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Module 3-1 - Section 3: 品質管理

セクション情報

項目 内容
モジュール Module 3-1: オペレーションズ・マネジメント
前提セクション Section 1, Section 2
想定学習時間 3.5時間

導入

Section 1「オペレーション戦略とプロセス設計」では、オペレーションが追求すべき5つの競争的パフォーマンス目標の一つとして「品質」を位置づけた。品質は、サンドコーン・モデルにおいて他の能力(信頼性、柔軟性、コスト)を積み上げる基盤として最初に確立すべきものとされる。本セクションでは、その「品質」の概念自体を掘り下げ、品質とは何か、それをいかに管理・改善するかという問題を体系的に扱う。

品質管理(Quality Management)は、20世紀の経営管理において最も大きな変革をもたらした領域の一つである。1920年代のシューハートによる統計的手法の導入に始まり、デミングとジュランによる日本への知識移転、日本企業によるTQCの独自発展、そして1980年代以降のシックスシグマやISO 9000シリーズの普及に至るまで、品質管理の思想と手法は製造業のみならず、サービス業、医療、行政等あらゆる組織の運営を変容させてきた。


品質の定義と次元

「品質」という概念は直感的に理解できるように見えて、実は多義的である。デイヴィッド・A・ガービン(David A. Garvin)は、1984年のSloan Management Review論文 "What Does 'Product Quality' Really Mean?" において、品質の定義に関する5つのアプローチを整理し、さらに1987年のHarvard Business Review論文で品質を8つの次元に分解する枠組みを提唱した。

ガービンの品質に関する5つのアプローチ

アプローチ 英語 内容
超越的アプローチ Transcendent 品質は普遍的に認識される卓越性であり、厳密に定義できないが経験によって認知される
製品ベース Product-based 品質は製品に含まれる望ましい属性の量で測定される。客観的・定量的な定義
ユーザーベース User-based 品質はユーザーの欲求やニーズへの適合度で決まる。ジュランの「使用への適合(fitness for use)」が代表的
製造ベース Manufacturing-based 品質は仕様への適合(conformance to specifications)として定義される。クロスビーの「品質とは要求事項への適合である」が代表的
価値ベース Value-based 品質は受容可能な価格での卓越性、またはコストに対する適合の度合いとして定義される

これらのアプローチは相互に排他的ではなく、立場や文脈によって採用される定義が異なる。設計部門はユーザーベース、製造部門は製造ベース、経営層は価値ベースで品質を捉える傾向がある。

ガービンの品質8次元

Key Concept: ガービンの品質8次元(Garvin's Eight Dimensions of Quality) ガービンが1987年に提唱した品質の多面的分析枠組み。品質を性能、特徴、信頼性、適合性、耐久性、サービス性、美的品質、知覚品質の8次元に分解し、企業が競争上どの次元に注力するかを戦略的に選択できることを示した。

次元 英語 内容
性能 Performance 製品の主要な動作特性。自動車であれば加速性能、燃費等
特徴 Features 基本機能を補完する付加的な特性。「付加機能」とも訳される
信頼性 Reliability 一定期間内に故障しない確率。MTBF(平均故障間隔)等で測定される
適合性 Conformance 設計仕様・規格への適合度合い。製造ベースの品質観に対応する
耐久性 Durability 製品が劣化するまでの使用可能期間または使用量
サービス性 Serviceability 修理の迅速性、容易性、丁寧さ
美的品質 Aesthetics 外観、感触、音、味、香り等の主観的属性
知覚品質 Perceived Quality ブランドイメージ、評判等に基づく主観的品質認知

ガービンの枠組みの戦略的意義は、企業が8次元すべてで卓越する必要はなく、自社の競争戦略に合致した次元に集中することで差別化が可能であるという点にある。例えば、トヨタは信頼性と適合性、アップルは美的品質と知覚品質に注力することで、それぞれ独自の品質ポジションを確立している。


品質管理の歴史的展開

品質管理の発展は、検査中心の品質保証から、統計的手法の導入、全社的品質管理、そしてグローバルな品質標準の普及へと段階的に進化してきた。

timeline
    title 品質管理の歴史的展開
    1920s : シューハート
          : 管理図の発明 1924
          : ベル研究所でのSQC研究
    1940s : 戦時品質管理
          : 米軍による統計的抜取検査の普及
          : MIL-STD規格の策定
    1950s : デミングの日本訪問 1950
          : ジュランの日本訪問 1954
          : デミング賞の創設 1951
    1960s : 石川馨のQCサークル 1962
          : フィーゲンバウムのTQC
          : 日本的品質管理の確立
    1980s : シックスシグマの開発 1986
          : ISO 9000シリーズ初版 1987
          : マルコム・ボルドリッジ賞 1987
    1990s : GEのシックスシグマ導入 1995
          : TQMの国際的普及
          : リーンシックスシグマの登場

