Module 3-1 - Section 1: オペレーション戦略とプロセス設計¶
セクション情報¶
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モジュール | Module 3-1: オペレーションズ・マネジメント |
| 前提セクション | なし |
| 想定学習時間 | 3時間 |
導入¶
本セクションは、Module 3-1「オペレーションズ・マネジメント」の冒頭に位置し、生産・サービス提供プロセスの管理に関する基本概念と戦略的枠組みを扱う。オペレーションズ・マネジメントは、企業が製品やサービスを生み出す「変換プロセス」を対象とする領域であり、経営戦略を実行に移す上で中核的な役割を担う。本セクションでは、まずオペレーションズ・マネジメントの定義と経営戦略との関係を整理し、次にオペレーション戦略の概念的枠組み、プロセス設計の類型、キャパシティ管理、そして制約理論(TOC)を順に取り上げる。続くSection 2以降では、本セクションで提示した枠組みの上に、生産管理システム、品質管理、サプライチェーン・マネジメント等の各論を展開する。
オペレーションズ・マネジメントの定義と位置づけ¶
Key Concept: オペレーションズ・マネジメント(Operations Management) 組織がインプット(原材料、情報、労働力、資本等)をアウトプット(製品・サービス)に変換するプロセスを計画・組織化・統制する経営管理活動の総称である。製造業のみならず、サービス業、医療、行政等あらゆる組織に適用される。
オペレーションズ・マネジメント(Operations Management, 以下OM)は、企業の3大機能(マーケティング、財務、オペレーション)の一つとして位置づけられる。マーケティングが「何を、誰に」提供するかを決定し、財務が「どの資源を、いかに調達するか」を管理するのに対し、オペレーションは「いかにして」製品・サービスを生み出すかを担う。
経営戦略との関係¶
企業戦略(Corporate Strategy)は事業ポートフォリオの選択を、事業戦略(Business Strategy)は個別事業における競争の仕方を規定する。オペレーション戦略は、この事業戦略を受けて、生産・サービス提供の仕組みを設計・運営する方針を定める機能戦略(Functional Strategy)である。ここで重要なのは、オペレーションが単に「戦略を実行する」受動的な存在ではなく、それ自体が競争優位の源泉となりうるという点である。この認識は、ウィクハム・スキナー(Wickham Skinner)が1969年にHarvard Business Reviewに発表した論文 "Manufacturing — Missing Link in Corporate Strategy" において初めて体系的に主張された。スキナーは、製造機能が企業戦略から切り離されて管理されている現状を批判し、製造を戦略的に位置づけることの重要性を説いた。
オペレーション戦略の概念¶
Key Concept: オペレーション戦略(Operations Strategy) 企業の競争戦略を支えるために、オペレーション機能の長期的な方向性・目標・意思決定パターンを定めた計画・方針の体系である。プロセス設計、キャパシティ、技術選択、サプライチェーン構築等に関する戦略的意思決定を含む。
ヘイズ&ウィールライトの4段階モデル¶
ロバート・H・ヘイズ(Robert H. Hayes)とスティーヴン・C・ウィールライト(Steven C. Wheelwright)は、1984年の著書 Restoring Our Competitive Edge: Competing Through Manufacturing において、オペレーション機能が企業の競争力にどの程度貢献しているかを評価する4段階モデルを提唱した。このモデルは、オペレーション機能の戦略的成熟度を測る枠組みとして広く参照されている。
| 段階 | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| Stage 1 | 内部的中立(Internally Neutral) | オペレーションは「足を引っ張らない」ことが目標。内向き・受動的で、戦略的貢献は最小限 |
| Stage 2 | 外部的中立(Externally Neutral) | 業界標準への追随を目指す。競合他社のベストプラクティスを模倣し、競争上の不利を回避する |
| Stage 3 | 内部的支援(Internally Supportive) | 事業戦略を積極的に支援する。戦略目標に適合したオペレーション資源を開発し、業界上位の水準を達成する |
