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Module 3-1 - Section 2: 生産管理システム

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-1: オペレーションズ・マネジメント
前提セクション Section 1: オペレーション戦略とプロセス設計
想定学習時間 3時間

導入

前セクションでは、オペレーションズ・マネジメントの基本概念、オペレーション戦略の枠組み、プロセス設計の類型、キャパシティ管理、および制約理論(TOC)を扱った。本セクションでは、それらの枠組みの上に構築される具体的な生産管理システムを取り上げる。生産管理システムとは、「何を、いつ、どれだけ生産・調達するか」を体系的に計画・統制する仕組みであり、前セクションで論じたプロセス設計やキャパシティ管理を実際の生産現場で運用可能にする実行レベルの管理手法である。

本セクションでは、まず需要予測に基づいて生産計画を立案し必要資材を逆算するプッシュ型の代表であるMRP(資材所要量計画)を解説する。次に、MRPの発展形であるMRP IIおよびERPへの展開を概観する。続いて、後工程からの引き取り信号に基づいて生産を駆動するプル型の代表としてジャストインタイム(JIT)とトヨタ生産方式(TPS)を取り上げ、その具体的な実装手段であるかんばん方式を説明する。さらに、TPSを学術的に再体系化したリーン生産方式について論じ、最後にプッシュ型とプル型の比較を行う。


資材所要量計画(MRP)

Key Concept: 資材所要量計画(MRP: Material Requirements Planning) 最終製品の生産計画から部品表(BOM)を用いて部品・原材料の所要量を逆算し、在庫状況を加味して正味の調達・製造必要量とその時期を計算するコンピュータベースの生産計画手法である。1960年代にジョセフ・オーリッキー(Joseph Orlicky)らによって体系化された。

MRPの背景と独立需要・従属需要

MRPの理論的基盤は、独立需要(independent demand)と従属需要(dependent demand)の区別にある。最終製品に対する需要は市場から独立に生じるものであり(独立需要)、統計的手法による予測が適用される。一方、最終製品を構成する部品や原材料に対する需要は、最終製品の生産量から一義的に決定される(従属需要)。例えば、自動車1台にタイヤが4本必要であるならば、自動車100台の生産計画からタイヤ400本という従属需要が確定する。MRP以前の在庫管理手法(発注点方式等)は、独立需要と従属需要を区別せずに統計的手法を適用していたため、従属需要品目に対して過剰在庫や欠品が生じやすいという問題があった。MRPはこの問題を、最終製品の生産計画から部品所要量を論理的に導出することで解決する。

MRPの3つの入力要素

MRPは以下の3つの入力情報に基づいて計算を行う。

Key Concept: 基準生産計画(MPS: Master Production Schedule) 最終製品(または主要な中間品目)について、何を・いつ・いくつ生産するかを期間別に規定した計画である。需要予測、受注残、在庫方針等を統合して作成され、MRPの起点となる。

1. 基準生産計画(MPS: Master Production Schedule)

MPSは、最終製品の生産数量と時期を期間(通常は週単位)ごとに定めたものである。需要予測、確定受注、安全在庫水準、目標在庫水準等を考慮して作成される。MPSはMRPの最上位の入力であり、MPSの精度がMRP全体の計算結果の信頼性を左右する。

2. 部品表(BOM: Bill of Materials)

BOMは、最終製品がどのような部品・原材料から構成されるかを階層的に記述した構成情報である。BOMは通常、木構造(ツリー構造)で表現され、最上位に最終製品(レベル0)、その下位に組立品(レベル1)、さらにその下位に部品・原材料(レベル2以下)が配置される。各親子関係には所要数量(使用量)が定義される。

3. 在庫記録ファイル(Inventory Records)

各品目の現時点での手持在庫量、発注済み未入荷量(スケジュールド・レシート)、リードタイム、ロットサイズ、安全在庫量等の情報を品目別に管理するファイルである。MRPはこの情報を用いて、総所要量から正味所要量を計算する。