シューハート:統計的品質管理の創始

ウォルター・A・シューハート(Walter A. Shewhart)は、1924年にベル研究所(Bell Telephone Laboratories)において管理図(Control Chart)を考案した。シューハートは、製造プロセスにおけるばらつきに「偶然原因(chance causes)」と「異常原因(assignable causes)」の2種類があることを区別し、この区別に基づくプロセス管理の原理を確立した。1931年の著書『Economic Control of Quality of Manufactured Product』は、統計的品質管理(SQC)の体系的基盤を築いた。

デミング:日本の品質革命への貢献

W・エドワーズ・デミング(W. Edwards Deming)は、シューハートの弟子であり、統計的品質管理を経営哲学へと発展させた人物である。1950年、日本科学技術連盟(JUSE: Union of Japanese Scientists and Engineers)の招聘により来日し、68日間にわたって10回の講義、3つの研修コース、経営者向け品質管理講座を実施した。デミングは日本の技術者・経営者数百名に対し、統計的プロセス管理(SPC)と品質の概念を教授した。

デミングの講義は、日本の製造業に根本的な変革をもたらした。デミングが日本の経営者に伝えた核心的メッセージは、「品質を向上させれば、費用は減少し、同時に生産性と市場シェアが向上する」というものであった。デミングは講義の印税を辞退したため、JUSEは1950年12月にデミング賞(Deming Prize)を創設し、品質管理への卓越した貢献を顕彰する制度を設けた。

ジュラン:品質管理の経営的体系化

ジョセフ・M・ジュラン(Joseph M. Juran)は、1954年にJUSEの招聘で来日し、品質管理を経営管理の体系に統合する視点を提供した。ジュランの主要な貢献は以下の通りである。

  • 品質の定義: 「使用への適合(fitness for use)」として品質を定義し、顧客視点を品質管理の中心に据えた
  • ジュランのトリロジー(Juran Trilogy): 1986年に提唱した品質管理の3つの基本プロセス。品質計画(Quality Planning)、品質管理(Quality Control)、品質改善(Quality Improvement)から構成される
  • パレート原則の品質への適用: 品質問題の大部分は少数の原因に起因するという「重要な少数と些細な多数(vital few and trivial many)」の原則を品質管理に導入した

日本的品質管理の独自展開

デミングとジュランの教えを受けた日本の品質管理は、独自の発展を遂げた。石川馨(Kaoru Ishikawa)は、品質管理の民主化を推進し、1962年にQCサークル(Quality Control Circle)の概念を導入した。QCサークルは、現場の作業者が自主的に小集団を形成し、品質改善活動を行う仕組みである。日本ワイヤレス・テレグラフ社が最初に導入し、1962年末には36社がJUSEに登録、1978年には推定100万サークル・1,000万人の労働者が参加するまでに成長した。

石川は特性要因図(Cause-and-Effect Diagram、別名フィッシュボーン・ダイアグラム)をはじめとする「QC7つ道具」を体系化し、統計的手法を現場レベルで活用可能な形に整備した。日本的品質管理の特徴は、品質を専門家だけでなく全従業員の責務として位置づけた点にある。


統計的品質管理と管理図

Key Concept: 統計的品質管理(SQC: Statistical Quality Control) 統計学的手法を用いて製造プロセスのばらつきを分析・管理し、品質水準を維持・向上させる方法論の総称。シューハートの管理図に端を発し、抜取検査(Acceptance Sampling)、実験計画法(Design of Experiments)等を含む。

統計的品質管理の中核をなすのは、プロセスにおけるばらつきの統計的理解である。

ばらつきの2つの原因

シューハートは、プロセスのばらつきを2種類に区別した。

原因の種類 英語 特徴
偶然原因(共通原因) Common Causes / Chance Causes プロセスに内在する自然なばらつき。多数の小さな要因の累積であり、個別に特定・除去することは困難。プロセスが安定している状態でも存在する
異常原因(特殊原因) Assignable Causes / Special Causes 通常とは異なる特定可能な要因によるばらつき。設備の故障、材料の変更、作業者の交替等が原因であり、特定・除去が可能かつ必要

偶然原因のみが作用しているプロセスは「統計的管理状態(in statistical control)」にあるとされ、その挙動は予測可能である。異常原因が発生すると、プロセスは管理状態を逸脱し、介入が必要となる。

管理図の構造と原理

Key Concept: 管理図(Control Chart) プロセスの統計量(平均値、範囲等)を時系列でプロットし、中心線(CL)と上方管理限界(UCL)・下方管理限界(LCL)を設定して、プロセスが統計的管理状態にあるかを判定するグラフ。シューハートが1924年に考案した。