| Stage 4 | 外部的支援(Externally Supportive) | オペレーション自体が競争優位の基盤となる。将来の市場変化を先取りしたオペレーション能力を構築し、事業戦略を牽引する |
Stage 1からStage 4への進化は、オペレーション機能が「必要悪」から「戦略的武器」へと変貌する過程を示している。例えば、トヨタ自動車のトヨタ生産方式(Toyota Production System, TPS)は、Stage 4の典型例とされる。TPSは自働化(Jidoka)とジャスト・イン・タイム(Just-in-Time, JIT)の2本柱を通じて、品質とコストの同時追求を実現し、オペレーション能力そのものが同社の競争優位の源泉となっている。
5つのオペレーション目標¶
ナイジェル・スラック(Nigel Slack)らは、オペレーションが追求すべき5つの競争的パフォーマンス目標を体系化した。これらはオペレーション戦略の方向性を定める基本軸となる。
| 目標 | 英語 | 定義 |
|---|---|---|
| コスト | Cost | 製品・サービスを低コストで生産・提供する能力 |
| 品質 | Quality | 顧客の期待を満たす、またはそれを超える製品・サービスを一貫して提供する能力 |
| スピード | Speed | 顧客の要求から製品・サービスの提供までの時間を短縮する能力 |
| 信頼性 | Dependability | 約束した納期・品質を一貫して守る能力 |
| 柔軟性 | Flexibility | 需要変動、製品仕様の変更、新製品導入等に迅速に対応する能力 |
トレードオフか両立か:サンドコーン・モデル¶
伝統的な見解では、これら5つの目標間にはトレードオフが存在するとされてきた。スキナー(1969)は、製造システムは限られた数の目標に集中すべきであり、すべてを同時に追求することは不可能であると主張した(フォーカス工場の概念)。
これに対し、カスラ・フェルドウズ(Kasra Ferdows)とアルノー・ド・メイヤー(Arnoud De Meyer)は1990年に「サンドコーン・モデル(Sand Cone Model)」を提唱し、累積的能力構築(Cumulative Capability)の概念を提示した。このモデルでは、オペレーション能力は砂の山のように段階的に積み上がるものであり、まず品質を基盤として確立し、その上に信頼性、次に柔軟性(スピード)、最後にコスト効率を構築するという順序が示される。すなわち、品質→信頼性→柔軟性→コストの順で累積的に能力を築くことで、トレードオフを克服し複数目標の同時達成が可能となる。トヨタのTPSは、品質を基盤に据えてコスト低減も実現したという点で、サンドコーン・モデルの妥当性を裏付ける代表的事例と解釈されている。
ただし、サンドコーン・モデルの普遍性については議論がある。Schroeder, Shah, and Peng(2011)の研究では、累積的能力構築の順序が必ずしもフェルドウズとド・メイヤーの主張通りではなく、産業や企業の文脈によって異なりうることが示されている。現在の通説としては、「一定の順序での累積的構築は可能だが、その順序は文脈依存的である」という立場が有力である。
プロセス設計の類型¶
製品やサービスを生み出す変換プロセスは、生産量と製品の多様性に応じていくつかの類型に分類される。主要な5つのプロセス類型を以下に示す。
| プロセス類型 | 英語 | 生産量 | 製品多様性 | 代表例 |
|---|---|---|---|---|
| プロジェクト型 | Project | 極少(1品) | 極めて高い | 造船、建設、映画制作 |
| ジョブショップ型 | Job Shop | 少量 | 高い | 金型工場、印刷所 |
| バッチ型 | Batch | 中量 | 中程度 | 製パン、衣料品製造 |
| ライン型 | Line / Assembly Line | 大量 | 低い | 自動車組立、家電製造 |
| 連続型 | Continuous Flow | 極めて大量 | 極めて低い | 石油精製、製紙、化学プラント |
プロジェクト型(Project) は、各製品が固有の仕様を持ち、一回限りまたは極めて少数の生産を行う。資源は必要に応じてプロジェクトごとに調達・配置され、プロジェクトマネジメントの手法(ガントチャート、PERT/CPM等)が管理に用いられる。
ジョブショップ型(Job Shop) は、多品種少量生産に対応する柔軟なプロセスである。汎用的な設備を備え、製品ごとに異なる工程順序で加工を行う。熟練労働者を必要とし、生産効率よりも柔軟性を重視する。
