる。

  • 評価者の構成: 上司、同僚、部下、自己評価を基本構成とし、職種によっては社外の顧客・取引先を加える。各カテゴリーから複数名(通常3名以上)の評価を集約することで、個別の評価者のバイアスを緩和する。
  • 評価項目: リーダーシップ、コミュニケーション、チームワーク、問題解決力等、行動レベルで観察可能な項目を設定する。
  • 匿名性の確保: 特に部下からの上方評価(upward feedback)においては、報復の懸念を払拭するために匿名性が不可欠である。
  • 活用目的の明確化: 能力開発(developmental)目的か、処遇決定(administrative)目的か、あるいは両方かを明確にする。

360度評価の効果に関する実証研究として、スミザー、ロンドン、ライリー(James W. Smither, Manuel London & Richard R. Reilly, 2005)による24の縦断的研究のメタ分析が代表的である。この分析では、360度評価後のパフォーマンス改善は統計的に有意であるものの、その効果量は小さい(部下評価で d = 0.15程度)ことが示された。ただし、フィードバックに対する肯定的な態度を持つ受領者、適切な目標設定を行った受領者、コーチングを受けた受領者においては、より大きな改善が観察されたことも報告されている。

360度評価の導入に際しては、その限界も認識する必要がある。評価者間の評価基準の不一致、評価負担の増大、フィードバック結果の解釈の困難さ、処遇目的での使用による率直なフィードバックの阻害等の課題が指摘されている。360度評価が最も効果を発揮するのは、能力開発目的で使用され、フィードバック後のコーチングや行動計画策定と組み合わせた場合であるとする知見が有力である。


人事評価手法の比較

以下の図は、本セクションで取り上げた主要な人事評価手法の特徴と適用場面を整理したものである。

graph LR
    PE["人事評価手法"]

    MBO_N["MBO<br>目標管理"]
    COMP_N["コンピテンシー評価"]
    DEG_N["360度評価"]

    PE --> MBO_N
    PE --> COMP_N
    PE --> DEG_N

    MBO_N --> MBO1["評価対象: 成果・結果"]
    MBO_N --> MBO2["評価主体: 上司"]
    MBO_N --> MBO3["強み: 目標と成果の<br>明確な対応"]
    MBO_N --> MBO4["課題: ノルマ化リスク<br>短期志向"]

    COMP_N --> COMP1["評価対象: 行動特性・能力"]
    COMP_N --> COMP2["評価主体: 上司・専門家"]
    COMP_N --> COMP3["強み: 高業績要因の<br>可視化"]
    COMP_N --> COMP4["課題: 測定困難性<br>文脈依存性"]

    DEG_N --> DEG1["評価対象: 行動・態度"]
    DEG_N --> DEG2["評価主体: 上司・同僚・部下"]
    DEG_N --> DEG3["強み: 多面性<br>公正性向上"]
    DEG_N --> DEG4["課題: 評価負担<br>基準不統一"]

    style PE fill:#1a5276,color:#fff
    style MBO_N fill:#2e86c1,color:#fff
    style COMP_N fill:#2e86c1,color:#fff
    style DEG_N fill:#2e86c1,color:#fff

実務においては、これらの手法は単独で用いられるよりも、組み合わせて運用されることが多い。たとえば、MBOで成果目標の達成度を測定しつつ、コンピテンシー評価で行動プロセスの質を評価し、360度評価で多面的な行動フィードバックを補完するといった統合的運用が一般的である。


評価バイアスとその対策

Key Concept: 評価バイアス(Rating Bias) 人事評価において、評価者の認知的傾向や心理的要因によって体系的に生じる評価の歪み。評価エラー(Rating Error)とも呼ばれる。評価の信頼性と妥当性を損ない、公正な人事管理を阻害する要因となる。