管理図は、横軸に時間(サンプル番号)、縦軸にプロセスの統計量をとり、以下の3本の線を描く。

  • 中心線(CL: Center Line): プロセスの平均値
  • 上方管理限界(UCL: Upper Control Limit): CL + 3σ
  • 下方管理限界(LCL: Lower Control Limit): CL - 3σ

ここでσはプロセスの統計量の標準偏差である。管理限界を±3σに設定する根拠は、正規分布の下でデータの99.73%がこの範囲内に収まるため、管理限界を超えるデータ点は異常原因の存在を強く示唆するという統計的推論にある。シューハートは、この設定が「異常の見逃し」と「正常への過剰反応」のトレードオフを適切にバランスさせることを経験的に見出した。

管理図の主な種類

管理図は、データの性質によって計量値管理図と計数値管理図に大別される。

分類 管理図の名称 監視対象 用途
計量値 X-bar-R管理図 サンプル平均値と範囲 連続的な測定値(寸法、重量等)のプロセス中心とばらつきの管理
計量値 X-bar-S管理図 サンプル平均値と標準偏差 サンプルサイズが大きい場合(n > 10程度)の管理
計量値 個別値管理図 個々の測定値と移動範囲 サンプルサイズが1の場合(化学プロセス等)
計数値 p管理図 不良率 サンプルサイズが変動する場合の不良品割合の管理
計数値 np管理図 不良個数 サンプルサイズが一定の場合の不良品数の管理
計数値 c管理図 欠点数 検査単位が一定の場合の欠点数の管理
計数値 u管理図 単位あたり欠点数 検査単位が変動する場合の欠点数の管理

X-bar-R管理図は最も広く使用される管理図であり、計量値データのプロセス管理において標準的な手法である。X-bar管理図はプロセスの平均値(中心)の変動を、R管理図はプロセスのばらつき(散らばり)の変動をそれぞれ監視する。両者を対にして使用することで、プロセスの中心とばらつきの双方を同時に管理できる。

プロセス能力指数

管理図によりプロセスが統計的管理状態にあることを確認した上で、そのプロセスが仕様を満たす能力を定量的に評価する指標がプロセス能力指数である。

  • Cp(プロセス能力指数): 仕様幅に対するプロセスのばらつきの比。Cp = (USL - LSL) / 6σ。ここでUSLは上方仕様限界、LSLは下方仕様限界。
  • Cpk(片側プロセス能力指数): プロセスの中心の偏りを考慮した指数。Cpk = min{(USL - μ) / 3σ, (μ - LSL) / 3σ}。

一般にCpk ≥ 1.33が望ましいとされ、シックスシグマではCpk = 2.0(短期的にはCp = 2.0、1.5σシフトを許容してCpk ≈ 1.5)を目標とする。


全社的品質管理(TQM)

Key Concept: 全社的品質管理(TQM: Total Quality Management) 組織全体で品質向上に継続的に取り組む経営管理アプローチ。顧客満足を最終目標とし、全従業員の参加、プロセス重視、データに基づく意思決定、継続的改善を基本原則とする。品質を特定部門の責務ではなく、組織全体の経営課題として位置づける点に特徴がある。

TQMの起源と展開

TQMの概念的基盤は、1950年代から1960年代にかけて形成された。アーマンド・V・フィーゲンバウム(Armand V. Feigenbaum)は、1956年の論文 "Total Quality Control" において、品質管理を設計から販売・サービスに至る全プロセスにわたって組織横断的に行うべきであるという概念を初めて提唱した。この概念は日本に伝わり、石川馨らによって全社的品質管理(TQC: Total Quality Control)として独自に発展した。

TQMという用語自体は、1985年に米海軍航空システム司令部(Naval Air Systems Command)が日本式の品質管理アプローチを記述するために造語したとされる。1980年代後半から1990年代前半にかけて、TQMは北米・欧州で広く普及し、その後ISO 9000、リーン生産方式、シックスシグマ等の品質マネジメント・フレームワークに発展・継承された。

TQMの基本原則

TQMは以下の基本原則に基づく。

原則 内容
顧客重視 品質の最終的な判定者は顧客である。顧客の期待を理解し、それを満たすまたは超えることを目指す
全員参加 経営層から現場作業者まで、全従業員が品質改善に主体的に参加する
プロセス重視 結果(成果)のみでなく、結果を生み出すプロセスに注目し、その改善を図る
継続的改善 品質改善は一度きりの活動ではなく、終わりのない継続的プロセスである
事実に基づく意思決定 直感や経験則ではなく、データと統計的分析に基づいて意思決定を行う
システム思考 個別のプロセスや部門を孤立的に最適化するのではなく、組織全体をシステムとして捉える
リーダーシップ 経営層が品質に対するコミットメントを示し、ビジョンと方向性を提供する