MRPの処理ロジック

MRPの計算は、BOMの上位レベルから下位レベルへと順に行われる(レベルバイレベル処理)。各品目について以下の手順で処理される。

  1. 総所要量の算出: 親品目の計画オーダーに基づき、BOMの所要数量を乗じて当該品目の総所要量を期間別に算出する
  2. 正味所要量の算出: 総所要量から、手持在庫量とスケジュールド・レシートを差し引いて正味所要量を算出する
  3. ロットサイズの決定: 正味所要量に対してロットサイジング・ルール(ロット・フォー・ロット、固定数量発注、期間まとめ発注等)を適用し、計画オーダー数量を決定する
  4. リードタイムの考慮(オフセット): 計画オーダーの必要時期からリードタイムを遡って、オーダーの発行(リリース)時期を決定する
graph TD
    subgraph 入力
        MPS["基準生産計画<br/>MPS"]
        BOM["部品表<br/>BOM"]
        INV["在庫記録ファイル"]
    end

    subgraph "MRP処理エンジン"
        GROSS["総所要量の算出"]
        NET["正味所要量の算出"]
        LOT["ロットサイジング"]
        OFFSET["リードタイム・オフセット"]
    end

    subgraph 出力
        PO["計画オーダー<br/>発注・製造指示"]
        REPLAN["再計画通知<br/>例外メッセージ"]
        REPORT["各種レポート"]
    end

    MPS --> GROSS
    BOM --> GROSS
    GROSS --> NET
    INV --> NET
    NET --> LOT
    LOT --> OFFSET
    OFFSET --> PO
    OFFSET --> REPLAN
    OFFSET --> REPORT

MRPの計算例

以下に簡単な数値例を示す。製品Xは、部品Aを2個、部品Bを1個使用して組み立てられるとする。

製品Xの基準生産計画(MPS):

期間 1 2 3 4 5
製品X生産計画 0 0 50 0 100

部品Aの所要量計算(BOM上の所要数量: 2個/製品X、リードタイム: 1期間、手持在庫: 60個):

期間 1 2 3 4 5
総所要量 0 0 100 0 200
手持在庫 60 60 0 0 0
正味所要量 0 0 40 0 200
計画オーダー(リリース) 0 40 0 200 0

第3期に製品X50個を生産するため、部品Aは100個(50 x 2)必要である。手持在庫60個を充当すると正味所要量は40個となる。リードタイムが1期間であるため、第2期に40個のオーダーをリリースする。同様に、第5期に製品X100個を生産するため部品Aは200個必要であり、在庫がないため正味所要量は200個、第4期にリリースとなる。


MRP IIとERPへの発展

MRP II(製造資源計画)

MRPは資材の所要量計画に特化したシステムであったが、1980年代にオリバー・ワイト(Oliver Wight)らの主導により、その範囲が拡張された。拡張版はMRP II(Manufacturing Resource Planning: 製造資源計画) と呼ばれ、資材のみならず人員・設備・資金等の製造資源全体を統合的に計画する仕組みへと発展した。MRP IIでは、生産計画と財務計画が連動し、キャパシティ所要量計画(CRP: Capacity Requirements Planning)や購買管理、原価管理等の機能が統合された。MRPが「何を、いくつ調達するか」に焦点を当てていたのに対し、MRP IIは「その生産計画は資源制約の下で実行可能か」という実行可能性の検証を含む点が本質的な拡張である。

ERP(企業資源計画)

1990年代に入ると、MRP IIの枠組みはさらに拡張され、製造部門だけでなく会計・人事・販売・物流等の企業全体の業務プロセスを一つのデータベース上で統合管理するシステムへと発展した。この統合システムがERP(Enterprise Resource Planning: 企業資源計画)である。ガートナー社(Gartner)が1990年代初頭にこの用語を提唱した。ERPは、部門間のデータの二重入力や情報の断絶を解消し、リアルタイムでの経営情報の可視化を実現する。SAP、Oracle等のERPパッケージが企業の基幹情報システムとして広く普及した。

MRPからMRP II、ERPへの発展は、生産管理の計画対象が「資材」から「製造資源全体」へ、さらに「企業全体の経営資源」へと段階的に拡大してきた過程として理解できる。


ジャストインタイム(JIT)とトヨタ生産方式(TPS)

ジャストインタイム(JIT)の概念

Key Concept: ジャストインタイム(JIT: Just-In-Time) 「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産・調達する生産思想である。在庫を極小化し、ムダの徹底排除を通じてリードタイムの短縮とコスト低減を実現する。トヨタ自動車の大野耐一らが体系化した。