主要な評価バイアスの類型

人事評価において報告される主要なバイアスは、以下のように分類される。

バイアスの類型 英語名 内容
ハロー効果 Halo Effect 特定の優れた(または劣った)特性の印象に引きずられ、他の評価項目も一律に高く(低く)評価する傾向。エドワード・L・ソーンダイク(Edward L. Thorndike)が1920年の論文で初めて実証した
中心化傾向 Central Tendency 評価が尺度の中央値に集中し、被評価者間の差異が適切に反映されない傾向
寛大化傾向 Leniency Bias 実際の業績水準にかかわらず、全体的に甘い(高い)評価を与える傾向
厳格化傾向 Severity Bias 寛大化傾向の逆で、全体的に厳しい(低い)評価を与える傾向
対比誤差 Contrast Error 評価者自身の能力水準を基準として被評価者を評価する傾向。評価者が得意とする領域では厳格に、不得意な領域では寛大になる
近接誤差(期末誤差) Recency Error 評価期間全体ではなく、期末に近い出来事に評価が偏る傾向
論理誤差 Logical Error 事実を確認せず、評価者の推論に基づいて評価を下す傾向。たとえば「学歴が高いから分析力も高いはず」等の推論
逆算化傾向 総合評価を先に決め、その結論に合うよう各評価項目の評点を逆算的に調整する傾向

評価バイアスへの対策

評価バイアスの完全な排除は困難であるが、以下の対策によってその影響を軽減することが可能である。

  1. 評価者訓練(Rater Training): 評価バイアスの存在と類型を評価者に教育し、自覚を促す。フレーム・オブ・リファレンス訓練(Frame-of-Reference Training: FOR訓練)は、評価者間で共通の評価基準(参照枠)を形成させる手法であり、バイアス低減に一定の効果が実証されている。
  2. 行動基準型評価尺度(BARS: Behaviorally Anchored Rating Scales): 各評価段階に具体的な行動記述を対応させた評価尺度を用いることで、評価の客観性と一貫性を高める。
  3. 評価の複数化: 360度評価の導入や、複数の上位管理者による合議(評価会議)を通じて、個人の評価者バイアスを相殺する。
  4. 評価基準の明確化と数値化: 可能な限り定量的・客観的な評価基準を設定し、主観的判断の余地を縮小する。
  5. 評価記録の蓄積: 期中を通じて被評価者の行動・成果を記録し、近接誤差を防止する。
  6. 較正会議(Calibration Session): 管理者間で評価結果を突き合わせ、評価基準の解釈の統一と極端な偏りの是正を行う。

なお、成果主義の導入が人事評価のあり方を大きく変容させたことも付記すべきである。1990年代後半以降、日本企業の多くが年功的評価から成果に基づく評価へと転換を図った。しかし、客観的な業績指標の設定が困難な職種が多いこと、評価者の評価能力が追いつかなかったこと、短期的成果偏重が組織協力やナレッジ共有を阻害したことなどから、多くの企業が制度設計の見直しを迫られた。現在では、成果のみならずプロセス(行動・能力)も含めた多面的評価を組み合わせる方向に収斂しつつある。


まとめ

  • 人材育成はOJT・Off-JT・自己啓発の3方法論を体系的に組み合わせることで効果を発揮する。OJTは実務的スキルの習得と暗黙知の移転に、Off-JTは体系的知識の付与に、自己啓発は個人の自律的成長にそれぞれ強みを持つ。
  • キャリア開発の理論として、スーパーのライフスパン・ライフスペース理論(生涯発達としてのキャリア)、シャインのキャリア・アンカー(個人の不変的な職業的自己認識)、ホールのプロティアン・キャリア(自己主導的・適応的なキャリア)がある。これらは相互補完的に個人のキャリア発達を説明する。
  • 人事評価の主要手法として、MBO(成果目標の達成度評価)、コンピテンシー評価(高業績者の行動特性に基づく評価)、360度評価(多面的フィードバックによる評価)がある。実務では複数の手法を組み合わせて運用することが一般的である。
  • 人事評価には不可避的に認知バイアスが介入する。ハロー効果、中心化傾向、寛大化傾向をはじめとする多様なバイアスに対し、評価者訓練、行動基準型尺度、複数評価者制、較正会議等の対策が有効である。
  • 次のセクション(Section 3: 報酬制度)では、人事評価の結果がどのように報酬に反映されるか、報酬制度の理論と設計原理を扱う。