デミングの14のポイント

Key Concept: PDCAサイクル(PDCA Cycle) Plan(計画)- Do(実行)- Check(確認)- Act(改善)の4段階を繰り返すことで継続的改善を実現する管理サイクル。シューハートが原型(PDSA: Plan-Do-Study-Act)を提唱し、デミングが普及させた。「デミング・サイクル」とも呼ばれる。

デミングは著書『Out of the Crisis』(1986年)において、経営変革のための「14のポイント」を提示した。これはTQMの哲学的基盤をなすものであり、単なる品質管理の技法ではなく、経営そのものの変革を求めている。

# ポイント 要旨
1 目的の恒常性を確立する 短期的利益ではなく、競争力維持・雇用確保のための長期的改善に一貫して取り組む
2 新しい哲学を採用する 遅延、ミス、不良品を許容する旧来の経営哲学を捨て、変革の哲学を受け入れる
3 検査への依存をやめる 品質は検査ではなくプロセスに組み込む。大量検査によって品質を達成しようとすることをやめる
4 価格のみによる取引慣行をやめる 最低価格での調達ではなく、総コストの最小化を図り、信頼できる単一の供給者との長期的関係を構築する
5 改善を絶え間なく継続する 計画・生産・サービスのあらゆるプロセスを常に改善し続ける
6 職場内訓練を制度化する 体系的なOJTにより、全従業員の能力を継続的に向上させる
7 リーダーシップを確立する 監督者の仕事は数値目標の強制ではなく、人と機械がより良い仕事をできるよう支援することである
8 恐怖を排除する 従業員が質問・提案・問題指摘を恐れない環境を作る
9 部門間の壁を取り払う 研究・設計・販売・製造等の部門間の障壁を排除し、チームとして協働する
10 スローガンと数値目標をやめる 従業員向けのスローガン・標語・数値目標を廃止する。問題の大半はシステムに起因し、従業員個人の努力では解決できない
11 数値ノルマを廃止する 現場のノルマと管理層の数値目標を廃止し、リーダーシップに置き換える
12 仕事の誇りを奪う障壁を除去する 年次評定や成果主義を廃止し、従業員が仕事そのものに誇りを持てるようにする
13 教育と自己改善を奨励する 全従業員に対する教育・自己啓発プログラムを積極的に推進する
14 変革を全員の仕事にする 経営変革は全員の課題であり、組織全体で推進体制を構築する

デミングの14のポイントの基底にあるのは、「深遠なる知識の体系(System of Profound Knowledge)」である。これは、(1) システムに対する理解(Appreciation for a System)、(2) ばらつきに関する知識(Knowledge about Variation)、(3) 知識の理論(Theory of Knowledge)、(4) 心理学(Psychology)の4要素から構成される。デミングは、品質問題の85%以上はシステム(経営が設計した仕組み)に起因し、個々の従業員に帰責すべきではないと主張した。


シックスシグマ

Key Concept: シックスシグマ(Six Sigma) プロセスのばらつきを極限まで低減し、100万機会あたりの欠陥数(DPMO)を3.4以下にすることを目標とする品質改善方法論。1986年にモトローラのビル・スミスが開発した。統計的手法とプロジェクト管理を組み合わせ、データ駆動型の改善を体系化している。

シックスシグマの統計的意味

シックスシグマの名称は統計学に由来する。σ(シグマ)は標準偏差を表し、プロセスの平均値から仕様限界までの距離が6σであることを意味する。理論的には、プロセスの平均が仕様の中心に完全に一致している場合、±6σの範囲内に99.9999998%のデータが収まり、不良率は10億分の2(0.002 DPMO)となる。

ただし、シックスシグマでは、プロセスの平均が長期的に1.5σシフトすることを想定する。この1.5σシフトを考慮した場合の不良率が3.4 DPMOであり、これがシックスシグマの実質的な目標値である。

シグマ水準 DPMO 良品率(%)
691,462 30.85
308,538 69.15
66,807 93.32
6,210 99.38
233 99.977
3.4 99.99966

(上記DPMOは1.5σシフトを考慮した値)