JITは、MRPとは根本的に異なる生産管理の考え方に立脚する。MRPが将来の需要予測に基づいて計画を策定し、その計画に従って生産を「押し出す」(プッシュ型)のに対し、JITは後工程の実際の消費に基づいて前工程に生産を指示する「引き取り方式」(プル型)を採用する。JITにおいて在庫は、問題を覆い隠す「水面」に喩えられる。水位(在庫量)を下げることで水面下に隠れていた岩(品質不良、設備故障、段取り替えの遅さ等の問題)が露出し、それらを一つひとつ解決していくことで生産システム全体が改善される。

トヨタ生産方式(TPS)の体系

Key Concept: トヨタ生産方式(Toyota Production System: TPS) トヨタ自動車の大野耐一(おおのたいいち)、鈴村喜久雄らが構築した生産管理の体系。「ジャストインタイム」と「自働化(にんべんのついた自動化)」を2本柱とし、ムダの徹底排除による原価低減を目標とする。

TPSは、以下の体系で構成される。

目標: 原価低減による利益の確保。「売価 = 原価 + 利益」ではなく「利益 = 売価 - 原価」という発想に立ち、売価を市場が決定する所与とした上で、原価の低減を追求する。

2本柱:

  1. ジャストインタイム(JIT): 「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産する。後工程引き取り、工程の流れ化、タクトタイムによる生産ペースの統制が3原則である。
  2. 自働化(Jidoka): 異常が発生した際に機械が自動的に停止し、不良品の後工程への流出を防止する仕組みである。語源は、豊田佐吉が発明した自動織機に遡る。この織機は経糸が切れると自動的に停止する機構を備えており、1台の工員が複数の織機を監視することを可能にした。TPSにおける自働化は、機械の自動停止だけでなく、異常時に作業者がラインを停止させる権限を持つ「あんどん」システムを含む。

基盤: JITと自働化を支える基盤として、平準化(heijunka: 生産量と品種の均等化)、標準作業(標準の作業順序・タクトタイム・標準手持ちの3要素)、カイゼン(継続的改善)が位置づけられる。

大野耐一と7つのムダ

Key Concept: ムダ(Waste / Muda) TPSにおいて付加価値を生まない一切の活動を指す。大野耐一は製造現場におけるムダを7種類に分類し、その徹底排除を原価低減の基本原理とした。

大野耐一は、製造現場に潜むムダを以下の7つに体系化した。

ムダの種類 内容
1. つくり過ぎのムダ 必要以上に生産すること。大野はこれを最大のムダと位置づけた。他の6つのムダを誘発するためである
2. 手待ちのムダ 前工程からの部品待ち、設備の加工完了待ち等で作業者が手を動かせない状態
3. 運搬のムダ 付加価値を生まない材料・製品の移動
4. 加工そのもののムダ 技術的・工学的に不必要な加工工程の存在
5. 在庫のムダ 必要量を超える原材料・仕掛品・完成品の保有
6. 動作のムダ 付加価値を生まない作業者の身体動作(歩行、探す、持ち替え等)
7. 不良品をつくるムダ 不良品の発生とその手直し・廃棄にかかる資源の浪費

大野は「つくり過ぎのムダ」を最も重大なムダとした。これは、つくり過ぎが在庫のムダを生み、在庫が運搬のムダを誘発し、在庫があることで不良品の発見が遅れ、手待ちのムダが在庫に隠蔽される、というように他の全てのムダの温床となるためである。

かんばん方式

Key Concept: かんばん方式(Kanban System) JITを現場で実現するための情報伝達ツール。「かんばん」と呼ばれるカード(または信号)を用いて、後工程が前工程に必要な部品の種類・数量・時期を伝達する。

かんばん方式は、JITの原則である「後工程引き取り」を実装する具体的な仕組みである。かんばんには主に以下の2種類がある。

引き取りかんばん(Withdrawal Kanban): 後工程が前工程の完成品置場(ストア)から部品を引き取る際に使用する。後工程が必要とする部品の品名、数量、引き取り先(ストアの位置)等が記載されている。

仕掛けかんばん(Production Kanban): 前工程に対して生産を指示するかんばん。後工程が部品を引き取った際に、前工程にその分の補充生産を指示する役割を果たす。

かんばんの運用ルール:

  1. 後工程は必要なものを、必要なときに、必要な量だけ前工程から引き取る
  2. 前工程は引き取られた分だけ、引き取られた順序で生産する
  3. かんばんのないものは生産しない・運搬しない
  4. かんばんは必ず現物に付ける
  5. 不良品を後工程に送らない
  6. かんばんの枚数を減らしていく(在庫の継続的削減)