バッチ型(Batch) は、ジョブショップ型とライン型の中間に位置する。ある程度の量をまとめて(バッチ単位で)処理し、バッチ間で段取り替えを行う。工程順序はジョブショップ型ほど多様ではなく、ある程度標準化されている。
ライン型(Line / Assembly Line) は、固定された工程順序に沿って製品を流す大量生産プロセスである。コンベアベルト等で工程間が物理的に連結され、生産のペースが統制される。ヘンリー・フォード(Henry Ford)がT型フォードの生産で確立した移動組立ラインが原型である。
連続型(Continuous Flow) は、ライン型をさらに極端にしたプロセスであり、製品が離散的な単位ではなく連続的な流れとして処理される。自動化の程度が極めて高く、24時間稼働が一般的である。
製品-プロセスマトリクス¶
Key Concept: 製品-プロセスマトリクス(Product-Process Matrix) ヘイズとウィールライトが1979年にHarvard Business Reviewで発表した分析枠組み。製品のライフサイクル段階(多品種少量から少品種大量へ)と、プロセスのライフサイクル段階(ジョブショップから連続フローへ)の対応関係を示すマトリクスである。
ヘイズとウィールライトは、1979年のHarvard Business Review論文 "Link Manufacturing Process and Product Life Cycles" および "The Dynamics of Process-Product Life Cycles" において、製品特性とプロセス類型の適合関係を示す製品-プロセスマトリクスを提唱した。
このマトリクスの縦軸はプロセス構造(ジョブショップ→バッチ→ライン→連続フロー)、横軸は製品構造(多品種少量→少品種大量)を表す。対角線上に位置する組み合わせが「自然な適合」であり、多品種少量の製品にはジョブショップ型が、少品種大量の製品にはライン型や連続型が適合する。対角線から外れた位置は、非効率やミスマッチを示す。
quadrantChart
title "製品-プロセスマトリクス"
x-axis "多品種少量" --> "少品種大量"
y-axis "連続フロー" --> "ジョブショップ"
quadrant-1 "ジョブショップ x 少量: 自然な適合"
quadrant-2 "ジョブショップ x 大量: 非効率"
quadrant-3 "連続フロー x 大量: 自然な適合"
quadrant-4 "連続フロー x 少量: 過剰投資"
"金型工場": [0.2, 0.85]
"製パン工場": [0.4, 0.6]
"自動車組立": [0.7, 0.35]
"石油精製": [0.9, 0.15]
"注文家具": [0.15, 0.75]
"衣料品工場": [0.5, 0.5]
対角線の上側(ジョブショップ型で大量生産を試みる位置)は、設備の汎用性は高いが生産効率が低く、コスト面で不利となる。逆に対角線の下側(連続型で多品種を扱う位置)は、高度に自動化された設備が柔軟性を欠き、過剰投資のリスクがある。企業は製品戦略の変更に伴い、プロセス構造も対角線に沿って移行させる必要がある。
サウスウエスト航空の事例¶
サウスウエスト航空(Southwest Airlines)は、航空業界においてプロセス設計と競争戦略の整合を高度に実現した例である。同社は単一機種(ボーイング737)への統一、座席指定の廃止、ポイント・トゥ・ポイントの路線設計等により、ターンアラウンドタイム(到着から次の出発までの所要時間)を業界平均の45分に対して約25〜35分に短縮した。これにより同機材でより多くのフライトを運航でき、資産稼働率を大幅に向上させた。このオペレーション設計は、低コスト・高スピードという明確なオペレーション目標に対して、プロセスの各要素を徹底的に整合させた結果である。
キャパシティ管理¶
Key Concept: キャパシティ(Capacity) ある生産システムが一定期間内に産出できる最大の生産量または処理量のこと。設計キャパシティ(理論上の最大能力)と実効キャパシティ(現実的に達成可能な能力)に区分される。
キャパシティ管理(Capacity Management)は、需要に対して適切な生産能力を確保するための計画と統制の活動である。キャパシティの過不足は、いずれもコストを生じさせる。キャパシティ不足は機会損失と顧客離反を招き、過剰キャパシティは遊休資産コストを発生させる。
稼働率¶
稼働率(Utilization)は、実効キャパシティに対する実際の産出量の比率であり、次の式で表される。
$$\text{稼働率} = \frac{\text{実際の産出量}}{\text{設計キャパシティ}} \times 100\%$$