DMAICプロセス

Key Concept: DMAIC シックスシグマにおける既存プロセスの改善のための5段階の問題解決フレームワーク。Define(定義)- Measure(測定)- Analyze(分析)- Improve(改善)- Control(管理)の頭文字をとったもの。モトローラのマイケル・ハリーとビル・スミスが原型(MAIC)を開発し、後にDefineフェーズが追加された。

graph LR
    D["Define<br/>定義"] --> M["Measure<br/>測定"]
    M --> A["Analyze<br/>分析"]
    A --> I["Improve<br/>改善"]
    I --> C["Control<br/>管理"]
    C -.->|"新たなプロジェクト"| D

    style D fill:#4a90d9,color:#fff
    style M fill:#7ab648,color:#fff
    style A fill:#f5a623,color:#fff
    style I fill:#d0021b,color:#fff
    style C fill:#9013fe,color:#fff
フェーズ 英語 主な活動 主要ツール
定義 Define プロジェクトの範囲、目標、顧客要求を明確化する プロジェクト憲章、SIPOC図、VOC分析
測定 Measure 現状プロセスの性能をデータで定量的に把握する データ収集計画、測定システム分析(MSA)、プロセスマップ
分析 Analyze データを分析し、問題の根本原因を特定する 特性要因図、仮説検定、回帰分析、FMEA
改善 Improve 根本原因に対する解決策を立案・実施する 実験計画法(DOE)、パイロットテスト、解決策の選定マトリクス
管理 Control 改善結果を持続させるための仕組みを構築する 管理図、標準作業手順書(SOP)、管理計画

モトローラにおけるシックスシグマの開発

1970年代、モトローラは日本企業との競争で深刻な品質問題を抱えていた。エンジニアのビル・スミス(Bill Smith)は、1986年に製品欠陥を低減する方法論を開発し、その統計的基礎とプロセスを体系化した。モトローラはシックスシグマを全社的に展開し、2005年までに170億ドル以上の累積コスト削減を達成したと報告している。

GEにおけるシックスシグマの展開

ジャック・ウェルチ(Jack Welch)が率いるゼネラル・エレクトリック(GE)は、1995年にシックスシグマを導入した。ウェルチはシックスシグマを経営戦略の中核に据え、管理職の昇進・賞与をシックスシグマの成果に連動させた。1996年にはGEは2億ドルを投資して1.7億ドルの効果を得たが、1997年には4億ドルの投資に対して7億ドルの利益を達成し、2000年までに累計25億ドル以上のコスト削減を実現した。GEにおけるシックスシグマ導入の5年間の累積効果は120億ドルに達したとされる。

GEの事例は、シックスシグマが製造業だけでなく金融サービス、医療等の非製造部門にも適用可能であることを示した点でも重要である。ウェルチのリーダーシップにより、Fortune 500企業の半数以上がシックスシグマを導入するに至った。

ベルト制度

シックスシグマでは、武道に倣ったベルト制度によって役割と専門性の段階を体系化している。

ベルト 役割
チャンピオン(Champion) 経営層。シックスシグマの推進を統括し、プロジェクトの選定と資源配分を行う
マスターブラックベルト(MBB) シックスシグマの社内エキスパート。ブラックベルトの育成と高度な統計手法の指導を行う
ブラックベルト(BB) フルタイムのプロジェクトリーダー。DMAICプロジェクトを主導する
グリーンベルト(GB) 本業と並行してシックスシグマプロジェクトに参加する。BBの支援を受けてプロジェクトを遂行する
イエローベルト(YB) シックスシグマの基礎知識を持ち、プロジェクトチームのメンバーとして参加する

品質コスト

Key Concept: 品質コスト(Cost of Quality: COQ) 品質の達成・維持・不良に関連して発生するすべてのコストの総称。予防コスト、評価コスト、内部不良コスト、外部不良コストの4カテゴリーに分類される。ジュランとフィーゲンバウムが体系化した。PAF(Prevention-Appraisal-Failure)モデルとも呼ばれる。

品質コストの分析は、品質管理活動の経済的合理性を評価し、品質改善への投資判断の根拠を提供する。ジュランは、品質コストの可視化が経営層に品質改善の必要性を「金額」で訴えかける有効な手段であると主張した。

品質コストの4分類

カテゴリー 英語 内容 具体例
予防コスト Prevention Costs 不良の発生を未然に防止するための活動に要するコスト 品質計画、プロセス管理、教育訓練、予防保全、サプライヤー評価
評価コスト Appraisal Costs 製品・サービスが品質要求に適合しているか検査・評価するためのコスト 受入検査、工程検査、最終検査、検査機器の校正、品質監査
内部不良コスト Internal Failure Costs 出荷前に発見された不良に対処するためのコスト スクラップ、手直し、再検査、不良解析、歩留まり低下
外部不良コスト External Failure Costs 出荷後に顧客の手元で発見された不良に対処するためのコスト クレーム処理、保証修理、製品回収、訴訟費用、ブランド毀損