かんばんの枚数が工程間の仕掛品在庫量の上限を規定する。かんばんの枚数を段階的に減らすことで在庫を削減し、問題を顕在化させ、改善を促進するという仕組みが組み込まれている。


リーン生産方式

Key Concept: リーン生産方式(Lean Production) MITの国際自動車研究プログラム(IMVP)の研究成果に基づき、ジェームズ・P・ウォマック(James P. Womack)、ダニエル・T・ジョーンズ(Daniel T. Jones)、ダニエル・ルース(Daniel Roos)らが体系化した生産管理思想。トヨタ生産方式を出発点としつつ、それを一般化・抽象化した原理体系であり、「ムダの排除による価値の最大化」を中核に据える。

MITのIMVPとリーン生産方式の誕生

1985年にMIT(マサチューセッツ工科大学)で開始されたIMVP(International Motor Vehicle Program: 国際自動車研究プログラム)は、世界の自動車産業を対象とした大規模な比較研究であった。この研究の成果として、ウォマック、ジョーンズ、ルースは1990年に The Machine That Changed the World(邦訳『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』)を刊行した。同書は、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーの生産方式がアメリカやヨーロッパの大量生産方式を凌駕していることを実証的データに基づいて示し、前者を「リーン生産方式」、後者を「大量生産方式」と名づけた。「リーン(lean)」とは「贅肉のない、無駄のない」という意味であり、大量生産方式の半分の工数、半分のスペース、半分の在庫で、はるかに多様な製品をより高い品質で生産できるシステムとして提示された。

ウォマック&ジョーンズの5原則

ウォマックとジョーンズは、1996年の著書 Lean Thinking: Banish Waste and Create Wealth in Your Corporation(邦訳『リーン・シンキング』)において、リーン生産方式の本質を5つの原則として抽出した。

原則 英語 内容
1. 価値の定義 Value 価値は顧客の視点からのみ定義される。顧客が対価を支払う意思のある機能・サービスのみが価値である
2. バリューストリームの特定 Value Stream 製品・サービスが顧客に届くまでの全活動を明らかにし、価値を生む活動・生まない活動・ムダを識別する
3. フローの確立 Flow 価値を生む活動を中断なく連続的に流れるように配置する。バッチ処理や滞留を排除し、1個流しを志向する
4. プルの実現 Pull 生産者の都合ではなく、顧客の需要に引かれて生産する。つくり過ぎのムダを根本的に防止する
5. 完全性の追求 Perfection 完全にムダのない状態を究極の目標とし、継続的改善を終わりなく追求する

5原則は1から5へと順序的に適用される。まず価値を正しく定義し(1)、その価値を生み出す一連の活動を可視化し(2)、価値創造活動を連続的に流れさせ(3)、顧客の引き(プル)に基づいて生産を開始し(4)、完全性の追求を通じて改善を継続する(5)。

TPSとリーン生産方式の関係

TPSとリーン生産方式は密接な関係にあるが、同一ではない。TPSはトヨタの固有の経営環境・文化の中で発展した具体的な生産システムであり、自働化やかんばん方式といった固有のツール・手法を含む。一方、リーン生産方式はTPSの根底にある原理を抽出し、製造業以外を含むあらゆる組織に適用可能な形に一般化したものである。リーン生産方式は、TPSの思想を「翻訳」して世界に普及させた枠組みであると位置づけられる。


プッシュ型とプル型の比較

MRPに代表されるプッシュ型と、JIT/かんばん方式に代表されるプル型は、生産管理における2つの基本的なアプローチである。

graph LR
    subgraph "プッシュ型 MRP"
        direction LR
        P1["需要予測<br/>MPS"] --> P2["MRP<br/>計画策定"]
        P2 --> P3["工程1<br/>生産指示"]
        P3 -->|"製品を押し出す"| P4["工程2<br/>生産指示"]
        P4 -->|"製品を押し出す"| P5["工程3<br/>生産指示"]
        P5 --> P6["完成品<br/>在庫"]
    end