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
OJT On-the-Job Training 日常の業務遂行を通じて、上司・先輩が部下・後輩に計画的に知識・技能・態度を指導する教育訓練方法
Off-JT Off-the-Job Training 日常の業務を離れて実施される教育訓練。集合研修、外部セミナー、eラーニング等の形態をとる
キャリア・アンカー Career Anchor 個人がキャリア選択において最も放棄したくない自己認識上の拠り所。才能・動機・価値観の3要素から構成される
目標管理 Management by Objectives (MBO) ドラッカーが提唱した、上司と部下の協議による目標設定と達成度評価に基づく管理手法
コンピテンシー Competency 高業績者を平均的業績者から区別する個人の根底にある特性。知識・スキル・動機・特性・自己概念を含む
360度評価 360-Degree Feedback 上司・同僚・部下等の複数の立場から多面的にフィードバックを収集する評価手法
評価バイアス Rating Bias 評価者の認知的傾向や心理的要因により体系的に生じる評価の歪み

確認問題

Q1: OJTとOff-JTの特徴をそれぞれ述べ、両者を組み合わせることの意義を説明せよ。

A1: OJTは実際の業務を通じた指導であり、即時的な業務適応と暗黙知の移転に優れるが、体系的な知識の習得が困難である。Off-JTは業務を離れた研修であり、体系的な知識・理論の付与に適するが、学習内容の実務への転移が課題となる。両者を組み合わせることで、Off-JTで習得した体系的知識をOJTの実践場面で定着・応用させることが可能となり、教育効果の相乗的向上が期待できる。

Q2: シャインのキャリア・アンカーとホールのプロティアン・キャリアは、それぞれ個人のキャリアのどのような側面に焦点を当てているか。両理論の関係を論じよ。

A2: シャインのキャリア・アンカーは、個人の安定的な自己認識(才能・動機・価値観)に焦点を当て、キャリア選択において「何を放棄しないか」という不変的な拠り所を重視する。一方、ホールのプロティアン・キャリアは、環境変化への適応能力(アダプタビリティ)と自己主導的なキャリア管理に焦点を当て、「いかに変化に対応するか」という動的な能力を重視する。両理論は対立するものではなく、キャリア・アンカーが個人のキャリアにおける「安定軸」を、プロティアン・キャリアが「適応メカニズム」を説明する相互補完的な関係にある。

Q3: MBOが日本企業においてノルマ管理に変質した要因を、ドラッカーの原理に照らして説明せよ。

A3: ドラッカーのMBOの正式名称は「目標による管理と自己統制(Management by Objectives and Self-Control)」であり、「自己統制」が本質的要素である。しかし日本企業への導入過程で、この自己統制の要素が脱落した。具体的には、目標設定が上司と部下の対話ではなく上司からの一方的付与となり参加的プロセスが形骸化したこと、定量化しにくい職務で無理に数値目標を設定したこと、短期的成果への偏重により長期的能力開発が軽視されたことが要因として挙げられる。結果として、MBOは従業員の自律性と内発的動機づけを高める仕組みから、ノルマ達成を外部的に管理する仕組みへと変質した。

Q4: コンピテンシーの「氷山モデル」において、水面下の潜在的要素が重要であるとされる理由を述べよ。また、この特徴が人材の採用と育成にどのような示唆を与えるか論じよ。

A4: 氷山モデルでは、知識やスキル(水面上)は教育訓練で比較的容易に開発可能であるのに対し、動機・特性・自己概念(水面下)は深層に位置するため観察・測定・開発が困難である。高業績者を平均的業績者から真に区別するのは水面下の潜在的要素であるとされる。この特徴は、採用においては知識・スキルよりも潜在的コンピテンシー(動機、特性)を重視した選考が重要であること、育成においては知識・スキルの訓練は効果的に実施できるが潜在的特性の開発には限界があることを示唆する。したがって、「潜在的コンピテンシーに基づいて採用し、知識・スキルを育成で補う」というアプローチが効率的であるとされる。

Q5: ある企業で人事評価において中心化傾向と近接誤差が問題となっている場合、どのような対策が有効か。具体的な施策を複数挙げて説明せよ。

A5: 中心化傾向への対策としては、行動基準型評価尺度(BARS)の導入により各評価段階に具体的な行動記述を対応させることで評価者が差異をつけやすくすること、較正会議(Calibration Session)で管理者間の評価基準を摺り合わせること、評価者訓練でバイアスの存在と影響を自覚させることが有効である。近接誤差への対策としては、期中を通じた評価記録の蓄積(評価日記等)により期末近くの出来事への偏りを防止すること、中間レビューの実施により期中の業績も体系的に把握すること、MBOの期初目標に対する達成度を基準とすることで評価の時間的偏りを軽減することが挙げられる。