なお、効率(Efficiency)は実効キャパシティを基準とする。
$$\text{効率} = \frac{\text{実際の産出量}}{\text{実効キャパシティ}} \times 100\%$$
稼働率100%は理論上の理想値であるが、設備保全、段取り替え、品質管理等の理由から、現実には85〜90%程度が実効的な上限となることが多い。
キャパシティ計画の3戦略¶
需要変動に対するキャパシティの調整方針として、以下の3つの基本戦略がある。
| 戦略 | 英語 | 特徴 | リスク |
|---|---|---|---|
| リード・キャパシティ | Lead Capacity | 需要増加を見越して先行的にキャパシティを拡大する | 需要が予測を下回った場合の過剰投資 |
| ラグ・キャパシティ | Lag Capacity | 需要が実際に増加してからキャパシティを拡大する | 需要急増時の機会損失・顧客離反 |
| マッチ・キャパシティ | Match Capacity | 需要変動に合わせて段階的にキャパシティを調整する | 頻繁な調整に伴う管理コスト |
リード・キャパシティ戦略は攻撃的なアプローチであり、サービスレベルの向上やリードタイムの短縮を通じて競合からの顧客獲得を狙う。成長市場や、キャパシティ不足のコストが過剰のコストを上回る場合に適する。
ラグ・キャパシティ戦略は保守的なアプローチであり、過剰投資のリスクを最小化する。需要が安定的または予測困難な市場、あるいは設備投資の回収が長期にわたる場合に適する。
マッチ・キャパシティ戦略は両者の中間に位置し、需要に対して小刻みにキャパシティを追加する。予測精度がある程度確保できる場合に有効であるが、頻繁な投資判断が必要となる。
制約理論とボトルネック管理¶
Key Concept: 制約理論(Theory of Constraints: TOC) エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)が1984年の著書『ザ・ゴール(The Goal)』で提唱した経営管理哲学。あらゆるシステムには少なくとも1つの制約(ボトルネック)が存在し、システム全体のパフォーマンスはその制約によって規定されるという原理に基づく。
Key Concept: ボトルネック(Bottleneck) 生産システムにおいて、システム全体の産出量(スループット)を制限している工程または資源のこと。チェーンの最も弱い環に相当する。
Key Concept: スループット(Throughput) TOCにおいて、システムが販売を通じて金銭を生み出す速度のこと。単なる生産量ではなく、実際に販売された分のみをスループットと定義する点が特徴的である。
TOCの基本原理¶
ゴールドラットのTOCは、以下の前提に立つ。
- あらゆるシステムには少なくとも1つの制約が存在する
- システム全体の産出量は、その制約の産出量によって決定される
- 制約以外の工程を局所的に最適化しても、システム全体のパフォーマンスは向上しない
TOCにおける業績測定は、伝統的な原価計算とは異なるスループット会計(Throughput Accounting)に基づく。スループット会計は3つの指標を用いる。
| 指標 | 定義 |
|---|---|
| スループット(T) | 売上高から真の変動費(原材料費等)を差し引いたもの |
| 在庫/投資(I) | システムが販売目的で購入したものに投じた金額 |
| 業務費用(OE) | システムが在庫をスループットに変換するために費やす金額 |
TOCの目標は、Tを最大化しつつ、IとOEを最小化することである。
5つの集中ステップ¶
TOCは、制約を体系的に管理するための「5つの集中ステップ(Five Focusing Steps)」を提示する。
graph LR
A["1. 制約の特定<br/>Identify"] --> B["2. 制約の活用<br/>Exploit"]
B --> C["3. 制約への従属<br/>Subordinate"]
C --> D["4. 制約の強化<br/>Elevate"]
D --> E["5. 繰り返し<br/>Repeat"]
E -->|"新たな制約が出現"| A
Step 1: 制約の特定(Identify) — システム全体のスループットを制限している制約(ボトルネック)を特定する。ボトルネックの前に仕掛品が滞留している工程、稼働率が常に100%近い工程等が手がかりとなる。
Step 2: 制約の活用(Exploit) — 既存の資源の範囲内で、制約のスループットを最大化する。具体的には、制約工程の段取り替え時間の短縮、稼働停止の最小化、不良品の制約工程への投入防止等が含まれる。