    subgraph "プル型 JIT / かんばん"
        direction LR
        Q1["顧客<br/>需要発生"] --> Q6["工程3"]
        Q6 -->|"かんばんで引き取り"| Q5["工程2"]
        Q5 -->|"かんばんで引き取り"| Q4["工程1"]
    end
比較項目 プッシュ型(MRP) プル型(JIT/かんばん)
生産の起点 需要予測・計画 後工程からの実需信号
情報の流れ 上流(計画)から下流(現場)へ 下流(後工程)から上流(前工程)へ
在庫の位置づけ 需要変動への緩衝材として許容 問題を隠すムダとして削減対象
計画の更新頻度 定期的(週次・日次のMRP再計算) リアルタイム(かんばんの流通に連動)
需要予測への依存度 高い(予測誤差が在庫過不足に直結) 低い(実需に基づく)
適する製品特性 多品種・複雑な部品構成、リードタイムが長い製品 比較的少品種、安定した需要、短いリードタイム
適する需要パターン 変動が大きい需要、季節性のある需要 比較的安定した需要
主な課題 予測精度への依存、データ管理の負荷 需要急変時の対応力、サプライヤーとの緊密な連携が必要

プッシュ型の長所と限界

MRP(プッシュ型)の最大の長所は、複雑な製品構成と長いリードタイムを持つ製品に対して、事前に体系的な調達・生産計画を立案できる点にある。航空機、産業機械など、数千点の部品から構成される製品では、従属需要の計算にMRPが不可欠である。一方、MRPは需要予測の精度に強く依存し、予測と実需の乖離は過剰在庫や欠品を引き起こす。また、計画の再計算に一定の時間を要するため、急激な需要変動への即応性に限界がある。

プル型の長所と限界

JIT/かんばん方式(プル型)の長所は、在庫の極小化、リードタイムの短縮、問題の早期顕在化にある。実需に基づいて生産を行うため、つくり過ぎのムダが構造的に抑制される。一方、プル型は需要が比較的安定していることを前提としており、需要の急激な変動には脆弱である。また、サプライヤーとの高頻度・小ロットの納入体制が必要であり、サプライチェーン全体の緊密な協力関係が求められる。

ハイブリッド・アプローチ

現実の生産管理では、プッシュ型とプル型を二者択一的に捉えるのではなく、両者を組み合わせたハイブリッド・アプローチが広く採用されている。例えば、長いリードタイムを要する原材料の調達にはMRP(プッシュ型)を適用し、最終組立や完成品の出荷にはかんばん方式(プル型)を適用するという方法がある。このようなプッシュ・プル境界点(Push-Pull Boundary)の設定は、製品特性、需要パターン、サプライチェーンの構造に応じて各企業が最適化すべきものである。


まとめ

  • MRP(資材所要量計画)は、基準生産計画(MPS)・部品表(BOM)・在庫記録ファイルの3つの入力から従属需要品目の所要量とタイミングを逆算する、プッシュ型の生産計画手法である
  • MRPは資材計画から製造資源計画(MRP II)、さらに企業全体の経営資源を統合管理するERP(企業資源計画)へと段階的に発展した
  • JIT(ジャストインタイム)は「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産するプル型の生産思想であり、在庫をムダとして極小化を追求する
  • TPS(トヨタ生産方式)は、JITと自働化を2本柱とし、7つのムダの排除・平準化・標準作業・カイゼンを基盤とする生産管理の体系である
  • かんばん方式は、引き取りかんばんと仕掛けかんばんによって後工程引き取りを実装する情報伝達の仕組みである
  • リーン生産方式は、MITのIMVPの成果としてTPSの原理を一般化・抽象化したものであり、価値・バリューストリーム・フロー・プル・完全性の5原則で体系化される
  • プッシュ型とプル型は対立概念ではなく、製品特性・需要パターンに応じてハイブリッドに組み合わせることが実務上有効である
  • 次のSection 3「品質管理」では、生産管理システムと密接に関連する品質の確保・向上の手法を取り上げる

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
資材所要量計画 Material Requirements Planning (MRP) 最終製品の生産計画からBOMを用いて部品・原材料の所要量を逆算するコンピュータベースの生産計画手法
基準生産計画 Master Production Schedule (MPS) 最終製品の生産数量と時期を期間別に規定した計画。MRPの起点となる
ジャストインタイム Just-In-Time (JIT) 必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産・調達する生産思想
かんばん方式 Kanban System 後工程引き取りを実現するため、かんばん(カード)を用いて工程間の情報伝達を行う仕組み
トヨタ生産方式 Toyota Production System (TPS) JITと自働化を2本柱とし、ムダの徹底排除による原価低減を目指す生産管理の体系
リーン生産方式 Lean Production TPSの原理を一般化・抽象化し、あらゆる組織に適用可能にした生産管理思想
ムダ Waste / Muda 付加価値を生まない一切の活動。大野耐一は7種類に分類した