ジュランの品質コスト曲線

ジュランは1999年の『Juran's Quality Handbook(第5版)』において、品質コスト曲線(Quality Cost Curve)を提示した。この曲線は、品質適合率(0%〜100%)の変化に対する各コストカテゴリーの挙動を示す。

  • 品質適合率が低い段階: 不良コスト(内部+外部)が非常に大きい。予防コスト・評価コストは小さい
  • 品質適合率が高まるにつれて: 予防コスト・評価コストが漸増する一方、不良コストが急減する
  • 総品質コストの最適点: ジュランの分析では、適合率100%において総品質コストが最小となる。すなわち、予防と評価へ投資するほど不良コストがそれ以上に減少するため、品質向上は経済的に合理的である

この結論は、フィリップ・クロスビー(Philip B. Crosby)が1979年の著書『Quality is Free(品質はタダ)』で主張した「品質向上のコストは、不良のコストよりも常に小さい」というテーゼとも整合する。ただし、クロスビーの主張が常に成立するかは、産業や製品の特性に依存する面がある。

品質コスト分析の戦略的意義

品質コストの典型的な構成比を分析すると、多くの企業で外部不良コストと内部不良コストが全体の50〜80%を占めている。これは、予防と評価への投資不足が大きな不良コストを生み出していることを意味する。品質コスト分析の戦略的意義は、以下の点にある。

  1. 投資判断の根拠: 予防活動への追加投資がどの程度の不良コスト削減をもたらすかを定量的に評価できる
  2. 経営層とのコミュニケーション: 品質問題を「金額」で可視化し、経営層の品質投資へのコミットメントを引き出す
  3. 改善の優先順位付け: コスト構成比の分析により、最もインパクトの大きい改善領域を特定できる

ISO 9000シリーズ

ISO 9000シリーズは、国際標準化機構(International Organization for Standardization, ISO)が策定した品質マネジメントシステム(QMS: Quality Management System)に関する国際規格群である。1987年に初版が発行され、2000年と2015年に大規模な改訂が行われた。

主要規格

規格 内容
ISO 9000 品質マネジメントの基本概念・原則と用語を定義する。規格群全体の基盤文書
ISO 9001 品質マネジメントシステムの要求事項を規定する。第三者認証の対象となる唯一の規格
ISO 9004 組織の持続的成功のための品質マネジメントのガイダンスを提供する。認証対象ではない

ISO 9001は、組織の規模や業種を問わず適用可能な汎用規格であり、世界で最も広く認証が取得されている品質マネジメント規格である。ISO 9001:2015(現行版)は7つの品質マネジメント原則に基づいている。

原則 英語
顧客重視 Customer Focus
リーダーシップ Leadership
人々の積極的参加 Engagement of People
プロセスアプローチ Process Approach
改善 Improvement
客観的事実に基づく意思決定 Evidence-based Decision Making
関係性管理 Relationship Management

ISO 9000シリーズの位置づけ

ISO 9001認証は品質マネジメントシステムの「最低限の要件」を満たしていることの証明であり、TQMやシックスシグマが追求する「卓越した品質」とは水準が異なる。ISO 9001は「文書化された手順に従ってプロセスを管理しているか」を問うのに対し、TQMは「組織文化として品質を追求しているか」を、シックスシグマは「データに基づいて卓越した水準を達成しているか」を問う。ISO 9001認証は品質管理の出発点と位置づけられ、その上にTQMやシックスシグマを積み重ねるという関係にある。


品質賞制度

品質管理の普及と発展を促進する制度として、以下の主要な品質賞が存在する。

賞名 創設年 創設主体 特徴
デミング賞 1951 JUSE(日本科学技術連盟) 日本最初の品質賞。TQMの実践と成果を評価する。海外企業も受賞可能
マルコム・ボルドリッジ国家品質賞 1987 米国連邦政府(NIST管轄) 米国の品質経営を促進する目的で創設。リーダーシップ、戦略、顧客等7カテゴリーで評価
EFQM Excellence Model 1991 欧州品質管理財団(EFQM) 欧州における経営品質の枠組み。自己評価ツールとしても広く使用される

デミング賞とボルドリッジ賞は、時代とともに技術的な品質管理から組織全体のマネジメント・エクセレンスへと評価の重点を移行させてきた。また、システム思考の重視という点で、両者は収斂する傾向にある。


学術的論争

TQMの有効性に関する議論

TQMの企業業績への効果に関する実証研究は、一貫した結論を示していない。支持する研究はTQM導入企業の財務業績・顧客満足度・従業員満足度の向上を報告する一方、批判的な研究はTQM導入の失敗率の高さ(推定で60〜70%)を指摘する。