Step 3: 制約への従属(Subordinate) — 制約以外のすべての工程を、制約のペースに合わせて運用する。制約工程の処理能力を超える速度で前工程が生産を行えば、仕掛品在庫が増大するだけで全体のスループットは改善しない。ドラム・バッファ・ロープ(Drum-Buffer-Rope, DBR)と呼ばれるスケジューリング手法は、この従属の原理を実装したものである。
Step 4: 制約の強化(Elevate) — Step 2と3を実施してもなお不十分な場合、追加的な資源投入(設備増設、人員増加、外注等)により制約のキャパシティを引き上げる。このステップは追加投資を伴うため、費用対効果の慎重な評価が必要となる。
Step 5: 繰り返し(Repeat) — 制約が解消されると、システム内の別の箇所が新たな制約として浮上する。Step 1に戻り、継続的改善のサイクルを回す。ゴールドラットは「惰性(inertia)を制約にしてはならない」と警告し、過去の成功体験への固執を戒めている。
『ザ・ゴール』における具体例¶
ゴールドラットの小説『ザ・ゴール』(1984年)では、架空の工場マネージャーであるアレックス・ロゴ(Alex Rogo)が、赤字の工場を立て直す過程が描かれる。ロゴは物理学者ジョナ(Jonah)の助言を受け、ボトルネック工程(NCX-10という旧式の数値制御機械とヒートトリート炉)を特定する。従来は全工程の稼働率最大化を目指していたが、ボトルネック以外の工程の局所最適化がかえって仕掛品在庫を増大させ、リードタイムを延長させていたことを発見する。ボトルネックに集中する管理手法に転換した結果、スループットの増大とリードタイムの短縮を同時に実現するという筋書きである。
TOCの学術的評価¶
TOCは実務的に広く受容されているが、学術的な評価は分かれている。実務面では、ボトルネックへの集中という原理のシンプルさと直感的理解のしやすさが高く評価される。一方、学術面では以下の批判がある。
- 理論的精緻さの不足: TOCは演繹的な理論体系というよりも、実践的なヒューリスティクス(経験則)の集合であるとの指摘がある
- 単一制約の仮定の限界: 現実のシステムでは複数の制約が同時に存在する場合があり、単一制約を前提とするTOCの適用範囲には限界がある
- 線形計画法との関係: 数理計画法の観点からは、TOCの核心は線形計画法におけるシャドー・プライスの概念と本質的に同一であるとの指摘がある
それでもなお、TOCが複雑な生産システムの管理に対して明快な指針を与えるという実務的価値は広く認められており、製造業だけでなくプロジェクト管理(クリティカルチェーン法)やサプライチェーン管理等にも応用が広がっている。
まとめ¶
- オペレーションズ・マネジメントは、インプットをアウトプットに変換するプロセスの管理活動であり、企業の競争戦略と密接に結びつく
- ヘイズ&ウィールライトの4段階モデルは、オペレーション機能の戦略的成熟度を内部的中立→外部的中立→内部的支援→外部的支援の4段階で評価する枠組みである
- 5つのオペレーション目標(コスト、品質、スピード、信頼性、柔軟性)は、オペレーション戦略の方向性を定める基本軸であり、それらの間にトレードオフが存在するか累積的に構築可能かは、サンドコーン・モデルを含む議論が継続している
- プロセス設計は、プロジェクト型からジョブショップ型、バッチ型、ライン型、連続型まで5類型に分類され、製品-プロセスマトリクスによって製品特性との適合が評価される
- キャパシティ管理では、需要変動に対するリード・ラグ・マッチの3戦略を適切に選択する必要がある
- 制約理論(TOC)は、システム全体のスループットがボトルネックによって規定されるという原理に基づき、5つの集中ステップによる継続的改善を提示する
- 次のSection 2「生産管理システム」では、本セクションで扱ったプロセス設計の枠組みの上に、MRP、JIT、リーン生産方式等の具体的な生産管理手法を取り上げる
用語集(Glossary)¶
| 用語 | 英語表記 | 定義 |
|---|---|---|
| オペレーションズ・マネジメント | Operations Management | インプットをアウトプットに変換するプロセスを計画・組織化・統制する経営管理活動の総称 |
| オペレーション戦略 | Operations Strategy | 競争戦略を支えるオペレーション機能の長期的方向性・目標・意思決定パターンの体系 |
| 製品-プロセスマトリクス | Product-Process Matrix | 製品のライフサイクル段階とプロセスのライフサイクル段階の適合関係を示す分析枠組み |