確認問題

Q1: MRPの3つの入力要素を挙げ、それぞれがMRPの計算においてどのような役割を果たすか説明せよ。

A1: MRPの3つの入力要素は、(1) 基準生産計画(MPS)、(2) 部品表(BOM)、(3) 在庫記録ファイルである。MPSは最終製品の生産数量と時期を規定し、MRP計算の起点となる。BOMは最終製品の部品構成を階層的に記述しており、MPSの生産数量にBOMの所要数量を乗じることで各部品の総所要量が算出される。在庫記録ファイルは各品目の手持在庫量やスケジュールド・レシート、リードタイム等の情報を提供し、総所要量から手持在庫を差し引いて正味所要量を計算し、リードタイムを考慮したオーダーリリース時期の決定に用いられる。

Q2: プッシュ型(MRP)とプル型(JIT/かんばん)の生産管理において、「生産を駆動する情報の流れ」はどのように異なるか。それぞれの本質的な違いを説明せよ。

A2: プッシュ型(MRP)では、需要予測に基づいて策定された計画情報が上位(計画部門)から下位(各工程)へと流れ、各工程は計画に従って生産を「押し出す」。生産を駆動するのは将来の予測である。一方、プル型(JIT/かんばん)では、後工程が実際に消費した分だけ前工程にかんばんで補充を指示するため、情報は下流(後工程)から上流(前工程)へと流れる。生産を駆動するのは現時点の実需(実際の消費)である。プッシュ型は予測の精度に依存し、プル型は実需に即応する点が本質的な違いである。

Q3: 大野耐一が「つくり過ぎのムダ」を7つのムダの中で最も重大と位置づけた理由を説明せよ。

A3: つくり過ぎのムダは、他の6つのムダを誘発する根源的なムダであるため、大野はこれを最も重大と位置づけた。つくり過ぎは在庫のムダを直接生み出す。在庫が増えれば運搬のムダが発生し、保管スペースや管理工数も増大する。さらに、在庫が緩衝材となることで不良品の発見が遅れ(不良品をつくるムダの隠蔽)、設備故障や工程間の不均衡も在庫によって問題が顕在化しにくくなる。つまり、つくり過ぎのムダは他の全てのムダの温床として機能し、生産システム全体の問題を覆い隠すため、最優先で排除すべき対象とされた。

Q4: ウォマック&ジョーンズのリーン5原則を順に述べ、なぜこの順序で適用されるか説明せよ。

A4: リーン5原則は、(1) 価値の定義(Value)、(2) バリューストリームの特定(Value Stream)、(3) フローの確立(Flow)、(4) プルの実現(Pull)、(5) 完全性の追求(Perfection)である。この順序には論理的必然性がある。まず顧客視点から価値を正しく定義しなければ、何がムダかを判断できない(1)。価値が定義されて初めて、その価値を生み出す全活動を可視化し、価値を生まない活動(ムダ)を識別できる(2)。ムダを除去した上で、残った価値創造活動を中断なく流れるように配置する(3)。フローが確立された状態で、顧客の引き(需要)に基づいて生産を開始することでつくり過ぎを防止する(4)。そしてこれら全体を終わりなく改善し続ける(5)。各原則は前の原則の実現を前提としており、段階的に適用される。

Q5: ある企業が多品種の産業機械を受注生産している。一方で、一部の標準部品は安定した需要がある。この企業の生産管理システムとして、プッシュ型とプル型をどのように組み合わせるのが合理的か、その理由とともに論じよ。

A5: この企業には、プッシュ・プル境界点を設定したハイブリッド・アプローチが合理的である。多品種の産業機械は受注生産であり、複雑な部品構成と長いリードタイムを持つため、受注後に部品展開と調達計画を体系的に行うMRP(プッシュ型)が適する。最終製品ごとに異なる部品構成をBOMに基づいて展開し、リードタイムを考慮した発注時期を計算する必要があるためである。一方、安定した需要がある標準部品については、かんばん方式(プル型)を適用して実際の消費に基づく補充を行うことで、在庫の極小化と管理工数の削減が実現できる。需要が安定している品目はプル型が有効に機能し、予測誤差に伴う過剰在庫のリスクを排除できる。具体的には、受注品の固有部品にはMRPを適用し、共通標準部品の工程間補充にはかんばんを適用するという組み合わせが、この企業の製品特性と需要パターンに適合する。