この不一致の主要な原因として、以下が指摘されている。

  1. TQMの定義の曖昧さ: 研究間でTQMの操作的定義が異なり、何をTQMと見なすかが統一されていない
  2. 実装と概念の混同: TQMの「概念」が無効なのか、「実装」が不適切なのかの区別が不十分である。導入に失敗した組織が本当にTQMを実践していたかを問う声がある
  3. 測定の困難: 品質管理活動の効果は長期的かつ間接的に現れるため、短期的な研究では捕捉が困難である
  4. 文脈依存性: TQMの有効性は、業種、組織文化、リーダーシップ等の文脈要因に大きく依存する

現在の学術的コンセンサスとしては、TQMの基本原則自体は有効であるが、その成功は実装の質と組織の文脈に強く依存するという見解が有力である。

シックスシグマとTQMの関係

シックスシグマとTQMの関係については、「代替的」と見る立場と「補完的」と見る立場がある。

  • 代替的と見る立場: シックスシグマはTQMの欠点(測定の曖昧さ、財務成果との結びつきの弱さ)を克服した進化形であり、TQMに取って代わるべきものである
  • 補完的と見る立場: TQMが組織全体の品質文化を醸成する広範なフレームワークであるのに対し、シックスシグマは特定のプロセス改善プロジェクトに焦点を当てた方法論である。両者は異なるレベルで機能し、組み合わせることで相乗効果を発揮する

現在の実務では、TQMの原則で品質重視の組織文化を構築し、シックスシグマのツール・手法で個別のプロセス改善を推進するという補完的活用が主流となっている。両者に加えてリーン(無駄の排除)を統合した「リーンシックスシグマ(Lean Six Sigma)」も広く普及している。


まとめ

  • 品質は多義的な概念であり、ガービンは5つのアプローチと8つの次元によって品質の多面性を体系化した
  • 品質管理は、シューハートの統計的管理図(1924年)に始まり、デミング・ジュランによる日本への知識移転(1950年代)、日本的品質管理(TQC/QCサークル)の独自展開、シックスシグマの開発(1986年)、ISO 9000シリーズの策定(1987年)へと発展した
  • SQCの核心は、プロセスのばらつきを偶然原因と異常原因に区別し、管理図によってプロセスの統計的管理状態を監視する点にある
  • TQMは顧客重視・全員参加・継続的改善を原則とする経営管理アプローチであり、デミングの14のポイントとPDCAサイクルがその哲学的基盤をなす
  • シックスシグマは3.4 DPMO(100万機会あたり3.4件の欠陥)を目標とするデータ駆動型の改善方法論であり、DMAICプロセスによって体系化されている
  • 品質コストはPAFモデル(予防・評価・不良)で分類され、予防への投資が不良コストの低減を通じて総コストを削減するという経済的合理性が示されている
  • ISO 9000シリーズは品質マネジメントシステムの国際標準であり、TQMやシックスシグマの基盤として位置づけられる
  • 次のSection 4「在庫管理とサプライチェーン・マネジメント」では、品質管理と密接に関連するサプライチェーン全体の統合的管理を扱う

用語集(Glossary)

用語 英語表記 定義
ガービンの品質8次元 Garvin's Eight Dimensions of Quality 品質を性能、特徴、信頼性、適合性、耐久性、サービス性、美的品質、知覚品質の8次元で分析する枠組み
統計的品質管理 Statistical Quality Control (SQC) 統計学的手法を用いてプロセスのばらつきを分析・管理する方法論の総称
管理図 Control Chart プロセスの統計量を時系列でプロットし、管理限界によって統計的管理状態を判定するグラフ
全社的品質管理 Total Quality Management (TQM) 顧客満足を目標に、全従業員の参加と継続的改善を基本原則とする組織全体の品質管理アプローチ
PDCAサイクル PDCA Cycle Plan-Do-Check-Actの4段階を繰り返す継続的改善の管理サイクル
シックスシグマ Six Sigma 100万機会あたりの欠陥数を3.4以下に低減することを目標とするデータ駆動型の品質改善方法論
DMAIC DMAIC Define-Measure-Analyze-Improve-Controlの5段階からなるシックスシグマの問題解決フレームワーク
品質コスト Cost of Quality (COQ) 品質の達成・維持・不良に関連するすべてのコストの総称。PAFモデルで4分類される
プロセス能力指数 Process Capability Index (Cp, Cpk) プロセスのばらつきと仕様幅の関係を定量的に評価する指標
QCサークル Quality Control Circle 現場作業者が自主的に小集団を形成して品質改善活動を行う仕組み