| キャパシティ | Capacity | 生産システムが一定期間内に産出できる最大の生産量または処理量 |
| 制約理論 | Theory of Constraints (TOC) | ゴールドラットが提唱した、制約に着目してシステム全体の最適化を図る経営管理哲学 |
| ボトルネック | Bottleneck | システム全体のスループットを制限している工程または資源 |
| スループット | Throughput | TOCにおいて、システムが販売を通じて金銭を生み出す速度 |
確認問題¶
Q1: オペレーションが追求すべき5つのパフォーマンス目標をすべて挙げ、それぞれの定義を簡潔に述べよ。
A1: 5つの目標は以下の通りである。(1) コスト:製品・サービスを低コストで生産・提供する能力。(2) 品質:顧客の期待を満たす、またはそれを超える製品・サービスを一貫して提供する能力。(3) スピード:顧客要求から提供までの時間を短縮する能力。(4) 信頼性(Dependability):約束した納期・品質を一貫して守る能力。(5) 柔軟性:需要変動や仕様変更、新製品導入等に迅速に対応する能力。
Q2: ヘイズ&ウィールライトの製品-プロセスマトリクスにおいて、「対角線上の適合」とはどのような意味か。また、対角線から外れた位置にある企業はどのような問題に直面するか説明せよ。
A2: 製品-プロセスマトリクスの対角線上の適合とは、製品の品種数・生産量とプロセス構造が整合している状態を指す。多品種少量の製品にはジョブショップ型が、少品種大量の製品にはライン型・連続型が適合する。対角線の上側(柔軟なプロセスで大量生産を試みる位置)では生産効率が低くコスト競争力を欠き、下側(高度に自動化されたプロセスで多品種を扱う位置)では柔軟性を欠き過剰投資のリスクが生じる。
Q3: サンドコーン・モデルの主張とスキナーのフォーカス工場の概念は、オペレーション目標間の関係についてどのように異なる見解を示しているか。両者の違いを論じ、現在の学術的な評価について述べよ。
A3: スキナーのフォーカス工場の概念は、オペレーション目標間にトレードオフが存在し、製造システムは限られた目標に集中すべきであると主張する。一方、フェルドウズとド・メイヤーのサンドコーン・モデルは、品質→信頼性→柔軟性→コストの順序で累積的に能力を構築することで、複数目標の同時達成が可能であるとする。現在の学術的評価としては、累積的能力構築自体は支持されているが、その順序がフェルドウズとド・メイヤーの提示した順序に固定されるかは文脈依存的であり、産業特性や企業の状況により異なりうるとする見解が有力である。
Q4: TOCの「5つの集中ステップ」を順に述べ、各ステップで具体的に何を行うかを説明せよ。
A4: (1) 制約の特定(Identify):システム全体のスループットを制限しているボトルネック工程を特定する。(2) 制約の活用(Exploit):既存資源の範囲内でボトルネックのスループットを最大化する(段取り替え時間短縮、稼働停止最小化、不良品投入防止等)。(3) 制約への従属(Subordinate):他のすべての工程をボトルネックのペースに合わせて運用する。(4) 制約の強化(Elevate):追加投資(設備増設、人員増加等)によりボトルネックのキャパシティを引き上げる。(5) 繰り返し(Repeat):制約が解消されたら新たな制約を特定し、サイクルを再開する。
Q5: ある工場で、工程A(処理能力: 100個/時間)→工程B(処理能力: 60個/時間)→工程C(処理能力: 80個/時間)という直列の生産ラインがある。TOCの観点から、この工場のスループットを改善するためにどのような手順で取り組むべきか、具体的に説明せよ。
A5: TOCの観点では、まずStep 1としてボトルネックを特定する。この直列ラインでは工程Bが処理能力60個/時間で最小であり、ボトルネックである。システム全体のスループットは工程Bの60個/時間に制約される。Step 2(活用)として、工程Bの段取り替え時間短縮、休憩時間のシフト調整による稼働時間最大化、不良品の工程B投入前での排除等を行う。Step 3(従属)として、工程Aの生産ペースを工程Bに合わせて調整し(100個/時間ではなく60個/時間で稼働)、工程B前の仕掛品在庫の過剰蓄積を防ぐ。Step 4(強化)として、これらの施策でも不十分な場合、工程Bの設備増設や外注化等の追加投資を検討する。Step 5として、工程Bの能力が向上し制約でなくなった場合、次に最も処理能力の低い工程(工程C: 80個/時間)が新たなボトルネックとなるため、再びStep 1から取り組む。