確認問題

Q1: ガービンの品質8次元をすべて挙げよ。また、企業が8次元すべてで卓越する必要がないとされる理由を説明せよ。

A1: 8次元は、性能(Performance)、特徴(Features)、信頼性(Reliability)、適合性(Conformance)、耐久性(Durability)、サービス性(Serviceability)、美的品質(Aesthetics)、知覚品質(Perceived Quality)である。企業が8次元すべてで卓越する必要がないとされる理由は、各次元間にはトレードオフが存在しうること、また企業の競争戦略に合致した次元に経営資源を集中させることで差別化が可能であるためである。例えば、信頼性と適合性に注力する戦略(トヨタ)と、美的品質と知覚品質に注力する戦略(アップル)はいずれも有効な品質ポジショニングを形成している。

Q2: シューハートが区別したプロセスのばらつきの2種類の原因を説明し、それぞれに対する適切な対応の違いを述べよ。

A2: シューハートはプロセスのばらつきを偶然原因(共通原因)と異常原因(特殊原因)に区別した。偶然原因はプロセスに内在する自然なばらつきであり、多数の小さな要因の累積によるもので個別には特定・除去が困難であるため、プロセス自体の根本的な改善(システムの変更)によって低減する。異常原因は設備故障や材料変更等の特定可能な要因によるもので、発生時に速やかに特定・除去する対応が必要である。管理図上で異常原因による点が管理限界を超えた場合、プロセスへの介入が求められるが、偶然原因による管理限界内のばらつきに対して個別に介入することは過剰反応(タンパリング)であり、かえってばらつきを増大させる。

Q3: デミングの14のポイントの背景にある「深遠なる知識の体系」の4要素を挙げ、「品質問題の85%以上はシステムに起因する」というデミングの主張が14のポイントの中でどのように反映されているか、具体的なポイントを2つ以上挙げて論じよ。

A3: 深遠なる知識の体系の4要素は、(1) システムに対する理解、(2) ばらつきに関する知識、(3) 知識の理論、(4) 心理学である。品質問題の85%以上がシステムに起因するという主張は、複数のポイントに反映されている。第10ポイント「スローガンと数値目標をやめる」は、品質問題の大半がシステムに起因するため、従業員個人への叱咤激励では解決できないことを示す。第11ポイント「数値ノルマの廃止」は、ノルマが従業員にシステムの問題を個人の努力で補うことを強いる非合理性を指摘する。第12ポイント「仕事の誇りを奪う障壁の除去」は、年次評定がシステムの問題を個人に帰責する制度であるとして廃止を求めている。これらはすべて、品質問題の原因を個人ではなくシステムに求めるデミングの哲学を反映している。

Q4: 品質コストの4分類(予防コスト、評価コスト、内部不良コスト、外部不良コスト)それぞれについて具体例を2つずつ挙げよ。また、予防コストへの投資拡大が総品質コストを低減させうる論理を説明せよ。

A4: 予防コストの具体例:品質計画の策定、従業員への品質教育訓練。評価コストの具体例:受入検査、検査機器の校正。内部不良コストの具体例:スクラップ(廃棄)、手直し(リワーク)。外部不良コストの具体例:保証修理、製品リコール。予防コストへの投資拡大が総品質コストを低減させうる論理は以下の通りである。予防活動(教育、プロセス設計、予防保全等)に投資することで不良の発生そのものが減少し、内部不良コスト(スクラップ、手直し)と外部不良コスト(クレーム、保証修理、ブランド毀損)が大幅に低下する。不良コストの低減幅が予防コストの増加幅を上回るため、総品質コストは低下する。ジュランの品質コスト曲線は、品質適合率100%において総品質コストが最小となることを示しており、予防への投資の経済的合理性を裏付けている。

Q5: ある製造企業が品質改善プロジェクトを立ち上げる際、TQMのアプローチとシックスシグマのDMAICアプローチをどのように使い分け、あるいは組み合わせるべきか。両者の特性の違いを踏まえて論じよ。

A5: TQMとシックスシグマは異なるレベルで機能する。TQMは組織全体の品質文化を醸成する広範なフレームワークであり、全従業員の品質意識の向上、部門間の壁の排除、顧客重視の組織文化の構築といった組織変革に適する。一方、シックスシグマのDMAICは特定のプロセス改善プロジェクトに焦点を当てた方法論であり、データに基づいて根本原因を特定し、測定可能な改善成果を財務指標と結びつける点に強みがある。したがって、まずTQMの原則に基づいて品質を重視する組織文化とリーダーシップのコミットメントを確立した上で、具体的なプロセス改善にはシックスシグマのDMAICを適用するという組み合わせが有効である。TQMが「なぜ品質を追求するか」という組織の方向性を定め、シックスシグマが「どのように品質を改善するか」という具体的手法を提供するという補完的関係で運用すべきである。組織文化の変革なしにシックスシグマのツールだけを導入しても、持続的な改善は困難である。